サイキックフォース×魔法少女リリカルなのはSS Keith in Lyrical World


 晩餐に招待するという行為は、友好を示す一つの手段である。
 時と場合によって正反対の意味を持つこともあるが、この場合は前者だろう。
 そう思ってキースは、内心で安堵の息を吐いていた。
 ここ―――聖王教会本部―――に来る前にフェイトに言った言葉、「切れるカードがほとんどない」という言葉は、掛け値なしに本当の言葉だったからだ。
 それを考えれば、―――ギリギリの交渉の末とはいえ―――騎士カリムからある程度の信用を勝ち取ることができたのは、大きな収穫だろう。
 だが同時に、厄介なものに巻き込まれたという確かな感触があった。
 騎士カリムの持つレアスキル、預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)。
 限定的ながら未来を見通すという“力”。
 そんな“力”のことを話してきたのだ、騎士カリムは、確実に何かをさせる気だろう。
 確信めいた予感。
 いや、子供でもできる単純な予想だ。
 だが、嫌な感じはしなかった。
 理由は自身にも分からなかったが、もしもそれが騎士カリムの持つ雰囲気のせいならば、大したものだと思った。
 初対面の、それも疑っていた人間にそう思わせられる者なんて、元いた世界の知り合いを含めても、片手の指で足りる程しかいない。
 それほどの人間と知り合えたというのは、喜ぶべきことだろう。
 招待された晩餐の席で、会談に華を咲かせながら、内心の安堵と共にキースはそう思っていた。
 隣に座るフェイトが、どれほど悩み思いつめているか、気づかぬまま・・・・・。



▽―――第5話・試験―――



 晩餐の席で、会談に華を咲かせるキースとカリムの隣でフェイトは、時折2人の話に相槌はうつものの、その実話の半分も聞いていなかった。
 こんなことではいけないと、何度も思い直して集中しようとするが、どうしてもできない。
 理由はもうとっくに分かっていた。
 ここに来たときにキースが話した、執務補佐官に採用して欲しいという話が、頭から離れないのだ。
 理性は、彼を採用するべきだと告げている。
 あれだけの戦闘能力と対組織戦能力を併せ持っている者は、“海”と“陸”を探してもそうはいないだろう。
 そんな人間が補佐官としてついてくれれば、夢の実現に向かって大きな一歩を踏み出せるのは間違いない。
 だが、感情が否という。
 私は彼から全てを奪った。
 仕方なかったとか、分からなかったとか、幾らでも言い訳はできる。
 でも結果として奪ってしまった。
 親友も、仲間も、生まれ育った世界すらも。
 全てを奪った相手を使って、自分の夢を叶える。
 やってしまったら、自分がとても薄汚れたものになってしまう気がした。
 だが、「世界を見て見たい」というキースの気持ちを考えれば、受けるべきなのだろうか?
 悩みが悩みを呼び、思考のループに陥っていたフェイトの耳に、
 
「―――ところで、貴方は今後どうするつもりなのですか?」
 
 という言葉が飛び込んできた。
 カリムが、キースに問いかけた言葉だ。
 内心の思いを見透かされたかのような言葉に動揺するフェイトだが、幸いにして他人に気づかれることはなかったようだった。
 キースが答える。
 
「―――まだ返事はもらっていないが、彼女の補佐官になりたいという希望は、既に伝えてある」
「執務補佐官に? では、管理局入りを考えているのですか」
「そうなるな」

 短く肯定の意を返すキース。
 それを隣で聞いていたフェイトは、色々な考えや感情が混じりあってしまって、何が正しくて、何が間違っているのか分からなくなってしまっていた。
 
 ―――どうすれば、一番彼のためになるのだろう?
 
 ―――どうすれば、私は一番納得できるのだろう?
 
