The past binds me in the nightmare

 

第四話「日常風景、その2」



高町達と知り合ってから1週間、特に大きな問題も無く過ごしている。

「お、高町に美由希ちゃん。おはよう」
「ああ、おはよう」
「おはようございます、赤夜さん」

学校へ向かう途中で2人と合流し、一緒に登校するのも、最近の日課となった。
こうして誰かと学校に向かうなんて事は無かったんだが・・・これも、案外悪くないものだな。

「レンちゃんと晶ちゃんは、またいつもの勝負事か?」
「ああ。もう少し落ち着いてくれるといいんだがな・・・」
「なに、元気があっていいじゃないか。それに、あれはあれでスキンシップの1種なんだろうし」
「あははは、そうですね。なんだかんだ言って、2人とも仲良しですから」

仲のいい姉妹(2人は全力否定するが)を話の種にして、談笑しながら学校に向かう。
暫くすると、そこにもう1人加わるのだが・・・。

「あ、皆さん、おはようございます」

っと、噂をすれば何とやらだな。
礼儀正しく挨拶をしながら、1人の小柄な女子生徒が近づいてくる。

「おはよう、神咲さん」
「神咲さん、おはようございます」
「あ、那美さん。おはようございます」

彼女の名前は神咲那美さん。
肩ぐらいまである栗色の髪に、ほんわかした笑顔が良く似合う。
こう、常にアルファー波を出していそうな、俗に言う『癒し系』な可愛らしい人だ。
彼女は八束神社で巫女をしており、夕方頃に神社に行くと、見るだけで癒される彼女の巫女姿が拝めるのだ。
基本的に神社というのは空気が清められているが、彼女がいると更にマイナスイオンも追加されるに違いない。
まさに現代のオアシスだな・・・。

彼女と知り合ったのは、数日前のことだ。
昼休みに学食へと向かう途中、高町が階段で転びかけた神咲さんを支えるのを見たのが最初だったな。
その時、家政婦・・・もとい、浅人君は見てしまったのだよ。
高町が彼女の胸を鷲掴みにしている光景を!!
まあ本当は救助活動が至らなかったからなのだが、あの時は高町に『ムッツリスケベ』もしくは『ラッキースケベ』の称号を贈ろうかと思ったものだ。
で、その後互いに謝罪とフォローを繰り返す2人の仲裁に入ったのが、知り合いになる切っ掛けだったな。

と、数日前の事を思い返している中、神咲さんは、

「・・・
「・・・ふふっ」

美由希ちゃんと仲良く談笑中だ。
どうも、神咲さんと美由希ちゃんは仲がいい。
お互い穏やかな性格だし、きっと気が合うんだろう。
それに、2人とも結構ドジっ娘だしな。
神咲さんが躓いて転びかけ、それを支えようとした美由希ちゃんも足がもつれて、結局2人揃って転んだりしてるし。

「・・・」
「高町、随分と嬉しそうだな」
「・・・そうか?」
「ああ。顔に出てる」

よく見なければ分からないが、微かに顔が緩んでいる。
日頃あまり表情を出さないこいつにしては、珍しい光景だ。

「そうか・・・そうだな。美由希は、昔から人見知りが激しくてな。あまり親しい友人というのは、殆どいないんだ・・・」
「なるほど。それで、大事な妹に親しい友達が出来て、お兄ちゃんとしては嬉しくて仕方が無い、と」
「む・・・、別に大事と言うわけでは」
「はははっ、照れくさいのは分かるけどさ、こういう時ぐらい素直になった方がいいぞ」
「むぅ・・・」

言う言葉が見つからないのか、高町は押し黙ってしまった。
うん、短い付き合いだが、こいつの性格はあらかた把握している。
口下手で無愛想だから誤解されがちだが、こいつは誰よりも家族を大事にしている。
照れ屋なのかあまり本音を口にしようとはしないが、こいつはいつも美由希ちゃん達を見ている、優しい兄ちゃんなのだ。

 

〜美由希視点〜

私と那美さんから少し離れた場所では、赤夜さんと恭ちゃんが仲良く話している。
妹の私が言うのも何だけど、恭ちゃんがああして話をするのは、結構珍しい光景なのです。

「高町先輩と赤夜先輩、仲良いんですね」
「そうですね。まだ会ってから殆ど経ってないのに・・・」

那美さんに返事を返しながら、赤夜さんに会ってからの事を思い返してみる。
赤夜さんに会ったのは、今から1週間前。
いつもみたいに走りこみをしている時に、神社の階段ですれ違ったのが最初だった。
それから恭ちゃんと同じクラスになった事で、付き合いが始まったんだっけ。

赤夜さんは、不思議な人・・・だと思う。
隣に並ぶと自然と見上げるような長身だけど、威圧感と言うのは一切感じない。
むしろ、自然とこっちの力が抜けてしまう、そんな雰囲気を纏った人。
そのせいか、この前家に遊びに来た時、年の離れた妹であるなのはも直ぐに懐いたし、人見知りする私も、自然と話すようになった。
なのに、その身のこなしには無駄が無く、隙と言うものが殆ど見当たらない。
多分・・・今の私じゃ、絶対に敵わない。
恭ちゃんでも、恐らく五分五分だと思う。
あの人は、強い・・・。

