クロノ・ハラオウン提督。
最年少で執務官資格を取得して以来、数々の事件を解決し、更には最年少で提督にまで上り詰めた“海”の“英雄”。
心無い者は親の七光りだと言うが、提督という地位は、そんなものでなれるほど甘い地位では無い。
彼は、クロノは、間違いなく提督という肩書きを持つに相応しいだけの働きをして、今の階級についたのだ。
そこに疑いの余地はない。
陰口を叩きたい奴には叩かせておけばいい。何らやましいところなど無いのだから。
それは彼自身の自慢でもあり、誇りでもあった。
亡き父、クライド・ハラオウンに恥じる事なく提督という地位まで登り詰め、母や妻が自慢できる息子であり夫で有り続ける。
提督という人間が持つには、ささやかすぎる夢。
だが、次元航行艦シュプラキュールの墜落事件は、そんなささやかな夢ですらクロノから奪い取ろうとしていた。
彼は、選ばなければならなかった。
―――組織の都合か。
―――家族の親友を危険に晒すか。
自身が提督という立場であるが故に。
▽―――第３部・機動六課設立編 第２話・蠢く策謀―――
今現在、時空管理局は極度の緊張状態にあった。
原因は第８８管理世界。
数ヶ月前までは、管理世界の中でも比較的問題の少ない世界だったのだが、その世界で発見されたとある遺跡・・・・・そこに安置されていたモノの存在がこの世界の運命を狂わせた。
―――ロストロギア“星の書”。
かの有名な考古学者、ユーノ・スクライアによって存在だけは予見されていた禁忌の魔導書。
ロストロギア“闇の書”とは違い、たった１つの魔法の為だけに存在する魔導書。
神代奇跡、究極の破壊、それらを再現する奇跡の魔導書。
あらゆる魔法の世界にその名は知れ渡り、否、魔法が存在しない世界ですら、その名を耳にする事ができる究極魔法の１つ。
その魔導書に収められた魔法の名は、
―――“隕石落とし”（メテオストライク）。
この名を聞いた者が想像する魔法とは、どんな魔法だろうか？
魔導師が隕石を召喚して、対象にぶつけるというものだろうか？
大筋でそれは間違っていない。
間違っていないが、全てを正しく表している訳ではない。
なぜならこの魔法は、対人用でも、対軍用でも、対城塞用でもない・・・・・この魔法は対惑星用。
次元を隔てた遥かな彼方から、亜光速の領域にまで加速させた隕石を直接ぶつけるという禁断の魔法。
どこの誰が、異なる次元から撃ち込まれた隕石を防御できるというのだ？
もし仮に、運良く攻撃を察知できたとしても、亜光速まで加速させられた隕石の超質量を防御できる手段など存在しない。
闘争でも、蹂躙でも、虐殺でもなく、ただ滅ぼすことのみを目的とした禁忌の魔導書。
それが発見されてしまったのだ。
管理局は即座に引渡しでは無く、“星の書”の破壊を提案。（しかもアルカンシェルを使用しての完全破壊を提案していたことから、管理局がどれほど“星の書”を恐れていたかが良く分かる）
第８８管理世界は即座にこれを了承。
奇跡的に事態は何事も無く収束するかに見えた。
が、決してあってはならない事態が起きてしまう。
第８８管理世界からの護送直前、厳重な監視・警備下にあったはずの“星の書”が、忽然と姿を消してしまったのだ。
大騒ぎどころの話では無い。
文字通り世界を滅ぼせる力が、何者かの手に墜ちたのだ。
しかも必死の捜査にも関わらず、犯人の尻尾すら掴めない。
これを機に、両者の関係は一気に冷え込むこととなった。
非難が非難を呼び互いの態度を硬化させ、何時の間にか、
―――第８８管理世界は、時空管理局の陰謀だと言い。
―――時空管理局は、第８８管理世界が“星の書”を隠匿していると言った。
余りにも自然に、自然過ぎるくらい自然に、予め仕組まれていたかのように。
もしこれが何者かの計画の一端だとしたら、悪魔的な頭脳の持ち主だろう。
自身の執務室で資料に目を通していたクロノは、改めてそう思った。
そんな時である。
