第一話







「時空管理局」
さまざまな世界の「法の守護者」として設立された司法組織。
幾つもの世界が共同で運営しているため、その規模はかなりのものだ。
魔法の認知される世界において、犯罪防止の取り組みや管理を行い、認知されない世界、
通称管理外世界においても、魔法が悪用されないように監視をしている。

この時空管理局がもっとも優先事項としてるのが「探索指定遺失物」、通称「ロストロギア」の管理だ。

ロストロギアとは、過去に滅んだ超高度文明から流出する、特に発達した技術や魔法の総称のこと。
これらは非常に危険度の高いものが多く、ものによっては次元世界レベルの大規模災害を引き起こす危険性を秘めている。
この次元災害によって滅びた世界が幾つもあることは事実である。

ゆえに、管理局はロストロギア関連の事件に対しては最優先で取り組んでいるのだ。



今から一年ほど前、遺失遺産の違法使用による次元災害未遂事件が発生した。
名称、プレシア・テスタロッサ事件。通称・PT事件である。

この事件の際、「ジュエルシード」と呼ばれるロストロギアが使用され、次元震が人為的に発動された。
結果としては管理局の魔道師により防がれたのだが、その余波は周囲の次元世界に少なからず影響を与えた。

たとえばそう、地震のようなかたちで…。











光のあまり届かない薄暗い一室。
部屋を照らす光は、その部屋の隅にあるコンピュータのディスプレイの光だ。
そのディスプレイの前には、一人に人間がイスに座っている。
全身に黒いコートを身に着け、頭からはフードをかぶっているため男か女かは分からない。
さらに不思議なのは左手のみに手袋をつけていることだ。右手はなにもつけていないのに。

「……」

その人物はなにをするでもなく腕を組みただじっと画面を見続けている。
見つめる先の画面には、なんらかのプログラムが起動しており、画面の中でいろいろなデータが現れたり消え

たりしている。
もしその部屋を偶然見かけた奴がいたとすれば、何をしているのかまるで分からないだろう。
なにしろ、起動しているパソコンの画面をじっと見続けているだけなのだから。



それからしばらくすると、その人物の背後の床に淡いオレンジ色の光を放つ正方形の魔法陣が浮かび上がる。
そこから上空へ同じ色の粒子が立ち上り、少し輝きが強くなる。
薄暗かった部屋がしばらくの間、淡いオレンジ色の輝きに包まれる。
イスに座っていた男は画面から目を離し立ち上がり、魔法陣のほうへ体ごと向きを変える。

魔法陣の輝きが収まると、そこにはもう一人、同じ黒いコートに身を包んだ人物が立っていた。
二人向かい合うとどちらも同じように見えるが、後に現れた人物のほうが先にいた人物よりも背丈が十センチほど低い。

と、後に現れた人物が頭のフードをバサッととった。
フードの中から顔を出したのは、まだ若い少女だった。
年のころは十代後半ぐらいだろうか。
黒髪のショートヘアで、とくに纏めるつもりはないらしく全体的にぼさっとしている。
瞳の色は黒色。
かもしだす雰囲気は勝気な印象を与える。

しばらく無言が続く。部屋にはコンピュータの起動音だけが木霊している。
その静寂を破ったのは、少女のほうだった。

「ちょっと、ようやく戻ってこれたのにおかえりの挨拶もなし? 
っていうか、ずっとかぶってたのそのフード? 部屋の中でぐらいはとっときなさいよ」

開口一番、不満爆発といった様子で次々と言葉が出てくる。
マシンガンのように続く一方的な会話に、

「ああ、ああ、悪かった、俺が悪かったよ。だからそろそろ勘弁してくれ、千歳」

コンピュータの前に立っていた人物がもう限界といったふうに口を開く。
そしてバサっとフードを取る。
それと同時に黒い髪が後ろに垂れる。首の後ろで結ってある長い髪だ。ポニーテールと言うやつだろう。
瞳の色も少女と同じ黒色。
こちらは、全体的な風貌は少年と言うよりも青年といったほうが良いだろう。
見た目の年のころも二十代前半といったところだ。

「おまけに部屋をこんなに暗くして。電気ぐらいつけときなさいよ。それか窓開ける!」

千歳と呼ばれた少女はづかづかと部屋の隅に歩いていき、そこにあるスイッチを押し、
閉め切っていた部屋のカーテンを開ける。
とたんに部屋全体が太陽の光と、室内の電光によって一気に明るく照らされる。
目が眩んだのか、男のほうは腕で目を隠すようにする。
少女のほうは満足なのか、部屋を見回して「うんうん」と頷いている。

「ところでアズマ」

千歳はくるっと体をアズマのほうへ向ける。

「うん? なんだ?」

「シミュレーションのほうはどうなったの? いい結果でた?」

その言葉にアズマと呼ばれた青年は体を少し横へどかしパソコンの画面を指差した。
画面にはいまだに様々な表示が出たり消えたりしている。

「見てのとおりまだ終わってない。一応今回のを最後にしたいからな。
厳重かつ綿密な結果を出すためにいろいろ厳しい条件をつけた」

それを聞いて千歳は左手をあごの下に当て「うーん…」と唸った。
千歳は考え事をするときに左手をあごの下に当てる癖がある。
アズマにはそれが分かっていたので、特に何も言わない。

