To a you side 外伝 カリムルート〜預言者の騎士〜・・・の後編

 

後編〜預言者の騎士〜

 

 

 

 

 

 

 

前回までのあらすじ。

カリムのことをクロノに相談しに行ったらロッサも来て、何故か熱く友情を確かめ合ったあげくに飲むことになった。

 

と、まぁ整理すると別に何もしてないんじゃないかって思うかもしれないが、実際はそうでもない。

何せ飲み始めたのはだいたい夕方で、今現在すでに日が高い。つまりはかなり長い間のみ続けてたってことだろう。

なぜ伝聞口調かって? それは勿論……途中から記憶がなくて、つい数分前まで知らない天井に挨拶していたからだ!いやマジでここどこよ……つーか二日酔いで頭がいてぇ……。

それなりに広く、ベッドの他には本棚と机があるのみで、おそらく誰かの寝室であろうということはわかる。しかしながら今まさに座っているベッドや、机をよく見れば、そっち方面に疎い俺でも高級品だと一目でわかる。

つまりはこの部屋の持ち主は――金持ちに違いない!!

しかし金持ちかつこういった雰囲気の屋敷に住んでいる知り合いはいただろうか……?

二日酔いで痛む頭をフル稼働させながら考えていると、突然扉が開いた。

剣士としての本能が警戒を促し、構えを取ろうと――したところで剣がないことに気づき、同時に頭痛で蹲るハメになってしまった。

 

「ぬぅぅぅぅ……頭が! 頭痛が痛い!?」

「お兄様! 大丈夫ですか!?」

 

声の主をなんとか見ると……というか俺をお兄様と呼ぶのはこいつだけだ。それに、こいつの声だけは絶対に忘れない。こんなところでも自分がこいつに惚れているということを自覚してしまう。

頭を押さえながらゆっくりと顔を向ければ……やはりそこにはカリムがいた。

 

「と、とりあえずお水を!」

「あ、あぁ、それはありがたいんだがもうちょい音量下げてくれ……二日酔いで頭がいてぇ」

「え、あ、も、申し訳ありません!」

 

だから音を下げろっちゅーに……。

差し出された水を飲みつつカリムを見る。心配そうにこちらを見るその顔は……なぜか赤い。俺よりむしろこいつのほうが体調悪いんじゃなかろうか?

というかそもそも俺はなぜにここにいるんだろうか?

カリムがいるってことはここは教会で間違いないだろう。つーことはここは来客用の部屋ってことか。いや、それにしてはやけに生活感があるし……じゃなくて俺はどういった経緯で教会の客室に寝てるんだろうか。

 

「お兄様……その、お加減はどうですか?」

 

俺の頭痛に配慮してか、抑えた声で聞いてくるカリム。その顔はまだ赤い。

いや、むしろなんつーか……照れてる?

 

「二日酔いで頭が割れそうだ……」

「もしよろしければアルコール分解の魔法をかけてさしあげましょうか?」

 

おぉ、さすが魔法の国。そんな便利な魔法があるのか。

というか六課やアースラの部隊がアホみたいに宴会で盛り上がってたのはそれがあるからなのか。ぬぅ、緊急出動があったらマズイんじゃないかという俺の心配は無駄かコノヤロウ。よし、今度あったらまずはやてとリンディを殴ろう。

しかし……俺がバカみたいに飲んで二日酔いになったわけだし、正直自業自得だと思わんでもない。そんなことのためにカリムの手を煩わすのもアレだし……

 

「いや、俺なんかのためにわざわざおまえの手を煩わすこたぁねえよ」

「そんな……別に構いませんのに……それに私とお兄様はその……

「ん? 何か言ったか?」

「い、いえ! なんでも……その……あの……」

 

うむ、変だ。顔はさっきよりも赤くなり、既に茹蛸状態に。更に口元が緩みっぱなしで、もうなんつーかニヤけまくってる。

……こいつマジで病気なんじゃねーのか?

