少女が少女としての意識を持ったとき、彼女には血の繋がった家族は居なかった。

 

だが、血の繋がらない家族は居た。

 

ひと組の夫婦が細々と経営する孤児院で、彼女は彼女としての意識を持った。

 

十三人の子供と、二人の大人。それが彼女の家族。大切な家族。

 

 

 

 

 

 

少女は一つ歳を取る度に家族が好きになっていった。

 

末っ子の彼女には沢山の兄と姉がいた。彼らと共に成長し、彼らと共に大人になっていった。

 

孤児院での生活は豊かであるとはとても言えない生活だったが、両親兄姉と共に畑を耕して日々を過ごすのは楽しかった。

 

兄たちと共に野を駆け回り、姉たちと共に勉強をし、母と共に料理を作り、父とうたた寝をした。

 

楽しかった。日々が、続く時間が楽しかった。

 

 

 

そんな日々を過ごす内に、彼女には特別な好きな人が出来た。

 

 

 

それは魔法使いだった二番目の兄。

 

兄弟の中でうまく魔法を使えたのは次兄と長姉の二人だった。

 

その二人はいつも彼女たちに魔法を見せてくれた。

 

 姉が宙に描く光の絵。兄が空に作り出す小さな虹。

 

 他の兄姉たちも少しだけ魔法が使えたが、その二人は他の兄姉よりも魔法を使うのが上手かったのだ。

 

 少女が好きになった次兄は、長姉よりも物静かな魔法使いだった。

 

 次兄は庭の片隅で本を読んでいるような人だったから、他の兄姉よりも少女と遊ぶ時間は少なかった。

 

 だけど、彼女の九歳の誕生日のとき、プレゼントに夜空一面の流れ星を見せてくれた。

 

その時、少女は次兄が好きになった。

 

たくさんの流れ星が見たいと姉たちに話していたのを聞いていたのだろう。

 

静かで優しかった兄は、その一言だけで少女に流れ星を見せてくれた。

 

結界内の空だけど――微苦笑を浮かべながら彼女の頭を撫でてくれた次兄に、彼女は幼い恋心を抱いたのだ。

 

その後、こっそりと母にその事を話すと、母は『見る目がある』と綺麗な笑みを浮かべて次兄と同じように頭を撫でた。

 

 

 

 

それからしばらく経って、少女は少し大きくなった。

 

他の兄姉には、その時すでに次兄に対する少女の想いは知られていたが、次兄だけは気付かないようだった。ひょっとしたら、気付いていても気付かない振りをしていただけかもしれない。

 

でも、少女はそれでも良かった。

 

自分はまだ小さいからそれでいいと思っていた。

 

大きくなってからでも遅くない――そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

そんなある日、何人かの大人が少女たちの家に現れた。

 

 

 

それが、“――”の運命を変える始まり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのは―――暗き瞳に映る世界―――

 

 

 

 

 

第二章 

 

 

 

第九話

 

〈終演〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周囲の光景が、とてもゆっくりと変化しているように見える。それは時間の流れを肌で感じているのか、それともこの世の流れをその身に感じ取っているのか、それは彼には分からなかった。

 

 彼の耳には先ほどから声が聞こえた。自分の名を呼ぶ声、まだ幼い印象を残す少女たちの声。少年の声。男性の声。女性の声。

 

 よく知っているはずなのに、知らない声のように感じているのは、彼が意識を正常に保っていない可能性を示していた。

 

 

(私は……)

 

 

 自分の左腹部を貫き、右肩、右腕、左大腿部に突き刺さり、その手に持ち盾としたデバイスをも損傷させたそれは、目の前に聳える巨人から放たれたもの。白衣の少女を貫かんと放たれた、命を奪う力。

 

 それをこの青年――リュウト・ミナセは自らを壁とすることでその攻撃を止めた。とっさに展開した魔法防楯を破られたリュウトの最後の抵抗。

 

 直前まで防御魔法を連続展開していた為に、従来以下の能力しか持たなかった楯は、その槍衾を受け止める事も出来ずに砕け散った。いや、デバイスがあえて砕かせたことにより、その槍の何割かは目標から逸れる結果となった。だが、すべてを防ぎきる事は出来なかった。

 

 しかし、槍は目的を達したとばかりに青年を貫いた段階で停止している。それは、なのはのスターライトブレイカーがマンティコアの一部を抉り取ったことも一因だろう。発射の瞬間になのはの魔法制御に乱れが生じた事で、スターライトブレイカーは魔力集束率が下がりその照準も僅かにずれた。その為、なのはにとって最良の精密砲撃になったはずの攻撃は、マンティコアの左肩部を穿ち抜くに留まったのだ。

 

 リュウトの耳には聞こえていなかったが、スターライトブレイカーがマンティコアに与えた衝撃は凄まじく、悲鳴ともいえる咆哮を天へと放っているのを多くの局員達が聞いていた。

 

 

(間に合った……か…)

 

 

 そう心に言葉を浮かべたリュウトは、自分の額から何かが流れ落ちるのを感じ取る。だが、彼にはそれが何であるかなど、既にどうでもいい事だった。

 

 ほっとしていたのかと問われれば、是と答えることが出来る。戦いの場に在って、自らの命が流れ出しているさなかでも、彼は安堵していた。自らの流す血など、他人の流す血に比べれば然したる問題ではない。少なくとも彼はそう思っていた。

 

 彼の中にようやく明確な意識を回復してくると、次の瞬間には全身から様々な痛みが脳へと送られてきた。

 

 その痛みに自分が生きている証を見つけながら、リュウトはすぐにその痛みを遮断する。痛みそのものには慣れていたが、このままでは行動に支障をきたすという判断からだった。

 

 自分の口から漏れる赤い液体を吐き出しながら、青年はただ敵を見据える。

 

 遥か遠くに見える雪山のように白かったはずのリュウトのバリアジャケットは、彼の血により赤と白の斑になっている。

 

アルフとフェイトが悲鳴のような声を上げ、リュウトの名を呼んでいるが、それは青年に届かない。

 

ただ目の前の存在に敵意を向け、意思を貫く。今の青年にはそれ以外に意識を向ける余裕が無かった。

 

 

(――ルシュフェル、ラファエル)

 

 

『はい。我が主』

 

 

 青年の、声を伴わない呼びかけに、彼の両手に握られた剣が答える。だが、その声はいつもの機械的な合成音声ではない。主たる青年の脳裏に響いたその声は、暖かさのある人間のような声だった。ある意味では、これこそが彼女たちの本当の声と言えるかもしれない。

 

 彼女たちの身にも幾つもの損傷が見えるが、剣たちはその事を何も言わない。主に報告する必要はないと判断しているのか、或いは、報告したところで主の妨げになるだけと判断しているのか。

 

 だが、リュウトはその声に僅かな安堵を感じると、自らの臣に問い掛ける。それは念話ではない。彼と剣たちを繋ぐもう一つの精神的な接続を介してのものだった。

 

 

(現状での戦闘可能時間は?)

 

 

 青年はまだ闘志を絶やしてはいない。視線の先でその身を震わせている敵手をどうやって無力化するか、その事ばかりを考える。

 

 幾つかの懸念事項はあるが、彼自身の命はその中でそれほど優先順位が高くない。むしろ、先ほどの攻撃による被害の方が気になっていた。

 

 結界そのものの維持が限界となっている可能性もある。

 

 

『現在の状態での戦闘可能時間は129秒。それ以上の戦闘行動は不可能と判断』

 

 

『また、現時点での戦闘能力は通常の約三割まで低下、戦闘の継続は戦略上、望ましくありません。更に言わせていただければ、戦闘を継続する場合、現在使用中の回復魔法の使用効率は著しく低下します』

 

 

 リュウトの質問にラファエルが答え、さらに詳しい状態をルシュフェルが伝える。その内容はどう考えても良好なものとは思えなかった。

 

今、彼が意識を保って生きていられるのは、攻撃をその身に受けた瞬間から今に至るまで回復魔法を使用し続けているからだ。これは彼のデバイスたちが自らの意思で発動させたものだった。彼女たちの判断が無ければ今頃リュウトの意識は無くなっている事だろう。それは戦場において凄まじい危険をはらんでいる。

 

 

(129秒…ですか。思ったよりも短いですね)

 

 

 だが、自らの剣たちから告げられる情報を聞いたリュウトの瞳に迷いの色はなかった。ただ漆黒の世界が、その瞳を支配している。

 

彼は左手に握っていたラファエルを振るい、自らを貫いていた触手を無言で斬り飛ばした。斬り裂かれ、母体から離れた触手はすぐに枯死を始め、数秒と経たずに塵となって空に消えていく。

 

リュウトはそれを横目で見ながら地上へとゆっくり降りていった。荒涼たる大地に降り立つと同時に彼の体は大きく揺らぐ。片膝をつき、右手のルシュフェルを杖代わりにしてなんとかその身を支える。

 

彼自身、これほどまでにダメージが大きいとは思っていなかった。

 

だが、すでに賽は投げられているのだ。自身の身体が戦闘にどれ程耐えられるかは気になるが、その後のことは敢えて思考の外に締め出す。

 

 

(…ではアレを使用した場合、どうなりますか? もちろん、制限(リミッター)はすべて解除します)

 

 

 リミッターの全解除。それはラファエルとルシュフェル、そしてその主にとって大きな意味を持つ。

 

 ルシュフェルの返答が一瞬遅れたのは、至極当然の事だった。

 

 

『――戦闘可能時間は244秒まで延長が可能です。ですが状態が不安定のため、幾つかの機能を制限しなければなりません。攻撃に専念する場合、移動と防御は不可能だと思われますが…』

 

 

(全力砲撃はどうですか?)

