それはありえたかもしれない IFの話。

でも決してそんなIFは誰も 望んでいなかった。

孤独の剣士が家族と認めた少 女。

しっかり者で優しくて、他人 を気遣える少女。でも寂しがり屋で甘えん坊で少し嫉妬深くて、キレるとかなり怖い少女。でも孤独の剣士には大切な大切な少女。

彼らは幸せになれるはずだっ た。

みんなでハッピーエンド。

傷つき、迷い、間違え、後悔 し、何かを失いながらでもゆっくりと進んできた道。

その道は誰にも否定できない 確かな道筋。

傲慢で我侭で自己中心的な行 動。その行動に誰かが泣き、誰かが悲しみ、誰かが傷つき、誰かが大切なものを失って行く。

それでも彼は諦めなかった。 逃げ出さなかった。しっかりと地に足を付け、ゆっくりでも、後ろに下がるときがあっても、踏み出すことをためらっても、最後には前へと進んだ。

そんな彼に惹かれる人達。彼 だからこそ、運命の女神はそっと力を貸したのかもしれない。

いや、違う。彼の行動がそん な女神を動かしたのだ。

だが歯車は狂ってしまった。

それは小さな歪み。

けれどもそれははっきりと確 実に彼らに忍び寄る。

そしてそれは起こった。

「はやて!」

彼は叫ぶ。けれども何も変わ らない。

孤独の剣士の家族で会った少 女。そして新たに生まれた四人の家族。

幸せな日々。暖かい時間と居 場所。

失い、取り返せないものも あった。

でもそれでも多くのものを彼 は得た。

だがそれは無常にも奪われる ことになった。

「待てよ。あいつが、はやて が何をしたって言うんだ! ミヤが、リインフォースが、シグナムが、ヴィータが、シャマルが、ザフィーラが何をしたって言うんだよ!?」

彼はその身体を仮面の男に押 さえられ、その上に体中を魔法で拘束されている。

「邪魔をするな! あれは危 険なものなんだ! だからこそ、その主ごと封印する!」

彼の眼前で行われている行 為。それは彼の家族である八神はやてを、小うるさくそれでも頼りになる相棒であるミアを、主第一主義で、自分にはとても厳しく、それでもどこか優しいミア の姉であるリインフォースを、自分と毎日馬鹿なやり取りをする守護騎士たちを、永久に次元の狭間に封印するものだった。

「てめぇら、やめろって言っ てるだろうが!」

しかし彼の抵抗は意味を成さ なかった。

彼には優れた魔力も、卓越し た武術の力もない。ただレアスキルである法力という力が備わっているが、それも自らの願いではなく他者の願いを叶えるものだった。

だから、拘束され、取り押さ えられている現状では何もできなかった。

何でこんなことになった?  彼は考える。

そもそもの始まりははやての 病気の悪化。それが発端だった。

闇の書による侵食。ミヤもリ インフォースも、後になって生み出され新しい家族になった守護騎士のシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラも、何とか彼女を助けるために必死になっ た。

