七瀬の出した条件は、『オレ一人で、迷宮の奥にある赤い宝玉を取って来い』
……という物だった。

「一人で……か」
「魔王に挑むって言うんならそれぐらいの根性は見せてもらわないと。
 ま、とは言っても、そんなに強いモンスターは出ないから大丈夫だと思うけどね」
「だけど、いいのか? 勝手に持ち出して……?」
「うん。いっぱいあるから1個ぐらい無くなっても平気よ。」

その理屈はどうかと思うが……大体それって窃盗だよな。
ま、いざとなったら、七瀬に脅されてやったことにすりゃいいか。

「ねぇ七瀬……宝玉って……もしかして――」
「ま、いいからいいから、で、どうするの? 止めとく?」
「いや、行ってやるよ」

ま、大丈夫だろ、多分。七瀬もああ言ってる事だし……
今後の事を考えると七瀬の協力を得られないことの方が痛いからな。

「そ、じゃあ…その前に商店街ね」
「そうだね、色々準備しないと…」
「さすがに、その装備じゃ、ちょっときついわよねぇ…」
「ん、良く判らんが、とりあえず行くか」







  武器と防具の店







「なんだ? 弁当でも買うのか?」

三人に連れられて、やってきたのはコンビニ『LOLIKON』

「違うわよ…こっち」

……の隣に会った建物。看板には――

『武器と防具の店』

――と、書いてある。
こんな店……有ったっけか?
……いや、まぁ、良いんだけどな。

「こんにちわ〜」
「いらしゃーい、あ、七瀬さんに広瀬さん、ひさしぶりだね。ま、ゆっくり見てってよ」
「すげぇな、こりゃ…」

その店の中には、所狭しと様々な武器や防具が並んでいた。
中央のカウンターでは恐らく店員であろう男がにこにこしながらこっちを見ている。

「ねぇ北川君、こいつの装備品なんだけど……なんかいいのある?」
「ん……あれ? 初めて見る顔だな」

北川と呼ばれた男は、カウンターを出て、オレの目の前にやってきた。

「俺は、北川潤。よろしくな」
「ああ、俺は折原だ……ところで、これ全部売り物なのか?」
「ああ、勿論だ。なんか、気に入ったのがあったら買ってってくれ。
 七瀬さんの知り合いみたいだし、サービスしとくぜ」

「じゃ、あたし達は色々見てるから……北川君、後お願いね」

そう行って三人は、それぞれ興味のあるコーナーに散っていった。

「じゃ、まず防具からだな。この糞暑いのにも辟易してた所だ」
「判った。で、どんなのがいいんだ?」
「軽くて、防御力が高くて、涼しいヤツ……だな」
「………………」
「無いのか?」
「いや、あるにはあるが……な。高いぞ?」
「いくらするんだ?」
「5万円」
「…………無理」
「そうか……ところで今、いくら持ってるんだ?」
「32円」
「…………」
「32円だ」
「いや、聞こえてる……うーん、それじゃあ、今装備してるやつより良いのはないなぁ……」
「そうか……っつーか、この値段で買える防具ってあるのか?」
「ああ、一応な。……ほら、これとか」

北川が取り出したのは、ぼろぼろの布切れだった。

「布の服……20円だ」
「襤褸切れにしか見えないが……」
「そうだな、オレもそう思う。買うか?」
「…………いや、遠慮しとく」
「だろうなぁ……じゃあこれなんてどうだ?」

北川は、一度奥に入り、箱を持って帰ってきた。
開けてみると……

「作業着……か?」
「ああ、セットで安全メット付きだ。防御力はたいしたこと無いがな、
 少なくともそれよりは軽いし、涼しいぞ?」
「まあ、そうかもしれんが……いくらなんだ?」
「セットで1000円だ」
「安っ!!」
「だろ? ま、中古品だしな」
「中古……ってお前」
「大丈夫。品質は保証するって」
「そうか……でも、どっちにしても足りないぞ」
「貸しにしといてやるよ。七瀬さんの知り合いなら、信用できるからな」

