魔法少女リリカルなのは―――暗き瞳に映る世界―――

 

 

 

 

 

第一章 

 

 

 

第一話

 

〈夜天の王と観察官〉

 

 

 

 

 

 

 

時空管理局。

 

 

それは多次元世界においてその名の下に時に数多の世界に干渉、管理、災害救助を行う、次元世界のひとつミッドチルダに本局を構える多次元管理機構。

 

その存在理由により、数多の魔導師を擁し、そして多くの次元空間航行艦艇を有している。

 

 

 

そして、管理局の数ある任務において最優先で実行されているもの。

 

それは、かつていくつもの次元世界で創られ、そしていくつもの次元世界を滅亡へと追いやったこともある。太古の遺産「ロストロギア」を回収、管理することである。

 

全てのロストロギアが危険というわけではないが、その扱いにはいくら慎重を期してもやりすぎるということはない。

 

 

 

そして、この管理局内において、今日もまた事件は起こっていた。

 

 

 

 

 

 

 いくつもの艦を接続し形作られている時空管理局本局。その内部は広い。

 

元来かなりの人員、艦艇を収容させることを前提に設計されたのか、数百メートルを超えているであろう次元航行艦艇を、何隻もその内部に収納できるほどに広いのである。

 

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

 

その管理局の中を一人、猛然とひた走る青年がいた。

 

後ろをちらちらと気にしながら、通り過ぎる度にところどころなにか細工をしながら走っている。見る人間が見ればわかるが、それは魔導師が使う捕縛魔法の一種だった。

 

 

「3…2…1…ゼロ!!」

 

 

その青年がカウントの終わりを告げると、彼の走ったあとの随所で黒い壁が発生、幾多の層を形成した。それを見た青年はとりあえず安心したのか、少し走るスピードを緩める。

 

その次の瞬間だった。

 

 

パリンッ!!

 

 

「待てぇーーー! リュー坊ぉーーー!」

 

 

ガラスの割れるような音を立てて結界が破られ、そこを抜けるようにして猫の耳と尻尾を生やした二人の少女が飛び出してきた。

 

元時空管理局提督、ギル・グレアムの双子の猫の使い魔、リーゼロッテとリーゼアリアである。二人は結界を力ずくで打ち抜いた瞬間、前方にいる青年に向けて捕獲魔法(バインド)を使用する。

 

 

「どわぁっ! ついてこないでくださいぃ!」

 

 

しかしこの「リュー坊」と呼ばれた青年はそのバインドを回避し、再び全力で走り出した。

 

もちろんリーゼ達は後を追う。すでに猫の本能丸出しである。

 

 

「な、ん、で、こうなるんですかあああああぁぁぁぁぁ!」

 

 

叫び声をあげてネズミ…もとい青年は走る。

 

 そしてふと思う。何故、自分は逃げてるんだっけ?

 

 

 

 

それから一時間後、両者とも体力と精神の限界を向かえたことから、この時空管理局内抜き打ち耐久レースは幕を閉じた。

 

 

 

「いや、すまないなリュウト。この子達が迷惑を掛けたようで」

 

そう言ってこちらを申し訳なさそうに見ているのは、ギル・グレアム。時空管理局で提督を務めていた人物である。

 

一番出世していた時は執務官長という経歴をもつ、管理局歴戦の勇士である。

 

しかし今次の「闇の書事件」において管理局に対する調査妨害、ハッキング行為などの罪を犯し、グレアム自身が辞職を希望したのである。

 

そして今日、グレアムは管理局を去ることになる。

 

 

「いえ、大丈夫です…。まあなんとか、ですが・・・」

 

 

そう答えた青年、時空管理局提督リュウト・ミナセはかなり疲れた顔をしていた。いくつもの魔法を並行して使用しながら全力疾走で一時間、疲れないはずはない。

 

 

「だってぇ…。これでもう、すぐには会えなくなっちゃうんだもん……。少しくらい、いいじゃんかぁ…」

 

 

リーゼロッテは目を潤ませながらリュウトを見る。彼女らはグレアムの故郷、地球のイギリスに移り住む。そのため管理局とは、そこで働くリュウトとは疎遠になってしまうだろう。

 

 

「ロッテったら…、これ以上リュウトを困らせちゃだめでしょ?」

 

 

そう言いつつも、アリアの目にもまた涙が溜まっている。

 

彼女たちにとって、リュウトは鍛えるべき弟子であり、可愛い弟でもあった。そして、母となれぬ身ではあるが、それでも有り余る愛情を注いだ愛しい息子なのだ。

 

そんな二人の様子を見て取ったリュウトが内心苦笑しながらも、口を開く。

 

 

「なに、またその内会えるかもしれません。ね?」

 

 

薄く笑いながら、明るく言う彼の言葉を聞いて、二人は涙を浮かべつつも笑って頷いた。

 

そうだ。これが今生の別れではないのだ。いざとなれば多少無理をしたって会いにいってやる。もしも知らないうちに恋人が出来たりしたら、いびってやる。鬼姑になってやる。

 