だがどれだけの治癒魔法も無 意味だった。彼のレアスキルである法力も試したが、効果は薄かった。何とか侵食の進行を食い止め、時間を稼ぐので精一杯だった。

新たな家族失いたくない。そ の願いは誰も一緒だった。

だからこそ、彼らは最後の手 段を講じた。つまり闇の書の完成。

そうすれば闇の書の力によ り、はやては救われることになる。だから彼らは罪であるとわかっていても闇の書を完成させるために他者のリンカーコアを奪った。

他の世界の生物や魔力の高い 管理局員も。そして彼を兄と慕う少女達をも襲った。

はやての未来を血に染めたく ないから、誰一人として死者は出していない。だがそんなことは些細な話でしかない。

それでも彼らは蒐集を行い続 けた。

彼にしてみれば、誰に恨まれ ようと、誰に軽蔑されようと構いはしなかった。それこそ今更である。

彼は自分自身が最低な人間で あることなど百も承知である。これまでも何度も自分勝手に行動し、周りの連中に迷惑をかけ続けた。それを後悔したことはあるが。

だがはやての命を助けられる ならば、それでもいい。家族を失うなんてごめんだった。

そしてようやく、もう少しで 闇の書は完成するというところで、あいつらが現れた。

仮面をかぶった男達。連中は バインドで彼らを拘束し、守護騎士たちのリンカーコアを闇の書に取り込ませた。

「あ、あ、 あ・・・・・・・・」

何もできず、彼はただ呆然と それを見ているしかできなかった。

そして闇が覚醒した。

『りょ、リョウスケ!』

『くぅっ! ミヤ、主!  リョウスケ、逃げ・・・・・・・』

彼らの意思が消えていく。

残ったのは破壊衝動のみ。

憎まれ口をたたいた小さな妖 精と口の悪い妖精の姉。大切な家族で仲間でパートナーだった二人。でももう、彼女達はいない。

周囲にこぼれている衣服。そ こにはさっきまで人がいたと言う証。

融通の利かない堅物の烈火の 将。口うるさくていつも口げんかしていた鉄槌の騎士。腹黒で色々とアプローチしてきた湖の騎士シャマル。無口で犬みたいで口を開けば小言を言った盾の守護 獣ザフィーラ。

そして・・・・・・・・はじ めて家族になりたいと思った少女・八神はやて。

大切な家族は一瞬にしていな くなった。護りたかった居場所はどこにもなくなった。

「うああああああああ あっっっっっ!!!!!!」

彼は叫ぶ。ただそれしかでき ない。情けない。悔しい。憎い。

何でだ、なんであいつらがこ んな目にあわないといけないんだ!?

彼は仮面の男を睨みつける。 何もできないなら、せめて・・・・・・・。

でも全部無駄だった。

まもなく、彼らは懐から一枚 のカードを取り出し詠唱を行う。するとそれは長いデバイスとなる。仮面の男は詠唱を行う。

「悠久なる凍土。凍てつく棺 の内にて永久の眠りを与えよ。・・・・・・・凍てつけ!」

「やめ ろぉぉぉぉぉっっ!!!」

すべてが凍りつく。何もか も。はやてを、ミヤを、リインフォースを守護騎士達を取り込んだ闇の書の暴走体が。

「これで終わりだ」

凍りついたそれを男達は亜空 間へと封印する。

この日、彼――――孤独の剣 士、宮元良介は家族を失った。

孤独の剣士は孤独な剣士と なった・・・・・・・。

だがこれは始まりに過ぎな かった。それは序章。すべてを巻き込んだ物語の始まりでしかなかった・・・・・・・・。

 

 

 

 

そしてどれだけの月日が流れ ただろうか。

それは唐突に起こった。

とある次元世界。そこでは一 人の男がある古代遺跡にて儀式を行っていた。

閉じられた世界を開く術法。 誰もたどり着けず、誰も行くことができないとされていた世界へのアクセス。

次元が歪み、いくつもの世界 で激しい揺れが観測された。

すぐさま時空管理局は原因の 究明と解決に乗り出した。多くの世界が巻き込まれ、ミッドチルダにまで影響を及ぼしていた事から、管理局は事態を重く見た。

そしてすぐさま次元航行艦数 席を向かわせた。その中にはリンディ・ハラオウン提督のアースラも含まれていた。

もちろんその艦にはリンディ の息子であるクロノ・ハラオウン執務官や民間協力者の高町なのは、嘱託魔導師であるフェイト・T・ ハラオウンの姿もあった。

そして彼女達は再会を果た す。

復讐と大切な者を取り戻すた めに、彼は――――孤独の剣士は修羅となった。

 

 

 

 

あの後のことは良く覚えてい ない。

気がつけばベッドの上で寝て いた。主治医でいつも世話を焼いてくれるが、自分の無茶な行動にいつも怒っていたフィリスが、その日は何も言わなかった。むしろ今まで以上に気遣い、そし て励ましてくれた。

