Ground over 第二章 -ブルー・ローンリネス- その1 馬車の中で
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「ふーむ、馬車というのは実際に乗ってみると、なかなか揺れるものだな。
まあ、これが馬車の醍醐味かもしれんが」
「でも、景色が流れていくようですごく面白いですよぉ〜。見ていてあきませんですぅ」
興味津々、好奇心旺盛で馬車の中やら外を見て騒ぐ葵とキキョウ。
その姿は子供と何ら変わりない。
「まったく呑気だよな、お前らって」
ゴトゴトと車輪が音をたてて、馬車は北西へと進路をとり進んでいる。
俺達が今乗っている馬車は、白い幌に包まれた簡素な外見に、中は大体十人ほど乗れるスペースがある。
普段バイクや電車等しか乗った事がない俺には、この馬車の揺れは腰にきつい。
「そういう貴様は、先程からごちゃごちゃと何をしている?」
場所に同席しているカスミが、こちらをじろっと見ている。
俺は動かしていた手を止めて、カスミに向き直る。
「バイクの調節だよ。普段からきちんと整備してやらないと、俺の相棒は機嫌が悪くなるんでね」
馴染みのバイクをぽんぽん叩き、俺は言った。
「怪しげな物を馬車に持ち込むなといったはずだ」
「仕方がないだろう。走らせていたら、すぐにガソリンが無くなるんだから」
俺達は今、アール高原の案内所を出て『ルーチャア村』へ向かっている。
目的は、カスミが受けているという盗賊団退治を手伝う為だ。
案内所から『ルーチャア村』までそれ程の距離はないようだが、
今後の旅路の事も考えて馬車に積んでもらったのだ。
重量的にかなりの物だったので、村からの迎えの人にも結構いやな顔をされた。
「がそ・・・りん?」
「ああ、えーとだな・・・ 説明をするとひたすらややこしいけど、
ガソリンっていうのは、この『馬』のご飯のような物だ。
飯を食わせないと、馬だって走らないだろう?それと同じだ」
ちなみにバイクの事に関しては、出発する時に親父さんやカスミに散々質問された。
このバイクの良さを俺は説明したかったが、葵が「それはやめておけ」と注意するので、
渋々「走る鉄の馬」と、こちらの世界に分かるように説明している。
「村からの迎えの者に説明をするのが大変だった。
今後、そういう怪しげな物を持ち運ぶのはやめてもらおうか」
ブルー色の瞳に強き光を発して、カスミは俺を睨む。
「何でお前にそこまで言われないといけないんだ?別にいいだろうが」
「そういう訳にはいくか。お前達の事に関しては、今回は私が責任を持っているのだぞ。
勝手な真似は止めてもらう」
いろいろと言い返してやりたいが、こいつの言う事は悔しいが正論だ。
所詮、違う世界の住民である俺達に選択の余地はない。
「分かったよ。だけど、バイクくらい持ち込んでもいいだろう?
こいつがあれば、移動手段に関しては馬と同格か、それ以上のスピードが出せるんだぞ」
「本当ですよぉ、カスミ様。京介様のお馬さんはすごく速いんですぅ!」
俺に援護をするように、キキョウはにこにこ笑顔でカスミに話しかける。
カスミもその笑顔に毒気を抜かれたのか、
「まあいい。村への到着まで、まだ時間はある。その間に、我々の今後の事について話しておこう。
そっちの男もこっちへ来い」
「うん?おう、分かった。
いよいよ盗賊団についての話をしてくれるんだな」
待ってましたと言わんばかりの期待に満ちた葵に、カスミは呆れたように嘆息する。
今度ばかりはカスミの気持ちは分かるので、俺はあえて何も言わなかった。
「私が受けた仕事は、ここ近辺を荒らしまわっている盗賊団の退治だ」
「盗賊団か。こっちじゃそういうミクロな奴等がいるんだな。
盗賊っていっても、実際にどういう被害を出しているんだ?」
葵はどうかは分からないが、俺には盗賊と聞いて想像するのは、
むさ苦しい男達が剣や槍とかを持って無意味に暴れまわり、家に押し入り金を奪い取るという
もうちょっとエネルギーを真面目に使えよ、とつっこみたくなる頭の足りない連中の事だ。
「連中の数は確認されただけで、約30〜50。
それぞれに馬を持っており、夕刻から深夜にかけて派手にここら一帯の村を荒らしまわっている。
死傷者も何人も出しており、女子供にまで容赦がない卑劣な連中だ」
「ひどいですぅ〜、どうしてそんな事をするんですかぁ〜」
カスミの話を聞いて、キキョウは小さな瞳を潤ませる。
「ふーむ、まさに盗賊らしい暴力行動を行っているようだな、その連中は。
だが、そこまで被害が出ているのであれば、警察は動かないのか?」
「ケイ・・・サツ?」
「ああ、えーと、いわゆる犯罪を取り締まる組織の事だ。
俺達の世界、というか俺達が住んでいた国にはそういう組織があったんだよ」
葵の言葉を補足して俺が説明すると、カスミは納得したように頷いた。
「そういう組織は、無論こちらの国にも存在する。
民を守るのは国の義務だからな。それぞれの国に軍隊や役人の立法の組織が存在する。