そんな二人の心の内など知らないリュウトは、笑みを浮かべながら三人の様子を見ていた恩師に向かって手を差し出す。

 

 

「それではグレアム提督、いずれ、また」

 

 

彼はグレアムと握手をしながらそう告げた。グレアムも笑って「ああ」と答えている。しかしいきなり真剣な顔になり、リュウトの耳元で囁く。

 

 

「はやて君とクロノを……くれぐれも頼む」

 

 

その言葉に、管理局においてトップクラスの魔導師とされ、二種類の相反する二つ名を持つ青年は「はい」といつもと同じ笑顔で答えた。

 

その笑顔を見るグレアムには、その笑顔が真実なのか虚像なのか、最後の最後まで分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、私も仕事に戻りましょうか」

 

 

 グレアム達を見送ったリュウトは、気分を切り替えて次の仕事のことを考える。

 

 確かに別れは寂しいが、いま自分にはすべき事がある。それを忘れることは師たちに申し訳が立たない。

 

リュウトの職は主席執務官にして提督。その職務は周りから見ている以上に多忙を極める。

 

彼の下にいる提督や執務官はたしかに優秀だ。それでも、いや、優秀だからこそ仕事は溜まっていく。彼の仕事部屋である執務室はちょっと油断すれば書類で埋まるだろう。

 

その上、今回、彼にはある任務が下された。

 

ある保護観察中の少女の保護観察官である。

 

一応はリュウトの職務を鑑みて、正式な保護観察官が決まるまでの代理ということだが、そのまま代理という文字が無くなる可能性も否定できない。

 

その少女の名は、

 

 

「八神、はやて……ですか」

 

 

執務室に戻る道すがら、同じ出身世界の少女の名を口にする彼の両の手首には、二つの腕輪が輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜」

 

 

その車椅子の少女は、自分の家に帰ってくると必ずこの言葉を言う。この言葉は待っている家族がいるからこそ、意味を成す。

 

少女がそれを知ったのは、いや、思い出したのはごく最近の事だった。

 

 

「おかえりなさい。はやてちゃん」

 

 

少女を出迎えた女性の名前はシャマル、この八神家の住人である。

 

 

「うん、ただいま。なんも問題無かった?」

 

 

関西弁で話すこの少女の名は、八神はやて。

 

いまだ正式ではないが時空管理局の魔導師であり、先の「闇の書事件」に関わった人物の一人である。いや、一番の当事者かもしれない。

 

 

「はい。あ、そう言えばシグナムは管理局から連絡が来て、行っちゃいました」

 

 

「管理局から?」

 

 

車椅子を器用に操り、玄関を上がりながらはやては首を傾げた。なにか仕事でミスをしてしまっただろうか。

 

(でも、あたしはまだ実戦には出てないんやけどなぁ……)

 

事件の最終局面において彼女の使用したデバイスは「闇の書事件」で管理局が追っていたロストロギア<闇の書>であった。いや、そのときに使用したのは、かの本の正しい姿である<夜天の書>だったが。

 

しかし、今となっては夜天の書は消滅し、はやて自ら新しいデバイスの開発を行っているのが現状である。

 

無論、彼女だけで出来るはずは無い。何人もの人の助けを借りてなんとかやっているのが現状だ。そういう事情もあって、未だ実戦に耐えうるデバイスは未だに完成していなかった。

 

なので今は書類整理の手伝いや、彼女の守護騎士である<ヴォルケンリッター>のサポートが彼女の仕事だ。

 

 

「私達の保護観察官が決まったそうなんです。その方をお迎えに行きました」

 

 

台所に立つシャマルのその言葉を聞いてホッとした反面、不安もあった。

 

自分達は時空管理局に多大な被害をもたらしてしまった。

 

それが自分達の意思でなくても罪は消えるものではない。今のこの保護観察だってかなり軽い処分なのである。

 

リンディ提督やクロノ執務官、それになのはやフェイトのおかげで今の自分がいる。

 

 

(そういえば、本局の提督さんが弁護してくれたらしいけど…)

 

 

そういう人が観察官してくれれば気分も楽なのに、

 

 

「怖い人やったらどないしよ…」

 

 

と素直な意見を口にし、戦々恐々としながらも彼女は晩御飯の献立を考えていた。

 

 

 

 

 

 

「シグナム、入ります」

 

 

守護騎士ヴォルケンリッターの将、シグナムはそう言い、とある一室の扉の前に立つ。

 

すると、彼女に反応した自動ドアが空気の抜ける音をさせて開いた。

 

 

「任務が終わったばかりなのに呼び出して、ごめんなさいね。シグナムさん」

 

 

部屋の中に入ってきたシグナムに声を掛けたのはリンディ・ハラオウン。

 

次元航行艦<アースラ>の艦長にして管理局提督の階級を持つ女性である。

 

彼女は先の事件において、現場指揮官を務めていた。そして、事件に幕を下ろした人物でもある。

 