その後、何人もの見舞い客が 来た。月村や桃子、恭也。もちろんなのはやフェイトも。

でも、そこにはやっぱりはや ての姿は見えなかった。

夜になって、気がつけば病院 を抜け出していた。無意識に近いうちに向かった場所は、昨日まで住んでいた八神家。

玄関のドアを開ける。中は電 気がついていなく暗かった。いつもなら明るく騒がしい家も、今はシンと静まり返っていた。

玄関をくぐり、靴を脱ぎ、リ ビングへと向かう。そこにも、誰もいない。

いつもこの時間なら料理をす るはやてとシャマルが台所にいて、ザフィーラが床で寝ていて、ヴィータと自分がテレビのチャンネルを取り合っていて、シグナムがそれを呆れながら見てい て、ミヤが『喧嘩はだめです!』と怒っている。ついでにリインフォースは闇の書からまだ具現化できずに、本のままはやてに寄り添っている。

何気ない日常。別に特別でな い毎日。でもそれはとても心地よく、孤独の剣士にはたまらなく暖かかった。

でも、そんな家族は自分以外 誰もいない。全部、まるで夢のように消え去った。

あとでリンディやクロノ、エ イミィが話を聞かせてくれた。

事件のあらまし、方法、原因 や首謀者。彼らが知る限りのことを。

すべては闇の書を封じ込め、 悲劇を起こさないために一人の管理局の提督が独断で行ったことだったと。その提督は現在自首して裁判を受けることになっていると。

(だとすると、はやてやあい つらはその犠牲になったって言うのかよ!?)

良介は怒りに震えた。あいつ らが何をした。確かに蒐集を行ったのは罪だ。それは間違いない。

でもそれは良介や守護騎士た ちの独断である。はやてには何の罪もない。それに守護騎士たちやミヤも、永久封印をされなければならないような罪を犯したのか?

確かに過去に管理局とは幾度 となく衝突し、確執を生み出したとミヤ達から聞かされた。

だけど、だからといってこの 仕打ちはあんまりではないか?

でもそんなことより一番腹立 たしいのは・・・・・・・・。

(あいつらを護れなかった俺 自身・・・・・・・・)

そう、護ると決めたはず。後 悔しないと決めたはず。

何が約束だ。何が誓いだ。何 が家族だ。

いつも自分勝手で、いつも他 人に迷惑ばかりかけて、いつも誰にか助けられて、救われて、そのくせ肝心な時にはまったく役に立たない。

そんな自分自身がどうしよう もなく憎かった。

はやてとの約束も果たせ ず・・・・・・・・。

『お前を死なせたら、俺も一 緒に死んでやる!』

あの時、はやてにすべてを打 ち明けた時に交わした約束。家族となった少女にした大切な約束。でもそれが果たされることもない。

彼女は目覚めることのない永 遠の眠りについた。氷結世界で、たった一人で・・・・・・。

ふざけるな。そんなこと認め られない。

確かにこれで今後闇の書によ る悲劇が起こることはないかもしれない。これ以上、闇の書による犠牲が生まれることがないかもしれない。

じゃあはやてはどうなる?  彼女の犠牲は?

百の命を救うために一の命を 切り捨てるのか? たった一人の少女の命など、多くの人間の命に比べれば些細なものなのか?

ああ、確かに世界を護り、多 くの人間の命を救う連中からすればベストではないかもしれないが、ベターなんだろう。

けど俺はそんなこと絶対に認 めない。世界中の誰もが認め、それこそ神様が正しいと言っても、俺だけは絶対に認めない! そんなものクソ喰らえだ。

絶対にはやてを取り戻す。ど れだけの犠牲と時間を掛けようとも、絶対に。

それは誓い。決意。

そして彼は海鳴からその姿を 消した。

 

 

 

