To a you side 外伝5 運命の女神達と孤独の剣士 黒翼の女神
※この物語はTo a you side本編を先に読まれると、よりお楽しみ頂けます。
変身魔法は補助系に分類する、多種多様な外見に偽装可能な魔法である。
動物型から人間型まで応用範囲が広く、難易度が低いのでアルフ等の使い魔でも習得出来る。
ゆえに犯罪に利用されるのを嫌って、時空管理局では特定個人への変身を禁じている。
管理局法は管理世界全般に適用される為、記述が細かく内容も厳しい。
日本の法律の閲覧でも目を回す俺に管理局法なんぞ理解するのも無理だが、その点俺には天才メイドがいるので普段助けられている。
今回は俺が使用した変身魔法は、クラールヴィントが創造した人物。
容姿や服装のコーディネートを任せて、いざ完成――
「――って、何でチビッ娘なんだよ!」
隠れた更衣室の鏡を見て、俺は地団太を踏む。
磨かれた鏡面に映し出されているのは、黒い髪の女の子。
将来が楽しみな可憐な容姿に、ピンクのスカートがよく似合っている。
黒耀の澄んだ瞳が特徴的な美少女だが、俺は少しも嬉しくなかった。
"御似合いですよ"
「それで褒めてるつもりか、貴様」
は、迫力ねぇぇぇ……
自分の口から飛び出した舌ったらずな幼女の声に、改めて欝になる。
高度な変身魔法が使用されているのは助かるが、余計なお世話でもあった。
「やり直しを要求する」
"ノー"
「英語!? しかも拒否しやがった!?」
何でこんな無機物相手に、コントなんぞせねばならんのだ!
このままグズグズしてると、脱出が難しくなる。
長屋攻撃で追い詰めたクロノが復帰されるのも面倒だ。
冷静になって考えてみよう。
クロノは優れた時空管理局執務官だ。
痴漢の汚名を晴らすのは容易ではないが、万が一追跡出来たとして逃走手段に変身魔法を行使するケースを当然考えるだろう。
男の中の男たる俺が仮にハンサムな男性に変身すれば、挙動でばれる可能性がある。
如何なる隙も見逃さない法の執行者様だ、俺から滲み出る日本男児の渋さで発覚するかもしれない。
そんな俺が、まさか可愛い女の子に変身するとは夢にも思うまい。
――何せ、変身直後に俺本人が驚いたのだから。
それに、この身長120センチ未満の未成熟な肢体は利用出来る。
万が一ばれてもその場でスカートの下の青い果実を晒して、悲鳴を上げてやればいい。
下着ドロは回避出来ても、ロリコンの汚名は回避出来まい――ふっふっふ。
「なるほど、気に入ったぜ――おっと。
うふふ……気に入ったわ、クラールヴィントちゃん。
さあ、二人仲良く脱出しましょうね〜」
"……少し後悔しました"
お前がディスカッションしたくせに。
何か言いたげな指輪さんを恋する乙女の接吻で沈黙させて、俺は更衣室を出て行った。
ガキの頃は当たり前の世界でも、大人になった後では逆に新鮮に感じる。
痴漢騒ぎで賑わう群集の合間を抜けて、翠屋から見事脱出を果たした俺。
屋根の上で困り果てるクロノを背景に、俺は駅前へと向かう。
脱出に多少手間取ったが、ノエルを待つ時間を稼げたのでよしとしよう。
都心部とは違って、海鳴町は海と山に囲まれた自然の町――
住み良い環境で人口数は多いが、人ごみは発生する事は滅多にない。
サラリーマンや学生達が歩く遊歩道を小さなステップで歩き、住み慣れた町を見ていく。
物心ついた頃は身長が一般人より恵まれていたので、視点の低さがなかなかグット。
変身魔法の原理は使用者ではない俺には今いち分からないが、ガキに戻って町を歩くのは気分が良かった。
……スカートで歩くのが、少し気になるけど。
「こんな夜遅くにお出かけなんて……わたし、ちょっとドキドキ」
"……変身魔法を解除しても宜しいでしょうか?"
「ダーメ、うふふふ。
襲われたらわたしを守ってね、クラールヴィントちゃん」
"マスター、貴方の旦那様を殺す許可を頂きたい"
アームドデバイスとはいえ、俺の幼女ボイスにメロメロのようだ。
好意に満ちた殺意を鼻歌で流して、俺は遊歩道をスキップする。
途中、アイスクリームを食べている女子高生三人が通り掛かった。
日頃から仲良しなのか、買い食いする三人は賑やかな話題で周囲を明るく染めている。
そんな麗しき女子高生達が、夜に出歩く一人の少女を見て歓声を上げる。
「わあ、可愛い〜!」
「お出かけかな? あはは、スキップしてるー」
愛くるしい幼女に、顔を寄せ合って邪気のない興味を示している。
鏡で見た俺でも出来過ぎな美少女だからな……
創造の産物だけあって、アニメやゲームから飛び出したようなアイドル性を持っている。
悪戯心がわいた俺は彼女達の前で、禁断の技を駆使する事にした。
天才剣士ヴァージョンでは出来ない、日本伝統の美。
貴族の時代より受け継がれる、大和撫子の美を象徴する絶技。
変身魔法で生まれ変わった今の俺になら、許される日本の伝統――!