 

「まぁそれはさておき、何で俺はここに? おまえがいるってことは教会なんだろうが……何でここで寝てるのか、経緯がまったくわからん」

「ぇっ……覚えて……いらっしゃらないのですか?」

「うむ、皆目見当もつかん。というか三軒目あたりから記憶があやふやでな」

 

俺は何かやったんだろうか? 思い出そうとすると頭痛が襲ってくるわけで、全く昨日のことが思い出せん。

 

「そん……な……じゃあ、昨夜のことも……?」

「全く。というか俺何かやったのか? いや、その、何をやったのかは思い出せんが、酔っぱらいの戯言だと思って見逃してくれるとありがたいんだが……」

 

酔った末での行動とはいえ、カリムに迷惑をかけるのはまずかった。つーかこれから告白しようってときにその相手のところに酔っ払って突入するってどうよ……。

俯いているためどんな顔をしているかはわからないが、肩が震えているところをみると、物凄く怒っていらっしゃるんじゃなかろうか。

 

「戯言……そう、ですよね。あんなこと、冗談に決まってますものね。ええ、気になどしていませんとも」

「そ、そうなんだよ、冗談に決まってるじゃないか! あんなこと素面じゃできないしな!!」

 

そう言った瞬間、更に肩の震えが強くなった。いや、ほんと何やったんだ昨夜の俺。

ぬぅ、思い出せ俺の灰色の脳髄! いや、やっぱり痛いからやめて俺の脳髄!

 

「ええ、そうですね……お兄様があんなことおっしゃるはずありませんものね……ところで、やはりアルコール分解魔法をかけて差し上げます。遠慮などなさらないでください」

「いや、別に……おまえの手を煩わせることでも……」

「いいえ! やって差し上げます!!」

 

俯いたままツカツカと歩み寄り、その小さな手でガッシリと俺の頭を鷲?みにするカリム。

嫌な予感が……。

 

「ちょ、ま、っつーか痛いって! 爪! 爪が食い込んでる!?」

「では、いきます。……少し痛いかもしれませんよ?」

「いや、待ってって――ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

まるでフェイトのプラズマスマッシャ―を頭に直にブチ込まれたかのような衝撃が駆け巡り、意識が遠のいていく……最後に見えたカリムは――泣いていた。

 

「お兄様なんか、大っ嫌い!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めて最初に見えたのは、また同じ天井だった。つまるところ、あのまま放置されたらしい。しかも窓からは茜色の光が差し込んできている。かなりの時間気を失っていたんだろう。

だが、あの拷問じみた魔法は確かに効果があったらしく、既に頭痛は治っている。

しかし……カリム怒ってたな。大嫌いか……ははっ、温和なあいつが怒るぐらいだ、俺はそうとう失礼なことをやったらしい。

頭痛がなくなっても昨日のことは思い出せない。これはロッサかクロノあたりに聞いて、本格的に謝らないと。

さすがに覚えてもいないことで惚れた女に嫌われたんじゃああまりにも報われん。

とりあえずここにいてもしかたない。まずはクロノかロッサのところに行こう。

そう考えてドアを勢いよく開けた瞬間――

 

「失礼しまへヴん!?」

「……嫌な予感がするぜぇ……」

 

その予感は正に的中していた。開け放たれたドアの前には、額を押さえて涙目になっている暴力シスターと、あちゃーって顔したクロノと、なぜかボコボコな顔のロッサがいた。

よし、逃げよう。この後何が起きるか想像できる。よくてタンコブ悪くて撲殺だ。

回れ右してバレないように――

 

「どこへ、行くつもりですか?」

「すでに完全武装!? ってゆーか壁抜けできるからってこんなことに使うなよ!?」

 

すでにバリアジャケットを着込み、両腕には凶悪なトンファー。そしてその見事なデコには赤いアザが……。

 

「そこになおりなさい! あなたはどうしてこう、いつもいつも!!」

「悪かった、悪かったからデバイスはしまってくれ!」

「その前に一発殴られなさい!!」

その一発で人生が終わるわ!?

「まぁまぁ、シャッハもそれぐらいで勘弁してあげてくれよ。今は他にすることがあるだろ?」

「ぐ、し、しかたありません……また後日ということにしておきましょう」

 

バリアジャケットを解除し、デバイスをしまうシャッハ。とりあえず生き永らえたらしい。

しかしロッサとクロノを探す手間が省けたのはいいが、この暴力シスターは俺に何か用があるんだろうか? まさか昨日俺がしでかした何かについてのお説教か!?

ぬぅ、説教も嫌だが、仮に何かを壊してたとしたらアリサにも連絡が行くだろう。それは非常にマズイ。ここでの説教に加えてアリサにも説教されたあげく、来月の小遣いを減らされかねん!

