ONE PIECE 〜外伝〜 VS悪童
その惨状をなんと言えばいいのか……
ある者は裸で机の上にくたばっていて、
またある者は後頭部にタンコブができていたり、
またある者はなぜか、両方の鼻の穴にビールのビンを突っ込んでいた。
もう無茶苦茶である。
なにが起こっても不思議ではない……それが夜中の宴会の状況だった。
そして……その宴会は朝まで続いた。
チュンチュン
小鳥の囀りが耳に響いた。
「う、ウーン……よく寝た」
周りの人間は皆眠っている。なかには気絶している人間もいるが、それは気にしない。
「うわ!なんかおかしいぞ!?」
「おまえが一番の中心人物じゃったよ」
厨房からマッシュが出てきた。
おそらくスープだろう。そのいい匂いがこの酒の匂いが漂うこの部屋にも届いている。
「そうか?……まったく記憶にないぞ?」
「ワシが覚えている限りでは、裸踊りを披露していたな。それも覚えておらんのか?」
「……マジで?」
「ああ。その後、酒のラッパ飲みをして、酒を含んで火を吹いた。それだけでは飽き足らずに、外に出て火を吹いておったよ」
さすがに、ユウイチから冷や汗が出てきた。
自分の記憶にないときにそんな事をしていたとは……
しかも、全然覚えていないのだ。
そんなコトを考えていると、
「……などと言う事は全然無かったのじゃよ!!」
「……ジィさん……ちょっとばかり冗談が過ぎてないか?」
ガシッ!
「あ、あの老い先短い老人にアイアンクローはないと思うのじゃが……」
「安心しろ。サックリと逝っていいからな……天国かな?地獄かな?」
異様な事に笑顔だった。ちなみに人間が日常のときに本気で怒ると、笑顔になるらしい。
しかし、その笑顔は怒りに任せて行動すると、どんなコトが起こるか分からないから、それを楽しむらしい。だから笑うそうだ。
ちなみに場の空気が読めないとさらにトンでもない事になる。
「あ、悪童の情報を教えるから……お願いしますだ」
パッ!
「なんだ。早く話してくれ」
その言葉を聞くと同時にユウイチはアイアンクローを外した。
「ケホッ!ケホッ!じ、実はじゃな……悪童は別に住人には嫌われてないんじゃよ」
「そうなのか?」
「ああ。こちらとしては悪人を捕まえてくれる。それに尽きる。それに彼が救ってくれた町民も結構いるしな」
「じゃぁ。嫌われてるのは海賊と海軍だけか?」
「まぁ、そうじゃが……妙な所がそこなんじゃ」
「どこがだ?」
ユウイチの疑問。別におかしい所は全然ない。
昨日聞いた情報とも一致する。
「海軍に完璧に嫌われているのじゃよ。そこからしておかしい」
「完璧に?どういう意味だ?」
「そのまんまの意味じゃよ……まぁ、普通は嫌われているといっても30%くらい嫌われるくらいじゃろ?訓練の成果を出せないからということと、賞金が欲しいから捕まえる、というその嫌悪感があるくらいなんじゃが、ここの海軍は100%嫌っているのじゃ」
妙と言えば妙かもしれないが、それほどではないような気がする。
ユウイチは
「別におかしくはないだろ?そんな海軍だってあるだろ」
「それだけではない。彼が来る前からここの海軍は公開処刑を行っていないのじゃ」
「……それは……おかしいな?」
「ともかく、彼を嫌っておる住民はおらんよ」
海賊を処罰する事で海軍の地位を向上させようとするのは当然だろう。
事実、殺さずに捕まえた場合の賞金は高い。が、殺せば3割の減額は免れない。
「まァ、そんなところじゃな。さ、メシにでもする……」
「よォ!ジィさん!2日か3日ぶりか?」
「……噂をすれば、なんとやらじゃな」
ユウイチは声のした方向に目を向けると、そこにいた。
おそらく、金髪の髪だろう。そのテッペンにはトレードマークと言うべきだろうか、一房の髪が触覚のようになっている。
顔は少々、童顔のようだが、まぁ、整っている。
体は細く見えるが、一切の無駄なく鍛えられているのが分かる。
こちらに近づいてきた。その歩き方は別段おかしいところはない。
しかし、おかしくないのに隙がない。
それがおかしい。達人には見えない。しかし、隙がない。
「なぁ……おまえがキタガワ・ジュンか?」
ユウイチの質問。
「そうだぜ。オレがキタガワ・ジュンだ。おまえが昨日の夜に山賊を追っ払った奴か?」
「オウ!俺が追っ払った……って、なんで知ってるんだ?」
