To a you side 外伝5 運命の女神達と孤独の剣士 諜報の女神
※この物語はTo a you side本編を先に読まれると、よりお楽しみ頂けます。
……ぼんやりと、考えてみる。
時空管理局管理外世界の荒野に集う精鋭部隊、総勢1000名以上。
純粋に強さを求める者、功を求める者、名を上げたい者等など――俺への挑戦心に燃える彼らにも誇りがある。
歴史に名を馳せた守護騎士や、今や名高いエース達相手に勝利した俺を独力で倒してこそ価値がある。
リンディ達が段取りしてくれた演習で、一斉に襲い掛かっては来ない。
1000対1の殲滅戦ではなく、1対1の個人戦を1000回繰り返す形になる。
(……それもどうなんだ? 厳しい――)
相手は有象無象の雑魚共ではない。
強さに上下あれど、凶悪な犯罪者相手に日々戦っている戦士達だ。
ベルカの騎士レベルは少ないだろうけど、俺より強い人間が見渡す範囲幾らでも探せる。
加えて荒れ果てた荒野だ、自然環境を味方とする祖国の伝統が限定される。
一人や二人煙に巻いても、物量で押し切られて戦術の種が切れてしまう。
やれやれ、ラストステージともなればクリアー条件もハードである。
(意気込んだところで、どーもなりゃしねえや……)
逆に考えれば――これさえ乗り越えられれば、この事件は終わったも同然だ。
主だった面々はほぼ倒し、噂を嗅ぎ付けた連中が今目の前に集結している。
エイミィがミッドチルダの、忍が海鳴町の噂を揉み消す算段だ。
いきなり立ち消えになりはしないだろうけど、時空管理局精鋭部隊を壊滅させれば歯向かう人間は居なくなるだろう。
いざとなれば、俺に敗北したはやて達に任せればいい。
敵にすれば厄介極まりないが、味方ならばこれ以上頼もしい者達はいない。
(――これまで起きた事件の数々。あそこで関係を終わりに出来たはず。
なのに……皆、終わりにはしなかった)
名簿を一枚一枚めくっていく――
八神はやて、高町なのは、月村忍、ノエル・綺堂・エーアリヒカイト、神咲那美、久遠、フィアッセ・クリステラ、リスティ・槙原、
フェイト、ヴィータ、シグナム、シャマル、エイミィ等……運命の女神達。
出逢うべき場所と喜劇と悲劇の物語だけ用意された、俺の人生のヒロイン達の顔写真と名前が並んでいる。
用意周到な罠を張り巡らせていたが、彼女達の気持ちは真剣だった。
(彼女達のおかげで、その後の人生があった。
――新しい旅路は彼女達に与えられたもの、新しい世界の懐で育てられたようなもの)
その想いに応える事は出来ないけれど――
(有難う)
――感謝の気持ちを胸に、最後まで一人戦い続けよう。
「……突然神妙に手を合わせて、誰に拝んでおられるのですか?」
「……俺と同じ苗字の人を真似してみました」
「クスッ、おかしな方」
――巌流島の偉人も、女性相手に理解されず苦労していたのだろうか?
隣で楽しげに微笑まれて、現代の侍は孤独に嘆息した。
世界規模の犯罪を取り締まる部隊が集結しているのだ。
俺一人でどうしろと言うのだろうか……?
