Ground over 第四章 インペリアル・ラース その16 水中
暴れる船。
始終襲い掛かってくるのではなく、緩急つけて船を襲撃し続ける。
気まぐれかもしれないが、もしかすると俺が一匹倒したので警戒しているのかもしれない。
転覆しないのは操舵が優秀なのか、この船そのものが頑強なのか――
いずれにせよ放っておける事態ではなく、俺達は策を論ずる。
「遠まわしに聞くのは時間の無駄だ。はっきり聞かせてくれ。
キラーフィッシュはあんたの術で倒せるか?」
揺れる医務室の中、俺達は真剣な顔で話し合う。
――先程の強引な婚姻については思いっきり棚上げしておく。
術について、俺達は詳しくない。
専門的に聞いてもみたいだが、今は時間もない。
フェイトは得意げな顔をする。
「当然だ!」
おお、一言で言い切ったぞ。
葵のようにハッタリでなければいいのだが、この自信はちょっと期待出来るかもしれない。
胸の奥で興奮を覚えながら、俺は身を乗り出した。
「本当か!? 本当にあの魚を倒せるのか!」
「当たり前だ。
あの程度の雑魚モンスター、一撃で炭にしてくれる!」
一撃とまで言うか!?
竜族というのは言うだけあって高位の種族なのかもしれない。
少しだけ俺は見直して・・・・・・・俺は違和感を覚えた。
「――――炭?」
「うむ、"竜の息吹"で骨まで焼き尽くしてくれる」
「・・・・・・ちなみに、"竜の息吹"ってどういう術なんだ?」
「ち、これだから無知蒙昧な人間は!
火炎系の中でも高度な構成とエナジーを必要とされる術だ。
その強力なエナジーは敵に熱さすら感じさせぬのだ、がはははははは!」
瞬間的に炭化させる炎の吐息。
俺が聞きたいのは、そんなありきたりな説明ではない。
一応、指摘しておいてやる。
「相手――思いっきり水の中にいるんだが、効果はあるんだろうな?」
「・・・・・・」
――おい、何故そこで言葉に詰まる。
エナジーを操作し、物理的作用を持った構成を練って放つ"術"なら可能と言ってくれ。
俺はそう解釈していたから、期待していたんだぞ。
フェイトは困ったように首を二・三度小刻みに振って、ぐっと表情を引き締める。
「安心しろ、人間!」
「ほう?」
続きを言え、とばかりに俺は腕を組んで続きを促す。
フェイトは何やら必死の形相で述べた。
「奴が水面から出てきたところを一撃で――」
「俺がさっきやった事だろう、それは!」
――やっぱりこういう展開か。
どうやら運命の女神様は易々と俺達に解決への道を教えてくれないようだ。
フェイトは不満げな顔をする。
「俺様が倒してやると言ってるんだ。
お前達はただ、奴をもう一度誘き寄せればそれでいい」
「警戒されてるから困ってるんだろうが。
それに、敵を一瞬で炭化させる熱量を瞬間的とはいえ放つんだろう。
近距離で術を開放させて、船は大丈夫なんだろうな?」
「・・・・・・」
だから、何故黙る!
理不尽な状況下で、大暴れしたい衝動を必死で押さえる。
落ち着け、俺。
冷静に、対策を練るんだ。
「他に何か術はないのか? 水中でダメージを与えられるものとか」
「うーむ・・・・・・
水中でも効果を発揮する術は使えん事もないが、相性が悪いのだ。
やはり敵を倒すには、何もかも容赦なく吹き飛ばすのが一番ではないか!」
テロリストの発想だ、それは!
