―――――――――――――風が唸る――――――――――――――
―――――――――――――雲が晴れる―――――――――――――
――――――――――――日が中天に座し――――――――――――
―――――――――――――陽炎が煙る―――――――――――――
――――――――――影は、相対す二人を残し――――――――――
――――――――――揺らぐ世界から消え去った―――――――――
―――――――――――――錯覚が襲う―――――――――――――
―――――――――――今、この眩しさと――――――――――――
――――――――――――熱き風の中には――――――――――――
―――――――――――俺と奴の、唯二人――――――――――――
―――――――――――――――否―――――――――――――――
―――――――――――寧ろそれこそが現実か――――――――――
――――――――――陽射し以上にこの肌を灼き―――――――――
――――――――――陽炎より濃く大気に満ちる―――――――――
――――――――――二人が吐き出す殺気の前に―――――――――
「―ゥオオオオオオォォォォォオオオオオオッッ!!!」
――――――――――――割り込めるものは―――――――――――
「――アイゼェェェェェェェェェェェェェェンッ!!!」
―――――――――――――何も無い
!!!―――――――――――――『
Schwalbefliegen』
To a you side
外伝 孤独の剣士と夜天の絆
景気付けとでも言わんばかりに一声猛り駆け出す剣士。その視界には、陽光を受け目障りにギラつく鈍色の鉄槌と、
それを振りかぶり、空より蒼深き双眸で剣士を捉える紅い髪の少女。
そして少女を護るように宙に浮かぶ、鉄槌と同じ色の鉄球4つ。その意味はうんざりするほど剣士の身に染みている。
あの小さな鋼鉄と破壊の権化が一度得物を打ち下ろせば、あれらは死呼ぶ椋鳥・・・もとい燕となって敵に飛来し、これを撃墜するのだ。
「いっけええええ!!!」
―――――――来やがる!
破壊の号令を下すため、少女の苛烈な叫びと共に、鉄槌が
4つの鉄球全てにめがけ一息に―――「―!?―」
その瞬間、俺は持っていた竹刀を眼前にあっさり放り捨てた。他に何一つ武器のない敵の奇行に一瞬少女の動きが鈍る。
ガガガガゥンッ!!
が、それも一瞬。
構わず驀進する剣士に未だ消えぬ戦意を見るや、即座に渾身の力で
4つの弾丸を打ち放つ。尾を引き迫る鈍い輝き。狙いは俺の胸板と腰骨周辺の
2箇所。人体の上と下、それぞれの中心部にして特大の的。そこめがけ、
2発ずつ横並びに飛んでくる。念入りなこった。その速度は、直撃すれば俺の竹刀も骨肉も等しく微塵に粉砕されるほど速い。
これでは真正面から奴に近づきすぎた俺は、伏せようが横に跳ぼうがまず回避不可能。
ただそこに、馬鹿正直に突っ立っているだけなら
しかぁし!その速さが命取りだチビッ娘!俺の手筈はお前が戸惑ったあの時点ですでに整っていた!
鉄球が俺――がいたはずの空間だけをつんざき、星になりそうな勢いで彼方へぶっ飛んでいく。
当の俺は呆気にとられる少女の眼前で、高さ
3メートルに届こうかという大バク転を華麗に決めていた。前方に地面に垂直に落ちるよう投げ捨てておいた、竹刀を足がかりに。
あのフェイントでこじ開けた一瞬の間に、竹刀の剣先が地に着き、俺は助走を済ませていた。
そして奴が俺を打ち抜く弾道を定め、モーションに入るその寸前、シャイニングウィザードの要領で柄頭に乗り上げ、
渾身の力で跳躍、一気に射程外へ跳び出した。圧倒的なスピードと正確さを誇る攻撃ほど、狙いさえ外れればかすりもしない。
そう、さっきの俺は勝負を捨てたわけでも、素手で戦うことを選んだわけでもなかったのだ。
当然だろ?俺は天下を狙う侍。剣は折れるまで使い込む男!・・・・・・誰だ!貧乏人の思考とかいった奴!