ゆっくりと彼―――宮本良介 は儀式の祭壇で目を開ける。

この場にたどり着き、この日 が来るのをどれだけ待ったことか。

ああ、すべては瞬間のため。 どれだけの犠牲と対価を払おうとも、はやてを取り戻す。

そのためだけに、あの日から 良介は生きてきた。

魔法が使えない良介は世界を 越えることなんてできない。魔法を使えない良介が、次元の狭間に閉じ込められているはやてを救うことなんてできない。

法術もミヤのサポート無しに は満足に使えない。

でも彼には小ざかしい頭が あった。人を傷つけ、だまし、裏切り、彼はこの場までたどりついた。いつの間にか重要指名手配の犯罪者だ。

そんなことを考えつつ良介は 鼻で笑った。

何を今更だ。元々闇の書事件 で自分は犯罪者だったのだ。何とかクロノやリンディの取り計らいで刑事体はあって無い様なものだったが。

しかしじゃあはやてやミヤや 守護騎士達はどうなんだ? 自分だけが罪も罰も無く、彼らだけは永久封印。ふざけるのも大概にしろ。良介はそう叫んだ。

だからこそ、良介は何もかも を捨てて彼らの前から消え去った。

はやて達との思い出の家も、 海鳴も何もかもを。時空管理局とも敵対することも厭わない。元々、守護騎士達とともに敵対していたんだから。

「もうすぐだ な・・・・・・・・。けどその前に」

良介はゆっくりと後ろを振り 返る。

「よう、予想よりは早かった な」

ニヤリと彼は笑ってみせる。 そこにはかつてともに戦った者達がいた。

「おにーちゃん」

「リョウスケ」

白い服を身にまとい、金色の 杖を持つ少女と漆黒の衣に身をまとい、黒き大釜を構えた少女がいる。

「久しぶりだな、なのはに フェイト。クロノとかユーノ、アルフは・・・・・・・。この遺跡のトラップとか防衛用の兵士に手間取ってるってところか」

この遺跡は超古代の文明。失 われた世界の遺産。ここには侵入者を阻む様々なトラップや守護者が配備されていた。

当然、良介ごときでは進入す らできないはずだった。

しかしなぜか防衛プログラム は良介には作動せず、まるで彼を待っていたかのように、良介をこの場へと誘った。

その理由は良介にもわからな いが、好都合だった。これで全部が叶う。はやてを取り戻せる。

「もうやめてよ、おにーちゃ ん! このままだといくつもの世界が消えちゃうかもしれないんだよ!」

「そうだよ、リョウスケ!  それに、はやてもこんなこと望んでない!」

少女達は必死に良介を説得す る。このままでは彼は戻れないところまで進んでしまう。

いくつもの次元を破壊した重 犯罪者として処罰されてしまう。今ならばまだ間に合う。止めなければならない。

しかし。

「あん? ここまできてやめ られるかよ。はやては絶対に取り戻す。たとえどんだけ世界が滅んでも、どんだけ人が死んでも俺には関係ねぇ。お前らも邪魔すんなよ」

はやてが望まないなんてのは わかってる。あいつは優しいやつだ。確かに怒らせると物凄く怖いし、黒化すると手がつけられないけど・・・・・・・。

人に迷惑をかけるのが嫌いな あいつが、俺のしていることを認めるとは思えない。

だがそんなことは百も承知 だ。これは俺がやりたいことなんだから。

「はやてのためじゃねぇ。こ れはおれ自身のためなんだからな。だから・・・・・・・」

良介はすっと右手に木刀を構 える。これが彼の唯一の武器。唯一誇れるもの。

魔力も低く、お世辞にも優れ た剣術を持っているわけでもない。恭也や美由希のような流派を使えるわけでもない、ただの我流。

それでも譲れないものがあ る。止まれない信念がある。取り戻したい、家族がいる。

だがら・・・・・・・。

「だから、お前らでも容赦し ねぇぞ!」

孤独の剣士の死闘が始まる。

 

 

 

 

最初から勝敗などわかってい た。

ここまでたどり着けたのは、 自分ひとりの力ではない。他人を利用し続けた結果だ。もしくは運が良かったか。

魔法も使えず、特別な能力も 無く、彼女達の魔法を防ぐ武器もスキルも無い。いつもなら舌先八寸でのらりくらりと相手を翻弄し、敵の弱点を突き勝利を収める姑息な戦法も、今の彼女達に は通用しない。

