俺は、居候させてもらっている身ではありながら、一応部屋に自分専用のパソコンは持っていた。
もちろん秋子さんに頼んだわけでも泣きついた訳でもない。前の家で使ったものを売って新しいのを買い、この家で繋いだだけだ。
当然秋子さんの了承は取ってある。パソコンなどの電話料金は自腹で払うつもりだし(そんなたいしたことはしないのだ、一度きりの親からの仕送りだけで充分払える金額だ)。
面白おかしくサイトを見て周る毎日。もちろん、まがりなりにも学生だ。勉学に励んではいるし、暇でなければ四六時中するということも無い。
そんな中、俺は変なサイトを見つけた。
いや、見つけたというのは間違いだ。メールボックスに無題のメールが届いていたのだ。
送信者の名前は『エンジェルズ』。天使達、天使の物、天使ズ。いろいろ直訳できるがとりあえず、俺は見たことも聞いたこともない人からメールを受け取った訳だ。
こういう場合は、大抵がアダルト系の、金をぼったくっていくだけのサイトなので、あとは自分には全くと言っていいほど無縁なことを報告するようなメールである。
しかしその時の俺は、そういうことをちゃんと頭に入れていたにもかかわらずそのメールを押してしまった。
瞬間、ザァァァとテレビの砂嵐のように画面が揺れ、その後すぐに、そのページが現れた。
しかし問題なのは、そのページに上下のバーが無くなってしまったことだ。右上の×ボタンも無くなり、左下のスタートボタンも無くなった。つまり、画面にはそのページしか写っていないことになる。
ああ、やってしまった、と俺はその時後悔する。いらずら半分にこういうことをする奴がいるのだ。
まあこれも一応はいくかの対処法があり、俺も当然それを実行しようとしたのだが、俺はそのページのある一文字に目を奪われた。
『大バーゲン中、天使大安売り!』
…………。
は? それが最初の感想だった。
どうもそのページでは大バーゲンを行っているようで、天使が大安売りしているそうだ。
とりあえず今すぐこのページを消す事がもっとも有効だと思われたが、しかし何故かその文字が気になって仕方がなかった。なんたって、天使様売ってますよということなのだ。しかも大バーゲンで大安売り。
とりあえず俺はそのページを下に流す。するとすぐに行き止まりになり、五つのボタンだけが存在していた。
それはチェック式で、五万、十万、二十万、五十万と四つにチェックが付けられるようだ。そして一番下に『購入』の文字が。
いかにも怪しい造りだった。そりゃあ五万が一番価値が下で、五十万が一番だということは誰が見ても一目瞭然だ。それに、俺はいくらなんでも五十万は愚か、二十万なんて大金もってるわけが無かった。十万くらいなら充分払えるが、そこまでだ。
いや、別に買うつもりはない。天使がなにかなんて分からないし、そもそも俺は別に天使なんて欲しくない。
どうせここだって金をぼったくるだけのサイトだろうし、こんな怪しいサイトで買う天使なんて、どうせ掌サイズのお世辞にもうまいとは言えない素人が作った天使の形をした人形とか、そんなものだろう。
そうそう、こんなもの、見る必要もない。
……でもまあ……ちょっとぐらい考えてもいいかも。
い、いや、そりゃあ俺だって健全な男子生徒だ。天使と言われればそれなりに色々な妄想を膨らます。
天使といえばやはり、金髪の髪の長い女の子で、背中には白い羽が生えており、丸い大きな目をして、にっこりと微笑めば聖母も寝巻きのまま逃げ出してしまうこと間違いなし。
いやまあ、そんな都合のいい話はありえないし、そもそもそんな物はネットでは売らないだろうし、そもそもそんな者はいない。
だから、だからこそ、どうせいないのだからすこしくらい遊びで押してみてもいいのではないだろうか? いや、ネットではそんな気持ちがとんでもない事に繋がってしまうことは百も承知だ。だが、キーボードのあるボタンを押せばこういうページは一瞬で消え去るし、強制終了という奥の手を使えばもっと楽だ。だいたい、こういうのは購入したって、しばらく十秒ぐらいはフリーズするものなのだ。押して三秒もしない内に消してしまえばおそらく購入も出来ないまま終わるだろう。
それに、これにはもっと重大な事がある。普通通信販売をするには、名前に住所に郵便番号をきっちりと書かなければいけないのだ。だが、ここにはそれを書くスペースが無い。
おそらく購入ボタンを押してからその画面に行くのだろう。行かなくても、間違ってもここに天使なるものが贈られてくるはずはないのだ。
だから、すこしだけストレス発散のようなもので押してみてもいいのではないだろうか?
