※この作品はフィクションであり、実在の人物・団体・事件・地名等とはいっさい関係ありません。

 

   放流者  第7話

 

 

 

 

ただ待ち続ける時ほど暇なことはない。

 

暇ならなにかすればいいのだが、いま下手な行動するのは命取りとなる。

 

ならば私生活でなにかすればいいのではないか。

 

……やることが思いつかない。

 

そうして時間はただ淡々と過ぎていく。

 

考える。思いつかない。また考える。また思いつかない。

 

いまのアズマの頭の中ではそうして意味のあるかどうか分らない思考がただただぐるぐる廻っていた。

 

 

「アズマー、起きてるの?」

 

 

その思考を閉ざさせる声がアズマの耳に響いてきた。

 

千歳の声だ。

 

 

「あの子、ようやく寝てくれたよ。本当、子供のお守って疲れるわ…」

 

 

心底、もう疲れた、という疲労感がひしひしと感じられる声で千歳がつぶやく。

 

あの日、ルクスをアズマが勝手に連れてきて(もとい、攫ってきて)から数日が経った。

 

結局あのあと、アズマは「疲れたから寝る。あと頼むな」と千歳にすべて振って寝入ってしまったのだ。

 

千歳もすぐ抗議しようとしたが、アズマの寝入るスピードは尋常ではない。ころんと横になればすぐに睡眠に突入する。特に疲れているときは尚更だ。布団をつけてやればそのスピードは俊足の如くとなるだろう。

 

そして一度寝入ると、満足するまでずーっと寝続けるのだ。

 

さらにここでやってはいけないのが「睡眠の妨害」だ。

 

千歳は以前、抗議も兼ねて無理やり起こそうとしたことがあった。そのときのことは……思い出したくもない思い出だ。

 

そしてアズマが寝入ってしまえば、小さなお子様、ルクスの相手をするのは必然的に千歳になる。

 

ルクスは

 

 

「おじちゃん疲れて寝ちゃったの?」

 

 

となんともまあ無邪気なことを言っていた。世話をするのは自分なのに…。

 

まあ、そんなことをこんな子供に愚痴っても分かってもらえるものではないが。

 

千歳は子供が嫌いというわけではない。ただ、接し方が分らないのだ。

 

自分の子供時代は、親にかまってもらうことなどほとんどなかったし、周りの連中も自分を避けていた。

 

頼れるのはこの身一つ。

 

そんな生活を続けていた千歳を真正面から初めて向き合ったのは、後にも先にもアズマだけだった。

 

だからルクスを前にしてもどうしていいか分からず、ただ唸っていたのだった。

 

しかし、ルクスは

 

 

「おじちゃんが寝るならあたしも寝るー、おねえちゃんも一緒に寝よー」

 

 

と千歳が心配していた気苦労などこれっぽっちも関係ないというようなマイペースぶりを見せた。

 

千歳もそれで「まあなるようになるか」と気を許し、それからの数日は千歳がルクスの面倒を見るようになっていた。

 

ただ、「外に行きたい」という訴えだけには「今は我慢して」となだめるのが大変だったのだが。

 

 

 

「ねえ、アズマ」

 

「なんだ? こっちは退屈でしょうがないのに…」

 

「いつまでこの膠着状態がつづくわけ? あの子、ルクスも退屈がってる。あの子をこのあとどうするかは知らないけど、少しばかり楽しいことさせてあげないの?」

 

「ほー…あのお前がそんなこというとは、なんだか意外だな」

 

「別にそういうわけじゃないの。ただ、あんな小さな子供がこんなところにずっと閉じこもっているのも、なんかね。もっと外に行かせるべきじゃないの? そりゃ、外に出ればここがバレる危険はあるわけだけど」

 

 

アズマは先ほどまでループしていた思考を留め、考えだした。

 

たしかに、この現状では動かない方がいい。なにしろ管理局側がこちらの条件を含んだ部隊を組むかどうかで今後の動きが変わる。こちらの居場所がばれるのだけはまずい。

 

だが、アズマの心には「気分を変えたい」という欲望の方が強かった。

 

 

