ネェムレスが覚えている中で、もっとも古い記憶は従者の少女『梅雨姫椿』が雨が降る中、泣いている姿である。

 何故泣くのとネェムレスが尋ねると、椿はネェムレスへと振り向いた。

 涙で濡れたその悲しみの顔に、声が出ない。




 「私は、貴方を……… 守れなかった………」




  名前を損壊して失ったネェムレスは、少女が誰なのかも思い出せない。

 だけど彼女が自分にとって大事な存在という事はかろうじて思い出せた。

 だから、持っていた傘を差して雨から少女を守る。




 「何が強い五つ尾ですか、大事な人一人守れない、ただの弱虫から変わってない………ッ!」

 「――――!?」



  少女がネェムレスに抱きついた。

 何度も何度もごめんなさいと、ネェムレスに謝る。

 ネェムレスはどうすれば彼女の涙を止めさせられるか、分からない。

 ただ、ずっと、彼女が泣き止むまで一緒に居てあげた。

  きっとそれだけが、彼女の望んだ懺悔なのだから。










 










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                縁の指輪 
    三の指輪 二刻目 己の尾を喰らう蛇<ウロボロス>


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 「くはは、まさかまさかまさか、まさかな…
  この私が逃げ帰るはめになるとは、世の中思ったとおりにいかないということだな………
  いい経験をさせてもらったよ」




  真紅の瞳を爛々と輝かせて、エギテレィスは呟く。

 口は血で濡れており、吸血行為をした事は確かだった。

 現に彼の足元には数秒前まで人間だった「吸殻」が落ちている。

  その「吸殻」はゆっくりだが、吸血鬼化を始めていた。

 このまま行けば数分もかからず、「吸殻」も吸血鬼となるだろう。

 だがそれは間の前の男が許さなかった。




 「疎いぞ、塵」



  エギテレィスは分厚いブーツの底で「吸殻」の心臓を踏み潰した。

 その一撃で「吸殻」は木っ端微塵に粉砕される。

 いかな吸血鬼とはいえ、成り立てで心臓を破壊されれば即死だ。

 ましてや腐っても公爵級吸血鬼、成り立てでは勝ち目など夢のまた夢である。

 その点でも綾美が普通の吸血鬼とは違う存在である事が知れた。

  自分の僕を殺しておきながら、エギテレィスは顔色一つ変えない。

 たかが食事の残りカスの末路など、彼にとってどうでもいい事である。

 根っこから腐った自己愛の化身に、そんなまともな思考があろうはずも無い。




 「さて、製作したキメラの数はまだ大量にあるが……… あの『眼光』には通じまい」




  キメラは確かに教会や聖十字の一般兵士など相手にならない能力を保有している。

 だが聖十字軍最強の一人と歌われる『眼光のアスラル』相手では役にも立たない。

 ましてやさきほどの少年や、これから会う予定の吸血鬼にさえ軽く倒されるだろう。

  一応、こって作った傑作もあるにはあるのだが、これらは本当に『アイツら』との戦いのために取っておきたい。

 ………しかし、一個ぐらいの使用なら問題は無いだろう。




 「材料はこれから手に入る、破壊の瞳に月と太陽の魔眼!
  まさかここまでの魔なる瞳を同時に見つけるとは、これは行幸!
  アスラルよ、汝には我が贄となってもらおう」




  腐った性根を持つ竜は、吼えた。

 だがその耳には、あの空白の少女の笑い声がこぶりついて離れていない。

 どこまでもその笑い声は、この竜をあざ笑っていた。











 「錬、はっきり言うけど、君、危険よ」




  家への帰り道で合流したアスラルは、最初に錬へといった。

 錬は最初、何の事か変わらずきょとんとしていたがすぐに思い当たって言い返す。




 「分かってる、誰よりも一番、自分が知っているさ」




  すぐに錬は肯定したが、アスラルはゆっくりと口を開いて言う。

 その瞳は瞬きすらせず、錬を凝視している。

 眼帯をしているので見えなかったが、そうなっているはずだと錬は思った。




 「魔眼や神眼というものは、人の精神に強く干渉する。
  私の『太陽』と『月』もしっかりとした制御をしなければ私が危険になってしまう魔眼よ。
  貴方の眼の制御は指輪だけなの?」

 「自分の知っている限り、それだけです」

 「その指輪は壊れる可能性がある」




  あっさりとアスラルは言った。

 それに錬は動揺を隠せない、『黒月の指輪』は錬にとって唯の道具ではなく昼夜のくれた大事な思い出の品なのだ。

 故にその指輪が壊れるかもしれないと聞いて、震えた。




 「どうして」

 「眼系の能力は成長と共にゆっくりだけど確実に力を増していく。
  人間の神経と異質な感覚の同調率が上がるのが理由という説もあるけど、実際の経験で私は良く知っているわ。
  今まではその指輪の機能でも十分だったけど、この先もそうとは限らない」