俺は自分を納得させるかのように、マウスの矢印を、なんと五十万に持って行く。五万でも買うつもりはないし、どうせすぐに消すのだ。どうせなら五十万に挑戦してみよう。
そう、押してから三秒以内に押せば大丈夫。大丈夫大丈夫。よし、押してみよう。
五十万にチェックを入れて、購入のボタンにマウスを合わせる。
左手はキーボートに合わせる、これでいつでも消す事が出来るだろう。
そう、三秒以内三秒以内。根拠はないが、とりあえず三秒以内に押せば問題はないだろう。
そして俺は、購入ボタンを押した。
ピュン。
気付いた時には、画面が消えていた。
…………。
ピュゥゥゥと何故か開けっ放しの窓から寒い北風が吹く。
速かった。押したとほぼ同じに画面が消えたのだ。瞬殺もいいところだ。
当然、キーボードなど押せるはずもなかった。
や、やばい……。
今俺は真っ青を通り越して真っ白な顔をしているだろう。それはそうだ。なんたって五十万なんて額を押してしまったのだから。
いや、恐らくあれは、こういう風に押した人間を心配させようとしていたサイトなのだ。そうだ、そうに違いない。五十万なんて、そんな法外な値段を要求するはずがない。だいたい、大バーゲンって書いてあったじゃないか。五十万なんて、五十万なんてありえるはずがない。
それにそうだ、さっきも言ったが、郵便番号や名前などを入力しなければいけないはずだ。いくらパソコンでもそこまで調べることなどで気はしないはずだ。
大丈夫、大丈夫なはずだ。多分。
俺は自分自身をそう落ち着かせる。そうでもしなければ頭がどうにかなってしまいそうだった。
とにかく寝よう。今はそれしかない。
幸い、今は夜だ。そういう設定らしい。そしてこれから俺はさっさと寝るという設定らしいのだ。
という事で寝る。そしてまた明日は休みだ。そういう『設定』らしいから。今日の不安を忘れるために、さっさと寝てしまおう。
よし寝よう。おやすみなさい。
未だにドクンドクン言っている心臓をなだめながら、俺は眠りについた。
そして次の日。
その少女は、唐突に俺の目の前に現れた。
日曜日でいつまででも寝ていられる幸せの中、目を覚ましたその目の先に、ベッドに眠る俺をじっと見つめる少女が、それだ。
金髪の髪の長い女の子で、背中には白い羽が生えており、丸い大きな目をして、にっこりと微笑めば聖母も寝巻きのまま逃げ出してしまうこと間違いなし。
ふわっとした白い服を着て、ふわっとした白いスカートを履いた少女。
そういった美しい少女が、じっとこちらを見つめていた。
「おはようございます、ご主人様」
その少女は、にっこりと微笑むと、俺に一礼をした。
「この度は、私をお買い上げになっていただき、ありがとうございます」
「……え?」
俺の疑問文の言葉にも全く耳を貸さずに、少女はまたにっこりと微笑んだ。
「これから、よろしくお願いしますね、ご主人様」
俺はまた、道を間違ったのかもしれない。
後書き
もう全然わけ分からんわ。
何を書いてるんですか私は? (知らんわ)
え、なんで? なんでこんなのを書き始めたの?
まだ書かなければいけないもの沢山あるのに。
でもまあ、この少女は結構好きなのです。こういうのは好きですね。
ちなみに、これはギャグマンガですので。私は本来属性はギャグではないのですが、今回は元祖ギャグに挑戦してみたいと思います。
かなりハチャメチャギャグだと思います。
しかしこんなベタベタな始まり方でいいのかよ。
では、これからも応援よろしくお願いします!