「山賊に聞いた。オレも昨日山で会ってな」
2人の会話。何気に……いや、スゴイことなのだが、2人にとってはこれが普通なのだ。
そして……
「ジィさん……こいつ、ちょっと借りるぜ」
「なにをするつもりじゃ?」
「ちょっと、試す」
簡潔だったが、無視は出来ない。
ユウイチの実力を試すという意味だとすぐに気づいた。
そして、マッシュはおろか、町民は彼の強さをよく知っている。
「お、おい!待たんか!」
「おまえの名は?」
「ユウイチ……アイザワ・ユウイチだ」
「そうか……んじゃ、アイザワ……ちょっと付き合え」
「……ちょうどいいや。俺もおまえに用がある」
そうして、2人は山へと向かった。そこは昨日キタガワが山賊をボコボコにした場所だった。その証拠に木が折れている。
キタガワは指の関節を鳴らしている。
ユウイチも屈伸などの準備運動をしている。
「それでだ……キタガワ。俺の仲間になれ」
「仲間?なんのだ?」
「海賊だ」
ユウイチは断言した。
これ以上はないほど断言した。
「断る。なんで、悪党にならないといけない?」
「いいから。楽しいぞ」
「それでも、断る。オレには夢があるんでな」
「そんなの知るか!!俺がおまえを仲間にしたいんだ!!」
「勝手に決めるな!!とにかく、闘え!!」
足で地面を叩きながら、そう言った。
「嫌だ!!俺に闘う意味がねェ!」
「闘う意味がない……オレと闘うのが不満か?」
「そうじゃねェよ……だけど、闘う理由がないじゃねェか」
理由がないから意味がないのだ。
だから、ユウイチは闘いたくない。
「……オレにはあるが、おまえにはないか……こうしよう。俺に勝ったら仲間になってやる。約束は守る」
「ホントか!?俺は強いぞ!!」
「……だから闘いを挑んだんだ」
そう言ってキタガワは構えた。
腰を落とし、右腕を胸の高さに上げ、左腕は僅かに自分の体に寄せている。
ユウイチは構えない。
「……早く構えろ」
「俺に構えはないんだ」
「自己流か……いくぜ!!」
キタガワはユウイチとの間合いを詰め、下から上へ左肘を突き上げた。
「うわっ!……っこのヤロウ!」
ユウイチはそれを防御した。が、少し空中に浮いた。
その瞬間。
「月花……」
ゾクッ!
ユウイチの体の感覚が危険だと判断した。
その瞬間
ビチビリビリ!
ユウイチは体から電撃を放出した。
「なっ!」
キタガワは驚き、すぐに横に跳んだ。
頬を掠めた、その電撃は木に直撃し、その木を電撃は貫通した。
ビキビキ!
その貫通した木は折れた。
周りからも、木が折れる音がたくさん響いた。
キタガワは自分に当たっていたら……
戦慄した。冗談ではない。当たったら、死んでいたかもしれない。
「て、てめェ……いったい、何モンだ!?」
「俺か?俺は電気人間だ」
「……まさか……悪魔の実!!?」
「そういうこと……甘く見るなよ」
伝説だと思ったんだがな……キタガワは心中でそう思った。
1億はするという海の宝。
そんなの伝説だと思ってたが、現実に目の前にいた。
「……」
「どうした?ビックリしたのか?」
「……く、ククククク。いやな……嬉しくてな」
「嬉しい?」
「伝説は本当にあった……なら、オレの夢も叶う。そう信じれるよ」
先ほどの構えをもう一度した。
「……いくぞ」
ヒュン!
あっという間に間合いを詰めた。
今度はユウイチも反応している。
下からくる肘を、ユウイチは上から肘を落とした。
ガキッ!
キタガワはそのまま、止められはしたが、肘の動きをそのまま利用して、下からバック宙をした。
俗に言う、サマーソルトキックだ。
ユウイチは間一髪首を捻って、それを避けた。
「グゥッ!」
「これも避けただと?」
能力に頼るだけかと思ったが、そうではないようだ。
本当に強い。
キタガワはそう感じた。
ユウイチは
「!!」
雷撃を纏った蹴りを繰り出した。
ギリギリのところで着地したキタガワはそれをジャンプして避けた。少し後方に跳んだ。
避けた蹴りは、地面から離れていたはずなのに、地面が抉れた。
「クォ!」
その跳躍も、キタガワはサマーソルトキックをしかけた。
これは届かなかったが、ユウイチの前進を防ぐのには効果的だった。
結果として、彼はキタガワに密着できなかった。
キタガワが着地した瞬間、さらに後方に下がった。
(厄介……な!?)
