パチパチ。


心地よい音をたてながら枯れ枝が燃えている。

「ゴミは燃やすに限るな」

ロングアーチの片隅で、一人の剣士が竹箒を片手にそう一人ごちる。

その剣士は、数々の武勇伝を持ち、管理局に身を置く者なら、知らぬ者はいないとさえ言われる伝説の人物。

他者の思いを現実にしてしまう『法術』と呼ばれるレアスキルの持ち主。

管理局が誇る二大エース、高町なのは一等空尉、フェイト・ハラオウン執務官が口を揃えて、「彼には勝てない」と言わしめる程の人物。

そして、機動六課を率いる若き才媛、八神はやて二等陸佐の恋人。

管理局が誇る女神達を唸らせるその人物の名は…… 

宮本良介四等陸士。

主な業務内容。

ロングアーチの清掃。

そう、彼は清掃員だったのです。 

「ったく、枯れ葉の季節が終わったら、次は枯れ枝かよ」

ぶつくさ文句を言いながらも、焚き火に集めた枯れ枝をくべる。

パチパチと枯れ枝が燃える。

火力が上がり周囲が暖気に包まれる。

寒さに凍えていた体に温もりが宿る。

「あ〜暖けぇ〜」

冬の外掃除はとにかく寒い。

こうやってゴミでも燃やしてないとやっていられない。

おかげで体は動くようになったが、まだ心が固まっている。

朝のことを思い出す。

はやても感づいていると思うが、今晩、俺ははやてにプロポーズをする。

はやての奴はすっかり忘れているみたいだが、今日はクリスマス。プロポーズするには持って来いの日。

プロポーズは前々から考えていたが、なかなか踏ん切りがつかなかった。

踏ん切りがついたのは、あの寝物語り。

彼女は不安なのだ。

そして、その不安が限界に来ている。

あの時は、なんとか言いくるめたが……

俺と同じく孤独を知る彼女は俺とは違い孤独を愛せなかった。

まぁ、俺みたく愛せる方がどうかしているが……

だから、俺は決心した。

彼女にプロポーズしよう。

孤独を捨てよう。

彼女の為の剣になろう。

そうと腹を決めれば話は早い。

全力で彼女を落とす。

彼女は、ややもすれば夢見がちな少女みたいな所がある。

要はクサイ言葉や、シチュエーションに弱いのだ。

ならば、徹底的にそこを攻める。

プロポーズの言葉から告白場所。そして渡す指輪のプレゼント。

考えに考え抜いた。

途中なんども、体中にさぶいぼがたったが、気力でねじ伏せ我慢した。

はやての為、はやての為となんども心の中で繰り返した。

そして、当日を向かえる。

朝、本局に出向すると聞いた時は心底驚いたがなんとかなった。

しかし、もう一つのミスに気付いた。

俺が緊張しまくっているのである。

朝の会話を思い出しただけでも赤面ものだ。

どうしたもんか……

焚き火にあたりながら、一人ゴチる。

ヒュー

むぅ……しかし寒いな。こう寒くちゃ、
考えもまとまらねぇ……

焚き火で体を暖めるのも限界がある。それに心の固まりは依然そのまま。

打開策を捻る良介に一つの案が浮かんだ。

スルメと日本酒。

寒空の下、焚き火で体を暖めながら、焼いたスルメで熱燗をくいっと呑む。

良いじゃないか。

まさに、日本(サラリーマン)の伝統である。

体は温まるし、この変な緊張感もなくなるだろう。

酒の勢いを借りるのは趣味じゃないが、彼女が帰ってくるまでには酔いを醒ませば問題ないし、多少残っていても……まぁ問題ないだろう。

そうと決めたら行動の早い良介は早速、休憩中(自主)に、わざわざ海鳴まで戻りスルメと日本酒を購入。

戻ってきてすぐに焚き火であぶり始める。

しばらくするとスルメの香ばしい匂いと、日本酒の良い香りが漂い始める。

まず一杯。

冷えた体に暖かさが宿る。

五臓六腑に染み渡る。

こんなに美味い一杯は久し振りだ。

スルメを一口。

美味すぎる。

至福の一時だった。

スルメを噛んでいるうちに緊張もほぐれてきた。

これで終われば、まぁ問題はなかった。

しかし、我らが宮本良介はそんな事で済ませる筈が無かった。

たまたま近くを通ったヴァイスが一杯やっている良介を見つけた。

「旦那なにしてるんですか?」

「おお、ヴァイスか、一杯やるか?」

「だっ旦那……仕事中に酒は不味くないですか。ってかなんで呑んでいるんすか」

さすがに、はやてにプロポーズする為の景気付けとは言えず、

「良いか、よく聞けヴァイス。こんな寒さじゃ、体が固まっちまって仕事が出来なくなる。要はアレだ。錆びて動きにくくなった機械に油を挿して動き易くしているのと変わらないんだよ」

