このSSは、「ユメノツヅキ」の続編SSです。







ギンガはクラナガンの街をあてもなくブラブラと歩いていた。

1ヶ月の停職処分により、ギンガは時間を持て余していた。

あの事件以降、仕事以外の時間が嫌で仕方がなかった。

仕事があった時は良い。それに集中して他の考えなんて浮かばなかったから。 

しかし、仕事が終われば、頭に浮かぶのは宮本良介の事ばかりだった。

彼の死に顔が頭から離れなかった。

眠れば、決まって彼を貫く夢ばかりを見た。 

彼を貫いた時の感触を毎晩思い出した。

それでも仕事があったから、彼女は頑張ってこれた。

しかし、その唯一の休息時間も期限付きではあるが無くなってしまった。

停職中は自宅謹慎であるが、一日中家の中に閉じこもっていると、

只でさえマイナスに傾いている思考がもっとマイナスな傾いてしまい、日々心身共にやつれていくのが分かった。

ゲンヤは見るに見かねて、この状況を打破しようと、一計を案じた。

スバルの見舞い。

現在、スバルは重度の過労と訓練中の事故により入院中。だが、そのことをギンガには伝えてはいなかった。

ギンガの為を思って。

諸刃の剣になるかも知れないと思いもしたが、それしか方法がないと思い決断した。

身内の見舞いなら立派な理由になり、外出が出来る。

災い転じて福となす、とはよく言ったものだが、これほどの皮肉もあるまい。

ゲンヤは一人苦い顔をしていた。

翌日、ギンガに、スバルの事を全て任せる。毎日見舞いには行くように、と言付けた。

ギンガは馬鹿ではない、父の本心にすぐ気付いた。

しかしそれを突っ込むほど野暮ではなかった。

いくら私の為とはいえ、怪我をしているスバルをダシに使った事に対する罪悪感がありありと顔に浮かんでいたからだった。

スバルを見舞う病院通いの日々が始まった。

見舞い初日、あの元気の塊であるような妹が、人が変わったように静かになり、まるで抜け殻みたいになっていたのには驚いた。

と言っても、今のギンガも抜け殻みたいなものであり、抜け殻同士、会話も弾む訳もなく、結局10分ぐらいで病室を後にした。

しかし、このまま帰っては、あまりに意味が無く、ゲンヤの好意を潰してしまう。

そこでギンガはあてもなくブラブラ街を歩き始めた。

首都クラナガン。

この街を舞台に彼と鬼ごっこを繰り広げていた。

この路地は、よく彼が使っていた逃走経路の一つ。

このゴミ箱は、私から逃げるために隠れていたゴミ箱。

この、この、この、この、この、この、この、この。

この街には彼との、宮本良介との思い出が多すぎた。

しかし、家に居る時に見る陰惨なものではなく、どこか楽しげな思い出ばかりだった。

少しだけ心が軽くなった。

以降、ギンガはブラブラと街を歩くことを日課にした。

ギンガは血色もよくなり、食欲も増してきた。

と言っても、まだまだ安心出来る状態とは程遠かった。

話を冒頭に戻す。

ギンガはクラナガンの街をあてもなくブラブラと歩いていた。

彼との思い出に浸りながら。

そして、今日は別の事も考えていた。 

自分の気持ちについて。 

思い起こせば、彼が生きていた時は、四六時中、彼の事を考えていた。

次はどうやって捕まえてやろう。 

次はどうやって説教してやろう。

誰にも言っていないが、彼を追いかけ捕まえて説教する夢もよく見ていた。

腹が立つ時もあったが、どこか憎めない彼。

嘘もよく吐き、問題ばかり起こすが、悪人ではなかった。

どうすれば更正してくれるだろう。

私がどんなに真面目に話をしても右から左な聞き流すだけ。

頭にきて、殴った数も数えきれない。

それでも、彼と過ごす時間は楽しくあっと言う間に過ぎていった。

彼が亡くなった後も、頭の中は彼の事ばかりだった。

なぜ、彼の事ばかり。

深く自問するうちに一つの答えにたどり着いた。

今更ながら気付いた自分の本当の気持ちに。 

彼を愛していたことに。 

気付くのが遅すぎた答えだった。

彼はもうこの世にはいない。

殺したのは自分。

一生担がなくてはいけない十字架を背負ってしまった。


気付いたら、公園の中に足を踏み入れていた。

ここは……ああ、あの公園か……

停職のきっかけでもある、無許可の露天営業の取締りをした公園。

あの絵描きには悪い事をしたと思った。 
なぜ、絵描きを殴ってしまったのか。

答えは簡単だった。