テロの概念はあっても、言葉として意味が通じない可能性があるのであえて言わないが。
「うむ、もっともな意見だ。
爆破にこそ、男のリピドーを堪能出来る」
葵――お前、適当に言ってるだろ。
一応同郷の葵だが、こいつ専用の翻訳機を用意してほしい。
「ほう、人間でも美学というものを少しは理解出来るようだな」
「ふ・・・こう見えて我輩、少々爆破にはうるさい性質でな」
見たまんまだよ、お前ら。
容赦なく意気投合している変人たち。
馬鹿と鋏は使いようだが、やはり魚の餌でしか使えない気がする。
何やら話し合っている二人は無視して、俺はキキョウに向き直った。
「意外に不便なんだな、術って。もう少し何とかなると思ってたんだけど」
「扱う術者によって変わってくるんですよぉ。
属性や適正、エナジーの変換や構成の一つ一つでも要素はかなり食い違ってきますぅ」
「結局はレベル次第って事か・・・・・・」
昔からの童話や映画でも最強種として描かれる竜。
フェイトの言い分を全て信じるなら、人間を圧倒的に凌駕する実力を有している種族なのだろう。
問題は戦況だ。
フェイトの実力はよく知らないが、言い分から察するに見た目が派手な爆破系の術が得意のようだ。
その威力はキラーフィッシュを余裕で吹き飛ばせるらしい。
――ん?
「フェイト。
あんた、さっき船から逃げるって言ってたけど・・・・・・どうやって?」
一度逃げ出そうとしていたこいつを、俺が引きとめた。
その手段を聞いていなかった事に気付く。
葵と話が盛り上がっていたフェイトは、何でもないように言い放つ。
「決まっておろう。空を飛んで逃げるのだ」
「飛ぶ!? おいおい、空を飛べる術もあるのか?」
「疾風系の高位術ですよぉー。風を操って空を飛ぶんですぅ。
でもあの術は操作がとても難しくて、長時間飛べないという欠点がありましてぇー」
「・・・・・・だから、こんな薄汚い船に乗る羽目になったんだ」
キキョウの説明に、忌々しげにフェイトが舌打ちする。
なるほど、大空を自由に飛べるなら船にわざわざ乗る必要はないもんな。
樽の中にまで入って密航するしかなかったフェイトに、ほんの少し同情した。
ふむ・・・・・・疾風系――風の術か。
「乗客を一人一人担いで向こう岸まで飛んでいくというのはどうだろう?」
「他人事だと思って、調子に乗っているな貴様!
どれだけ疲弊すると思っている!?
第一、こんなオンボロ船がそう長くもつわけがなかろう」
正論だが、この男に言われると腹が立つ。
一番最初に逃げようとしていた奴にいわれたくはない。
だが事実、ここから向こう岸まで飛んではいけるようだ。
最悪、何人かは逃がせる――が、全員とまではいかない。
やはりキラーフィッシュを何とかしないと駄目だ。
「他に使える術は?」
「超絶なる俺様の実力を持ってすれば、全ての術を扱えることすら可能だ。
――があえて言うなら、火炎系と疾風系は得意中の得意だと言っておこう」
・・・ようするに、それ以外はまったく使い物にならないんだな。
この男の実力はわかった。
倒せない事はないんだ、ちゃんと考えてみよう。
もう一度海面に誘い出すだけでは不十分。
この馬鹿が本気を出してしまえば、船まで吹き飛んでしまう。
術のさじ加減を要求するのは無駄なのは、同じ人種の葵との付き合いで分かる。
絶対に本気出す。
華麗に敵を吹き飛ばそうとする。
この手の馬鹿は熱くなると、絶対に周りが見えなくなる。
念を押して注意しても徒労に終わるだろう。
そうなると――充分に敵から距離を離して、その上で水面に顔を出させる必要がある。
そんな都合のいい状況にどうやって持っていけというのだろう?
頭が痛くなる。
何とか、何とかしないといけないのだが――
・・・・・・。
使用可能な術、風と火。
その辺をうまく・・・・・・あ。
「――キキョウ、フェイト。こういう術の使い方は出来るか?」
藁にもすがる思いで、俺は生まれた発想を口にする。
<その17に続く>
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