・・・兎に角、遥か彼方の誘導弾を呼び戻すにしろ、また撃つにしろ、カートリッジロードするにしろ、これで奴は後手に回る。
ふはははは!予備動作の大きさがアダになったなぁオールラウンダー!万能型と器用貧乏は紙一重だ!
(関係あるのか?)さぁ・・・待っていたぜこの時を・・・反撃する暇なぞ一切与えねぇ・・・たった今から・・・お前は俺の獲物だ!!!
ダンンッッ!!!
「おおおッ!!!」
四つん這いに着地した俺は全身のバネを動員して、さらに間合いを詰めるべく前へと躍り出る。
俺の全体重+脚力を受け止めて地面に刺さっていたち竹刀を引き抜き、ついに奴へと辿り着いた!
「ヴィータァァァァァ!!!」
「リョウスケ――――ッ!!!」
ガシュウッ!・・・・ギチギチギチギチギッ・・・・・・
互いの名を叫び、俺達は剥き出しの負けん気を得物と共にぶつけ合った。持ち前の膂力で圧し戻すヴィータ。タッパで抑え込む俺。
「ヘッ・・・突っ込んできた時はネジでも飛んだかと思ったが・・・こないだまでアタシのシュワルベ避けんのがやっとだったヒヨッ子が
ここまでやらかすようになるなんて・・・・・・なぁッ!!!」
背後で何かの唸りが響く・・・呼び戻したか!!しかし!
「うりゃあっ!!!」
ぐるんっ!
「ぅあ!」
俺は片方の手でグラーフアイゼンを引っつかみ、体格差を活かしてヴィータの体を傾かせる。重心が動いた所で
引き回すよう反転、互いの位置を入れ替える!操り主の背中を盾に取られ、軌道修正を余儀なくされる鈍色の燕共。
「ヘー・・・面白え。よおし、どんどん行くぞリョウスケ!」
楽しいのはテメーだけだよ・・・とか思ってる間に四方から時間差か!!!ぬああああああああ!
「せっ!」ビュウン!「ふっ!」ゴウッ!「十字砲火!?」バシュシュッ!!ブォン!「は!背筋が・・・!」ドゴン!「うわ脚!?」
飛来する鉄球をあるいは避け、あるいはヴィータを盾にとり、防ぐ。二転三転上下左右、めまぐるしく変化する俺達のポジション。
一見激化しているものの、互いに付け入る勝機・決定打が見出せず、戦況は未だ拮抗状態。体から汗だけが滝のように流れ落ちる。
誘導弾の制御と俺とのつばぜり合いの同時進行のためか、気づくとヴィータも顔が紅潮している。
「はははっ・・・正直スゲェぜ・・・避けるばかりか親分をバッチリリードするなんてよ。リョウスケ、お前ダンス上手かったんだな♪」
「ほざけ!動いてんの俺ばっかじゃねえか!」
「どっかの国にそういうのあるんだろ?だらしないこと言うなよ。せっかくここまで上達したんじゃねぇか。
あとはいちいち声上げなきゃ花マルだな。ステップもほんと鮮やかなもんだ。」
「ケッ・・・当然のパーペキだ!こちとら伊達にここ最近、なのはのアクセルやフェイトのプラズマ相手に跳ね回っちゃ来なかったんだよ!」
「んなッ!?・・・何だとぉ!リョウスケ・・・お前!・・・あ、アタシがわざわざ、修練に付き合ってやってるのに・・・なのに・・・なのに・・・
あいつらにも頼んだのか!?くそぉぉぉぉぉ!この無節操子分!裏切り子分〜!!」
うあ!?いきなりカンシャク破裂させやがった!何だってんだ畜生!!
「自分で勝手に名乗り出といてどの口が言いやがるこのクソチビ親分!大体あいつらにだって一度たりとも頼んどらんわ!
お前が最近俺の修練の相手してること聞いて勝手に押しかけて来たんだよ!そんなに嫌ならお前がどうにかしろ!