 

 

『可能です。しかし魔力収集中の行動はやはり難しいです。我らは完全な砲台となるという可能性が最も高いでしょう。また、収束面で問題が起きる可能性も否定できません』

 

 

 ルシュフェルとラファエルの答えはリュウトの想定内のものだった。いや、その答えを聞いてリュウトは内心笑みをこぼした。この返答は、自分の予測していたものよりも良いものだったからだ。

 

 

――己の命の価値は120秒。だが、すべてを賭けるに相応しい120秒だ。

 

 

 現状からの無制限戦闘行動。それは自身の命すらも度外視した最後の賭けになる。それに勝てばマンティコアは倒せるかもしれない。失敗すれば、滅びる可能性が大きくなる。

 

 どちらにしろ、彼に出来うる範囲では、最善の策だった。

 

 

『総員、聞こえるか?』

 

 

 リュウトは暫定的に作戦を組み上げると、部隊の全員に念話を送る。

 

今から行う、自身最後の攻撃のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大人たちは少女を引き取りたいと言ってきた。

 

彼らは国家に属する人間で、彼女はその国家事業に選ばれたのだと。

 

それは確かに本当だったのだろう。だが、彼女の両親はそれを拒んだ。

 

彼らはそれを予期した上でここに来たのだろう。この孤児院にいるすべての人間の事前調査を済ませていたのは間違いない。

 

彼らはこの孤児院の経営が悪化しているのを知っていた。

 

成長する子供たちにしっかりとした教育と食事を与えるために、両親は苦労していた。

 

両親の仕事の収入と、近所の店を手伝って得る子供たちの少ない収入、それと僅かな寄付が孤児院を成り立たせていた。

 

それが限界に近付いてきたのだ。

 

十五人もの人間が満足に食べていくには、彼らの話を受けるのが最善の策だった。

 

上の何人かの兄姉はもうすぐ学校を卒業して仕事に就ける。そうすれば、孤児院の経営も楽になるだろう。だが、それまで孤児院を維持するなど、現状では無理なことだった。

 

彼らは兄姉の仕事までも紹介出来ると告げ、両親に翻意を促した。

 

しかし、両親はそれでも答えを変える事は無かった。

 

彼らは両親が頷かないのを見ると、一度は去っていった。

 

 

 

 

両親は兄弟たちを集めて今回のことを話した。

 

兄姉たちは両親の考えに賛同し、末の妹に心配するなと言って笑った。

 

だが、末の妹だけは彼らの提案を受け入れるつもりだった。

 

自分が彼らと共に行けば、家族たちは幸せな未来を得られる。末っ子でいつも可愛がられていた自分が、家族の為に何かが出来る――彼女はそう考えた。

 

それに、彼らは言っていた。

 

魔法使い、と。

 

究極の魔法使い。彼らはそう言っていた。

 

次兄に近付くためにも、少女は魔法使いになりたかった。

 

そう話す少女に、次兄は何も言わなかった。

 

彼は自分の心を変えられないと思ったのだろう。

 

彼だけは、兄弟の中で一番頑固なのは末の妹だと言っていたのだから。

 

彼は妹に一言だけ聞いた。

 

 

――それは、君の望み?

 

 

 少女は確かに頷いた。

 

 それを見た両親は、少女を止める事を諦めた。巣立ちが早まってしまったのだと思ったのだろう。それに、両親には子供が真に願う事を応援したいという気持ちもあった。

 

 国家事業であるということは確かだ。ならば、少女は安全なのだろう。両親はそう考えていた。その気になればいつでも会いにいける――そう思った。

 

 その数日後、彼らが少女を迎えに現れる。

 

 旅立つ前に孤児院を見上げる少女の目には、魔法使いになるという夢が輝いていた。

 

 次兄に近付き、自分の気持ちを伝えるためにも、立派な魔法使いになる。少女はそう決意したのだ。

 

 見送りに出た次兄に、少女は自分が帰ってくるまで待っていて欲しいと頼んだ。立派な魔法使いになるからと。

 

 次兄はただ一言。

 

 

――待ってる……

 

 

 それだけを言って笑った。

 

 その言葉を胸に、少女は育った家を後にする。

 

 

 

 

 

 少女が最愛の家族と交わした最後の言葉は、未来への約束だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リュウトの声なき声に、結界内にいる戦闘可能な魔導師達が反応する。リュウトからそれほど離れていない場所で負傷したなのはと、彼女を抱えていたフェイトにとってはある意味待ち望んだ声だった。

 

 だが、彼の声が聞こえるという事に違和感を覚えた者たちも居た。

 

 

『リュウトさん!! 大丈夫ですか!?』

 

 

 目を涙で濡らしながらの言葉は、地面に片膝をついている青年が彼女に僅かな笑顔を見せたことで歓喜の涙に変わった。フェイトも自分の涙を拭い、なのはに笑みを向ける。なのははその笑顔に頷きながら、青年の念話に耳を傾けた。

 

 

『これから私はマンティコア無力化の為の準備に入る。準備時間は244秒、約4分だ。その間、私は無防備になる』

 

 

 その言葉には幾つもの疑問点があった。その準備とは何なのか。本当にマンティコアを倒すことが出来るのか。そして中にいる人間を救うことが出来るのか。

 

 

『リュウトさん。私はどうすればいいんですか!?』

 

 

 だが、なのはにとってその矛盾点はさしたる問題ではなかった。

 

彼女の目の前では、今もリュウトの身から血が流れ出している。彼女たちに見せた顔には確かに笑みがあったが、その笑顔の裏では感覚遮断で抑えきれない痛みと苦しさに耐えているはずだった。そして、この場にいるほぼ全員がそれを理解している。

 

この場に居るのは精鋭と呼ばれる局員たちだ。自分たちの上官がどれほど重大な傷を負ったのかよく分かっている。

 

そして、彼らに青年提督の声が聞こえるという事は、結界もまた限界に近付いているということを示している。

 

リュウトは幕僚たちと念話で作戦について意見を交わすと、すぐに作戦の決行を決断した。もはや、躊躇っている時間も惜しい。

 

本来ならばこのような分の悪い賭けは作戦として認めたくはない。だからこそなのはの精密砲撃を作戦として採用した。だが、信頼性の面で彼の砲撃魔法よりも遥かに優れているスターライトブレイカーexはマンティコアに大きなダメージを与えはしたものの、その損傷は現在も修復が進んでいる。つまり、マンティコアの機能に影響を与えるほどのダメージにはならなかったということだ。

 

 

『なのは君は後方へ。今の君はスターライトブレイカーを撃った影響で、ほぼすべての魔法は使えないはずだ。他の者は敵性魔法生物の殲滅を行いつつマンティコアに攻撃を。アルフ、シャマル、ザフィーラは私の前方にて防御陣形。ただし、私の周りに結界を展開しないように。質問は?』

 

 

『リュウトさん。治療を先に済ませてから…』

 

 

 シャマルの声には多分に心配の色がある。だが、今のリュウトにはそれを拒む事しか出来ない。治療をするという事になれば、さらに時間を取られてしまい、作戦可能時間が短くなるばかりだ。そして、自分の怪我をシャマルに診せる事になれば、風の癒し手と呼ばれる彼女が作戦を認めるはずはないだろう。リュウトの怪我は現場の治療で回復するほど軽くはないのだから。

 

 

『いえ、見た目は派手にやられてますが、こちらで何とかできる範囲です。それよりもなのは君とフェイト君を』

 

 

 シャマルに対しての念話には、いつもの彼らしい言葉でやんわりと治療を断る言葉が込められていた。リュウト自身、これ以上の時間の浪費は避けたい。

 

 リュウトの言葉を聞いて、なのはは自分の拳を強く握り締める。

 

彼女は責任を感じていたのだ。自分が攻撃を成功させていれば、傷を負っているリュウトにも、連戦で疲労しきっている仲間たちにも負担をかけずに済んだというのに……

 

しかし、それを慰めるかのようにフェイトと、友人とリュウトを心配して文字通り飛んできたはやてが笑顔をなのはに向ける。その顔にはなのはの内心を知りつつも、それを知った上での笑顔がある。

 

アルフとザフィーラはお互いの拳を合わせて不敵な笑みを浮かべ、なのは達の治療をするべくザフィーラと共に主に同行してきたシャマルは、リュウトに向かって頷くとクラールヴィントを展開する。シャマルからすればリュウトの治療を念話で拒否された事が気になったが、重傷に見えているだけで自身の治癒魔法で対処可能と言われてしまえば最早何も言う事が出来なかった。

 

 

『それから、教導隊は……』

 

 

『すまない!』

 

 

 リュウトの言葉を遮る形で飛び込んできた声は、その教導隊からのものだった。そして、彼――教導隊最上位の魔導師からの念話が届くという事は、マンティコアにとって最良の、管理局の魔導師にとっては最悪の結末が近付いているということでもある。

 

 

『リーダー、やはり結界は……?』

 

 

『ああ、こうしてお前の声を聞いていられるって事は、そういうことだろうな』

 

 

『最悪……か』

 

 

『――最悪だ』

 

 

 最悪である事は間違いない。だが、その状況でも結界が維持できているという事は、間違いなく結界部隊が奮闘しているという証だった。そして、リュウトにはそれがよく分かる。嘗ての仲間たちは自分に命を預けてくれている。