人差し指を可愛らしく咥える。
「……おねーちゃんのアイス、おいしそう……」
ここでポイントなのは、決して欲しいと言わない事。
大和撫子は慎み深さが命。
世界に賛否両論な日本人の美徳は、代々受け継がれる大和の伝統なのだ。
同じ日本人に絶大な効果を生み出す。
「アイスクリーム、欲しいの? ごめんね、これおねーちゃんのなの。
だから、新しいのを買ってあげる!」
「わー! ありがとー、おねーちゃん」
「ありがとー、だって! 可愛い〜」
――大人に愛される女の子の仕草は、なのはが嫌と言うほど毎日見せてくれている。
翠屋の看板娘のように喜びの表現をすると、女子高生達は黄色い悲鳴を上げて俺を抱っこした。
海鳴町に住む人達は、フレンドシップな人達が多い。
大都会のよう憎たらしいガキ共は少なく、純朴な学生が沢山いるのだ。
俺は素直に遊ばれてやって、報酬に冷たいバニラアイスを受け取る。
「おねーちゃん、またねー!」
「あはは、バイバーイ」
夜の闇を照らす明るい笑顔に大きく手を振って、俺は女子高生達と別れた。
お陰様で無事、アイスをゲット。
――何故か携帯電話番号とアドレスもゲット、意味が分からない。
甘い物は好物ではないが、何しろ昨日のヴィータの奇襲以降ほぼ何も食べていない。
恋心満載の強敵と戦って負傷を負い、疲れと傷を癒す為に病院で半日寝ていたのだ。
食事を取る暇もなく行動して、小さな女の子の"ぽんぽん"はクークー鳴っている。
ペロペロ舐めて、冷たい甘味を堪能しながら駅へ向かう。
短い足は行動範囲が狭く、駅までの距離が遠く感じられる。
「う〜、甘くて美味しいー。クラールヴィントちゃんも食べる?」
"……"
「あれれー、何を怒ってるのかしら? あんなの、子供の茶目っ気でしょう。
乳酸菌、とってるぅ〜?」
"そ、その発言は危険です!?"
何でよ?
クラールヴィントとの言葉少ない会話を楽しんでいると、背後から俺を覗き込む影。
アイス片手に顔を上げると――げっ。
「こんばんは」
他人を無垢に変える暖かな笑顔を浮かべている、女性。
見目麗しい容貌と無邪気な仕草が魅力的な、英国美人。
フィアッセ・クリステラ。
月日を重ねて美貌はますます磨かれており、西洋人の美しいスタイルを無愛想な普段着で覆っている。
日本人と体のつくりが違い過ぎるのに、日本の服を着るな。
ジーンズと簡素なシャツが窮屈なのか、犯罪的なラインを描いており、視線を奪われてしまう。
今の俺は小さな女の子なので、フィアッセの胸や腰よりアイスが大事だけど。
突然現れた翠屋のチーフを疑問視しつつ、俺は頭を下げる。
「こ、こんばんは……」
子供らしく、見知らぬ女性に戸惑いと警戒を見せる。
客商売に長けているフィアッセも失礼は承知なのか、子供のように小さく頭を下げて、
「ごめんね、急に呼びかけて。聞きたい事があるの」
――嫌な予感がした。
海鳴町到来より磨かれた野生の勘が、敏感に警鐘を鳴らす。
俺の不審を前に、フィアッセは堪能な日本語で話す。
「男の子を一人、見かけなかった?
おねーちゃんのような髪じゃなくて、黒い髪の人。
背の高い、こういう……ちょっと目つきの悪い人なんだけど――」
フィアッセは細長い指で自分の両目の端を伸ばし、尖がった瞳を演出する。
――それはもしかして俺のつもりか、貴様。
愛想のない目つきで悪かったな!
というか、世界的に有名な歌姫が幼女相手に愉快な顔を見せるんじゃない!?