と苦し紛れの素敵な詭弁を吐く良介。

「……確かに、こう寒くては油を挿さなくっちゃ不味いですね」

しかしそれに、ニヤリと実に邪悪な笑みを浮かべて賛同するヴァイス。

最初は二人でほのぼのと呑んでいた。

しかし、杯が進むに連れて、だんだん悪酔いし始めてきた。

通る連中通る連中を片っ端から引き込んでいき、参加人数を雪だるま方式に増やしていった。

人数が増えれば、酒や食い物も足りなくなる。野郎だけの酒宴じゃ華がない。

そこからは、我らが宮本良介の真骨頂。

やれ、酒を持ってこい。

やれ、食い物を持ってこい。

やれ、女性の局員を呼んでこい。

やれ、メロンを山のように持ってこい。

しまいには、

「面倒くせぇから、片っ端から俺んとこ持ってこい!」

と途轍もない大号令を発してしまった。

さらに、間が悪いことに、六課の部隊長を始め、隊長、副隊長達は本局の方に出向しており、諫めるべき立場の人間が誰一人としていなかった。

そして、天敵とも呼べるギンガはその日は非番だった。

結果、ロングアーチの隅っこで始まった小さな焚き火と小さな酒宴は、いつの間にか、天をも焦がさんと燃え盛る巨大な火柱と化し、何百人もの隊員達が参加する大宴会となってしまった。

しかも、陸だけに留まらず海や空の連中までいる。

縄張りも階級も男も女も関係ない。

無礼講も無礼講。

まさに、狂乱の大宴会だった。

その狂乱の中心で良介は『王』だった。 
女性局員に囲まれ、メロンをあ〜んと食べさせて貰っていた。 

良介自身気付いてはいないが、彼は意外に女性局員にモテていた。

規則や上下関係にうるさい管理局の中にあって、自由奔放に生きている(ように見える)彼はとても魅力的であった。

しかし、彼には八神はやてという彼女がいた。

若き才媛であり、美の女神が裸足で逃げ出すほどの美貌の持ち主。

とてもじゃないが、彼女達に正面から張り合える自信はなかった。 

しかし、鬼の居ぬ間になんとやら。 

酒の力も手伝って、彼女達は良介に大胆に迫っていた。

中には本気で良介を落としに掛かっている者もいる。

良介自身、浮気をするつもりは毛頭無いが、それはそれ。

沢山の女性から、ちやほやされて悪い気はしない。

また、男性局員達も口々に、 

「旦那はやっぱり違うな〜」

「宮本の兄貴は凄いっす!」

「宮本の兄ィにはかなわなねぇ」

と囃子立てる。 

誰かが調子に乗って、

「誰が、兄貴を四等陸士なんかにしたんだ!兄貴こそ、機動六課のボスじゃないですか!」

「おい、若造それは違うぞ、兄ィは提督の位の方が似合う!クロノなんて堅物な野郎より、よっぽど良いに決まってらぁ!兄ィ、俺達の艦の提督をやってくだせぇ!」

「馬鹿やろう!宮本兄さんが提督なんてちっぽけな器か!宮本兄さんは、時空管理局の局長さ!宮本兄さん!管理局のトップになってください。」

「旦那!よりどりみどりですぜ。機動六課のボスから、提督、局長……いや、やっぱり親分らしく、四等提督や四等局長が良いんじゃないですかい?」

「ヴァイス!頭出せ!」

「旦那すいませ〜ん」

ポカリとヴァイスの頭を叩き、良介は周りに向かって宣言する。 

「馬鹿やろう!俺が時空管理局なんてちっぽけな組織に収まる玉だと思うなよ!俺は天下を掴む剣士だぜ!俺に相応しい立場ってのはな……」

「立場とは?」

皆が示し合わせたかのように合唱して聞き返す。

ああまで大風呂敷を広げた以上、なにか途轍もない事を言わなくてはならない。 

しかし、このミッドチルダにおいて、それこそ絶対的なものはあるだろうか? 

しばし黙考して閃いた。 

「聖王よ!」

「あっ兄貴、聖王ってあの聖王ですか!?」

「おおよ!その証拠を見せてやる」

精神を集中させ、法術を発動させようとする。 

もちろん発動する訳がないが、良介の周りに虹色の魔力光が立ち込める。

虹色の魔力光は聖王のみに許された光。

ミッドチルダに住むものなら誰もが知っている話。 

しかし、目の前の男はそれを発動させた。

もちろん、良介はそんな素晴らしい血統を引いているわけではなく、聖王とは縁もゆかりもない、まったくのホラなのだが……

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!兄貴は聖王だったのかぁ!」

酔っ払い共を盛り上げるには十分だった。

聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!聖王!

