ここはどこ?
俺は―――
永遠のアセリア
〜幻想世界組曲〜
01:事実は小説よりも奇なるもの
??? ???
森の中
どこだ、ここは…?
眠りから覚めた俺の目に飛び込んできたのは、人工物の気配を一切感じさせない木々の群れだった。
まるでおとぎ話に出てくるような美しい緑の世界。
……えぇと、もしかしたらまだ夢の中なのだろうか。
まだうまく回らない頭でそんなことを考える。
だが、頬をなでる風の気配やどこか近くから感じる水の香りは本物の様に感じる。
なら一体ここはどこなんだ?
いや、それ以前になぜ俺はこんな所で寝ていたんだ?
様々な疑問が頭の中を駆け巡る。
しかし、いまだ覚醒しきらない頭で考えても解には至らない。
とりあえず、どこか人のいるところへ行こう。
「と、ぅあ?」
立ち上がろうとしたが、足に力が入らず再び倒れてしまった。
……これはまずいかもしれない。
というか、今さっきおれの口からもれた声は本当に俺のものか?
なんか、随分と高かったような気がするが…。
それに、ここから動けないというのもまずい。
さっきからだんだん瞼が落ちてきて、今にも寝ちまいそうだ。
「よ、と」
近くに落ちていた棒状の物を杖代わりに、何とか立ち上がる。
今更ではあるが、視点が低い気がするが気にしない。
膝が震え、今にも倒れそうになるが、それに耐えて前に進む。
踏みしめるたびに感じる地面の感触は水っぽくて、ちょっと嫌な感じ。
ここがどこかわからない以上、進む方向は適当でしかない。
だけど、何となくそちらに導かれる様に進んでいく。
なぜかはわからない、だがの方向へ行けばいいような気がする。
重い体を引きずるようにしばらく進み森を抜けると、そこには大きな湖が広がっていた。
いや、正確には湖らしきものと言ったほうがいいだろうか。
あまりにも大きなため向こうの岸が霞んで見えるほどだ。
でも、この湖もすごくきれいだ。
うち近くにも湖はあったが汚れていて、かなり濁っていたのを覚えている。
それに比べてここは何ときれいなことか。
澄んだ水の中に魚が泳いでいるが見える。
しかし、これでさらにわからなくなった。
こんな場所、俺の住んでいた家の近くには絶対になかった。
……まさか誘拐か?
いや、俺なんかさらったって一文の得にもならないだろう。
とりあえず、足がそろそろ限界に近付いていたので近くの木に背を預け腰を下ろす。
いろいろと疑問が多すぎて頭の中がパンクしそうだ。
それに近くに家なんかも見えないし、もしかしたらこれって遭難なんだろうか?
やばいな、身体がほとんど動かないのに。
この辺り、明らかに人が通るような場所じゃなさそうだし。
それに、さっきから眠気が増してきたというか何というか。
こんな所で寝たら、一体何に襲われるかわかったもんじゃない。
と、頭の中で考えながらも瞼はどんどん閉じていく。
もしかしなくてもこれは死亡フラグではないだろうか。
そんなバカなことを考えながら、俺は眠りへと落ちていく。
「お、いたいた」
真っ赤な髪の少女がそれを見つけたのは自国領の北に広がるモジノラ大湿地帯の近くだった。
湖の近くに生えている気に背を預けて眠っている幼い少女。
赤髪の少女もまだかなり幼いが、眠っている少女はそれよりもさらに幼い感じがする。
「おーいリアナ、見つけたよー!」
「シリカ、そんな大きな声で呼ばなくても聞こえてます」
赤髪の少女、シリカに呼ばれ駆けてくる少女、リアナ。
ポニーテールにしている緑の髪が、走るたびにゆらゆらと揺れている。
「ほら、この子」
「そんなの見たらわかります。それよりも服を着せてあげないと」
「でも持ってきたやつだと大きくないかな?」
「そうかもしれませんけど、とりあえずは。詰所まで裸で連れていくわけにもいかないでしょ?」
それもそっかと頷いているシリカを横に、リアナは眠っている少女に服を着せていく。
思ったとおり、かなりぶかぶかになってしまったがそれはしょうがないことだ。
「それにしても、この子真っ白だよね〜」
