住井の手紙(全文)



現時点での情報

中略

 ……というわけだ。頑張れよ

以上

















「…………」

「…なにこれ?」













12  王都へ













 街中で途方にくれていたオレ達に、長森の友人、稲木佐織が声を掛けてきた。

「瑞佳、おはよ〜っ……って、あれ? なんだ、やっぱ折原も一緒だったんだ。良かったぁ〜」
「あ、佐織、おはよ」
「なんだ稲木? オレになんか用なのか?」
「うん、ちょっと住井に頼まれちゃってね……あ、ねぇ折原? さっき家の方行ってみたら
 家の人が『あの子は星になったのよ』とか言ってたけど……なんかあったの?」

 由紀子さん……

「……いや、別にたいした事じゃない。それより住井がどうしたって?」
「あ、うん……えっと……あれ、確かここに………っと、あ、あった。
 これ、折原に渡しといてくれって」
「なんだ? 手紙……か?」

 手紙と言うより、二つ折りにされたノートの切れ端だが。

「じゃ、確かに渡したからね」
「あ、ああ、さんきゅ。つーか住井の奴は何やってんだ? 自分で来りゃ良い話だろ?」
「いや、わたしに言われても」
「……ま、そりゃそうだが」
「まぁ、なんか忙しそうにはしてたけどね。あ、そうだ。瑞佳、もう用は済んだの?」
「え? うん、済んだって言えば済んだのかな?」
「なんだ? なんか約束でもしてたのか? だったらこっちはもう良いから行って来いよ」
「あ、うん……じゃ、浩平、頑張ってね」
「おう」

 稲木と長森を見送り、手紙に視線を落とす。

「で、住井、なんだって?」
「どわっ!? お前ら居たのか? えらく静かだったからホントに帰っちまったのかと思ったぞ?」
「……んな訳無いでしょ」
「っていうか、普通に居たし、佐織とも喋ってたじゃない。アンタが聞いてなかっただけじゃないの?」
「……そう……だったか?」
「何ボケてんのよ……それより、手紙。なんか情報でも書いてあるんじゃないの?」
「あ、ああ、そうだな……」

 何か釈然としない思いをいだきながらも、紙切れを開き、内容を確認する。

「…………」
「…なにこれ?」

 七瀬と広瀬は、横からその手紙を覗き込み、首を傾げている。
 ま、そりゃそうだろうな。
 仕方ないので手紙の内容を声に出して読んでやることにする。

『おっす、折原。調子はどうだ? 魔王について俺の方でも色々探ってみた。
 魔王が現れたのは北の方の街らしいんだが……
 どうも一度姿を現した後、何らかの理由で今は姿を隠してるようだ。
 まだ詳しい事は判らないからなんとも言えないが、とりあえず行ってみると言うのも有りかも知れないな。
 あと、こっちはまだ未確認なんだが、王都の方でも何やら不穏な動きがあるらしい。
 これが件の魔王と関係があるかどうかはまだ判らないが……
 まぁそこで、俺はもう少し詳しく調べるために一度街を出る。又なんか判ったら、その都度連絡するよ。
 じゃあな。
 あと、もし王都に向かうんだったら、そこで騎士やってる奴に一人知り合いがいるから、
 そいつに事情を話せば力を貸してくれるだろう』

「………」
「………」
「どうした?」
「何処をどうしたら……大体、この手紙の何処にそれだけの情報量があるのよ……」
「これは、うちのクラスの男子専用の暗号だからな」
「……暗号って……何やってんのよ、うちの男子は……」
「まあそういうな、いろいろ役に立つんだぞ。たとえば――」
「別にいいわ、そんな事……それで? どうするの?」
「そうだな……北の街って所に行っても、今、魔王は居ないって事だよな?」
「まぁ……住井の情報を信じるなら、そう言う事になるわね」
「だったら、王都でいいんじゃないか?」
「『で、いい』って……ま、良いけどね」
「ところで王都……って遠いのか?」
「あんた、曲がりなりにも高校生なんだからそれぐらい知っときなさいよ……」

