◎第1部・プロローグ
サイキッカー集団ノアが擁する地下要塞。
そこでは、相反する能力を持ち、そして生き方も正反対でありながら親友同士の、最後の戦いの幕が切って落とされようとしていた。
「バーン!! なぜ分からない!! このままではサイキッカーに未来はない。今こそ我々が立ち上がり、思い上がった人間達にサイキッカーの怒りを、思い知らせなければならないんだ!!」
「なんでそんな事言うんだ、キース!! 俺達はサイキッカー同士だから親友になれたのか? 違うだろう!! サイキッカーとそうじゃない人達だって、時間をかければきっと分かりあえる!! 急いで結果を求めたって、失敗するだけだぞ!!」
キースと呼ばれた青年は僅かにうつむき、努めて平常心を装って答えた。
脳裏に蘇る、サイキッカーに対して行われた、数々の人体実験を思い出しながら。
「確かに、時間をかければ分かり合えるかもしれない。だがなバーン。今この瞬間にも、心無い者達が、サイキッカーを実験動物のように!! いや、それ以下のように扱っているんだぞ!! それを、分かっていて見過ごせというのか!! バーン!!」
「相手だって人間だ。話せばきっと分かってくれる!! このままノアと軍がぶつかり合えば、被害にあうのはただの一般市民なんだ。憎しみが憎しみを呼ぶ連鎖は、誰よりも分かっているだろう」
「分かっている・・・・・。分かっているが、それでもこれは止められない。サイキッカーが迫害されない未来を造りあげるためには!! 私はそのためなら、悪魔にでもなろう!!!!!」
「―――ダメなのか? もう昔には戻れないのか・・・・・キース」
「今の私は、サイキッカー集団ノアの総帥キース・エヴァンス。私を止めたければ、お前のその力で止めて見せろ。人間を信じられるという、その力を」
「そうかい、分かったよキース!! この分からず屋!! なら力ずくで止めてやる!!」
キースと呼ばれた青年の力、それは“MASTER OF ICE”。あらゆるものを凍てつかせる氷の力。
バーンと呼ばれた青年の力、それは“MASTER OF FIRE”。あらゆるものを燃やし尽くす炎の力。
互いの信念をかけた戦いを制するために、お互いの力が急速に、そして極限まで高まっていく。
キースの周囲は極低温まで下がり、バーンの周囲は超高温まで上がっていく。
どちらも、最強クラスのサイキッカー。
並の使い手なら、その場にいることすらできない強力な力の奔流の中でも、2人は顔色ひとつかえず、必殺の一撃を叩き込もうとしていた。
この戦いは、互いの信念をかけた戦い。
ゆえに小細工など不要。
ただ、最強の一撃を持って、相手の信念をへし折るのみ。
そこに2撃目はない。
いつの間にか閉じられていた両者の目が開き、なんの偶然か、そして奇跡か、親友同士は同時に力を解放しだした。
「ブリザード―――」
「ゴッド―――」
だが崇高な決闘は、全く望まぬ形で終わる事になる。
突如として、ノア地下要塞の自爆システムが起動。
2人がいる、地下要塞最下層へ続くメインシャフトは、轟音と爆炎に包まれた。
ともに最強の一撃を放とうと、全神経を集中させていた2人に襲い掛かる炎。
頑強な地下要塞を崩壊させるための炎は、人間などいとも容易く灰に変えるだろう。
だが、
「バーン!!!!!」
キースの身体は自然と動いていた。
そうする事が当然であるかのように。
既に発射体勢に入っていた己の最強技、ブリザードトゥースを強制的に中断。
身体に絶大な負担をかけながらも、バーンを氷の棺で包み、護ったのだ。
「キース!? 何を!?」
バーンは一瞬、何が起きたのかが分からなかった。
辛うじて分かったのは、“キースが庇ってくれた”こと。
―――なぜ?
そう考えた一瞬が、彼の親友キース・エヴァンスの未来を決定付けた。
一際大きな爆炎が親友の身体を包み込み、瞬きする間に、灰すら残さずに燃やし尽くしていく。
「キース? キースッッ!! 嘘だろ、こんな決着のつき方なんて!!」
宙に浮かぶ氷の棺の中で、バーンは繰り返し、繰り返し名を呼ぶが、それに答える者は誰もいない。
返ってくるのは、鳴り響く轟音と爆炎のみ。
爆炎が氷の棺を舐めるが、棺はいささかも揺るがない。
棺は親友を護りたいと願った主の意思に従い、バーンを安全な場所へと運んでいった。
この後、彼はキースを裏切った男、リチャード・ウォンを探し出し、その野望の全てを打ち砕く事に成功する。
のみならず、後年の歴史家達は彼の存在なくして、人間とサイキッカーの共存は無かっただろうと、口を揃えるほどの偉業を成し遂げるのだった。
だが、それは別の話。
この話の主人公は、キース・エヴァンス。
腹心の裏切りにより、その生涯に幕を閉じた“はずだった”、サイキッカー集団ノアの総帥。
この後彼は、予想だにしなかった人生を歩むことになる。
いかにサイキッカーといえど、まさか異世界で生きていく事になるとは、考えもしなかっただろう。
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