「嘘や!」
はやての悲痛な叫びが響き渡る。
「残念ながら本当です。ミスター宮本が搭乗していた宇宙船は、原因不明の爆発事故で、塵も残さず消え去りました。彼の生存は絶望的です」
「嘘や!嘘や!嘘や!」
突き付けられた現実は重く、聡明な彼女の頭脳は凍り付き、まるで子供のようにわめいているだけ。
いや彼女だけではない、なのはやヴィータそれにティアナも我を忘れて職員に食って掛かっている。
シグナムとシャマルは、まるで魂の抜けた人形のように茫然と突っ立っていた。
良介を出迎えに行こう。
誰が提案したかは忘れたが、皆乗り気だった。
一年前に、冥王星に巨大宇宙ミミズを退治しに宇宙の彼方に旅立ってしまった私の想い人。
そんなふざけた理由で私達に内緒で旅立った彼に皆、怒り心頭だった。
最初の1ヶ月は、彼が帰ってきたらどうやってお仕置きするかと皆で盛り上がって話をしていた。
2ヶ月目は、彼の悪口を言って、皆で盛り上がっていた。
3ヶ月目は、彼との思い出を皆で話し合っていた。
4ヶ月目は、来月帰ってくる彼の事で頭がいっぱいで、仕事に手が付かず困ってしまった。
5ヶ月目は、いまだにこの月を覚えている。順調に行けば帰ってくる筈なのに、彼は一向に帰って来なかった。
6ヶ月目は、彼の事だから、そのうちにひょっこりと帰って来るだろうと、皆で話し合った。
7ヶ月目は、彼の事だから、宇宙でなんらかのトラブルに巻き込まれたのではないかと皆で話し合った。
まさかとは思うものの、不安は募るばかりだった。
8ヶ月目は、なのはが、彼の写真に向かってその日の出来事を話すようになった。
9ヶ月目は、気付いたら書類の余白に彼の似顔絵ばかりを描いていた。
10ヶ月目は、皆が集まった時には彼の話はしなくなった。
話せば空気が重くなるだけだから……
11ヶ月目は、彼は生きているんだ!生きているんだ!と何度も自分に言い聞かせた。
その証拠にアリサは生きている。
だが次の瞬間に消えてしまっても不思議ではない。
不安を誤魔化すように毎日アリサに連絡を入れた。
そして今月……
自己満足なのは分かっていたけど、彼にチョコレートをあげた。
遠く、夜空の彼方にいる彼に届くように。
その現場をケイスケに見られたのは予想外だったけど……
ケイスケ・マツダ二等陸士。
彼は似ているのだ良介に……
もちろん、見た目や性格などは全然似ていない。
私自身も詳しい言葉には表せないが、でも、なんというか、根っこの所が似ていると思う。
だからだろう、あの夜に一年間我慢してきた涙が堰を切って溢れ出してしまったのは。
リョウスケ……会いたよ……リョウスケ……
心は乱れて、頭の中はぐちゃぐちゃで、気付いた時にはケイスケの胸の中で泣いていた。
私が泣き止むまで、彼は嫌な顔一つせず胸を貸し続けてくれた。
彼には悪い事をしてしまったし、恥ずかしい所も見られてしまった。
そんな内心の葛藤を読み取ったのか、彼は、私が泣き止んだのを確認したら「さて、エリオが待ってるから帰りますよ。フェイト隊長も夜更かしは体に毒ですよ」
サラリと、まるで世間話をするように、語りかけてスタスタと帰って行った。
彼の不器用過ぎる優しさに、思わず笑みがこぼれた。
ありがとう、ケイスケ……
彼に懐いている、エリオとキャロの気持ちがなんとなく分かった。
部屋に帰ると、いきなりなのはが泣きながら抱きついて来た。
突然の事態に戸惑う。
「お兄ちゃんが……お兄ちゃんが……」
泣き声混じりの彼女の言葉。
しかし、今はそんなことは問題ではない。
今、彼女は確かに言った。
お兄ちゃんと。
リョウスケ……?
リョウスケの事なの?
先程の戸惑いはどこへやら、私はなのはの肩を揺さぶりながら問いかけた。
「リョウスケが、リョウスケがどうしたの」
「お兄ちゃんが……生ぎて……明日……はや……てちゃんが……」
感極まっての泣き声で、彼女の言葉はぶつ切りの単語だが、そんなことはどうでも良かった。
リョウスケが生きている。
その事実がなによりも嬉しかった。
視界がぼやける。
涙が止まらない。
二人で大泣きした。
リョウスケが帰ってくる。
その喜びを噛み締めながら。
今日は泣いてばかりの日だな。
そんな取り留めもないことを思いながら。
そして、今……
神様はよっぽど私達の事が嫌いなのだろうか。
生存・帰還報告が一転、リョウスケの確実な死亡報告に切り替わってしまった。
こんな残酷な事があるのだろうか。
足に力が入らない。
目の前が暗くなる。
もう、なにがなんだか分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分から……
混乱の極みに達したフェイト。
いや、ここにいる者達全てが混乱していた。
それゆえに、彼女達のポケットの中で震える携帯に誰一人として気付かなかった。
………
……
…
「うおぃ!誰も出ねーよ!」
ヤケになって叫ぶも、突っ込む者は誰一人としていなかった。
それもそのはず、ロングアーチには彼一人しかいないのだから。
他の皆は歓迎会の準備を終えると、とっとと帰ってしまった。
皆、異口同音に、
「いや〜馬に蹴られて死にたくないからね〜」
とのこと。
くっ……薄情者共め!
