Ground over 第二章 -ブルー・ローンリネス- その15 映像




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 人と人がそれぞれに対峙し合う状況にて、静かな呼吸音のみが全体を支配している。

濃密に絡み合った殺意の束が乱れ、向き合う者達の表情を虚脱させていた。

敵味方それぞれが呆然としている中、俺は堂々とした口ぶりで言った。


「良くぞ来たな、深夜の暴れ者達。今日この日がお前たちの命日となるのだ」


 村の入り口や盗賊達の持つかがり火とは段違いの光量に包まれて、俺は偉そうに宣言する。

無論意識しての事である。

普段の俺はこんな三流お芝居のような台詞は口にはしない。


「フフフ・・・どうした盗賊達諸君。愉快なほどに馬鹿面をしているではないか。
只でさえ不細工な面が面白さ100%だぞ」


 馬鹿にした言い方で俺は言って、鼻で笑った。

その言葉でようやくファンファーレの衝撃から立ち直ったのか、盗賊達面々より険悪な雰囲気がにじみ出る。

同時に冒険者達も気がついたのか、俺の顔を見て一様に驚いた表情をしている。

特に剣を片手に部隊の先頭にいたカスミは、美しい容貌に困惑が満ち溢れていた。

当然だろう。出て行った筈の俺がこうして戻って来ているのだから。


「なんだ、てめえは!おかしな格好をしやがって。イカレてやがんのか?」


 バイクのハイビームに照らされて見えるその顔は、盗賊の頭だった。

人様から略奪行為を繰り返しているような奴に、おかしな呼ばわりされる筋合いはない。

俺の今着ている服もちゃんとした意味がある。


「くっくっく・・・・どこまで無知蒙昧な奴等よ。
我のこの姿に何とも思わぬとは」


 ばさりっと「マント」を翻して、俺は嘲笑を浮かべた。

上手く演技できているかどうかは不安だが、確認する術はない。

だが相手の困惑する態度から、俺の台詞の言い回しが効果を得ている筈である。

実際すぐにでも攻撃をすればいい筈なのに、どう手を出したらいいか分からず混乱しているからだ。


「な、何だと・・・ん?てめえどこかで・・・・・
!?そうか、お前あの時の!」

「ふふん、思い出したようだな。
そうだ、前回の襲撃で君達に惨めな敗走させた張本人だ。
ふふ、あのときの貴様のアホ面を思い出したら笑いがこみ上げてくるよ。あっはっはっはっはっは」


 何が悲しくて葵みたいな笑い方をしなければいけないのだろうか?