 

 配属当初、教導隊の面々は管理局最強部隊故の矜持と自信から、歳若いリュウトに隔意と僅かながらの敵意を持って迎えた。実力主義とはいえ、彼らはリーゼ姉妹を知っていたし、グレアムも知っていた。親の七光りとは言わないまでも、人間誰しも身内贔屓はあるものだと思っていたのだ。

 

 しかし、始まりは一人の青年魔導師だった。彼はリュウトと一番歳が近く、部隊内では一番訓練で負けを喫していた。リュウトも彼とほとんど変わらない実力で、彼らは先輩たちに負けては再挑戦するという事を繰り返していた。

 

 その魔導師もまた若い自尊心からリュウトの事をあまり好意的には見ていなかったが、ある種の親近感は持っていた。だからこそ、彼は気まぐれでリュウトの応急手当を手伝った。それ以降、リュウトと青年はお互いの怪我の手当てを手伝い、それなりに良好な関係となっていった。

 

 ある日、その青年はリュウトにひとつの提案を持ちかけた。内容は先輩たちにひと泡吹かせようという若者らしいもので、リュウトも訓練になるだろうということでその話に乗った。その日から彼らは相棒となり、共に訓練をするようになる。

 

 彼らは自分たちの持ち味を生かした二人一組の戦法を編み出し、先輩魔導師に気付かれないように訓練を重ねた。元々教導隊に所属するほどの実力だった上に、若い為に順応性が高かった事もあって二人の戦法は確かなものとなった。

 

 先輩魔導師に2対2の訓練を申し出たとき、彼らは確かに成長していた。

 

 その最初の一戦、彼らは勝利したのだ。

 

 その後の勝負は戦法が読まれてしまって勝ち星は多くなかったが、彼らは目的を達した。

 

 教導隊内でもその二人はコンビとして一目置かれるようになり、リュウトに向けられていた隔意も消えていった。元来実力至上主義の教導隊では、確固たる実力こそが己の証明の一つだったのだから、それも当然だった。

 

 それ以降、教導隊はリュウトに様々なものを与えていった。今でこそ彼の剣として知られる『ラファエル』と『ルシュフェル』も教導隊無くして彼の戦友となる事は無かっただろう。

 

 彼らは父母として、兄姉としてリュウトを育てた。彼が教導隊に在籍していた期間は一年と半年足らず、だが、リュウトはそこで大きく成長した。彼の送別会――と称した宴会――は一晩越えても続き、俗に言う大人のお店にリュウトを引き摺っていこうとした教導隊の一魔導師は、何故か裸に剥かれて路上に放置された。彼はうなされるように「ネコが……ネコが……」と呟いていたというが、真相は誰も突き止めようとはしなかった。というか、分かりきっていた。

 

 教導隊から離れてからのリュウトの功績は、彼を管理局有数の魔導師という立場に押し上げる。教導隊は今でこそ疎遠だが、リュウトにとっては大切な学び舎だ。その彼らが命を賭けているというのなら、自分もまたその心に応えるべきだと、リュウトは思う。

 

 あの時のリュウトの相棒は今も結界部隊で戦っているはずだ。

 

 別れの際に『俺たち以外に負けるなよ』という言葉を贈ってきた大事な戦友は、彼を信じてすべての力を貸してくれている。

 

 これで、すべての決意は揃った。

 

 

『リーダー』

 

 

『なんだ?』

 

 

『やります』

 

 

『…………』

 

 

 沈黙は、肯定以外の意味を持っていなかった。

 

 

『後はお任せします』

 

 

『任されてやる。――アイツからの伝言だ。“俺の魔力も全部持って行け”だとさ』

 

 

 その言葉に小さな笑みが浮かんだ。

 

 

『彼らしい…』

 

 

『俺もそう思う。あの魔法はアイツと二人で創り上げたんだからな、アイツの言葉もよく分かるよ。だが、訂正だ』

 

 

『はい』

 

 

『俺“たち”の魔力も全部持っていけ』

 

 

『――感謝します』

 

 

 リュウトは最後にそれだけを言って、念話を切った。

 

 古巣からの連絡で自分の採るべき道は決まった。

 

 教導隊はすでに手一杯、人員を出す事は不可能だ。教導隊ならばなのはと同等以上の砲撃魔法の使い手もいるはずだが、彼らから人員を引き抜けばその瞬間に結界は崩壊する。

 

 だが、自分にも元航空戦技教導隊教導官としての矜持がある。彼らに教えられた誇りがある。

 

 

『それでは、只今をもって対マンティコア殲滅作戦を開始する』

 

 

 自分を助けてくれた者がいる。慈しみ育ててくれた者がいる。厳しく教え導いてくれた者がいる。

 

 自分の為に求めた力だが、今、それは救う力になる。

 

 過去の亡霊など、未来に必要ない。

 

 彼の言葉を聞いた魔導師たちが行動に移る。シグナムとヴィータがこちらに一瞬だけ目を向け、シグナムが口元を緩める。ヴィータもまた僅かな笑みをリュウトに向けた。

 

 彼らは騎士だ。リュウトの心にある小さな誇りをよく分かっているのだろう。

 

 リュウトは騎士たちに視線を向け、この力の意味を再び見出す。

 

護るために使う。

 

復讐のために得た力だが、それによって未来を得られるというのなら、それこそが家族が遺してくれた力に相応しいとも思える。

 

 

「主殿…」

 

 

 その声に、リュウトは自らの使い魔が傍らに立っていることに気付く。彼女の顔には明らかな心配と不安があった。

 

 主が無理をしている事は分かっている。自分を存在させるために消費する魔力を治療に回して欲しいとさえ思う。だが……

 

 

「大丈夫……ですよ。シグレ、私が……あの子を開放したら……保護をお願いします。私はそこまで……持ちそうにありませんから……」

 

 

 リュウトは、主は笑っていた。自身の右手で腹部の傷口を強制的に塞ぎながら、苦しげに言葉を紡ぎながら、それでも笑みを向けてきた。

 

 シグレも、笑みを返した。その笑みに感情が篭っていなかったとしても、彼女は主を笑顔で送り出した。それこそが自らの役目であると、主に縋って泣きそうになる自分を律して。

 

リュウトは左手に持つラファエルを逆手に持ち、ゆっくりと立ち上がる。彼の足元の地面には、赤い血の跡が残っていた。他の魔導師に気付かれずに済んだのはマンティコアのおかげかもしれない。それだけは感謝してもいい――リュウトはそう思った。

 

 

「さあシグレ。――君の役目を果たしなさい」

 

 

「――はい、主殿」

 

 

(――ご無事で、リュウト様)

 

 

 そう返事を返し、シグレは飛び立っていった。心の中の本音は封じ込め、主の望みを叶えるべく、彼女は自らの役目を果たす。

 

それをひどく優しげな目で見送り、リュウトは意識を極限まで集中させる。それに答えるかのように、リュウトの周りの魔力の密度が急激に上昇を始める。それはいつしか黒き風となって、青年の周囲を漆黒の渦とした。

 

 

「……リュウト・ミナセ、参る」

 

 

 リュウトが閉じていた目を開け、そう呟いた。

 

その刹那、彼のデバイスの中に眠っていたプログラムが動き出し、二本の剣はまるで雪のように光と砕けて宙を舞う。だが、コアクリスタルだけは緋と蒼の光を放ちながらリュウトの周囲を巡る。

 

 

『意識内制限、現時点をもってすべてを解除します』

 

 

『これより戦闘形態を通常(ノーマル)モードから無制限(アンリミテッド)モードに移行』

 

 

『システムの起動を確認。これより最終シークエンスに入ります…』

 

 

 ルシュフェルとラファエルの声がリュウトの意識に飛び込んでくる。その声は通常の戦闘の際には出てこない彼女たちのもう一つの意思だった。

 

この二機にはインテリジェントデバイスのそれを原型(ベース)にした制御機構ともう一つ、起動にインテリジェントデバイス以上の自律性を持たせた意思を必要とする試験段階の制御機構が搭載されている。今起動シークエンスを進めているのは後者だった。

 

二つの制御機構を統括する形で存在する一つの意思。彼女たちは通常の状態ではごく普通のインテリジェントデバイスの意思として主をサポートしている。だが、彼女たちの意思はインテリジェントデバイスのそれとは少し異なる。

 

彼女たちの本来の役目は試験段階の制御機構の統括。彼女たちが本来の機能を発揮できるのも、意思がこの制御機構にあるときだけだ。

 

そして、その時に可能となる機能の中には自ら擬似的な肉体をもって魔法を行使するというものも存在する。八神はやてをスコット・カーライルの攻撃から守ったのは、リュウトの命令により制限が一時解除されたルシュフェルとラファエルだった。

 

彼女たちのように意思と姿を持ったデバイスは、過去よりこの次元世界に存在している。

 

 

 

 

 幾つもの報告がリュウトの意識を飛び回り、その度に彼の意識は少しずつ変化していく。より完全な形での制御の為に、デバイスの意思はリュウトの意思と重なり合っていくからだ。

 

リュウトの周囲を舞っていたコアクリスタルが渦の中で星のように輝いていた光と結合し、再び剣の姿へと戻っていく。だがその剣はいつもの二機とは異なり、神々しく光を放っている。

 

彼はそれを掴み取ると、息を吐きながらゆっくりと構える。自分の目前に右手でルシュフェルを縦に、左手のラファエルをそのルシュフェルとは垂直に構える。それはやがて光輝く十字架となった。

 

その構えは最後のアクショントリガーだった。二振りの魔導剣の真の姿を顕すための、最後の鍵。

 

 

unison system, all ready.

