たぶん俺は・・・・・・何もわかっていなかったんだ
「Last
Phantasm」
予告編
なんでもない日本ならどこでも見かけるような日常。
「よう零。朝からなにいかした刺青顔にしてるんだ」
俺の友人である雄二が俺の顔を見るなり笑いながら俺に問いかけてきた。
「よう雄二、朝から爽やかに通学路で絶叫してたんだってな、なんでも長身の女にアイアンクローされてたとか、頭大丈夫か?いや、お前の場合元からイかれてたか?」
「ははは!お前だっていつもすごいことに巻き込まれてるじゃないか。つくづくうらやましい生き方しているよおまえは!」
くくく、そうか、そうか・・・。
「ふふふ、ふははは」
「くくく、かかかか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「死にさらせ!」
「くたばれ!」
その直後教室にバッシィ!という音が響き渡り、クロスカウンターをしたまま床に倒れている二人の男子学生が目撃された。
俺の日常はどこかあわただしくなぜかよく不幸としか言いようのないことが降りかかってくる。それでマジで危ないときがかなりあった。
「ええと、よかったね顔の怪我ひどくなくて」
「ああそうだな、だが、この傷はお前がつけたやつだぞ、自転車に踏みつけられてな」
「あはは、ごめんね。死神さん」
「初対面の人に対してそれはどうかと思うぞ」
「まーーーーりゃん流星キーーーーーーーーーーーーックエクセレント!」
「え?なに?って、どわーーーーーーーーーーーー!!」
どんがらがっしゃーーん!
「ぬわははは!後ろを取られるとは!迂闊なりだぞレイりゃん!」
それが人に蹴り入れて階段から突き落とした奴の台詞か、おい?
「ふっ、甘い、甘いぞレイりゃん。このあちしには常識なんかに縛られる存在ではないのだぞ!」
なぜ、この人はこうも自分勝手なんだろう?てかあんた読心術なんてできたのか?・・・まあいい、とりあえず一言。
「救急車呼んで・・・・・・」
グフッ。
それでもそんな日常は何処か楽しくて。
「なんかお前いつも俺が来るときいつも怒ってるよな」
「当たり前です!貴方はどうしていつもいつも生傷つけてここにくるんですか!」
「しゃあないだろう。なぜか知らんがいつも巻き込まれるんだから」
「そんなはずありません!貴方がもっとしっかりしていればかならず防げてたものがあったはずです!いいですか、零さん・・・・・・・・・」
また始まったよ・・・。こいつの説教は長いんだよな。なんで定期検診するたんびにこう怒られなきゃいけないんだ?
「はあ・・・」
かったるい。
そしてどこかつまらなかった。
そんなあたりまえの日常が掛け替えのないものだと思いだしたのは。
そんな日常が壊れたときだった。
きっかけはあの二つ。
「なんだこれ?」
道の真ん中に落ちている光る何かを拾う。
サイズは指と指に挟むぐらいできらきらと独特の光沢を放っている。一見石にも見えるが、その輝きは威厳を感じられ、普通の石とはまったく思えなかった。
「これは・・・石・・・いや、宝石か?」
小さな宝石のような石と。
「なんだよ・・・こいつ・・・・・・」
先ほどの高揚感はどこへやら今の俺は体中を震わせてただ突っ立て居るだけしかできない。原因は突然俺の前に現れた少年だ。少年というからには俺より年下ぐらいにしか見えず、14,5歳くらいにしか見えない。しかし、その少年はあらゆる意味で異常だった。まず最初に来ている服がボロボロであちこちツギハギだらけ。服それ自体でもまったく見たことがない。極地使用のような厚手の手袋、丈長の靴耳を覆うものがついた帽子等日本ではあきらかに見かけないものばかりだ。
そして何より一番異常なのが目だ。
そいつの瞳はどこまでもうつろで――――
あらゆるものを消し去らんとするようなほど殺気たっていた。
赤き蒼炎。
そしてそのその二つから始まった二つの事件
「おい、イタチ!」
俺は山の中を走りながら両手で覆うように掴んでいるイタチにしゃべりかける。
「イ、・・・イタチ、じゃ、・・・ありません!僕は・・・」
「今はそんなことはどうでもいい!それより追ってきているあれはなんだ!?」
ちらりと後ろを見る。そこにはあいかわらず追ってきているあれがいた。
「あ、あれは思念た・・・うう・・・」
「おい、大丈夫か?」
「へ、平気ですこれくらい」
とは言ってもこいつの全身は傷だらけ。傍目からでも傷で少しばかしやばいということは察することができる。
「それより、あれは、思念体。ジュエルシードによって発生して害意ある生命体です」
ジュエルシード事件。
そして。
「どうして・・・どうして先生がこんなことを!」
「そうだよ!おじいちゃん!なんでおじいちゃんがこんなことしるの!?」
高町妹その一とその二が俺を襲いやがったイカレ爺をみて驚愕の声をあげる。高町兄は何も一言も発していないが、その顔は明らかに動揺していることを示している。
「君たちか・・・。全ては正すためだ。大儀のためだ。そのためには多少の犠牲も仕方がない・・・悪いが君たちにも消えてもらう」
何を正すかは知らないが襲われるほうにとってはたまったもんじゃねえ。ついでに言うと爺が再び殺気立って得物を構えなおす。
「・・・」
それを見た高町兄は両腰に差してある小太刀に手を伸ばす。
「おい、待てよ」
それを見た俺はそれを声で止める。
「零、君は下がってるんだ。この人の相手は・・・」
