夜鳴きうぐいす
                              
                                
	
  
 
 ――良い機会だと思った。 
 
 
バレンタインにプレゼントをもらったのなら、きちんとお返しのプレゼントを用意する事がホワイトデーの主目的。 
 
相手に良い印象を与える近道として非常に都合が良くて、相手との良好な関係を築く事だって出来る。 
 
 
だからバレンタインだけではなく――日頃お世話になっているお礼を言う、いい機会だと思った。 
 
 
「アリサ」 
 
「はいはい、今度は何したのよ。フォローするからきちんと説明して」 
 
 
「いつもありがとう、お前には本当に助けられてる。今日は休んでもいいぞ」 
 
 
「……」 
 
「そうだ、今日は俺が朝ごはんを作って――」 
 
「ご、ごめん。あたし、ちょっと最近生意気だったわね。うん、反省しているからどうかクビにしないで!」 
 
 
 何故か泣きながら今日中に百億円稼いでくるから許してと懇願して、アリサは大慌てで仕事場へ走っていった。 
 
何なんだ、あいつ。折角日頃のお礼を精一杯こめていったのに、どうして仕事へ突っ走るような真似をするんだ。 
 
相変わらずの仕事人間だな、少しは休めばいいのに。今日という日でも決して休まないメイドぶりに、俺は肩を落とした。 
 
 
――ちなみに本当に、金が稼いできた。どうやってと聞くのが、ものすごく怖かった。 
 
 
「忍」 
 
「おっ、侍君。今日は何の日か、知ってる? 先月豪華なチョコレートを送った可愛い内縁の妻に、何か言うべきことがあるんじゃないかな、ふふふ」 
 
 
「ああ、デートに行こうぜ」 
 
 
「……」 
 
「もちろん変に茶化さず、ちゃんと二人きりだ。夜は洒落たホテルのレストランで食事でも――」 
 
「い、いやいやいや、いいよ!? うん、私も最近はしゃぎすぎてたかなと、思ってたの。今後は控えるね、ごめんなさい!」 
 
 
 何故か泣きながらバストアップ体操してくると宣言して、忍は大慌てでエステクラブへと走っていった。 
 
何なんだ、あいつ。日頃愛のお礼を精一杯こめていってやったのに、何故愛へ突っ走る真似をするんだ。 
 
相変わらず恋だの愛だのに、忙しいやつである。思いを叶える絶好の機会だというのに、女を磨くのに余念がないらしい。俺は肩を落とした。 
 
 
――ちなみに本当に、身体を磨いてきやがった。本当に外見だけがいいので、ものすごく困る。 
 
 
「なのは」 
 
「どうしたの、おにーちゃん。ようやくそろそろ春休みだから、なのはもいっぱい手伝えるよ」 
 
 
「お前も毎日仕事と学校の両立で大変だろう、今日は俺とめいいっぱい遊ぼうじゃないか」 
 
 
「……」 
 
「新しいゲームでも買いに行こうか。お前の好きなゲームを――」 
 
「うわーん、ごめんなさいー! なのは、もっと一生懸命魔法の修業をするね。だから、これからもなのはのおにーちゃんでいて!」 
 
 
 何故か泣きながら月を撃ち落としてくると決意して、なのはは大慌てで空へと駆け上がっていった。 
 
何なんだ、あいつ。日頃助けてもらっている礼を精一杯こめていったのに、どうして修行へ突っ走る真似をするんだ。 
 
相変わらずの頑張り屋さんだな、少しは休めばいいのに。今日という日でも決して休まない魔法少女ぶりに、俺は肩を落とした。 
 
 
――ちなみに、今日は突然の月蝕だった。原因は、怖くて追求できなかった。 
 
 
「フィリス」 
 
「どうしました、良介さん。今日は診察の日ではなかったはずですよね」 
 
 
「いつも身体の面倒を見てくれて、ありがとう。お前のおかげで、俺は今日まで生きてこれた」 
 
 
「……」 
 
「今日も仕事で忙しいだろうけど、今夜あたりお礼に食事にでも行かないか」 
 
「はい、かまいませんよ。ぜひお招きに預かりましょう」 
 
 
 おお、よかった。ようやく俺の気持ちを受け止めてくれる奴が現れたぞ。 
 
どいつもこいつも、意味不明なことばかり言って困っていたからな。やはりこういう日にこそ、感謝の気持を贈らなければならない。 
 
 
今日の経緯を説明すると、フィリスはなぜか笑ってこう言った。 
 
 
 
「私は貴方という人を、きちんと分かっていますから」 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<終> 
 
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