我が母の教えたまいし歌(特別編)







 鏡開きとは武家から始まった行事であり、侍にも由来する歳神様への儀式とされている。

祝い事に酒樽を使った鏡開きをするように繋がっており、新たな出発を意味する祝辞を行うのだ。


お正月に区切りをつけるという意味で、宮本家では家族一同集まって新年の目標を掲げている。


「今年一年を始めるに当たり、わたしから議題を挙げたいです」

「やる気に満ちておるな、ユーリよ。父の御前だ、堂々と発言するがいい」


「お父さんは、シュテルを甘やかし過ぎだと思います!」


「異議なし!」

「是非もない!」


「……今年最初の議題がそれでいいのか、お前ら」


 珍しく怒っているユーリの提唱に、ディアーチェとレヴィが真っ先に賛同した。ちなみに断罪されている本人は静かにお茶を啜っている、メンタルが強すぎる。

お雑煮でも食べながら話せば和むであろうが、正月三が日も過ぎると流石に飽きる。


正月明けとして出されたおにぎりをぱくつきながら、父としての答えを述べる。


「そんな事はないぞ。俺はお前達を平等に可愛がっている」

「お父さんは最近、何処へ行くにしてもシュテルを連れて行っています!」

「こいつが勝手についてくるんだよ、いつも!?」


 事実である。ついてこいとも何とも言ってないのに、平然とした顔で同伴するのだ。

いつも適切な意見や提案をしてくるので、俺としてもついつい頼っていしまう事もあるが、基本的には放任している。


放任主義は親子愛を否定していないが、ユーリの主張とは異なる気がする。


「我もユーリと同じく、シュテルの動向は気になっておった。娘に対する父の愛を疑ったことはないが、その愛に甘えるようではいかん。
そして父も娘からの愛に甘んじていては、自立を促すことは出来ぬぞ!」

「なるほど、今年からは容赦なく放任してやろうではないか!」


「逆効果じゃないですか、ディアーチェ!」

「ぬうう、相変わらず父は手厳しい!?」


 うちの四女に怒られて、長女役の大黒柱さんは珍しくしょげ返っていた。ユーリには弱いんだよな、こいつ。

ディアーチェは他人には不遜だが、本人なりには生真面目なので、冗談の一つでも返せばこのように困った顔をしてしまう。


そういった面が女の子らしくて可愛いと思うのだが、本人はからかわれたとばかりに頬を赤くしている。


「ここはボクたちの中で一番好きなのは誰なのか、パパに決めてもらおうよ!」

「お前は本当、競争が好きだよなレヴィ」

「フフン、だってボクが一番可愛いに決まってるもん」


「甘いですよ、レヴィ。お父さんのことだから、ナハトが可愛いとか言ってレヴィを容赦なく切り捨てますよ!」

「ガーン、パパが最強すぎるよ!?」


 返す刀とばかりに、四女が三女を斬りつけるのはなかなか見ていて爽快だった。レヴィがショックを受け、仰け反って悲鳴を上げている。

それにしてもどうしたんだ、ユーリ。今日は別人のように、鋭く切り込んでくるではないか!


本当にそう言って逃げようとしていたので、ナハトヴァール防衛が通じない。


「シュテルを封印しましょう、お父さん」

「すまん、何を言っているのかよく分からない」

「頭が良いからと、すぐに頼ってはいけません。これという機会が訪れるまで、伏せておくべきです」

「なるほど……見せ札ではなく、切り札とするのか!」

「はい、それで代わりに今までの切り札を表に出してですね――」


「つまり私の代わりに、ユーリを可愛がれというのですね」

「ああ、ズバリと言っては駄目ですよ!?」


 四女が頑張って主張しているところへ、次女の鋭い指摘が入って慌てて止めに入った。

何だかんだ言っていたが、ようするに自分を一番可愛がってほしいとユーリなりにアピールしていたんだな。


本人なりに甘えている仕草は、父として確かに微笑ましく思う。


「いいだろう、ユーリ。その侍根性に免じて、お前の動向を許そう」

「本当ですか!? 嬉しいです、お父さん!」


「うちの末っ子との正月相撲に勝てたら、の話だがな!?」

「どすこーい」

「何でそんなにやる気なの、ナハト!?」


 ――ミッドチルダでは最強の魔導師でも、土俵の上で腰投げされたらひっくり返るしかなかった。


「ユーリだって十分可愛がられているよね、ディアーチェ」

「うむ、この微笑ましいわがままが父のお気に入りなのだ」

「ユーリ、すきー!」


「うう……お姉ちゃんとしての威厳が……」


 まあ、今年はいっぱい遊んでやるか。

































































<終>







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