「わかった。千歳、ルクスを連れてすこし街を歩いてみろ。あのこの気晴らしにもなるし、おまえの気晴らしにもなる。なにより、すこしは今の状況に刺激がほしいしな」

 

「わかったわ。じゃあアズマも…」

 

「おれは行かないから」

 

 

千歳が続けようとした矢先にアズマが先に釘を打った。

 

 

「どうしてよ? あんたが一番気晴らししたいんじゃないの?」

 

「全員いなくなったらこの場所のお守はどうするんだ? だから、おれは『ここ』にいて『見てる』からおまえらは思う存分行ってこい。年長者の言うことは聞くもんだ」

 

「『千里眼』使うの? こんなことのために…。まあいいわ。じゃあ、おことばに甘えますー。それと一言。年長者なんていってるからルクスにおじちゃんなんて言われるんじゃないの?」

 

「もう慣れた。早く行ってきな」

 

 

左手の手のひらでひーらひーらと「行ってこい」をアピールするのを見て千歳はすぐに支度をはじめた。

おじちゃんねたで弄るのには免疫がついたか・・・。

 

 

アズマの隣の部屋が千歳の部屋だが、いまそこにはルクスが一緒にいる。

 

「女の子と一緒に寝るのはいやだ」とアズマがガンとして聞かなかったからだ。

 

 

―――本当にアズマの思考はよくわからないなー。まあ、そこがいいところの一つでもあるんだけど―――

 

 

そんなことを思いながら千歳は

 

 

「ルクス? いる?」

 

 

と部屋の中に声を投げかける。

 

返事はなかった。当然だ。布団にくるまって寝ていたのだから。

 

その姿はまるで子猫を連想させるようで、女の千歳も思わず「可愛い」と思ってしまったほどだった。

 

 

「ほら千歳。起きなさい。出かけるよ」

 

 

気持ちよく寝ている千歳を起こすのはほんの少しだけ気が引けたが、ルクスが言っていた「外に行きたい」という要望がようやくかなうのだから無理にでも起こそうとする。

 

数秒置いて、ルクスの瞼がゆっくりと開かれた。まだ眠いよーと訴えかけるように瞳を軽く潤ませている。

 

その寝ぼけ眼をルクスは自分の右手でごしごしとこする。相変わらず可愛いしぐさだ。

 

 

「おはよーおねーちゃん…どうしたの…?」

 

「あんたが外に行きたいっていってたの、ようやくできそうだから少しだけ町に連れてってあげるの」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、千歳の眼は眠気が吹き飛び喜びの色が浮かんできた。

 

 

「ほんとー!? やったー! ねえねえ早く行こうよ!」

 

 

待ちきれないといった風にひっぱっていこうとするその手を少しばかりつかんでいう。

 

 

「ちょっとだけ待っててね。少し準備してくるから、ね?」

 

「うん!まってる!」

 

 

 

 

とりあえず必要なのは、いざという時のためアズマが作った「ゲート符」だ。

 

これでもしなにかあってもすぐに戻ってこれる。

 

あとは……とくにないか。

 

まあ、簡単な気晴らしだし、なんの問題もなく終わるでしょ。

 

 

 

 

 

 

こうして、千歳とルクスは「気分転換」に町へ出かけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千歳たちが出かけた後、部屋に残ったアズマは机に向って筆を走らせていた。

 

さらさらと長く長く書き綴っていく。

 

それがだれのための手紙かは、いま知る者はアズマただ一人しか、いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜あとがき〜

 

 

どれだけの間更新を止めてたんだろう?

 

まったく進まない自分のこのお話。今回ももうちょっと進めたかったけど、実はまだ大学のテスト終わってないんだ。

じゃあ勉強しろよと言われるかもしれないが、ちょっと勉強のほうに手が伸びないもんで…。

 

いいかげん更新は安定させたいですね。

 

とういうわけでここで宣言します。

 

自分の更新は基本1か月以内で一話ずつ更新させると!!

長くても2ヶ月でひとつは上げたいなー。

 

 

今回も戦闘とかそんなシリアスなことはほとんどないところでしたが、よんでいただいてありがとうございました。

またお会いできれば!

 

 

by吉




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