ちなみにスバルは、
「ごっめ〜ん!なんかギン姉が、捕まえるのを手伝って欲しいから来てくれだって。なんでも一年振りでセンサーが上手く作動しないんだって」
何のこっちゃ……
しかし……不味いな。
もう時間的に将軍がいつ来てもおかしくない。
それなのに、部隊長達は帰ってこず、連絡しても繋がらない。
これでは歓迎会どころではない。
代替え案はある。
歓迎会は問題ない。
しかし、NG計画が……
誤差修正範囲内だが、しかし当初の計画より不確定要素が混じる。
ガシガシと頭を掻き、煙草に火を付ける 。
初っぱなからつまづくなんて、ゲンが悪すぎる。
全く……やれやれだな。
ロングアーチにユラユラと紫煙が立ち込めた。
そしてもう一つ、彼の頭を悩ませる事がある。
どのような手段で将軍が来るのか?
馬が一番可能性が高い。
いやお忍びで来るなら駕籠(カゴ)という線も捨てがたい。
まさか大名行列では来ないだろうが……と言うか来たら困るぞ。大名行列。
そんなどうでも良いことも考えていた。
………
……
…
あの後は大変だったなぁ……
大気圏を突破するも、魔力が底を尽き、上空三千メートル付近でユニゾンが強制解除された。
こりゃ死んだなと、良介自身も諦めたが、彼の悪運はまだ尽き果てず、間一髪の所でウェンディに助け出される。
その後、ジェイルのアジトに連れて行かれ、他のナンバーズにもみくちゃにされた。
彼女達もずっと心配していたらしい。
一年間分の心配を一身に受けて、良介はボロ雑巾と言うか、波打ち際に打ち上げられた魚みたくなってしまった。
そんな良介に彼女達は満足したのか、
『宮本の帰還祝いをやろう』
と提案し大いに盛り上がる。
しかし今日はもう先約が入っており、ブッチしようものなら、ボコボコにされるのは目に見えている。
そして先程気付いた事だが、年がら年中問題を起こしては彼女達にぶっ飛ばされている良介にとって、彼女達と会わない一年間は確実なブランクになっており……
平たく言うと、彼の超人じみたリカバリー能力が低下していた。
この状態で、SLBやトリプルブレイカー等を食らえば……
こんにちわフィリス先生(^-^)/
と言うわけで、彼女達の誘いを丁重に断り、ウェンディにロングアーチまで送ってくれと頼む。
「もう仕方ないっすね。落ちないようにさっきみたいく、ギュッと掴まるっすよ」
ピキーンと、時が止まった。
良介が帰還祝いを断ったのか、ウェンディの一言が問題だったのか、はたまた両方が問題だったのか……
なんとも言えない沈黙が続き……
そして時が動き出した。
「この軟弱者め!」とチンクに殴られ、
「このっ馬鹿野郎!」とノーヴェに蹴り跳ばされ、
とどめには、「この浮気者!」とセインに往復ビンタをかまされた。
「おっ俺が……一体……何を……したって……言うん……だ……ってか……りっ……リカバリーが……追い付か……ねぇ……ガクッ」
その後、意識を取り戻した良介は魔力切れでグロッキー状態のミヤとアギトをジェイルに預けて、機動六課に向かって行った。
本当ならロングアーチの入口まで送って貰いたかったが、さすがにそれは不味いので少し離れた場所に降ろしてもらった。
一年振りに機動六課の敷地内を歩く。
普段ならなにも感じない景色だが、今は全てが懐かしく思えてしまった。
一年という月日はやっぱり永かったんだなぁ……
あいつら元気にしてるかな……
まぁ、ミヤが、
「はやてちゃんは良介が帰ってくると知ったら泣いて喜んでいたです。だから絶対に歓迎会には出るですよ。はやてちゃんが凄く気合いを入れてやるみたいですから」
って言ってたしなぁ……
あいつらはあいつらのままだな。
全く……何一つ変わってないな。
俺が少しでも居なくなったらピーピー泣いて、帰って来てもピーピー泣いて……
一年間宇宙に行っていただけじゃないか。
まぁ良いや、今日はその気合いの入った歓迎会を楽しみにしようじゃないか。
そんな、ぞんざいな考えを思うも、顔は自然とにやけていた。
まさにツンデレとしか言いようがない。
そうこう考えている間に、ロングアーチが見えてきた。
入口に見知らぬ男が立っていた。
新入りか?