 そんな思いだけが、脳裏を渦巻いていく。
 だがどれだけ考えても、一向に考えが纏まらない。
 理性と感情の折り合いがつけられない。
 
 ―――どうすれば・・・・・。
 
 こうしてフェイトが悩んでいる間に、実のところカリムは、構想中である“機動六課”のスターティングメンバーとして、彼―――キース・エヴァンス―――を配属する方針をほぼ固めていた。
 幾つかの試験は必要だろうが、彼がそれなりの成績を出してさえくれれば、希望通りフェイト執務官の補佐官として配属、そのまま“機動六課”に組み込んでしまう気だった。
 時空管理局理事官という要職にあるカリムなら、それは造作もないことだった。
 だがそのためには、Sランク魔導師の傍らに立てるだけの実力者であることを、キース自身に証明してもらわなければならない。
 危険を伴う仕事も多い執務官のサポートをするなら、その程度のことは証明してもらわなければ、とても危なくて配属などできないからだ。
 それに・・・・・絶大な氷結能力、イコール高い戦闘能力とは限らない。
 “機動六課”の部分は多少ぼかして、カリムがその旨を伝えると、キースは「問題ない」と答え快く了承。
 しかしフェイトは・・・・・。

「私は・・・・・」

 と言葉に詰まってしまう。
 その時なぜかふと、親友のことを思い出した。
 子供の頃、全力でぶつかってくれて友達に、そしてかけがえの無い親友になってくれた人。
 彼女なら、どうするだろうか?
 そんな考えが脳裏をよぎり―――――――――彼女を見習ってみようと思った。
 一度、彼に全力でぶつかってみよう。
 そうして出た結果なら、彼も、私も納得できるに違いない。
 フェイトは、そう思った。
 
「―――私には・・・・・彼の決断が良いのか悪いのかは分かりません。ですが、もし本気なのだとしたら、私に証明して見せてください。「全てを勝ち取る」と言った貴方の言葉を、意思の強さを」

 フェイトは一度言葉を区切り、片手に“閃光の戦斧”バルディシュを取り出して続けた。

「一度、私と勝負して下さい。私が勝ったら・・・・・争いとは無縁の世界で生きてください。逆に貴方が勝ったなら、受け入れましょう、貴方の選択と決断を。――――――チャンスは“たった1回”です」
 
 紅い瞳がキースを捉え、青い瞳がフェイトを見返す。
 瞬間、言葉は交わさなくとも、互いの意思は伝わった。
 念話でも、テレパシーでもない。
 この世でたった一組。
 ロストロギアによって召喚してしまった者と、されてしまった者。
 その時に起きた、互いの記憶の流入。
 それゆえの共感。
 
 フェイトは、召喚という形で全てを奪ってしまった青年に対する贖罪として、せめて争いとは無縁の世界で生きて欲しいと願い。
 キースは、“人の持つ異能が個人の個性として認められる世界”という自身の夢の形の1つである、この世界を見たいと願った。
 
 お互い、相手の思っていることは嫌というほど理解できた。
 だがそれでも、お互い譲るわけにはいかなかった。
 
 フェイトは何もしないで彼を受け入れてしまえば、全てを奪った相手を使って、自分の願いをかなえるという、外道の道を肯定することになってしまい。
 キースはここで負ければ、幾多の同志達の命、そして親友の命をこの手にかけてでも、掴み取ろうとした夢―――ある種の到達点の形―――を、見る事ができなくなってしまう。
 
 互いに、それは受け入れられなかった。
 ゆえに、キースに断るという選択肢は無く。
 フェイトも、キースが断るとは微塵も思っていなかった。
 
「――――――いいだろう。では、バトルフィールドは空で。貴女が最も得意とする戦闘空間で。そこで勝利して証明してみせよう」
「――――――言いましたね。私も、伊達にSランクの称号を頂いている訳ではありません。文字通り“全力で”、貴方を下して見せましょう」

 丁度、キースの試験をどうしようかと考えていたカリムにとって、フェイトのこの申し出は渡りに船だった。
 試験官を用意する手間も時間も省ける。
 更に言えば、Sランク魔導師の試験官など、そうそう用意できるものではなかった。
 
「ではフェイト執務官、試験官は貴女にお任せします。――――――いつ、試験を行いますか?」
「会場の用意ができしだい。――――――良いですね? キースさん・・・いえ、キース」
「いつでも構わない」
「分かりました。では2人とも、ついてきて下さい。聖王教会騎士団が演習に使っている場所を、会場としてお貸しします」

