To a you side 外伝5 運命の女神達と孤独の剣士 翡翠の女神
※この物語はTo a you side本編を先に読まれると、よりお楽しみ頂けます。
『リンディ・ハラオウン』――携帯電話より放射された光の魔法陣に、その名が刻まれている。
最新ネットコミュニケーションがようやく形になりつつあるこの時代を、容赦なく追い抜いた異世界の科学技術。
時代も世界も簡単に乗り越えて、人と人を結ぶ画期的なシステムである。
魔方陣に描かれた名前と顔写真を見て、俺は猛烈に嫌な予感がした。
今回起きた騒ぎの原因は間違いなく俺の迂闊な宣言だが、女達の行動力も恐るべきものがある。
倒しても倒しても次々襲い掛かる連中に、いい加減疲労が溜まり始めている。
海鳴町全力疾走一周が余裕な俺の体力でも、手強い彼女達の相手は疲れる。
理由は単純――俺より強いからに他ならない。
本当、彼女達が突如居なくなった一ヶ月はパラダイスだった。
嵐の前の静けさだと今更ながらに理解しても、あの頃に戻りたかった。
アリサやミヤも留守にしていたのだ、孤独を謳歌出来たと言える。イヤッホー。
「この携帯、着信拒否設定って出来ないのかな……?」
『別の手段で連絡するでしょう、彼女なら』
レイジングハート様のごもっともな御指摘に、俺は渋々頷かざるをえない。
連絡が取れないなら直接会いに来る――フェイトの事件での彼女の行動力が証明している。
病院にわざわざ俺の答えを聞きに本人が来たのだ、今回も必ずやって来るだろう。
俺は渋々携帯電話をオンに切り替えた。
『はーい、久しぶり。元気だった、リョウスケ?』
妖精の如き麗しき女性が、空間モニターの向こうで親しげに手を振っている。
職務中なのか、管理局の制服を丁寧に着こなしている。
翡翠にも似た色の独特の髪が優しく揺れており、綺麗な顔立ちに緩やかな微笑みを浮かべていた。
初対面こそ相応の礼儀正しい態度だったのに、今では完全にタメ口である。
年長者なので当然――とはまるで思えないのが、この女性だ。
月日が経とうと色褪せない美貌は、映像越しに見ても魅力的に映し出されている。
このモニターがテレビで彼女が女優だとしても、疑う人間は一人もいないだろう。
実の息子のクロノと並んでも、年の近い姉弟にしか見えない。
「この通り――怪我の毎日ですよ」
『うふふ、貴方と出逢った頃から変わらないわね。
平穏無事に過ごしている姿を見た事が無いもの』
「あんたらの世界に関わってから、俺の平穏乱れっぱなしですからね」
ジュエルシード事件――リンディ達と出会い、異世界の扉を開くきっかけとなった最初の人生の転機。
悲劇と死闘の連続で、自分の無力さを最後まで味わった事件だった。
悲しみの色は風化して思い出に変わりつつあるが、今にして思うと関わらない方が良かったかもしれない。
少なくとも、平和な夜の公園で突如ハンマー彗星を食らう事は無かっただろう。
開戦の火蓋を切ったヴィータやシグナム達は今頃、合流したはやて達と呑気に遊んでいるに違いない。
人が苦労しているというのに、許せん奴らだ。
『私達の方から見れば、貴方が此方に関わってから事件が激増しているわ。
貴方が直接事件を起こしていると、勘繰る人もいるんだから』
「おやおや、それは大層な誤解だな。こんなにも世界に貢献しているのに」
『……カートリッジ、ロード』
「えっ、攻撃態勢!? 俺の発言ダウトでしたか!?」
主不在の待機状態で攻撃は不可能なのだが、レイハ姐さんなら可能に見えるので怖い。
余計な発言は控えておこう。
リンディ提督殿はテーブルの上のレイジングハートを見て、安堵したように胸に手を置いた。
『なのはさん、貴方の所に居たのね……本当に良かったわ、無事で』
「? 元気一杯で風呂に入ってるぞ」
『本人から聞かなかった? 貴方が死んだと思っていたのよ』
「うむ、失礼な話だな。俺様が無敵だという事をまだ分かってないらしい。
愚かな娘だ」
『……10……9……8……』
「止めて!? 私が悪かったのでその不気味なカウント、止めて下さい!?」
繰り返すがレイジングハート単体で出来る事など知れているが、無意味に怖すぎる。
敬愛するご主人様の為ならば、変形とかしそうで怖いんだこの女性。
リンディもリンディで、頬に手を当てて深い溜息。
『貴方になのはさんとフェイトの捜索を御願いしようと思っていたんだけど……
その顔を見ると、本当に何も知らないようね。
やっぱり連絡して正解だったわ』
「なのはとフェイトの捜索……?