 「――――!?」

 「一応、副指令が何故か『この事』を知っていて新しい道具を作っているそうよ。
  まるで未来を知っているみたいに根回しがいいわ」




  アスラルの言葉を聞きながら、錬はゆっくりと指輪を眺めて見る。

 そして、うっすらと入った罅を見つけた、いや見つけてしまった。




 「もう、長くは持ちそうにありません」

 「どうして?」

 「うっすらだけど、罅が入ってる」

 「え―――!?」



  アスラルも指輪に顔を近づけ、その罅を凝視する。

 その罅は決して深く無く、よほど集中しなければ見えない。

 だが、通常の物質ではない指輪に罅が入っている事が問題なのだ。




 「―――急ぎなさいよ、『K』」




  うっすらと冷や汗をかきながら、彼女は囁いた。











  数枚の書類に必要事項を書き、ネェムレィスはやっと一息をつく。

 別に書類を書く事に緊張しているわけではない、むしろいろいろな国を回っているので慣れているぐらいだ。

 緊張の原因は自分の背後でにらみ合う、荒神冬未と天馬雪雄にある。

  異様に殺気を撒き散らす雪雄に対し、冬未は簡単にその殺気を受け流す。

 それに苛立ち雪雄の殺気は増し、ネェムレィスはどうしても反射的に刀を抜いてしまいそうになる。

 さらには従者である梅雨姫椿がそれに対し攻撃を仕掛けようとしていたので、黒雨雄途という少年に頼んでホテルに帰ってもらった。




 「えっと……… すみませんが判子をお願いしたいのですが、どうでしょう?」

 「分かっているわ、ごめんなさい。 いろいろ悩み多き年頃の子だから」

 「……………!」




  今にも刀を抜き出しそうな雪雄を右手で押さえ、冬未は何処からか判子を取り出し書類に捺した。

 一度、かなり鋭い目で雪雄をにらみつけたあと、お茶を取り出してきた。

 ………いや、それはお茶ではなくそれに酷似した色のドリンクである。

  瞬間、それを見た戦闘六課隊員は司令たる冬未を除いて非常口から飛び出していった。

 まるで恐ろしいものを見て、逃走したかのように。




 (ま、まさかな………)




  いくらなんでもドリンク一つに対して屈強たる戦六隊員が逃げ出すとは到底思えない。

 だが、このドリンク以外に理由を思いつく事は出来なかった。




 (今のうちに俺も逃げるかッ!?)

 「どうぞ遠慮なさらず、お飲みください」

 (お、遅かった!?)




  選択肢が無くなった事を知り、ネェムレィスは心の中で絶叫した。

 見た目は普通のドリンクである、だが何故冷たいはずのドリンクが沸騰しているのか?

 あげく、時々出てくる紫色の煙は何なのか?

 それを素直にドリンクと表現する勇気はネェムレィスには無かった。




 (すまない姫椿、今日は帰れないかもしれない)




