ONE PIECE 〜外伝〜 一話 悪童の噂
広い海の上……そこに一隻の船があった。
船というには若干小さい。さながらボートといった大きさだ。
その船上に一人の少年がいた。
服装は上は黒シャツで、下は蒼いズボンだ。
蒼いズボンは所々破けたりほつれたりしている。
「ううむ……ここはどこだ?」
それは簡単な事だ。
ユウイチは海賊になるために基本的なことは学んだ。
料理に関してはイマイチだが、他の技術は基本的なことは一通りできるのだ。
特に戦闘という技術はとんでもなく高い。
しかし、抜けているところがあった。
彼が失敗したのは、自身が気づいていないが、方向音痴であること。
そして、眠るときに錨などの装備を積んでいないため、錨を降ろさなかったことだ。
それがかなりの致命傷だった。現時点の居場所がどこかわからない。
「まぁ。予定は予定だからいいとして!ちょうど街も見えたし、あそこに上陸だ!」
そこはアルスティングの街。
海軍の基地もある街で、なかなか治安が良いらしい。
彼の最初の上陸場所となった。
しかし、ユウイチは最初の上陸場所であるこの街の名前をまだ知らない。
上陸後、ユウイチは早速、メシを食べるために食堂に向かった。
食堂といっても酒場を兼ねている店だ。
着いた早々、
「おっさん!肉と魚!4人前ずつ!ライスも4人前頼む!」
いきなり12人前のメシを注文した。
ウェイトレスは笑顔で尋ねた。結構かわいい。
「失礼ですが、お一人ですか?」
「そうだぞ。腹が減ってるんだ」
「かしこまりました」
ウェイトレスは引っ込んだ。
なかなか豪快な注文だったはずだが、妙に慣れていた。
ユウイチはメシが来るまでにこれからの進路を考えた。
「いきなり躓いたからな。どうするか?」
腕組をしながら、唸っていた。
そして、
「よし!とりあえずこの街に滞在して仲間を集めるか。そこから始めよう」
彼はそう計画した。というよりものスゴく適当である。
そして彼のメシが届いた。
「お待たせしました」
「おおーー!うまそーだな!」
目の前のご馳走に夢中になっていた。
無理もない。船の上での食生活は元来、大食いであるユウイチには耐えがたいほど少なかったのだから。
「いっただきまーす!」
ガッツ!ガッツ!ムシャムシャ!
一心不乱にメシを彼の口に運んでいた。
その姿はまさに下品そのものだ。
そこにウェイトレスが話しかけてきた。
「お客さん。なにしにきたの?」
「ブン?(うん?)」
「呑みこんでからでいいから」
苦笑している。
ユウイチはメシを飲み込み、
「ぷはァ!うまいな!このメシ!」
「そう?よかった。で、なにしにきたの?」
「ああ。迷ってここに流れついたんだ」
「迷ってたの?流れついたって?」
「俺は海賊だから」
『か、海賊!?』
海賊という単語が出て、店内は静まり返った。
緊張が走った。
「ああ。まだ、俺一人だけどな」
「あ、ああ。か、海賊志願なのね……ああ、びっくりした」
「どうかしたのか?」
別に海賊が怖いと思うのは当然としても、この時代では海賊は珍しくないはずだ。
ここまで、驚く理由がわからない。
なぜなら、この街には海軍がある。その規模はかなり大きいはずだ。
「じつはね……この街には、その海賊に恨みを買ってるヤツがいるのよ」
「?誰だ?そいつ?」
「賞金稼ぎなんだけど、この街に結構前からいるの。賞金がある海賊は大抵彼が捕まえてるから、海軍にも海賊にも嫌われているのよ」
ユウイチは軽く驚いた。そして、同時に感心した。
海賊が多い時代において、賞金稼ぎも多いのは当然だろう。
しかし、海軍に嫌われるほど捕まえる賞金稼ぎはなかなかいないはずだ。
それが賞金額の低い小物の海賊であったとしてもだ。
ユウイチはその男に興味が湧いた。
「なぁ。そいつ今どこだ?」
