「あぁ……血が飲みたい……」


一人の男がナイフを舐めながら呟いている。


「ふふっ、最近飲んでないから戦うの者の血はとても美味しく飲めそうですねぇ……」


不気味に笑いながら語る男に恐怖を感じる数名の男達。

海鳴愚連隊。

彼らがそう呼ばれている不良集団であり、ナイフを舐めてる男がリーダーだ。

彼らの勢力はもともと大きくなかった、それどころか少し前までは暴走族だった。

そんな彼らが変わったのはナイフの男が現れてからだ。

リーダーの代理として現れたナイフの男。

この女がリーダーに君臨してから海鳴愚連隊は変わった。

脅迫、盗み、暴力。

それはまるで闇の組織のように。


「おい、外行こうぜ」

「そ、そうだな……」

「あ、あぁ……」


スキンヘッドの男が促し、金髪の男と帽子の男が頷く

恐怖に堪えれなくなった三人の男がアジトから出て行く。

アジトから出て行き、しばらくすると男達は会話を始める。


「本当、あの男こえぇよ」

「あぁ、リーダーもなんであんな奴をチームのリーダーなんか……」

「んなこと、俺らが知るわけないだろ。んで、とりあえずこの後どうする?」

「女でもナンパして男でもカツアゲするか?」

「おっ、良いね!」

「女と言えば、この近くの喫茶店ですげぇ美人がいるらしいぞ」

「「マジ?」」

「あぁ、なんでも外人らしいが、日本語も上手くて声も綺麗って仲間が言ってたぞ」


帽子の男の言葉に喜ぶ残りの二名。


「おっしゃぁ! じゃあ、ナンパに行こうぜ」



――物語は、今始まった。














第3話「始まり」




















俺の名前は、陸奥峻。

祖父と父に陸奥家に代々伝わる武術を習っている以外はどこにでもいる普通の17歳だ。

ちなみに前髪で目は隠れたりはしてない。

異世界について友人と会話したり、家に帰れば祖父と父に鍛えられ日々鍛錬と鍛錬後に趣味のネットサーフィンと小説を書く。

そんなの生活を送っていた。

と言ってもゲームの世界に居る今じゃ普通じゃないけど。

異世界に来てまでもバイト探しと言うのが夢のかけらもない。

でもおかげでフィアッセさんと桃子さんと会えて、翠屋で働くことになった。

まさかフィアッセさんと桃子さんとさん付けで呼ぶことになるとは……。

今度からゲームでも年上キャラにはさん付けで呼ぼうと心に決めた。






さて、現在、翠屋でバイト中。

喫茶店で働いてたことがあるとは言え、これはきつい。


「はい、ハムサンドと、OLTBホットサンドが一つ、レモンティーが二つですね。かしこまりました」

「すいませーん、こっちも良いですかー?」

「はーい、ただいまうかがいますー。マスター、オーダー入りますー」

「了解ー。あ、峻くん、4番のベーコンサラダサンド、あがったから持っていってくれるー?」

「はーい、わかりました」

「あ、すみません、チーフ。レジがちょっとわからなくて……」

「あ、ちょっとまってね、峻ー、それ終わったら3番のテーブルの食器、さげてくれるかな?」

「わかりました!」


と言う感じで、俺が働き始めてからバタバタが続いている。

しかしフィアッセさん、いきなり苗字ではなく名前で呼びますか、しかも呼び捨て。




PM3:15


デザートタイム。

3時のおやつと言う言葉の通り、さらに忙しくなりました。

しかもお客さんはほとんど女の人だらけ。

今思えば、働いてる人も男は俺だけか。

まぁ、別に友人じゃあるまいし、気にしないけど。

さぁーって、はりきって接客しますか!

気合、一発!