 

 

 赤いコアクリスタルより響くルシュフェルの機械的な声が、リュウトに全ての準備が整ったことを告げる。だが、剣の主たる青年はその瞬間に思った。自分のこの力が如何なる力なのか、何のための切り札なのかを。

 

 

――決まっている。

 

 

――護りたかったからだ……

 

 

――次こそはと、二度と繰り返したくはないと。

 

 

――ならば今こそ、その時だろう……!

 

 

「ユニゾンシフト!」

 

 

 トリガースペル。

 

 

program start.

 

 

 ラファエルの宣言。そして、リュウトは二色の光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女に与えられた役目は唯一つ、新たな存在の創造だった。

 

 身体が違うものに変化していく度、彼女の心も変化していった。

 

 家族の記憶は薄れ、何かに対する渇望が心を支配した。

 

 自分がなにを求めているのか、少女には分からなかった。

 

 大人達の狂気に満ちた視線からは、少女を人間として見ている気配は全く感じられない。ただ、実験動物を見る目で少女を見つめ、少女が苦痛に苦しむ度に歓喜の声を上げる。

 

 栄光。

 

永遠。

 

彼らが口にする言葉は大抵この言葉に繋がっていく。

 

少女の苦痛は彼らにとって喜ばしい事でしかない。

 

自らを栄光と永遠へ導く神の歌声。

 

少女の悲鳴も、叫びも、彼らにはそうとしか聞こえない。

 

 

 

 そんな中で、少女は母になる。

 

 永遠を産み落とした聖母。

 

 大人達が少女をそう賞賛した。だが、賞賛の声はすぐに悲鳴へと変わる。

 

 少女はその瞬間にかつての少女に戻った。

 

 この世すべてへの渇望は消え、家族の顔が鮮明に浮かんでくる。

 

 だが、少女はすでに自らの産み落とした永遠から抜け出す事は出来なかった。

 

 身体の感覚が消えていく中で、彼女は様々な終わりを目にした。

 

 逃げ惑い、それでも逃げ場を失うと、自らを捕食せんと迫る少女の“腕”に攻撃を仕掛けてくる男。

 

 泣き叫び、母を呼びながら少女の“手”に飲み込まれる女。

 

 気が狂ったように笑い続け、少女の“髪”に捕らわれるまで声を上げ続けた老人。

 

 少女を捕らえていた施設から“永遠”が姿を現したとき、少女の生まれ育った世界は滅びの道を進んでいた。

 

 彼女が自覚せず放った幾千幾万の“腕”は、人々を捕らえ、食らい、少女と“永遠”に尚も食らえと求めてくる。

 

 赤ん坊を抱いた母親をその子供ごと飲み込み。

 

 家族を守らんと魔法で“永遠”を攻撃する父を数百の“腕”で飲み込み。

 

 ただ呆然と少女だったものを見上げる子供を踏み潰し。

 

 国の長として逃げ出そうとした大人達を魔法で撃ち落とし。

 

 “腕”に飲み込まれた老母を助け出そうとする若者を母と同じ運命へと誘い。

 

 手を取り合って逃げる夫婦を丸ごと捕食し。

 

 必死に“永遠”を倒そうとする魔法使い達を食らい。

 

 少女はただそれを見続けた。

 

 彼女にはそれを止める術もなく、自分の身体に多くの命が流れ込んでくるのを甘受するのみ。

 

 そんな中で少女は家族を見つけた。

 

 兄姉たちは両親と共に逃げていた。

 

自分がここにいるとは気付かないのだろう。彼らは時折振り返っては少女に恐怖の篭った眼差しを向け、ひたすら逃げ続ける。

 

自分はここに居る――どれだけ声を出そうとしても言葉にならない。

 

助けて――そう叫んでも家族は少女に気付かない。

 

やがて、家族は“腕”に囲まれて消えた。

 

最期の瞬間まで家族を守ろうとしていた両親。

 

最期の瞬間まで両親を守ろうとした兄姉。

 

彼らは、少女の血肉となってこの世から消えた。

 

少女は家族が自らの内へと混ざり込んできたのを感じ取る。

 

それでも、少女は止まる事が出来ない。

 

 どんなにやめてと叫んでも“腕”は止まらず、どんなに殺してと叫んでも言葉にならず、ただただ声無き叫びが彼女の内に響くのみ。

 

 少女は無意識に嘗ての家へとその身を進める。

 

 “腕”が人々を食らっても、その“足”が人を潰しても、その身が家々を瓦礫としても、少女はひたすら家を目指す。

 

 帰りたかった。

 

 家族は自分と共にいるのだから、家に帰れば昔のような幸せが待っている。

 

 大好きな兄と約束した。兄は待っていると言ってくれた。

 

 無心に家を目指した少女は、その家で最後の家族に出会う。

 

 それは約束を交わした次兄。

 

 彼は少女を見上げると口を開いた。

 

 

――おかえり

 

 

 その言葉を聞いた少女は次兄の名を叫ぶ、そこから逃げてくれと、自分は大丈夫だからと、貴方を欲しくはないのだと。

 

 だが、“永遠”は少女の真の望みを叶えた。

 

 大人たちに物として扱われる日々で願った望み。

 

 それは、大好きな人と共に在りたいという願い。

 

 少女の願いは叶えられた。

 

 兄に向かっていく“腕”を止める事など、少女にはできなかった。

 

 そして、最愛の兄の姿が掻き消える。

 

 

――…………

 

 

 兄は飲み込まれる最期の時まで笑顔でいた。少女の名を呼び、あの時と同じように笑って消えた。

 

 少女は叫ぶ。

 

 兄の名を叫び、悲鳴を上げる。

 

それは、“永遠”の叫びとなって遥かな空へと響き渡った。

 

 

――キャアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!

 

 

 少女の慟哭は、滅びの始まりとして人々に記憶されることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラオラオラオラオラアァァ!!」

 

 鉄槌の騎士。紅の鉄騎。これが鉄の伯爵グラーフアイゼンと呼ばれるアームドデバイスを戦友とし戦場を駆ける少女、ヴィータの通り名である。その名に相応しい実力を持った騎士だったが、今回の騒動では主たる八神はやてを赤の他人であるリュウトに助けられていた。

 

 その事に関して様々な感情がある事は間違いない。だが、己の命を賭けて戦う戦士にそのような感情を向ける彼女ではない。

 

 むしろ、助けられなかったのは自分の責任であると思っていた。自分が居ながら守れなかったと。

 

 その為、彼女は今までに溜め込んだ鬱憤をすべて晴らすかのように魔法生物を蹴散らしていた。自分に対する感情。はやてを陥れた者たちへの感情。マンティコアに対する感情。すべてを力に変えて彼女は戦っていた。

 

 

「アイゼン! カートリッジ、ロオオオオド!!」

 

 

Explosion.

 

 

 ヴィータがグラーフアイゼンに指示を飛ばし、騎士の鉄槌はそれに従うようにハンマーヘッドの付け根にある三連装回転シリンダー式カートリッジシステムが可動し、薬莢(カートリッジ)を装填する。

 

薬莢内の魔力を消費しグラーフアイゼンは攻撃特化型のラケーテンフォルムへと姿を変えた。

 

 

「ラケーテンハンマー!!!」

 

 

 グラーフアイゼンのハンマーの一方から魔力を燃料とした爆炎を噴射させ、その反動によって回転を始めたヴィータがそのまま数体の敵に突っ込む。

 

高速回転によって威力が引き上げられた鉄の伯爵の竜巻のような攻撃により、赤竜が胴体の真ん中から引きちぎられる。ヴィータが回転を停止したときには、彼女の周りにいた赤竜はその姿を物言わぬ骸へと変えていた。

 

 

「へっ! アタシに勝とうなんて百年早ぇんだよ!!」

 

 

 気分を高揚させてそんな台詞を吐くと同時に、彼女は主を助けた青年が居るはずの方向に目を向ける。青年は何かをする気だ。それが何であるかは分からないが、騎士として興味がないといえば嘘になる。

 

だが、そんな思いをもって青年に向けた目には、彼女が思いもしなかった光景が飛び込んできた。

 

 

「な!?」

 

 

 彼女が思わず声を漏らしたのも無理はない、そこにいるリュウトの姿は先ほどまでとは全く異なっていた。

 

髪の色はまるで色素を全て抜いたかのような空虚な白に変わり、今まで髪を纏めていた紐が解けたのか、まるで女性のように長い髪が無気力に垂れ下がっている。

 

そして瞳は右が蒼、左が緋という金銀妖瞳(オッドアイ)

 

彼のトレードマークでもあったバリアジャケットも大きく変化している。

 

通常のバリアジャケットを隠すように、上半身に金のラインで装飾された機械軽鎧がその身を包み、腰部から大腿部を覆うように長方形の装甲が装着され、それをより重厚にしたような白い装甲が機械軽鎧の腰後部からマントのように彼の足を隠していた。

 

脚には脚甲が取り付けられており、肩でも白い機械鎧がその存在を誇示し、その肩部装甲の前部後部には赤い円が見える。

 

 そして、その全ての装甲にいくつもの罅割れが走っている事にヴィータは気付いた。さらに、リュウトの手の甲から肘にかけて装着されている大型のガントレットは左右非対称で、右腕に装着されたものが長く、左腕のそれは半分の大きさ程度しかない。

 

そして各関節部分には黒い光がまるで霧のように漂っている。

 

 

(あれは…魔力が漏れてんのか!?)

