Ground over プロローグ
「・・・・・・であるからして、この地形は・・・・・・」
キリキリキリ、カチカチ、キュキュキュ・・・・・・
ちなみに説明しておくと、台詞は今教壇に立って授業している先生。
効果音がこの俺"天城 京介"、一世一代の発明に取り掛かっている音である。
「音響装置が妙な音域だから不愉快なんだよな。
この個所に俺の新発明の装置をつければ・・・・・・」
朝から俺を不快に覚ます目覚ましも、これで生まれ変わるというものだ。
「友よ。さっきから何をごちゃごちゃやってるんだ?」
「見れば分かるだろう、葵。改良をしてるんだよ」
俺の隣の席に座って話しかけてくるこの男の名は"皆瀬 葵"。
小・中・高、そして今年入学した大学と一緒の男だ。
俺とは趣味も価値観も正反対の男なのだが・・・・・・何故かいつもつるんでいる不思議な関係だ。
「また改良か? 相変わらず熱心な男だ。
授業中なのだがよいのか?」
葵が視線を向けるその先に、今受けている授業の教授が熱弁している。
無論、俺はノートを適当にとって聞き流している。
俺は地学系統の授業に興味はない。
それにこの教授は自己陶酔型で、俺達の様子を気にしてはいない。
だからこそ、こうして俺も授業中に堂々と作業ができるというものなのだが。
それに――
「なんだよ、お前だって全然聞いてないだろう。
机の上にあるその漫画の本は何だよ?」
葵の机の上には、ノートも教科書も揃えていない。
あるのは授業開始から読みふけっている一冊の漫画のみである。
「ふ、この面白さがわからんとは愚かなり、友よ
これこそ現代にはないアクション。
スリル満載の冒険物語なのだ!」
ば、馬鹿! 握り拳を掲げて立つな、お前は!!
「・・・・・・何をやっているのです、そこ?!」
室内の教壇に立っている教授が、こちらを思いっきり睨んでいる。
「あ、いやー、気にしないでください。
馬鹿が一人吼えているだけなので、はっはっは・・・・・・」
先生に、そして周りの受講生に朗らかに笑いつつ、俺は葵の頭をぐりぐりして席に座らせる。
ああ、周りの皆くすくす笑ってるよ。
「何だ、何だ? せっかく我輩が浪漫について語ろうとしたというのに」
「状況を考えて発言しろ。仮にも授業中だぞ」
「ちっちっち、授業など我が魂のトークに比べればゴミも同然。
いい機会だ、今日こそお前に未知の領域を知る事の面白さを教えてやろう!」
「授業がどうとか言ってたのは何だったんだ、お前」
俺とこいつの価値の違いはここにある。
こいつは昔からアニメ・漫画・ゲームが大好きで、特にオカルト類に凝りまくっている。
この大学でも超常現象部なるものを一ヶ月で設立しいた恐るべき男である。
「だいたいだな、現実にない物を信じて何が面白いんだ?
幽霊や超常現象とか、今じゃ科学で説明をつけるのは簡単だぞ」
「まったく、昔からロマンのない男だな。
男とはいつでも夢を追い求めるものだ。
冒険、ロマンス、アクション! 聞いていてワクワクしてくるものはないか、うん?」
「・・・・・・」
俺は葵の肩に手を置き、やれやれとばかりに首を振る。
「む、何やら不快感あふれるリアクションだな、友よ」
「中学も高校も結局一度だってそういう体験がないんだろ?