心配していると言うなら安心しろ。
なのはは俺が無事に発見、フェイトも今全力で捜査中だぜ」
『ええええええっ!? ど、どうしたのリョウスケ!?
何か悪いものでも食べたのかしら……
きちんとした物食べなさいって、お義母さんいつも言っているでしょう!』
「どさくさに紛れて、何母親顔してやがる!
俺がなのは達を心配するのがそんなに変か!?」
『Don't worry』
「何がだよ、こんちきしょう!?」
人の善意を疑うとは何て奴らだ、信じられない。
人間皆兄弟という言葉の意味すら知らないのだろうか……?
心の狭い大人にはなりたくないものである。
仕方ないので、事の前後を加えて補足しておく。
「ミヤが二人を心配して探しに行ったんだよ。あいつは探し物を見つけるのが得意だからな。
なのはとはすれ違いになったけど、フェイトは多分早めに見つけ出せるだろ」
他人の為に頑張るあいつの行動力は天下一品である。
俺とは心の底から合わない正義の理念だが、赤の他人でも全力全開で助けようとする意欲だけは凄いと思う。
ミヤに関しては紆余曲折あったが、リンディも深い信頼を寄せているようだ。
それ以上の追求はせず、お願いねと一言だけ添える。
『今日貴方に連絡したのは、貴方の身の回りで起きている事件についてなの。
きちんと相談しておかないと、どんどん不味い事になりかねないから』
「お、何だ。俺を心配してくれたのか。いやー、助かる。
アンタからビシッと言ってやってくれよ、あいつらに。
主だった面々は俺様の華麗な伝統技でクリアーしたけど、伏兵が出ないとも限らないだろ」
『あら……あらら? リョウスケ、なのはさん達以外にも恋人候補が居るの。
クロノは真面目過ぎる所があって心配だけど、貴方は不真面目過ぎて不安だわ』
「この騒ぎに便乗する奴が出て来てるから言ってるんだよ!」
今のんびり風呂に入っている銀髪美人がいい例だ。
あの野郎俺を恋人にして散々弄び、飽きたら捨てると堂々とぬかしやがった。
今さざなみ寮の外で宴会準備始めてる連中も、同じような事やりそうだ。
その中の酔っ払い眼鏡はリスティと同類項の上に、無類の剣術家なので性質が悪い。
エイミィにも噂の沈静化を頼んでいるが、リンディが味方になれば頼もしい。
――別の意味で不安だけどね、このおばさんは。
『ああ……今度は誰を誑かしたのかしら。
お義母さんに全部話してみなさい』
「赤の他人様に話す事は御座いませんよ」
いい加減しつこいので、辛辣に言ってやる。
――例の七月の事件以降、リンディ家族への入籍を求められる声が高まってしまっている。
あの事件はジュエルシード事件より遥かに性質が悪く――心底不本意だった。
事件の顛末を「聞かされる」だけでも、羞恥に身悶えしてしまう。
たく……あの野郎、余計な事頼みやがって……
美人提督殿は不満そうに口を尖らせるが、ふと明るい顔になって人差し指を立てる。
『そうよね……冷静に考えてみれば、私にも権利があるわ』
「権利……? ――げっ、ま、待て!
アレには年齢制限があるんだぞ! 俺本人が言ってるんだから間違いない!」
俺だってね、学習能力はあるんですよ?