心の中で気合を入れなおしていると、丁度よく、お客さんが入ってきた。
 

俺は最高の笑顔を浮かべ、お客様を店内に招き入れる。


「いらっしゃい……ま…せ」


俺は、お客の顔を見て、固まりそうになりながらも、どうにか最後まで言い切る。


「あ、その、私たちはお客じゃなくて……」

「……新しいバイトの人か……」


そうか。

バイトの忙しさで、すっかり忘れてた。

桃子さんやフィアッセさんがいるんだから、当然いるよな。

高町恭也と高町美由希の二人が。

……恭也、お前……かっこよすぎるだろ。

黒がこれほど似合う男、初めてみた。

お客の女の人も何人か恭也を見ている。

美由希の方もメガネと三つ編みおさげが良く似合って可愛い。

個人的にはメガネ無しの方がよかったけど。

……って、そんなことは今はどうでも良いか。

と考えていると、フィアッセさんが俺の横に立つ。


「二人とも紹介するね。今日から、一緒に働くことになった、陸奥峻。仲良くしてあげて♪」

「あ、そうなんだ……えと高町美由希です。よろしくお願いします」

「……高町恭也です」

「陸奥峻です。よろしくお願いします。えっと、恭也さんに美由希さん」


って、女の子の美由希はともかく思わず年齢が同じくらいの恭也にさん付けしてしまった。

でもくんよりさんの方がしっくり来るのは雰囲気のせいだと思う。


「……ああ、別にさん付けと敬語じゃなくても……」


恭也も俺と同じことを思っていたらしい。


「じゃあ、恭也で。俺も峻で良いから。よろしく恭也」

「よろしく、峻」


握手をする俺と恭也。

むむっ、握力はちょっと負けてる。


「よかったね、恭ちゃん。勇吾さん以外の友達が出来て」

「……一言多い」

「あうぅ……ごめんなさい」


何気に酷いことを言う美由希さんの頭にチョップを食らわせる恭也。

仲が良いなぁ。


「……それにしても峻は何か武術を習っているのか?


と二人を見てたらいきなり恭也に聞かれた。


「あー、まぁ、一応やってるよ」


「そうか……なら一度手合わせをしてみたいな」


そう言って少し笑う恭也。


「……そうだな、楽しみにしてる」


俺も同じく笑って、その言葉に応えた。


「よかったね、峻。仲良くなれて♪あ、恭也たちは6番があいてるから、そこでいいかな?」

「あぁ、うん」

「じゃあ、何を飲む?」

「あ、私ミルクティー」

「OK♪恭也は、何にする?」

「…宇治茶、アイス大盛りで」

「…洋風喫茶で無茶言わないの。恭也ってば、あいかわらず、おちゃめさん」


おぉ!

俺がかならず選ぶ選択肢だ!

思わずテンションが上がる俺。

恭也と美由希さんが席に着き、フィアッセさんと俺も仕事を再開する。

だが、しばらくして事件が起こる。


「いらっしゃいませー」

「ここがそうなのか? おっ、マジ可愛い子いっぱいいるじゃん」

「だろ〜。客も店員もレベルたけぇ〜」


やってきたのは目つきの悪そうな三人組。

……うわぁ、不良だ。

一発でわかるガラの悪さ。

何年前の格好だよお前ら……って、ゲーム発売時の年代だと普通か?


「んで、どの外人さんだよ?」

「おぅ、あー、えーと。おっ、あれだあれ。あそこで話してるの」


こいつら、フィアッセさん目当てか?

……面倒なことになりそうだな。

他のバイトの子はどうしようかとオロオロしている。

仕方ない、ここは俺が行くか。


「いらっしゃいませー。三名様ですか?」


フィアッセさんの姿を隠すように、俺は接客を始める。


「あん? 野郎には興味ねーから向こう行ってろ」

「そうそう、女性に接客してもらいてーんだよ、俺達は〜、ひゃははは!」


周りに客がいることもおかまいなしに大声で笑う三人組。

チッ……うっとうしいな、こいつら。

「どうした、峻」

さすがに店内での注目を浴びてるだけあって恭也たちも心配になって近づいてきた。

フィアッセさんや美由希さんも少し遠くの方でこちらを見ている。

……恭也が居れば百人力だな。


「おっ、そこの彼女〜。バイト止めて俺らと遊びにいかねぇ?」


そんな俺達を無視するかのように、一人の男が俺の近くに居た大人しそうなバイトの子の手をとってナンパし始めた。


「……え!?」

「おいおい、目的が変わってるじゃねぇか」

「良いだろ、別に。それに女の人数は多い方が良いだろ」

「へへっ、違いない」

「それに憂さ晴らししてぇしよ、ずっとあいつの近くに居たからストレスが溜まっててよ〜
どう、彼女、一緒に行こうぜ、良い場所しってるからさー」

喫茶店にナンパしに来てるんじゃねぇよ。

それにストレスが溜まってるのはお前らよりも俺達の方だ。


「……すみませんが、お客様。
ここは出会い喫茶ではございませんので、そう言うのがお望みでしたら、とっととお帰りくださいませ」

「あ? なんだと!」

「聞こえませんでしたか? ではもう一度。

ここは人を癒す場所なんだよ、その癒しを潰しに来てんじゃねぇよ、ボケ」

俺はバイトの子の手を掴んでる男の手を払い、女の子を引き寄せる。

下を向いてるのは怖かったからだろう。


「んだと! てめぇ、俺達を誰だと思ってやがる!」

「自分の顔の悪さを知らないナンパ師。それかただの馬鹿」

「殺す!」


そう叫んで俺に向かってくるスキンヘッド。

げっ!? これだから短気な奴は!