 そう言ってカリムは席を立ち、キースとフェイトもそれに続いた。
 しばらく歩き、転送ポートを使って2人が案内されたのは、聖王教会騎士団が演習に使う第一演習場。
 大規模演習を想定している場所だけあって、結界強度は他の演習場に比べて桁外れに高い。
 広大な敷地の中には、平原や山々もあり、起伏に富んだ地形だ。
 そんな演習場の、月と煌く星々だけが見下ろす夜空に、2つの人影が舞い上がった。
 
(―――2人とも、準備はよろしいですか?)

 オペレーションルームにいるカリムからの念話に、間髪いれず肯定の意が返ってくる。

(分かりました。―――それでは、執務補佐官実技試験を開始して下さい)

 直後、カリムはフェイトが“全力で”と言った意味を、否応無く理解させられることになった。
 そして、その言葉を吐かせたキースの実力も。
 あれほどの攻撃、教会騎士団でも凌げる者が何人いるだろうか?

 開始の宣言と同時にフェイトはカートリッジロード。
 <ソニックムーブ>の超加速で、キースの視界から消える。
 直後、そのまま奇襲と思う程度は、誰にでもできる。
 だが、これはどうか?
 彼女は幻術魔法も併用した、全方位から多重残像でキースの周囲に出現。
 しかもご丁寧に、バルディシュは既に近接戦闘への特化形態、ハーケンフォームへの移行を完了している。
 この時フェイトは、一切の油断無く躊躇い無く、勝ちにいった。
 自身が最も得意とするクロスレンジ。
 既に、完璧に間合いに捉えている。
 例え烈火の将シグナムでも回避は不可能。
 幻術魔法で本体が定められない以上、カウンターも不可能。
 ゆえに防御しかない。
 それこそがフェイトの狙い。
 一発でも防御して動きを止めようものなら、そのまま防御の上から、相手の防御が砕け散るまで攻撃を叩きつけ続ける。
 反撃なんて許さない。
 自身の攻撃力と戦闘速度ならそれが可能。
 フェイトはそう考えていた。
 
 ―――確かに、相手が“ただの一流”なら、それで終わりだろう。
 
 だがキースは、仮にも<氷界の帝王>とまで言われた男。
 ただの一流であるはずがなかった。
 
 ―――<フリジットスパイン>!!
 
 キースを中心に、瞬時に出現した氷の棘塊が、全方位に向けて氷の棘を伸ばし、残像虚像幻惑幻覚、全てを等しく迎撃していく。
 が、その中に“本体”はいない!!
 
「!?」
 
 キースが気づいた時、既にフェイトは次の行動に移っていた。
 <ソニックムーブ>の超加速、更には重力加速まで利用した、直上からの打ち下ろし。
 手の中に氷の槍を生み出し防御するキースだが、加速の分、フェイトに分があった。
 受けた衝撃を殺しきれず、そのまま地上に向かって吹き飛ばされるキース。
 フェイトは、およそ望みうる最速のスピードで次の魔法を起動。
 
「――――――<フォトンランサー・ファランクスシフト>、ファイア!!」
 
 子供の頃に習得した必殺魔法。
 今でも、必殺であることに変わりない。
 魔法に磨きを掛け続けた今では、発射体の数は子供の頃の3倍。
 総数114。
 1つの発射体から秒間7発を4秒間。
 総数3192発の光の雨。
 意図的に標準を甘くしたそれは、さながらショットガン。
 物理的に回避可能な隙間すらない、圧倒的な面制圧。
 だがこの攻撃は、相手に<バリア>を使わせ、動きを止めるためだけのもの。
 本命は、この次だった。
 発射体が一斉射を続けている間に、次の魔法詠唱に入る。
 無詠唱でも発動できるレベルまで練度を高めた魔法だが、やはり魔法詠唱を行った方が威力が高いのは、あらゆる魔法の常だ。
 必殺の意思を込めて詠唱を始める。
 
