はやて達、機動六課の主な面々は朝から本局に出向していた。
本局での仕事は多忙を窮め、帰りの車の中でなのは達はだらけきっていた。
間違っても職場ではこんな格好は見せられないが、今は勝手知ったる昔からの仲間しかいない。
なのはやフェイトは、ネクタイを緩め、取り留めのない話をして笑いあっている。
ヴィータはクークーと可愛い寝息を立ててシャマルの膝を枕にして寝ている。
シャマルはそんなヴィータを微笑ましそうに眺めながら、髪を優しく撫でている。
シグナム、ザフィーラは、いつもと変わらない風に見えるが、長年の付き合いから、彼らがリラックスしているのがよく分かった。
そんな中、八神はやてだけが、落ち着きなく、ずっとそわそわしていた。
なのは達は、心配して声を掛けるが、
「なっなんでもない」
と答えるのみで取り付くしまがなかった。
今をさかのぼること、十数時間前。
……
…
今日は朝から本局での仕事があるので、早朝からはやて達は慌ただしく準備をしていた。
そんな忙しい朝の風景の中、いつも通り……より、やや硬めの大好きな人の声。
「おっおはよう、はやて」
どうしたのかと、疑問に思うも、仕事の時間が差し迫っているので必要な事だけを伝えることにする。
「おはよう良介。今日は朝から本局で仕事やから、朝食はもう作っといたで」
「なっ!とっ泊まりの仕事か?」
仕事の都合で家を空けることはよくあるけど、それで良介が驚いた事はなかった。ますます持って今日の良介の態度はおかしい。
「えっ?そんなことあらへんけど……でも遅くはなるよ」
返答を聞くや、ほっと一安心する良介。
う〜ん、一体どうしたんやろ?
取りあえずボケてみて良介の出方を伺ってみる。
「どうしたん?あっ!さては私が居なくて寂しいんやろ」
「馬鹿、そんなんじゃねぇよ。ただ……」
一息つき、急に真面目な顔になる。
その顔にドキッとする。
なっなんや一体……
「今晩、お前に伝えたい事があるから、必ず今日中に帰ってきてくれ」
そっそれってもしかして!プップロポー…「主はやて、準備は整いましたか?」
「ひゃひゃい!?でっ出来とるよ。すぐ行くから」
「そうか、じゃあ今晩な」
「うっうん。絶対に帰ってくるから」
……
…
今日は一日中大変だった。
気を抜けば顔は緩み、頭は隙あらば良介の事ばかり考えてしまう。
おかげで、今日の仕事は二重の意味で疲れた。
しかし、帰ってからの良介の話を想像するだけで、力が湧いてくる。
さぁ、もう一踏ん張りだ。
後はロングアーチで簡単な書類を書くだけ。
まだや、まだ、仕事は終わってない。
公私のけじめはつけなきゃあかん。
八神はやてが八神はやて二等陸佐に顔になる。
いくらホームグラウンドと言っても、部下達の前でだらしのない格好は出来ない。
それは、社会人としてのけじめである。
あの良介ですら、仕事中は公私の区別はつけている。
そう、あの宮本良介が……
改めて自分の恋人を思い出す。
孤独を愛し、雲のようにふわふわと掴み所なく、目を離すと、すぐにどこかに行ってしまうような人物。
間違っても、管理局に向いている人物ではない。
昔の彼なら、とうの昔に辞めていただろう。
しかし、彼は辞めなかった。
表面上こそ、自由気ままに振る舞ってはいるが、色々な所で感情を押し殺しながら……
理由は分かっている。
私の為に……
私の力になる為に……
私の傍にいる為に……
あの約束を守るために……
それどころか、私の為を思い、なのはちゃん達とワザと距離を取った事さえあった
それもこれも、全て私の為に……
良介が傷付いているのは知っている。
それでも、嬉しかった。
涙が出る程、嬉しかった。
彼にそこまで愛されているという事が心の底から嬉しかった。
その思いにどうすれば応えられるだろう。
真剣に悩み、考えた。
彼を愛する。
それは当たり前。
傷付いている彼を気遣う。
彼の思いやプライドを踏みにじる行為。
そして、一つの答えにたどり着いた。
機動六課をさらなる高みへと引っ張り上げる。
沢山の功績を挙げ、聖王教会を始め様々な後ろ盾やスポンサーもいるが、まだまだ機動六課への風当たりは強い。
しかし、そんな風当たりも起きない程の高みに上がれば……
私は、良介の為に、堂々とえこひいきをするだろう。
良介の為に堂々と職権を乱用するだろう。
だから、待っていて。
傷付き、己を殺し、四等陸士なんてふざけた階級に甘んじていて。
そんな辛さなんて吹き飛ばしてしまう程の幸せを運んで来るから。
問答無用で幸せにするから。
だから、支えていて。
だから、今は私の愛だけで我慢していて。
そい私の愛だけで……
そう彼は、私を選んでくれた。
なのはちゃん、フェイトちゃんを始め、彼に思いを寄せる女性は沢山いる
しかも、皆、美人ばかり。
それに、レリック事件においては、管理局に敵対している連中……ナンバーズと呼ばれる戦闘機人まで骨抜きにしている。