キタガワは眼を疑った。
なにしろ、ユウイチは正拳突きの構えを取った。
しかし、前述した通り、キタガワを殴るには間合いが遠い。
意味のない行為……そう思った瞬間
キタガワのいる場所の空気が乾いたような気がした。
(これは……ヤバイ!!?)
キタガワはすぐに右に跳んだ。
「!!」
ユウイチが正拳突きをした瞬間。
雷の拳が飛んできた。キタガワが飛ぶ前にいた場所にだ。
一直線の突きだが、周りに多大な被害を撒き散らしながら跳んできた。
なにしろ、周りの木が吹き飛ぶ、吹き飛ぶ。
キタガワが目撃しただけで、10本は吹き飛んだ。
キタガワはもう一度その攻撃が来る前に、接近戦をしかけるべく、近づいた。
「この……自然破壊ヤロウが!!」
空手で言う、胴廻し回転蹴りがユウイチに跳んできた。
ユウイチはそれを防御する。
「今のは火拳のつもりかよ!?アイザワ!!」
「噂に聞いてたからな……出来るとおもったんだよ!!」
火拳……それは、にいる海賊である、火拳のエースの技である。
ユウイチはそれを火の代わりに雷で代用したのだ。
キタガワは片足を着地させた。
「この……猿真似ヤロウが!!」
その着地した足を浮かせた。
片足だけで助走なしで跳ぶ……それは普通の人間ならできない。
だが、この男の脚力は普通ではない。
それをやってのけた。
「龍牙!!」
そのまま、がら空きの顔面にカカトの蹴りを繰り出す。
片足をユウイチはまだ防御している。この態勢なら、足と足で挟まれる。
しかも、ユウイチの手に当たっているのはカカト。添えられているのが硬いため、多大なダメージになるのは明白である。
「チィ!」
ガキィ!
ユウイチはそれをシャガんで避けたのだ。そして、後転しながら、離れていった。
キタガワのカカトとカカトが当たった音がする。奇妙なコトにナゼか、それで周りの木が倒れた。
「な、なんだ?おまえも悪魔の実を食ったのか!?」
普通の人間なら絶対にできない。
攻撃を当ててもいないのに、周りの木を倒すなど……
「……おっさんに教えてもらったんだ、このやり方を……」
「おっさん?誰だ?それ?」
「オレの武術の師匠だ。なんでも、振動が武器だそうだ。だからこんなコトができる」
ヒュン!
その言葉と同時にキタガワが駆ける。
しかし、ユウイチも予想していた。
「!!」
ユウイチは適当に電撃を体全体で放った。
ユウイチから雷が放たれる。普段は使わないのだ。この手の技は。
この手の技の欠点は、命中率の悪さ。だが、適当に、膨大な数の電撃を放てば、その欠点はなくなる。
一発当てればそれでいいのだから……
(一発当たれば十分!)
当てれば隙ができる。
その隙に攻撃すればいいのだ。
しかし、まるで読んでいるかのごとく、キタガワはその攻撃を避け続ける。
「な、なんだと!?」
「おまえの電撃な……放つとき空気が乾くんだ……だから、軌道が読みやすい!!」
ドゴッ!
空気は絶縁体である。雷が落ちるときは、アースが道を作る。
だから、雷は落ちるのだ。勿論、ユウイチはそのコトを知らない。
感で使っている。
それはともかく、キタガワの右の拳がユウイチの腹に直撃する。
そして、両肩と両脇腹に連撃を叩きこむ。
「!!」
ユウイチは吹き飛んだ。
吹っ飛んだ先の木に激突した。
「ガハッ!」
ユウイチの口から呻き声が喉から噴出した。
口からも血が出てきた。
「クソッ!口切った!」
「……あの一瞬で後ろに跳んだのか」
「……でなェと、立てねェよ」
正拳突きの時に、後に跳び、ダメージを少なくしようとしたのだ。
キタガワも気づいていた。殴った時の手応えがイマイチだったのだ。
「ぐっ!すげェな……?体の中がバラバラになりそうだぞ」
「体の中に衝撃を叩きこむ技だからな。不十分とはいえ、受けて立った奴は始めてだ」
「そいつはどうも……それはともかく……おまえ強いから、切り札使うことにするぜ」
そして、立ち上がった。
「切り札……だと?」
「ああ……これが俺の切り札だ」
ユウイチが取り出したものは……シャンクスに一緒に貰った、あの黄色い鉄だった。
TO BE CONTINUED
後書き
どうもっす。
いやぁ。時間がかかって申し訳ないです。
これからはなるべく早く書きますのでなにとぞご容赦を……
読んだ人はなるべく感想をくれると嬉しいです。
つまらないというモノでも結構です。
むしろ、そのほうが、欠点がわかるので、悪いところがあればドンドン教えて下さい。
可能な限り直しますので。
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