詰め寄られて「俺、貰い物は拒まない主義だから
?」って答えてからは一発一発がやたら殺意込もってやがるんだよ!」“私達の気持ちです。受け取って
(ください)ね?”咲き誇る笑顔でドス黒オーラとともに無情な質量を叩きつけて来る妹分共の記憶が蘇り、全身が粟立つ。
・・・ま、それでもしこたま食らって死なない辺り、あいつらは匙加減ができてる方なんだろうが・・・
「あいつら・・・「は」?」
ぐっ!?やべえ!声に出ていたか!
「あいつら「は」って・・・何だよ・・・じゃあアタシは!?教えんのヘタクソだって言うのかよ!!迷惑なのか!?」
「あ、いえ・・・」
「そりゃあ・・・砲撃ならなのはの方が上手いし・・・スピードはフェイトの方があるけど・・・」
「いや、だから・・・」
「わかってるさ、剣ならシグナムに聞くのが一番だってことも・・・怪我させちまっても、シャマルみたいに治してやれねぇし・・・ぅ・・・」
―――何故泣く!?
「アリサほどの器量良しじゃ・・・ないし、お前をいざって時・・・支えてやれるのは・・・ミヤだけだ。
それに・・・お前を一番元気にしてやれんのは・・・やっぱはやてのギガうまご飯だ・・・でも・・・アタシだって・・・
ぐす・・・自分・・・なりに・・・ひくッ・・・もういい、何だよ・・・ばか・・・子分の成長見守るのって・・・嬉しいなぁ・・・とか・・・
ちょっとでも・・・素直に・・・褒めてやろうかなぁ・・・とか・・・思った・・・アタシが・・・馬鹿だった!! 徹ッ底ェェェェぶちのめすッ!!」
なんでぇぇぇぇぇぇぇ!? あ・・・コイツの眼、今一段と蒼く据わっ・・・ぐくくくくくそぉぉおおッッ!?お・・・押し切られるぅ!
相変わらずなんつう馬鹿力・・・だが・・・この程度で行く道退いてられっか!
確かに節操がなくて馬鹿ってなぁ認めるよ・・・そこに恩知らずとダメ人間を足してくれたっていい!
だが・・・こいつは今決定的な勘違いをした!! 本気でそう思うのか?・・・お前は!!
だったら何が何でも思い知らせてやらねばならない。証明してやる・・・覚悟しやがれ!
「上等だ・・・来い!ゲートボールスマッシュでもムロブシー・ロールでも大槌小槌・満・満・満でもやってみやがれ!!!」
「人の技ヘンな名前で呼ぶな!あったまきた・・・お前がベルカの騎士にガチバトルで勝とうなんざ十数世代早いって教えてやる!
アイゼン!! カ――――――トリッジロォ―――――ド!!!」
ジャコン!ガシュゥゥゥゥン
『
Explosion Raketen form』俺をはねのけ、カートリッジを装填するヴィータ。
品種改良要るほど不出来な子分で悪かったなこんにゃろう!だがなあ!
「願い下げじゃ ンな引導! お前からなら、とっくによっぽどましなモン教わってんだ!!」
「え?」
見せ付けてやる。俺が掴んだものを―――その眼に刻め、紅の鉄騎!!
倒れるンなら前のめり―――負けねぇ退かねぇ悔やまねぇ前しか向かねぇ振り向かねぇ!―――闘う!闘う!!闘う!!!闘う!!!!
「これが・・・この覚悟が!俺の自慢の!天下無敵の!!ヴィータ譲りの!!!闘・魂・だァァァァア―――――ッ!!!!」
「―なぁあ!?」
ラケーテンハンマーの体勢に入るヴィータへ、竹刀左手に迷わず突貫する。否―――立ち止まる暇なんかねぇ!!
チャンスはただの一度きり。開放された魔力が爆発する瞬間。グラーフアイゼンのハンマーヘッドがトップスピードに乗る直前!
・・・ヴァギュシイィィッ!