この話の流れで彼女が何を言いたいのか、察するなんて簡単だ。
年齢の事を指摘しても、リンディは顔色一つ変えなかった。
……二十代三十代と言った、年の差を気にするような器の狭い女性にこの美貌は保てない。
外見の美しさは、内面の輝きから放たれるのだ。
桃子やリンディに年齢の話は悪口にもならない。
リンディは心底楽しそうに、手元のパネルを操作する――
『もう、酷いっすよ……それじゃあ――
良さんに勝てた人が彼女って事になるんっすか』
『当然だろ。
その時は、俺から土下座してでも恋人になって下さいって言うね』
――何処かで聞いた会話がリアルタイムで流れる。
背筋を凍らせる天才剣士に、リンディは白々しく首を傾げた。
『おかしいわね……リョウスケ、一言もそんな事は言ってないように聞こえるわ。
私の耳がおかしくなったのかしら。
心配だから、リピートして何度も確かめてみるわね』
「こんな会話、何処で録音したんだ貴様!」
一ヶ月前の忌まわしい記憶だ、俺が忘れるなんてありえない。
あの時喫茶店に居たのは常連の女学生達以外に、会話を録音する怪しい人物は居なかった。
知り合いもだ、断言出来る。
桃子は店内に居たのは事実だが、あいつはそんな趣味の悪い女じゃない。
答えは目の前の女性が告げてくれた。
『当時貴方と話していたあの時の学生さん達が、携帯電話に録音していたの。
口約束だけだと誤魔化されると思ったんでしょう』
「あいつらぁぁぁぁぁ!!」
絶対に面白がって録音したに決まってる、あの女共!
俺もその時はナイス提案と思って調子に乗っていたが、女学生達はこの展開を薄々予想していたのだろう。
喫茶翠屋の常連で、俺に貴重な情報を提供する子分共――
昨今若者達の噂話や数多の学校内の情報――最近の流行に至るまで、俺は彼女達から仕入れている。
世間話の一環でしかないのだが、これはこれでなかなか役に立つ。
普通の人間が見聞きしても素通りするだけの情報でも、時に値千金になる場合もある。
俺も連中とそれほど年齢は変わらないのだが、俺は学歴社会から追い出された人間だ。
現役の女子高生から話を聞いた方が早い。
そして気がつけば、海鳴町は深く根付いていた。
――アリサめ……情報の貴重さを説いておきながら、町に馴染む為に俺を教育したな。
女学生達と仲良くなれたのは別にいいが、あいつらも俺の人間性や翠屋関係の人間模様を知られてしまっている。
強かな女の子達に、歯軋りしてしまう。
「よく一ヶ月前の当事者なんて見つけられたな……あんたが調べさせたのか?」
『違うわ。
後で話すつもりだったけど――時空管理局は、今回貴方が起こした騒動を正式に次元世界規模として取り扱う事になったの』
「次元犯罪レベル!? 理不尽だ!」
『――やっぱり、今起きている現状を把握していないようね……
地上本部や本局――地海空の上層部のみならず、最高評議会にまで話が伝わっているの。
今ミッドチルダで何が起きているのか聞けば、貴方も納得すると思うわ』
「世の中、狂ってる!?」
将来天下を取る人間とはいえ、今は管理外世界の一剣士にすぎないんだぞ!?
何で時空管理局が、俺個人の問題にまで首を突っ込むんだよ!
民間人の恋愛問題まで解決して下さるってのか、法の守護者様は!!
――ハッ!?
「ま、まさか……この事件の担当者って――」
『うふふ、先程挨拶に来られたわよ。
――この度は、彼が多大なご迷惑をお掛けして誠に申し訳ありませんでした。
私が必ず更生させますので、どうか見捨てずに今後ともご指導の程を――ですって。
本当に立派な方ね、貴方を心から心配していたわ』
でえええええええ、あいつだあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!
ええい、子育てに専念すればいいものを!
心配するなら、てめえの子供だけにしやがれってんだ。
……やばい、あの捜査官相手では俺が不利過ぎる。
日本の奥義を駆使しても、御得意の拳で破壊しやがる風流もクソもない女なのだ。
「リンディ御姉様!
何卒、何卒……わたくしの現在地をあの女に知らせる事だけは御勘弁を!」
『本当に、彼女は貴方の天敵なのね……
お母さん、って呼んでくれれば、海鳴町への転送許可申請を先延ばしに出来るわよ。
私から今回の事件の事情を説明すれば、時間稼ぎにはなるわ』
「誰がそんな気持ち悪い呼び方なんぞするか!」
『――リンディ・ハラオウンです。
私の業務室に、至急ナカジ――』
「しょ、勝負! 真剣勝負しましょう、ね!?