いい加減あきらめろよ・・・・・・」
「ふ、いずれ我輩はこの世の未知なる謎を解決してやろう。
その時に貴様をあっといわせてやる!」
「・・・・・・そういえばお前、昨日徹夜で部の連中と近所の神社へ行ったそうだな。
心霊写真とやらは撮れたのか?」
「一応現像はまだだ。ふふふ・・・いい写真が撮れているに違いない」
「はいはい・・・まあ頑張れ」
俺は会話を打ち切り、自分の作業に戻る。
おっと、後で小型のモーターを買っておかないと。
俺は手元のミレニアム(たった今名づけた手元の時計)の改良に着手する。
「ところで我が友よ、先程から作業をしているその時計。
貴様の部屋においてある目覚ましではないのか?」
「そう、今日の朝ちょっとした理由で壊れてな・・・・・・
今修理をかねて、改良している所だ。
いろんな機能を搭載した無敵の目覚ましに変身するぜ、こいつは」
カチカチカチッ
針のブレを確認しながら、俺は作業を進める。
「壊れた理由は、お前が寝ぼけて投げて壊したのだろう」
「・・・見ていたのか、お前・・・?」
「何年の付き合いになると思っている。お見通しだ」
くそう、しっかりよんでやがる。
葵の言う通り、この時計は今朝俺が寝ぼけて壁にぶん投げてしまったのだ。
ま、まあ若きゆえの過ちというやつである。
「京介は昔から分解や組み立てにばかり着手していたからな。
変わり者はお互い様だ」
「やかましい」
俺の机の上に散らばる金属部品、そして工具。
俺がこれらに興味を持ったのは小学生の頃からだ。
元々俺の爺さんが理工学系の研究者で、分野は多岐に渡った。
俺は幼い頃よりその楽しみを教えられ、今でも暇さえあれば機械弄りや読書に精を出している。
・・・・・・俺も血をひいているという事だな・・・・・・
「空想の世界に入り浸るお前よりはましだ。科学の素晴らしさを知らん馬鹿め」
「ふん、現実にしか目にくれない愚か者め。
そんな事だからいつまで経っても、恋人の一人も出来ないのだ」
「・・・お前もそうだろう?」
「我輩が愛するのはロマンのみ」
・・・・・・手強い男だ。
女に興味がないといえば嘘になるが、今は知識を蓄えるのに精一杯だ。
「今まで聞いた事がなかったが、友はどのような女性がタイプなんだ?」
「俺か? そうだな・・・・・・」
俺はそう言って、ふと教授が話している壇上の前の席に座っている女性を見る。
背中からでも分かる艶やかな黒髪――
「さすがだな、友よ。"氷室 巴"に目をつけるとは・・・・・・」
どうやら俺の視線が誰を見ているか気づいたらしく、葵は頷いた。
「この大学のミス織姫の人気は絶大だ。
美貌、スタイル・・・・・・どれも天下一品。
彼女を狙う男どもは後を絶たない。彼女自身は断っているだから、チャンスはあるぞ」
「今のままだと、俺も撃墜される危険は高いと思うぞ」
"氷室 巴"、ガラス細工のような繊細なムードのある女性。
並みの男を寄せ付けない、この大学の高嶺の華。
彼女とは面識が無い。
今も彼女の周りの席は男でいっぱいで、隣の席に座るなど不可能だ。
「氷室さんか・・・確かに俺達には届かないよな」
「すぐにあきらめるとは男らしくないな、友よ。
何事も挑戦が大切だ」
無理、無理。
俺は彼女の背中を一瞥し、また作業に取り掛かった。
「さてと、授業も終わったしそろそろ帰るか」
俺が通う大学は私立で、単位の取得はきちんとしている。
必要な授業は全て受講しているので、比較的楽だった。
自分に必要だと思える授業、そして絶対に受けなければいけない授業だけ頑張ればいいのだから。
そして、今日の授業は昼までで終わりだ。
「今日は部品を買いに電気屋に行って・・・・・・」
俺は今日の予定を考えながら、大学内にある駐輪所の中を歩いていく。
ここは真上から太陽の光が差し込まれ、並べられた自転車やバイクを照らし出している。
大学は生徒数も多いので、近隣問わずこの場所を利用する生徒は多い。
それゆえに此処は見渡すかぎりの自転車、バイクの密集地となっている。
そんな中を俺は歩き、置いてある自分のバイクにまたがる。
で――
「京介、今から帰りなら乗せていってくれ」
そう言いながら、どこからともなく来た葵は俺のバイクの後ろにまたがる。
「お前を乗せると燃費が悪くなるだろう。電車で帰れよ」
「そうはいかん、我輩も今日は写真の現像をせねばならぬのだ。
急ぎ済ませるには足は必要だ、友よ」
「俺が嫌だと言っているの」
折角バイトで貯めて買った俺のバイクを、こいつに汚されるのはまっぴらごめんだ。
俺が無理矢理にでも降ろそうとしたその時、
『ラ・・・クルカ・・・・・・リニ・・・・・・』
「・・・何か言ったか、お前?」
「・・・そういう友こそ何か呟いたか?」
お互いに疑問マークを頭に並べて、周りを見る。
バイク・自転車が多く並んでいるこの駐輪所に、俺達以外誰もいない。
気のせいか・・・・・・
『・・・悪しき存在を断つ為に・・・』
「だから、さっきから何が言いたいんだ、葵?」
「それはこっちのセリフだ、友よ」
待てよ? 葵じゃないならこの声――
『・・・来れ、我が前に!』
"声"と同時に、俺達が跨るバイクが閃光を放つ。
「な、何だ!? 何だ、これ!?」
訳の分からない現象に、俺はただ声を上げるしかなかった。
プラズマか!? それとも何か妙な装置でもつけられたのか!?
「おお! これは心霊現象か!? ついに我輩も大発見!?」
「喜んでる場合かぁぁぁぁぁぁぁ!」
瞬間、全てが歪んだ。
『ああああああアア嗚呼AAAAAaaa!!!!』
急激な落下感に俺と葵は奇声を上げ――視界は暗転した。
<第一章 始まりの大地 その1に続く>
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