  心の中で姫椿に謝罪し、そのドリンクらしき液体を一気に飲み干した。

 一瞬の時間を置いてから、今まで体験した事の無い味が彼の味覚を蹂躙する。

 刺激的など生易しい、とんでもない激痛に酷似した味。

 いまさら、逃げなかった事を後悔した。











 「大丈夫か」

 「眠い………」



  雄途に声をかけられて、道を歩いている姫椿は返した。

 言われなくともその顔と動きを見れば眠い事がよく分かる。

 それなのに肩に担いだ槍は全くふらつかない。




 「ずいぶん、重そうな槍だな」

 「槍……… そうですね、そうかもしれません」

 「いや、どう見ても槍だろう? まさかこれが銃器とか鈍器とか言わないよな?」

 「これは、螺旋です」




  狐に化かされたかのような顔をする雄途を置いて、姫椿は道を歩む。

 横断歩道に差し掛かるが、信号が赤だったので立ち止まった。

 すぐに雄途が追いつき、それを合図にしたかのように信号が青になる。




 「えっと、螺旋って何なんだ?」

 「螺子と同じです、この槍は見た目が螺旋に似ています」

 「変な槍だな」

 「ええ、私もそう思います」




  姫椿は雄途と共に、横断歩道を渡る。

 向こう側の歩道にたどり着くと、姫椿は周りを見渡した。

 その動作の唐突さに、雄途は一瞬反応が遅れる。




 「どうした?」

 「吸血鬼の匂いです、近くにかなり強い存在が居ます」

 「―――何!?」




  雄途も慌てて周囲を警戒した。

 怪しい人影などは無いが、それ以上に問題視するべき事がある。

 それは………




 「人払いの結界か―――!?」




  たとえ夜中といえど、街中で車一台も居ないという事はほとんどありえない。

 それだけなら確率的にあるかもしれないが、周囲の異様な気配が異質な空間である事を伝えていた。

 雄途は即座に戦六で教わった知識の中からそれに酷似するモノを考える。

  ルーン『刻印』を利用した結界だ。

 雄途はすぐに壁に彫られた小さなルーン文字を見つけた。

 ―――『神秘』『秘密』を示す24の魔術文字、古代英語のルーツとされている。

  すぐにルーンに関係する知識を思い浮かべ、それに対抗する手段を考える。

 答えは簡単だ、彫られたルーンを壊してやればいい。

 雄途は持っていたミスリル製のナイフでその刻印を削り取ろうとした。

 だが姫椿はその手を止める。




 「待ってください、これは罠ではありません。
  隠れている場所に偶然、私たちが入ってしまっただけです」

 「たしかに俺にはある程度耐性があるからあるかもしれないが、そんな偶然あるのか?」

 「心あたりが一件」




  人差し指を立てて姫椿は呟く。

 そして背負っている槍から布を取った。

  その槍は酷く、螺旋を思わせる形状をしている。

 まるで螺子のような、まるで塔のような、独特な形状だ。

 だがその先端には鋭利な刃があり、それが槍であることを示していた。

 これこそ、螺旋槍・ブリガンティアと呼ばれる魔槍。

  ブリガンディアは突然、螺旋にそって変形し巨大な剣になる。

 だがそれもやはり螺旋を思わせる形状をしていた。




 「三流以下のエセ紳士がいるとおもいます」

 「一体どういう説明なんだよ、全く」




  姫椿が小さく何かを呟く。

 その口の端から、少しずつ青白い霧のようなモノが出てくる。

 すこししてからその霧はおさまり、姫椿は人差し指をある方向に向けた。

  すると姫椿の指差した方向から、一人の男が歩いてくる。

 一目でそれが人間では無い事が分かった。

 いや、この結界に入れる時点で普通の人間ではありえない。

  男は、足を止めてその姫椿へと話しかけた。




 「始めまして、お嬢様」

 「そうですよ。 初対面ですね」

 「で何のようだね、私はここで食後の休憩をしているのだが?」

 「ではそれを最後の晩餐にしてください、大敵」




  隠し持っていたナイフをエギテレィスへと投げつけた。

 エギテレィスはそれを影から出した人狼の手で弾く。

 そして雄途もやっとその男が何なのか気づき、『黒き髪の王』で黒い剣を作り出した。

  エギテレィスは姫椿を見て、ニヤリと生理的嫌悪を感じる笑みを浮かべる。




 「そうか、名無し君の従者をしている妖狐か。 話は聞いているよ、名無しを守っているせいで里から追放されたのにな」

 「知ってるなら、話はそれでおしまい。 主の手を煩わせる事が無いように、この場で駆逐してさしあげる」

 「ク――― ハハハハ! 吼えるな女、君ごときに私が手を下す必要なんて無いのだよ!」




  突然、エギテレィスの影がその面積を増した。

 その影から何体ものキメラがあふれ出してくる。

 どれも統一性が皆無で、そのデタラメな姿に不快感が背筋を這う。

  エギテレィスは笑みを深めて、嘲りを含んだ声で言った。




 「では、よい夜をお楽しみください。 お嬢様、お坊ちゃま、どうぞくたばるまで元気にお過ごしくださいませ。