更なる凶報、次元航行艦シュプラキュール墜落の報が飛び込んできたのは。
この時クロノの脳裏に、真っ先に義妹がよぎったのは、彼が家族を大事にしている証だろう。
そしてそれを表情にも声にも出さず、提督としての言葉が出せたのは、地位に相応しい責任感の持ち主である事の表れだろう。
「墜落地点は第８８管理世界。“火薬庫”か。それで、筆頭執務官本人が連絡を入れてきたんだ。これだけという事はないだろう？」
クロノ自身も驚く程冷静な声に、連絡を入れてきた相手、筆頭執務官ザバウはさも意外そうな言葉を返してきた。
「おや？ お優しい“英雄”殿は、てっきり義妹の心配をするものかと思っていましたよ。なにせシュプラキュールは・・・・・」
「私は時空管理局の提督だ。その行動は、役職と階級に相応しいものでなければならない。――――――下らない戯言はやめたまえ」
違う。
本当は、真っ先に義妹の事を聞きたい。
だがその衝動を押し殺し、クロノはあくまで提督として振舞う。
義妹なら、どんな状況でもきっと生き延びてくれる。
そう信じて。
「・・・・・流石、最年少で提督にまで上り詰めた“英雄”。この程度では揺るぎもしませんか。結構なことです」
「気が済んだのなら、早く続きを報告したまえ。それともまさか、君ともあろう者がこれだけを伝える為に、直接コールをしたのか？」
「ご冗談を、それだけなら部下を使いますよ。私が直接コールしたのは、本件に管理局そのものが利用されている可能性があるからです」
あまりに予想外の言葉に、クロノの表情が僅かに動く。
どういうことだ？
務めて平静を装い、クロノは問うた。
「・・・・・理由を聞こうか」
「次元航行艦シュプラキュールが墜落する原因となった次元震の直前、次元震の監視・予測用ネットワークシステム―――Dimension-quake Observation Forecast System（次元震監視予測システム） 通称ＤＯＦＳ―――が何者かの侵入を受け、偽の次元震情報がシュプラキュールに送信されています。これだけでも大問題ですが、問題はそのハッカーが残した証拠です。恐らくほぼ間違いなく意図的に残した証拠でしょうが、ネットワークに侵入する際に、わざわざ“陸”のＩＤを使って侵入しています。他の証拠は一切残していないにも関わらず・・・・・です。憎たらしいことこの上ない。こんな証拠を残されては、事の真偽がどうであれ、我々は“陸”と連携して動かざるおえない。そして・・・・・」
続きの言葉は、クロノが引き継いだ。
「“陸”の実質的な最高権力者レジアス中将は、“海”からの干渉を極度に嫌う。恐らく証拠を残したのは、その辺りのことを意図してのことだろうな。我々が対応を間違えば、この緊張している状況下で、管理局を２つに割ってしまいかねない。――――――だが、それが分かっていても我々は行動しなければならない。やらなければ、やらなかった事そのものを突かれ、更なる揺さぶりをかけられかねないからな」
画面の向こうでザバウが肯く。
つまり次元航行艦シュプラキュールの墜落は、今のところ、完全に何者かの手の平で踊らされた結果ということになる。
並のハッカーではアクセスすら不可能と言われるＤＯＦＳへの不法アクセス。
シュプラキュールのみに送信された偽の次元震情報と、本当に発生した次元震。
意図的に残された証拠。
―――ギリッ！！
知らず、クロノは歯軋りをしていた。
意図的に証拠を残していたということは、間違いなく罠と考えていいだろう。
だが時空管理局としては、罠であろうがなかろうが、この残された証拠を追っていかざるおえない。
そしてそれは―――理由はどうあれ―――“海”が“陸”に干渉するということでもある。
“海”からの干渉を極度に嫌うレジアス中将が、素直に協力するだろうか？
誰でも分かる。
答えは否だ。
だが調べなければ、再び同じような犯行を許すことになるだろう。
数瞬の思考の後クロノは、