深くは気にせず、ロングアーチに入ろうとしたら、男がうやうやしく頭を下げて話しかけてきた。
「ようこそ、おいでくださいました。将軍様の御来光、心よりお待ち申しあげておりました」
「……へっ!?」
余りにもすっとんきょな事を言われて、目が丸くなる。
「失礼、挨拶が遅れました。本日、将軍様の接待係を申し付けられました、ケイスケ・マツダと言うものです」
この男は何を言っているのだ……
将軍様?
接待係?
一体どういう事なんだ。
しばし考えて、ミヤの伝言を思い出す。
『はやてちゃんは良介が生きていると知ったら泣いて喜んでいたです。だから絶対に歓迎会には出るですよ。はやてちゃんが凄く気合いを入れてやるみたいですから』
……おいおいおいおい、気合い入れすぎだろ。
接待係に将軍様だぁ!?
いくら何でもやりすぎじゃないか。
そう思う反面、心のどこかで、それを喜んでいる自分がいた。
今では破れてしまったが、剣一本で天下を取るという夢を持っていた。
そんな男が将軍様と呼ばれて、悪い気がする筈がない。
悪い気はしないが……
「どうかなさいましたか、将軍様?」
そう、これだ。
将軍様と呼ばれて嬉しいのだが、どうにもむずがゆくなってしまう。それに、なんとなく我が祖国日本の北にある、あの国を思い出してしまう。
「なぁ、その将軍様ってのは止めてくれないか」
「これは失礼を致しました」
「いや、失礼ってほどじゃないんだが……」
「それでは、なんとお呼びすればよろしいでしょうか?」
「別に好きに呼べば良いぜ」
「過分な御言葉、身に余る光栄に御座います」
目の前の男……ケイスケは少し考える素振りをして、
「では……殿とお呼びしてもよろしいでしょうか」
殿……
この言葉を聞いた良介は爛と瞳を輝かせた。
しつこく言うようだが、剣一本で天下を取るという夢を持っていた。そんな男が殿と呼ばれて、悪い気がする筈がない。
先程の将軍も捨てがたいが、良介的には殿の方が呼びやすい上に親しみが持てる。
じーんと、えもいわれぬ快感が胸に広がる。
アリサ……俺も殿と呼ばれるまでに出世したぞ。
お空を見上げて、アリサを思う。
お空に浮かんだアリサの顔はなぜだが、やれやれ顔だったが気にしない。
「殿、どうなさいましたか」
「いや、なんでもない。それより君は……」
一旦、言葉を区切り、
「良い接待係だな」
輝かしいまでの澄んだ笑顔で言い切った。
「過分な御言葉、恐悦至極に御座います」
「さて、はやて達の顔でも見に行くか」
玄関をくぐろうとしたら、
「殿、お待ち下され。現在、八神部隊長殿達は火急の用にて席を外しております」
俺があいつらの約束を破ることはよくあるが、あいつらが破るのは珍しい。しかも連絡もないとは……よっぽどの緊急事態なのか?
まぁ、あいつらなら心配はいらないか。
しかし、歓迎会はどうなるんだ?まさか、あいつらの帰りを待つのか?
面倒くせぇな……帰ろうかな。
「御安心下さい。少々、おもむきは異なりますが歓迎会の用意は出来ております」
即座にこちらの顔色を伺ったのだろうか、ケイスケは柔和な笑みを浮かべて、パンパンと手を叩いた。
ブロロロ……
エンジンの音が聞こえた。
振り返って見ると、長さ20メートル程の長大なリムジンが現れた。
いきなりの展開に驚いている俺をよそに、ケイスケはさも当たり前のようにリムジンに近づき、扉を開ける。
中から流れるように現れる赤いカーペット。
一直線に流れて、俺の足元で止まる。
「それでは、会場まで御案内させて頂きます。狭苦しい車中ではありますが、どうかおくつろぎくだされ」
こんな展開は夢にも思わなかった良介は気の利いた言葉も出ずに、ただ「ああ」と答えるしかなかった。
ただ心の中で思った。
はやて……気合い入れすぎだろ……
………
……
…
夜の闇をきらびやかに彩るネオンの光。
その光に中に、夜の蝶が舞い踊る。
蝶と男達の一夜限りの舞台が幕を切る。
夜の始まり、各々の店が開店して間もない頃、一軒の店だけ閉まっていた。
同業者達は不振な顔をするも、店の前のリムジンに気付き、ああと納得する。
どこのVIPか知らないが、あの店を借り切るとは随分と威勢が良いな。
あの店……クラナガンの歓楽街随一の高級クラブ『PANNA』
その一室に紫煙が立ち込める。
