To a you side 外伝5 運命の女神達と孤独の剣士 不運の女神



※この物語はTo a you side本編を先に読まれると、よりお楽しみ頂けます。




 喫茶店から駅まで距離は短く、フィアッセとの会話は早く終わった。

はぐれないように手を繋ぎ、始終楽しげな歌姫様。

無事に俺を駅まで見送って、彼女はそのまま喫茶店へと戻っていった。

自分の愛する職場の様子が気になるのだろう。


最後に俺を笑顔で咎めて、別れを告げた。


翠屋で発動させた日本の伝統技の余波は、桃子と二人で何とかしてくれるに違いない。

一人に戻った俺は待ち人を探して、駅のロータリーへ向かう。

生真面目な執務官殿の追っ手が来る気配もないので、合流前にまず変身魔法の解除を行う。


――事にしたのだが、


「ひ、人が多いな、おい・・・・・・」


 駅の表通りに位置するロータリーには、タクシーやバスが停留して乗客が並んでいる。

日が沈む時刻、会社や買い物帰りの住民が多い。

人目を気にする性質ではないが、美少女から天才剣士に戻る瞬間を見られるとまた噂が立ちそうだ。

素朴で平和な住民だが、横の繋がりが縄より太い。

女の子に変身していた事がばれれば、余計な伝説を一つ増やす羽目になる。

魔法云々より、俺が問題を起こす事を祭りの種にする連中だ。

俺は渋々待ち合わせ場所への針路を変更して、駅のトイレへ向かう。


――ここで運命の選択肢。



「ど、どっちへ入るべきなんだ・・・・・・?」



 この世には二種類の人間が存在する。

男と、女。

生理現象を解消する為に、公共施設は容赦なく二つの門を構えていた。

普通なら躊躇う事のない関門を、この日生まれて初めて俺は悩んだ。


男子トイレか、女子トイレ――


嘘大袈裟紛らわしいどころの話ではなく、これは間違いなく運命の分岐点だった。

恐らくどちらかを選ぶ事で、俺の今後の人生を変える。

ゴクリと、唾を飲む。

日本男児たる俺様だ、当然男児便所に入るべきだが問題がある。

何しろ、今の容姿が黒髪の小さな女の子だ。

入った途端誰かに見つかって掴み出されるかもしれない。

幼女なので見逃してくれるかもしれないが、解除後出辛くなる。

駅の男子便所は使用率が高いので、人目につきやすい。


女子トイレはどうだろうか・・・・・・?


普段立ち入る場所ではないので客観的な私見だが、男子トイレよりは利用率は少ない気がする。

今こうして少し離れた場所で観察しているが、入っていた気配はない。

男の方は逆に出入りが激しくて、隙を探すのが難しそうだ。

女子トイレへ行くべきか――

見目麗しい女の子なので入るのは簡単、そのまま駆け込んで解除すればいい。

問題はトイレから出る時。

出入り口まで数メートルの距離差で、誰かとすれ違えば俺の人生は終わりだ。

変身魔法を痴漢目的で悪用したとして、時空管理局の皆さんが飛んでくるかもしれない。

某黒い法の番犬殿なんて喜んで俺を捕まえて、痴漢容疑の罪を被せるだろう。

この町にも不本意だが知り合いが多い、噂が広まってしまう。

花見事件では恭也達が通う学校でトイレで騒ぎを起こした前科がある、女子トイレには因縁があるのだ。

男か、女か――

ぐずぐずしていると、あのメイドさんが来てしまう。

俺は半ば溶けたアイスを舐めながら、思案を練る。

甘い物は疲労回復に役立ち、スムーズな思考を約束してくれる。


・・・・・・よし!


男たるもの、早期決断が要。

日本男児を名乗るなら迷うべき事ではない!

俺は意気揚々と男子トイレへ――


――足を止める。


(げっ、あいつは!?)


 精悍な顔立ちに、静かな雰囲気を漂わせる男。

無愛想だが凛々しきその横顔は、男の憧れとも言うべき強さを感じさせる。


高町恭也。


男は俺に気付かないまま、何気ない足取りでトイレの中へ入っていった。

あ、あの野郎……相変わらず空気を読まない男め!