  ク――― ハハハハハハハハッハハハハハ!」




  姫椿達に背を向けて、悠然とエギテレィスは立ち去る。

 もちろん彼女達も追いかけようとするが、キメラがそれを阻んだ。




 「く―――!」

 「どけ、姫椿! 当たるとお笑い話だ」



  奇妙なほど冷静な雄途の声を受けて、急いで姫椿は横に飛ぶ。

 瞬間、キメラ達が黒色に染まった。

 そして一瞬で、完全に死滅する。




 「行け、このゴミ屑の相手は俺がする!」




  雄途が掲げた黒い剣から、黒い霧があふれ出している。

 これぞ雄途の異能『黒き髪の王』の本当の力、死の感染。

 その絶大な威力に驚きながらも、姫椿はエギテレィスを追い高々とジャンプしてキメラ達を通り越した。

 キメラは振り向き彼女を襲おうとするが、雄途がそれを許さない。




 「おい、継ぎ接ぎ人形。 お前達の相手は俺がしてやる」




  嘲りを含んだ声でキメラ達を挑発する。

 それに自我の無いはずのキメラ達は怒りをあらわにした。

 その反応はまるでエギテレィスを思わせる。




 「はッ、製作者によく似てるな。 薄っぺらいプライドと、馬鹿大きい自信過剰は。
  この程度の挑発でキレるのは三流、いやそれ以下の証明だ」




  剣を高々に上げて、雄途は吼える。




 「戦闘六課異能者、黒雨雄途。 お前達の死を運ぶ黒い剣士だ」




  一方的な殺戮が始まった。

 無論、加害者は雄途、被害者はキメラ達である。











  翔ける。

 青白い魔力を口から漏らしながら、姫椿という名の妖狐は翔ける。

  死にかけていた自分を助けえてくれた主人のために、人ならざる女は翔けて行く。

 螺旋剣を振るい、立ちふさがるキメラを切り払いながら走る。

 すぐにエギテレィスの背中が見えた。

  獣の牙を剥き出しにし、怒り狂った獣のように唸る。

 その口からは青白い霧がとどまる事無く溢れ、周囲を淡く色づけ始めた。




 「追ってくるとは、命を大事にしないお嬢様だ」

 「すぐにそんな無駄口を叩けなくしてやる」

 「ク――― ハハ、残念だが君みたいな下等生物と戦う趣味は無いのでね」




  突然、エギテレィスの影が爆発的に拡大する。

 奴の影の中から、巨大な毛むくじゃらな手が突き出し、影のふちを掴む。

 そしてその手に力を込めて、影から何かが体を上げた。

  まるでそれは亀の甲羅を鎧にして纏った、巨大な熊。

 その目は右側がつぶれているが、その代わりなのか左目が二つある。

 骨が額の皮膚を突き破り、角として生えていた。




 『………アルジどの、コノ女ヲたおセばヨイのデスネ?』

 「そうだ、わが最高傑作!
  見せてやりたまえ、君の理不尽を、存在する価値もない屑に!」

 「自分の事をよく分かっていますね、三流の屑」

 「殺せ!」

 「ワンパターン、切り伏せてさしあげる」




  心底、この男の愚かさを噛みしめてから姫椿は呟く。

 先の毛がこげ茶色をした狐の耳や尻尾など、獣の本性をあらわにし、彼女は螺旋剣を構えて突撃する。

 エギテレィスは笑いながら立ち去っていった。











 「心配したよ錬」

 「綾美、心配させてすまない」




  家に帰り着いた錬は真っ先に玄関で待っていた綾美に謝った。

 怒る前に安心して綾美はゆっくりと一息つく。

 アスラルは不機嫌面で廊下に置かれた椅子に座った。




 「本当に心配、したんだよ」

 「……………すまない」

 「………傷薬でももって来るね」




  泣き顔になり、今にも泣きそうな顔をして走り去った綾美を見て、心底錬は自分が嫌いになった。

 衝動などに踊らされて彼女を心配させるなど、大馬鹿だ。

 心の中で自分を罵倒し、錬は床に座り込んだ。

  紅の魔術の反動かしらないが、異様に肉体が疲労していた。

 体の動きが鈍く、それ以上に今すぐにでも寝てしまいそうなほどだるい。

 その癖、体は冷え切っており熱など無かった。




 「―――アスラル、これが魔術の反動なのか?」

 「そうね、紅は自分自身を改変する。 多分『終了処置』が失敗したんでしょう」




  紅の魔術によるブーストから、元の身体能力に戻る時、普通なら反動を極力抑えるように特殊な処置が自動で行われる。

 だが錬は普通の魔術士ではなく、強引に薬物で魔術を使えるようにした人間にすぎない。

 ゆえに彼は本当の魔術士なら無意識に行う『終了処置』ができなかったのである。




 「一日、一回か二回の使用が限度だ。 しかも威力をセーブしないと体が壊れる」

 「アレフも薬物で回路を焼き付けるのなら、『終了処置』も焼き付けといて欲しいわよ」

 「簡単に言わないでくださいよ、死ぬほど痛いんですよ」




  あの作業中の激痛というのも生易しい痛みをまだ錬は覚えている。

 いや、あまりにも強烈すぎて忘れられないというべきだろう。