 

 

 その黒い霧はリュウトの魔力そのものだった。つまり彼は常に魔力を放出していることになる。よく見ると、罅割れた場所からも同様のものが噴出している。

 

 魔力の噴出は廃棄余剰魔力と考えても、ほぼすべての装甲に走るあの傷はただ事ではない。

 

 

「ヴィータ! 何を呆けている!!」

 

 

 しかし、そんなヴィータの思考は横手から響いたシグナムの声によって途切れる。いつの間にかヴィータの隣にシグナムが立っていた。

 

 

「あの男はあの男の仕事を、やるべきことをしている。我々はそれに応え、同じようにやるべき事をやらねばならん」

 

 

 そう、今あの青年は全てのことを自分たちに任せてくれた。さらに、自分自身の命すらも預けてくれている。リュウトの言葉通りなら、今の彼は外部からの脅威に対して全くの無防備という事になる。戦人が他人に命を丸ごと預けるという事がどういうことか分からないシグナムではない。

 

彼女自身、リュウトがあのような姿になったことには驚いているが、それ以前に自分のするべきことを優先しているのだ。

 

自分達を信じてくれた魔導師の期待に応えなければならない。

 

 

「我等は守護騎士。主を護り、戦友を護る騎士だ。分かるな? ヴィータ」

 

 

「――ああ、分かってるよ」

 

 

 そう言って、ヴィータは己が戦友にして相棒たるグラーフアイゼンを肩に担ぐ。その顔は笑っていた。

 

 

「てめぇら…」

 

 

「我等ベルカの騎士を…」

 

 

「甘く見んじゃねぇぞ―――――ッ!!!」

 

 

 剣の騎士シグナム。鉄槌の騎士ヴィータ。彼女たちは気高き雄叫びを上げながら、眼前に屯するものたちへと飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『主、やはり制御系にエラーが発生しています。移動はおろか、防御すらも…』

 

 

 無制限戦闘形態(オーバードライブフォーム)となったリュウトの意識に動揺を隠したような声が響く。それは彼と融合しているラファエルのものだった。

 

 だが、リュウトにとって彼女の報告そのものは元々想定していた問題だった。損傷激しい状態の術者とデバイス、この二つが揃って状態が万全であるなど、奇蹟というよりも悪意ある偶然と思ってしまうだろう。

 

彼にとってはこの形態で一度の砲撃さえ出来ればいいと考えていた。不完全な武具と不完全な魔法、そして不完全な術者。ここまで不完全がそろって尚も完璧な事を成し遂げようというのなら、幾つかの物事は度外視するしかない。

 

 

「…分かっテいマす。すぐに終わラセますよ」

 

 

 そうリュウトが呟くと同時に、彼の肩部の側面を覆っていた装甲板が、まるで素人が溶接した鉄が無理矢理引き剥がされるような耳障りな音を立てながら口を開ける。その内側には、何らかの装置が存在しているように見えた。

 

その肩部装甲の変化と同時に、腰から体の外側へと垂れていた装甲板もまた、閉ざされていたブラインドが開くように、物騒な意思を持って次々とその身を開いていく。

 

その過程でいくつもの装甲が弾け飛ぶが、リュウトも彼と一体となっているデバイスたちも動揺することはない。

 

 

 

インテリジェントデバイス『ルシュフェル』『ラファエル』

 

それは術者とデバイス、三位一体をもって一個の魔導機構(システム)とするというコンセプトを基とする試作型デバイスだった。

 

ベルカの融合型デバイスの性能は他のデバイスとは一線を画している。適正のある者以外に扱う事が出来ないという問題と、融合事故というマイナス面を考慮しても、その性能が概ね高いという事に異論はつけられない。

 

だが、そのコストと見合う成果が得られるかといえば疑問符が付くだろう。

 

一人の危険を孕んだ強力な魔導師と、十人の安全ではあるが並の魔導師を選べといわれれば、組織とは得てして後者を選ぶ。それは組織として正常な判断だ。

 

しかし、過去に時空管理局の技術局に一人の技術者がいた。

 

彼は技術者として一つの技術の果てを見たいという欲求に駆られていた。一つの面において究極のデバイスを創り上げたい――そんな欲望が彼をその研究へと追い立てたのだ。

 

デバイスとは魔導師の補助を目的として存在している。

 

ならば、究極的には一切のタイムラグと意思の齟齬がない補助機関こそが、デバイスの果ての一つではないか、彼はそう考えた。

 

そんな彼がベルカ式の融合デバイスに魅力を感じたのも、ある意味当然の結果だと言えるかも知れない。

 

融合する事によって意思を共有し、一切の無駄なく効率的に魔法を運用する。確かに理想的な機構ではあったかもしれない。

 

だが、彼もまた融合型デバイスの問題点に行き着く事になる。

 

融合事故と適性のある者の僅少さが彼の研究を袋小路へと誘った。いや、適性があっても彼のデバイスを扱いきれない者が殆どだったのだ。

 

彼のデバイスはミッドチルダ式でありながら限りなくベルカ式に近い物だ。ミッドチルダ魔導師ではデバイスに振り回され、近代ベルカ式の使い手ではシステムの差に適応しきれず、古代ベルカ式の魔導師など稀少すぎて管理局が実験を許可しなかった。

 

融合事故の問題もあった。

 

ミッドチルダのインテリジェントデバイスとしては異常なほどの適性を求められ、その上でデバイスの意思により、術者の意識に途方もない負荷が掛かる。デバイスの意識を抑えようと制御装置(リミッター)を取り付ければ求める性能を発揮する事が出来ない。

 

彼は思考と技術の迷宮で迷い続けた。

 

融合事故の面だけなら技術者である彼にも何とかできたかもしれないが、適性のある人間だけは魔導師ではない彼にはどうする事も出来ない。

 

そんな中で、融合事故の問題には一つの光が見えた。

 

基本設計、それをベルカ式を真似た融合型デバイスではなく、融合機能を持ったインテリジェントデバイスとし、デバイスを二分割し、融合させる事で相互監視と相互扶助を行うという結論を彼は得た。

 

融合機能をシステム化してインテリジェントデバイスに付与し、二機のデバイスと一人の魔導師が一個の機構を形成する。

 

デバイスと魔導師の一対一ではなく、別の意思を持つ二つのデバイスと一人の魔導師の三位一体を持って最大限の性能を発揮させる事が、彼が融合事故問題に対する答えとして生み出したものだった。

 

一機ずつであるならば性能的にはごく普通のインテリジェントデバイスでしかないため、融合システムを作動させることは出来ない。だが、安全性だけを見ればベルカの融合型デバイスよりも遥かに優秀だといえた。

 

残る問題はデバイスを扱う魔導師だった。彼は魔導師、或いは魔導騎士たちがそれぞれの魔法体系に慣れすぎているという事を問題点とした。しかし、管理局やそれ以外の組織、もしくは在野の魔導師を含めても魔法に慣れていない者はいない。正確に言えば慣れていない者が魔法を扱えるはずもない。

 

彼が求めたのは、高い魔法資質を持ちながら単体での戦闘能力に優れ――これは汎用性を求めた結果、デバイスが武器の形を採る為だった――その上で魔法を知らないという存在だった。

 

その条件に該当する人物は、意外な形で彼の元に訪れた。

 

技術者がデバイスの研究を始めて十数年、彼の目の前に最後のピースが現れたのだ。

 

技術者の旧友が引き取り、育てていた少年――リュウト・ミナセ。

 

当時のリュウトは魔導師を目指して修行中で、リーゼ達による基礎訓練を終えたばかり。基礎訓練は魔法技術の習得よりも生身での戦闘技術の習得を目的としていたため、リュウトは攻撃魔法どころか念話すらも満足に使えないという魔法の素人だった。

 

その上、魔法が存在しない管理外世界の一惑星出身者。

 

旧友はリュウトの意思を汲み取り、現状で彼にしか掴む事が出来ない可能性を求めて技術者の下へと送り込んだのだ。

 

旧友――ギル・グレアムの技術者に対する見返りは一つ、リュウトに技術者の技術を教え、技術者として育てる事。

 

それに対して技術者は自分の研究を完成させる事が出来る。

 

リュウトは、融合型デバイス『闇の書』に対する手段として、ミッドチルダ式の融合型デバイスともいえる技術者の開発するデバイスを己が力とする可能性を得る。

 

三者がそれぞれ益を得ることが出来る取引といえた。もっとも、リュウトはあまり状況を理解しておらず、リーゼ姉妹が息子に対『闇の書』用の力を持つデバイスを与えるために、愛息子を千尋の谷に叩き落したともいえる。

 

三者の思惑はともかく、リュウトはその頃、陸士訓練学校に入学して技術者が与えたストレージデバイスを持って訓練に励み、訓練後の空いた時間を技術者としての勉強と試作デバイスの実験に従事し、休暇で家に戻っては二人の母親と義父に魔法のイロハを教わるという生活をしていた。

 

陸士訓練学校は数ヶ月で卒業したが、リュウトは管理局に正式入局した後もその生活を続けていた。

 

その後、グレアムの勧めでリュウトが士官学校に入学し、当時の最年少として執務官になる頃、試作型デバイスの最終型が完成した。

 

