To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第四十九・五話
仲間が有能過ぎるのは大変素晴らしい事なのだが、組織のトップがやる気に満ちている時に黙って寝てろと言われるのは若干不満があった。
聖王のゆりかごまで奪われて、聖王教会や白旗は今大騒ぎ。皆の尽力によって聖地にまで混乱は波及していないが、緊急事態である事には違いない。
全員一丸となって走り回っている最中、起き上がることも出来ない重体の身では雑務しか出来ない。よって休んでいろというのは正当な指摘なのだが、やる気があるので眠れはしない。
要するに時間が空いているので、最近留守録がうるさい奴に声を掛ける事にした。
『おにーちゃん、年末までにはお家に帰れそうですか』
「……言われてみれば、もうそんな時期か」
現在、日本は十二月。一年という長き時間が、終わりを迎える頃である。平和な日本で過ごしている高町なのはが、心配そうな顔でおずおずと聞いてくる。
海鳴に来たのは今年の春頃で、去年の年末は寒さに震えながら野宿していた。当然だが俺一人の孤独な放浪で、アリサさえ居なかった時期である。
あの頃からまだ一年も過ぎていないのだと考えると、今年という時間の濃厚さに震えてくる。今ではメイドに家族、婚約者達に、子供まで出来ている。
どうしてこうなったのか、一年を振り返ってみても分からない。幸運だとは思うのだが、悪運という気もしなくもない。
「帰ってこいと言われるのは、何故か不思議な感覚だな。居候していたのは、三ヶ月程度だったんだが」
『おにーちゃんはもう立派なわたしの家族ですよ。おかーさん達も皆、そう思っています!』
「ありがたい限りなんだが、俺の家族全員里帰りになるので、大所帯になるぞ」
『平気です――今うちで預かっているおにーちゃんの姉妹だけで、大賑わいなので』
「正直、すまんかった」
家庭問題で落ち込み、翠屋を閉めて専業主婦になる決断をした高町桃子。彼女を救うべく取った手段である、大家族作戦。
同じ家族であるナカジマ姉妹を、高町家に預かってもらう事にした。家族で賑やかになれば、桃子も精神的気力が出てくるという、家族の絆作戦である。
ギンガ達は毎日遊びに行って今、高町家は大変賑やかで楽しい生活を送っているようだ。明るくて良い子であるスバル達を桃子は大層気に入って、毎日歓迎してくれているようだ。
要するに効果がありすぎて、高町家は大所帯となってしまっているのである。
「むしろ俺が帰らなくても良くなっているんじゃないか、わざわざ」
『それはそれ、ですよ。やっぱりおにーちゃんがいないと、皆寂しいです』
「俺はどちらかというと会話には加わらなかった気がするぞ、居候中も」
「おにーちゃんは自覚がなかったかもしれませんが、結構気を使ってくれていましたよ。なのはともよく遊んでくれたじゃないですか」
違う、お前は一番暇そうにしていたからだ。桃子とフィアッセ、レンと晶、恭也と美由希というコンビが成立していたので、自然とお前と俺になっただけである。
その頃忍とゲーム対戦でよく負けていたので、同じゲーム好きのなのはと特訓していたのもある。
そう言えばあの時はテレビゲームとかして遊んでいたんだよな、今は忙しすぎてゲームどころではなくなってきている。
剣士として生きる以上、半端な生き方は出来ないのは承知しているが、隙がないというのも考えものである。
――今絶賛、暇しているけど。
「お前は俺のこの怪我の状態を見て、なんとも思わんのか」
『心配ですけどおにーちゃんの場合、明日にはピンピンしていそうなので』
「やな慣れ方をしているな、お前」
『おにーちゃんが怪我ばかりなのが良くないと思うんです!』
ちなみに高町なのはは剣士の一族なのに、血を見るのも苦手という桃子の血の濃い娘である。
射撃に長けた才能を持っているのに、魔法では他人に砲撃するのを極端に嫌がるという草食動物。おかげでいつも、戦力には数えられていない。
今聖地では戦力不足に悩んでいるのだが、こいつは専守防衛に向いているので、最前線には出せない魔法少女なのである。
いざとなれば戦える気概は確かに持っているのだが、そこまで行くと恭也達のように振り切れてしまうので悩ましい。
「犯人の実態は分かりつつあるから、上手くいけば年内に片がつくかもしれない」
『それはつまり総力戦になるということですね』
「うむ、引き続きお前ははやて達の相手を頼む。クロノ達にも情報共有はしているが、今回の犯人は怨恨の可能性が高い。
真っ先に俺を狙っては来るだろうが、復讐ってのは広がっていくからな。俺の家族を襲う危険もある」
『フェイトちゃんもおにーちゃんの会社で頑張っていると聞いています。こっちは、なのはとレイジングハートに任せて下さい!』
「頼んだぞ――その……何とか年末に帰れるようには、努力する」
『あっ……はい、待ってます!』
帰れる場所がいて、帰りを待っている人がいる。だったら何とか頑張ろうとするくらいには、高町なのはの存在意義と価値は確かにあった。
フェイトが今俺の会社で実験に励めているのも、家族や友達がいるからだ。大切な場所と家族が居れば、人間は自分以上の成果が出せる。
――それに、価値というのであれば。
「そうだ、お前の意見を聞かせてくれ」
『何か困りごとですか?』
「今回の俺の相手は、空戦に長けた奴だ。身体を直して徹底的に訓練するつもりだが、いかんせん時間が足りない。相手はプロ中のプロだからな」
『もしかして、なのはに戦ってほしいと?』
「いや、違う。戦うのはあくまで俺だ。ただ凡人と天才の差は、努力だけでは埋められない。そこで俺がやろうとしているのは――」
『えっ――えええええええええええええええ!? む、無理ですよ、そんなのーーー!?』
<終>
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