 錬にとってあの痛みはもはやトラウマに近いものとして、記憶に刻印されていた。




 「知った事じゃないわ、これからの苦労と一瞬の激痛、どっちがきついかって問題」

 「あれ以上やられていたら死んでいたよ」

 「ならこれから苦しみと付き合っていくしかないでしょう」




  自分の忠告を無視したのを根に持っているのか、アスラルの言葉は冷たい。

 一応、自分の行動が軽率だった事を自覚している錬は内心冷や汗をかいていた。




 「けど、あのエセ紳士、また来るわよ。 いやよねぇ、あのきっと新種のストーカーしかも普通の対処じゃ意味ないし」

 「それよりもあの自分を褒めるためだけの演説が問題だよ」

 「だからこっちから攻めるの、あのチキン野郎に一泡吹かせてやる」




  アスラルは獣じみた艶笑をその顔に浮かべる。

 その表情に美しさと恐ろしさを同時に感じ、錬を寒気が襲う。

 聖十字軍最強の一人、その名の恐ろしさを改めて実感した。




 「どうせ今頃お食事の最中でしょうから、すぐに見つかるわ。
  人払いなんて簡単に見つけられるもの」

 「気をつけて、なんとなくだけど……… アイツは何かとんでもないモノを隠している気がする」

 「最大警戒、最大威力でやるわ」




  帽子を被り眼帯を隠してアスラルは歩き出す。

 途中であった綾美に「出かけてくるわ」と言って彼女は家を出た。

  薬箱を抱えてきた綾美は錬の傷の手当てを始める。

 もちろん綾美は怒りを込めてかなり乱暴に処置し、錬を痛みつける事を忘れなかった。




 「痛! 痛痛痛! あ、綾美!? わざとやっているだろ!?」

 「うん」

 「ごめん! あやまるから痛いからやめてくれ!」

 「やだ」

 「うぎゃ――――――」













 「―――――ゥゥゥ」




  地面にひざをつき、姫椿の姿が変化した。

 人の形を保っていた顔は狐のそれに変化し、その青の瞳と金の体毛を晒している。

 その姿はもはや人間ではなく、二足歩行をする狐だった。

 螺旋剣も変化がとけ、原形の槍に戻っている。

  姫椿は『最高傑作』に何度も攻撃を仕掛けたが。そのどれも傷つける事すらできなかった。

 『最高傑作』の周囲に常に張り巡らされた青い障壁、それを突破できない。

 残像の切れ味と実体の切れ味を合わせた必殺の完全同時攻撃も、衝撃に弾かれた。

  今のところ『最高傑作』からの攻撃は一度もないが、姫椿は劣勢に立たされている。

 一撃の攻撃もしていないのに、『最高傑作』は姫椿を圧倒していた。




 『ドウシた狐、オぬしのチカラハこノ程度なノカ?』

 「そちらこそ、早くしないとご主人様に置いていかれるかもしれないんじゃない?」

 『ああソウダナ』

 「なら何で?」




  最高傑作は首をかしげた。

 その動作はあまりにも人間を思わせる。

 間違いなく材料として人間を使ったキメラだ。

  姫椿は嫌悪に顔を染めた。

 口からだけだった青白い霧はその全身から溢れ、周囲を満たそうとしている。

 まわりは夜なのに霧に支配され始めていた。




 『ドウグに、意思がヒツヨウか?』

 「―――!?」

 『ワタシはアイツノ玩具ダ。 いまさら、何のカチがアル?
  ニンゲンの記憶トがある故に、ワレは『切り札』ニはナレナイ。
  ユエニわれは、ドウグ。 捨てられて当然』

 「ずいぶん虚しい」

 『シカシ、道連れはホシイ。
  お前をタオシ、マチの楽しそうなニンゲンもワガ終わりに付き合ってもらう』

 「また貴方を倒す理由が増えた」




  霧の中、姫椿の姿が消えた。

 その代わりに十数人の姫椿が霧の中から現れる。

  当然だが、妖狐は幻術を得意とする種族だ。

 単純な戦闘力なら人狼や他の種族に劣るが、その幻術はそれを補ってなお余裕がある。

 視覚を騙す事だけでなく、触覚、味覚、痛覚、全てを騙す。

 激痛を叩きつけて、ショック死させる事もたやすい。

  今まで会話や意味の無い攻撃で時間を稼いでいたのは、自分の力を周囲に満たすためだった。

 すでに十分、姫椿の力は周囲に浸透しその幻術の力も最高の状態になっている。

 現にもし偽者を殴っても、『最高傑作』は殴ったと全ての感覚で感じるだろう。

 もしその拳が実際には空振りでも、だ。

  だが、『最高傑作』はそれを見て笑っていた。



 『ゲンジュツ? はは、はハハはははハハハハはハははははは!』

 「なにが楽しい?」

 『モンダイは無い、ゼンブ吹き飛ばせバいい』




  『最高傑作』が吼えた。

 すると突然光の線が溢れ、それが周囲をなぎ払う。

 それは『最高傑作』の中核部品として使われて死んだ黄色の魔術士の魔術だった。

  周囲をなぎ払う光の線。

 当たりそうになった姫椿はとっさに人化を解いて本当の姿である5尾の狐に変じた。

 それにより高まった運動能力と、小柄になった体格が攻撃を回避を可能にする。

 しかしそれにより螺旋剣を手放してしまった。



 (―――しまった)