 

「いえ、問題ありません。お心遣い感謝します」

 

 

そう言うシグナムの目は、どうしてもリンディ提督のデスクの上に置かれた湯呑に行ってしまう。

 

そこに入っているのは日本茶だった。ただし固形の砂糖が数個、さらにミルクまで入れた特製だが。もはや日本茶とは言えないかもしれない。

 

 

「もう少し待ってね。もう一人来る予定だから」

 

 

そう言ってリンディはシグナムに「いかが?」とお茶を勧めたが、シグナムは「いえ、結構です」と思わず後退りしてしまった。しかも目元を引きつらせて。

 

 

『リュウト・ミナセ。入ります』

 

 

そうしてシグナムが入室して数分経ったころ、再びドアが開く。そこにはまだ十代後半だと思われる青年が立っていた。

 

服装は、管理局男性局員の制服を白でアレンジしたものの上に、黒いコートを羽織っている。制服の胸とコートの肩と胸には提督の位を示す階級証が光っていた。黒いコートの前は閉めず、裾は膝まであった。

 

少し長めの黒い髪は左右に分けられ、後は首の辺りで一本にまとめられている。

 

「ようこそ。ミナセ提督」

 

 

そのリンディの言葉にシグナムも驚いた。この若さで提督。そう易々となれるものではない。それだけでもこの青年が只者ではない事が分かった。

 

 

「遅参申し訳ありません。グレアム提督の見送りに行って、ええと、その…双子の悪魔に追いかけられてしまいまして…」

 

 

そう言いながらその青年は「あはは…」と後頭部をかきながら苦笑していた。

 

そんな彼を笑いに細めた目で見ていたリンディだが、その顔に真剣な表情を浮かべるとシグナムに向けて用件を切り出した。

 

「さてシグナムさん。彼が貴方達の保護観察官になったリュウト・ミナセ主席執務官。階級は私と同じ提督です」

 

そのサラッと言ったことにもやはりシグナムは驚きを隠せなかった。

 

主席執務官。それはこの時空管理局内に置いてかなり上位の役職だ。現場の総元締めと言っても過言ではない。

 

 ちなみに日本語の、特に漢字の名前は日本人以外には言いにくいらしく、少しイントネーションが異なっている。違和感を覚えるほどのことではなかったが。

 

 

「シグナムさん?」

 

 

リンディに声を掛けられて初めて、シグナムは自分が固まっていたことが分った。困惑を隠せないまま、彼女はリュウトの方を向いた。

 

 

「し、失礼しましたミナセ提督。私は主はやての守護騎士ヴォルケンリッターの将、剣の騎士シグナムです」

 

 

シグナムは彼に向き直り自己紹介する。彼の身長は自分とそう変わらない。いや、僅かに彼の方が高いように感じた。

 

 

「時空管理局主席執務官、リュウト・ミナセです。よろしくお願いします」

 

 

そう言って微笑んだ彼の黒い瞳にさらに暗い何かがあることに、シグナムは気付いた。

 

 

(なんだ…? この瞳…、何処かで見た覚えがある?)

 

 

しかし、それはあくまで推測の域を出ず、シグナムはそれ以上気にしないことにした。下手な態度をとるわけにはいかないし、なにより何故かそれ以上考えるのが怖かった。

 

 

「ではミナセ提督。はやてさんの事、よろしくお願いします」

 

 

リンディは席を立ち、頭を下げる。命令形ではないのはやはりリュウトの方が彼女よりも上位の存在なのかもしれない。

 

 

「ええ、了解しています。さてシグナムさん…」

 

 

そう言ってリュウトはシグナムに向き直る。

 

 

「あ、いえ、敬語は結構ですから…」

 

 

実はシグナム、あまり敬語で呼ばれるのは慣れていなかった。

 

今のところ敬語で話しかけてくるのは目の前にいるリンディ提督、そして魔導師の少女、高町なのはぐらいである。もう一人の嘱託魔導師の少女、フェイト・テスタロッサは敬語であっても『さん』は付けていない。

 

 

「分かりました。ですが、私はこの口調に慣れてしまってむしろ此方の方が気が楽ですので…」

 

 

「そう、ですか。分かりました」

 

 

「それではシグナムさん。改めてよろしくお願いしますね。そうそう、私には敬語でなくても良いですよ?」

 

 

それはリュウトの率直な意見だった。敬語で話されるのは立場上それなりに慣れているが、これからそれなりの期間付き合っていかなければならないのだ。ずっと敬語で話されては気が滅入ってしまう。

 

それならばいっそのこと、最初から敬語なしで話してもらった方が、気が楽だった。

 

無論、職務中はその限りではないが。

 

 

「そうですか? では失礼して…。これからよろしく頼む。ミナセ提督」

 

 

「はい。それでは八神家の方たちにもご挨拶したいので、ご同道願えますか?」

 

 

「無論だ。それではリンディ提督、失礼致します」

 

 