 そうはいっても……王都なんて、今初めて聞いたしな。
 そもそも日本に国王が居ると言う事実も昨日知ったばかりだ。

「まぁ、大体、歩いて1週間……てトコかしら?」
「歩くのか!? 電車とかに乗ってきゃいいだろ?」
「交通機関は、基本的に武器の持ちこみ禁止なのよ。折原と七瀬はいいかも知れないけど、あたしがね……」

 広瀬は長い棒のような物を持っている。恐らくあれは武器なのだろう。
 ちなみに広瀬を置いていく……という選択肢は存在しない。
 俺もそこまで鬼じゃない。というか置いてってたまるか。

「『これは物干し竿です』とかいって誤魔化せないのか?」
「無理よ。調べられるから。」
「そっか、それじゃ仕方ない。歩くか。」
「そうね……」












  ―――1週間後―――


 オレ達は鬱蒼とした森の中を歩いていた。


「おい、まだ着かないのか……てゆうか、道、間違ってんじゃないのか?」
「うっさいわね! いいのよこれで!」
「でもなぁ……」
「なんか文句あるの!? アンタだって承諾したでしょっ!?」

 二日前――七瀬が、『この山越えた方が近道なの』とか言い出し、街道を外れ山の中入っていった。
 それから二日間、ずっと深い森の中を歩き詰なのだ。

 いい加減こっちの体力も限界だ。
 何しろ街を出てこの方、現れる怪物は全てオレ一人で戦っている。
 七瀬曰く『積める内に経験は積んでおきなさい』だそうだ。
 確かに間違ってはいないんだが。だけどなぁ……

「そろそろ日が暮れるわ。今日も野宿ね」
「おっかしいわね〜……そろそろ森を抜けてもいいはずなんだけど……」
「やっぱ……迷ってんじゃないのか?」
「そんな筈無いんだけどなぁ〜……」



――1時間後――


「おい、完全に日が暮れたぞ?」

「そ、そうね……しょうがないわ……今日はここまでにして――」

「……? ねえ、あそこ、明かりが見えるけど、山小屋でもあるんじゃない?」
「なに!? ……お、確かに」
「行って見ましょ!」



『旅の宿屋』


「……なんでこんな山奥に」
「いいじゃないそんな事。これで野宿しなくて済んだんだし」
「そうね、とにかく入ってみましょ」





「ふぅ…」

 都合のいいことに、丁度4人部屋が二つ空いていた。
 勿体無いから一部屋でいいといったんだが、七瀬に却下された

「さて、どうすっかな……」

 それにしてもエアコンぐらい付けとけよな。
 滅茶苦茶暑いぞ……

 仕方ない…外に涼みにでも行くか。
 別にする事も無いしな。





 で、涼みに来たのはいいんだが……


   『やっほー こうへいっ 久しぶりだねっ♪』
「みずか……お前、本当にいきなりだな」
   『どお? わたしの剣、役に立ってる?』
「無視かよ……まあまあ役にたってんぞ……ただな」
   『えっ、何? なんか問題でもあった?』
「門題っつーか、あの台詞……なんとかならないのか?」
   『あの台詞……? なに?』
「なに?……って『みずかの愛を――』って奴……出す度に叫ぶの、めっちゃハズいんだが」
   『…………』
「どうしたんだ?」
   『あれ……初めの一回だけでいいんだよ?』
「は……?」
   『だから、一回使えたら、次からは念じるだけで出て来るんだよ』
「…………」