今の自分に疑問を持たない訳ではないが、これも作戦上の段取りゆえ仕方がない。

俺の馬鹿にした言い方が癇に障ったのか、親玉は顔を真っ赤にして怒鳴った。


「ちょうどいい・・・まずはてめえから血祭りにあげてやる。
村人への見せしめだ。公開処刑してやんぜ」


 今までの成果からだろう。連中は自分達の勝利を確信していた。

事実、部下達から口々に俺を罵倒する声が生まれ出でている。

確かに戦力差は一目瞭然だ。

だが、だからこそ付け入る隙はある。

俺はこっそり胸元のポケットのコントローラーに手を伸ばす。

そして素早くスイッチ1を押して、俺は息を大きく吸って叫んだ。


『フッフッフ・・・我が誰か知らんと見えるな』

「うわっ!?な、何だ!?」


 びっくりするのも無理はない。

俺がさっきまで精一杯出していた大声の、およそ十倍に匹敵する声量が辺り一帯に響き渡ったのだ。

恐らくは村に籠もっている人々の耳にも届いているであろう。

目を白黒させている盗賊達の様子に内心満足しながら、俺はさらに言葉を続ける。


『聞いて驚け。我こそは・・・・・・』


 ごくりと唾を鳴らす音が盗賊サイドのみならず、冒険者サイドからも聞こえてくる。

ふと視線を向けると、並ぶ冒険者達の間よりソラリスの顔が見えた。

ソラリスの俺を見つめる表情は、期待と憧れに輝いていた。

あんな純朴な田舎で育った青少年(俺もそうだが)を騙すには気が引けるが、仕方がない。

俺はびしっと高々に右人差し指を掲げて言い放った。


『アマギ・キョウスケ。人は我を混沌の魔王と呼ぶ!
我のコンティネル・エナジーの凄まじさを思い知るがいい!!』


 台詞を完了させると、俺のバイクに仕掛けた細工で爆裂音が炸裂する。

同時にライトカラーがレッドへと変化し、俺の姿そのものが血のように真っ赤に染まる。

俺の全身を覆うマントも描かれている螺旋模様が刻印のように浮き出て、演出効果を高めた。


「コ、コンティネルエナジー!?能力者!?」

「じょ、冗談じゃねえぜ!村の連中、いつの間にこんな奴を!!」

「そういえばあいつ、あの時強烈な光を放ってなかったっけ・・・?」

「おいおい、嘘だろう・・・・」


 俺の姿と台詞、次々と生まれる現象に盗賊達は驚愕と恐怖に顔色を変える。

う、うーむ、本当に効き目があるとは・・・・

コンティネルエナジーに関しては、俺はほとんど何も知らない。

いや、こればっかりは無知といっても差し支えないだろう。

作戦を立案した時、キキョウにコンティネルエナジーの知名度を聞くと、

「王都や近隣の都市ならともかく、地方では術者は尊敬と恐怖の対象ですぅ〜」

・・・・らしい。

ま、まあだからこそハッタリの意味で衣装や演出を調えたのだが、効果は覿面だったようだ。

本当はこんな目立つ役はやりたくないのだが、葵にやらせると調子に乗って脱線する。


『どうする、諸君。降伏するなら今のうちだ。
目の前にいる冒険者達に降伏を求めれば、命は保証しよう』


 第一通告。ハッタリと演出効果が出ているこの状況で、相手に求める。

これで終わってくれれば即解決するのだが・・・・

盗賊達の様子を見ると、恐怖とプライドに揺れている様が見える。

誇りか、命か。

盗賊に誇りなんぞないのだが、ああいう連中は一人前にプライドが強い。

しばらく無言が続いた後、突然親玉が動揺する部下に活を入れた。


「降伏だぁ!?冗談じゃねえ!!
俺達がお前らごときに這い蹲ると思ってんのか!!」

「で、でもお頭!あの野郎は・・・・」

「馬鹿野郎!!そんなすごい術者なわけがねえ。
もしそうだったら、とっくの昔に俺達をやっちまってる筈だ!!」


 ぐ・・・三流悪党の癖に妙に勘だけはいい奴である。

親玉の言葉に活気付いたのか、盗賊達の間に再び闘争心が沸き立つ。


「うらぁぁ!!あいつらぶち殺せ!!」


 興奮に顔を真っ赤にしながら、親玉が馬を走らせるべく手綱を握った。

どうやら交渉はむなしくも決裂のようだ。

部下達もそれぞれに獲物を手に、馬を走らせんとする。

殺気立った連中にカスミ達も表情を引き締めて迎えんと、体勢を構える。

このままほっておけば戦いは再開、当然のこのこ出てきた俺も殺されるだろう。

やっぱりこの程度じゃ止められないのか、こいつらは。

俺はため息を一つ吐いて、手元のスイッチ2を押した。

途端、音質感の高い音楽が鼓膜を刺激する音量で流れた。

しかもファンファーレのような明るいテーマではない。


『フオォォォォォォォ〜〜〜、レェェェェェェッェ〜〜〜〜〜〜〜〜』


 まるでホラー映画の墓場のシーンに使われるような、恐怖と絶望を聞く者に想像させる曲だった。

実際、既製のBGMを使っているのだが。

不気味な音楽が流れる空間の中、俺は静かな口調で言った。


『我の唯一の情けを、お前達は破棄した。よってお前達は・・・・』


 交渉を決裂させたのはこいつらである。

争いの類は本当は嫌う性分なのだが、止まる様子がない以上仕方がない。

俺はコントローラーに指を向け、こう言い切った。


『死、あるのみ』


 瞑目して、俺はスイッチ3を押した。

すると夜の戦場の各所から濃厚な白き煙が出でて、盗賊達を覆い尽くした。

風向きは作戦実行前に、きちんと計算はしてある。

冒険者達に一切巻かれる事はなく盗賊者達のみは煙に覆われたと同時に、連中の間で激しい咳が飛び出した。


「な、なんだこ・・げほ、げほ!!」

「うう、目が、目がぁぁ〜〜!!」


 ぼろぼろと涙をこぼす者、猛烈に咳き込んで足掻く者。

煙を全身に浴びた者達に対してへの洗礼がこの有様だった。

俺は最後の仕上げをするべく、苦しむ連中に冷たく言った。


『お前達が今浴びたのは呪いの煙。
体内に取り込む事はおろか、皮膚に触れるだけでも全身を蝕まれる。
苦しいか?
お前達の今の苦しみこそ、村人が散々味わった苦しみだ』