「この店でて、ちょっと進んだ先に右側に宿屋があるの。そこにいるとおもうよ」
「ありがとう。勘定は?」
『は、はやッ!』
「い、いつのまに食べたのよ!?」
「話しの合間に食べたんだ」
あっさりと言われては引き下がるしかなかった。ちなみに彼が支払った額は12人分だったため相当高かったと明記する。
店を出たユウイチは
「さてっと。行くか」
ユウイチは歩き始めた。歩く途中に雨が降ってきた。
「ゲッ!やべ!」
彼は頭を押さえて宿屋に直行した。
雨が彼の体を包んでいた衣服を貼り付かせる。
そして、宿屋に到着した。
宿屋はナゼかキノコの形をしていた。
それはともかくユウイチは宿屋に入った。
カラーン
ドアにはベルがついていた。
ユウイチが入るとドアからベルの音が宿屋に響いた。
「はいはい。どなたかな?」
「部屋は空いてるか?空いてたら泊めてくれ」
無遠慮な頼みだった。
そして、宿屋の主人が出てきた。
「空いてはいるけど、あまりいい部屋じゃないんだが、よろしいかね?」
「平気だ。俺もいいヤツかと聞かれると、意見が分かれるからな」
「関係ないだろうが。クックッ。じゃ、案内しよう」
階段を上がり、部屋に案内された。
そこでユウイチは本題を思い出した。
「そうだ!この宿屋に賞金稼ぎいるか?」
「いるが……もしかして、そいつが目当てか?」
「ああ!いるか?」
「いる……正確にはいた。が正しいな」
「いないのか?」
ユウイチは落胆した。
せっかく会いにきたのに本題がいないのだから沈んだ。
しかし、宿屋の主人が
「ああ。まだいる。いまは出かけてるんだ」
「どこにだ?」
「わからん。まぁ、海に出て海賊を捕まえたか、山に修行に行ったかのどちらかだな」
「そうか。じゃァさ、いつ戻ってくる?」
「分からんが、早くても明日まで戻ってくないだろうな」
ユウイチは少なくとも一泊することは決定した。
そして気づいた。
「そういえば、賞金稼ぎの名前を知ってるか?俺、名前は知らないんだよ」
「そんなことも知らんのか?そうだな、名前は……」
主人はそこで言葉をきった。
そして……
「マッシュ=R=ミラーノじゃ」
「聞いたことないな?」
「そりゃ、当然じゃ」
「なんで?」
ユウイチの言葉に会心の笑みを浮かべながら、こう言った。
「なぜなら……」
「なぜなら?」
「それはワシの名前だからじゃ!」
「帰れ!クソィ!」
ユウイチの突っ込みが炸裂した。
「済まん、済まん。冗談じゃ」
「つまらない冗談はいいから、とっとと教えろ」
「最近の若いモンは……こんなやつばかりだから、時代は荒んでいくのかもしれないのゥ」
「はやく教えろって……悪かったよ」
普段のユウイチならもっと突っかかるのだが、この爺さんにやってもロクなコトにならないと判断した。もしかしたら、自分と同レベルでふざけるのが好きなのかもしれない。
そう判断した。
「そうじゃな。名前は……キタガワ=ジュンじゃったな、確か」
今度はユウイチが会心の笑みを浮かべた。
「会うのが楽しみになったぜ。ジィさん。早く会って、この目で確かめたい」
最近、彼の名前はよく聞く。
彼の異名としてよく聞くものは
悪童。という通り名だった。
なにが悪童なのかは知らないが、ユウイチが気にしているのはもう一つの噂だった。
恐ろしく強いという噂だった。
それが本当なら彼としても仲間にしたい。
もちろん、会って性格なども確かめてから仲間にするかを決めるが、会ってみたいのだ。
「良い噂は聞かない男だぞ。やれ、守銭奴。やれ、悪魔。etcetc」
「ジイさん。そんなの会ってみないと分からないだろ?」
「……まぁ、いい。頑張りな」
マッシュはユウイチの説得は諦めた。
彼の目はまだ見ぬ一人の男に向けられていた。
しかし、
ガシャァン!