鈍感な男の典型とも言うべき主人公性質な剣士は、無意味に俺の障害として立ち塞がった。

本人は当然だが、これっぽちも自覚はない。

生真面目な恭也だ、男子トイレに入ればきっと注意する。

個人主義な世の中で、高町恭也という男は赤の他人でさえ不審な挙動を見逃さない。

俺は舌打ちして行き先を変更して、女子トイレへ駆け込んだ。

恭也が早く立ち去ってくれる事を祈りながら、小さな足を懸命にテクテク動かしてトイレの中へ。


洗面所を通り抜けて、そのまま空いている便器に――って、誰か使ってるっ!?


四つある扉の前から二番目の便器が問答無用で使用中だった。

咄嗟に自分の口を塞ぐ俺。

声も舌足らずな少女の声なので心配ないのだが、男ゆえの防衛本能だった。

鉢合わせると死ぬほど後で面倒なので、俺は躊躇わずに奥の便器へ入る。

そのまま扉を閉めて鍵をかけて――ド、ドアが固いな、この安普請!

バリアフリーに気を使う暇があるなら、少しはチビッ娘に優しい世の中にしてほしいもんだ。

一生懸命手を伸ばして何とか鍵口を掴むが、滑って転ぶ。

スカートがクシャクシャになって、パンツが丸見えだった。


・・・・・・クマさんプリントに意味はあるのか、クラ―ルヴィント?


主様のパンツの趣味を疑いながら、必死で立ち上がって扉を掴んで引っ張る。

古くて立て付けが悪くなっているのか、なかなか微動だにしない。

うぬぬーーー!!

悪戦苦闘していると、俺の小さな手に横からぬっと大きな手が重なる。


「ほら、こうやって閉めるんだよ」

「わあ、ありがとう! おじちゃ――へ・・・・・・おじ!?」


 軋んだ音を立てて、閉ざされる扉。

和風便器のある小さな空間が、鍵の音と共に密閉される。

密室で呆然と見上げる俺を――大きな人影が覆い被さっていた。


小太りの中年親父。


脂ぎった顔立ち、薄汚れた風体、異臭を放つ土色の肌。

黄ばんだ歯を覗かせる歪な笑みを浮かべて、醜悪な顔で俺を見下ろしている。

異様な雰囲気に後ずさるが、所詮トイレの中。

あっという間に壁際に追い詰められて、冷たい壁に背筋を震わせた。


「お、お嬢ちゃん、可愛いね・・・ふふ、ふぅ・・・・・・」

「あ、ありがとう・・・・・・」


 ギトギトした眼差しで見つめられて、思わず強張った声を上げる。

ちょ、ちょっと待て!? 

お、落ち着いて状況を把握するんだ!


ま、まず肝心な事だが――ここって女子トイレだよね?

男児トイレと間違えて入ったりはしてないよな、俺。

男特有の小用便器が並んでなかったんだ、絶対に此処は女子トイレだ。


えーと・・・・・・では、このホームレスにしか見えない御方はどちら様?


混乱する俺の顔を覗き込むように、男は臭い息を吐きかける。


「ひ、一人でトイレ出来るんだ・・・・・・えらいねー。
おじさん、そういう女の子はだーいすきなんだよ」

「あ、あはは・・・・・・そ、そうかな?」


 そうかな、じゃねえ!

ま、まさか・・・・・・まさかのまさか!?


俺って今――俗に言う痴漢に襲われている?


アダルトビデオばりの展開で、夜とはいえ人通りのある駅のトイレで!?

正気か、コイツ!

誰か来たらジ・エンドじゃねえか!  

何より俺は男だぞ、男!

確かに天才の名に相応しい美剣士だが、だからといって・・・・・・!?



・・・・・・。



・・・・・・。



・・・・・・あ。



い――今、女だああああああああああああああ!?



ちがーう!

確かに見た目こそ可憐な女の子だけど、中身は男! ボーイ!

見る目ねえのか、この親父!?

い、いや、見る目あるから女子トイレにまで押し入って、強姦に精を出しているのか――って、納得出来るか!

謹んで、アホんだらと言わせて頂く!

仮にも日本人で生まれたのなら、俺の中に眠る大和魂を感じ取れ!!

女になった途端コレかよ、どれだけ不運なんだ!?

生まれつきの女でもこんな事態、一生に一度あるかないかだろう!