PANNAの控え室にて、モニター越しに映る殿を見ながら、ケイスケは煙草をくゆらせる。
モニター越しに写る殿は酒を呑みメロンを摘んでいる。
周りにいる女性は皆愛想良く、胸は大きく、むしゃぶりつきたくなるような美人揃い。
注文通りとは言え、たった数時間でここまで用意したオーナーの手腕には舌を巻く。
ホッと一息を付き、背後に控えるオーナーに頭を下げる。
「……すいませんね。無理を聞いて貰って」
「いえいえ、頂く物さえ頂けるのでしたら、何でも用意する。我が店のモットーで御座います」
「見習うべき商魂だな」
「いえいえ、資本主義社会では当然のことで御座います。しかしマツダ様、今宵は随分と豪気にやられておられますが……」
言外に、あの客は誰だと聞いてくるオーナー。
「ウチの賓客だよ。」
そう言うと、オーナーはククッと笑った。
「またまた御冗談を……あのお客様が管理局の賓客などと……どう見ても、私達と同類にしか見えませんな。いや、もっと深い闇の底から来たような雰囲気ですな……とても管理局の賓客……いや堅気にすら見えませんな」
「アホ、お前らと同類にするな。俺は宮使えのしがない事務員だよ」
同類の件については否定はするが、殿の事に関しては、正直俺もほぼ同意見だ。
まぁ、そんなことはどうでもいいんだけどな。
それよりも、俺にはやらなくてはならないことがあるんだ。
モニター越しに映る殿の機嫌は上々だ。
これなら行ける。
よし……NG計画発動だ。
煙草を揉み消して、ケイスケは部屋を出て行った。
………
……
…
山海の珍味とメロンに舌鼓をうちながら、銘酒で喉を潤す。
周りにかしづいているのはスタイルも抜群な美女ばかり。
いや〜はやても随分と気が利くと言うか、世間慣れしたと言うか……
ちょっとビックリだぞ。
しかし……はやての奴……見ないうちに随分と物騒な野郎を飼い始めたな。
接待係の顔を思い出す。
ケイスケ・マツダと名乗ったあの男。
本職は事務員だと言っていたが冗談じゃない。
歳はスバルとあまり変わらないくらいだが、戦えば、まずあのガキ共じゃ話にならんな。
ヴィータやシグナムでも危ないかもしれない。
勿論、正面切っての戦いなら奴に勝ち目なぞない。
だが、なんでもありの実戦方式なら奴の勝ちだろう。
勝つためには手段を選ばす、そして躊躇なく実行するだろう。
そんなタイプの男だ……
しかし、なぜあの男は俺に対して好意を抱いているのか?
あの後、車中でも少し話したが、言葉の端々や態度に接待係だけでは説明のつかない好意が見え隠れている
その理由が見つからない。
……まぁいいか。
分からんものを考えても仕方がない。
久しぶりのメロンに美味い酒だ。今夜は羽を広げさせてもらうか。
「も〜う、なに難しい顔をされているんですか?お・と・の・さ・ま♪はい、お注ぎしますよ」
「んっ……ああ悪いな」
空になった盃に酒が注がれる。
それを一息で呑み干す。
うむ……悪くないな。
「お楽しみ中の所、大変失礼致します」
奴が現れた。
………
……
…
NG計画とは一体なにか?
そもそもの始まりは、ふとした思いつきからだった。
部隊長の命令でやることになった歓迎会の準備。
テキパキと準備をするも、ケイスケの心は重かった。
そりゃそうだ。
昨日のチビ達のお泊まりによりフェイト隊長が凹み、それの慰めに始まり、カジノでの一悶着。エリオと酒を呑めば愚痴を聞かせれて、星見の丘でのあの一件。
数時間後には、緊急召集により休日が丸つぶれの上、昨日のアレは一体なんじゃい!と小一時間は問い詰めたい程、元気ハツラツなフェイト隊長を筆頭に、六課の皆さんの余りのテンパりぶりに突っ込みを入れまくる。
とどめには、下手を打てば、もれなく切腹をする羽目になる将軍様歓迎会の準備……
何というか、
絶望した!あまりの運の無さに絶望した!
ここまでついてないと逆にどこまでついてないか試したくなるな。
もう、あれだな。開き直って、将軍にタメ口利いて切腹するのも悪くないな……
そんなヤバい感じに開き直っていたケイスケであったが、そこで閃いた。
……ん!待てよ……考えてみれば、歓迎会の費用について、上限は聞かされてない上に全額、六課の経費で落とす事になっている。
将軍は女好き。
そして、接待係の俺。
……………………点と線が繋がったぁ!
これは行けるぞ!!
