「みずかの愛をこの手に受けっっ
我が剣よっ、今ここにぃっっっっっ!!」



パァァァァァァァァァッ……



叫んだ瞬間、掌がまばゆい光を発し、みずかの剣が実体化する。

「これが……『みずかの剣』……」


そして、俺の手には……

光り輝く………

純白の……





















『しゃもじ』が握られていた…





   へっぽこの紋章





「はあっ、はあっ……」

みずかのしゃもじを使い、G・アンとを倒したオレは(結構良い勝負だった)リングの上でへばっていた。

「いやぁ、お疲れ様。はいこれ」

むかつく笑みを浮かべながら、クソ教師が近寄り、何かをオレの首に掛ける。

「……これは?」

それは、3cm程の長方形をした、薄い銀色のプレートだった。
端に鎖が取り付けられており、首飾りのようになっている。

「君は、今、試験に合格したから新しい称号を手に入れたって訳さ。」

プレートを見ると、表には、俺の名前や年齢などの個人情報が刻まれている。

「ほぅ……」
「裏に、君が今日得た称号が記入されているからね」

裏返してみると、そこには【へっぽこ戦士】と刻み込まれ、その下にはLv・2と、謎の文字が刻まれていた。

「……へっぽこ……」
「折原君、おめでとう。君は今日から【へっぽこ戦士】に認定された訳だ。これからは、胸を張って【へっぽこ戦士】を名乗ってくれ」
「いらねぇよ!!! 何でオレがへっぽこ戦士なんて、不名誉な称号わざわざ名乗らにゃならんのだ!?」
「まあ、名乗る名乗らないは自由だが、君がへっぽこ戦士になったのは事実だからね」
「うるせぇ!! クソッ! こんなもん……ありゃ?」

オレは、プレートを外そうとするが、それはまるで、首にぴったりくっ付いている様で、どうやっても外れない。

「あ、それね……呪いが掛かってるから外れないよ。
 どうしても外したかったら、新しい称号を手に入れる事だね」

……こいつ、なんてモノ付けやがるんだ……それが教師のすることかよ……

「新しい称号っつってもだな……」
「もっとも、君の実力だと、しばらくそのままかもしれないけどね、はははっ……」

ははは……じゃねぇよ!
くそっ、馬鹿にしやがって……

「なあ、ここでもっと強い敵と戦って勝ったら、称号変わるんだよな?」
「ん……まあ、そういう事だけど……1ランク上がると、敵もだいぶ手強くなるよ?
 僕としてはまだ止めといた方が良いと思うけどな」
「構わないから……やらせろ」
「まぁ、本人の意思じゃ仕方ないなぁ、じゃあ……はい」

教師はオレの方に手を差し出す。

「…………なんだ?」

「参加料だよ。さっきの分は僕のサービスだけど、ホントはクラスに応じたお金が要るんだ」
「……幾らだ?」
「ふむ……じゃあ500円でいいよ」

ぐあっ……ほぼ全財産かよ。
しかも、じゃあってなんだよ……

「判ったよ……ほら……」
「毎度♪」
「……お前、ホントに教師か?」
「ははは、よく言われるよ…………ま、それじゃ、頑張って」

教師は、金を受け取ると、扉の向こうに消えていった。

「うしっ! どっからでも掛かって来い!!」
『それじゃ、始めるよ』

スピーカから教師の声が聞こえ、リングの反対側の扉が開く。

『相手は、『ごーレむ』だ。ま、死なない様にね』

扉の奥から『ごーレむ』とやらが姿を現した。
体長5メートルは有る泥人形だ。

って、滅茶苦茶でかいんですけど……

「……反則だろ、あれは……」



…………



「い、てて…………」

オレは、満身創痍の体を引きずりながら、廊下を歩いていた。
終業式はとっくに終わり、今はHRをやっているらしく、廊下に人影は無く、
様々な教室から、夏休みの注意事項などを話す教師の声が漏れていた。