「それでは」

 

 

そう言ってリンディに挨拶をすると、二人は部屋を後にする。

 

二人を、正確に言うならば青年の背を見るリンディの胸には、いいようの無い何かが去来していた。

 

 

 

 

 

 

「はやてちゃん。これどうします?」

 

 

その日の夕方。八神家では晩御飯の支度が始まっていた。

 

八神家では全体的にははやてが作る料理の方が多いものの、ここのところはシャマルの料理の腕も上がってきたため、一品から二品はシャマルが任されている。ごく偶にえらい事になったりもするが。

 

 

「それは千切りにした方がええな。その方が火の通りが早いから…」

 

 

笑い合いながら料理をする二人。はやてにとって、それはとても嬉しく、尊い事だった。

 

八ヶ月前、彼女達ヴォルケンリッターが来てから、彼女はとてもよく笑うようになった。

 

かつて孤独の中にいた少女は、家族を得て幸福を知ったのだ。

 

 

「主はやて。ただいま戻りました」

 

 

キッチンで料理をしていたはやては、後ろからの聞きなれた声に振り返る。

 

そこにはコートを畳みながらこちらを見ているシグナムの姿があった。料理に夢中で玄関の扉が開く音に気が付かなかったようだ。

 

 

「ああ、おかえり。シグナム」

 

 

彼女のこの言葉は、不思議とシグナムの心を暖めてくれた。

 

八ヶ月前から変わったのははやてだけではない。彼女達ヴォルケンリッターもまた、人間らしさを得ることができたのだった。

 

はやてはそこで初めて気が付いた。シグナムの後ろからもう一人、この家に入っていた人物がいる事に。

 

 

「お邪魔します」

 

 

シグナムの後に続き家に入ってきたリュウトはこの家の主であるはやてに頭を下げた。

 

はやては訳も分からず「い、いらっしゃいませ」と頭を下げた。そこでシグナムが紹介に入る。

 

 

「主はやて。こちらの方は我々の保護観察官であるリュウト・ミナセ提督です」

 

 

そう紹介されたリュウトは「よろしくお願いします」と微笑む。

 

まったく曇りの無い笑顔。つい、ほっとしてしまうような笑顔だった。

 

 

「そ、そうなんですか?! よかった〜。怖い人やなくて…」

 

 

はやては考えていた事を口にしていた。それを聞いたリュウトは苦笑いを浮かべる。

 

まさか、自分がそこまで怖がられているとは思わなかった。

 

 

「初めまして。この子達のマスター、八神はやて言います」

 

 

そう自己紹介してから、はやても自分の心の内を口にしてしまっていた事に気付き、顔をうっすらと朱にそめていた。

 

 

 

挨拶を済ませるとリュウトは手に持っていた箱をはやてに手渡した。

 

先ほど、なのはの両親が営んでいる喫茶<翠屋>に顔を出した際に買って来たシュークリームである。時間が閉店ギリギリだったため、客はほとんど居なかった。翠屋でも人気のあるシュークリームが残っていたのは、ひとえに運が良かったといえるだろう。

 

それをはやては受け取り「ありがとうございます」と笑って答えた。

 

 

「あ、そうや。シャマルの事も紹介しないとな」

 

 

そう言ってキッチンの奥にいたシャマルを呼ぶと、はやてはシャマルの紹介を始めようとしたが、シャマルは「私が」と言ってリュウトの前に出てきた。

 

 

「お初にお目にかかります。私、ヴォルケンリッターが一、湖の騎士、シャマルと申します」

 

 

シャマルはいつもと同じ柔らかい笑顔で自己紹介をする。リュウトと同様、彼女の笑顔もとても落ち着くものだった。

 

その時である。八神家の二階から、どたどたと音が鳴り始めたのは。

 

 

「シューークリーーームーーーーー!!!」

 

 

そう雄たけびと上げて階段を下りて来たのは、八神家の末っ子と認識されている少女、ヴィータであった。今まで仕事の疲れを取るために眠っていたらしい。と言っても、もう夜になってしまっていたが。

 

 

「はやてっ! シュークリームの匂いがした! どこっ!?」

 

 

ヴィータはキョロキョロと辺りを見回しながらはやてに息急き込んで尋ねる。

 

それを見て思わずリュウトは「くっ」と吹いてしまった。やはりというか、ほかの面々も声を上げて笑っている。

 

 

「なんだよ! みんなして笑うこたねえだろ!」

 

 

ヴィータは顔を赤くしながら「シュークリーム好きなんだよ…」と呟く。

 

そして、それを見ていたリュウトは僅かに笑いながらもヴィータに近づいた。

 

そこでようやく本来は家にいないはずの存在に気付いたヴィータは「誰だ!」と警戒心を丸出しにしたが、そこでシグナムがリュウトを紹介してくれた。彼の買ってきたシュークリームについてもまた同様である。

 

 

「あたしはヴォルケンリッター、鉄槌の騎士ヴィータだ。その・・・シュークリームありがとう・・・」

 