「アルカス・クルタス・エイギアス。煌めきたる天神よ。今導きのもと降りきたれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル。撃つは雷、響くは轟雷。アルカス・クルタス・エイギアス」

 自然現象としての雷を連続で落とすこの魔法なら、仮にキースが<フリジットシェル>―――AMFと似たような性質を持つ、キースが持つ防御技の1つ―――を使おうとも、その防御を突破できる。
 普通の<バリア>で防御しようものなら、雷の連撃で完全に動きを止められる。
 それならば、動きが止まっている間に次の魔法を発動して更に攻撃。
 主導権は、決して渡さない。
 キースの能力を、この世界で誰より知っているがゆえの魔法セレクト。
 だがそれは、キースとて同じ事。
 彼はこの世界の誰よりも、フェイトの能力を知っている人間だ。
 <フォトンランサー・ファランクスシフト>を辛うじて<バリア>で防御したキースは、彼女の次手を読み取った瞬間、サイキックパワーを全力で開放。
 ある一定空間内の気温を、一気に極低温まで下げた。
 大地が、川が、森を構成する木々が、花々が、ありとあらゆるモノが瞬時に凍りつき、そして砕け散る。
 範囲内にある、あらゆる物質の分子結合が崩壊し、瞬時にできあがる凍てついた砂塵の荒野。
 その行為の意図するところは超伝導。
 あらゆる物質は、ある一定の気温まで下がると、極端に電気が流れやすくなるという性質がある。
 人が生きていく為に必要な酸素とて、例外ではない。
 そして電気は、流れやすい場所に流れていこうとする性質がある。
 
 つまり、
 
「――――――<サンダーフォール>!!」
「――――――舐めるな!!」

 フェイトの放った雷撃の雨は、電気の流れやすい場所へ。
 超伝導化された空間に向かって誘導され、キースには向かっていかない!!
 この隙にキースは、

 ―――<フリジットランス>

 氷のランスを形成・発射。
 魔法を放った直後の隙を狙い、一撃を叩き込む。
 
「バルディッシュ!!」
《Yes sir.――――――Round Shield》

 フェイトの魔力色、黄金で形作られた魔力シールドが出現。
 <フリジットランス>を受け止めるが、ランスは魔力シールドを突き破ろうと前進を止めない。
 更に魔力を込め、シールドを強化。
 <フリジットランス>の完全な防御に成功するが、この瞬間フェイトの動きは完全に止まり、いつの間にか、至近距離にまでキースの接近を許していた。

「しまっ・・・・・」
「手加減はしない。それが貴女に対する礼儀だ」

 言葉通りの意味。
 だがこれは半分本当で半分嘘。
 手加減しないのではなく、出来ないのだ。
 <フォトンランサー・ファランクスシフト>と<サンダーフォール>は、情け容赦なくキースの体力を奪い去っていた。
 ポーカーフェイスで悟らせていないだけ。
 Sランク魔導師であるフェイトの、全力全開全速の攻撃。
 例え防御しようと、その威力は半端ではない。
 それを凌いで手に入れた、反撃のチャンス。
 これを逃せば、恐らく次はない。
 ゆえにキースも、全力で勝ちにいった。
 
 ―――<フリジットプリズン>
 
 放たれた氷の粒子がフェイトを包み、氷の牢獄を形成、彼女を閉じ込める。
 フェイトは即座にブレイクにかかるが、硬い!!
 バルディッシュがブレイクまでの時間を算出――――――2秒!!
 そしてこの2秒が、命運を分けた。
 キースの手の中に、サイキックパワーが収束していく。
 
 ―――<フリジットスピアー>
 
 <フリジットランス>よりも更に収束された冷気が槍の形を取り、氷の牢獄ごとフェイトを貫く。
 いや、貫いてはいない。
 辛うじて形成した魔力シールドが槍を押しとどめているが、放たれた槍は彼女を大地に縫い付けんと、そのまま突き進む。
 フェイトの膨大な魔力がシールドに注ぎ込まれるが、槍の突進は止められない。
 魔力シールドが歪に歪みはじめる。
 
(―――破られる!?)
 