「・・・・・正攻法は、何事にも強いが故に正攻法と呼ばれる。“陸”に協力要請を。ここで躊躇させ、後の判断を狂わせる事こそが、犯人の狙いだろう」
「流石は“英雄”。決断が早くて助かります。いや全く、他の無能な者共に見習わせたいくらいですね。全ての将官が貴方のようであれば、管理局も随分と良くなるのですが」
わざとらしい、わざとらし過ぎる賞賛の言葉。
クロノは良く知っていた。
このザバウという男が、こういう物言いをする時は、大抵何かを企んでいる時だと。
故に、単刀直入に尋ねた。
「君がグレーゾーンな手段を好むのは良く知っている。何を企んでいる？」
「企んでいるなど、酷い誤解のされようですね。私はそんなに信用ありませんか？ ――――――ただ、提督の手段では随分と時間がかかるので、少しだけ早く物事が進むようにお手伝いするだけですよ。最も手伝うのは私ではなくて、提督の御友人ですが」
一息ついて、ザバウは面白い玩具を見つけたかのような、面白くて堪らない。そんな笑みを浮かべ、更に続けた。
「確か提督の御友人に、“陸”の特別捜査官がいたと思いましたが、彼女に“陸”内部の調査をお願いしようと思いましてね。近々設立予定の部隊の事で色々と動き回っている彼女でしたら、少々動き回ったところで怪しまれる事もないでしょう。なにせ彼女の精力的な活動は、我々“海”にまで聞こえてくるくらいですから」
悪魔の囁き。クロノはそう思った。
この提案はとても理に適っている。
元々“陸”に所属している人間に内部の事を探らせるのだ。
“海”の人間がやるよりも遥かにやり易いだろう。
更に言えば特別捜査官という役職と、二等陸佐という高階級ゆえに、アクセス可能な情報の範囲も非常に広い。
（当然機密情報も含まれる）
彼女に絶対の忠誠を誓う四騎士の存在も含めれば、クロノの配下や情報部を使うよりも、迅速な情報収集が出来るだろう。
―――“陸”に彼女の行動が露見しなければ・・・・・だが。
逆に露見した場合、裏切り者の烙印を押されるのは間違いない。
なにせ、どれほどの言葉を尽くそうがスパイ行為には違いないのだから。
言葉に詰まったクロノに、ザバウが更なる追い討ちをかけた。
「彼女は“陸”の風通しの悪い体質が随分と嫌いなようですから、事情を話せば素直に協力してくれるでしょうね。ついでに、『親友を窮地に陥れた奴に、法の裁きを受けさせる為』とでも言えば、まず断らないでしょう。――――――友情と言うのは便利ですね。頼むだけで、こんな危険な事をやってくれるんですから」
クロノには、ザバウの考えが嫌というほど理解できた。できてしまった。
頼むだけなら、命令を発した訳でもないから公式文書には残らない。
つまり“何かあった”場合でも、はやての独断ということで処理できる。“海”とは一切関係の無いことだ。
ザバウはそう言っているのだ。
反吐が出る。
だが考えれば考える程、“陸”の内部を探るのに、はやて以上の適任者がいないのも事実なのだ。
画面に映るザバウは、今度は何も言わない。
ただ黙って、クロノの返答を待っている。
「・・・・・・・・・・」
クロノは思考を巡らせる。
このザバウという男は、目的の為なら手段を選ばす、手段の為には目的すら選ばない一面がある。
だがそれでも筆頭執務官という要職にあるのは、何があろうと決して“海”の名誉を傷つけなかったからだ。
―――どんな手段をつかってでも・・・・・だ。
そんな男が、今この場ではやての事を口にした。
その意味が分からないほど、クロノは愚鈍ではない。
人の情など微塵も気にかけないこの男が、はやてのことを口にしたなら、この場で却下しようとも別の形で必ず使うだろう。
そして都合が悪くなれば、確実に使い捨てるだろう。
“海”が関与していたという証拠は一切残さすに。
はやてを使う以上の良案があれば、この男は素直に引き下がるだろうが、生憎それ以上の良案はクロノにも無かった。