 

ヴィータが顔を赤らめながらもしっかりと礼を言う。

 

彼女も最初の頃、目覚めた頃と比べてとても素直になった。以前の彼女だったら、シュークリームのお礼なんて言わなかったかもしれない。おそらく自分たちの聖域に侵入してきたとみて、敵意をあらわにしていたことだろう。

 

それが分かっているのか、はやても「よくお礼言えたな〜」と彼女の頭を撫でている。それがリュウトにはとても幸せそうに見えた。

 

 

「あともう一人、盾の守護獣ザフィーラがおるんやけど…、まだ仕事から帰ってきてないんや。明日には帰ってくると思うんやけど…」

 

 

それを聞いてリュウトは「いえ、彼にはもう会いました」と告げる。

 

じつは先ほどシグナムと管理局を出る際に、ザフィーラと偶然会ったのだ。そしてお互いに挨拶したのである。そのときにザフィーラは「後でまた…」と言っていたのだ。

 

 

「すみませんが、こちらからももう一人、紹介させてもらっていいでしょうか?」

 

 

その時まで気付かなかったわけではないが、リュウトの右肩に一匹の鳥が乗っていた。そんなに大きくはない。インコと同じくらいだろう。

 

この鳥、リュウトが管理局の執務室に寄って連れてきたものだった。

 

そこに居る皆がなにも言わなかったのは、単純にどう聞いていいか分からなかったのである。そんなことは気にも留めずリュウトは皆の承諾を得ると、その鳥に向かって「紹介を」と言った。

 

その次の瞬間。そのインコは彼の肩を離れた。いきなりあたりが光ったと思うと、その鳥は女性に姿を変えていた。

 

 

「え〜と、彼女は私の使い魔で…」

 

 

「シグレと申します。以後、お見知りおきを」

 

 

シグレと名乗った使い魔は、そう言ってお辞儀をした。背はシグナムより少し小さいくらいだろうか。濃紺の髪を腰の辺りまで伸ばしている。その耳はまるで鳥の翼のような形をしていた。

 

 

「ほう、お前は使い魔をパートナーにしているのか」

 

 

シグナムは少し不思議そうにシグレを見ている。どこか自分に似ているように感じたからだ。その似た部分は後々分かることなる。

 

 

「あの〜、はやてちゃん?」

 

 

全ての紹介が終わった矢先、シャマルがキッチンの鍋を見ながら言った。

 

 

「あ、そや! ご飯作らなぁ!」

 

 

その日の八神家の晩御飯は野菜炒め等の野菜中心の物となった。はやての計らいでリュウトも夕食の席に加えてもらい、彼もまた「おいしいですね」と舌鼓を打ちながらはやてとシャマルの作った料理を堪能した。

 

食後のデザートとしてリュウトの買ってきたシュークリームを食べたが、ヴィータが物足りなかったようなので、リュウトは彼女に自分の分を差し出す事になった。

 

もし彼が譲らなかったら、いまだ帰宅していないザフィーラの分のシュークリームが消えていたかもしれない。

 

 

「ただいま戻りました」

 

 

そのデザートを食べている最中にザフィーラは予定より早く帰宅した。

 

ザフィーラはリュウトが残っている事にそれほど疑問は抱かなかったようだ。自分の主であるはやてなら、彼に夕食をご馳走しているだろうと思っていたのかもしれない。

 

ザフィーラは最初の挨拶で、リュウトがある程度信頼できる人間だと認識していた。

 

玄関でのザフィーラの声が聞こえたのか、奥からはやてが「おかえりぃ」と言っている。現在はやては皿洗いの真っ最中で手が離せないらしく、キッチンから声をかけたようだった。ちなみに食器を運んだのはリュウトである。

 

 

「シュークリーム。早く食べないと無くなりますよ?」

 

 

リュウトは苦笑いながら、シュークリームを指差した。先ほどからヴィータがシュークリームに熱い眼差しを送っているのだ。その様子を見たザフィーラは苦笑いを浮かべながらも「手を洗ってくる」と言い、洗面所に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

夕食からしばらく時間が経った後、リュウトは八神家の庭で空を見ていた。

 

彼は夕食後の時間を使い保護観察に関する注意事項、これからの管理局の方針をはやて達に説明した。

 

はやては自分たちに掛かる制限が思ったよりも少ない事に安堵し、守護騎士たちは細かい点についていくつかの質問をリュウトに浴びせた。

 

その後、はやてが親睦を深めようということでカードゲームを持ち出してきたのだ。

 

シンプルにババ抜きをしていたのだが、その成績はやはりというかポーカーフェイスが板についている面子が勝利を重ね、表情が分かりやすい面子が敗北を重ねるという結果になった。

 

しかし、今回の勝負ははやてやヴィータといったメンバーが引きの強さを発揮し、真っ先に上がった為、リュウトが上がった時にはシグナムにザフィーラ、そしてシグレというある意味恐ろしい対決となってしまった。