あの後オレは、ごーレむに一撃で伸された。
幸い止めを刺される事は無かったが……
で、あの教師は『だから言っただろ? これに懲りて無茶はしない事だね』等と、いかにもな事をほざきながらにこやかに立ち去っていった。
一人残されたオレは、本来の目的である情報収集を実行するため、何とか立ちあがり、教室に向かっているという訳だ。
余計な時間を取ってしまったため、皆帰っていたらどうしようかと思っていたが……

「何とか間に合いそうだな……」


…………


「お〜〜〜す、七瀬、元気だったか?」

クラスメイトに軽く挨拶を交わしながら自分の席へ向かい、
目の前の席で帰り支度をしていた七瀬(恐らく俺の知り合いの中では最強)に声を掛ける。

「あ、折原じゃない、どうしたの? 今日は姿見なかったけど……」
「ん、ちょっとな……なぁ、魔王って知ってるか?」
「え、それって……昨日ニュースで言ってた奴の事?」

報道されてんのかよ……

「あぁ、多分それだな。なんか知ってるか?」
「相変わらずいきなりねぇ……でも、そうたいした事は知らないわよ。
 どうしたの? もしかして魔王退治にでも行く気?」

七瀬は恐らく冗談のつもりだったのだろう。
軽く笑みを浮かべてちょっと馬鹿にした様に言った。

「ああ、その通りだ」
「……え」
「っえぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

しかし、オレの言葉を聞き、驚きの声をあげたのは七瀬ではなく、何故か長森だった。
教室に残っていた生徒が何事かと、こっちを振り向く。

「み、瑞佳……どうしたの、そんな大声あげて……そりゃあ、アタシもちょっとはビックリしたけど……
 そんな大声あげるような事じゃないでしょ?」
「いや、あの……ねぇ浩平? ……冗談……だよね?」
「大マジだ」

本当に冗談で済むのならこっちも苦労しないで済むんだがな……

「だだだ、だって浩平……すらいム相手に苦戦してたでしょ? 魔王って、あの何百……
 ううん何千倍も強いんだよ? 悪い事は言わないから止めときなよ!」
「………」
「…………」
「……ぷっ」

『ぶあっはっはっはっは!!!』

クラス中で、大爆笑が起こった。
辺りからは、『すらいムに苦戦……』だの、
『折原君って実は弱かったんだ〜……幻滅ぅ〜〜』等の呟きが聞こえてくる。
……ちくしょう、長森……後で覚えてろよ……

「だぁぁーーっ! 関係無い奴は散れっ!! 散れっっ!!!」


――数分後――


大半の生徒を追い払ったオレは、改めて席に戻る。
周りには数人の生徒……七瀬、長森、後、何故か広瀬と住井が残っていた。

「で、本気なの? 魔王倒すって……」

律儀に待っていてくれた七瀬が、問い掛けてくる。

「なんか、訳アリなのか?」
「ああ、まあな……でもお前等……面白がってんだったら帰れよ?」

七瀬は俺のほうから話を振った訳だし、長森は……まぁ良いとして、
広瀬、住井は、何で残ってるのか判らない。

「失礼な奴だな。俺がそんな奴に見えるか?」
「ああ、どっからどう見ても」
「ぐっ……折原、お前……」
「冗談だよ……で、広瀬は何で残ってるんだ?」
「あたしは七瀬を待ってるだけよ」
「あ、ごめん真希……なんだったら先、行ってていいわよ?」
「ううん、ちょっと興味あるから……それに、場合によっちゃ、なんか力になれるかも知れないしね」
「……広瀬……お前、意外といいやつだったんだな」
「『意外と』は余計よ……で、どうゆう事なの?」
「じつはな……」


…………


「なるほど……そりゃ確かに酷い話よねぇ……」
「だろ?」
「…よし、判った! 細かい情報収集は俺に任しとけ!」
「なんか裏があるんじゃないのか?」
「だぁっ……お前、俺がせっかく――」
「冗談だ。ま、うまくいったら昼飯でも奢ってやるよ」
「お……おう、まかせとけ! じゃ、俺は行くぜ? なんか分かったら連絡するからな」