（ままならないものだ。提督と呼ばれても、“英雄”と呼ばれても、家族の親友を危険に晒すような真似しか出来ないなんて）
クロノの内心を見透かしたかのように、画面に映るザバウがニヤリと笑った気がした。
（影でこの男に友人を使われるくらいなら、いっそ自分の手元で動かした方が安全・・・・・か）
そう考えたクロノは、決断を下した。
「後ほど、私から直接彼女に伝える。ザバウ筆頭執務官は――――――」
私情を殺し、ザバウに指示を出しながら思う。
（母さん、エイミィ。そして父さん・・・・・すまない。誰にも恥じる事ない自分でありたかったけど、この危機を乗り切る為に、大事な家族の大事な親友に、スパイにも等しい、いやスパイを頼む。分かってくれとは言わない。――――――ただ、すまない）
この時、もしクロノが自分の地位に固執する者だったなら、八神はやてを使うという作戦そのものが失敗していただろう。
なぜならこの時、彼は自身が使える全ての権力を使って、ある偽装工作をしたからだ。
そしてそれは、八神はやてのスパイ行動を支援していたという証拠に他ならない。
他の提督ならば、こんな真似は絶対にしなかっただろう。
露見した場合、“陸”に対する敵対行動と取られてもおかしくない。
いや、むしろそう考えない方がおかしい。
更に下衆な勘繰りをするならば、『覇権に興味がある』と考えられてもおかしくないのだ。
なにせ、
―――魔導師ランクＳＳ。
―――歩く戦略兵器。
―――ロストロギア“闇の書”の正当なる後継者。
―――絶対の忠誠を誓う４人の騎士を従える“夜天の王”。
こんな呼び方をされている人間の、行動記録の改竄を指示したのだから。
たかが記録の改竄と思うなかれ。
時空管理局という巨大な組織の力があってこそ、そして提督という地位があってこそ初めて出せる命令だ。
人は生きていれば誰でも痕跡を残す。
それは買い物に使ったカードだったり、どこかの監視カメラだったり、誰かとの通信記録だったり、様々だ。
それらを１つ残らず改竄し、八神はやては別の場所で活動していたという偽の記録を作り上げる。
特別捜査官として様々な場所に向かう彼女なら、どこにいようとも―――少なくともデータ上は―――怪しまれることはない。
言うなれば、八神はやての影武者を用意し、彼女が“どこで何をしていようとも”完璧なアリバイを用意できるようにしておいたのだ。
やる以上は徹底的に、そして完璧にやる。“陸”に疑いの疑念すら持たせてはいけない。持たれた時は、証拠を残していった何者かに管理局が敗北する時だ。
クロノはそう考えたが故に、自身が使える全ての権力を行使して、八神はやてのバックアップ体制を整えた。
そうして次元航行艦シュプラキュール墜落から２３時間後、ついにクロノは、彼女を執務室に呼んだ。
（当然の事ながら、呼んだ時点から既に記録の改竄は始まっている。故に今この場に、彼女は存在しない事になっていた）
もう、後戻りはできない。
クロノは覚悟を決め、部屋に入ってきた彼女に向かい、口を開いた。
「久しぶりだな。変わりはないか？」
「忙しいけど、充実した毎日を送ってるんよ。クロノく・・・・・提督はどうですか？」
「第８８管理世界の件が片付くまでは、ゆっくりできそうにないな。やらなければならない事が多過ぎる」
自嘲気味に答えたクロノに、何も知らないはやては、
「提督っていうのも大変やな。私に手伝える事があるなら何でも言ってや、微力ながら力になるよ」
と答えた。
第８８管理世界との間で緊張が高まっているのは周知の事実だが、次元航行艦シュプラキュールの一件は、まだ一部の将官にしか知らされていない。
だからこそ、出てきた言葉だろう。
そんな彼女に後ろめたいものを感じながら、クロノは私情を殺し、要件を切り出した。
拒否権など、与える気はない。
やると決めた以上、迷いなど見せてはならない。
提督という地位は、それを悟られるような人間に勤まる程、甘い地位ではないからだ。