「!! 馬鹿!一体何―――」
じゃかあしい!わーってる!今突き出した左手・・・確実に骨がイカレた
(泣)。それでもアイゼンのヘッドは竹刀が確かに受け止めた。
しかし!このままではいずれ肘・肩もろとも爆風に圧し負け、ひしゃげて終わる! 瞬時に無事な右手に持ち替える俺!
元々力対力では勝負にすらならない。受け止めた左腕はあくまで下準備。挑むためではなく、戦況を俺の有利に引きずり込むため!
そして俺は右足を軸に体を回転、アイゼンに喰らいついたままの竹刀を全速力で引き戻す!正念場は・・・ここからだ!
破滅をもたらす暴威が今、幸運の追い風へと変わる――――アイゼンの推進力を吸収し、爆発的に加速する俺の回転スピード!
「ッラァ!」
竹刀が弾かれる寸前でアイゼンを明後日の方向に撥ね上げる。圧し戻すのではない、ずらすだけだ。大した力は必要ない。
「うあ!?」
アイゼンに引っ張られ泳ぐヴィータの体は案の定片足立ちになる。そのガラ空きの足を、俺は空いていた左脚で思い切り蹴り払う!
「うぁああああああああッ!?」
バランスを崩せば魔法で浮いていようと関係ない。ヴィータの体はアイゼンに振り回され派手にジャイロ回転を起こす!
俺の体も速度は未だ衰えず、独楽のように回っていた。
二人とも悪酔いしそうな状態だが、回転軸が一本の俺と三本のヴィータでは、俺の方が断然バランスはとりやすい。
ヴィータが体勢を崩している今が好機!!
次の攻撃―――狙うは互いが真逆の回転方向でぶつかり合う瞬間。相対速度は最大となり、繰り出す一手は最強の破壊力を発揮する!
――――――見切れ―――――――
――――――見澄ませ――――――
――――――見逃すな――――――
――――必ず巡るその時を――――
―――――――見ろ―――――――
―――――――見ろ―――――――
――――――見極めろ――――――
―――――――今だ―――――――
―――ザゥンッッ!
「くらえェェェェェェェェェェェッ!!!」
ゔァン!!
地面を弾くように大きく踏み込み、全体重に回転速度を上乗せした、極限の一刀を振り抜く。
届くのは切っ先だけで十分――――俺とヴィータのコンマ秒単位の攻防全てが集約された最速の衝撃。
それは風を切り裂き、アイゼンを掻い潜り、吸い込まれるようにヴィータへと――――――
「
Panzerhindernis」バキイィィィィィィィン!!
「なにイィ――――ッ!?」―――――届くことなく血のような赤い壁に弾かれた・・・ドンッ
「ぐほぁ!」ゴロゴロゴロゴロッ「づ!ご!げふ!ぬは!」ゴザザシュ――――ッ…「ぅあががががががががっ!?〜〜〜・・・・・」渾身の一撃であっただけに弾かれた反動も凄まじく、受身を取る暇もなく俺は盛大にクラッシュした・・・痛ってぇ〜・・・
「あ・・・すまねえ・・・アイゼン」
「
Bitte schon(どういたしまして)」眼でも回したか、少し呆けた様子でクソ忌々しい忠臣デバイスに謝辞を述べるヴィータ。
がばぁ!「ゴルァアアアアアッ!!! てんめッ・・・障壁は無しっつったべやぁぁぁぁぁぁ!?」
し合うに当たっての規約の違反に異議を申し立て怒り狂う俺。
「はーい!双方それまで!ヴィータちゃんもリョウスケも武器を下ろしてくださいです!」
「え?」「あ!?」
「今日はアイゼンが禁じ手使ったから、良介さんの勝ちでお終いです。――というか!今ので脱臼してます!もうやめて良介さん!」
え? ぬおおおおお!! み、右腕が・・・上がらないィィィィィ!?
「もう・・・またこんな派手に怪我して・・・これ以上はシャマルストップです!!続行なんて断固許しませんからね!!
