『瞳に光が映らない君の笑顔が眩しくて 前篇』
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とある病室で一人の少年が目を覚ました。
目を開くと、視界には無機質な白が広がっていた。
窓から入り込む風になぶられて、カーテンが柔らかく波打つ。
ひときわ大きな衣擦れの音と、頬を撫でる風の感触に、相沢祐一は目を覚ました。
まったく同じ間隔で三度まばたきをした祐一は、ゆっくりと視線を動かし、次第に、自分がベッドに横たわっていることを認識する。
室内には、祐一が横になっている以外にも三台のベッドがあった。
カーテンがひるがえる。
風がカーテンをまとっているように見える窓辺の空間が、なんだか自分を誘っているように祐一には思えた。
体を起こしてベッドから降りようとする。だが、祐一は不意に眉をひそめて身を折った。手で探ると、右のわき腹辺りに鈍い痛みを覚えた。
ベッドから足を投げ出す。
カーテンに遮られて日の当たらない床面に素足がつくと、つまさきが冷えた感触に驚きの声を上げ、刺激が頭に伝わる。
それが合図になったように、祐一はゆっくり立ち上がり、わき腹を押さえながら窓辺に寄っていった。
窓の外には陽光が降り注いでいる。日は高く、光の差し具合から正午頃だと分かった。
ちゅんちゅんちゅん――小鳥のさえずる声が聞こえたかと思うと、祐一の目の前をスズメが横切った。
小さいながらもせわしなく羽根を動かすスズメをぼんやりと目で追う。やがてスズメは芝生に降り立ち餌をついばみ始めた。
円形に整えられた芝の外周に沿うようにして石敷きの通路が走っている。そこは中庭のようだった。
所々に緑があり、所々に木々が植えられ、所々にベンチがありそこには人影があった。
石の通路を、看護婦に押されて車椅子が通る。車椅子に座っている初老の女性が、ベンチの人影に向かって手を挙げ、声をかけた。
それに応えるように、ベンチで静かにたたずんでいた少女が会釈する。
首の動きに合わせて、長い髪がはらはらと音がしそうな風情でなびいた。
日差しを受けて艶やかに映える黒髪に、祐一は見惚れた。
思った通り、今自分がいる場所が病院の入院病棟であることや、
そもそも自分が病院のベッドで眠っていたことの理由として思い当たるわき腹の痛みの原因などを忘れて、黒髪の主に見入っていた。
窓から顔を出して辺りを見まわし、祐一は自分が今三階の病室にいることを知った。
その部屋の窓からは、辛うじてベンチに座る人物の表情をうかがうことができた。
少女は見た感じ自分と同じ高校生くらいで、髪に負けず劣らず目を引く白い肌が印象的だ。
しばらくして、ベンチに座る少女の元に看護婦がやってきた。少女が立ちあがる。
と、祐一の視線に気付いたのか、少女は病棟の方へ顔を上げた。
祐一には覗き見していたという自覚はなかったので、顔を逸らしたりはしなかった。
すると少女の方が、先ほどの老人にしたように会釈をした。はらりと少女の髪が揺れる。
祐一は空を仰いだ。延々と蒼が続いていく雲一つない快晴だった。
その夏の夏休みが終わると同時に、相沢祐一の何かが壊れた。
すべての元凶は、夏休みに起きた。
祐一の知り合いで企画した受験の息抜きの旅行、この夏休みを利用して行った旅行。
そこで起きた陰惨極まる事件は、彼だけでなく周りの人間を傷つけ、打ちのめした。……中でも祐一は重傷だった。特に心の傷が。
七年前の事件もその一端を担っていた。
寝ても覚めても、事件の時の異常な出来事が、フラッシュバックのように思い出され、祐一は疲れきっていた。
そうして新学期が始まり、十月の半ばまでを心をどこかに置き忘れたように過ごした祐一は、
生きることに明確な理由を見出せなくなっていた。
この夏の事件は、祐一が七年と言う年月をかけて修復してきた心の傷を深くえぐり、そして広げた。
突然として襲ってくる奇禍が人から様々なものを奪ってしまう。
スイッチ一つでできる殺人がある、などと愚にもつかない想像も、
あるいは誰しもが日常生活の中で、少しは感じている『狂い』なのかもしれない。