「ま、いいわ。それでようやく今後のめどが立つんでしょ? なら後は待つだけね」

顔を少し綻ばせながらそう言った。
そこでアズマが「あ」っと何かに気づいたような声を上げた。

「なによ? なんか問題でもあった?」

「そういやそっちはどうなんだ? 管理局の中の様子、ちゃんと探ってきたんだろうな」

アズマの言葉に、千歳は「ああ」と納得したように返事する。そして腕を組みながらアズマを見つめる。

「あったりまえでしょ。なんのためにわざわざ”耐魔力コート”を作って着ていったと思ってるの? 
あ、言っとくけど見つかったりとかもしてないからね」

えっへん、と言った感じで千歳は胸を張る。それを見たアズマは

「んなこと言わんでも分かってる。このコート作るのに一月の時間を費やしたんだからな。
まったく、魔法とかの知識が無知だった俺がこれを作るのにいったいどれだけの苦労をしたと思ってるんだ? 
って話が反れた」

アズマは「はあ」と一息ついて気を落ち着ける。

「で、どうなんだ? いけそうなのか?」

再び同じ質問を千歳にくりだすアズマ。その問いに千歳がひとつ咳払いをしてから答える。

「一応は問題ないみたいね。”ジュエルシード”が保管してある場所までの道のりもバッチリよ。
途中局員と遭遇しそうな場所もいくつかあったけど、私たちなら大丈夫でしょ」

と、突然「ピーー」という電子音がアズマの背後から聞こえた。
アズマと千歳は話を区切り、モニターを見つめる。画面には「COMPLETE」という表示が出ていた。
二人顔を見合わせる。同時に顔が綻ぶ。

「よし、これでいよいよ行動開始ってわけね。一年間…長かったわねー」

部屋の天井を見上げながら感慨深くつぶやく千歳。

「だが、これが本当に正しい方法なのかは分からないぞ」

パソコンをシャットダウンしながらアズマはそういった。
その言葉に千歳が「は?」とでもいいたげな顔をアズマに向ける。

「いまから約8760時間前、つまり一年ほど前な、たしかに魔導師プレシア・テスタロッサは”ジュエルシード”を起動し、
次元震を引き起こそうとした。そしてその余波は周辺世界に多少なりとも及んでいた。ここまではいいな?」

「ええ、そこは前にも聞いたわよ」

何度も言うなと付け加え、ぶすっとした表情をする。

「そして、俺とお前がこの世界で出会った…いや、この世界にやってきたのもほぼ一年前だ。そこで俺が考えたのは、
「俺たちはその時の次元震の余波を受けてここへ飛ばされてしまったんじゃないか」、ということだ。
だからもう一度、同じように次元震を引き起こせば、もしかしたら戻れるかもしれないって考えたわけさ。
な、根拠も何も無い、理論とすらもいえない代物さ」

皮肉めいた口調でそう告げるアズマ。


そのとき千歳はアズマの表情に影がくもるのを見逃さなかった。
この表情が千歳は嫌いだった。
もう行動を共にするようになって一年が経とうとする。
普段の彼は、何事にもあまり動じない精神をもっている。ぶっきらぼうなところもあったりするが、
よく気が利くところもあって、ここまで幾らも世話になってきた。
だからだろうか、そんな顔をされるとイライラするのだ。

「まったく、理論だとか根拠だとか、そんなこといちいち考えてちゃ進まないでしょ!? 
私たちがどうやってこの世界にきたかなんて誰に分かるの? 分からないでしょ?」

ズイっと体を押し出しアズマのほうへ詰め寄る。千歳の行動にびっくりしたのか、アズマはうっとつまる。
 
「だから、これって決めたことは最後までやってみること。分かった?」

そういうと千歳は数歩後ろに下がり、ぷいっとアズマに背を向ける。




今のはなんだったんだろうか?
なにが言いたかったのかよく分からなかったが、とりあえず心配でもしてくれたのだろうか。
だとしたら、心配させるような顔をしていたんだろうか。
よくわからない。
だが、あんなふうに話してくれたのだから心配させるような顔をしていたんだろう。気を引き締めなくてはいけない。
そう思ったアズマは、ふうっと息をついて千歳の背中を見つめる。

「すまなかった。ちょっとばかし後ろ向きだったよ」

そう謝罪した。
千歳は背を向けたままだったが、「バカ」と呟くのがアズマには聞こえた。

「よし、じゃあ早速はじめるか。”俺たちの地球”へ帰るために」

「ええ」

千歳がアズマのほうへ振り返る。その表情は明るかった。

アズマは左手から黒い手袋を取り外す。手袋が外れた左手の甲には深緑色の球体がまるで皮膚にくっつくように埋まっていた。
その手を自身の前にかざす。
足元には千歳が戻ってきたときと同じ正方形の魔法陣が浮かび上がった。色は左手の球体と同じ深緑色。
魔法陣から深緑色の粒子が立ち上り、アズマと千歳を包み込む。
しばらく部屋全体が鮮やかな緑色に染められる。

そして二人の姿は、その部屋から消えていった。










あとがき

小説を書くのってめちゃめちゃ難しいんですね。こうして投稿小説を書いていると改めて実感します。

えー、まずは謝罪でもしたほうがいいでしょうかね。
なにぶん力不足なうえ、これといって細かい展開を考えていたわけではないもので…。
いや、一応ところどころの内容は頭の中にあったのですが、それだけでは話にならないのでどうつなげればいいのやら、
いろいろ試行錯誤して…。その結果がこれです。

ちなみに第一話はプロローグから一年後です。
あいだの一年、二人が何をしていたかは皆さんの想像にお任せします。
文句を言いたい方が多いと思いますが、僕にこれ以上を期待しないでください(泣)
もともとこれは、自分が書きたいと思ったから書いたのでして…。

オリキャラの設定と簡単な物語説明はいずれ必ずこちらのサイトに投稿します。

最後に、これを呼んでくださった方だか、本当にありがとうございました!




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