「なら、その言葉に甘えさせてもらおう。実は―――――――――」
だがせめて、彼女が少しでも安全であるようにと、必要な事を一つ一つ丁寧に説明していく。
―――“陸”の内部調査をして欲しいこと。
―――次元震の監視・予測用ネットワークシステム。通称ＤＯＦＳがハッキングを受けたこと。
―――偽の次元震情報がシュプラキュールに送信されたこと。
―――突如発生した次元震で、シュプラキュールが第８８管理世界に墜落したこと。
―――完全に連絡が途絶えたこと。
―――システム上には“陸”に所属している者のＩＤが、恐らく罠として残されていたこと。
等々。
本来彼女の権限では決して知らされるはずのない事も幾つか含んでいたが、クロノは気にしなかった。
なにせ、はやての行動如何によっては、“海”と“陸”が真っ二つに割れる可能性があるのだ。
その危険性を少しでも下げられる対価が、多少の機密情報なら安いものだ。
最も、幾ら“安い”と言っても、自身の事を快く思わない連中に知られたら、どうなるかなど考えたくもないが・・・・・。
「――――――なるほど。“罠”と分かっていても調べなければならない。でも、正攻法で“陸”に協力要請をしても、時間がかかり過ぎてどうにもならない。だから、私に頼むんやね？」
「そうだ。一応、正規ルートで“陸”に協力要請はしているが、事が事だけに、確実にレジアス中将が口を出してくるだろう。“海”嫌いの彼が、素直に協力してくれるとは思えないからな。イリーガルな手段という事は十分に承知しているつもりだ。だが、今は時間が惜しい。なにせ、幾らシステムを改善して完璧にしたとしても、扱う人間の方に問題があれば、システムなど幾らでも誤魔化せるからな。――――――頼まれてくれるか？」
クロノは自身の手元を見て、そのまま数秒、はやての返答を待った。
だが返ってきた言葉は、ＹｅｓでもＮｏでも無かった。
「１つだけ、約束して欲しいんや」
「なんだ？」
「どんな状況になっても、絶対フェイトちゃんを見捨てないって。話を聞いただけでも、救出がどれだけ難しい状況なのかは良く分かる。提督という地位にあれば、少数を切り捨てて大勢を助けるような決断が必要なのも分かる。それでも、身勝手なのは分かっているけど、フェイトちゃんを絶対助けて」
「勿論だ。最善を尽くす」
「最善やない！！ 必ずや！！」
はやての思いもよらぬ激しい言葉に、クロノもつられて言い返してしまった。
「必ずなんて無責任な事を言える状況じゃないのは、君だって分かっているだろう！！」
だがそれでも、彼女は怯まなかった。
「それでも、それでもや。１％でも、０．１％でも可能性がある限りは、諦めないで欲しいんや！！」
「『最善を尽くす』っていうのは、打てる手は全て打つっていうことだ！！ 諦めるのは、全てが終わってからでいい！！ 言われるまでもない！！ もう一度家族を失う気も無い！！」
クロノの怒鳴り返すような言葉にはやては、
「信じて、いいんやな？」
と更に念を押した。
親友を心配するあまりに出てきた言葉だが、もはや提督に対する言葉ではない。
十年来の友人に対する、確認の言葉だった。
「打てる手は全て打つ。君に、こんなイリーガルな事を頼むのがその証拠だ。それでも信じられないというなら、何も聞かなかったことにして帰ってくれ。こんな押し問答をしている時間は、私にも、君にも無いはずだ」
「・・・・・そうやな、時間は有限や。まかせとき、必ず期待に応えてみせるんよ」
こうして、はやてがクロノに協力する事を決めたまさにその時、再び入った最優先コールが、事態が動き出したことを告げた。
すなわち、
―――次元を隔てた超長距離観測で、第８８管理世界での大規模魔力爆発を確認・・・・・と。
第３部 第３話へ続く
作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル、投稿小説感想板、