一人で勝手に突っ走って、状 況を悪化させて、誰かを傷つけて、誰かを悲しませて、誰かに迷惑をかけて、最後には誰かに助けてもらったり、後押ししてもらったり。

良介は自嘲した。昔からそう だった。ああ、なんて情けないんだろうな俺って。

接近戦を挑んでもフェイトに 軽くあしらわれ、なのはの砲撃の直撃を受けては吹き飛ばされ、今は地面に倒れている。

時間稼ぎすら間々ならない。 弱い自分。情けない自分。何一つ誓いを果たせずに、何一つ約束を護れずに、最後の最後まで失敗ばかり。

『リョウスケは本当に情けな いですね〜』

そんな妖精の声が聞こえてく る。確かにあいつの言うとおりかもしれない。

『ほんっと、情けないわね!  もっとしっかりしなさいよ! あんたは私のご主人様なんでしょ!?』

もうすでに会うことも叶わな くなったパートナーたる少女の叱咤の声も聞こえる。

あー、なんて碌でもないヤツ なんだろうな。俺。

ここで終わりか? もう少し なのに。もう少しではやてを助けられるのに。

力が欲しい。はやてを助けら れる力が。今すぐに!

だがそんな虫のいい話、神様 でも叶えてくれないだろう。

漫画じゃあるまいし、そんな 力が手に入るはずが無い。絶望的な状況で、力に覚醒するなんて現実的に考えてありえない。こんな状況で現実逃避かと、自分を責める。

自分に力があるんなら、あの 時、はやてが封印される時に、その力が目覚めているはずだ。

それにミヤやリインフォース が気がついているはずだ。

だから宮本良介にはそんな力 など無い。

そして彼の願いは、誓いは、 約束は、この場で決して果たされることは無い。そう思った・・・・・・・・。

悔しさのあまり、ぎゅっと拳 をきつく握る。それこそ手から血が流れるくらいに。血が地面に流れ落ちる。

その瞬間、遺跡は虹色の光に 包まれた。

 

 

 

 

かつて、ベルカ式という魔法 体系でミッドチルダと勢力を二分する文明があった。ベルカ式の魔法はそのほとんどが近接戦を主眼に置かれていた。

汎用性を捨てる特化型の魔法 体系。特化型ゆえに型にはまれば強い。また特化しているがゆえに、他に例を見ない魔法も生まれる。

だが特化型にはメリット以上 にデメリットも多かった。それゆえに汎用性の高いミッドチルダ式の魔法に敗れ衰退することになったのだが。

だがここで言いたいのはそん なことではない。かつて古代ベルカには、ベルカを統べる王がいた。人々はそれを聖なる王『聖王』と呼んだ。

時空管理局とは別に彼らに協 力する勢力『聖王教会』では、その聖王の遺物を厳重に保存していた。また聖王教会は聖王の様々な遺品を集めたり、研究を続けたりしていた。

その後に、彼らは聖王には三 つの神器と呼ばれる存在があったと述べた。

『聖王のゆりかご』

『聖王の鎧』

『聖王の剣』

しかしそれらはすべて伝説の 話で誰もその存在を見たことなど無かった。

また聖王のみが立ち入ること が赦される聖域があったと、彼らは後に記している。

その聖域の名は『聖王の庭 園』

奇跡を起こし、願いをかなえ る場所と言われる場所。多くの人が捜し求め、誰一人としてたどり着いたことが無い、ある意味アルハザードと同じような場所。

奇しくも今、良介がいる場所 がその『聖王の庭園』であった・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