殺し合いと呼ぶ程血生臭くは無いが、戦いの螺旋ここに極まれりだった。
「時空管理局も暇なんだな。俺一人に大層な規模を集めやがって」
「貴方が注目されている証拠ですわ。
最高評議会の皆様も、貴方にはいたく関心を寄せられているのですよ」
最高評議会から派遣された女性――
豊満の体躯を覆う基調の制服に、タイトスカートからは黒のストッキングに包まれた細い脚が伸びている。
ロングヘアーの蒼い髪が印象的な美女。
柔らかな口調に艶があり、蠱惑的な視線に絡め取られて心まで奪われてしまう。
時空管理局最高幹部の秘書役を勤めているそうだが、幹部との怪しい関係を疑ってしまうぞ。
今の俺はそれどころじゃないけど。
「説明する時間は無いから、リンディにでも聞いておいてくれ。
大概、あいつに説明してある」
「既に関係者各位から既に事情は伺っておりますわ。
貴方の置かれた立場も把握しています」
「……? なら、分かるだろ。
あんたと呑気に話している暇は――っ」
「直接現地まで赴いたのは――」
俺の乾いた唇に、彼女の細い指先がそっと触れる。
全神経を張り詰めた俺に油断なぞ微塵も無かったのに、唇を防がれるまで何も出来なかった。
女性は俺を下から覗き込み、嫣然と微笑んだ。
「――貴方がこの戦場をどう捉え、どう考え、どう乗り越えるのか――興味がわいたからですわ。
最高評議会だけではなく、私個人も含めて。
自分一人で、一人一人に対戦して片付けていくのは、愚の骨頂。
一人で戦い抜いて、敵を順に倒していく――それこそ物語の中だけですもの。
幾度と無く波乱は起きていようと、今は平和に値する時代――
個人の価値は集団の中に埋もれて、強者も弱者も世界の歯車として組み込まれていく。
勇敢な英雄も、稀代の天才も、必要とされない今の世で――
――このような前代未聞の事態を起こした、貴方という存在を知りたいのですわ」
何故そう思ったのか、後で考えてみても分からなかった。
ただ艶やかな笑みを向けて話す彼女が――楽しくも、悲しげに見える。
一人の英雄が……天才が無碍に扱われる今を嘆いているように感じられた。
子供はやがてヒーローがこの世に居ない事を知り、大人になって偽装のサンタに変身する。
夢を言う皮だけを被った、紛い物――
忙しいだけの日常に潜り込んで、生命だけを削ってただ生きていく。
自分の限界を知って、一つ一つ可能性を磨り潰して……やがて0になり、死ぬ。
管理局最高幹部の秘書を務める彼女だからこそ、次元世界の光と闇が見えているのかもしれない。
それらを見せ付けられて、今の世界に諦め始めている。
だからこそ――こんな突拍子も無いお祭り騒ぎに、心を躍らせている。
容姿端麗のエリートが見せた子供っぽい面に、勝手ながら親近感が沸いた。
……多分口で言うほど、俺に期待などしていない。
陸海空の時空管理局精鋭部隊、次元世界最強の戦士達――御伽話の魔王でも土下座する戦力。
地球規模の軍事力を束ねても、質量兵器との差を考慮しても足元にも及ばない。
たかが管理外世界の一剣士に勝てる相手ではない。
エリートどころか、小学生でも分かる戦力差だ。
そして此処に――無理だと言われると、反骨心を抱く日本男児在り。
「面白いじゃねえか……俺が見事に、この状況をひっくり返してやるぜ。
管理局に多大な被害を負わせる羽目になっても、勘弁しろよ。
これは演習なんだからな」
「――本当に、戦う気ですか……?
そう考えられているのでしたら、無謀だと言わせて頂くしかありませんけれど――」
「お生憎だが、戦えと言われれば戦わないのが俺様流。
真剣勝負なんぞ、絶対にお断りだ。
戦わずに勝ってやるさ」
「……」
妖艶な表情の彼女に,初めて浮かぶ怪訝な色。
俺の発言の意図と、漲る自信の根拠を図りかねているのだろう。
眼前に並ぶ強大な組織の戦力を前に、一切戦わずに勝利すると宣言したのだ。
普通に考えればテレビの見すぎ、悪く思えば自信過剰な愚か者だ。
戦争を仕掛けてきた相手に、武力を放棄して戦いに挑むなど無抵抗主義者でも遠慮する。
重々承知の上で――俺は最後まで、戦わない事を決意した。
俺自身が撒いた種だ、俺好みの花を咲かせるのが一番だろう。
せいぜい、こいつらを栄養にしてやるさ。
「まだ連中が整列するまで時間がある。椅子も何も無い場所だけど、あんたも座れよ。
俺の祖国の至高の食べ物を食わせてやるよ」
「? 何か……小さな歯型のようなものがついてますわ、これ」
「お、俺の国のナイフがそういう形なんですよ」
「うふふ、敬語ですわよ」
な、何故貴様が俺の癖を知っている!?