七瀬って、意外と信用あるんだな……
まぁ確かにそのお陰で助かるのだが。

「そうだな、じゃ、頼む」
「毎度! じゃ、次は武器だな……」
「あ、ねえ折原」

側で何か見ていた広瀬が、声を掛けてきた。

「折原は、一応剣士なのよね? だったら、これなんてどう?」

広瀬が、壁に掛かっていた大振りの剣を抱えてきて、オレに手渡す。
しかしそれは、滅茶苦茶重かった。

「……無理……持てない」
「はぁ……なさけないわねぇ」

ていうか、これを軽々持ってきた広瀬もどうかと思うぞ……

「ふむ……なぁ折原。お前、レベル幾つなんだ?」
「ん……? ああ、2だ」
「………レベル2……か」

暫く考え込んでいた北川は、部屋の隅においてある籠から、一本の小振りな剣を持ってきた。

「だったら、これなんかどうだ?」

「ショートソードだ。攻撃力は大したこと無いけどな。
 扱いやすいから、慣れるまではこれぐらいがちょうど良いぞ」
「ふむ……」

それを受け取り、手に持ってみる。
確かにこれならオレでも使えそうだ。だが……

「悪くは無いけどな、武器はもう持ってんだ」
「ん? ……その、折れた鉄パイプか?」
「ちがう……これだ」

右手の指輪を見せる。

「……ほぉ……」

北川は、目をきらきらさせながら指輪に見入っている。

「指輪?」
「ああ、なんか念じたら武器の形をとるんだと」
「折原、あんたこれ……どうしたの?」
「あぁ、ちょっとな。知り合いに貰ったんだ」
「魔剣かぁ……すげぇな…ちょっと見せてくれないか?」
「ああ、ほら……って、外れないな」
「そっか、じゃあさ、ちょっと実体化させてみてくれよ」
「今……ここでか?」
「ああ、頼む」
「でもなぁ……」

あの言葉言わなきゃ行けないんだよな……

「な、頼むよ……そんな一品滅多にお目に掛かれないんだ。
 ……そうだ! もし見せたくれたら防具の御代タダにしてやってもいいぜ?」

「むぅ……」

確かに御代ただは魅力的だ……しかしなぁ……
今ここであの言葉を言うのは避けたい所だ。

「でも、たいしたこと無いぞ? なんか、オレの力に応じて形が変わるっていってたからな。
 今のオレじゃろくなもん出てこないし」

あ、なんか……自分で言ってて情けなくなるな……

「そりゃ、凄ぇ!! ぜひ見せてくれ!!」

……しかもやぶへびだった。

「あたしも見てみたいわ」
「浩平、私も見てみたいな」
「ほら、さっさとやりなさいよ」

そのうえ、皆戻ってきた……
……どうする……逃げるか?
……よし、逃げよう。

「……ってあの、七瀬サン、何でオレの首根っこ捕まえてらっしゃるんで?」
「今、逃げようとしたでしょ?」
「くそぅ……」

仕方ない、覚悟を決めるか……

「あー……分かったよ。でも、先に言っとくけどな、発動の言葉に意味は無いぞ?
 そう言え、といわれたから言ってるだけだ、勘違いするなよ?」
「何の事だか判らないよ?」
「いいから早く」
「はぁ……んじゃやるぞ?」

皆の気体に満ちた目がオレを突き刺す。
あーあ……この後の展開は判りきってるんだがなぁ……

「みずかの愛をこの手に受け、
我が剣よ、今ここにっっ!!」



「わあぁぁぁっ!! 浩平っ!!
 いきなり何てこと言い出すんだよっ!!」



くそぅ……だから嫌だったんだ……





つづく。


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   【折原 浩平】  へっぽこ戦士 Lv.2

HP  1/56   力 知 魔 体 速 運
MP  0/0   7  3  2  6  7  3
   
攻撃  10(13)       防御  7(11)
魔攻  4(4)       魔防  4(14)
命中  84%       回避  6%

装備  みずかのしゃもじ
      安全メット
     作業服

所持金  32円


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2003/06/11  黒川






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