  光の乱舞はさらに激しさを増した。

 こんな広域攻撃の前には、幻術など意味を成さない。

 まだこの能力を狙撃などに使ってくれていれば、偽者の自分を見せて回避できただろう。

 だが奴は彼女を見てすらいない、ただ周囲に破壊を撒き散らすだけだ。

  『最高傑作』の攻撃は見当違いにもほどがあるが、まぐれ当たりがないとも限らない。

 そしてついに、ジャンプから着地した時に左足へ直撃した。




 「――――痛ぁ!?」




  狐の姿のまま、痛みのあまりとっさに人間の言葉で悲鳴を上げる。

 その悲鳴を聞いて、やっと『最高傑作』は攻撃をやめた。

  姫椿が幻術では意味が無いと知り、もう一度人間の姿に戻った。

 左足の傷は傷口が高温で焼けたため出血は無いが、とても走る事などできない

 もし次に先ほどの乱れ撃ちをされれば、回避など出来る蜂の巣になるだろう。

  その時、無言だった『最高傑作』は口を開いた。

 そしてとても不思議そうに姫椿に話しかける。




 『女、ナゼ……… 絶望セン?』

 「する必要がないから。 こんなのよりも酷い絶望を、とうに知った。
  それに私の心には彼がいる、彼がいるかぎり絶望などしない、希望が心を満たしてくれる」

 『その希望ゴトお前を破壊してクレル』

 「来なさい『ブリガンティア』!」




  地面に落ちていた螺旋剣が槍の姿に戻り宙を飛んだ。

 その勢いのまま飛翔し、姫椿の手に帰還する。

 そしてゆっくりと青色の粒子を纏い始めた。




 「螺旋槍の名の意味、その身に教えて差し上げる」




  槍を構えてゆっくりと姫椿は宣言した。

 粒子はゆっくりと回転し始め、螺旋を描き始める。

 その螺旋はどんどん加速し、それに比例して輝きを増していく。

 そして最後には螺旋槍は青い輝きに包まれた。



 『消シ飛べ』

 「“螺旋破壊”」




  光の柱が放たれた。

 拡散して放っていた光の線を一点に集中した『最高傑作』の切り札である。

  それを迎え撃つのは蒼い螺旋。

 螺旋槍の力が螺旋を象り放たれた一撃である。

 両者の攻撃は空中でせめぎ合い、相殺しあう。

 だが最後に姫椿の攻撃が、『最高傑作』の攻撃を打ち破った。

  螺旋状の破壊力はそのまま『最高傑作』へと突き進む。

 『最高傑作』は手をかざして障壁を展開した。

 姫椿の攻撃を無力化してきた鉄壁の障壁だ、またふせげると間違いなく確信しただろう。

 だが、攻撃は障壁に食い込んだ。



 『―――――ナニ!?』

 「そのまま……… 突き破れ!」




  まるで木の板に螺子を強引にねじ込むかのように、障壁へ力が食い込んでいく。

 障壁はそのたびにひび割れ、不吉な崩壊の音を刻んでいる。

  単純にありとあらゆる障害を貫通する事だけに特化した技、その名を“螺旋破壊”という。

 その名の通り、螺旋の力で鉄壁だったはずの障壁を貫通、そして破壊した。

 力はそのまま『最高傑作』を飲み込んでいく。

  数秒後、光が消えたときそこには満身創痍の姿の『最高傑作』が立っていた。




 『ふ、フフハハ。 ―――ハハハ、耐えたぞ、タエキッタアゾ!』

 「言ったハズじゃないかしら?」

 『――――エ』




  声は空中から聞こえてきた。

 とっさに上を向いた『最高傑作』は驚愕に顔を染める。




 「“切り伏せてさしあげる”って」




  上空の舞い上がっていた姫椿は螺旋槍を剣に変じさせて、月を背景に舞っていた。

 そのまま落下の勢いを殺さず、全力をもって剣を振るう。

 全身全霊をかけた一撃は、見事『最高傑作』を真っ二つにした。

  倒れ伏せる『最高傑作』を背中にして姫椿は着地する。

 なんとか強敵である『最高傑作』を倒す事はできたが、エギテレィスを見失ってしまった。

 もはや追いかけることなど不可能だろう。

  主人であり守るべき存在であるネェムレィスのために、ここであの敵を滅ぼしておきたかったのだが。

 そんな事を考えながら姫椿は『最高傑作』の死体へと歩を進める。

 キメラの死体を手に入れれば、本格的に戦闘六課も動けるだろうし、何よりネェムレィスへと自分の手柄を見せ付けたかった。

  だがとっさに足を止める。

 血が、『最高傑作』の死体の血はありえない動きをして姫椿へと進んでくる。

 彼女が後ろへ引こうとしたとき、その声は響いた。




 「“ブラッディ・ブラック”『第二方程式』!」




  その声は間違いなくエギテレィスの声だった。

 血が生き物のように動き、宙を舞う。

 その次の瞬間、血はニードルに変形して姫椿へと襲い掛かった。

  とっさに回避しようとするが、『最高傑作』との戦いで受けたダメージで思うように動けない。

 右腕に数本ニードルが突き刺さり痛みが姫椿を襲った。

 獣じみた悲鳴を上げる姫椿へと、影が襲い掛かる。

 その影は彼女の首をつかんでコンクリートの壁へと押し付けた。

  影は逃げたはずのエギテレィス本人であった。




 「お嬢様、戦いで大事な事の一つなのですが、伏兵にはお気をつけてください。
  まあ、もうとっくに手遅れなのだがな。 ア――― ハハハハハハハハ、いや可笑しい、可笑しい!」

