『ジョジョの奇妙な冒険外伝 SNOW MEMORYS
第15話 地獄にも似た芸術@』




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あゆ視点
彼女は走っていた。路地裏を走っていた。隣には部活の仲間でもある、美坂栞も一緒だ。
現在の時間は、学校で言うなら放課後の時間。本来なら部活で忙しい時間。
だが、今は謎の男に追われていた。
話しは今日の昼休みに遡る。


昼休みの時間。あゆにとっては楽しい時間だった。
祐一と彼の友達との楽しい一時……あゆはそんな時間が大好きだった。

「祐一くん!お弁当美味しいよ!」

あゆは笑顔だった。なぜなら、7年間眠っていたあゆにとってこの時間はかけがえのないものだから……
だから、本当に楽しそうにお弁当を食べていた。
もっとも、祐一に食い意地が張っていると言われたときに、頬を膨らませていたが……
しかし、いつもと違うところがあった。

「あゆ。今日からは一緒に帰るぞ」

この祐一の台詞に微かな疑問を覚えた。いつもの祐一は待ってはくれない。
まぁ、寒くなくなってきたとはいえ、教室に待たせるのはかなり厳しいとあゆも思っていたから、
何も言わなかったからだが…… 

「いいけど……今日は部活だよ?」
「待っててやるよ」

一瞬だが、あゆは怪訝な顔もするが、一緒に帰るのが嬉しいのか、その事を喜んだ。

「遅くなるかもしれないけど、待っててね」
「任せておけ」

この時あゆは気付かなかった。祐一が何故こんな事を言ってきたのかを……
そして、自身が危険に晒されている事を……


放課後 あゆは美術室に向かった。あゆは美術部員だ。基礎を知らないあゆはまず初めに基礎の勉強に入った。
となりには、地獄の絵を書く少女として、有名な美坂栞がいた。
かなりの集中力で絵を書いていた。絵の内容は多くは語らない。
彼女の逸話はかなり有名だったりする。
なにしろ、栞にチョッカイ出した男は空手部の猛者で、攻撃を何発受けても平気なタフネスだったのだが、
栞の絵はその猛者をも粉砕した

「じ……地獄を見たぜ……(ガクッ)」

それが彼のその日、最後の言葉だった。空手部猛者をもその絵で倒す少女。
その名前はあっという間に、学年全部に広がった。そんな危機をあゆは救おうと必死に頑張っている。
健気なほどに頑張っているのだ。

閑話休題

そんなこんなで、現在、美術部に在籍しているのだ。
現在はデッサンの練習。あゆのキャンパスには基礎を習った技術を惜しげもなく披露していた。
なかなかあゆはセンスが良く、意外な事にかなり上手い。
どうやら、あゆの才能はその素直さのようだ。言われた事を正確に再現できる。
隣で栞の熱意は認めているが、その進歩のなさにどうすればいいのか考えている女生徒がいる。
教えてこの程度か?と思う自分と、
何とか気絶せずに見れる程度に進歩した事を喜ぶべきか判断に苦しんでいた。

「と、とりあえず。2人とも準備室から絵の具を持ってきなさい。絵の具の使い方を教えてあげるから」

栞の絵の判断に苦しんでいたが、先に進む事を決意したようだ。
2人は言われて、準備室に向かった。
しかし、全員気付かなかった。ドアの向こうであゆ達を見ていた誰かがいることに……

準備室
栞は満足そうだった。自分の絵が認められて、絵の具を使うところにまで進んだのだから
隣のあゆも満足そうだった。自分の絵がどんどん上手くなっている。そう実感できたから楽しそうだった。

「楽しみだね」
「そうですね。がんばりましょう。あゆさん」

そして、美術室に戻った。
しかし、彼女達は理解できなかった。目の前の光景があまりにも現実離れしているからだった。
目の前に広がるは氷の世界。
教室の至る所にある机や椅子が全て凍りつき、後ろに立てかけられている絵も、
棚に置かれている石膏像も全て凍り付いているから。
そして、極めつけはその美術室に立っている氷の彫像。それは美術部の部員達だった。
部員達は表情も変えずに、その氷付けになっている。
奇妙な光景……それはこの場で表わされる光景だった。
だが、逆に美しくもある光景だった。異常さの中にも美しさがあるのだ。
そして、その中に佇む一人の男がいた。
サングラスをかけた男。服装もキチッと着こなしている。