その二機は研修として教導隊へと配属になったリュウトの下へと送り届けられたが、それと同時に技術者本人の病死という形で総体としての完成は不可能となった。

 

それから数年の時が流れ、そのデバイスは過去の罪を相手に真価を試されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「収集…カイし」

 

 

 『御意、我が主。魔力変換機(コンバーター)作動、魔力収集を開始します』

 

 

 ルシュフェルが告げた瞬間、リュウトの肩と腰に装着された装甲の展開部分が光り輝く何かを周囲から集め始める。

 

 リュウトを中心として集束していくもの――それは魔力だった。今までの戦闘で拡散した残留魔力を自分の魔力、他人の魔力を問わずに変換機を通す事で無差別に収集しているのだ。それを何に使用するのか、周囲で戦いを繰り広げているものたちの一部には察しが付いた。

 

 

『発射までのカウントダウン、開始します』

 

 

 ラファエルがそう呟き、リュウトの意識内に数字が映し出される。その数字は少しずつ、その数を減らしていった。

 

 

「…ドウヤら、外装維持のホカに、はっせイ機能も…問題がアルヨウですね…」

 

 

 敢えて自分の口で発声するのは、この状態でデバイスに意識を飲まれないようにするための策だった。デバイスが損傷している事もあるが、リュウト自身の意識も健常な状態と比べて弱っている。安全性が高いとはいえ、融合事故の可能性はゼロではない。それを予防する手段としては、自分の意思を声に出して確認するということが一番だった。

 

 だが、先ほどから彼が声を発するたびに、どこか機械的な音が混じっている。それに今の自分の身に追加装備された機械軽鎧もまた、複数の罅が縦横無尽に走っている。

 

しかし、リュウトにもそれ以外の人間にとってもそんなことに構っている時間は無かった。

 

 リュウトは数百メートル先で味方の部隊と交戦しているマンティコアの方へと身体を向けると、握り締めた右の拳を後へ下げ、歪な音を立てて構えをとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リュウトさん…」

 

 

 リュウトのその様子を、少し遠くで戦っていたはやてが心配を多分に含んだ表情で見つめていた。

 

リュウトの姿が変わったときには驚いたが、自分に出来る事をしようと気を持ち直す。

 

 

「はやて! そっちにいったよ!!」

 

 

 そんな中、リュウトの前方で魔法生物たちを食い止めているアルフの声が、はやての耳を打つ。

 

 

「ッ!!」

 

 

「ハアァ!!」

 

 

 経験の少なさから反応が遅れたはやてをフェイトが援護する。

 

フェイトは、はやてに近づいた敵をバルディッシュで一刀の下に切り裂いた。

 

 

「はやて、今は私たちに出来ることをしよう? 私たちの未来のために。そして、なのはの気持ちを無駄にしないためにも、ね?」

 

 

 そのフェイトの瞳には決意があった。はやてはそれを見て頷くと、自らの手の内にあるB2Uに視線を落とす。

 

 リュウトより託されたBUは、彼女の剣となって戦ってきた。

 

 ストレージデバイスではあるが、はやてはBUに何か意思のようなものを感じていた。リインフォースとは違う漠然とした存在だが、BUにも何か叶えたい想いがあるのだろうか。

 

 彼の組み上げるデバイスは特殊なものが多いとクロノが言っていた。

 

 シグレの『月光』は少数の魔法を限界まで高出力化したもの。

 

 この『BU』ははやてのリンカーコアを読み取る機能に特化したもの。

 

 クロノの話では知人の依頼に応えて情報戦特化型デバイスや医療行為特化型のデバイスを組み上げた事もあるらしい。

 

 自分はリュウトの事を殆ど知らない――はやてがそう思ったのは当然の事だった。

 

 自分たちを監督するのが目的の保護観察官であるということを忘れそうになるほど、彼は自分たちに色々便宜を図ってくれている。

 

 ヴォルケンリッターに対する不信感から合同任務に消極的な部署を説き伏せ、はやてに対して否定的な感情を向ける幹部に頭を下げ、クロノやリンディ、レティと共にはやて達が管理局に早く溶け込めるように様々な部署に掛け合ったりしているという。

 

 だが、はやてがそれを知ったのはクロノからその話を聞いたからだ。リュウト本人は、はやて達にそのようなことを感付かせることすらしない。

 

 何も言わないのは理由があるからだと思い、はやても何も聞こうとしない。ただ、感謝の気持ちを表すために八神家の食事に招待したり、お弁当を差し入れたり、仕事を手伝っているだけだ。

 

 いつかリュウトの過去を知る日は来るのだろうか。

 

 はやてはそう考えながら、白い砲台と化したリュウトに視線を向ける。

 

 以前、どこか自分と似たような空気を感じた事もあったが、今となっては幻だったのではないかと思う。

 

 自分になのはやフェイトが居たように、リュウトにも友人が居たのだろうか。

 

 自分もいつか、彼の友人になれるのだろうか。

 

 だが、その為にはこの場を生き残る必要がある。

 

 はやてはリュウトから視線を外し、彼に襲い掛からんとする魔法生物たちに目を向けた。

 

 

――次は、自分が守る番だ。

 

 

「行こう、BU!!」

 

 

Yes, ma’am

 

 

「私たちも行くよ! バルディッシュ!!」

 

 

Yes, sir.

 

 

「ドライブ・イグニッション!!」

 

 

 フェイトが宣言するとそれに応えてバルディッシュの形状が変化し、フルドライブモードであるバルディッシュ・ザンバーへ姿を変える。

 

 フェイトははやてに視線だけで合図すると、頷き合い、敵の中へと突き進んで行く。

 

 

「ハアアァァァ!!!!」

 

 

 小さな少女が振るうには大きすぎるその剣は、複数の敵をまとめて斬り捨てる。その動作も終わらぬ内に別の赤竜を目標とすると、再び裂帛の気合と共に斬り裂いた。

 

 

「テスタロッサ!!」

 

 

 その声と共に上空から降り立ったシグナムと合流し、お互いの背中を合わせる。そして、一瞬の目配せの後、再び散開した。

 

 お互いの手の内をよく知り、敵として相対したからこそ分かる攻撃のタイミング。

 

 

「レヴァンティン!!」

 

 

Bogenform!

 

 

 シグナムが右手に持つレヴァンティンと左手に持つ鞘を連結させる。そして、その弓と化したレヴァンティンのボルトアクション式カートリッジシステムが稼動し、空薬莢を排出する。

 

 そしてシグナムは戦闘飛行をしながら、鏃へと魔力を溜め、魔力で作られた矢が敵へと向けられた。

 

 

「翔けよ、隼!!」

 

 

Sturmfalken!!

 

 

 シグナムの確たる意思を持った声と共に矢が放たれる。

 

その矢は幾多の魔法生物を貫き、最後の仕事とばかりにマンティコアに突き刺さり、爆光を撒き散らした。

 

 

―――キャアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァッ!!

 

 

 その悲鳴のような雄叫びはシグナムの攻撃が効果を上げた事を意味するのか、そうではないのか、シグナムには分からない。だがその攻撃は彼女にとって最大の目的である時間稼ぎと目眩ましにはなった。

 

 

「バルディッシュ!」

 

 

Yes, sir

 

 

 シグナムの攻撃に続き、フェイトがバルディッシュ・ザンバーを構える。大上段に構えられた雷の刃に稲妻が集まっていく。

 

 

「撃ち抜け、雷神!」

 

 

Jet Zamber.

 

 

 そして放たれた雷神の刃はフェイトの魔力を授かり、更に巨大な刃となって敵を貫く。そしてこの攻撃も多くの魔法生物を串刺しにするとマンティコアに突き刺さる。

 

 そして、傷を負ったマンティコアに更に追い討ちを掛けるべく、はやてと先ほどシグナムと共に合流したヴィータがグラーフアイゼンを構えている。

 

グラーフアイゼンのカートリッジシステムが稼動し、薬莢を装填する。

 

 

「轟天爆砕!!」

 

 

 ヴィータがアイゼンを振り上げると、鉄の伯爵のサイズは一気に増大し、シグナムたちからマンティコアを覆い隠すほどのサイズになる。

 

 ヴィータはマンティコアに目標を定めると、一気にその巨大な鎚を振り下ろした。

 

 

「ギガントォ! シュラアアアアアアァァァァァク!!」

 

 

 その巨大な鉄槌はマンティコアの背部に直撃する。大質量の衝突にマンティコアが悲鳴を上げ、その衝撃波によってマンティコアの周囲にいた魔法生物も同時に吹き飛ばす。

 

 

「はやて!」

 

 

BU!」

 

 

OK. Master.

 

 

 ヴィータの声に背を押されるように、はやてがBUに自らのリンカーコアを力と成せと命じる。BUがリンカーコア解析を開始するのを感じ取ると、彼女はマンティコアの側面へと回り込んだ。そこには鍵によって召喚された魔法生物達がマンティコアを守ろうと屯していた。

 

 だが、それを見てもはやては動じない。彼女は一つの戦いを経る度に成長していた。

 

油断無くBUを構え、マンティコアから視線を外す事はない。彼女が精神を集中させると、その足元には純白のベルカ式魔方陣が展開された。

 

そして、BUのコアクリスタルがその輝きを増す。

 

 

「いっけええッ!」

 

 

fire.

 

 

 はやてが放った魔力の砲弾は魔法生物たちを巻き込み、そして突抜け、マンティコアに襲い掛かる。

 

 

――キャアアアアアアァァァァァァァッ!