そう言い残し、住井は教室を出ていった。
確かにアイツの情報収集能力は頼りになる。
ただ……今回の事にどれほど役に立つのかはわからないが。

「……で、だ。七瀬に頼みたい事があるんだが……」
「お断りよ」
「……まだ何も言ってないだろ」
「アタシだって馬鹿じゃないんだから、話の流れで判るわよ。
 ……どうせ、魔王討伐に付き合えってんでしょ?」
「まあ、概ねそうだが……」
「ん……ねぇ、ちょっとプレート見せてくれる?」

プレート? ああ、さっきのヤツの事だな。

「ほれ」

首に掛けられたそれを取りだし七瀬に見せると、長森と広瀬も覗き込んでくる。

   【へっぽこ戦士】
       Lv・

「へっぽこ……」
「れべる……にぃ〜?」
「あんた……さぁ……」

オレのプレートを見た七瀬達は、三者三様の反応を示していたが……

「なんだ? へっぽこに関する異議は受けつけないぞ」
「……そういう事言ってんじゃないの。これで、どうやって魔王倒すってのよ……大体、レベル2って……」
「ん? レベル……ああこれか? なんかまずいのか?」
「あのねぇ…………はぁ……ちょっとこれ見て」

七瀬は深い溜息をつくと、自分のプレートを取りだしオレに見せる。

    【七瀬 留美】
        Age・18

「あれ、お前……確か誕生日8月じゃなかったっけ?」
「えっ!? あっ!! そっちじゃないっ! 裏よ裏っ!!」
「いやでも、18って……」
「いいでしょっそんな事っ!!」
「浩平、失礼だよ?」
「あ、ああ……」

プレ−トを裏返してみる。

    【拳皇】
       Lv・68

「……レベル68? これって凄いのか?」
「うん、かなり……」
「つまりね、あたしがあんたに付いていって、魔王を倒したとしても……
 それはあんたが魔王を倒したことにはならないでしょ? 
 …まぁどの道、今の……アタシ程度じゃ魔王に勝てる見込みも無いと思うけどね」
「そんなに強いのか? 魔王って……」
「じゃ無きゃわざわざ褒章なんかださないでしょ」
「そりゃそうだ……でも別に七瀬に全部任すとは言ってないだろ? オレだって――」
「あんた…何も分かってないわね……だいたい――」
「ねぇ七瀬……折原の事情もちょっとは考えてあげたら?   なんだったらあたしも手伝っていいからさ」
「真希……」
「おおっ! 広瀬、オレはお前を見なおしたぞ!!」
「あ、やっぱり今まで見下してたんだ?」
「いや、そうじゃない……広瀬がオレランキング大幅アップしたんだ」
「そ……そう」
「浩平……それもなんか失礼だよ……」
「…………わかったわ」

何やら俯き、考え込んでいた七瀬が突然顔をあげ言った。

「えっ?」
「但し、一つ条件ががあるわ……」
「なんだ? 裸踊りか? 構わないぞ」
「な・ん・で・あ・た・し・が・あんたの裸踊りを見たいなんて思うのよっ!!」
「なんだ違うのか」
「当たり前でしょ……ったく……えっと、東に祠があるのは知ってるわよね?」

ほこら? 有ったかそんなの…?
大体、東ってどっちだ…?

「ほら、浩平、桜並木公園の所だよ」
「桜……公園……ああ、あそこか……」

だが、『ほこら』なんて有ったか?
そもそも、ほこらってなんだ?

「でね、そこの地下がダンジョンになってるの」
「へっ!?」
 
ダンジョン……だと?

まじっすか……七瀬サン……




つづく…


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   【折原 浩平】   高校生 Lv.2

HP  1/56   力 知 魔 体 速 運
MP  0/0   7  3  2  6  7  3
   
攻撃  10(13)       防御  7(10)
魔攻  4(4)       魔防  4(14)
命中  84%       回避  6%

装備  みずかのしゃもじ
      てつかぶと
     かわのよろい

所持金  32円


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2003/06/09  黒川






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