「俺だ」
このイカレ爺の相手は俺がしなきゃいけない。・・・・・・いや、おそらく俺じゃなきゃ無理だ。他のやつらには見えてないようだが俺には見える。爺にまとわりついている“黒い何か”が。
(あいつらから聞いたとおりなら・・・)
人の心を惑わし、心の奥底に沈んでいた欲望を引き出し膨張させ狂気を植えつける存在。あれが・・・。
AIDA。
壊れた世界の先にあったのは。
魔法という非現実がある別世界。
されどその世界は。
「ふふふ・・・」
「何がおかしい!?」
いきなり少女が笑い出した。
「ふふふ・・・だって可笑しいんですもの」
「・・・なんだと」
「ふふふ・・・哀れですね・・・だってあなたには」
そう言った瞬間。
少女は俺の前から消えた。
「!?」
「あまりにも力が無いんだもの」
「っっ!!!???」
後ろを振り向くと少女が笑みを浮かべたままそこに立っていた。
俺のような弱者にはあまりにも厳しく。
「ぐわあぁぁぁぁっ!!」
強力な魔法の一撃は俺のシールドいともたやすく破壊し俺に直撃し吹き飛ばされた。
同じ人間なのにこうも違うのか・・・。
「まさかこの程度の実力で私を倒そうと思ってたの?」
俺に攻撃した強大な力を持つ魔女は俺を見下した目で見る。
「興醒めね。」
魔女は手を突き出す。その姿はまるで罪人を裁く裁判官のよう・・・。
「もう良いわ。死になさい」
無慈悲で、残酷だった。
そんな厳しさの中で手に入れてしまった禁断の力。
世界を光が満たしその光が世界を喰らい改変し創造をする。その光が消えたとき世界は一瞬にして変化し、果てがなき無限にして夢幻。あらゆるものを内包しあらゆるものがない矛盾した世界があった。
そしてそこに絶対者が降臨した。
「っ!なっ!」
花びらを撒き散らし見るものすべてを魅惑させるような紫の光を身にまとい現れた絶対者。
「なんで、どうして・・・・・・あれももしかして・・・」
「そうだ、あれも俺のメイガスとおなじ存在碑文より生まれし神だ」
「じゃあ、・・・」
「そうだあれが・・・」
憑神。
されどその力を手に入れても。
「やめろ」
黒き死神は碧の神に死の鎌を突き刺してもその猛攻を止めようとしない。左手を構えその手のひらから光速の雷弾を放つ。
「やめろよ・・・」
さらに追撃をかけるようにその狂爪をふるい碧の神を切り裂き吹き飛ばす。
「いやだ・・・」
黒き死神は左腕を鞭のように振るったかとおもうとその腕が伸び碧の神の頭を鷲掴みにする。
そしてうでを引き戻し残った右腕の狂爪を振るい切り裂く。
「いやだ・・・いやだ・・・」
左手で碧の神の頭を鷲掴みにしたまま右手のこぶしを振るう。なんどもなんども振るう。
「やめろ!やめろ!やめろっていってんだろ!!」
だが黒き死神はとまらない。右腕を振るい続ける。そうそれはまるで・・・。
「聞こえないのか!」
俺に見せ付けているかのように・・・。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!」
心弱き弱者が部分不相応な力を振るったらどうなるかを・・・・・・。
弱者は弱者のままだった。
現実には戻れず。
されど、非現実を突き進むこともできず。
宙ぶらりんの状態の自分。
逃げたいさ。
何もかもから目をそむけ、すべてを忘れてしまいたい。
あの時のように・・・・・・。
「ほれ」
俺は右手に持っているアイスを目の前の少女に突き出す。
「え?あの、これって?」
「俺のおごりだ。ほらさっさと受け取れ」
「・・・はい」
少女はおずおずと俺の右手に持っているアイスを受け取る。
「そしてさっさと食え。溶けちまうぞ」
「・・・すいません」
少女は小さい口でゆっくりと食べ始める。
「うまいか?」
「はい・・・おいしいです」
「・・・・・・そっか」
俺は左手に持っているアイスをがつがつと食べ始める。
・・・・・・たまにはこんな日も悪くない。
だけど・・・。
「なあ」
俺は今自分が押している車椅子に座っている少女に話しかける。
「ん?どないしたの?」
少女は俺の顔を不思議そうに見る。
「ほんとに良いのか?」
「なにが?」
「ほんとにお前んちにお世話になって良いのか?」
「だからあの時にも言ったやん・・・良いって」
「だけどな・・・」
「もしかして・・・迷惑やった?」
「いや、迷惑じゃない。むしろ助かる」
だからそんな不安そうな目で見ないでくれ。
「ならいいやん」
「でもなあ」
俺はこいつと初対面だ。そんなやつを自分の家に住んで良いなんて・・・。
「だいじょうぶや・・・だってわたし・・・零さんのこと信じてるから」
いや、信じられても困るんだが・・・・・・。
だけど・・・。
「私のマイスターははやてちゃんです。本来ならあなたに手を貸すつもりはまったくありませんが・・・」
小さき妖精はそこで言葉を切る。
「あなたはマイスターの大切な人。そして・・・」
小さき妖精は自分の胸をさする。まるで何かに問いかけているように。
「私の中にいる“あの人”が言っています。あなたを助けてくださいって・・・だから私はあなたを助けます」
小さき妖精は俺の目をまっすぐ見てそういった。
今逃げたら俺は一生後悔する。
「来い・・・・・・」
だから・・・。
「来い!」
だから逃げない・・・。
「来い!!」
俺は・・・。
「俺は此処だ・・・」
ここに!
「ここに居る!」
ここにいる!!
「スケィィィィィィィィィス!!!!!」