 オレは、右手に意識を集中させ、念じる。

パアァァァァッ……

 眩い光を放ち、オレの右手には純白のちょっと歪んだ日本刀が表れた。

     『ほらねっ♪』
「みずか……」
   『んっ……なにかな?』
「『ほらねっ♪』じゃねぇ〜〜〜〜〜っ!!! そう言うことは先に言えっ!!!」

 みずかの口の両端を摘まみ、思いっきり両側に引っ張ってやる。

   『い、いひゃい、いひゃいひょ、やめひぇ……』
「ったく、いらん恥をかいた……」
   『うぅ〜〜〜……でも、普通、言われなくても気付くよ』
「なに?」
   『……なんでもない』
「そうか。……後、一つ質問だが……これって防具に合わせて形が決まるのか?」
  『そんな事無いよ? でももしそう感じるんだったら……
   それはこうへいの意識……じゃないかな? 防具に合ってるって思うのは多分……
   そういうイメージで使ってるから』
「なるほど……つまり、オレが無意識のうちにそうしていたってことか」
   『うん、多分ね』
「じゃあ、滅茶苦茶強い武器をイメージしたら……」
   『前にもいったけど、攻撃力はこうへいの強さに比例するんだよ。
    だから、形は、馴れればある程度自由になるけど、
    こうへい自身が成長しない限り、強さは変わらないよ』
「そうか……じゃあ、オレが強くなれば、『最強のアイスの棒』とかできるんだな?」
   『なんで、アイスの棒なのかは分からないけど……まぁ、そうゆうことだよ』
「そっか。うしっ、じゃあ、謎も解けたことだし、そろそろ帰るか」
   『うんっ……て、あ、そうだ』
「ん? 忘れもんか?」
   『これから先、もし、わたしの力が必要だったら何時でも呼んでね。何処にいたってすぐ飛んで行くから』
「さんきゅ……ま、でもそんな状況ありゃしないだろうけどな」
   『どうだかね……今日はそれを言いに来たんだよ。じゃあねぇ〜』

 みずかは、嬉しそうに手を振ると、虚空に吸い込まれるようにして消えていった。
 そういや、あいつ、あれだけ言いに来たのか?






 宿に戻ると、玄関先で途方に暮れてる17、8才ぐらいの青年が居た。

「何やってんだ?」
「ああ、宿を取ろうと思ったんだが、部屋が空いてなかったんだ」
「そりゃ不運だったな」
「だろ?」
「……くー」
「くー?」

 よく見ると男は、背中に少女を背負っていた
 寝てる……のか?

「あぁ、こいつ一度眠っちまったら滅多な事じゃ起きないんだ。
 ま、そのせいで、野宿なんかしたら俺が一晩中見張りしてなきゃならんからな……」

 そう言って男は深くため息をつく。

「ま、仕方ないか……」
「なあ、あんた」
「ん、なんだ?」
「オレ、今ここに泊まってるんだけどな」
「おう」
「四人部屋にオレ一人だからベット余ってんだよ」
「おう」
「そんだけ、じゃあな」
「おう……っておい!」
「冗談だ」
「そうか」

 オレは二人を連れて部屋に戻った。
 途中、女将に発見されたが、こいつ等は広瀬と七瀬だと言って誤魔化した。
 ……信じるなよ女将……

「あ、朝食とか出ないけど別にいいよな?」
「ああ、どうせただなんだ、文句言える立場じゃない……それよりいいのか?」
「なんだ? よく分からんが別に構わないぞ」
「……そうか、ところで俺はいつまでこうやってればいいんだ?」

 男は少女を背負ったまま部屋の入り口の前に突っ立っている。
 オレが部屋の入り口を塞いでいたのでどうやら中に入れず困っている様だ。

「好きなだけ居て構わないぞ」
「有りがたいが、そろそろ手が痺れてきてな……何しろ3時間近くこいつを背負ったままなんだ
 ……いつ落としても――

 ドサッ…

 ――おかしくない」
「って言うか落としたな」
「ああ……まあ名雪の事だ、大丈夫だろう」

 名雪と呼ばれた少女は、面白い格好で床に転がっていた。
 が、一向に目を覚ます気配はない。
 この状態で目を覚まさんとは……侮れんな。



 ……で、
 『名雪』とやらをベットに運び、一息ついたところで、男が話しかけてきた。

「俺は相沢祐一ってんだ。で、こいつはいとこの水瀬名雪」
「オレは折原浩平だ」
「折原は……一人旅か?」
「いや、隣に連れが居るが……なんで旅人だと?」
「その格好」