まぁ、丁度良い、俺もストレスが溜まってたし、発散させてもらうか。

女の子を危なくないように横に移動させ、敵の攻撃を待つ。


「………」

「俺が巻いた種なので、俺が収拾する」

「……わかった。……ただし店の物は壊すなよ」

「了解」



見たところスキンヘッドの男は武術はやっていない。

走り方で素人だとわかる。

……拳を振り上げて走るのはどうかと思うぞ。


「って、ことで帰れモブキャラ!」

「誰がモブキャラだ!? 殺す!!」


俺の言葉に怒った男はそのまま走りながら右ストレート。

俺は左手で男の右腕を掴み、男の体制を崩す。

そして、体制が崩れた男の顎目掛けて右手の掌底!


「がっ!?」


防御する間もなく男の顎にクリティカルヒット。

仰向けに倒れる男。呆然とする男の仲間。

きっとこいつがこの三人の中で一番強かったのだろう。

それがまさか一撃で負けるとは思ってもみなかったようだ。


「さて……まだやるか?」


残りの男達に睨みつける。


「く、くそ!! 覚えてやがれ!!」

「俺達、海鳴愚連隊に喧嘩売ってきたことを後悔させてやる!」


お決まりの負け台詞を残して気絶した仲間を背負って去っていった。

やれやれ、こっち来ての初戦闘が不良ってのはなんともなぁ……。


「ふぅ……またつまらんものを殴ってしまった」


そのセリフを言った瞬間、店内に歓声と大きな拍手。


「え、な、なに、なにこれ!?」


店員、お客、全員立って俺を見ながら拍手してるのに思わず驚いてしまう。


「かっこよかったよー、少年!」

「うんうん、顔も美形だし、今の可愛い表情もいいね」

「えー、でも顔は隣の男の子の方が……」


ええい!! 褒めるなら褒めろよ!!

つーか、戦闘に顔関係ねぇよ!


「ほら、香澄ちゃん」

「あ、あの……」


ん?

歓声にかき消されそうな小さな声が聞こえた。

その方向を見ると、桃子さんとフィアッセさん。それに俺が助けたバイトの子がいた。


「大丈夫だったか?」

「あ、は、はい。あの……ありがとうございました!」

「どういたしまして。女の子を助けるのは当然だし」


俺は笑って優しくバイトの子の頭をぽんぽんと撫でる。


「あ……」

「?」


なぜか顔を真っ赤にする女の子。

あ、さすがに頭を撫でられるのは恥ずかしいか。


「峻くん、ありがとうー」

「峻、かっこよかったよ」

「……俺からも礼を言う。助かった」


高町家の皆からもお礼を言われる。

……なんつーか恥ずかしいな。






























「ちくしょう! あの店員ぜってぇぶっ殺す!」

「……でもどうするんだ、あの店員かなり強いぞ」

「確かにそれに店員の隣に居た奴もなんかおっかなかったしな……」

「だからってこのまま引き下がれるか!!」

「なら、どうするんだよ」

「けっ、アジトに戻ればあいつが居るだろ」

「あいつって、リーダーか……」

「そうだ。むかつくけどあいつなら必ずあの店員をぶっ潰せるだろ」

「自称”殺し屋”とか言ってたしな」

「どうせ嘘だろ殺し屋なんて。てかそんなのどっちでも良いんだよ。あの店員がボコボコにされるならな。行くぞ」








あとがき。

書いてるうちに色々とオリキャラらが出てしまいました。

不良やら、香澄ちゃんやら……血が飲みたいとか言ってる奴やら。

そして峻の戦闘初披露……っと言っても峻も言ってるように相手は素人モブキャラ。
峻の相手ではありませんでしたので1撃。


それにしても三人称、難しい(うわーん)

もっと精進しなければ……。
他の方の小説を見て、なんであんなに鳥肌が立つ三人称が書けるのかが不思議です。
……なので私は私らしく、できる限りセリフ主体の三人称を頑張ります。







WEB拍手レス


※陸奥 陸奥さんこれからも楽しみにしています
※陸奥さんの作品、読みました。これからも頑張って。

ありがとうございます!
頑張って皆さんがもっと楽しめるように努力します!






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