この話は、犬吉さん作品「シャドウダンサー」「シャドウブレイカー」の三次創作にあたる竜魔武芸帳の裏話です。
内容は、救われない男の救いのない話であり、読み手を分ける作品であります。
それでも読まれる方だけ、読まれてください。

















「あと二年……あと二年で俺は……」








それは慟哭。








「いや、年で考えていけない。日数だ。日数で考えるんだ」

苦しいまでの屁理屈。


「あと730日で俺は……俺は……」







自分さえ騙せない嘘。 








「魔法使いになってしまう……」




裏・竜魔武芸帳……改め、魔法使いを回避せよ。



竜魔衆頭領辰守束音は悩んでいた。

そう、目の前に迫る30歳、三十路という大台に。

そして女性経験が皆無なことに。

それすなわち、魔法使いにジョブチェンジしてしまう。

「冗談じゃねーぞ、俺は竜魔の忍だ。間違っても魔法使いなんかじゃない!」

そう天に向かって吠える束音。
それに呼応するかのように聞こえるネ申の声(幻聴)


『ならば、魔法忍者になれば良かろう』

「なにが魔法忍者だ!そんな素敵過ぎる職業まっぴらごめんだ!」

『竜魔の魔は魔法使いの魔』

「謝って!俺はもとより竜魔衆に謝って!」 

『お主は竜魔の中でも強き竜魔。お主も知っておるだろう、最強と名高き伝説の竜魔、瑠璃丸を。かのものも強く、そして女運がなかった。同年代のおなごは勿論のこと、かのものがストライクゾーンだと思うおなご、全てに縁がなかった。そしてかのものは出会ってしまった。幼女に。青過ぎる果実に手を出してしまったのだ!あの当時、瑠璃丸は里の者たちから、尊敬と畏怖と若干の生暖かさを込めて「ロリ丸」と呼ばれておった』

「知りたくなかった。そんな真実知りたくなかった!ってかあれか!俺もロリ……じゃなかった、瑠璃丸様見たくロリコンに走ると思ってるのか!ふざけるな!竜魔は常に紳士たれ!『YESロリコン!NOタッチ』と言う尊い教えがあるわ」


「ママー、束音様がお空に向かって吼えてるの。鳥さんとお喋りしてるのかなぁ」

「しっ!指を指しちゃいけません。……束音様、いいえ、男の人にはああしなければやっていけない時もあるのよ」 

「そーなんだぁ」



それは焦りか油断か焦燥か…… 

「任務……完了」

目当ての宝玉を確保した束音は、施設の警備も完全に沈黙させ、脱出ルートも確保済みなことから、珍しく油断していた。 

「……今回の任務も出会いはなかった……なぜ、なぜ連音ばかりが……」

連音が頭領である束音に任務についての詳細な報告書を提出するときには、ほとんどの確率で協力者名前――大半が女性――が乗っている。 
しかも写真や映像を見る限りではシグナム、シャマル、リンディ、アルフといった見目麗しい女性から、なのは、フェイト、はやて、ヴィータ、すずか、アリサといった将来が約束された美少女達まで、まさにパラダイス。
リア充乙。

しかも、報告書に記載されている内容。 
例えば会話内容や映像などを見る限り、何人かの娘達は連音に惚れている。
しかも、弟はそれに気付いていない。

まさにそれなんてエロゲ。

連音もげろ、と言いたくもなる。

「まさかあいつが俺の女運を根こそぎ持っていったのか」

そんなしょーもない事を考えていたせいか、異変に気付くのに遅れてしまった。

確保した宝玉が、淡く光だしたことに。

気付いたときにはもう遅く、激しい光となって束音を包み込んでしまった。









ナンバーズ6、セインは焦っていた。

本来ならば簡単な任務であり、自身の特殊スキル――IS『ディープダイバー』を使えば楽勝な任務の筈であった。

警備兵が交代で切り替わる僅かな時間を利用して目標物を確保しようとしていた。 

地面の下で機会を窺うセイン。

そして事件は起こった。

眩いばかりの光が発生するや、光の中から現れる、黒衣の男。

異変を察知した警備兵は慌てて男を排除しようとするが、目にも止まらぬ早業で警備兵を無力化する男。

トーレ姉さんより早いかも。

あんな現れ方をしたのは潜入工作員としては落第点ものだが、目標物は一緒の筈だと思った。

だが、あの早さを出し抜ける自信はない。

ならばディープダイバーによる地面からの奇襲で一撃で倒さなければならない。

右手に握るナイフに力が籠もり、自然に息が荒くなる。

訓練は積んできたが、実戦は初めてである。

セイン自身、自身のISにより、戦闘をする機会が皆無であり、ドクターや姉達も彼女には戦闘による成果など期待してはいない。
セイン自身、それを不満に思っている反面、自分にしか出来ない役割と割り切ってこなしていた。 

いくら素早ても背後から襲えば……

荒くなる息を殺して、背後に回る。

破裂しそうになる心臓を抑えながら、訓練通り、訓練通りと念を押し、男の心臓目掛けて飛び出した 。

瞬間、視界が高速で回転して、なにがなんだか分からない内に、背中に強烈な衝撃を受けた。

衝撃とダメージなにより、とっさの出来事により体はもとより思考が追いつかない。
しかし一つだけ分かったことがある。

負けたこと。

どんな手品を使われたのかは分からなかったが、一撃で負けてしまったこと。

勝者である黒衣の男を見る。

殺されるのか、捕まえられるのか、それとも放置されるのか。いずれにしろ明るい未来がないことだけは分かった。

男と目があった。

そこで違和感に気付く。

この人、困惑してる……?