お前の無防備さが、時折心配になってしまう。
近寄りがたい美貌の持ち主だが、同時に可愛らしい仕草を見せるので侮れない。
一応、聞いてみる。
「えーと、そのおにーちゃんのお名前は?」
「リョウスケって言うの。宮本良介」
……やっぱり俺かよ、おい。
フィアッセが俺を探す理由は――多分、翠屋の騒動だろう。
周囲は警戒していたつもりだが、策を練る間は無防備だったからな。
店員全員の目を誤魔化せるとは思ってなかったが、厄介な奴に見つかった。
だが、幸い知り合いに見られる危険性を考慮しての変身魔法――
わざわざ尋ねてくる以上、正体も知られていないと見るべき。
「ごめんなさい……見ていません」
「そっか――おねーちゃんこそ、ごめんね。
答えてくれてありがとう」
柔らかな微笑みを表情に乗せて、フィアッセの手が俺の頭に乗せられる。
……あ……
優しく撫でる仕草に、不覚にも一瞬心を奪われてしまった。
頭を撫でられた事って――あんまりなかった、よな……ガキの頃……
今の俺はガキだから――いいよな、別に。
払い除けるには、今の俺は小さ過ぎる。
俺は心の中で何度もそう呟いて、自分の心に正直に身を任せた。
溶けたアイスが地面に零れるが、未練には思わなかった。
――束の間の優しい時間は、簡単に終わる。
フィアッセの小さな手のひらは離れて、大人と子供の距離へ戻る。
長い足を屈めて、彼女は俺の視線に合わせた。
「貴方、お名前は?」
「え、えと……い、いづみ」
咄嗟に浮かんだ忍者女の名を口にする。
フィアッセは目を細めて、ご満悦な表情を見せる。
「いづみちゃんか……可愛い名前だね。
じゃあいづみちゃん、ちょっとだけ――目を瞑ってくれるかな?」
「目……?」
「うん、目」
「こ、こう……?」
フィアッセの自然な態度に吸い寄せられるように、俺は瞳を閉じる。
心なしか、胸に浮ついた感覚があった。
ふわふわ浮き上がるような、軽い酩酊感……
フィアッセの温かい雰囲気に酔っているように、心に期待を寄せる。
胸を弾ませて待つ俺に――
――強烈な、頬への引力。
「キャー!? いひゃい、いひゃい!?」
「可愛い悪戯っ子にお仕置きだよ」
両頬を優しく抓られて、それほど痛みを感じていないのに俺は悲鳴を上げる。
ば、ばれてましたか〜〜〜!
明らかに正体を知っているくせに、フィアッセは笑って俺を叱る。
弟を叱るお姉さんのように。
子を諭す親のように。
仕方のない男を好いてしまった恋人のように―ー
フィアッセは痛みを感じさせないように、頬を撫でるように抓った。
俺が降参の手をあげると、ようやく満足したのか拗ねた顔を見せる。
「もう……桃子、怒ってたよ。誰かさんの剣は没収だって」
「な、なにー!?」
ぐあああ……何しに行ったんだよ、俺は!
余計な罠を張った執務官殿を内心呪いつつ、俺はガックリ肩を落とす。
フィアッセはくすくす笑っている。
「駄目だよ、いづみちゃん。女の子がはしたない声を上げたら」
「う〜……おねーちゃん、助けて……」
「だーめ。お母さんにちゃんと謝ってからだよ」
……くっそ、フィリスのみならず桃子からも説教を受ける羽目になりそうだ。
仕方ない、剣の回収は諦めよう。
ノエルの待ち合わせもある、事件が収拾ついてからゆっくり話せばいい。
俺は溶けたアイスを寂しく舐めて、トボトボ歩くと――
「――何でついて来るの、お前?」
「いづみちゃんと、お喋り。
近頃他の女の子と遊んでばかりの、私の大事な騎士さんに代わって相手をしてくれると嬉しいな」
恥ずかしいからいい加減止めろ、その呼称。
――あの七月とコンサート事件以後、ずっとこんな調子だ。
今更だが、あの時の決断や行動が悔やまれる。
それでも――差し出された手は、温かくて。
この手を守ったんだと思うと、少しだけ誇らしかった。
<光の歌姫○――×孤独の剣士
敗因:御姫様と騎士
ポイント:翠屋→駅前
負傷:頬にキスマーク(ガーゼ)・全身に埃・両手の平負傷(麻痺)・全身負傷・頬の甘い痛み
装備:カップ酒・スルメ・柿の種・はやて、グラーフアイゼン・クラールヴィント(不許可所持)
アイスクリーム(属性:バニラ)、女の子文字で書かれた番号とアドレスメモ
謎の喫茶店
謎の歌姫:御機嫌。
謎の店長さん:愛しい息子の為に集まってくれた人達に、お礼。
泣いている執務官さんへ、コーヒーサービス
謎の組織内:
謎の魔法少女:「永遠なんて、ないよ――おにーちゃんもいなくなった……」
謎の黒衣の少女:「この悲劇の連鎖を――止めてみせる、私とバルディッシュで」
ヴィータ:もう意味が分からないが、それでも騎士服解除→魔力補充
シグナム:もう意味が分からないが、それでもカートリッジ・ロード
はやて:(リンディ・エイミィと、翠屋の映像を見て爆笑)
ザフィーラ:(欠伸)
シャマル:(夢の中で新郎新婦の誓いを行う)
オイル:さざなみ寮
剣:店長さんのロッカーの中
(妖精さんのゴミ処理場大作戦)
↓
ノエル車から必死で飛び出して、収集車に着地
↓
転んで、地面に落下
↓
引き摺られてボロボロ、泣きながら追跡
↓
アイゼン、ゴミ処理場へ到着
↓
妖精さん、遅れて到着
↓
現場の人に見つかり、咄嗟に人形の真似
↓
アイゼンと一緒にゴミの山へ投棄、押し潰される
↓
助けてくださ〜い、リョウスケ
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(――ああ愛しい妖精さん、我が胸の中で永遠に――編へ続く)
被害状況:自然公園水没・翠屋営業停止・グラーフアイゼン・ミヤ>
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