・・・ふぅ・・・とにかく、良介さん。久々の白星、おめでとうございます。」
「・・・久々は・・・余計だ・・・」
二人の間に入り判定を下したのは、生真面目な蒼銀の妖精と、呆れ半分で微笑んだ風の癒し手。
緊張が途切れた戦いの庭が――――優しい世界に戻っていく。
「リョウスケ・・・大丈夫か?」
いつからか、ヴィータがそこにいた。そして気付けば、俺はこんなことを口走っていた―――――
「・・・なのはもフェイトもシグナムも・・・遠慮深いっつーか気が利きすぎるからな。あいつらとの勝負は、刃を研いでる感じなんだよ」
「え・・・?」
「持てる力を最大限活かす、その道を探る戦い。切れる手札は無駄なく捌き、好機は絶対逃さない戦法。正に極意だよな。
得意分野にかけちゃどいつも超一流だ。あいつらとの修練で身につく強さってそんな完成されたイメージなんだよ。
ところが俺って奴はこの通り、焼きの足りないナマクラだからな、研いで小利口にまとまった所で、出来る事はたかが知れてる」
「・・・・・・・・・」
「だからもう一回り強くなろうとしたら、研ぐよりもひたすら打ち直さなきゃならねぇ。そうなるとどうしても必要なんだ。
俺を心からぶちのめそうとしてくれる奴が。俺とそいつがお互いに、本気ぶつけて受け止めて、真剣勝負の極限状態の、
更にその向こうまで体感できる、そのくらいムキになって、同じ目線で、とことん付き合って度胸と根性叩き上げてくれる、そんな奴が。」
「!―――――――――」
「俺みたいな甲斐性無し相手にそこまで遠慮なく踏み込んでくれる世話焼きっつーと・・・今んとこ身内にたった
1人だけなんだよな・・・」「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
俺の話を黙って聴いていたヴィータの顔はいまや髪より真っ赤に染まっていた。夜明け前の空のような瞳には星まで浮かんでいる。
「だから・・・あーなんだ・・・その・・・俺が相手でろくな成果が出なかっただけで、よ。ヘタクソなんかじゃないって。
お前が揉んでやりゃ化ける奴らなら・・・きっとこの世にあふれてる。俺でもこうしてお前から一本とれたしな
ボウンッ!!「ヅホオオオオオッ!?」・・・結論から言おう。足元に鉄球が着弾して吹っ飛ばされました・・・
「おせえっ!!おッ親分への日頃の感謝をこんな今頃になってツラツラ述べるなんざどういう了見だ馬鹿子分!!!
ままままぁ・・・言うこともできない恩知らずよりは万倍ましか!うん!そんだけ殊勝な口が利けるなんて大した進歩だ!!
これもきっとあたしが毎日面倒見てやってるおかげだな!よしッ、今日の修練はこんなもんか!しっかり休んどけよ!」
未だ紅い顔で一気にまくし立てるヴィータ。何か鉄球撃つ瞬間にあいつの顔が急激に茹だっていた様な・・・
「・・・へーい親分、今日も直々のご指導ご鞭撻、ありがとーございやしたー・・・」
「くふふ・・・・・・おうっ!!」
機嫌が直ったら直ったでこれですかこのチビは・・・子分は・・・つれェな・・・
八神家、リビング
「ふむ・・・体はかなり練り上がって来たようだな。骨の矯正もすっかり楽になって助かるぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか」
シャマルの治療を受けながら、折れた骨はシグナムに診て貰う。出入りしている剣道場で覚えた接骨療法らしい。
複雑骨折は元の位置に骨を戻す必要がある。ただ回復魔法をかけるだけとはいかないわけだ。
「・・・どうした?さっきからやけに無口だが・・・」
「まだ気にしてんだろ♪ シグナムが最初に良介を治してやった時・・・「おい!」