 

現在、三人の鬼気迫る攻防が長期化してしまい、他人の家ということで、することが無くなったリュウトは夜風に当たって来ると言って、庭へと出てきたのだ。

 

この季節、気温こそ低いが夜空の美しさは格別だった。

 

リュウトは幾つもの星が織りなす天体ショーに目を向け、現在家の中で行われている己のプライドを掛けた戦いを忘れる。

 

 

(…まったく…。やはりシグナムさんとシグレが残ってしまったのは不味かった…)

 

 

 お互い武人として戦いに赴き、幾多の戦場を駆けてきた二人である。例えゲームであろうとも一切の妥協はしないだろう。

 

それはつまり、勝負の更なる長期化が懸念されるという事だった。

 

リュウトは泊りがけにならない事を、空の星に願いそうになっていた。

 

 

 

 

「何か御用ですか?」

 

 

しばらく星を見ていると、リュウトは自分の背後にかすかな気配を感じた。

 

並みの戦士では気付かぬほどの気配、しかし、リュウトにしてみれば然したる疑問も無く誰であるか判断できる。

 

 

「シャマルさん」

 

 

 リュウトは空を眺めながら気配に呼びかける。

 

 背後の気配は何も答えない。それでも一瞬だけ気配が動いたのは、自分があっさりと正体を見破られた故だろうか。

 

 そんな後ろの気配を気にすることなく、リュウトは空に映る星を探しては、記憶にある星座と照らし合わせている。

 

 

「今日は星が良く見えますね…」

 

 

「……そうですね…」

 

 

 今度は返事があった。

 

 

「やはりこの季節は星が良く見える…。こんなにゆっくりと星を見たのは久しぶりです」

 

 

「………」

 

 

「何か御用があったのでは?」

 

 

 家の陰から姿を現したシャマルは、最初に挨拶したときとは違って真剣な、或いは敵を見るような視線でリュウトを見ていた。

 

 

「それとも…、貴女も星を見に来たんですか?」

 

 

 それはリュウトからの一つの申し出だった。このまま是と答えるならばここでの行動は一切忘れ、何も無かった事にする。リュウトを盗み見ていた事も、以前のクセが抜けなかったとでも言えばいい。そして二人で雑談でも交わせば、なんの問題も起きることは無い。

 

 否と答えれば、自分とシャマルの間にははやてに明かせない非友好的な関係が築かれるかもしれない。それは観察官と被観察者としてはあまり良いことにはなり得ない。それは彼女の主であるはやてにもいくらか悪い影響があるだろう。

 

もっとも、それはリュウトの捉え方次第ともいえるが。

 

 

「私は……」

 

 

「………」

 

 

 リュウトは変わらずシャマルの方を見ようとはしない、それが拒絶でも肯定でもない事はシャマルにも分かった。

 

 

「…私は、貴方に聞きたい事があります」

 

 

 否。

 

 シャマルははやてのこれからと、自身の好奇心、或いは警戒心を天秤にかけ、後者を取った。

 

 シグナムやザフィーラならば、あるいは前者を取ったかもしれないが、シャマルには目の前にいるこの青年が何者なのか、そちらの方が重要に思えたからだ。

 

 

「貴方は…、誰ですか?」

 

 

 そんなシャマルの問いにも、リュウトは何の動揺も見せなかった。さながら、その質問が来る事を分かっていたかのように。

 

 

「貴方は誰ですか?」

 

 

「誰とは…?」

 

 

 相変わらず、シャマルに背を向けたまま言葉を返すリュウト。シャマルはそんなリュウトの態度に僅かに苛立ちを覚える。

 

 

「そのままの意味です」

 

シャマルは内心の苛立ちを抑え、冷静に言葉を重ねる。

 

 

「管理局の人間、それは分かっています。シグナムはリンディ提督から貴方を紹介されたといっていた。それだけでも貴方を信用するには十分でしょう」

 

 

「………」

 

 

 やはり、リュウトの様子は変わらない。

 

 

「しかし…。私の中の何かが、貴方を知ってると言っているんです」

 

 

「ほう」

 

 

 リュウトは視線を落とす。しかしそれ以上は何もせず、星から、街の明かりへと目を移しただけだった。

 

 

「私は管理局であなた方を見た事があります。その時では?」

 

 

「違います」

 

 

 シャマルは否定の言葉を告げる。自分も最初はそう考えた、管理局、或いはアースラで見た事があっただけかもしれない。本人じゃなくても写真か何かで見ただけかもしれない。そう考えた。

 

 しかし、

 

 

「何故と言われれば答える事は出来ません。ですが、違う事は確かです」

 

 

 自分の中の何か。

 

 プログラムであるが故、かつて自分が夜天の王の僕であった事を忘れた事があった。闇の書が夜天の書であることに気が付かなかった。

 

 そして、今もまたこの青年が何者か、思い出すことが出来ない。

 

 

「私と貴方は、以前、ずっと前に会った事があるんじゃないですか?」

 

 

「………」

 

 

 沈黙。

 

 シャマルにはそれが否定にも肯定にも思え、恐怖を感じた。

 

 

(…恐怖? 何故?)