 「最初から……… アイツは、囮か」

 「あのまま倒せていたら私が出る必要も無かったのだが、ここまで使えないとは思っていなかった。
  反省しているよ、おかげで私が力をつかうハメになった」




  エギテレィスの右腕に『最高傑作』の血が絡みつく。

 だが決して服に染み込まず、その表面を蛇のように蠢いている。

 濁った血はもはや血の持つ生々しさを失っておりながら、その水気を保っていた。

 たが汚物を思わせるその赤黒い血は、もはや普通の血では無い事は明らかだ。




 「“ブラッディ・ブラック”、私の能力だ。
  血を支配して自由自在に動かせるようにするのだが、使える血は私の血だけでね。
  キメラの材料に加えて、体内で私の血を合成するようにしてあるのだよ。
  お嬢様、貴女が私の『血生産工場』を破壊してくれたおかげで思う存分使えるようになった。
  ほんとうに感謝しているよ、うん。 他人のために働けてよかった、よかった」




  自己陶酔と自己満足の塊のような、ヘドロのように腐った言葉を吐きながらエギテレィスは血を剣へと変形させる。

 そして吐き気どころか殺意を覚えそうなほど悪意に満ちた笑みを浮かべて、狐の姿に戻ってしまった姫椿へと近づく。




 「そういえばお嬢様の名前は姫椿でしたね、アイツの死亡予定リストに入ってはいるが………」




  すこし考えるそぶりをみしてから、剣を振りかぶった。

 その顔は自分を侮辱したものへと怒りで、濁った目と腐った笑みで彩色されている。




 「私を侮辱した罪だ、クタバレ」




  楽しそうに竜は吼えた。









  その様子をビルの屋上から二人の男女が見ていた。

 男は黒い髪の毛を首元辺りで切っているが、一束だけ腰まで伸び、布で縛られている。

 女の方は蒼い髪の毛をポニーテールにしており、二つの鞘を持っていた。

  彼らはフェンスの上に立っているのだが、危なっかしく見えないほど無いほど安定している。

 風に髪を任せて、男は吐き捨てるかのように悪口を言った。




 「あの下衆が、アイツに気づいた? は? 利用されているだけだろうが、あの三流エセ紳士チキンマン」

 「―――どする?」

 「どうするも何も――― 殺るだけだ」



  男は巨大な何かを持って、ビルから飛び降りた。









  いままさに振り落とされんとする血の剣。

 だがそれは上より落ちてきた何かに巻き込まれてエギテレィスの右腕ごと斬り飛ばされた。

 落ちてきた物はエギテレィスには一瞬、壁に見えた。

  それは薄紅色の刀身を持つ巨大な剣であった。

 まるで巨人のもつ剣のように大きく、そして無骨。

 飾り気の欠片も無い荒い布で包まれた柄、それに手をかけていた男は剣を地面より引き抜きエギテレィスと対峙した。




 「な、何者だ。 キサマ!?」

 「『アイツら』の敵だ」

 「――――ナ!?」




  その男が左手に持った巨大な銃器をエギテレィスに向ける。

 ハンディキャノンという手持ち大砲を向けた男は、笑みを浮かべてからその引き金をなんの躊躇も無く引いた。

 発射されたナパーム弾がエギテレィスの体を容赦なく焼く。




 「ガァアアアアアアガガガッガガアアオァァァァァァァアッァア!?!?!?」

 「火に弱いってんのは致命的じゃないか、“狙ってくださいまし”って言わんばかりじゃないか、なあ吸血鬼ィ?」




  片手で器用に再装填をして、男は容赦なく炎に焼かれてもがいているエギテレィスへと銃口を向ける。

 そして引き金を引こうとしたところでその銃を後ろに向けた。




 「戦闘六課の異能者か」

 「そういうお前は、何者だ。 その剣、は……… 魔剣か」




  キメラを全滅させた雄途がそこに来ていた。

 あの数多い敵を数分もかからず全滅させた彼は全力疾走で姫椿を探し回った。

 しかしどこへいったのか分からなかったので、かなり無駄な距離を走ったらしく息が切れている。

  そんな彼の様子を見て、男はすこし苦笑する。




 「だとしたら、どうする?」

 「捕獲させてもらう」

 「無ぅ理だな、正歌!」




  男が大声で叫ぶと、何処からか鈴の音が聞こえた。

 鈴の音はどこまでも高く、澄んで、そして悲しい。

 数秒ほどして、その鈴の音はやむ。

 それを確認した後、男は隙だらけの動きで雄途に背中を向けて、歩き出した。




 「ま、待てッ!?」

 「足元に気をつけな」

 「はァ!? あッ!!? え?!」