眠り続けている少女の頬をつつきながらに笑うシリカ。
少女はそれを少し邪魔そうにするが、シリカは気にしない。
「そうね、神剣はブルースピリットの物と形状は似てるけど……」
「でもブルースピリットじゃないでしょ、どう見ても。髪も肌も真っ白だし」
スピリットとは青、赤、緑、黒の四色のどれかをもち、体のどこかにそれを象徴する部分があるものだ。
しかし、彼女たちの前で眠っている少女は見事なまでに白一色。
もしかしたら目の色は四色のどれかかもしれないが、何となく違う気がする。
そして、もう一つ可能性があるとすると、
「でもエトランジェでもないはずよ?そんな兆候あったなんて聞いてないし…」
「んー、しいて言うならホワイトスピリットってとこかな?」
「確かに見た目だけならそうかもしれないけど、そんなの聞いたこともないわ」
「ま、そーなんだけど。とりあえずダラムまで連れて帰ろっか」
「そうしましょう。今の状況でこんな所に長時間いる訳にもいかないし」
すでに天頂近くまで昇っている太陽を見て呟くリアナ。
シリカも、そーだねと頷き返す。
「りょーかい。あ、その子はあたしが背負うよ」
「そう?じゃあ頼むわ。神剣は私が持つから」
「んー、よろしく。よっと……軽いねぇこの子。ほいじゃ、急ぎますか」
「ええ」
* * * * *
同日 夜
見知らぬ部屋
……どうやら俺は生きているらしい。
見慣れない天井を見上げながらほっと息を吐いた。
ここがどこかはわからないが、ベッドで寝ていたということはだれかが助けてくれたということだろう。
まあ何にせよ、まずは生きていたことに一安心。
体を起して部屋の中を見渡す。
それなりに広い部屋だが、俺が今寝ているベッドと机、それに箪笥と鏡台ぐらいしか物は置かれていない。
随分と物が少ない部屋だ。
それに、あまり生活のあとが感じさせられない。
どこかの宿か、それとも客間か何かだろうか?
それにしてもかなり質素な感じがするが、……もしかしてど田舎とかなのか?
窓の外はすでに真っ暗で景色はよく見えない。
とりあえずはここがどこか知りたいんだけど、勝手に部屋から出ていいものなのだろうか?
まあ、部屋の中をうろつくぐらいならかまわないだろう。
一人で結論を出してベッドから降りる。
まだだるさはあるけど自分一人でしっかり立つことができた。
……そして、視点が低いかな?なんて思っていたのは気のせいではなかったようだ。
つうか、めちゃくちゃ低くないか!?
一体どうなってんだ!?
鏡の前に駆け寄り、かかっていた布をはぎ取る。
そこに映された姿は、
「なんだ、こりゃ!?」
純白の髪、青みがかった灰色の瞳、透き通るような白い肌。
そしてなによりも、
「お、おんなーーーー!!!???」
鏡に映し出されたのは、どう見ても幼い少女の姿だった。
身長はおそらく一二〇センチぐらい、髪はショートカットで少しツリ目がちな少女。
……これ、俺か?
いや、これはきっと夢なんだな?
そうでなきゃドッキリだろ?
というか、なんださっきの舌足らずな声は!
そんな感じに半ば現実逃避気味に呆然としていたら、
【起きられたのですね、主】
「の!?」
どこからともなく声が聞こえてきた。
気だるげな感じのする女性の声。
俺以外部屋にいなかったはずなのに聞こえた声に驚き、先程の奇行を見られたかもということに少し顔を青くする。
……誰もいない、よな。
部屋の中をもう一度見渡すが人がいる気配はない。
ドアが空いた様子もないし、やっぱり気のせいか。
「はぁ。なんだ、空耳か」
【いいえ、空耳ではありません。こちらです主】
「にょわ!?」
思わず変な声だ出てしまった。
再び聞こえてきた声に少しびくつきながら、声の出所らしき場所に振り替える。
「……?」
やはり誰もいない。
そこには机があり、その上に剣?らしきものが置かれているだけだ。
「………??」
近づいてみるが声の出そうなものは置いていない。
一瞬スピーカーか何かがあるのかとも思ったがどうやら違うようだ。
なら一体どこから?