駅のホームに立った自分を、目の前を走り抜けようとしている列車に向かって突き飛ばす人間がいないとは限らない。
軽妙なリズムでキャベツを刻む料理人が突如、客に向けて白刃を振りかざさないとも限らない。
そういった考えが誇張であると言うなら、生命維持装置のスイッチを切ってしまいそうになった医療関係者や、
支給された拳銃を人に向けて発砲したくなった警察官を思えばいい。殺すことと奪うことほど簡単なものはない。
――あとに残されるもののことも、保身も関係なく、偶然を必然と履き違えて、ゲーム感覚で人を殺してしまえるものなんだ。
それは狂っているからじゃない、ただ、俺たちとはずれているんだ。
それこそを狂っていると言うのは簡単だし、祐一の常識の範囲から逸脱した事件であったことも確かではある。
だが、誰しもがその『ずれ』を持ち得ることと、何よりも『ずれ』を『ずれ』として認識することなく、
それが当たり前であるようにして日常に溶け込んでいる人間がいることも、また確かであるという確信が、祐一を壊したのだった。
そうだ、その気になれば二〜三百人を殺すこともわけないのだ……と。
それは妄執だったのかもしれない。そうあっては欲しくないが、それが事実なのだという迷いを帯びた諦観。
その「そう」がどうで、「それ」がどれなのかは分からない。だが、祐一は何かを失っていた。
あるいはその喪失感を補填するものがあるとしたら、それはあの事件で失った
――せをはやみ 岩にせかるる 滝川の―― 崇徳院の句が頭にちらつく。
あの事件が思い出されるたび、それは何度も何度も祐一の脳裡に蘇り、蘇ることのない人間への想いを強めた。
もうこの句の続き自分の横に立って詠んでくれる人はいないのだと。
そうして、穏やかな日差しと涼しげな風が、ようやく秋らしさを感じさせてくれる十月のある日の昼下がり、
祐一は何のあてもなく町をぶらついていた。
角膜を通り、瞳孔から水晶体、硝子体を通った光が網膜で結像した状態、
つまり物が物として目に映った状態であっても、見えない、見えていないということが人にはある。
目という感覚器を持つ生物一般にこれは言えるのだが、油断が死に繋がる野生動物と違って『ひま』な人間ほど、その傾向が強い。
そういう意味で祐一は『ひま』であり、人間的でもあった。だからこそ信号無視をして向かってくる車に彼は反応できなかった。
祐一が覚えているのは、内臓がせりあがるようなブレーキ音に続いて自分の身体が宙を舞ったことだけ。
その後の喧騒やサイレンは耳に入りはしなかった。例え入っていたとしても聞こえなかっただろう。
祐一は自分が生きることの意味を考えるほど『ひま』……だったのだから。
ただ、これでもう考えなくてもいいやと、思ったかどうかは定かではない。
その少女は、神園九月夜(かみぞのくつよ)といった。
「神様の神で花園の園。九月の夜で九月夜って書くの。苗字も名前もどっちも珍しいでしょ?」
ベッドに戻り、包帯を巻かれたわき腹を押さえながら、車に撥ね飛ばされた時のことを
思い出していた祐一は、看護婦に付き添われて病室に入ってきた少女を見て驚いた。
「もう気付いてるかもしれないけど、私は目が見えないの」
何の気負いもなく言う少女に、祐一は戸惑う。
先ほど窓辺から見た少女が、自分と同じ病室の入院患者だということを知り、同時に、盲目であることを告げられ、祐一は返答に困った。
というのも、少女、九月夜は、見た限りでは目は開かれ、瞳は光を受けて輝きを帯びて祐一の姿を映しており、
とても障害を持っているようには思えないからだ。
九月夜をベッドに導いてから、看護婦は病室を出た。
「あなた、お名前は?」
「祐一だ、相沢祐一」
「え、男の人?」
今度は月夜が戸惑ったような声を出した。祐一がこうして直に九月夜と対面して、そして声を発したのはこれが最初だった。
だが、九月夜には、声を聴く以前に、目が見えないにも関わらず、男性である自分を女性と思う何かがあったのだろうか。
最初の気安い声のかけ方から、祐一はそう考えた。同時に、九月夜が盲目であることは間違いのないことだとも思った。
祐一は、自分の容姿はどちらかと言うと女顔だが女性として間違われるほどではない事を誰よりもよく知っている。