  雄途が追いかけようとした時、彼は足元の瓦礫に足をとられ転んでしまったのである。

 戦闘六課のメンバーとは思えない間抜けな動きだった。

 それに雄途は“何で?”という顔をする。




 「正歌ならこう言うだろうぜ“これは私の攻撃ではないわ、アナタの不幸が追いついただけよ”ってな」




  彼は地面に寝ている傷だらけの狐を肩に乗せて悠々と雄途の視界から消えた。

 エギテレィスのいた事に雄途はやっと気づいて、急いで立ち上がって周囲を見渡す。

 だがそこにエギテレィスの姿は無く、探している姫椿の姿も無かった。

 彼女は狐の妖怪である事を知っていれば、先ほど男が背負っていった狐が彼女である事に気づいただろうが残念ながらそれは無い。




 「姫椿ッ!」




  雄途は彼女を探すために駆け出した。

 だが彼女はいま、もはや別の場所に居る。

  今、二つの糸が交わろうとしていた。









  アスラルは公園にてその男と会った。

 エギテレィスを探して街中をさまよっていたアスラルだが、何の手がかりもなくそれなりに広いこの町から探し出すことは出来ない。

 さすがに体が冷えてきて自動販売機でコーヒーを買おうと公園に入った時、ベンチに座っていたその男に気づいた。

  その公園は彼女が紗美と真紀の二人と会った場所で、男が座っているベンチはアスラルがその時に座っていたベンチである。

 それが偶然なのか、男が選んだ場所なのかは不明だったがアスラルは背筋が寒くなった。

  確かにアスラルは最強クラスの異能者であるが、身の程のしっている。

 自分では勝てない存在を数人知っているからこそ、彼女は生き延びてこれたといっても過言ではない。

 ゆえに、目の前の男がその“勝てない存在”であることを無意識の内に理解していた。




 「よう、眼光。 <ウロボロス>の少女は元気か?」

 「綾美の事、かしら?」

 「それ以外にあの特異な異能を持っている人間がいるものか」




  吐き捨てるかのように男はいう。

 手に持っているコーヒーをいじりながら、口調とは裏腹に優しい笑顔をアスラルに向けた。

 その屈託の無い太陽のような純粋な笑みを見て、アスラルはこの男を善人と判断する。

 いや、こんな笑みをできる男が悪人とは到底思えなかった。




 「ほらよッ、確かこの種類が好きなんだろう?」




  男は手に持っていったコーヒー缶をアスラルへと投げた。

 アスラルは慌ててその缶を受け止め、それが自分の飲みたがっていたコーヒーであることに驚く。

 男は悪戯に成功した子供のような顔をしていた。




 「それとこの子」



  男は自分の横のハンカチのシートに寝かせた狐を指差した。

 その狐は尾が五つあり、妖怪や魔物である事は明らかだ。

 しかし傷だらけで、応急処置の包帯や消毒剤の染みが痛々しく赤ん坊のように弱弱しく見えた。




 「名無しの従者の姫椿っていうんだが、エギテんと戦って怪我したんだ。 そっちに頼めるかな?」

 「貴方の方が強いでしょうに」

 「いや、あまり長時間は索敵されずに行動できないんだ。
  こう見えてもアスるんと会うのだってけっこう分の悪い賭けだったんだぜ?」

 「誰がアスるんよ―――!」

 「すまんが、時間切れだ」




  男は自分の左腕の付けた腕時計を見てそう言う。

 時間切れという言葉と裏腹に、男は普通のペースで立ち上がって歩き出す。

 アスラルが彼に何か言おうとした時、その口は男の右腕で塞がれた。




 「俺を呼ぶな、あいつらに見られてる」

 「―――!?」




  次の瞬間、さきほどまでの邂逅が嘘だったかのように男の姿は消え去っていた。

 残ったのはまだ暖かいコーヒーと、ベンチの上の狐だけである。

 アスラルはため息をついてから、その狐を抱きかかえた。




 「まあ仕方ないわね」




  そう自分に言い聞かせてから、コーヒーをその狐に抱かせて冷えないようにハンカチで体を来るんだ。

 まるで子供のように「キューン」と小さく寝言を呟く狐に微笑みながらも、アスラルは帰り道を歩みだす。

  こうして殺鬼人と名無しの吸血鬼の運命の糸はつながった。

 それはあの男が仕組んだ糸なのか、それともあの空港の少女の願いだったのか。

 それを知る存在は、誰一人もいない。

  そう、今は。












次回 縁の指輪 
三の指輪 三刻目 お稲荷様と錬のお話













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