まず、歓迎会により、部隊長を始めとする六課の美女軍団と高級酒とメロンで気分を良くさせる。いや、良くさせるのではない、酔っ払わせるのだ。
そして、千鳥足の将軍だけを連れて、二次会を開くのだ。
もちろん二次会は美女を取り揃えている、アレな店だ。
将軍は女好きなはず、必ず釣れる。
この際、歓迎会の後、部隊長達の誰かと、どこかにしけこむ可能性はほとんどないだろう。
いくら将軍が女好きと言えども、部隊長達に手を出せば、お世継ぎ問題、ひいては御家の問題なるだろう。なんたって正室の座を狙ってるのだからな。『酒の勢いでお世継ぎ出来ちゃいました』なんて、さすがに将軍でも、いや将軍だからこそエラい騒ぎになるだろう。だから気軽に遊べる女を選ぶに決まっている。
そして、俺は接待係。
将軍をエスコートしなければならない。
で、エスコートついでに……ふっ。
目を瞑ると思い出す、様々な出来事。
ギン姉さんと部隊長に見つかり処分させられた秘蔵の品々。
その後、スバルの突き刺さる氷のような視線と「スケベはダメ」とのご無体なお言葉。
合コンでお持ち帰りに成功したと思ったら、部隊長によって全てを台無しにされたあの日の夜。
その後、なぜかスバルにもバレて、ものごっついビンタを食らった。
他にも思い出す様々な出来事……
この次こそはと意気込んで、また合コンをしたら、またもスバルにバレてリバーブローを食らったり、女友達と二人っきり遊んでいたところをスバルに目撃されて、ガゼルアッパーを貰ったり……
あかん……思い出したら、なぜか涙が溢れ出してきた。
それに、あばらやあごがズキズキと痛んできた。
だが!しかし!いや、だからこそ!俺には資格がある!
六課の金で、呑む・打つ・買う!
……でも、あからさまにやったら、スバルやギン姉さんや部隊長やスバルやスバルやスバルが恐いから、あくまでも自然にだ……
そう、自然に……ナチュラルにゴチにならなければならない。
それが、NG計画の全容。
実行段階において、部隊長達が戻ってこず、計画が大幅な前倒しになったりもしたが、無事?モニター越しに映る殿は上機嫌で酒を呑んでいる。
これにより、ある程度、羽目を外しても酒の席での無礼講として許され、切腹の確率を大幅に下げるだろう。
またそれとは別にケイスケは殿の事を気に入っていた。
ケイスケ自身、日本の文化を知るにつれて(参考文献※メガミマガ○ン・フ○ミ通・必殺○事人・るろう○剣心)すっかり、日本を勘違いしている、外国人……いや異世界人になっていた。
そして、彼の目の前には生のサムライがいる。
しかも、サムライの王、将軍。
ちょんまげを結ってなかったり、ロングアーチには馬やかごや大名行列ではなく歩いて来たのはとても残念だったが、それでも腰には日本刀を差している。
良介はケイスケがなぜ行好意を抱いているのかについて考えていたが、答えは単純に、有名人を生で見たときのファンの心境に近い。
また、PANNAに着くまでの間、車中にて良介と少し話した際、馬が合うと言うことだろうか、とりとめのない話であるにも関わらず、大いに盛り上がった。
もともと好印象な土台が出来ている上に
、初対面の印象もまずまずであり、この一件も含めて、ケイスケは良介のことが気に入っていた。
さてNG計画の全容やケイスケの思惑も分かったことですし、そろそろこの計画の結末と新たに生まれるカオスに物語を移したい。
ケイスケの登場に多少は驚いたものの、メロンや銘酒や美女に気を良くしている良介にとって、得体の知れないケイスケの好意など些細な問題に過ぎなかった。
それに、良介自身もケイスケと話し合って気付いたのだが、馬があっているのだ。
気の合う男同士で呑む酒は進むもの。
ましてや美女にお酌をされればその速度はさらに倍加する。
二人は大いに盛り上がった。
しかしケイスケには盛り上がりながらも、一つの心残りがあった。
フェイト隊長。
あの夜、見てしまった涙。
次の日に見せた満面の笑顔と厚化粧。
この落差については小一時間程、鬼のように問い詰めたいが……まぁそれはそれ。
涙を出させてしまった償いの代わりに、新しい恋の手助けをしてやろう。
上手くいくと良いな玉の輿。
そんな気持ちで彼は良介に言った。
「ところで殿、少し込み入った話がござりますので……」
「ん……なんだ?」
チラリと女達を見る。
女達も分かったもの。視線の意味を察して、静かに退出する。
先程までの華々しさが嘘のように静まり返る。
「……で?」
「ご無礼は承知の上でお尋ね申し上げますが、殿には正室はおりますか?」
「正室?んなもん居るわけねーよ」
「ならば、正室にはフェイト殿は如何でござろうか?」