「いたな……余興は終わりにしようか……」

冷たい光景の中で男は呟いた。あゆと栞は純然たる恐怖に膝が笑い出した。
が、しかし、ここで止まると即死という状況。だから、彼女達は逃げ出した。
彼女達は尋ねたかった。先輩達は無事かと。だが、男の声を聞いた瞬間、死の恐怖が出たのだ。
彼女達が逃げるのも不思議ではない状況。彼女達は窓から逃げた。
それが、わざと逃がすための罠とも知らずに……


男視点
男は逃げたのを見ると、どこかサディストが見せるように笑った。本人にはあまり自覚がなさそうだが……
そして、唇を舐めた。彼流の集中力を高める方法だろう。

「逃げろ逃げろ……狩ってやるよ。楽しい狩りの時間だ!」

男はわざと窓の部分を凍らせなかったのだ。凍らせなければすぐにでも仕事は終わった。
だが、男の趣味の問題で彼は逃げしたのだ。脅えた獲物を狩る状況を作るために……
そして、自分自身の欲望を満たすために……

「脅えろ……脅えて、恐怖に顔を歪ませろ!最高にな!その顔を氷付けにし、オブジェとして飾ってやるよ!
俺様の作品は美しいんだ……偉大な芸術家と同じ位にな!」

そして……彼はスタンドを出した。
その姿は地獄の案内人が、氷付けになったかのような禍禍しくも、どこか美しいスタンドだった。

「これが……『ヘル・アーティスト』だ」

誰にともなく呟いた。しかし、この場にその呟きを聞いたものはいない。


そして、現在に戻りあゆと栞は走っている。
純然たる恐怖に脅えた、精神。しかし、その脅えをなんとか自制し、懸命に走っている。
ちなみに祐一は教室で北川と談笑しているが、あゆ達は遠ざかっているので、今は意味がない。
しかし、あゆたちは男が追ってくる姿が見えないため、少し立ち止まった。
2人は息を整えている。

「はぁ、はぁ……大丈夫?栞ちゃん」
「な、なんとか……」

2人とも疲れている。当然だろう。死への恐怖が2人の走力をいつもより高めているのだから。
あゆは食い逃げをしてたため少し余裕があるのかもしれないが……

「だ、大丈夫だよね?」
「あ、あの男の姿は見えませんよ……」
「い、一体誰だろうね?」
「でも……逃げないと……どうします?これから」

姿が見えないため、あの男からどう逃げるか考えていた。
しかし、今のままでは逃げれないと判断した。厳密には逃げる体力がない。
そのために休んでいるが、鉢合わせにでもなったら、現在の状況では死あるのみである。

「なんでですか?なんでこんなめに……」
「もしかして……最近、祐一くんが様子がおかしかったのはこのコトに関係しているのかな?
だから、今日も一緒に帰ろうとしたんじゃ……」

あゆの自信無さげな言葉だが、その通りなのだ。
あゆ達に危険にさせないために一緒に帰ろうとしたのに、その前に危険になっている。
祐一達の認識が甘かったのだ。

「どこだろうね?お嬢ちゃん達……」

ビクッ!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

遠くからあの男の声が聞こえる。奇妙な圧迫感。それは恐怖。

……ザッ!ザッ!ザッ!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

段々と足音が近付いてくる。恐怖が忍び寄る。
そして……

「そこにいたのかい……お嬢ちゃん達」

あの男が……みんなを氷付けにした、あの男があゆ達を見つけた。
あゆと栞はすぐに脇の道に入った。しかし、男も今度は走ってきた。
そして……

「ヘル・アーティスト!」

男がスタンドを出す。そして、壁を殴る。殴った場所を中心に氷が拡がる。
この男の能力は殴りつけたものを凍らせる。ある意味、北川のヒートマスターと逆の能力だ。
凍らせるか、熱するか……似ているのだ。今のあゆ達には知る由もないが……
しかし、対象に瞬間的に熱するヒートマスターと違い、
ヘルアーティストは徐々に、周りも凍りつかせ始める。
一点集中型がヒートマスター。分散させるのがヘルアーティストだ。
そして、周りの状況を見て、栞が以上に気付いた。