 言われて気付いた。
 そういや着替えてなかったな……道理で暑いと思った。
 とりあえず鎧を外したオレは、相沢に質問してみた。

「そういうお前はどうなんだ?」
「俺は……まぁ人探しだな。……あ、そうだ折原、旅してんだよな?
 お前、どっかで見なかっ――」
「いや、見てない」
「……そうか」
「………」
「………」
「………」
「………」
「で、誰をだ?」
「……あゆ。月宮あゆっつって、特徴は――」
「一見小学生男子と見まごうような容姿をし、このくそ暑いなかダッフルコ−トを着て、
 背中に羽根のついた訳の判らないリュックを背負い、口癖が『うぐぅ』で手癖の悪い、月宮あゆの事か?」
「知ってるのか!?」
「いや、知らない」
「そう、か……」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「で、何処で見たんだ?」
「オレが住んでた街。一週間ぐらい前かな……なんか探し物がある……っつってたな」
「探し物……そう言ったのか?」
「ああ……なんだったら場所教えよっか? 尤も……まだいるとは限らんが」
「頼む」

 相沢に住所を教えたが、よく判ってない様だったので、奴が持っていた地図に印をつけてやる。
 オレがが知ってる日本地図とはかなりかけ離れていたが、まぁ今更な感じなので、深く考えない事にした。

「そっか、サンキュ! 世話んなったな、じゃ!」

 相沢は爽やかに右手を上げ立ち去ろうとした。

「おい……水瀬はどうすんだ?」
「あ……忘れてた……」
「とりあえず、今日のところは休んどけ」
「そうだな、俺も……ん?」

 こんこん……

「折原……起きてる?」

その時、控えめなノックの音に続き、広瀬の声が聞こえた。

「広瀬か? 開いてるぞ」

 ガチャ……

「お邪魔します……って、あれ?」
「おう広瀬、七瀬はどうしたんだ?」
「もう寝ちゃった……けど、あの、その人は?」
「相沢だ、よろしくな」
「あ、広瀬です。此方こそよろしく……ってそうじゃなくて」
「ああ、実はな――

 ―――説明中―――

 ――という訳なんだ」
「へぇ……」
「それで、なんか用があったんじゃないのか?」
「ううん……やっぱいいわ」
「俺、外出てたほうがいいか?」
「ううん、別にこれと言って用があった訳じゃないから……それじゃ、おやすみ」

 それだけ言うと広瀬は部屋を出ていった。

「? なんだ、何しに来たんだあいつ?」
「俺に聞くなよ」

 こうして、夜は更けて行った。

 次の朝、オレが目を覚ました時には既に相沢の姿は無く、
 二人分の宿代と、連絡先の書かれた紙切れだけが置いてあった。

 ……律儀な奴だ。

 宿を出るとき、女将に王都までの道を聞いたら、歩いて半日程、との事だった。
 どうやら七瀬の『近道』はあながち的外れではなかった様だ。

 そうしてオレ達は最初の目的地『王都』に向けて旅を再開した――

 ――つっても半日後にはきっちり辿り着いたけど。


つづく







  【折原 浩平】    へっぽこ侍 Lv.13 

 HP  220/220  力  知  魔  体  速  運 
 MP   0/0    21  8  2  21  26  11

 攻撃  33(43)       防御  25(29)
 魔攻  8(8)       魔防  10(20)
 命中  96%       回避  28%

 装備  みずかのなまくら刀
      はちがね
      胴丸

 所持金  3421円


                               ▼







  【相沢 祐一】  勇者 Lv.48

 HP  840/840    力  知  魔  体 速 運
 MP  238/238    85  60  65 81 80 30

 攻撃  124 (234)      防御  97 (61)
 魔攻  115 (172)      魔防 108 (61)
 命中  150%       回避  0%

 装備  小狐丸
       幻魔のジャケット
       魔王の篭手【呪】


                               ▽







  【水瀬 名雪】  武闘家 Lv.31

 HP  452/452    力  知  魔  体 速 運
 MP  101/101    28  18  26 41 59 12

 攻撃  55(69)       防御  49(67)
 魔攻  41(41)       魔防  35(41)
 命中  120%       回避  60%

 装備  運動靴
       レッドリボン
       体操服


                               ▼





2003/09/20  黒川


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