 当然、嘘である。

連中が苦しんでいるのは、俺は自己改良した催涙弾のせいだった。

効果をかなり強めているので、一箇所に固まっていたこいつらにはひとたまりもない。

毒はないが、身体的機能を回復させるのには時間を必要とする。

俺は事実を知らない連中に最後の仕上げをするべく、朗々と語った。


「お前達には二つの選択肢がある。
一つは呪いにより死ぬこと。もう一つは・・・・・・・・」


 俺はコントローラーの最後のスイッチを押した・・・・・


「ひいいいいいいいいいいいいいっ!ば、ば、ば、化け物!!」

「な、何だよ、どうした!?」


 煙により目をやられている者は見えないだろう。

目が見えている者はほぼ全員腰を抜かしているし、冒険者達の間は恐怖と驚愕で完全に固まっている。

驚くのも無理はないか・・・・・・

俺がそっと目の前を見上げる。

そこには盗賊者達と冒険者達の間に突如出現した、あの時高原で出会った恐竜『ヨルキメデス』がいた。


『我が召還したこいつに食われるかだ。
くっくっく、どうやらこいつは腹を空かせている様だ。ご馳走をたっぷり食わせてやろう』


 俺の言葉に続くように、『ヨルキメデス』が咆哮を上げた。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!!!!!!」


 あ、葵の奴、音量はもうちょっと加減しろ。

キーンと響く耳元を抑えながら、俺は内心抗議する。


「あ・・あ・・あ・・・・・・・・・・」


 襲撃時にはあれほど息巻いていた親玉が完全に肝を抜かれている。

部下達は部下達で完全に震え上がり、中には失禁をしている者もいた。

毒と恐竜。彼らには二つの選択肢はどちらにせよ苦しみの死が待っている。


「嫌だ・・・嫌だよ・・・・」

「助けてくれ・・・・助けてくれぇぇぇぇ!!!」


 惨めな悲鳴だが、俺はこいつらに同情はしない。

村人や冒険者達の味わった苦しみは、あいつの流した涙はもっともっと重かったのだから。

人殺しを平気でやっておきながら、自分が死ぬとなると泣き言を言う。

人生を舐めているとしか思えない身勝手さだ。

だけど・・・・・・・・


『最後のチャンスだ』


 俺がさっと手を上げると、『ヨルキメデス』はあっさりと姿を消した。


『降伏か死か、選べ』


 俺の言葉に盗賊達は一目散に次々と降伏を申し出て、冒険者達に捕縛されていく。

面白いほど簡単な形勢逆転だった。

よほど死ぬのが怖かったのか、盗賊達はもうすがり付かんばかりに命乞いをしている。

うまくいった、か・・・・・・・


俺は脱力感に任せていると、視界の隅で杖を振りかざす親玉の姿が入った。


「死にたくねえ、死にたくねえええええええええええええ!!!」


 完全に正気を失っているのか、錯乱状態で持っていた杖を掲げる。

すると杖の先から赤き光が生まれ、急速に膨らみ始める。

!?あいつ、あの時のをやるつもりか!?

何も考えず、ただ自分が助かりたいがゆえに・・・・・・・・・

事態に気がついたカスミが走り出すより、ソラリスが向かうより先に、





パシュっ!





「があああああああ〜〜〜!!!」


 あふれる光が消滅し、杖が乾いた音を立てて地面に落ちる。

目元を抑えて悲鳴を上げる親玉を、俺は冷たく見据えてこう言った。


「俺達の世界の『魔法』、いかがだったかな?」


 俺はおどけてそう言い、持っていたモデルガンをクルクルと回した。

やれやれ、ようやく終わったか・・・・・・

駆け寄ってくるソラリスとカスミを見ながら、俺は肩の荷が下りた気分だった。
















<第二章 ブルー・ローンリネス その16に続く>

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