ブバッと綺麗に酒を吐き出す。
「ゴホゴホ!?ふぇ!フェイトを正室に〜!?」
「左様。殿は大層おもてになることは存じ上げております。なのは殿、八神殿、ティアナ殿しかり。皆、殿にメロメロラブゲッチュでござる」
「メロメロラブゲッチュって……なんでそこだけ変な英語なんだよ」
「しかし、皆、致命的な欠陥を抱えているでござる」
「スルーするな……って致命的欠陥?」
「そう致命的欠陥でござる。まずは、ティアナ殿。彼女の本質はツンデレであり、殿との相性は最悪でごさる。要は同族嫌悪と言うもの」
「確かに……あいつは俺を見ると、攻撃するか罵倒するかのどちらかだからな〜……って俺がツンデレだと!」
「次になのは殿、彼女は、その……うっううん……百合と申し上げましょうか、レーズンパンと申し上げましょうか……ズーレと申し上げましょうか……」
「だから、スルーするなって……ちょっ!おまっ!それ、全部同じ意味だし、完璧にアウトォーな発言だぞ」
「また、なのは殿と結婚しようものなら、殿はきっと喫茶店のマスターになって尻にしかれて財布の紐まで握られてしまうでござるよ。殿は将軍の責務を放棄なさるおつもりか」
「なにその具体的過ぎる未来像!?」
「最後に19歳の癖して、堂々と魔法少女と名乗るなど言語道断!」
「気持ちは分かるが、それ一番アウトだぞ!」
「最後に、八神殿は……八神殿は……八神殿は……まぁ……」
「……うん……だな……」
妙な連帯感を見せる二人。
「ゴホン、と言うわけで彼女達は見目麗しいですが、不良債権もいいところでござる。それに比べてフェイト殿は!」
語る口調に熱が篭もる。
その熱に良介も思わず聞き入ってしまっている。
「眉目秀麗にて才色兼備。その明晰なる頭脳は全てを見通し、慈悲深き心は全てのものを包み込む。流れるような金色の髪は、同等の黄金と同じ価値があり、その美貌と相まって、管理局に舞い降りた月の女神と揶揄されるほどのものでござる」
誇張表現と言うレベルではない。もはや詐欺の領域である
ケイスケ自身も、今吐いた台詞を欠片程も信じてはいない。
しかし、これもフェイト隊長のため。
エリオ達が絡むと、途端にポンコツになろうとも、レーズンパン二号とささやかれていようとも、なのは隊長と、どちらが『ネコ』でどちらが『タチ』なのかと影で熱くに議論されていようとも……
全ては、フェイト・T(玉の輿)・ハラオウンのため!
良い感じにヒートアップしているというか、酒の勢いもあってなかなかの暴走具合である。
しかし、聞かされている良介はたまったものではない。
アウトな発言の山々に、流石の良介もたじたじだった。
そんな良介に追い討ちを掛ける一言が告げられる。
「それにフェイト殿ほどのお方なら、側室の方々も納得いくでござろう」
「そっ側室!?」
「左様。ヴィータ殿にシャマル殿にシグナム殿。お三方共に納得しますまい」
ブババッーと酒を噴水のように噴き出す。
「殿……汚いでござるよ」
「ちょっ、ちょっと待て」
いくらなんでもおかし過ぎる。
なにをどう間違えれば、あいつらが俺の側室になるんだ。
ケイスケのこの一言により、今まで微妙なバランスの上に成り立っていたものが全て崩れさった。
もしかして、お互いになにか致命的な勘違いをしているんじゃないのか……
「なぁ……」
「はっ、なんでござるか」
「少し自己紹介も兼ねて、腹を割って話してみないか」
「腹を割ってで……ござるか」
「ああ、どうやら互いに勘違いしてるみたいだからよ」
………
……
…
「分かるかぁ!フェイト隊長のポンコツー!」
「ぶははははは!なっなんだそれ!勘違いし過ぎだろ!」
「あんなセリフ吐かれたら、誰だって勘違いするわ!」
「ひーひーそっそりゃごもっとも。でも、かっ勘違いし過ぎだぜ」
「笑い過ぎだ!こっちは腹切りたくない一心で死に物狂いだってーの!それにあながち間違いじゃないだろーが!部隊長を始めどんだけ落としてるんだあんたは!」
「知らん。と言うか、俺は孤独になりたいんだ。全くもって、うっとおしい限りだ」
「なんというゴーマニズム!ここに富の偏在が!良介さん……やっぱりあんたは殿だよ、殿!」
「何が富の偏在だ。いかに俺が苦労してたかたっぷりと聞かせてやる」
良介の口から語られる苦労話の数々。
妹分のなのはに気紛れで優しくすれば、実兄の恭也の機嫌が反比例するように悪くなり、抜刀騒ぎは枚挙にいとまがなく、リアルに生きた心地がしない。
しかし、恭也とはなのはが絡まなければ、なんだかんだで馬が合う。
ある日、剣について熱く語ろうと言うことで下戸の恭也を無理矢理誘って呑みに行った事があった。