 

 

はやての攻撃を受けたマンティコアは僅かにその体勢を崩したが、すぐに修復を始めてしまう。

 

 

「まだまだ、頑張らな…!」

 

 

 リュウトが求めたのはマンティコアの動きを止め続ける事。それは修復が完了する前に再び損傷を与え、修復を継続させる事だった。

 

 この手段ではそれほど時間を経ずにこちらの力が尽きてしまうだろう。だが、リュウトとその幕僚が求めたのは約4分のみ、それならば全力で攻撃をかけることが出来る。

 

 しかし、この作戦が失敗した場合、はやて達はすべての攻撃手段を失う可能性が高かった。

 

 幕僚たちが懸念したのもその点だが、リュウトは他に実行可能で有効な手段がない以上、この策をもって最終作戦とすべきだと主張した。

 

 成功確率はスターライトブレイカーによる砲撃に比べて格段に下がる。

 

 しかし、マンティコアの周囲で戦いを繰り広げている者たちはこの作戦の成功を信じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『残り、140秒』

 

 

 意識内のカウントがその数を減らしていく。

 

しかし、リュウトはその事に意識を向けている余裕がなかった。

 

自分の目の前でザフィーラやシャマルが魔法生物たちと戦っているのが見えるが、リュウトには何も出来ない。

 

この作戦で自分に出来る事は最後の仕上げのみ、生き残れば『美味しいところ持って行きやがって』と昔馴染みに愚痴られるだろうが、それも生き残ったらの話だ。

 

作戦失敗は“死”

 

成功しても運が悪ければ“死”

 

 今の自分は砲台でしかない。彼らに守ってもらわなければ、数秒と経たずに魔法生物たちの餌食となるだろう。

 

 本来なら単独での戦闘を念頭に置いた形態であるはずの無制限戦闘形態は、魔導師とデバイスの損傷で単独戦闘が不可能な状態まで追い詰められた。

 

 そして、その損傷は今に至るまで障害となっている。

 

ルシュフェル、ラファエルと融合状態ある彼の内で、別の問題が幾つも浮上していたのだ。

 

 

「…マりょク制御ガ、ヨソウ以上に…」

 

 

 リュウトが先ほどから己が内へと溜め込んでいる魔力。量そのものは必要分を満たしているが、それを制御する段階にエラーが発生していた。

 

 そもそも無制限戦闘形態そのものが未完成であるという現実。完成前に開発者がこの世を去り、特殊な技術で製造されたデバイスであるために、管理局の技術局でも設計図をもとに修理を行うのが精一杯だった。

 

 リュウトもデバイスの変更を再三勧められているが、リュウトはその勧めを断り続けていた。

 

 リュウト自身、このデバイスでの戦闘を念頭に置いた訓練を受けたため、他のデバイスではその能力を出し切る事が出来ないのだ。ストレージデバイスならともかく、他のインテリジェントデバイスなど扱いきる自信がなかった。

 

 彼がマンティコアに視線を向けると、古の巨人はヴィータのギガントシュラークによって甚大な損傷を被っている。

 

 だが、攻撃すればするほど回復が早まっていることに誰もが気付いていた。

 

 遠からず結界も崩壊する。

 

 そうなれば、マンティコアを止める手段は無くなるだろう。

 

 すべての戦力を結界維持に回そうとも考えたが、一度崩壊を始めた結界を修復するのは不可能だろう。通常の結界なら可能なことが、特殊な仕掛けを施してあるこの強装結界では不可能になってしまう。

 

 結界の崩壊が早いか、自分の準備が整うのが早いか。

 

 自分の中に最悪の結果を思い浮かべながらも、リュウトは自らの身体を制御し続ける。

 

 

(私は、まだやられる訳にはいかない…)

 

 

 リュウトは視覚の倍率を上げてマンティコアの胸部を見つめる。

 

融合によって様々な機能が付与された視覚は、そこに目標となる中枢部分を映し出した。

 

なのはが撃ち抜くはずであった場所は、今もそこに健在だった。リュウトの目標もまた、なのはと同じ場所だ。

 

だが、リュウトにとっては救助対象も標的の一つだった。

 

なのは程の精度を持たないリュウトには、この無制限戦闘形態の照準補正能力が無ければ目標を撃ち抜く事はできない。

 

その機能が障害を起こしてしまえば、自分は救出対象を撃ち抜いてでもマンティコアを止めるしかない。

 

 

(どちらにしろ、外す訳にはいかない…か)

 

 

『残り80秒。増幅魔方陣(ブーストヴァレル)、展開準備完了』

 

 

 リュウトの思考が見えているはず管制人格たちは、主の思考に一切の意見を述べることなく淡々と事実を告げる。

 

その報告を受けたリュウトは、精神を落ち着かせるように呼吸を整えると、左腕に装備されているオートマチック式カートリッジシステムを稼動させる。

 

 

増幅魔方陣(ブースト・ヴァレル)――展開!!」

 

 

 リュウトが意識内での制御を行うと同時に、左腕のカートリッジシステムが唸りを上げる。

 

一発の空薬莢を外部へと排出する度、一つの巨大な魔方陣がマンティコアへの道を作り上げるように展開されていく。

 

それが終わったとき。リュウトからマンティコアへの魔方陣は六個展開されていた。リュウトの眼前に展開された魔方陣から、最後に展開された魔方陣までの距離は数百メートル。現在のリュウトが精密砲撃を成し得るギリギリの距離だった。

 

 

『ヴァレル展開を確認。増幅機構の稼動を開始。発射まで残り65秒』

 

 

 ルシュフェルの声と共に魔方陣が回転を始めた。その速度は加速度的に増し、周囲に甲高い音を響かせる。

 

 ガスタービンエンジンのような咆哮を上げて、増幅魔方陣は周囲の魔力を無制限に集めていく。

 

 増幅魔方陣は三つの機能を与えられた魔法だった。

 

 一つは周囲から無制限に魔力吸収を行う魔力収集機能。一つは他人の魔力をも変換して自らの力とする魔力変換機能。そして、ただ一種類の砲撃魔法のためだけに存在する照準補正機能。

 

 一切の攻撃機能を持たない魔法陣の展開ながら、その消費魔力は膨大だった。

 

 準備段階として収集された魔力の大半を消費した上で、魔導師本人の魔力も大半が消費されてしまう。本来ならば限界まで効率化され、カートリッジ六発と収集魔力のみで十分以上の機能を発揮できるはずの増幅魔法陣は、制御中枢である管制人格が形態維持にほぼ全力を注いでいる結果、莫大な魔力を魔導師から奪って機能を果たしていた。

 

 魔力収集に伴って巻き起こる風が、結界の損傷によって降り始めた雪を伴ってリュウトの視界を遮る。

 

 リュウトの周囲では雪と魔力が幻想的な光景を作り出していた。

 

 彼の眼前には、魔法陣によって抉じ開けられた一本の道がある。

 

 

『リーダー!!』

 

 

『――――!!』

 

 

 結界の維持によって返事を返す余裕もないのだろう、その念話に応えるかのように、この戦場に展開されていた結界が消え去った。

 

マンティコアはこれを好機と見て、次元転移の準備を始める。それに気付いたなのは達が、リュウトに視線を向けた。

 

しかし、増幅魔法陣の魔力収集機能が限界にまで達し、雪と魔力で周囲は吹雪の様相を呈していた。その為、なのは達の目にリュウトの姿は映らない。

 

 すべての者の視線から姿を消し、マンティコアと自分以外の存在を意識から放逐したリュウトは、消え去った結界の残留魔力をも吸収していた。

 

 戦友達が告げた『魔力を持っていけ』という言葉、彼はそれを果たしていたのだ。

 

膨大な情報を処理し続けているリュウトに明確な意識はない。もはや、戦闘本能と管制人格たちの制御によって、その魔法は放たれようとしていた。

 

周囲の魔力がリュウトとマンティコアによって吸収され、再び魔導師たちの視界にリュウトが現れる。だが、リュウトの姿は魔導師たちの目の前で変わり続ける。

 

加速度的に増えていくリュウトの損傷。機械軽鎧の装甲は弾け飛び、肩部装甲の内部機構がその身を晒し、役目を終えたとばかりに左腕部のガントレットが爆発する。

 

 

「リュウト!!」

 

 

 リュウトの様子を見たフェイトが叫ぶ。しかし、リュウトがその声に答えることはない。ただマンティコアを見据え、その右腕に力を込めていく。

 

 

『充填率96パーセント。発射まで残り37秒』

 

 

 空中に展開された増幅魔法陣が三つ目の機能を発揮し、細かく位置や角度を変えながら照準を補正していく。

 

そして、マンティコアが転移の準備を完了し、転移の前兆としてその動きを止める。

 

それを視界に納め、リュウトは最後の仕上げとばかりに大きく息を吸った。

 

 

『カウント10、9、8…』

 

 

 かつて、復讐のために生まれたこの力。だが今は、この古の巨人を破壊するための力になろうとしていた。

 

 そして、破壊する為に生まれた力は、古の囚人を救う力となる。

 

 

『ルシュフェル、ラファエル、今までありがとう』

 

 

『主ッ!?』

 

 

『我が主…』

 

 

『そして、これからもよろしく』

 

 

『――――御意!』

 

 

 ルシュフェルとラファエルの返事に小さな笑みを浮かべると、リュウトは妹の手を握り締めた手を一瞬だけ開く。

 

 次に拳を握り締めたとき、リュウトはその手に未来を掴みたいと願った。

 

それに応えるように右腕に装備されたリボルバー式カートリッジシステムが稼動を始め、撃鉄と同化したコッキングカバーが形状を変化させる。

 

それは、ただ一度で六発のカートリッジを点火させる為の手段だった。

 

 

(僕は……私は…!!)