俺の絶叫をよそに、オッサンは自分の乾いた唇を醜い舌で舐める。


「お嬢ちゃん一人だと大変だろう。
おじさんが手伝ってあげるよ・・・・・・おしっこ? それともうん――」

「わ、わたし、一人で出来ますから!?」


 ――今まで数多くの修羅場を潜り、艱難辛苦を味わった俺。


死にかけた事は数え切れず、個人はおろか組織とも戦った。

どれほどの非遇に陥っても、冷静に対処出来る自信がある。

あのベルカの騎士達に比べれば、ヤクザでさえ有象無象の集団でしかない。

そんな俺が今――心底、ビビッていた。

近年急増する痴漢に怯える女子の気持ちがよく分かる。


これは、別種の恐怖――


人の尊厳を靴底で踏み躙られる嫌悪が、心を腐食するのだ。


「ほら、スカートを下ろしてパンツを脱ぐんだ。
おじさんも一緒に脱いであげるから安心して」


 何だ、その意味不明な倫理観!?

何をどう安心しろというんだ、貴様!?

男の言動に振り回されて、ガチガチ震える俺。

これはもしかしてアレですか、自業自得という奴ですか?

クロノに痴漢容疑を押し付けたから、今度は俺が痴漢の被害にあっているのか!?


くっそ、早く変身魔法を解除してこの痴漢を瞬殺――って、それはやばい!?


ホームレス一人叩きのめす事に何の躊躇も無いが、問題は他のトイレが使用中であるという事。

他の女性がトイレの中にいる今、変身魔法を解除するのはまずい。

かと言って、解除しなければ反撃出来ず見事に陵辱される。

幼稚園児並の幼女に劣情を抱く変態だ、容赦しないだろう。



きょ、恭也さーん! 

正義の剣士さーん、貴方の出番ですよー!!

カッコよく登場して、この変態の首を切り落として下さーい!!



クールなヒーローの出番を待っている間にも、男はガチャガチャ無造作にベルトを脱いで、ズボンを下ろす。

そして、そのまま俺のスカートに手を伸ばして――


「おトイレが終わったら、おじさんがきれいきれいにしてあげるね」


 ――無慈悲に下着と共に下ろされた。

目の前に広がるのは、ズボンを脱いだ男の――


















































































<戦闘開始  流離の痴漢男VS孤独の剣士(状態:幼女)

ポイント:駅前→女子トイレ

負傷:頬にキスマーク(ガーゼ)・全身に埃・両手の平負傷(麻痺)・全身負傷・痴漢中

装備:カップ酒スルメ柿の種はやてグラーフアイゼン・クラールヴィント(不許可所持)
アイスクリーム(属性:コーン)、女の子文字・・・・・で書かれた番号とアドレスメモ


謎の駅前


男子トイレ:謎の剣士、迷いのない足取りでトイレを出て改札を通る(退場)


女子トイレ:(????)


ロータリー:謎のメイドさん、到着。待ち人がおらず、翠屋へ向かう。




謎の喫茶店


フィアッセ:笑顔で接客。


謎の店長さん:執務官の苦労話を聞いている。




謎の組織内:


謎の魔法少女:「ディバイン――」

謎の黒衣の少女:「プラズマ――」

ヴィータ:「パンツァー――」

シグナム:「飛龍――」

はやて:(謎の艦長の御茶をザフィーラに提供中)

ザフィーラ:(土下座)

シャマル:(夢の中でハネムーン中)

謎の管制官:(本日の業務終了。私用でお出かけ中)





オイル:さざなみ寮

剣:店長さんのロッカーの中





(――ああ愛しい妖精さん、我が胸の中で永遠に――編)
  ↓
ゴミの山から抜け出す
  ↓
服がボロボロ
  ↓
アイゼンを引っ張るが出せない
  ↓
ベソをかく
  ↓
とりあえず、アイゼンと念話
  ↓
主の苦労話に華を咲かせる
  ↓
通りがかった収集員に掴まれる
  ↓
収集員、まだ綺麗なアイゼンをゲット→(アイゼンの怨念を無意識に感知)→(鉄槌の収集員ルートへ)
  ↓
動く人形は気味が悪いので、焼却場へポイ捨て
  ↓
(燃える闘魂編へ続く)





被害状況:自然公園水没・翠屋営業停止・グラーフアイゼン(主変更)・ミヤ(焼却)>








小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。


<*のみ必須項目です>

名前(HN)

メールアドレス

HomePage

*読んで頂いた作品

*総合評価

A(とてもよかった)B(よかった) C(ふつう)D(あまりよくなかった) E(よくなかった)F(わからない)

よろしければ感想をお願いします













戻る



Powered by FormMailer.