「どうして、女性だって思ったんだ」
だいたい同年代だろうと思った祐一は、先ほど九月夜がそうしたように、くだけた口調で問いかけた。すると九月夜は、
「きっとあなたは特別なんでしょうね」
と言い、
「ううん、いいの、それより……私が盲目だってこと、信じられない?」
逆にそう訊いた。
「あ、ああ。だって、見た目は普通の人と変わらないからな。あ、すまない、その、普通って言い方、おかしいよな。
じゃあ普通じゃないってことは変なのかってことに……すまない」
言葉が知らずに人を傷つけるってこと、気にも止めない人の方が多いのに。
うん、見た目は、目が目として機能している人、晴眼者っていうんだけど、
その人たち、つまりあなたたちと変わらないらしいんだけど、でも、私は見えないの。原因は不明。
水晶体や網膜みたいな目の各部位に問題はないらしいから、視神経と脳との接触がうまくいってないとかなんとか、聞いたことあるわ。
でも……」
「いつからなんだ?」
「……ずっとよ」
「ずっと?」
「そうずっと……生まれた時から」
途端に祐一は、景色がブラックアウトする錯覚に捕らわれた。生まれた時から見えないとはどういうことだろうか?
それは何も分からないことと同義ではないのか……とそう思った。
「でもね、そのおかげでって言ったら変だけど、他の感覚はずっと発達してるの。特に触覚と聴覚がね。例えば……」
そう言って、九月夜は唇を結んだ。その様子は精神集中をしているように見える。
「うん、このくらいの距離でも、あなたの心臓の音や呼吸がはっきりと分かる」
ベッドとベッドの間も含めて、二人の間隔は一メートル以上離れている。
「私の隣に来てみて」
言われるままに、祐一は九月夜の隣に腰掛けた。
「これくらい近いと体温も伝わってくるわ。……うん、平熱だね」
少し笑ってから、九月夜ははにかんだ。
どうしてこんな風に笑えるんだ、そう考えて、祐一にいくつかの疑問が浮かんだ。
人間は、人間と共に暮らすことで社会の様々な環境に適応し、他人との関わりを経て自我を確立していく。
つまり、他人を見ることによって、自分と他人との違いから自分自身を見ているとも言える。
しかし、その自分自身を映す他人という鏡がない環境で育ったとしたら、人間は人間として成長できない。昔どこかで聞いた事がある。
狼にさらわれ狼に育てられた子供を保護したのだがその子供は人として生活が出来なかった。
狼としてしか生活が出来なくなっていた。このように少なくとも祐一が知っている人間らしい人間にはなれない。
それ以外にも、生まれた時から他人と関わることのない隔離された環境で育てられた人間がいたとする。
その人間は、六畳ほどの窓もない殺風景な部屋に押し込められ、日の目を見ることなくただそこに居続けることを余儀なくされている。
一定の時間が経過すると、部屋の一部がわずかに開いて食べ物が自動的に運ばれてくる。
その人間は、食べることと排泄すること、死なないために身体を動かすこと、そして寝ることだけを繰り返して時を過ごす。
その人間は何も知らない。六畳の外の世界のことも、自分が何者なのかも。
だからその人間は何も望まない。己と他者とを比べることを知らないから。そして笑わない。
笑顔を見たことがないから。
そんなことを祐一が思ったかはともかく、人の表情による感情表現は、
特に乳幼児期での周囲の人間とのコミュニケーションの中で学習するものである。
笑顔は、笑顔を知らないと作れないのだ。
生まれた時から目が見えず、映像としての笑顔を知らない月夜が、どうしてこんな風に笑えるのか、
どうしてこんな風に自分を切なくする笑顔が作れるのか、それが祐一には不思議だった。
「それはね、私がたくさんの人に愛をもらったから。
へへ、こんな昼間っから愛だなんて、三十年前のドラマでも恥ずかしくって言えないかも。
でもね、言葉にすると、これくらい簡潔で的を得ている表現は他にないって思えるくらい、ぴったりなんだ」
気恥ずかしそうに言う月夜が、少し顔をうつむけた。
そこで祐一は、物を映さず、焦点の合わない九月夜の目に気付き、何か名状しがたい感覚を覚える。