 

「な、なあ、ちょっと聞きたいんだが……俺は昨日何をしでかしたんだ? その、もし何か壊しちまったんなら、弁償するからアリサには黙っててほしいかなーなんて……」

「本当に、何も覚えていないのですか?」

「ああ……よっぽどのことをしでかしたみたいでな、さっきもカリムから文字通り雷を落とされた」

「……はぁ、カリムの様子がおかしかったのはそういうことですか。――やはり一発殴らせなさい」

「だから死んでしまうっていってるだろーに!?」

「だからシャッハ落ち着いて……リョウスケ、ここからは僕とクロノ君が説明するから」

 

しぶしぶといった感じで下がるシャッハ。代わりにロッサが語り始める。昨夜俺が酔いつぶれた後、何が起きて、そして俺が何をしたかを。

 

 

 

 

 

結論から言えば、俺はカリムに告白したらしい。しかも、おまえが好きだぁぁぁぁぁおまえがほしいぃぃぃぃぃぃぃぃ!! と、大音量で、抱きしめながら。

 

「それで、カリムはそれに応えたと?」

「ああ、僕がその現場を見ていた。君はひとしきり叫んだ後、興奮しすぎて酔いが回ったんだろう、すぐに気絶したよ」

「マジか……あれ? そのときロッサは何やってたんだ?」

「……君とクロノ君を姉さんのところに行かせるために、シャッハを足止めしてたよ……」

「……いや、普通におまえじゃ無理だろ……」

「あぁ……捨て身でシャッハに抱きついて、その上から自分ごとバインドしてね……」

「だから顔がボコボコなのか……」

「うん、バインドがすぐにブレイクされて、その後マウントポジションでね……」

 

よく生きてたな……というかありがとうおまえたち。俺のためにそこまでしてくれたとは……だがしかし俺覚えてないんだよなぁ。

いや、まてよ? 俺が告白し、カリムが応えた。ここまではいい。正直いって嬉しい。昨日の俺グッジョブだ。

だが――俺はカリムに何て言った? 昨日のことは戯言だと。冗談だと、言った。

そしてカリムは……泣いていた。

 

「俺は……最低のことをしたんだな……」

「僕とクロノ君にも責任はある。だから、今は自分を責めるよりすべきことがあるんじゃないかい?」

「そう、だな……よし、カリムのとこに行ってくる! 謝って、もう一度俺の気持ちを伝えてくる!」

「姉さんなら礼拝堂にいるよ。……きっと、姉さんも君を待っているはずだ」

「待ってください!!」

 

走り出そうとしたところで、シャッハに呼び止められた。

その手には――再びデバイスが握られていた。

 

「……説教なら後でいくらでも聴いてやる」

「――剣士ミヤモト・リョウスケに、騎士として問います」

「!!」

「あなたも知っての通り騎士カリムは、これまで自らの力と役目のために、自分を犠牲にしてきました。物心ついたときから、予言とその解釈に没頭し、自分のことは二の次にして……恋愛はおろか、年頃の娘らしいことは何一つできなかった。ですが、あなたに出会ってから、騎士カリムは笑うことが多くなりました。――予言の解釈に一喜一憂することもなく、楽しそうに」

「…………」

「騎士カリムは、良くも悪くも予言を覆すあなたに惹かれていたのでしょう。泥にまみれ、血を流しながらも運命を変えてしまうあなたに。それを踏まえて、あなたに問います。あなたは、騎士カリムを護ると誓えますか? ただ護るだけではなく、決して悲しませないと誓うことが出来ますか!?」

「――はっ! 知ったこっちゃねぇよ」

「なっ!? それならばあなたを行かせるわけにはいかない!」

デバイスを構え、俺の前に立ちふさがるシャッハ。その険しい顔と、体からかすかに湧き出る魔力が、彼女の本気を物語っている。このまま進めば、おそらく全力でブン殴られるんだろう。

 

「それは、おまえに言うことじゃないだろ。その誓いを立てる相手はもう決めてるんでな」

「!? ……そうですか。それならば、私に止める理由はありません。――騎士カリムをお願いします」

「ミヤモト、忘れ物だ」

「っ! 俺の……刀」

「誓いを立てるなら、必要だろう?」

「……ありがとよ」

 

向う先は礼拝堂。

俺の気持ちを伝えるために――もう一度、誓いを立てるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

夕焼けに染まる礼拝堂。そこに、カリムはいた。膝をつき、祈りながら。

ゆっくりと近づく。カリムは振り返らない。

そして、カリムのすぐ後ろに立ったとき、ようやく彼女は立ち上がり、口を開いた。

 