この公園で、彼もよく似顔絵を書いていたから。

そして、絵描きが陣取っていた場所は彼がよく使っていた場所だったから。

ただそれだけ。

後は、絵描きが文句を言ってきた時に全ての感情が爆発してしまった。

八つ当たりも良いところ。

改めて公園を眺める。

あの取締りが功を奏したのか、はたまた絵描きを殴り飛ばしたのが功を奏したのか分からないが、

露天はもちろんのこと、人も全然居なかった。

いや、一人だけいた。

あの場所に陣取って、絵を書いていた。 
足元に空き缶を置き、『似顔絵書きます』と書いてある立て札があった。 

あの取締りの後に、よりにもよって、あの場所で絵描きをするなんて…… 

よっぽどの馬鹿か、はたまた大物か……

ギンガは、その絵描きに興味を持った。 
茶色いフードを被り、人相は特定できないが、フード越しにも解るガッチリとした体格。

どうやら男みたいだ。しかもかなりの修練を積んでいる事がフード越しにも解った。

そこまで考えて、ハッと気付いた。

停職中であることに。

職業病もここまで来れば立派な病気だと思い、観察する事を止めた。

もし、ここで観察を止めなければ、気付いていたかもしれない。

絵描きに近づいた。 

「すいません、一枚書いて貰えますか」

絵描きは無言で、こちらも見ずに絵を描き始めた。

無愛想なのは我慢出来るが、こちらを一瞥もせずに似顔絵を書くとはどういう了見だろう。

しかし、先日、八つ当たりにも似た感情で、絵描きを殴り飛ばしたのに、また同じ場所で、絵描きと揉めてはどうしようもない。

絵が出来上がったら、よっぽどの出来でもなければ、皮肉の一つでも言ってやろうと思った。 

あーあ、失敗したなぁ…… 

シャーシャー。

紙と鉛筆の擦り合う音だけが公園に響き渡る。

その音が、ギンガにまた一つ良介との思い出を思い出させた。 

彼が露天で絵描きをしていた時、非番の日を見つけて、似顔絵を描いて貰おうとした。 

しかし、彼は私の姿を見るや、血相を変えて逃げ出した。

そんなに私の顔が怖かったのだろうか

寂しかった。 

彼の書いた私の似顔絵が欲しかった。

今となっては、叶わぬ夢であるが……


鉛筆の音が止んだ。

どうやら絵が完成したみたいだ。 

絵描きが無言で絵を渡す。

期待はしていないが、それでも気にはなる。 

絵を見て驚いた。

特にすばらしい技術があるわけではない、どこにでもある凡庸な絵。

しかし、この絵から暖かい気持ちが溢れかえっていた。

そして、なにより驚くことに、絵の中の私は心の底から笑っていた。

彼を殺してから、忘れてしまった自分の笑顔。

息をするのも忘れて私はこの絵を見ていた。

ゴホン。

絵描きの咳払い。

ハッと我に帰る。

「あっすいません。おいくらですか?」

「これで共犯だな」

「えっ!?」

絵描きが何を言っているのか理解出来なかった。

それにこの声は…… 

「いやー天下のギンガさんもついに悪事を働きましたか」

人を食ったようなふざけまじりの軽い声。 

「ギンガ!管理局にばらされたくなかったら、これからは俺の営業には目をつむるんだな」

フードを脱ぎ捨てる。

フードの下から現れたのは、私が殺してしまった、あの男。

「しっかし、なんでこの公園誰も居ないんだ?なにかあったのか?」

幾多の修羅場を潜り抜けてきた剣士であり、

「おかげで商売あがったりだよ。おい、ギンガ、料金なんだが特別料金で10倍で構わないぜって……うおっ!おっおいギンガ!?」

私を散々に悩ませる、管理局、いや、次元世界きっての問題児……

「良……介……さん……良介さん、良介さん!嘘じゃ、嘘じゃないですよね!
生きて、生きているんですよね……私、私、うわぁぁぁぁん」

そして、そして……

「……ああ、生きてるよ、ただいまギンガ」

最愛の人。








以上が、狂鬼でユメノオワリナなアヌビスさんに捧げる作品であり、
次の作品は、めしませ☆うさみみで脳が疲れているあぬびちゅさんに捧げる作品です。
※(訳)今までの雰囲気を大切にしたい方はここで終わられた方が賢明でございます。
それでも先を見るとのたまう、フロンティアスピリッツ溢れる、夢追う若者はユメガサメタラを読んでくだせぇ。











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