 

 

 シャマルはその恐怖が表れたことにこそ、恐ろしさを感じた。

 

 いま自分が一番恐れている事は、夜天の王、八神はやてが害される事。

 

 しかし、目の前の青年がそれをするとは考えにくい、彼はリンディからの紹介を受けた人物だ。彼女がそんな危険のある人物をはやての近くに置く事は考えられない。

 

 ならば、なんだ?

 

 仲間たる守護騎士たちを失う事?

 

 否。

 

 彼らが失われる事は(はやて)の許しが無い限り在りえない。それこそが(はやて)の、(はやて)たる所以。

 

 この平穏が乱される事?

 

 否。

 

 我らがいる限り、この平穏は乱させはしない。

 

 では、新たなる友人たる魔導師たちが失われる事?

 

 否。

 

 彼らが失われる事を主は望まない。ならば我ら守護騎士は彼らが失われる事を許しはしない。

 

 

(では何? 私が、守護騎士が恐れること…。夜天の王、八神はやての騎士たる我らが恐れる事…?)

 

 

 それは、なんだ?

 

 

(夜天の王、夜天の書、……闇の…)

 

 

「ありません」

 

 

「!!」

 

 

 シャマルの思索を切り裂くように、リュウトの声が響いた。

 

 それと同時に、シャマルの脳裏に浮かんだ言葉が消えていく。

 

 

「直に会って話すのは、正真正銘今回が初めてです」

 

 

 背を向けたまま、リュウトは滔々と言葉を続ける。

 

 

「ですから、今までに会ったという事は在り得ません」

 

 

「…そうですか。すみません、失礼な事聞いて」

 

 

「かまいません」

 

 

 リュウトは今回のことを問題にする気はないようだった。最悪、自分との間が険悪になるかもしれないと思っていたシャマルは内心ほっとした。

 

 しかし、リュウトはシャマルの予想を超えた言葉を返してきた。

 

 

「ですが、シャマルさん。貴女に聞きたい事があります」

 

 

「なんでしょうか?」

 

 

 自分への質問? シャマルはリュウトの真意を図りかねていた。

 

 

「簡単な事です。なぜ、蒐集行為を行ったのか。それを確認しておきたかったのです」

 

 

「?」

 

 

 シャマルにはリュウトの質問の意味がわからなかった。なぜ今になってその事を確認するのか。これは管理局の意思なのだろうか。なによりも、ヴォルケンリッターの将であるシグナムではなく、自分に問いかけるのか。

 

 

「これは、管理局とは何の関係もありません。その辺りはご心配なく」

 

 

「……。何故私に?」

 

 

「この質問をするには一番の適任だと思ったからです。ヴォルケンリッターの参謀殿」

 

 

 つまり、守護騎士としてではなく、客観的な面での質問という事だろうか。

 

 

「質問に答えていただけますか?」

 

 

「…はい」

 

 

 シャマルは自身の記憶を確認しながら、リュウトの質問に対する回答を考える。

 

 しかし、この質問の答えなど、唯一つしかなかった。

 

 

「…はやてちゃんの為です。はやてちゃんの命を救うためにはそれしかありませんでした」

 

 

 それは、リュウトも予想した答えだった。しかし、正解とは言い切れない答えでもあった。

 

 

「…本当に、はやてさんの為ですか?」

 

 

「どういう意味ですか?」

 

 

シャマルにはその言葉の意味が分からなかった。そして、同時に怒りが込み上げてくる。

 

 

「私たちがはやてちゃんの為以外の理由で、蒐集をすると思っていらっしゃるのですか?」

 

 

 だとすれば、

 

 

「だとすれば、それは私たちに対する侮辱です」

 

 

 シャマルは静かに告げる。しかし、その言葉と体には言い知れない怒りが篭っている。

 

 それでもリュウトは変わらずに、立ち続けていた。

 

 

「無論、その理由もあるでしょう。そして、あなた方はそれ以外に理由は考えられないと思っている」

 

 

 シャマルは静かに頷く。

 

 

「それは、本当ですか?」

 

 

「…!! 貴方は! 私に何を聞きたいのですか?!」

 

 

 シャマルはついに声を荒げてしまった。この青年はなにを言っているのだろう。自分たちがそれ以外の理由であのような事をするはずが無い。そう、するはずが無いのだ。

 

 

「あなた方は、自分たちの為にあの行為をしたのでないですか?」

 

 

「!!」

 

 

 衝撃。

 

 そう、衝撃だった。シャマルは間違いなくその言葉に衝撃を受けた。

 

 

「な、何を…?」

 

 

「ここまで言っても分かりませんか? では、こう聞きましょう」

 

 

 シャマルは耳を塞ぎたい衝動に駆られた。

 

しかし、それはすでに遅かった。青年の言葉が彼女の耳に入ってくる。心の中に入ってくる。

 