「ま、ちょっと美化しすぎかもしれない。私が思う以上の苦労を周りの人はしているから。
そう、なんで私が表情を作れるかって話だけど、それは教えてもらったからだよ」
九月夜は、隣に座る祐一に手を伸ばした。
「こうやって、直に相手の顔に触れるの。そうして表情を作ってもらう。
嬉しいときにする顔、怒った顔、哀しい顔、楽しい顔、本当は嬉しいけどそれを隠している顔とか、色々。
あなたは今……困った顔をしている?」
それはその通りだった。
月夜の手の感触、指が唇をなぞる動き、そういったものが自分の現実を見つめる目を、無理矢理に過去へ向けていくようで、
祐一は狼狽している。
「ごめんね、急に変なことして」
「いや、別に……かまわない」
「でも、今のでやっぱり思った。あなたは特別」
「俺が……特別?」
「ううん、なんでもない。その、そう、今みたいにして表情を覚えて、それから自分でも表情を作ってみて、それを見てもらって。
そういう風にして教えてもらったの」
それを聞いて、祐一の疑問の大半に説明がついた。
その説明を聞き祐一は自分自身に劣等感を持ってしまった。
俺なんか笑顔を知っているのに笑えないでいるのにな……情けねぇ。転校してきた頃はみんなと馬鹿笑いしていたのに……
今となっちゃ……くそっ……
「そうか、さっき、自分の名前の字を説明できたのも同じような感じか」
「うん、九月夜でいいよ。そう、形を教えてもらったから。私たちにとって文字と言えば点字。それが唯一で絶対なの」
点字は、縦三点横二列の六点、
サイコロの六の目状に凸点を並べて一マスとし、その点の組み合わせでアルファベットや数字、かななどを表している。
「点字にも、点漢字といって点字で表す漢字があるんだけど、それはやっぱりあなたたちが見ている漢字とは違うわ。
後天的に、何かの事故とか病気で視力を失った人の場合、
目が見えなくなる以前の知識や見えていた世界があるから漢字の理解もスムースだけど、
先天的に全盲だったりすると、そもそも文字の形を理解するのが困難だし、アルファベットとかと違って複雑多様な漢字は特に難しい。
でも、自分の名前がどんな字で書かれるのかってすごく知りたかったから。
だから、版画に使うゴムのシートに私の名前を彫ってもらったの。
そうやって凹凸で表してもらったものを指でなぞれば、晴眼者が目で見て形を知るようにはいかないまでも、
なんとなくだけど分かるからね。ううん、できるなら名前以外にも色々知りたい。知りたいんだ。
だからたくさんわがままを言ったこともある」
それは、点漢字によって漢字を獲得しても得ることのできない渇望ゆえに。
点漢字は複数のマスを使うことで漢字を構成する偏や旁りを表し、それらを一まとめにして一つの文字を形作っている。
一マスに書かれた一文字で意味が伝わる本来の漢字に対する月夜のあこがれを、祐一は感じ取った。
「ゆういち」はどんな字を書くのかと訊かれて、祐一は九月夜の手を取り、彼女の手の平に指でゆっくり「祐一」となぞった。
祐一と視線の交わらない目で。
「なんだかこれって」
九月夜の手に「あいざわ」の字をなぞっていた祐一がふとつぶやいた。
「なんだかこれって? ……えっと、俺なんかには全然似合わない例えなんだが、その、サリバン先生みたいだな」
「ううん、そんなことない。私も同じこと思ったもの」
「ヘレン・ケラーとアニー・サリバンの話、私、何度も聞かせてもらった」
聾唖(ろうあ)と盲目という三重苦によって限りなく世界から隔離された身体。何も見えず、何も聞こえず、そして何も話せない。
そのままではヘレンは言葉を持ち得なかった。
しかし、そのヘレンの閉ざされた世界に、アニー女史は光を灯した。
アニーはヘレンの片手に水をかけ、そしてもう片方の手に指で「water」となぞり、
「あなたの手にかかる冷たい物は水と呼ぶのよ」と、物に名前があることを教えたという。
そのあまりに有名なエピソードを、祐一と九月夜は想起した。
「人との関わり合いの中で世界を認識し、社会福祉事業に貢献した奇跡の人、ヘレン・ケラー。一言にまとめるとそう。