酒をグイグイと呑む俺と呑めないながらも杯を舐めるようにチビチビとやる恭也。
どちらが先に酔っ払ったのかは覚えてないが、話題が剣から妹に変わった頃には
二人共立派に酔っ払っていた。
彼が熱く妹達の事を語っているのを生暖かい瞳で眺めていたのは今でも覚えている。
その後、酔った勢いでこれまた二人で女を買いに行ったのだが……
帰宅したらなぜか家の前になのはと美由希が仁王立ちしていました……
「頭……冷やそうか」
と実にヤンデレな瞳で睨まれ、スターライトブレイカーで文字通り、お星様になった。
因みに恭也は、出力200%オーバーの美由希に首を絞められて、着ている服より顔色がどす黒くなっていた。
フェイトは普段は冷静で明朗な頭脳の持ち主なのだが、俺が絡むと途端にポンコツになるうえに暴走し始める。
昔とある事件に巻き込まれた時に俺が死んだと誤解して、現実逃避しながら俺の似顔絵を地面に書いたことがある。
その絵は、それはそれは精巧でそれ以上にとても巨大な絵だった。
例で挙げるなら、ナスカの地上絵と同レベル。
後日、テレビに『怪奇!謎の地上絵と描かれた男を追え』と大々的に放映された時は、本気で卒倒しかけた。
ギンガは夜討ち朝駆け当たり前、親の仇と言わんばかり俺を逮捕しまくる。
自慢ではないが一週間に一回は牢屋で過ごしている。
ここまで捕まっていると逆にギンガが心配になってくる。
取り調べ室でカツ丼を喰いながら、
「俺なんか捕まえてないで早く男を捕まえてオヤジを安心させてやれ。そのデカパイがあれば無問題(モーマンタイ)だろ」と心配して言ってやったら、マッハの速度でカツ丼が顔面にめり込んだ。
ティアナは顔を合わせれば、毒を吐くか、喧嘩を売ってくるかの二択しかない。
他にもあるわあるわ、シグナム、シャマル、ヴィータ、カリム、シャッハ、シャーリ、ナンバーズと良介の語りは止まらない。
そして極めつけに、八神はやて……
「酷い悪夢だった……」
そう語る良介の横顔は苦渋に満ち溢れていた。
……
…
はやてが夜遅くまで自室に篭もってなにかをしている。
目の下には深いクマが出来て、とても健康体には見えなかった。
時折「うふふ……刻の涙が見えるで」などと実にアウトな発言をして周囲をドン引かせていた。
もちろん、そんな状態を心配したヴォルケンリッターが、シグナムを代表として夜はやての部屋を訪れた。
次の日、シグナムは「ふふふ……主はやて、あなたは素晴らしい主です。ふふふ」と実にお花畑の住人になっていた。
その夜、ヴィータがはやての部屋を訪れた。
次の日、ヴィータは「ギガすげーんだよ!ギガすげー!」とえらくハイになっていた。
その夜、シャマルがはやての部屋を訪れた。
次の日、シャマルは「嫌……嫌ぁぁぁ−もう……もう耐えられません」と実に追い詰められていた。
これには他人どころか身内にも無関心な良介でさえ心配した。
その夜、ヴォルケンリッター最後の生き残りザフィーラと共にはやての部屋を訪れた。
しかし、はやては留守だった。
普段なら仕方がないと帰るところだが、今回は事情が事情なだけに、はやての部屋に侵入する事にした。
「「こっこれは!」」
そこで目にした驚愕の真実。
はやての机の上に積まれている原稿用紙。
そこには、良介とザフィーラがこれでもかと濃密に混じり合っていた。
他の用紙も、恭也と濃密に混じり合っていたり、ユーノと濃密に混じり合っていたりと実にバリエーションが豊かだった。
あまりの光景に二人して固まってしまった。
ここにいては危険だ。
早く逃げなくては。
二人の考えは即座に一致して全速力でこの場から離脱しようとした。
しかし、
「いけない子達や、私の為に二人っきりでおるなんて」
はやてが唯一の出口である部屋の入口に立っていた。
「無断に人の部屋に入るなんていけない子達やな」
「あっ主!違うのです。こっこれは主が心配で」
「そっそうだぞ!最近はやての様子がおかしくて心配してだな」
「しかも、二人っきりでなんて……ふふふ。手伝ってくれるんやろ。そうなんやろ……ふふふ」
ザフィーラはともかく、普段なら強気の良介もはやての放つオドロオドロしい空気にあてられ、すっかり萎縮してしまっている。
「あっ主、落ち着いてくだされ」
「そっそれに、手伝うって……なっなあザフィーラ、俺達が何を……」
「ふふふ……そんな事決まっとるやろ…ふふふ……分かっとる癖に」
ニタリと嘲うはやて。
「無理!無理だから!」
「主、なにとぞ、なにとぞ正気に戻ってください」
残像が見えるくらいに首を横に振る良介に、もはや哀願に近い形で説得をするザフィーラ。
「宮本、主はやての芸術の為に一肌脱ごうと思わんのか!」
そんな彼らに無慈悲に掛けられる新たな声