美味しさ溢れるメロンを御馳走になるよりも、俺個人をやりこめたのが嬉しいのか、笑顔を取り戻す彼女。
妖精の歯型がついているメロンを、御機嫌で口に運んでいる。
――し、しまった!? 話の流れでついプレゼントしてしまった!?
折角ノエルに頼んで持たせてしまったメロンが、美女の口の中に消えていく。
ようやく食べられる機会を棒に振って、泣く泣く名簿を広げて対策を練る剣士なのだった。
『――女性と戯れるのは結構ですが、状況を考えるべきかと』
「分かってるよ……」
監視モードのデバイス姉さんの指摘は、毎度厳しい。
少しでも気を抜けば、人の心の隙を容赦なくついてくるのだ。
厳しい教官を胸にぶら下げて、俺は頭を悩ませる。
この戦力差を埋めるには罠を張るか、応援を呼ぶか――頭の悪い俺ではその程度しか思いつかない。
ヴィータ戦でシャマルをけしかけた様に、精鋭部隊相手にはやて達を戦わせれば済む話。
ミヤもフェイトを探してくれている、時間を稼いでなのはとセットで呼べば無敵だ。
俺が戦わずとも、勝利をモノに出来る。
ただ、それだと二番煎じになってしまう――俺好みの決着ではない。
基本的戦術は何度仕掛けても有効だが、同じ戦法を取り続けるのは愚策だ。
メロンを食べる秘書も、それでは納得しない。
女の陰に隠れる剣士というのも格好悪い。
罠を張るのも無理、俺は自分が今どんな世界に居るのかも知らない。
環境を利用する日本の伝統も、異世界の荒野では無力だった。
――英雄一人が活躍する時代は終わった、か……
日本でも明治以降武術が武道に改められて、多数の敵を一人で片付けるという術を失ってしまった。
敵が動き出す前にこちらが仕掛ける、先に動かしておいて仕掛ける、一手を遣わしておいて、その後にこちらが仕掛ける――
「先の先」「後の先」「後の後」の、実戦にありうる現実は変わってしまったのである。
近代科学の発達や魔法技術の推進は、人間の可能性を広げる一方で個人の価値を狭めてしまった。
一人で多数の敵と戦う場面は存在しても、挑むべき理由が消えつつある。
ならば視野を変えて、必要とされない今を見つめるより――絶対的な意味を持っていた過去の戦場を見つめてみよう。
一対多数の理は敵の意欲を利用し、敵の力を利用する事にある。
自分一人で対戦して片付けていくより、敵と敵をぶつかり合わせ、敵が自ら自滅するように追い込むのが得策。
戦国時代を制した武将も、敵対する一国一国を相手に戦ったのではない。
それぞれがぶつかり合い、時には勝ち時には負けて、互いに食い合って、荒れた大地に己が看板を立てたのだ。
度重なる戦争で疲弊した国を攻めて、自分の領土にした例も少なくない。
断じて卑怯ではない、それは戦争だ。
そして、俺は今戦争を仕掛けられている――
『……その顔はまた何か、悪巧みをしていますね』
「失礼な、勝つ為の戦略を立てているだけだ。くっくっく」
『その笑い声が非常に気になるのですが……
マスターに不利益だと認識した時点で、貴方を強制的にでも行動不能にします』
「安心していいぜ。アイツの兄貴は、誰のものにもならねえからよ」
『……』
自惚れかも知れないが、なのはは俺を本当の兄以上に慕ってくれている。
もし俺が誰かの婿さんになれば、寂しい思いをするだろう。
だからこそ、レイジングハートもこの状況を厳しく見つめている。
策を弄した程度で勝てるとは思えず、策が失敗すれば不名誉な結果に終わる。
そんな兄を慕うなのはも、また子供だと見下ろされる――マスターへの侮辱を許すデバイスではない。
失敗が許されない事を肌で感じつつ、俺は彼女を呼んだ。
……秘書さんはまだメロンをかみ締めている、気に入ったのだろうか?