瞳をキョロキョロと動かし、落ち着きがない。

なんなんだろうと不思議に思っていると、男が話し掛けてきた。

「あの警備員さん、いきなり投げてしまって申し訳ない。というかここはどこなんですか?そして俺は誰?」

「……へっ!?」

後にセインは語る。

あれほど間抜けな出会いは、生まれて初めてであり、これからも起こることはないだろう。

ただ……








彼に出会えたことだけは……









神に感謝した……と。


……

青い髪の少女、セインと共に脱出した記憶喪失の束音。

「あなた……本当に記憶喪失なの?」

「ああ、なにも分からない。気付いたら、あの場所に現れて……」

「の割には鮮やかな、馴れた手つきで武装した警備兵をやっつけてるわね。背後から襲った私まで叩きつけてくれちゃって」

「いや、いきなり目の前で武装した人達が襲ってきたんだ。頭は真っ白さ。ただ体が自然に動いてな。それにセインさんに襲われたときも、なんかピーンときて、体が勝手に……」

「ピーンってあなた……本当に人間?」

「人間だ!……たぶん」

束音自身も、自分の常識外れの動きに、人間だ、と強く言い切れないところもあった。

「まぁ、そんなことどうでもいいか、あとセインで良いよ。どう見たってあなたの方が年上だし……う〜ん、30歳くらい?」

「違う!断じて30なんかじゃない!俺は20だ!断じて30ではない!」

「きゃぁ!いっいきなり怒鳴らないでよ!でもどう見ても20には……」

「俺は20だ!」


記憶を失った束音。しかし、幼き頃より体に刻み付けた竜魔の技は体は忘れてはいなかった。
だが、記憶があったときの束音と比較すれば悲しいほどのレベルダウンでもある。
そして年に対しても記憶はなくとも魂が
覚えていたらしい。



「刀が二本に手裏剣に苦内が山ほど。私が言うのもおかしいけど随分と物騒だね」

「それにこの格好、まるで忍者だ」

「そう言えばそうね。よしっこれからあなたの名前は忍者に決定」

「えっ!?ちょっおまっ!?」

「大丈夫。ミッドチルダには忍者なんていないし、立派な名前だよ。……たぶん」

「おい、今たぶんって言ったよな、たぶんって」

「そんなことより」

「俺の名前がそんなこと!?」

「もちろん、このミッドチルダに知り合いは居ないだろうし、お金も持ってないよね」

「ああ、ないな。すまないが、警察がどこにあるか知らないか?」

「保護してもらうつもり?やめといた方が良いよ。忍者がのした警備兵って管理局……まぁ警察関係者だよ。あの格好だったから、バレてはないと思うけど、捕まる可能性だってあるんだよ」

「え゛っ!?」

「そんな詰んでる忍者に朗報です。三食昼寝付き、もちろん宿代、食費がタダな物件がございま〜す」

「なに!?」

「私のセーフハウスに住みなよ。まぁ今受けてる任務を達成するまでの間だけだけど。半年は大丈夫だよ」

「……随分と美味い話だな。それに危機感はないのか?いくら記憶喪失で寄る辺が無いとはいえ、男と女が一つ屋根の下で……」

「本当に襲う気がある人なら、そんなこと言わないよ。それに万が一襲ってきたら」

「きたら?」

「地中に逃げる。忍者は追ってこれる?」

「ああ、それは無理だ。分かった世話になろう」

「その代わり、私に稽古をつけること」

「へっ?稽古?」

「忍者は強いでしょ。だから私に稽古をつけてよ」

「いや、そんなこと言っても、体が勝手に動いているだけど、詳しい理屈とかは」

「それでも良いの。動きを見れば、理解は出来る。戦闘機人を舐めないで」

戦闘機人と聞き慣れぬ単語が混じってはいたが、セインがそう強く主張するのなら、是非もない。
家主には頭が上がる筈もない。 

「分かった。引き受けよう」

「やったー!それじゃあ早速……あっ!」

「どうした?」

「ない。ない。ない。私のナイフがない!」

「もしかして、あそこに落としてきたのか」

「……かもしれない。はぁ〜お気に入りだったのに」

さい先、悪過ぎとへこむセイン。

「宿代代わりにこれをやるよ。替わり使ってくれ」

ポンと二振りある刀の内の一振りを渡す

「えっ良いの?刃物の事は詳しくは知らないけど、素人目で見ても明らかな業物だよ、これ」

「良いよ、二本あるんだし。第一刀の使い方なんて覚えてないからな。セインと稽古しながら思い出すかね」

「……うん。ありがとう。それじゃ早速行こうか」


こうして始まった奇妙な共同生活。

記憶をなくしたが故に竜魔の技を教える事に躊躇いを覚えない束音。

戦力向上を望みまた戦闘機人ゆえのハイスペックさで、驚異の速度で竜魔の技を吸収していくセイン。

門外不出の竜魔の技。

それは約束された悲劇への幕開け。

遠くない未来に現れる弟達と、くるくる巡る血みどろの舞台。

記憶を失った竜魔と竜魔を受け継いだYを冠する少女。

幕が閉じるその瞬間、悲劇は喜劇へと変わるだろうか。

台本は彼らに託された。

願わくば喜劇の終わりを。

ただ今だけは、二人の竜魔に安らかな休息を――















セインがメインヒロイン。

やっと書きたかったセインがヒロインの物語。
私はリリカルで一番好きなキャラはセインです。
束音×セイン
種は撒いた、あとは犬吉さんが大きな花を咲かせてくれるでしょう。犬吉さんが。大切なことなので二回言いました)ちらっ








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