でも、その奇跡は、彼女にとっても、サリバン先生にとっても、そんな一言で表すことは決してできない。私はそう思う」
「俺は……、こうやって目を開ければ君……九月夜の顔が見える。耳をすませば鳥がさえずる声が聞こえる。
そうして、思ったことを口に出して伝えることができる。
でも、一度思ったことがあった、何も見えなくなればいい、何も聞こえなく、何も言わなくて済んだらいいって……
そんなの逃げで罰当たりだよな。」
祐一が述懐すると、九月夜は少し哀しげに口を開いた。
「罰当たりとか、そういう考え方って、私は嫌い」
「え……?」
「障害を持っている人が、五体満足の健常者が身体を大切にしないのを見て嘆くのは分かる。
でも、逆に健常者が障害を持っている人を見て、『自分より辛い境遇の人がいるんだから、自分はもっと努力しないといけない』とか、
『自分は恵まれている』とか、そんな風に思うのは、私、違うと思う」
「なぜなんだ? だって、俺は実際すごいと思う。
盲目のピアニストが譜面も見ずに一度聴いただけの曲を演奏する姿とか俺は見たことがある。
それができるようになるには、健常者以上の努力をしてきたはずだ、そう思った。その姿を見て自分自身を省みることがなんでだめなんだ?」
「人が努力する姿を見て、感動するのは良いことだと思うわ。
でも、私は自分と他人とを相対的に見て、自分のランクをつけるようなことはしたくないの。
極端なことを言うと、私はヘレン・ケラーと違って耳は聞こえるし、口もきける、だから彼女よりずっとましだし、まだ幸せなんだ、
なんて思いたくない。
……よく、小さい子がご飯を残したりすると、
『アフリカとかそういう国では、食べたくても食べられない子供がたくさんいるんだから好き嫌いいっちゃだめです』
なんて親が諭すでしょう? でも、それって子供をしつける論法として、本当に正しいのかな?
だって、食べられない人がいるから、食べられる自分は食べないといけないなんて、そこには本質的な感謝がないもの。
誰かと比べて自分を決めるなんて、侮辱でしかない。もし私を見て祐一君が『自分もがんばらないといけない』
なんて思っても、私は嬉しくない」
そう言って唇を噛んだ九月夜を見て、祐一は目頭が熱くなるのを感じ、一言もらした。
「そっか。そうだよな、すまない。……ありがとう」
ここで祐一は、けっして九月夜は自分を過去へといざなう存在ではないことを確信した。
九月夜の見えない双眸は、祐一が目を背けていた現実を示していた。
後書き
b「えっと始めまして皆さん作者のbaniraです」
ゆ「アシスタントのこのアホ作者の次回作のヒロインの可能性がある神坂優奈です」
b「なんかなっがい説明だな」
ゆ「うっさいわね」
b「さて本題に入るぞ」
ゆ「はいはい、てゆーかこれカノンSSなの登場キャラ祐一だけだし」
b「はうぅー。それを言わないでくれー」
ゆ「他のキャラを出す予定は?」
b「無い(きっぱりと)」
ゆ「即答かい!」
b「だってーそういう設定なんだもん」
ゆ「まあいいわ。ところでこれはあんたの処女作よね」
b「まあそうなるかな」
ゆ「確か夏休み前から書き始めて、受験生だと言うのに授業中にSSを書くための資料を読み漁って、
その上宿題も出さないで書き続けた作品よね」
b「うぅぅーおっしゃる通りです」
ゆ「それにしても長い時間かけた割にはしょぼいSSね」
b「そんなこと言わないでくれよー。いろんな本読んで精一杯背伸びして書いたんだからよ」
ゆ「本の内容を引用したりしていろいろやったわよね」
b「そのせいかメッチャ疲れたぞあの時は、やっぱ自分のレベルに合ったものを書かなきゃな」
ゆ「もう懲りたわけね」
b「ああ、これからはもうちょっと気楽に書くぜ」
ゆ「作者はこう言っておりますがたぶん次回作は企画倒れになるでしょう」
b「そんなこと言わないでくれよー」
ゆ「こんな作者ですが皆さんどうか見捨てないでください。次は前中後篇の中篇です。どうか最後まで見ていってください」
b「お願いしますー」
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