いつも、ハラハラしていた。
いつか、捨てられてしまうのではないかと疑心暗鬼に陥った事もあった。
彼の本性は雲や鳥だ。
目を離せば、私のもとから飛び去ってしまう。
彼を追いかける。
それは無理。
良介が雲や鳥なら、私の本性は木だと自分で考えている。
大地にしっかりと根を張った木。
彼のように、自由に飛び回ることは出来ない。
木が鳥に恋をしても、鳥が飽きれば飛び立ってしまう。
ならば、私は枝や蔓で彼をがんじからめにしよう。
二度と大空を舞えないように……
他の所に飛び移らないように……
そんな暗い考えを募らせたこともあった。
そして、その思いが募りすぎて、私は爆発した。
ある夜の寝物語。
彼の腕枕で休みながら、その事を話した。
彼の出方が気になった。
出方次第では、私は彼の事を……
思い詰める私に、彼はあいている左手で拳骨を落とす。
「痛っ!?」
「馬鹿、なにを思い詰めてるかと思ったら……ハァ……」
「なっなにが、ハァや!私は、私は良介がおらんかったら、駄目なんや」
「……わかった」
「えっ?」
「はやて、俺の足をぶった斬るなり、俺を殺せ。そうすりゃ二度とお前のもとから離れないよ。というか、離れられないな」
予想外の答えに戸惑う。
「えっえっ?」
「なんだ?こう答えて欲しかったんじゃないのか?ほら」
そういって私に足を向ける。
「ちっ違う!私は、こんな……」
「俺だってやだよ」
「えっ?」
「俺はお前を支えてやりたい。それには足も必要だし、まず第一に生きてなきゃ支えてやれねぇ……
でも、俺が生きていることが、お前の不安になるなら、俺は死んでも構わない」
「違う!私はそんな事望んでない!思ってない!」
「なら、俺を信じてくれ。お前が俺を思うように、俺もお前を思ってる」
「りょう……す……け……」
「俺の事を鳥みたいって言ったけどな、それなら俺は、啄木鳥(きつつき)だ。
お前に捨てられたって、無理矢理、木に穴開けて住み着いてやるからな」
そう言って私を抱きしめてくれた。
嬉し過ぎて感情という感情が氾濫して、彼に抱きつき、泣いてしまった。
その後は、お互いの気持ちが高まり……
いや〜あれは凄かったな〜
太陽が真っ黄色やもん。
職場に行ったら、
「あれ?八神部隊長、妙にテカテカしてませんか?ってうわっ!宮本さん大丈夫ですか!?なんかミイラみたいですよ!?」
もう、なに言うねん!!
そうや!今晩も沢山、良介に……
「あの……はやてちゃん……よだれ……垂れてるよ……」
「はやて……思いっきり鼻の下が伸びてるよ……」
「あっ主はやて……そろそろ着きますので……」
「やっぱり、目隠しと……へっ!?あっああ、なっなんや?」
「そっ、そろそろ着きますので、よだれを……」
「えっと……それより目隠しって……?」
「はやて……誰かを尋問でもするの?」
「うへぇ!?私もしかして……口に出しとった!?」
「あらあら、はやてちゃんも過激ね〜」
「あっはははははは……え〜っと……そや、ほら、やっぱり仮眠をとるには目隠しは必須やな〜って……」
「はやて……それを言うなら、アイマスクだよ」
「そっそうやなぁ〜……ナッナイス突っ込みやで、フェイトちゃん……」
「もっもしかして、はやてちゃん……」
「クスクス、確かに寝るには『アイマスク』が必要ですよね」
素で突っ込みを入れるフェイト。
何かに気付き顔を真っ赤にするなのは。
シャマルは、なんとも含みのあるセリフを吐く。
話について行けれずオロオロと見ているシグナム。
そんなプチカオスな空間に渋い声が響き渡る。
「主、そろそろロングアーチに到着します。他の皆も、騒いでないでシャキッとしたらどうだ」
言外に主にも注意を促す、ザフィーラ。
その一言に、皆、格好を正し、管理局で重責を担う顔になる。
カオスな空間は消え去り、程よく張り詰めた空間になる。
心の中でザフィーラに感謝する。
さて、ロングアーチに戻ろう。
さっさと仕事を終えて、良介のもとに帰ろう。
待っててや良介。
ロングアーチが見えてきた。
心なしか、いつもより輝いて明るく見える。
きっと、私達の未来を祝うかのように……
あとがき
はい、クリスマスSSと言っといてクリスマスらしさゼロで送るはやてのクリスマスSS。
「なめてんのか貴様!」
と突っ込まれる方々。
安心してくだせぇ。
次回予告。
紅蓮の炎に包まれるはやての未来。
陸・海・空、全ての管理局員が動くとき、聖王が目覚める。
修羅場の中心で良介はなにを叫ぶのか。
はやてへの愛か、未来か……
管理局を揺るがす、騒乱のクリスマス。
NEXT『はやてクリスマス追加小説メリークルシミマス』
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追加あとがき
「名無しAS君、今日(23)、明日(24)、明後日(25)出勤and残業、やらないか」
「アッー!」