「無理無理無理!ってかそれ、芸術じゃなくてゲイ術だから!それに一肌脱ぐって本当に一肌脱ぐだろうが!」
「主はやての芸術の為だ……じゅる」
「今、唾飲んだ!?なにが主はやての為だ!思いっ切り私欲じゃねーか」
「なっ!?私が私欲の為に主はやてをダシにすると言いたいのか!?」
「いや〜天下のシグナムさんがまさか腐女子だったとは……これからは腐女シグナムと呼ばせてもらうぞ」
「なっなっなっ!?」
「どうした?腐女シグナム。体がプルプル震えているぜ腐女シグナム」
図星を突かれたのか分からないが、とにかく激昂するシグナム。
瞬時、良介はザフィーラにアイコンタクトを送る。
以下アイコンタクトによる会話。
『よし、隙が出来た逃げるぞ。ルートは』
『後ろの窓を破って逃げる』
『さすがは逃走犬。逃げ道の確保は十八番だな』
『ぬかせ。剣より口が達者なエセ剣士が』
『その口のお陰で助かったのはどこのどいつだ』
『まだ助かってはおらん。無駄口を叩いている暇はないぞ。シグナムがもうすぐで覚醒するぞ』
『そうだな、腐女シグナムが覚醒しそうだな』
『貴様と言う奴は……恐いもの知らずだな』
『アホか、無茶苦茶怖いわ!ただ逃げるためには仕方がないんだよ』
『とりあえず、ほとぼりが冷めるまではどこかに潜伏することをお薦めするぞ』
『言われんでも分かるわ。とりあえず旅に出る』
『そうか……旅に出るのは構わんが旅先で幼女を口説いたりフラグを立てたりはするなよ……とは言ってもそれは無理か』
『うるせぇ駄犬!それより……』
『そうだな、無駄口を叩いている暇はないな』
『1、2の3で同時に窓をぶち破るぞ』
『承知』
『『1』』
『『2の』』
『『3!!』』
アイコンタクトによる会話終了。この間約0.04秒。
二人の体が窓を目掛けて飛び上がり……
ベチャリ
と音を立てて墜落した。
「なっ!?」
「こっこれは!?」
二人は確かに窓を目掛けて飛び上がった。しかし、いきなり何者かに床の上に引きずり落とされた。
「……ごめんなさい」
それは謝罪の言葉。
「その声っ!」
「シャマルか!」
にゅっと床から、いや床の上に展開されている旅の鏡から現れたのはシャマルだった。
「裏切ったのかシャマル!?」
「ごめんなさい……でも、もう無理なのよ」
「なにが無理なんだ!」
「でもね、万が一良介さん達が逃げ出そうとした時、捕まえるのに成功したら許してくれると約束してくれたのよ」
「だから、なにが!?なにを許してくれるんだ!?」
「トーン張りも……局部修正も……もう無理なのよー!もう嫌なのよー!」
魂の叫びだった。
「分かった!お前が辛いの良く分かった!だから離せ!じゃないと俺達がリアルに局部修正されちまうんだよ!」
「シャマル!貴様こんなにも力があったのか!ビクともせんぞ!ええい離さんか!」
シャマルの悲痛なまでの叫びを聞いても、我が身可愛さに離せほどけと暴れる回る二人。
しかし切羽詰まったシャマルの握力は凄まじく、二人は逃げ出せることが出来なかった。
そして……
「さて宮本、覚悟は良いな。それに……腐女シグナムか……ふふ、宮本、なかなかに面白い事を言うじゃないか」
「いや、待て!シグナム、落ち着いて話し合おうぢゃないか!はっはやても、落ち着け、話せば分かるから!」
「あっ主、今一度、御再考を御再考を!」
「ふふふ……ショータイムや♪」
……
…
「「アッー」」
………
……
…
「これでもお前は富の偏在だとぬかすのか」
苦い顔付きでケイスケを見る。
「っ!お前、その涙は……」
ケイスケが静かに泣いていた。その涙を見て、良介は全てを察した。
「お前も……俺と同じ苦しみを……」
「……補佐官(グリフィス)にヴァイス陸曹でした」
目を瞑り天を見上げ、深く沈痛する。
「ケイスケ……」
「殿……」
「今夜は呑もう。お前となら美味い酒が呑めそうだ」
「ああ……殿となら美味い酒が呑めそうです」
今、二人の男は心の底から分かり合った。
今夜はとことん呑んで語ろう。
ふと、気付く。
先程までの悲壮感はどこへやら、ニヤリと含みのある瞳でケイスケは良介を見ていた。
その瞳に気付いた良介もニヤリと笑う
この男は俺に似ているな。
転んでもただでは起きないみたいだ。益々もって気に入った。
さて今夜はとことんやるか。
「「六課の金で!」」
ぷっと、どちらが先に笑い出したのかは分からないが、声を揃えて大笑い。
ここに一つの友情が生まれた。
大変……本当に大変お待たせしました。申し訳ありません。
いまだにバレンタインSSを書いてる、大馬鹿者です。
この話は尺の関係で、前後編に分ける事にしました。完結編の方は暫しお待ちを。