「美由希さん、どうしたんですか?」
「えっ?」

呼びかけられた方を向くと、那美さんがくすくすと笑いながらこっちを見ている。

「えっと・・・?」
「ふふっ、美由希さん、ず〜っと赤夜先輩の方を見てましたよ」
「ふえっ!?」

慌てる私を見て、那美さんは口元に手を当てながらくすくすと笑っている。
うぅ、那美さんって、こういうちょっとした仕草も上品な感じがするなぁ・・・流石巫女さん。
どこか古風な感じがするし、大和撫子って那美さんみたいな人の事を言うんだろうなぁ。
はぅ、こういう女性、実はちょっと憧れてたりします・・・。

「それで、赤夜先輩を眺めて、何を考えてたんですか?」
「その・・・不思議な人だなって・・・」
「不思議な人、ですか・・・?」

首を傾げる那美さんに、さっき考えていた事を伝えると、「ああ・・・」と納得したような声を漏らした。

「そうですねぇ。見た感じだと、高町先輩とは正反対に思えるんですけどね」
「でも、仲が良いんですよね」
「う〜ん、打ち解けやすい、って言うんでしょうか」
「あ、それ言えてます。実際、恭ちゃんとあんなに短期間で打ち解けた人、妹ながら初めて見ましたから」

多分その雰囲気も手伝ってるんだろうけど、それでもビックリだ。
でも、恭ちゃんに友達が出来るのは、私としても嬉しい。
母さんやフィアッセも、赤夜さんが家に来た時は、本当に嬉しそうだった。
なのはにも優しくて、なのはも赤夜さんが気に入ったのか、ずっとくっ付いてたっけ。

それに、料理上手だし・・・。
この間遊びに来た時、お土産代わりにってクッキーを持って来てくれた。
手作りらしいんだけど・・・とても美味しかったです。

うぅ、いいもんいいもん、私だって練習すれば、きっと上手になるもん。
きっと・・・・・・・・・・・・うぅ(泣)

〜美由希視点、終了〜

 

途中で何か落ち込んだ美由希ちゃんを不思議に思いつつ、学校に着いた俺達は互いの教室に向かった。
教室に入り自分の席へと向かうと、1人の女子生徒が目に入った。

長く艶やかな紫色の髪をした女の子。
その顔立ちは整っており、窓から差し込む朝日と相俟ってとても絵になるのだが・・・。

「ん・・・ふにゃ・・・」

当の本人はうつらうつらと舟を漕いでおり、どこか微笑ましく思える。
このまま寝かせておいてあげたいが、もう直ぐHRが始まる以上、心苦しいが起こさなくてはならない。

「お〜い、月村さ〜ん、起きれ〜」
「んにゅぅ〜・・・あ〜赤夜君、おふぁよ〜。あ、高町君も、おはよ〜」
「ああ、おはよう」

ゆさゆさと肩を揺すると、なんとも可愛らしい声と共に挨拶をしてくれた。
彼女は月村忍、俺に警戒心を抱いていらした、夜の一族のご令嬢だ。
思えばこの娘と仲良くなれたのは、高町のおかげだろう。

なんでも臨海公園を散歩していた高町が、偶然怪我して倒れこんできた彼女ともつれ合ったり傷の手当てをしたりと、お約束的な出会いをしたらしい。
それ以来、高町と月村さんは仲が良く、その高町を通して俺も仲良くなったのだ。
一応彼女には、俺が浄眼を有している事と、危害を加えるつもりは一切無いという事を伝えてある。
それからは、まあ友人としての付き合いを続けている。

「相変わらず、朝には弱いんだなぁ。カフェインを摂取するなりしたらどうだ?」
「うぅ〜、苦いの嫌い・・・」
「・・・お前は薬を嫌がるお子様か」
「うん、忍ちゃんまだ5しゃい
「・・・赤夜、救急車を呼んでくれ。重病だ」
「その必要は無いさ。知り合い直伝の制裁型治療法があるからな、どんな馬鹿でも一撃で素直な自分を取り戻す」
「わ〜、嘘、嘘だからねっ!?いや、苦いのが嫌いなのは本当だけど!」

慌てて弁解する姿からは、初めて会った時の冷たさは一切感じられない。
うん、月村さんは割りとノリが良い人だ。
話していて飽きないし、コロコロと変わる表情を眺めていても十分面白い。
元々整った顔立ちをしているだけに、こうして屈託の無い笑みを浮かべていると、非常に魅力的だ。
何気にスタイルいいし。

そうしてわいわいと話している内にHRが始まり、学校での1日が始まった。
さあ、真面目に学生生活を送りますか!