怪訝そうなシグナムに、先にシャワーを済ませたヴィータがイチゴアイス片手に上機嫌でこたえる。
“この程度で騒ぐな、情けない。それでも兵
(つわもの)か?”「ああ、あの時のことか・・・忘れてくれ。あの時は私もまだ力の加減がぎこちなかった。
まだ粗いか?あれから少しは様になってきたと思うのだが・・・」
確かに脱臼を一発で戻したのは見事の一言に尽きる。あまりの激痛でそれどころじゃなかったが。
「無理して怪我を隠されては敵わないからな。痛い箇所があれば正直に教えてくれ。私がきちんと直しておこう」
「い、いや・・・だから、別にねえよ、」 「・・・・・・本当か?」 ギュッ
「ッ―――――!!へ、平気の平左だっつってんだろ・・・」
「ほぅ・・・ふふふ・・・負けず嫌いもここまで徹底してくると可愛いな。じゃあここはどうだ?こっちは?ん?ほうら、それそれ♪」
ギュッ ぐにッ うりうり・・・
「!・・・ッ!!〜〜〜〜!・・・!遊ぶなコラァ!」
「うむ、問題はなし、と。それだけ気力があれば後はシャマルの癒しですぐに万全だな」
「・・・はやてにシグナムが悪い遊びを覚えたって教えてやんねぇとな。」
「この程度で告げ口か、大人気ない、それでも兵か?」
「いつか絶対泣かす」
「・・・ああ、期待しないで待つとしよう。―――――強くなれ、宮本」
麗しくも凛々しい顔立ちにあくまでも真摯なまなざしと言葉―――――不覚―――――一瞬言葉を失った―――――
「は・・・アンタに言われるまでもねぇよ」
「・・・・・・むぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「・・・ドシタノ?しゃまるサン?」
なんかやたら低いうなり声上げてるみたいなんスけど・・・
「たのしそーですね、りょーすけさん、しぐなむ」
何その低い抑揚のない声!?不気味!めっちゃ不気味だ!
「いや、治療に専念してるのに話しかけちゃ悪いかと・・・「それで私の目の前でシグナムとあ〜んなにストロベリってたわけですか・・・」
どこで覚えてきた異次元ワードだそれは!?
「いつも言ってるじゃないですか・・・別に一番じゃなくていいんです・・・偶にご一緒してくれるだけで私、とっても楽しくて嬉しくて・・・
なのにずっと・・・ずうぅぅっとほったらかしなんて・・・今日の勝負だってそうです!ヴィータちゃんとあんなに情熱的なラヴォルタを・・・
まるで、私に見せ付けるように・・・ハァ・・・替わって欲しくて・・・何度旅の鏡を使いそうになったことか・・・」
替わってくれりゃ良かったんだ。二度とそんな気起きなくなるぞ。あんな修羅場。
「どんな感じだったですか?ヴィータちゃん
(ドキドキ)」「へへへ・・・たのしかったなぁ〜〜☆」焚きつけるなアホども!?空気読め!!「・・・・さあ!左手!出して下さい!!仕上げの治療しますから!」「あ、ああ!どうぞ・・・」
じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・何か・・・食い入るような眼で・・・「外傷は完治・・・頃合ね」――は?――
がぶ!「ヺ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッッ!!!?」
がぶがぶがぶッッ!!「ヺヺヺヺヺヺヺヺヺヺヺヺヺヺヺヺォォォォォォォォォッッ!!!?」
チョ、オマ・・・ナニシヨンノ?
「先日、なのはちゃん達に会って、お話したんです
(にっこり)。そしたら良助さん、貰い物は拒まない主義だってお聞きして――」「オキキ・・・シテ・・・?