鳴り止まない聖王コール。 

しかし、誰かが、 

「いや、四等聖王だ!」

と言い放ち、爆笑の渦を誘い。 

四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!四等聖王!


鳴り止まない四等聖王コール。

「いきなり、降格かよ!四等聖王なんて聞いたことねーぞ!」

「はっはっはっ!やっぱり旦那は四等ってつかないとしっくり来ないみたいですな」

「えっ!?それ何気に酷くない!」

「旦那!細かい事を気にしたら負けですぜ」

「いや、細かくねぇーだろ!」

そんなやりとりがまた爆笑を誘う。

今宵は無礼講。

縄張りも階級も男も女も関係ない。

皆、腹の底から笑い、呑めや歌えやの大宴会。

楽しい一時の夢を見よう。 

ん……あれ?なにか忘れてなかったっけ俺?

まっいいか、ガハハハハ!

……

何とはなしにはやては、窓の外を見るた 
息が止まる。

心なしか明るいと思っていたロングアーチから巨大な火柱が見えた。 

機動六課襲撃事件を思い出す。

しかし、今回はそれより最悪の状態だ。 
なのはちゃんを始めとするエース級は全て出払っており、残っているのは、新人と事務員、そして良介だけである。

火柱の大きさから見て大規模な攻撃だろう。

他の皆も、外の火柱に気付き顔色を変える。 

悩んでいる暇はない。

即座に車から降りる。

良介、死なんといて……無事でいて!!

ただ、それだけを願い……

夜天の主が夜空を駆ける。

そして、彼女は見た。

社会人のけじめをゴミ箱に放り投げたような集団を。

その集団の中心で、『あんたが聖王(四等)』と書かれた謎のたすきを掛けて、女性局員に囲まれ鼻の下を伸ばしまくっている(ように見える)最愛の人。

ふつふつと怒りが沸いてくる。

取り敢えずこの馬鹿騒ぎを起こしたであろう首謀者と、馬鹿騒ぎに参加した馬鹿者達に頭を冷やして貰わないと……

眼下では、私の存在に気付かずに鼻の下を伸ばしまくっている(ように見える)良介が女性局員に、あ〜んをして貰いながらメロンを食べていた。

しかも口移し。

よく見れば、顔中にキスマークを貼り付けている。

ブチッ!

頭のなかで何かが切れた音がした。

そして……

馬鹿者達の宴に終焉を知らせる笛の音が鳴り響いた。

……

「「「「「「「「メリークリスマス!」」」」」」」」

パンパンとクラッカーが鳴り響き、ポンポンとシャンパンの栓が飛ぶ。

テーブルの上にはケーキや七面鳥などが並びまさにクリスマス一色。

「今日はクリスマス……と言いたいけど、時間的にはもう26日や。でも、私の家のクリスマスパーティーへようこそ。なのはちゃんもフェイトちゃんも歓迎するわ」

「あっありがとう、はやてちゃん……そっその兄さんを……」

「いいんや!良い薬やから」

「それに、あの人達……」

「それもいいんや!本来なら厳罰もののところを、あれですましてるんやから」

なのはとフェイトは窓の外を見る。

それは壮観な光景だった。

はやとの家の前に陸・海・空の局員が綺麗に整列をして正座をしていた。

そして、その中心で、キリストのように十字架に磔にされている宮本良介。 

ヴィヴィオが、 

「パパがお星様みたい」

と良介を指差しキャッキャと騒いでいる。 

なのはもフェイトも、せっかくのクリスマスパーティーを、こんな怪しげ空間で過ごしたくないのではやてを説得するが、はやては頑として許さなかった。 

……

あの後、なのは達が駆けつけるまでの間になにが起きたのかは分からないが、二人の間に何かあったらしい。

ただ言えることは、はやてが真っ赤な顔で良介を 

(o ̄∇ ̄)=○)`ν゜)・;'.、

こうしていた。 

……

「良介には良い薬や。それに、私を待たせすぎた罰や」

はやての左薬指に光る指輪。 

なのはとフェイトがあっと気付く。


あとがき 

メリークリスマス!

……っへ?もう新年?

そんなの関係ねぇ!そんなの関係ねぇ!

と開き直りたいのですが……

大変遅れて申し訳ありません。

m(_ _)m 

次はもっとパッパッと書き上げますので見捨てないでくだせぇ。







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