窓ガラスが割られる音が聞こえた。
マッシュは階段を降りた。ユウイチもそれについていった。
ユウイチとマッシュは見た。そこにガラが悪い男たちがいる。
堂々と腰に剣を携えた男たちだった。
「主人。命が惜しければ全財産を俺たちに寄越しな」
悪役の決まり台詞を吐いた。すでに男は剣を抜いている。
恐らくリーダーだろう。身長だけなら180を超えている。
「な、なんじゃと!?」
「聞こえなかったのか?もう一度言う。全財産を俺たちに寄越しな」
『エッヘッヘ』
男の配下も後ろで笑っていた。
いいカモが見つかった。そんな笑いだった。
一人の配下が前に出た。そして、マッシュの胸倉を掴んだ。
「オイ!とっととダせって……」
ドカッ!
男は宿の出口まで吹っ飛んだ。
マッシュのピンチを救ったのは、やはりというかこの男
「もう少し老人を労われ!このバカ野郎が」
ユウイチだった。彼は男の顔面に拳を叩きこんだ。
それに激昂したのが、配下の手下だった。
「なんだ!このクソガキが!!ぶっ殺してやる!!」
今度は剣を出して近づいてきた。
走りながら、剣を頭上に振り上げて、それをそのままユウイチに落とそうとした。
しかし、ユウイチはその剣を振り落とされる前に、
「トリャ!」
蹴りを、振り上げた男に向かって繰り出した。
ドカァ!
宿屋に彼の蹴りの音が響いた。
蹴られた男と殴られた男はすでに白目を剥いている。
一同はその光景を見て言葉を失った。
自分達は今、野獣の檻の中にいるのではないかという錯覚をうけた。
それほど目の前の男の強さは異常だった。
「俺はともかく。まだ抵抗らしい抵抗してないヤツ掴まえてなにしてやがる!」
ユウイチはそう言った。
彼はマッシュの胸倉を掴まえたことに対して怒っていた。
抵抗らしい抵抗も見せていない老人を襲う。それがユウイチの逆鱗に触れたと言っていいのだろう。
しかし、ユウイチの行動が原因で逆鱗に触れた人物がいた。
「いい気になるなよ……そんな理由で命を落とすか……てめェの不運を呪いな!」
リーダー格の男が剣を出したかと思った瞬間、ユウイチの前に現れた。
少なくとも部下にはそう見えた。しかし、ユウイチには丸見えだった。
ユウイチから見て左から横一文字の斬撃だ。
ユウイチはあっさりとそれを跳躍して避けた。
「ドリャァッ!」
ゴキャァッ!
そのジャンプの勢いをそのままに右ヒザを顎に当てた。
顎の骨が砕ける、気味の悪い音が宿屋に響いた。
後に倒れこみそうになるが、リーダーはなんとか耐えた。
「タフだな。手加減したけど立ってるよ」
感心していた。ちなみに彼の言う手加減とは、力加減ではなく能力を使っていないことをさす。リーダーは何かを口走っている。
おそらく、自分が負けたのを認めたくないのだろう。
「オレは56人を殺した!700万ベリーの賞金が懸かってる!このオレが!やられるわけが!やられるわけ……!」
「顎の骨を砕いてゴメン」
ユウイチは謝罪した。
ドスンッ!
それを聞いてか、山賊のリーダーは力尽きた。
子分たちはリーダーが倒れたために戦う気力はなかった。
ギロッ!