(涙目)」「私の気持ちです。受け取ってくださいね
?」「こんなんいらんわああああああああっ!痛みが増えただけじゃねーか!」
「大丈夫ですよ、私はこれでもヴォルケンリッター風の癒し手。傷はきちんと治します。でも・・・良助さんにはわかっていてほしい・・・
傷は治るに越したことはありません。でも・・・忘れてはいけない痛みって、あると思うんです・・・!」
「字面だけなら感動巨編だなこのアマ!?もーいいお前には頼らん!やっぱ男は黙って自己治癒力だ!」
「だめです!骨はまだくっついてないですし、さっき思い切り噛んじゃって少し傷も――――」
「つけたのはてめーだろ!ええいさわんな!自分でツバつけて治す!」―パク―
「はぇ!?りょっ・・・りょりょりょ・・・良介さんが・・・わたっ・・・わったっしの・・・かん・・・・・・ひゃぅぅぅぅぅぅぅぅぅん
?」―ポテン―「は・・・はうぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜
//////」プシュゥ〜〜〜〜〜コテッ・・・あれ?「シャマル?オイ?・・・つーかミヤ、何でお前も・・・?」
やたら安らかな顔で気絶した八神家の若奥さんとドライアイスのように煙を噴きながら倒れた妖精、そして焦る俺を見て、
「ふん!」 「はあ・・・」 「・・・その手はすぐに洗っておけ、宮本。あと、俺からの指図だということは内密にな・・・」
ヴィータはむくれ、シグナムは嘆息、そして八神家の青き狼は、何かわからんアドバイスをくれたのだった。
「日曜だ!次の日曜!運動会だぞ!!リョウスケ!!」
あの後、修練で瀧の様にかいた汗を洗い流し、起きたシャマルに治療を完了してもらい、
(手洗ったって言うと何か泣いてた)冷蔵庫の麦茶で水分と鋭気を補給していた俺の鼓膜を、八神家の紅い鉄砲玉が銃声高らかにブチ抜いた。ウルセーよ!
「ぁー・・・・・・・運動会?」
何だというのか、それが。俺学校行ってないし何の関係も・・・
「大有りだ宮本。「ザフィーラ!てめ、人の思考を・・・」ヴィータも説明が不足しているぞ。場所は聖祥大付属小学校だ」
「――――ああ――――」
「わかったようだな」
「そうですよ 良介さん♪ はやてちゃんの初めての運動会です!」
はやてもこの春から
4年生になり、リハビリしながらなのはたちと同じ学校に復学し、小学生ライフを満喫している。まだ走ったりするには長年麻痺していた足の筋力がついてこれていないが、元々夜天の魔導書の侵食が原因だったので、
今はぐんぐん回復している――――玉入れとかなら参加できるかもな。どうせ忙しい身ではない。ぜひとも勇姿は見に行ってやろう。
“そや!みんなお弁当は何食べたい?只今リクエスト募集中やよ!バンバン言うてな〜♪”
――――そう言って幸福の色に頬を染めるはやての笑顔が脳裏に浮かぶ――――
などと考えていると、親分から衝撃のお達しが下った。
「そこでアタシ達が手塩にかけて鍛えてやったお前の出番だ!父兄参加の親子騎馬戦で最強の王座にはやてを導け!」
「なにイィ――――ッ!?」
「ヴィータやミヤが参加することはできぬ。参謀格であるシャマルにも不向きだ。シグナムや俺では力の加減がうまくわからん。
更に言うと俺の人型は後々面倒そうだ。そして何より―――主はきっとお前を選ぶだろう。力を貸してくれるな?宮本」
なるほどね・・・ヴィータがここ最近の俺の修練の相手役を買って出ていたのはこれが原因だったのか。まあいいさ。
こいつらには確かに世話になったし、ガキの勝負事に興味はないが、他でもないはやての晴れ舞台だ。
最強の二文字に飢えて始めて、血を吐きながら身につけた闘者の体と技。家族サービスのために使うのも存外痛快ってもんだ。
それに・・・
「オーケー!!その話乗った!」
「・・・・予想以上に乗り気だな。何か他に目当てでもあるのか?」
「鋭いな、シグナム。なぁに・・・ちょっとした野暮用だ。」
きっと運動会には高町家の連中や、リンディ達もやってくる。そうなれば――――きっとその舞台で俺は奴等と闘える!
くくくくく・・・・・・待っているぜ・・・怨みしがらみ一切無用、ただお前らと今度こそ、闘うためだけに闘う、その時を!
―――――アルフ―――――そして――――――――――恭也!!!――――――――――
あとがき
どうも、鯨波
(いさなみ)です。何か調子に乗って殴り書きました。いろいろパクってしまったネタも多くて恥ずかしいですが、
このファンタズム
(妄想)・・・投稿せずにはいられませんでした。