「あ、あゆさん!凍っています!」
「うぐぅ!どういう……」
「周りの壁がです!」

あゆが走っていたが、少し立ち止まった。横の壁を見ると、凍った壁があった。
栞も止まって、確認のために周りの壁を見れば、凍っていた。

「凍っているけど!逃げないと!気にするのは後だよ!」

あゆはそう言われ、栞も全力で走る。まだ、男の姿が見えない。
そして……出口が見えた。

「あ、あそこを出れば!振り切れるよ!」
「そ……!?あゆさんストップ!」

あゆの制服を掴み、なんとかストップさせた。

「ど、どうしたの!?」
「前をよく見てください!もう前も凍っています!」
「気付いたか……もう少しだったものを……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!

あゆはその台詞を聞き、背筋が寒くなった。栞も同様だったが、後ろを見た。
そこには、予想通りだが、当たって欲しくない人物がいた。
そう、ヘルアーティストを操る、サングラスの男が……

「そのまま突っ込めば、前の氷の刃で……ジ・エンドだったものを……
死んだ者を氷象にするのも美しいのだが……」

男のボヤキが聞こえるが、恐怖のために耳を素通りした。
あゆの後ろにある……出口の氷がキラキラ輝いている。よく見ると、薄く、何本かに分かれているのだ。
そして、首の部分に丁度よい高さだった。
このまま突っ込んでいれば、間違い無く、首の無い氷象になっていただろう。

「まぁ、いい。もう逃げられない……これから死ぬ前に偉大な芸術家である私の名を教えよう。
私の名は上戸雹だ。死ぬ前にこの名を頭に刻め。そうすれば、楽になれる」

そう言い、男は静かに歩み寄る。栞は絶望に包まれたが、あゆは恐怖に耐えながら

「い、いやだよ!ぼくはまだ死なない!まだ死にたくない!」

あゆの悲痛な叫び。しかし……

「恐れる必要など無い……君達なら、立派な芸術品として、後世に名を残すだろう」

男は気にもせず、あゆ達に歩み寄る。
あゆにあと5mと近付いたとき。

(まだ……死にたくない!いやだよ!)

そして……少女の願いは奇跡を呼んだのか……あゆに翼が生まれる。
後に栞は語る。天使の様だと……後にそう語る。

「な、なんだと!?ま、まさか!?貴様もスタンド使いか!?」
「えっ!?えっ!?」

後ろには純白の翼があった。そして……

ドン!

あゆの周りにあるエネルギーにも似た物があゆの身体を包む。
そして、あゆに白い鎧が生まれた。
そう全身に白い鎧が生まれたのだ。そして、あゆは白い翼を羽ばたかせると浮いた。
あゆはこの羽が自分の意思で動かせる事を知る。そして……

「栞ちゃん……掴まって!上に逃げるよ!」

しかし、栞は呆然としていた。身動き一つしなかった。そして、雹が走ってきた。

「もらった!ヘルアーティスト!」

その台詞が始まると同時に、あゆは栞を掴み、台詞が終わると同時に上へと翔け上がる。
そして、数瞬後、ヘルアーティストの拳が飛んできた。

ビシュン!ヒュンッ!

「ナニィーー!」

雹は驚きの声を上げる。自信のスタンドは近距離型のためかなり速いのだ。
その上パワーもかなりあると自負している。
しかし、攻撃の方が僅かに遅かったとはいえ、あゆのスタンドはそれよりも速く、上へと翔け上がった。
そのスピードはかなり速いと言う事だ。
そして……上を見ると、既に登り終えたあゆの姿が確認された。
しかし、雹は薄く笑った。そして……

「なるほど……やはり、真の芸術は慢心せず!そして!努力の末、手に入れることが出来る!無心で!
ただひたすらに!己の才能を突き詰める!それが真の芸術だ!
貴様等を手に入れるために最大の努力をしよう!」