 直撃をもらえば、恐らくその時点で決着がつくだろう。
 なにせサイキックパワーには、魔法のような“非殺傷設定”という便利な設定はない。
 攻撃は全て、魔法で言えば“殺傷設定”。
 しかもキースのサイキックパワーは、Sランク魔導師とほぼ同等かそれ以上。
 そんな攻撃の直撃、フェイトは自身の薄い装甲で耐えられる自信は無かった。
 だからこそ、フェイトは一瞬も迷う事無く、切り札を切ることにした。
 だが、
 
「両者、そこまで」

 転移魔法で2人の間に割って入ったカリムの双剣が、氷の牢獄と槍を粉砕、刃はそのまま両者の喉元にピタリと当てられる。
 とても試験とは言えない戦闘に、たまらず割って入ったのだ。
 
「2人とも何を考えているのですか。これはただの試験ですよ?」

 カリムの声には、明らかに非難の色が見えた。
 キースの攻撃は、間違いなく致命傷を狙えるレベルの“力”が感じ取れたし、フェイトの魔法は“非殺傷設定”という設定こそ生きているものの、<サンダーフォール>は自然発生した雷を落とす魔法ゆえ、“非殺傷設定”が適用されない。しかも、詠唱込みの全力魔法。
 どちらの攻撃も、当たったら“間違い”では済まされないレベルのものだ。
 なのにこの2人ときたら、

「―――騎士カリム。私は初めに言いました、“たった1回”、そして“全力で”と。彼は正しくその意味を受け取った。それだけのことです」
「その通りだ、騎士カリム。私は彼女の全力に応え、彼女の傍らに立つのに足る実力の持ち主であることを、証明しようとしただけのこと」

 と、迷いもなく言い切った。
 これには流石のカリムも驚き、呆れ・・・・・そして納得してしまった。
 何ということはない。この2人は初めから、お互いの性格も実力も良く分かっているのではないか。
 それこそ幾多の戦いを潜り抜けてきたパートナー同士、あるいは長年の宿敵であるかのように。
 でなければあんな命懸けのこと、できるはずがない。
 眼下に見える、荒れ果て凍てついた砂塵の荒野。
 <フォトンランサー・ファランクスシフト>、<サンダーフォール>、そしてキースの氷結能力。
 たった十数秒の攻防で、第一演習場は変わり果てた姿となっていた。
 喉元に刃を当てられたキースとフェイトが、それぞれ拳とデバイスを治めると、カリムもまた剣を引いた。
 
「――――――ですが、限度というものがあるでしょう」
「「お互いが納得する為には――――――」」

 キースとフェイトの声が重なり、互いの視線が重なった。
 瞬間、互いが何を言おうとしているのか、分かったようだった。
 2人ともコクンと頷き、続きを口にする。

「「一度全力でぶつかり合う必要があった。それだけです」」

 一言一句違わず重なる言葉。
 この時初めてフェイトは、キースをパートナーとして認められると思った。
 全力全開全速の攻撃を、彼は凌ぎきり、―――実際に使わなかったとはいえ―――切り札を切らせる決断までさせた。
 それは、そのまま彼の意思の強さの現われだ。
 だからこそ、“奪った”という罪悪感に悩まされずに済む。
 それほどまでに、補佐官になりたいと思ってくれている。
 感謝したい気持ちだった。
 もしも彼が補佐官を希望してくれなかったら、私は生涯彼に対して、負い目を感じ続けただろう。
 “奪った者”と“奪われた者”として。
 勝負事体は互角だったかもしれないが、心情的には完敗だった。
 私は相手のことを考えているようで、その実、自分のことしか考えていなかったのだから。
 フェイトは、晴れやかな笑顔で右手を差し出した。
 
「これからよろしくお願いしますね、キース」
「こちらこそよろしく頼む、フェイト」
 
 キースも右手を差し出し、互いに握手。
 後にカリムは語る。
 最強とうたわれるコンビが誕生したのは、この時だったと。



 第2部 第6話へ続く




 




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