当然、村や町にも役人が派遣されている」
「そいつらはどうなんだ?盗賊が暴れているのだから、捕まえようと躍起になるだろう。
死傷者も出ているんだろう?」
「勿論だ。だが、これまでの襲撃において彼らは動いてはいない」
「?どうしてだよ!?」
「・・・・手に負えないからだ。元々、役人は軍隊じゃない。
村の守備だけで精一杯の連中だ。
盗賊とはいえ、武装している騎馬相手に勝とうなどとは無理な相談だ。
国に対して軍隊派遣も要請しているようだが、いつになるか分かったものではない。
そこで被害が出た村内で相談が行われ、我々冒険者や傭兵の出番となった訳だ」
なるほど、そういった組織の重い腰はどこでも変わらない訳か。
役人の派遣ならともかく、軍隊の出動となると規模は大きくなる。
となると、事実関係や被害がよほどないと出動はままならないという事か・・・
「なるほど、役人達でさえ手におえない悪党どもを相手に我々は戦う訳だな。
斑の平和の為にも、友よ、我々も全力で戦おうではないか!」
昔からそういう子供みたいな正義感は人一倍あるからな、こいつは。
逆に現実主義の俺としては、そんな楽観は出来ない。
「役人に手を負えないといったよな。そんな連中相手に戦えるのか?」
「心配は無用だ。今回の仕事には、盗賊団一人一人の首に高額の賞金がかかっている。
現在、雇われた傭兵や冒険者はおよそ20〜30人。
その中には、実力で知られた冒険者や傭兵もいる」
相手が約50として、俺達のような雇われた冒険者達はその半数。
それにも関わらず自信たっぷりにしているのは、それだけ雇われた人間の質が高いからだろう。
「我々の仕事は襲撃が予想される『ルーチャア』村の護衛と襲撃者達の退治だ。
現在、すでに全ての者が村に終結している。
恐らく我々が最後だろうな。
まったく、店主の連絡が遅れた所為でとんだ道草を食ってしまった」
カスミはいらただしげに、整った眉をひそめている。
どうやら芯から生真面目な性格のようだ。
「案内所へいった時にもめていた理由はそれか」
「ああ、村からの迎えが来る手はずだったのに、肝心の店主がその連絡ミスをしていた。
お陰で、指揮を執る立場である私が一番後れをとった」
「ふーん・・・・って、指揮ってお前が!?」
「何をそんなに驚いた顔をしている?私が作戦の指揮をとるのが不満か?」
「いや、そういう訳じゃないけどよ・・・・」
凶悪な盗賊団を相手にしようという傭兵や冒険者達を指揮する立場という事は、
どれほどの指揮力と判断力、そして器が問われるか、違う世界に住んでいる俺でも理解できる。
俺と同年代なのにこうも違うとは・・・・・
確かに初対面でも凛々しいともいえる美貌、そして瞳に宿った強き光に惹かれるものはあったが・・・
「何だ?人の顔をじっと見て。不愉快だ。すぐにやめてくれ」
「はいはい・・・・」
悪態をついて、俺はカスミから視線を逸らした。
科学者を目指して日夜実験に頑張っていた俺、それはあくまでも日常が平和だから出来た事だ。
だが目の前にいるこの女は、俺が平和に暮らしている時に、すでにこうした仕事をしていた事になる。
でなければ、盗賊団退治のメンバーのトップには選ばれないだろう。
それが何故か、俺の心に小さくしこりとなって残った。
悔しいのか、それとも・・・・・
「とりあえず、以上だ。何か質問はあるか?」
「仕事の事実関係は把握した。だが、実際に我らは何をすればいいんだ?」
「私、何でもしますぅ!いっぱいいっぱい頑張りますよぉ!」
葵の質問に、キキョウは小さく握り拳をつくって力んでいる。
カスミは、そんなキキョウを少し珍しそうに見て、
「お前達に盗賊達との戦闘は不可能だろう。
とりあえず、待機しているメンバーには異国からの協力者という事にする。
お前達は夕刻から深夜にかけての村の見回りと、村の入り口に設置している見張り台からの見張り。
後、前線に立つメンバーの後方支援を担当してもらおう」
「ふむふむ・・・よく分からないが、なかなか重要そうな任務だな。
俺達の活躍をしっかりと見せてやろう!」
「私も頑張りますよぉ、カスミ様!京介様達のお手伝いをするんですぅ〜♪」
葵とキキョウは、早くに一致団結してやる気を見せている。
ひょっとしてこいつら、いいコンビなんじゃないか?
俺はやれやれとため息を吐いて、カスミにぼそっと言う。
「それって結局、雑用をしておけって事じゃないか?」
「それ以外に何がある?」
くそう、平然と言いやがった・・・・
ちょっと見直したけど、やっぱりこいつは俺とはあわん。
「はあ、やれやれ・・・・・」
馬車内から外を見ると、変わり行く景色に沿うように、空もやや赤味がさしてきている。
そろそろ昼から夕方へと変わりつつあるようだ。
馬車はそんな中を目的地『ルーチャア村』へ、俺達をのせて進んでいく・・・・・・
<第二章 ブルー・ローンリネス その2に続く>
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