まだ、バトルは始まったばかり……

祐一視点
祐一は暇だった。
確かにあゆを守るために残ったはいいが、さすがに北川と漫才のような会話をしていても、暇だった。

「……暇だな……」
「そうだな……」

二人して、暇だった。何時終わるか分からないため、待つしかないのだが、暇だった。

「……なぁ。名案を思いついたのだが……」
「……なんだ?」
「美術室に行かないか?」
「なんで?」
「教室にいるよりは暇じゃないと思うぞ。それにあそこには、なぜか漫画が置いてある。」

美術室には資料という名目で漫画が置いてあるのだ。
なんでも、空想のものを描く時、漫画は一番の資料になるそうだ。
それは、ともかく退屈はしないですみそうなので、北川は美術室に向かう事にした。
祐一も立ちあがり、北川の跡を追う。
談笑しながら、美術室に向かう二人。しかし、近付くにつれ、段々と寒くなってきた。

「寒くないか?」
「気のせい……じゃないよな……夕方だからじゃないか?」

もう夕日になりつつある外。だから、そう思うことにした。しかし、それでも相当寒い。
さすがに、不安になった。そして……

「いくらなんでも寒すぎないか?」
「そうだな……寒いところを捜そう」

そして、2人は部屋を徐々に近付き、ドアを開けた。異常はない。
次の部屋もその次の部屋も……そして、美術室に辿りついた。

「お、おい!いくらなんでも、寒すぎる!」
「……開けるぞ!」

そして、2人はドアを空ける。そこには、その部屋だけ氷河期になったかのような氷の世界。
そして、そこにいる住人は、全て氷の氷像……いや、よく見ると人間が氷像になっている。
そんな世界が拡がっていた。

「こ、これは!?」
「す、スタンドだ!」

祐一は断定した。それ以外に説明のしようがないのだから……
そして……

「あ、あゆ達は!?」
「さ、捜そう!」

2人は部屋の中を捜した。しかし、美術部は文化部にしては多いとはいえ、15人くらいしかいない。
あゆ達を入れても17人だと、前に言っていた。
そして、2人はあゆ達を捜すが、どこにも見当たらない。

「氷象の中にはいないな……」
「じゃぁ……どこに…!?おい、北川!」
「どうした!?」
「……あそこの窓から逃げたかも……」

窓がそこの箇所だけ開いていた。祐一達はそこに近付く。
祐一はそこから外を見た。
地面に足跡三つ……2つは小さい事から判断して、あゆと栞…しかし、もう一つは明らかに足跡が大きい。
恐らく、男性だと判断した。そして……

「おそらく、あゆ達が襲われている!俺達はこの足跡を追おう!」
「いや!おれはここに残り、氷を溶かしてみる!こんな所を見られたら大事だからな。
だから、相沢が追跡してくれ!溶かし終わったら、追いつく!」
「分かった!じゃぁ、先に行く!」

祐一は窓から外に出た。そして、足跡を追跡した。
これは、あゆ達が美術室から逃げて、約5分後の出来事だった。
間に合うのだろうか……

TO BE CONTINUED

後書き
作:いきなりのピンチを脱しましたが、まだまだピンチは続きます。
北:なぁ……
作:(無視)今回は近距離型でかなりの強敵です!
北:おい!
作:(また無視)予定では、今回を入れて計3話の予定ですが、増えるかもしれません。
北:ヒート……
作:(ビクッ!)な、なんだ?
北:やっと応えたか……あそこにいる相沢が……
作:それを見ないようにしていたのに……
北:……漫画で見るミイラになっているぞ……
作:養分を吸われすぎたんだな……
北:パサパサの肌をしているし、背中から植物が……
作:こ、これ以上言ってはいかん!
北:(無視)それに、なんか手が微妙に動いている。
作:言ってはいけないのに……とりあえず近づいてみよう

ぱたぱたぱた……

北:……なるほど……流石は相沢……この熱意をもう少し別の所で使えば……
作:ほんとにね……大したものだ……はぁ……

地面に大きく

やれやれだぜ……

と書かれていた。今回の後書き要員でもある2人は呆れていた。 




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