「な、なに?」

「わからない。でも、すごい 魔力」

なのはもフェイトも混乱の極 みにあった。彼女達は力ずくで大切な人である良介を止めた。

まあ説得と書いて砲撃と読む 魔砲少女としては正しいのかもしれないが。

非殺傷設定であったため、命 には別状は無い。あとは彼をここから連れ出せばすべてが終わる。そう思っていた矢先に自体は急変した。

虹色の光と膨大な魔力が遺跡 を包み込んだ。自分達の魔力を遥かに凌駕する魔力反応。

しかし混乱したのはそれだけ ではない。この魔力光。これは良介のみの法術の光だった。だが良介の魔力値は管理局内でも最低のFランク。こんなSSランクを上回る魔力を放てるはずが無 い。

「あー、体中が痛ぇな」

ゆっくりと彼は立ち上がる。 彼は笑っている。それもまるで自らを卑下するかのように。

「なんだかな〜。俺にこんな 力があるんだったら、なんであの時手に入らないんだよ」

失ってから手に入れた力など 何の意味があるのだろう。必要な時に手に入らなくて、どうでもいいときに手に入る力。また自分が憎らしくなる。

「でもまあ、これではやてを 取り戻せるな」

虹色の光が良介を包み込む。 彼の衣服が変化していく。黒い衣服。それは漆黒ではなく、どこか青みを帯びた服。ところどころに赤い刺繍が走る。

バリアジャケットとは違う防 護服。かつて人々はそれを『聖王の鎧』と呼んだ。

足元に出現するベルカ式の魔 法陣。同時に良介の魔力が爆発する。それはなのはやフェイトを上回るものだった。

「なんて魔力・・・・・・ リョウスケ!」

フェイトにはそこにいるのが 本当に良介かわからなかった。確かに良介なのだろうが、彼にはこんな魔力は備わっていなかった。

「本当におにーちゃんな の?」

「失敬なやつらだな、おい。 俺は俺だよ。俺にも何でこんな力があんのか不思議だけどよ。でもまあ、これでお前らともまともに戦えるぜ」

魔力が爆発した。瞬間、良介 は地を蹴ってフェイトに肉薄した。

「くっ!」

とっさのことにフェイトは若 干驚いたが、何とかバルディシュで良介の拳を受け止める。

「フェイトちゃん!? ごめ ん、おにーちゃん! アクセル・シューター!」

いくつものピンク色の光弾が 良介を襲う。腹部に、背中に、何十発も命中する。さっきまでの良介なら、これで意識を奪えるはずだった。

「きかねぇよ」

短く言うと、良介は手のひら に虹色の光を収束させる。

「お返しだ」

虹色の弾が良介の手からはな れ、なのはへと向かう。

「法術!?」

良介の特殊能力である法術は 他者の願いを叶えるもの。ゆえにこんなことができるはずが無い。だがそれならば目の前のこれは何なのだ。

なのはは左手を前に突き出 し、防御シールドを展開する。シールドと魔力の塊が激突する。衝撃がなのはの左手に伝わる。

「っ・・・・・・・きゃ あっ!」

なのはは耐え切れず、そのま まシールドごと後ろに吹き飛ばされた。

「なのは!!」

「人の心配してる場合じゃ ねぇぞ」

「えっ!?」

なのはから視線を良介に戻 す。いつの間にか良介の右手には彼の武器であった木刀が握られている。

「いくぜ」

何度も振り下ろされる木刀。 魔力が付加されているのか、強度は何倍にも上がっている。

けれどもその使い手たる良介 の腕はまだ未熟だった。確かに速さや威力は上がっているが、技術はフェイトの方に分があった。

「ごめんなさい、リョウス ケ!」

フェイトはバルディシュで良 介を切りつける。非殺傷ゆえにできることだ。しかしそれすらも彼のバリアジャケットを破ることはできなかった。

「そんな!?」

攻撃が通らない。一進一退の 攻防は続く。

(だんだんと、攻撃が当たら なくなってる?)

時間が経つにつれてフェイト は違和感を覚えた。攻撃が当たらなくなっている。自分の速度が遅くなっているのかと思った。でも違っていた。良介が速くなっている。

(それにこっちの動きも読ま れ始めてる!)