 

キーンコーンカーンコーン・・・・・・・・

どこの学校でも変わらないチャイムの音が、4時間目の終わりを告げる。
腕と背筋を伸ばして身体をほぐしながら周りを見れば、高町と月村が半分夢の中に旅立っている。
さっきの授業は古文、眠りを誘う授業ランキングで、3年連続1をキープし続ける強敵だ。
そう言う俺も、さっきの授業中は2/3は夢の中だったしな。
ま、これ以上寝かしとくと、学食が混むからな・・・。

「ほら、2人とも、さっさと起きろ」

そう言って、月村さんは優しく肩を揺すり、高町は勢いよく頭を叩いて文字通り叩き起こした。

「んう?」
「ぬぐっ!?・・・赤夜、もう少し静かに起こしてくれ」
「いつぞや(第二話参照)の仕返しだ」

文句を言ってくる高町をあしらいながら、揃って学食に向かう。
その間、足を怪我している月村さんに高町が肩を貸していた。
俺が肩を貸してもいいのだが、俺と月村さんでは身長差がありすぎて、逆に負担になりかねない(俺が187pで、月村さんが163p)
ちなみに数日前に俺がそう言うと、月村さんは悪戯っぽい顔と共に

「じゃあ、おんぶして

と言ってきた。
恐らく俺をからかおうとしたのだろうが、その程度のからかいに負ける程、俺は甘くない。
なので、大真面目におんぶして彼女を食堂まで連れて行ってあげたのだ。
流石に本気で実行するとは思わなかったらしく、最初はバタバタと暴れていたものの、

「これ以上暴れると、お姫様抱っこに移行するぞ?」

と言う俺の警告(もしくは脅し)を受け、「う〜う〜」と唸りながらも一応は大人しくなった。
まあ、顔はこれ以上ないくらい真っ赤になっていたが。
ふっ・・・未熟者よ。
・・・いや、俺も赤くなってたんだけどね?
その、ほら・・・背中に当たる胸の感触に反応しちゃうのは、健全な青少年としては当然な訳で・・・。

・・・ごめん、俺も未熟者でした・・・・・・。

 

そうこうしている内に、学食に到着。
ざっと見渡すと、見覚えのある一団を発見した。
青、緑、黒、茶と、実にカラフルな4人組。
うむ、間違いなく晶ちゃん、レンちゃん、美由希ちゃん、そして神咲さんの4人だ。

「高町、席はあそこでいいか?」

その一団に視線を向けながら尋ねると、高町も直ぐに承諾した。
とりあえず月村さんを座らせて、俺と高町でカウンターに行けばいいか・・・。

「すまんが、相席させてもらってもいいか?」
「あ、恭ちゃんに赤夜さん。それと・・・」
「はじめまして、2人のクラスメイトの、月村忍です。私も一緒でいい?」
「あ、どうぞどうぞ」

美由希ちゃんの返事に他の3人が頷くのを見てから、高町と2人でカウンターに行く。
それぞれの昼食と月村の分を受け取り、席に戻ると5人は和気藹々と話していた。
う〜む、やはり女性同士というのは溶け込むのが早いな・・・。

食べ始めてから暫くして、晶ちゃんが話を切り出してきた。
話題は、高町家恒例の花見を、どこで行うかについてだ。
幾つか候補地があるのだが、そのどれもが予約で一杯な状態らしい。
まあ、温泉地で有名な月守台が近くにあるから、そこから人が流れてくるんだろうなぁ。
あの辺りは基本的に別荘地だし、その近くの山は私有地だし。

しかし花見か・・・。
う〜ん、雷河爺さんが今度花見をするって言ってたけど、流石にアレに呼ぶわけにはいかないよなぁ・・・。
なにせ周りにいるのが、金バッチとスーツがよく似合うダンディな方々ばかりだし(汗)
そうして色々と考えていると、月村さんが携帯でどこかに電話を掛け始めた。
暫くして電話を切ると、花見の場所が確保できたと言い、それを聞いた晶ちゃんたちが嬉しそうにお礼を言っている。
なんでも叔母に当たる人に頼んだらしく、場所は月守台にある別荘らしい。
・・・流石は月村家のご令嬢だ。

「そうだ、赤夜さんに那美さんも、ご一緒しませんか?」

暫くすると、美由希ちゃんがそう提案してきた。
それは嬉しいが・・・。

「いいのかい、俺が参加しても」
「はい、母さんやフィアッセ、それになのはも喜ぶと思いますし」
「あ〜、確かになのちゃん赤夜さんに懐いてましたからな〜」

俺の問いに、美由希ちゃんとレンちゃんが笑顔で返してくる。
なのはちゃん・・・確か、高町の妹だったよな。
桃子さんによく似た、高町と本当に兄妹なのかと小一時間程問い詰めたくなる、感情の豊かな子だった。
まだ幼いのに礼儀正しいし、きっと将来は世の男共がほうってはおかないだろうなぁ・・・。

「そっか、それじゃあお邪魔させてもらうよ」
「折角のお誘いですし、私も参加させて貰いますね」

俺に続くように、神咲さんも誘いを受ける。
ふむ、折角だから、お菓子の1つでもお土産に持っていくかな。
それと確かこの前、雷河爺さんから新潟の方の地酒を貰ったから・・・あれも持っていくか。

うん、なんだかんだ言って結構楽しみだ。
ああ、早く休みにならないかなぁ。





あとがき

どうも、トシです。
随分と早く仕上がり、自分でも驚きですよ。

それでは、今回はこの辺で。




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