【…主、あなたの目の前です】
「……机?」
【いいえ、その上です】
机の上に目をやる。
……剣?らしきものしか見当たらない。
【ですから、それであってます】
「…………これ?」
【はい、そうですよ?】
剣?に手をのせ聞いてみるとそう返事が返ってきた。
どうやら声のもとはこの剣?らしい。
もしかしたら、これ自体が何かの通信機みたいになっているのだろうか?
「それで、えーと…」
【主、私のことは【伽藍】とお呼び下さい】
「【伽藍】?」
【はい、主。私は【伽藍】、永遠神剣第五位【伽藍】と申します】
「永遠……神剣?」
何となく、どこかで聞いたことがあるような気がする。
そう、あれは確か何かのゲームで……、
「『永遠のアセリア』?」
そう、確かそんな題名だったと思う。
いや、だからと言ってもあれはあくまでも仮想世界の話だ。
それに出てくるようなものが今、現実として目の前にある。
なんて悪い冗談だ。
やはり俺は夢を見ているのだろうか?
【主、おそらくいろいろと聞きたいこともあると思います。ですが、先に私の話を聞いて頂きたい】
「……まあ、いいけど」
【それに、私の話を聞いて頂ければ、ある程度の疑問は解決できると思います】
そう前置きをして【伽藍】から聞かされた内容は、これもまた非現実的でお伽話なものだった。
まずこの世界、どうやら永遠のアセリアの世界で間違いないようだ。
ゲーム自体はやったことなかったが、サイトや二次創作などは結構見て、ある程度は知っていたものとあっている。
そして、なぜこの世界に俺がいるのか。
【伽藍】が言うには、彼女(ということにしておこう)の担い手となるはずだったスピリットに関係しているらしい。
本来スピリットとは神剣とともに生まれその生涯を共にするものである。
しかし、この【伽藍】の担い手となるはずのスピリットは生まれた時から心が空っぽで、まさに人形のような状態だったそうだ。
この世界についても軽く説明を受けていたので、そんなことありえるのかと聞いてみたら、
【私が【伽藍】である以上仕方のないことなんです】
としか答えてくれず、詳しいことは教えてくれなかった。
もちろん五位神剣ともなればスピリットの体を己で操ることもできる。
だが、【伽藍】の特性上その方法では十分に力を発揮することができないらしい。
そこで【伽藍】がとった方法が異世界からの担い手の召喚である。
だがいくら五位と言っても新たに門を開き干渉・召喚という手順を踏むほどの力はないそうだ。
だから一度開いたことがある門をこじ開け、その先で適当なもの見つけを空っぽの器に宿すというものだったらしい。
そして、ここでさらにもう一つ、衝撃の事実を突きつけられた。
【私が呼ぶことができたのは門の近くを彷徨っていた思念体。すでに戻るべき場所を失った御霊なのです】
「つまり俺は……」
死んだってことか………?
あまりにも唐突で、まるで金槌ででも殴られたような衝撃が走った。
俺が、死んだ?