良介は確かに強かった。長年 培われてきた技術や経験もあっただろう。それでも今のこれは異常だった。まるで短期間でこちらの動きを学習している。

「お前の動きは見えてるぜ」

良介の言葉通り、フェイトの 動きは彼に読まれていた。攻撃に移る一瞬の隙。良介はすでに見極めていた。

(やられる!)

だが良介の攻撃が放たれるこ とは無かった。その前に彼の体中に光の鎖が巻きついた。

「バインド!?」

見ると、部屋の入り口にはト ラップを突破してきたのか、クロノ、ユーノ、アルフがいた。

「おにーちゃん! ちょっと 痛いけど我慢してね!」

声のする方を見てみる。そこ には魔力を極限まで収束させたなのはがいた。

(どう考えてもちょっと痛い どころのレベルじゃねぇだろっ!!! それにいきなりそれかよ!)

心の中で良介は思いっきり叫 んだ。

「スターライト・ブレイ カー!!!!」

レイジングハートの先端から 打ち出される高威力の魔力砲。彼女の得意とする魔法の一つである。

「こんちくしょうっ!」

さっきまでシリアスで戦って いたが、さすがに今までの経験上スターライトブレイカーをまともに受けて無事にいられると言う自信が持てない。

そもそもなのはは簡単に砲撃 で相手の防御ごと敵を倒したりもするからだ。

何とかバインドを力ずくで打 ち破り、虹色の魔力を木刀に集中させる。それこそ全力全開で。虹色と桃色の光がお互いにぶつかり合う。びきびきと木刀にひびが入っていく。

(ちっ、このままじゃ通っち まう・・・・・・・)

スターライトブレイカーの直 撃なら、おそらく一発で気絶ものだ。

(ちくしょう。こんなところ で、ここでやられてたんじゃ、はやてを助けられねぇだろうがよ! こんだけ力があるんだったら、もう少しくらいしっかりやりやがれ!)

自分自身に向けられた言葉。 それに反応したかのように、木刀に集まる光が輝きを増す。

「なっ?」

良介自身も驚きの声を上げて 木刀を見る。木刀が虹色の光に包まれ変化を遂げる。西洋の剣。虹色に輝く刀身と煌びやかな柄。それは『聖王の剣』と呼ばれるもの。

「おらぁっ!!!」

全力での魔力開放。すべてを スターライトブレイカーを相殺し、周囲にあるものをすべて吹き飛ばす。

「きゃっ!」

「あっ!」

「うわっ!」

余波だけで良介を除いた全員 が吹き飛ばされる。また吹き飛ばした本人も、慣れない魔力の過剰放出で肩で息をしているのが現状だったが。

「ぜぇ、ぜぇ。ったく、魔力 の放出がこんだけ疲れるとは思わなかったぜ」

なのは達みたいなことができ ればいいなと思った時もあったにはあったが、さすがにこれはかなりしんどい。

「でもまあ、おかげで時間稼 ぎはできた」

ニヤリと不敵な笑みを浮かべ る良介。その笑みが意味するのは・・・・・・・。

遺跡が今まで以上に大きく振 動する。空気が振るえ、祭壇の中心部の空間が歪み始める。

この祭壇は望んだ世界に扉を 開くことができる。それがたとえ閉ざされた亜空間であろうとも。

歪みがだんだんと激しくな る。うっすらと亀裂が生まれ、向こう側の風景が視界に映る。世界の狭間たる場所は極寒の氷に閉ざされた白い世界。彼の家族たる八神はやてが眠る場所。