ユウイチは手下たちを見た。
彼にしてみればただ見ただけだが、彼らにしてみれば睨まれたも同然だった。
『う、ウッワァァァ!』
彼らはそう叫びながら宿屋を出ていった。
リーダーも背負っている。部下には少しかもしれないが慕われていたようだ。
山のある方向に向かって逃げていった。
「だらしねェな……もうちょっと歯応えがほしいんだけどな」
「……に、兄ちゃん。あんた何者だよ?」
「俺か?俺の名はユウイチ。海賊王になる男だ」
ユウイチはサムズアップした。
マッシュは笑った。
「クハ……クハハハハ。おもしろいよ。おまえはホントにおもしろいヤツだよ。宿代はタダにしてやるよ」
「ホントか!?ありがとう、ジイさん!」
こうして、この街での宿の心配はなくなった。
山の中
先程、ユウイチに完膚なきまでに敗北した山賊のアジトだった。
「え、えれェ目にあったな」
「ああ……とんでもない強さだったな。頭が一撃でのされちまうなんて……」
先程のユウイチの強さに恐れをなした山賊たち。
しかし、彼らの不運はこれだけではなかった。
「……誰が強いって?」
山賊たちはその声につられて後ろを向いた。
そこにいたのは、金髪で髪の一部が触覚のようになっている男だった。
「だ、誰だ!?てめェは!?」
「まぁ、いいじゃないか……悪いけど捕まってもらうぞ」
「や、ヤロー共!!かかれ!!」
男は溜め息を漏らした。
そして、山賊たちは一斉にその男に攻撃をしかけた。
10分後
残るのは雨の音。
山の中は本当に静かだった。
しかし、いつもなら山賊たちの賑わいの音が聞こえるはずだが、今日はしない。
なぜなら、彼らは大部分の山賊は気絶している。
男は意識が残っているであろう山賊を捜した。
そして、運良く(山賊にとっては不運)見つけた。
彼は襟元を掴んだ。ドスを聞かせるべくなるべく低い声を出した。
「誰が強いって?」
山賊は震えた。目の前の男の強さに、そして今日に限って二人の怪物に会ってしまったことを。
「き、今日……キノコの形をした宿屋に奪いに行ったんだ」
「ほゥ……それで?」
自分が泊まっている宿だったため多少の驚きがあるがそれを無視した。
なおも、詰問する。
「そ、そこで一人の化物がいたんだ」
「誰のことだ?」
「わ、わからねェ。この辺じゃ見ないヤツだった」
フム、と男は考えた。
「まだそこにいるか?」
「た、多分いると思う。だから離してくれ!」
男が離すと、その山賊は一目散に逃げていった。
「化物……ね。ちょうどいい。明日会いに行ってみるか」
トン
男は木に拳を押し付けた。変化は何もない。
そして、すぐに自分のテントに戻っていった。
その瞬間
メキメキィッ!
彼が触れた木が何の前触れもなく折れた。
その男は心底楽しそうに笑った。
その頃、ユウイチは
「ジィさん!メシ、もう一人前追加だ!」
「宿代はタダだが、メシ代だけは払ってケ!!」
山賊を追い払ったユウイチはその宿で宴会だった。
しかし、マッシュはユウイチの胃袋のデカさを知らなかった。
ユウイチの食費だけで相当な額に達すると判断したマッシュはメシ代だけは払わせようと心に決めたのだ。
その姿は命の恩人だと言うことをまるきり忘れていた。
ちなみに、なぜか宴会に出席した人は町民ほぼ全員だった。
後書き
オチにユウイチの胃袋のデカさを使ってしまいました。
まぁ、いいでしょう。この話しのユウイチは大食いです。
それも、並ではありません。やっぱり海賊は体が資本ですから。
お詫び
前回、ユウイチに質問をした男のことで、ベンベックマンと書きましたが、間違いです。これは副長でした。
本当に申し訳ございません。名前をど忘れしてしまい思いついたのがこの副長の名前だったのです。ご指摘を下さいました方々、ありがとうございます。
そして、申し訳ございません。
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