 

 

 構え。

 

 

『3――2――1』

 

 

 狙い。

 

 

「私は――」

 

 

 躊躇わず。

 

 

『0』

 

 

 振り抜く。

 

 

「――――ウオおおオアあアアアあアアアアッ!!」

 

 

――接触(インパクト)

 

 

 カウントゼロと同時、リュウトの咆哮と同時に眼前に展開された撃発魔法陣(トリガー・ブースター)に右の拳を叩き込む。

 

今まで回っていたリボルバーが回転を止め、一気にコッキングカバーへと滑り込み、全弾を同時に点火。それと同時に右腕を覆っていたガントレットは砕け散り、纏っていた機械軽鎧も半分が砕け、途方も無い魔力の奔流にリュウトの身も傷を増やしていく。

 

 だが、リュウトの最後の武器たるガントレットが接触した撃発魔法陣から、漆黒の閃光が生み出された。その閃光は唸りを上げながら高速回転を続ける第二の魔方陣まで突き進む。

 

 

『ファースト・ブースト』

 

 

――一次増幅

 

 

 なのはの視線の先で、暗き閃光の輝きが増す。彼女を介抱していた司令部小隊の三等空尉が顔を上げ、眩しそうに手を翳した。

 

 

『セカンド・ブースト』

 

 

――二次増幅

 

 

 フェイト、アルフと共に周囲で戦闘を行っていた局員が、半ば呆然としながらその光を目で追う。

 

 

『サード・ブースト』

 

 

――三次増幅

 

 

 クロノは兄弟子の放った魔力光に顔を曇らせる。『煌めく闇』それはどこから来るのだろう。

 

 

『フォース・ブースト』

 

 

――四次増幅

 

 

 はやては、シグナム、ヴィータと共にその光を見つめていた。その光が自分に向かう可能性を知らずに、ただ、見つめていた。

 

 はやて達によって守られ、この世に産み落とされた閃光は、古より生き続ける“永遠”へと向かう。

 

 

『ファイナル・イグニッション』

 

 

――最終点火

 

 

 最後の魔方陣を抜けた黒い閃光は最後の仕上げとばかりに高速で回転運動を始め、螺旋状になった閃光が先端をマンティコアへと接触させた。

 

 そして――

 

 

―――キャアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァッ!!

 

 

 その閃光は、マンティコアの左胸部、マンティコアの中枢に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「抜けろ抜けろ抜けろ…」

 

 

 クロノの言葉に同調するように、リュウトが放った閃光はじりじりとその身をマンティコアへと埋め込んでいく。

 

 マンティコアが絶叫し、螺旋を描く砲撃を吸収するべく行動を開始する。だが、それは既に遅かった。

 

 魔法が吸収される速度よりも、砲撃がマンティコアの身体を貫いていく速度の方が遥かに早く、転移直前の無防備な状態を狙われた事もあって、マンティコアはその身を削られるままに、その錐を受け入れざるを得ない。

 

 皮肉にも、マンティコア自らが崩壊させる原因を作った結界により、古の巨人は自分の身体を貫かれようとしている。結界の崩壊が起こらなければ、マンティコアは転移することなくこの場の魔導師達を食らい尽くせたかもしれない。

 

 しかし、結界の崩壊により油断しきったマンティコアは転移という選択肢を選び、リュウトたち管理局は一撃必殺をもってマンティコアを滅するという道を選んだ。

 

 しかも、マンティコアを貫いている光は、自分が崩壊させた結界の魔力も内包している。その上、自らの餌となるはずだった魔力も、捕食者を消滅させんと巨人の身を抉り続けていた。

 

 リュウト達が知るはずも無い事だったが、マンティコアには明確な単一意識が存在しない。

 

 だが、マンティコアの大部分は現在の状態に恐慌状態となっていた。

 

 滅ぼされるはずの無い存在だった自分が消滅しようとしている――その思考がマンティコアを支配し、巨人の消滅を早めた。

 

 魔力の吸収による砲撃魔法の無効化という選択肢も、マンティコアの乱れた思考体系には存在しなかった。

 

 あるのはただ驚愕のみ。

 

 彼の存在が眠り続けていた間に、人々はマンティコアが封印された時とは別の方法で、古の罪を滅ぼす術を手に入れていた。

 

 “永遠”は“永遠ならざる存在”に滅ぼされようとしていた。

 

 時を有限に生きる存在が、時を越えて無限に生きる存在に打ち勝つ。クロノの目の前で繰り広げられている光景は、それを示していた。

 

 そして、閃光は“永遠”を撃ち抜く。

 

 

――キャアアアアアアァァァァァァァァァッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行った…!!」

 

 

 冷静な執務官の顔など、今のクロノの表情の前では幻に等しいだろう。

 

 彼の視線の先にいるマンティコアは、その動きを止め、完全に硬直していた。

 

 そして――

 

 

「!?」

 

 

 マンティコアが僅かに動き――――崩壊を始めた。

 

 デバイスを構えたまま、クロノは呆然としていた。彼の目の前で中枢を破壊されたマンティコアが姿を消していく。

 

クロノが構えを解いたとき、彼の横でマンティコアを睨みつけていたシグレが、何かに気付いたように飛び出した。

 

早い――クロノがシグレの突然の行動に驚き、追いかける動作が一瞬遅れただけで、兄弟子の使い魔との距離は大きく開いていた。

 

クロノは改めてシグレの速度に驚愕の念を覚えた。これで欠陥使い魔だというのだから、世の中は謎だらけだ――クロノは内心嘆息する。マンティコアが無力化されたという安心感もあったのかもしれない。

 

元々大型鳥類であるシグレが危険を察知できないはずはない。もし危険を承知でいるというのなら、余計に追いかけなくてはならないだろう。

 

 

「シグレ!!」

 

 

 クロノがシグレに追いついたとき、彼女は一人の少女を抱きかかえていた。

 

白い裸身を晒す少女にクロノが動揺する間も無く、シグレはバリアジャケットを解除すると、自分の制服の上着を少女に羽織らせた。少女とシグレの身長差もあって、その上着は少女の身体を隠すには十分なものだった。

 

 

「――クロノ執務官」

 

 

「な、なんだ…!?」

 

 

 それでも異性の裸身を見るという体験に動揺を隠し切れないクロノ。彼の言葉に返ってきたのは、光と僅かな言葉だった。

 

 

「この子を、お願いします」

 

 

 クロノが何かを口にしようとした刹那、彼の目前は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砲撃魔法を発射したまま動きを止めたリュウト。彼の肩部装甲の前後の赤い円形パーツがまるでコルクを引き抜くように回転しながら、本来の役目を果たすべく解放される。それと連動して、腰部背面から両の足を隠していた装甲からも幾つもの排出口が姿を現した。

 

 一瞬の間を空けて、それぞれの開口部から魔力の残滓が放出され、リュウトの姿を覆い隠した。

 

 

「…………」

 

 

「リュウトさん!!」

 

 

 残滓の晴れた後には、機械軽鎧ではなくボロボロのバリアジャケットに身を包んだリュウトが立っていた。

 

はやてはその姿を確認すると、一目散にリュウトの下へと飛び出していく。なのはを抱えたフェイトもそれに続いた。

 

伝えたかった。自分たちの先輩に、自分たちが成した事を。

 

あの子は無事です――そう伝えたかった。

 

だが――

 

 

「――――」

 

 

 彼女たちがリュウトの下へと到着する直前に異変は起きた。リュウトの両の手に握られていたルシュフェルとラファエルが、中枢ユニットであるコアクリスタルを残して完全に砕け散ったのである。

 

 

「――――」

 

 

 そして、リュウトの身体が大きく揺らぎ――彼は一切の動きを見せないまま崩れ落ちた。

 

 

「ッ!! リュウトさん!!!」

 

 

 はやてのその悲鳴は、雪が降り始めた大地に沈む青年に届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 新暦66年2月7日。この日、幾つもの名で呼ばれ、時空管理局に大きな傷と教訓を遺した一つの事件が幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二章  完   幕間につづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜あとがき〜

 

 皆様こんにちは、悠乃丞です。

 

 第九話、いかがだったでしょうか。

 

 あとがきといえば色々書く事もあるのですが、今回は第二章のエピローグ的な側面もある幕間にて、第二章総括と題して色々書きたいと思います。

 

 皆様、次回のお話で会いましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一つの幕は降りた。

 

 幾つもの物語を終わらせ、始まりを促した舞台は幕を閉じた。

 

 彼らの前に広がる道は、再び交わるだろう。

 

 人生という舞台で踊り続ける人々は、いつか別の舞台に立つ。

 

 人と人の繋がりは、彼らが意図しない処で彼らを結びつける

 

 さあ、舞台は整った。

 

 観客のオペラグラスに映る世界は、未だ闇色に包まれている。

 

 そこに光を差し込むは、三人の少女と彼女たちの仲間。

 

 11年の時を経て、彼の闇色の瞳に幾つもの光が宿る。

 

 

 

 

次回、魔法少女リリカルなのは―――暗き瞳に映る世界―――

 

 幕間

 

 〈運命の狭間の物語〉

 

 

 月光に照らされ、物語は始まる。

 

 




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