ついにこの瞬間が来た! 良 介は歓喜に震える。

手を伸ばす。世界が認めなく ても、世界が拒もうと、世界が排除しようとしても、ただ大切な家族を取り戻すために。

「さぁて、行くか」

彼は凍りに閉ざされた世界に その身を沈めていく。彼の背後では幾人かの声がするが、彼にはもう聞こえていない。孤独の剣士には前しか見えていなかった。

もうすぐだぜ、はや て・・・・・・・。

彼の姿が次元の狭間に沈むと 亀裂は消え去り、遺跡の振動も収まった。魔力も消え去り、まるで遺跡が死んだかのように沈黙した。

彼の姿はそれ以降、誰にも見 られることは無かった。

この後の時空管理局の調査 で、闇の書とその主である八神はやては氷結封印ごと姿を消したことが判明した。

そのため管理局の必死の調査 が続けられたが、以降一切の情報を得ることができず、さらに闇の書が関与したと思われる事件もまったく起こらなかった。

さらに管理局とは別に聖王教 会でも調査が行われた。こちらは虹色の魔力光を生み出した宮本良介についてだった。

調査の結果、彼が最後にいた 遺跡や彼の血痕などから宮本良介がかつてベルカを統べた聖王の血を引いていることが明らかになった。

だがそれはずいぶんと後に なってのことだった。

孤独の剣士と彼の家族たる少 女がどうなったのか、それは彼ら以外誰も知らない・・・・・・・。

 

 

 

 

夢を見ていた。

幸せな夢。何気ない日常の 夢。

死んだはずのお父さんとお母 さんがいる。彼らの周囲には新しい家族になったシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、ミアがいる。

まるで本当の家族のように笑 いあっている。

後ろから声がする。自分を心 配するような声。赤い瞳に銀色の髪の彼女達のお姉さん的な存在のリインフォース。なんでもあらへんよと自分は言った。

そう、自分は幸せな場所にい る。でもなんでかな。足りない。一人足りない気がした。

大切な、本当に大切な人がい ない。そんな気がする。

誰やったけかな。思い出せな い。なんでやろ。おかしいな。

・・・・・・て。

不意に誰かが自分を呼んだよ うな気がした。あたりを見るけど、誰もいない。

おかしいなと首をかしげる。

・・・・・・やて。

まただ。また聞こえる。懐か しく、それでいて暖かい声。

なんでやろ。どっかで聞いた ことがあんのに、思い出せへん。

その声は段々とはっきり聞こ えてくる。そう、あの人の声が。

・・・・・・・・はやて!

はっと、思い出す。

なんで忘れてたんやろ。もう 一人の大切な家族のことを。あの日、あの場所で出会い、家族になってくれた人のことを。忘れたらあかんかった人のことを。

何度も自分を呼ぶ。だから、 彼女――――八神はやては彼の名前を呼んだ。

「良介!」

と。

 

 

 

何年も掛けてようやくたどり 着いた場所。

彼らはようやく再会を果た す。

虹色の魔力の光が世界を照ら し出し、氷に閉ざされた世界を消し去る。

法術。それは他者の願いを叶 える力。それは自らの願いを叶えることはできない。

しかし奇跡は起こる。

聖王の力が、彼だけに与えら れた力を新たな段階へと昇華させた。それは自分の願いでも、自分自身ではなく、誰かのために想う願いを叶える奇跡の力へと。

奇跡は起こる。彼が起こし た。

「待たせたな、はやて」

「ほんまやで。ちょっと来る のが遅いんちゃうか?」

良介に対してちょっとだけ意 地悪なことを言う。

「悪いな。ほんとに。ずいぶ んと長いこと一人で・・・・・・」

「ちゃうで良介。一人や無 い。私の傍にはずっとみんながおったで。リインが、ミヤが、シグナムが、ヴィータが、シャマルが、ザフィーラが」

そう、彼女の大切な家族が ずっと傍にいた。

「でもな、良介がおらんでさ みしかったんよ? 私だけや無い。みんなもきっとそうやで」

はやての言葉に苦笑するしか ない。あいつらがこの場にいたら、なんて言うだろうか。

きっといつものごとく口うる さく言うに決まってる。

だがそれはとても懐かしく、 心地いいものだと思った。

「そうだな。またあいつらと 馬鹿やるか、なあはやて」

「うん!」

虹色の光が彼らを包み込む。 その光は彼らの未来を祝福するかのように、輝き続けた。

 

 

 

 

END

 





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