「……何か、御用ですか? なければ今は一人にしておいてください」

「昨日のこと、すまなかった」

「謝る必要などありません。私が勝手に舞い上がっていただけですから……」

「俺は……」

「それに、わかっていましたから。私なんかがお兄様に愛されることなんてあるわけがないと。最初から……わかってました」

「そんなことっ――!」

「私は!! ……私は、お兄様にとって厄介な依頼を持ち込むだけの面倒な相手だと、そう思われていることもわかっていました。それにお兄様には、はやてや高町一尉、フェイト執務官のような素敵な女性がいます。私が入り込むところなんて、最初からありはしなかった……」

「……言いたいことはそれで全部か?」

「ええ……ですから、もう、帰ってください」

 

きっと今、カリムは泣いている。だから振り向かない。

だが、このまま帰るなんてできない。目の前に、惚れた女がいる。惚れた女が泣いてるんだぞ!

ならば、俺のすべきことは一つだ。俺らしく、俺の心の命じるままに!

 

「ざっけんな!」

「!!」

「俺の気持ちを勝手に決めつけるな!! 確かに最初は苦手だったさ。だがな、俺はおまえの、自分と戦う姿に憧れたんだ! 憧れて、護りたいと思ったんだ!!」

 

カリムは振り向かない。……俺の気持ちは、想いは届くだろうか。

いや、届く。届かせてみせる。ロッサとクロノが後押ししてくれた。シャッハが不甲斐ない俺に喝を入れてくれた。そして、目の前にいるカリムが、俺のせいで泣いている!

 

「はやてでも、なのはでもない! カリム。俺はおまえを護りたいんだ。災厄の予言を変えるだけじゃなく、おまえの心も護る。決して悲しませたりしない! だから……こっち向けよ」

 

ほんの僅かな沈黙の後、カリムがゆっくりと振り返った。

その顔は涙で濡れていて、ぐちゃぐちゃで……。

それでも、夕日に照らされたその顔は、キレイだった。

 

「……信じて……いいのですか? お兄様に愛されていると、そう思ってもいいのですか?」

「違うだろ。恋人同士なら――名前で呼べよ」

「リョウ、スケ」

「ああ。カリム――おまえを愛してる」

 

言い終わると同時に、カリムが飛び込んでくる。

それを受け止めて、抱きしめた。

 

「私も、愛しています――リョウスケ」

 

 

夕日に染まる礼拝堂で、俺はカリムに口付ける。

その日、俺は孤独であることを捨てて、共に歩く半身を得た。

そして――剣を捧げ、決して破られることのない誓いを立てた――

 

 

 

 

 

 

 

 

エピローグ

 

 

 

 

 

 

 

 

「母様、父様があと数分で駆け込んできます。夕飯の支度を急いだほうがいいと思います」

「あら……見えたの?」

「はい。急いでいるような様子でした。きっとおなかをすかせているに違いありません」

「あらあら……でも本当にそうかしら?」

「?」

「ふふ……父様はね、どんな予言も打ち破ってしまう人なの。もしかしたら途中でシャッハに捕まってしまうかもしれないわよ?」

「むう……父様ならありえますね……」

 

私とリョウスケとの間に生まれた子供。

髪の色はリョウスケ譲りの黒。顔たちは、私に似ていると思う。

虹色の魔力光に、数分先の未来が予言できる力。

もちろんそれは聖王由来のものではないし、予言も唐突に発動し、自分で制御することの出来ない不完全なものだ。

けれど、私は幸せだ。愛する人と共に生き、その人の子供を授かった。

もう、予言の解釈に一喜一憂することもない。

なぜならば、それを打ち破ってくれる、私だけの騎士がいるから。

遠くでシャッハの怒鳴り声がする。

あの人は予言を打ち破る騎士。孤独を捨て、私の運命を変えてくれた私だけの騎士。

だから私は、いつでも彼の帰りを笑顔で待つのだ。

そして帰ってきたら、こう言うのだ。

 

 

 

「おかえりなさい、あなた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To a you side 外伝カリムルート〜預言者の騎士〜

 

end

 

 

 

 

 

 

あとがき

うん、分量が多くなりすぎたか・・・そして遅くなりました。

カリムルートはこんな感じでいかがだったでしょうか?

子供まで登場しちゃったのはきっと常連作家さんたちのせいです(ぇ

まぁその後この子はシャッハの戦技とカリムのレアスキルと良介の日本の伝統を受け継いで、顔良し家柄良し腕強し性格外道な素敵な大人になることでしょう。

さて、次は誰のルートにするか決めてません。個人的1位のクアットロか、投票2位のディードか・・・裏をかいてスカリエッティ改心ルートか。

ではまたの機会に〜






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