 

「あなた方は、自分たちの居場所たる(・・・・・)八神はやてを守りたかったのではないですか?」

 

 

「違う!!」

 

 

 叫んだ。

 

 叫ばずには居られなかった。

 

 認めるわけにはいかない。でも、叫ばずには居られなかった。

 

 それがたとえ、彼の言葉を肯定する事になっても。

 

 

「違う、違う違う違う違う違う!」

 

 

「………」

 

 

「そんなことない! 私達ははやてちゃんの為に…」

 

 

「本当かどうか、貴女が一番良く知ってるんじゃないですか?」

 

 

「わ、私達は…」

 

 

 リュウトはシャマルの言葉を無視して言葉を続けた。

 

 

「だからこそ、なのはさんたちに見つかったとき、彼らの口を封じる事にしたんじゃないですか?」

 

 

「い、いや…」

 

 

 シャマルは頭を振り、怯えたように後退る。その先の言葉を聞いてはいけない。心がそう思っても、体は思い通りに動かない。

 

 いっそ、走って逃げてしまいたい。そう思っても足は思うように動かない。ただ、震えが大きくなるだけ。

 

 そんなシャマルの様子を知らぬかのように、リュウトは最後の言葉を告げた。

 

 

「あなた方は、自らの居場所の為に、主の為と称して蒐集行為を行い。自らの心の拠り所を守るために、主を守るためと言って彼女たちを消そうとしたのではないですか?」

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 シャマルは髪を振り乱しながら、顔を抑え蹲ってしまった。

 

 もはや、立つ事も出来ない。立とうとしても、心の中の何かが折れてしまったかのように、足がふらつく。

 

 彼女は自分たちの行動が本当に主の為のものだったのか、すでに分からなくなってしまっていた。

 

 騎士としての自分は、リュウトの言葉など戯言だと、気にする必要など無いと言っている。

 

 しかし、別の、八神家で形作られたシャマルという自分は、リュウトの言葉は真実だ。自分たちは己の為にあの事件を起こしたのだと言っている。

 

 

「わたしは、私はぁぁ…」

 

 

 分からない。

 

 どちらが本当なのか。

 

 どちらが間違っているのか。

 

 しかし、そんなシャマルに手を差し出して、あっさりと答える影があった。

 

 

「まあ、そんな事はどうでもいいですけどね」

 

 

「え…?」

 

 

 シャマルは目の前にいる青年に顔を向けた。そこには僅かな笑みを浮かべたリュウトの顔があった。

 

 

「ですから、どうでもいいのです」

 

 

 シャマルには分からなかった。この青年は一体何を言っているのか。

 

 

「あなた方が自分たちの為にあの行為を行ったとしても、別に構わないでしょう」

 

 

「なぜ…?」

 

 

「当然です。人間(・・)はそういう生き物ですから」

 

 

「私達は、人ではありません…」

 

 

「いいえ、人でしょう。だからこそ、貴女はここでこうしているのですから」

 

 

「私達は…人?」

 

 

「少なくとも、はやてさんはそう思っているんじゃないですか?」

 

 

「!!」

 

 

 そうだ。だからこそ、だからこそ、我らは彼女の騎士になったのだ。

 

 我らを人として見てくれたからこそ、我らはここに在る。

 

 

「ですから、とりあえず、立ちませんか?」

 

 

 シャマルは自分の前で弱りきったように笑みを浮かべる青年をみて、ようやく自分が地面に座り込んでいることを思い出した。

 

 

「…ありがとうございます」

 

 

 彼女は差し出された手を掴み、引き上げられる。

 

 そして、その顔に微笑を浮かべた。

 

 この青年を信じてみよう。だって、さっき握った手は暖かかったのだから。

 

 

「そろそろ、中に入りませんか?」

 

 

 シャマルは青年に問いかける。このまま二人で星を見るのもいいが、さすがに冷えてしまう。そして青年も同じ事を考えたのだろうか、その提案を受け入れる。

 

 

「そうですね。そうしましょうか」

 

 

「ええ、暖かいお茶を淹れますね」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 そうして二人は笑みを浮かべながら、並んで家の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

最初にシャマルが感じた疑問。

 

青年の正体を彼らが知るまでは、今しばらくの時が必要だった。

 

そしてそれは、最悪とも呼べる出来事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二話につづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 え〜、この小説を読んでくれた皆様、こんにちはこんばんは始めまして。作者だと思われる物体X、悠乃丞です。(読みにくいでしょうか? ユウノジョウです)

 

この作品を読んでいただき、真にありがとうございます。

 

 さて、この物語はアニメ<魔法少女リリカルなのはA’s>のその後と言う設定になっております。

 

 未熟な私ではございますが、この作品を読んでくれた皆様に感謝しつつ、物語を書いていこうと思います。感想や誤字報告お待ちしております。

 

 ではまた次回お会いいたしましょう。それでは皆様、御機嫌よう。








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