アンタが勝てば、潔く養子縁組でも何でもします!
その代わり俺が勝てば、海鳴町から別の――そうだな……絶対安全な場所へ転送してくれ!」
『勝負方法と場所は、私から提案していいのかしら?』
「じ、時間が無いので出来れば早めの勝負が大変ありがたいのですが――」
――ずるずると泥沼に引きずり込まれている気がするが、仕方ない。
あの女の影を見るだけでも寒気が走る。
ミヤも剣も無い今の状態では、勝ち目は全く無い。
時空管理局もなにやら慌しくなっているようだから、ほとぼりが冷めるまで逃げた方がいい。
人の噂も75日――
安全な場所でしばらく一人籠もって、剣の修行でもしていれば馬鹿な噂も消えるだろう。
『分かったわ。それじゃあ――』
リンディ・ハラオウンが告げる勝負の舞台。
――次元世界に吹き荒ぶ嵐はいよいよ、全てを飲み尽くそうとしていた。
<戦闘開始 孤独の剣士――翡翠の大和撫子
ポイント:さざなみ寮→???
負傷:頬にキスマーク(ガーゼ)・全身に埃・両手の平負傷(麻痺)・全身負傷・痴漢中・汚水
心の古傷・両腕損壊(緩和しました)、凍傷、貧血
装備:カップ酒・スルメ・柿の種・はやて、グラーフアイゼン・クラールヴィント
アイスクリーム・女の子文字で書かれた番号とアドレスメモ・チビリイン(ミヤ)
ミヤの歯型メロン・御土産酢昆布・黒のショーツ、レイジングハート(強制監視モード)
(※エイミィ・リミエッタより、以下の支給品を授かりました)
・携帯電話(ミッドチルダ製)
・耐刃防護服
・エイミィさん手製対戦者名簿
謎の寮:
リスティ:(当時の初恋話を、なのはに語っている)
なのは:(……ドキドキ)
謎のマンション(正面玄関)
エイミィ:(グロッキーな執務官と動物を手当て中)
謎の秘書:(エイミィ、発見。険しい顔をして接近)
※『悲しみの向こうへ』イベント、開始。
謎のマンション(駐車場)
謎の麗人:(グラーフアイゼンに事情を聞く)
ノエル:(グラーフアイゼンを装備)
月村:(謎の秘書の行動に興味津々)
謎の地上本部:
はやて:(大規模演習地を指定、可決。――無事に会議終了、ホッと一息)
謎の中将:(厳しい面立ちで、空間モニターで謎の人物と討議中)
謎の人物:(愉快げに頷いている)
謎の親友:(女部下より提出された武装解除許可申請に、苦笑)
謎の捜査官:(必ず更生させますと、熱心に説得中)
謎の同僚:(日頃見ない同僚の熱心な顔に、くすくす笑っている)
謎の航空部隊:
シグナム:(会議、終了。出撃準備中)
※主人公について、以下の内容を話しています。
(例:ギガントを空手で防いだ、シグナムの剣を受け止めた、オ−バーSランクの魔導師相手に素手で勝利)
謎の本局:
シャマル:(会議終了。妨害工作準備中)
※主人公について、以下の内容を話しています。
(例:守護騎士全員が愛の奴隷、難事件の数々を一人で解決、管理外世界の支配者)
謎のトラック:
謎の運転手:(日本地図の沖縄を指差して、囃し立てている)
ヴィータ:(目がグルグル、頬真っ赤――けれど弾丸のごとく)
???:(発見。弓を取り出して構える)
※守護騎士システムに、飲酒属性が追加されました。
※九州に入り、酔っ払い運転で街中へ入りました。
謎の上空:
ザフィーラ:「――どう生きるか、どう戦うか選ぶのはおまえだ」
謎の黒衣の少女:「悪人の邪魔が、私の仕事ですから」
ミヤ(……真剣に戦っていますけど、妙に腹が立つです)
オイル:さざなみ寮
剣:高町家
被害状況:自然公園水没・翠屋営業停止・ミッドチルダ演習地(半壊)・ゴミ収集場(崩壊)
グラーフアイゼン(時空の彼方)・マンション前(半壊)・月村邸(絵画・家具・窓ガラス)、ノエルのメイド服、少女の涙>
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小説を読んでいただいてありがとうございました。
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