はむはむ食べる美女がちょっと愉快だが、今は俺の用件を優先する。
「最高評議会に通じているなら、管理局の事情に詳しいだろ?
ちょっと教えてほしいんだけど――」
幾つかの質疑応答を行い、確認を得る。
女性は地上本部のみならず、本局や航空部隊にも通じており話がしやすい。
「よく知っているな、そこまで」
「それが私の仕事ですから」
「今から集まった連中や傍観している時空管理局のお偉いさん全員に演説かましたいんだが、セッティング出来るかな」
「フフフ――何を企んでいますの……? 私にだけ、ちょっと教えていただけませんか」
「ククク……直に分かる」
お互いに笑みを浮かべて、視線を交え合う。
友好的に口元は緩んでいるが、目は少しでも笑っていない。
探り合う視線は交差して――二人揃って承諾した。
腹の探り合い、先に相手を読んだ方が勝利。
女性は勤勉な働きを見せて、各部署に連絡――集結した部隊との連携を取ってくれた。
部隊長及び副隊長、列席した有力者との話し合いも終える。
途中はやて達が面会を求めたが、彼女との話し合いに忙しかったので断った。
そして今――
――法の守護者時空管理局を相手に、孤独の剣士の戦争が始まる。
「まず、全ての戦士達に宣言しよう。
この勝負――俺の勝ちだ」
<最終戦開始 孤独の剣士――時空管理局
ポイント:大規模演習地
負傷:頬にキスマーク(ガーゼ)・全身に埃・両手の平負傷(麻痺)・全身負傷・痴漢中・汚水
心の古傷・両腕損壊(緩和しました)、凍傷、貧血
装備:カップ酒・スルメ・柿の種・はやて、グラーフアイゼン・クラールヴィント
アイスクリーム・女の子文字で書かれた番号とアドレスメモ・チビリイン(ミヤ)
ミヤの歯型メロン・御土産酢昆布・黒のショーツ、レイジングハート(待機モード)
(※エイミィ・リミエッタより、以下の支給品を授かりました)
・携帯電話(ミッドチルダ製)
・耐刃防護服
・エイミィさん手製対戦者名簿
謎の世界:
謎のナンバー2:(はむはむ)
リンディ:(お茶を飲んで、息子の演説にウキウキ気分)
はやて:(家族同然の男性の発言に呆然)
シャマル:(面会を断られて不機嫌→家族の傍らに居る女性を睨んでいる)
シグナム:(平然とした顔だが、弟子の読めない真意に心が躍っている)
謎の組織:
謎の研究者:(興味深い表情で演説を聴いている)
謎のナンバー1:(少年の真意が分からず、戸惑っている)
謎のナンバー5:(出撃しました)
謎の寮:
リスティ:(なのはを宴会場へ案内)
なのは:(……ぐす、ぐす、また仲間はずれ……)
謎のマンション(正面玄関)
謎の麗人:(アイゼンから聞いたマンション騒動を説明)
月村:(海鳴町における少年の事件を説明)
ザフィーラ:(異世界における少年の事件を説明)
謎の捜査官:(少年が起こした数々の騒動に溜息)
謎の秘書:(少年が起こした数々の騒動に怒り心頭。協力者を睨む)
エイミィ:(知らんぷり)
謎の黒衣の少女:(頭にタンコブ、長距離転送準備)
ノエル:(グラーフアイゼン装備で出撃準備)
謎の九州:
謎の同僚:(長距離転送準備)
ヴィータ:(バインドされて気絶)
※守護騎士システムに、飲酒属性が追加されました。
オイル:さざなみ寮
剣:高町家
被害状況:自然公園水没・翠屋営業停止・ミッドチルダ演習地(半壊)・ゴミ収集場(崩壊)
グラーフアイゼン(時空の彼方)・マンション前(半壊)・月村邸(絵画・家具・窓ガラス)、ノエルのメイド服、少女の涙>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
戻る
Powered by FormMailer.
|