冗談だろう?だって、俺は今まさにここにいるじゃないか。
だが、俺自身の冷静な部分がどこかでそれを肯定しているような気がした。
俺が死んだという記憶は、俺の中にはない。
だが、【伽藍】がいうここに呼ばれる直前というものも思い出す事がなぜか出来ない。
だからこそ、もしかしたらといういやな感覚がわいてくる。
俺は死んだ、でも今もなお生きている。
なんておかしな、矛盾した状況なんだろう。
そして、その後【伽藍】から他にも何か聞いたような気がするが、ほとんど頭に入ってこなかった。
ただ、俺が呼ばれたのは単なる偶然であると言われたところだけはいやに耳に残った。
詳しくは覚えていない、でも『永遠のアセリア』という作品の主題ともいえるものには戦争などもあったはず。
その中に、俺は“偶然”という理由だけで送り込まれるかもしれない。
そう思うと体が震えてしまいそうだ。
剣と剣がぶつかり合い、魔法が飛び交う戦場。
生きて戻ることができるかはわからない、そんな場所にいつか自分も行かなくてはならないなんて。
だが、そんな思いとは裏腹に、どこか心の底でゲームの世界なんだからどうにかなるという楽観的な思考があった。
【これで私の話は全てです】
「……うん」
返事にも力が入らない。
【…主、私は人ではありません。ですから死ぬというものがどのようなものか理解することはないでしょう】
その突然の言葉に、沈みかけていた意識が少しだけ浮上する。
【ですが主、私はあなたに感謝したい。あなたを呼んだのは偶然であり、あなたからすれば迷惑なだけかもしれません。
それでも私は共にあることができる存在がいることを心から嬉しく思っています】
思わず一瞬呆けてしまった。
そして、それが自分を気遣っての言葉だと理解した。
―――こいつ、剣のくせに俺を慰めようとしてるのか?
そう思うと、少し心が軽くなった気がする。
どことも知れないまるでゲームのような世界に、ただ一人放り出されてしまった俺。
たしかに【伽藍】がその原因を作ってしまったのかもしれない。
だが、伽藍】が言うには俺はすでに死んでしまった存在、ならばもう一度生を与えてくれた彼女に感謝すべきではないだろうか。
それに俺は一人ではない、【伽藍】が隣にいてくれるのだからきっと大丈夫だ。
もしかしたら、俺がそんな風に考えているのは恐怖や混乱を紛らわすためだけかもしれない。
でも今はそれでいい。
この世界で生きていかなくてはならないのなら、その思いがいつか本物に変わるはずだ。
【それでは主、最後に私と契約を】
「あれ?もう結んでるんじゃないのか?」
【それはあくまでもあなたの元となったスピリットとです】
つまり今は仮契約状態みたいなものなのか。
しかし、元ってお前……。
なんかその言い方だと俺が体を乗っ取ってるみたいで微妙だな。
【私は【伽藍】、永遠神剣第五位【伽藍】。我が内を満たすことを願うもの。あなたは我が柄を取るに相応しき者ですか?】
「俺はリク、スピリットでありエトランジェであるもの。俺の前にどんな道があるのかはわからない。だけど、お前と共にあり続け、素晴らしい物語でお前を満たし続けよう」
祝詞のように言葉を紡ぐ【伽藍】に、俺も精一杯の言葉をもって返す。
そして、次の瞬間契約が完了した。
言葉では表現しにくいが、俺と【伽藍】がつながったことが理解できた。
「その、なんだ。これからよろしくな」
【はい、主。よろしくお願いします】
そして二人で笑いあった。
俺とこいつしかいない部屋の中。
見ているのは窓の外に見える月と星たちだけ。
この先なんてわからない、今でさえ完全には理解しきれていないのだから。
それでも、ここから始まったのだ。
神聖とはまるでいえないが、それでも確かにお互いを結んだこの契約が。
ここから俺の物語が始まった。
あとがき
一体誰が現実来訪系だと予想できただろう?(もしかして予想通り!という人います?)
どうも、レインです。
彼、または彼女の始まりの話。
どんな話にするかは結構速く決まるのに、文章に起こすというのは難しいです。
とりあえず、第一の目標は前話の位置まで進むことですね。
おそらく十話とちょっとであそこまでいけるんじゃないかな、と思っているけどどうなる事やら。
次回はもうちょっと早くできるように努力します。
それではここまで読んでくださった皆さんと、掲載の場を貸してくださったリョウさんに最大の感謝を。