――――時空管理局本局 廊下 4月22日 PM 9:24



 人が走っている、その影は1つ、2つ……3つ。
 影の持ち主の表情には安堵の色などまったく見えなかった。
 ただひたすら駆ける、他の人にかまわず進む。
 外は暗く、窓から見える光景は地球ではありえないような情景だった。その景色を横に影は走る。
 目的地に着いたのだろう、影が動きを止めた。影にとって最優先すべきことは目の前にある部屋に入りたいと
いうものだった。
 影の1つが息を飲む。それは志麻恭司のものだった。あとの2つは高町なのは、フェイト・T・ハラオウンの
2人であった。

「――ここだ、入るぞ」
「早く! 恭司くん」
「落ち着いてなのは!」
「フェイトも落ち着け――って言っても俺も……かなり焦ってるけど」

 恭司は一緒についてきたなのはとフェイトに深呼吸するよう促す。
 扉の前で全員、深呼吸しようとした。――とそこで突如恭司達の前にある扉が開かれる。

「気配がすると思ったら、テスタロッサ達か。
 入るんだろう?」

 開かれた扉から現れたのはヴォルケンリッター烈火の将シグナムであった。
 シグナムが入ったらどうだと促すが、急に扉が開かれる事に驚いた恭司達一行は口をぱくぱくと開け閉めして
いた。

「ああ、びっくりした……」
「シグナムが急に開けるから……」

 各々に驚いた事を口にするが、シグナムに入るのか入らないのか? と、少々苛ついた声で言われたので無言
で部屋に入る恭司になのは、フェイトの3人。
 どうやらシグナムも平常心でないらしい。それもそうだ――

「いらっしゃい。
 ――恭司さん、なのはさん、フェイトさん」
「シャマルさん……はやての奴、大丈夫なんですか?」

 ――とある次元世界にて遺跡調査の任についていた八神はやてが何者かに襲われ昏睡状態にあるのだ。


 1時間くらい前に、恭司達の携帯へ1通のメールが届いた。
 その内容が――はやてが何者かに襲われて倒された。と書かれていた物だった。
 そのような事が書かれていて、大人しくしていられる者達ではない。結局のところ送られたのは管理局の仕事
をある程度理解している人のみに――何者かに襲われた――という一文を追加したのだった。
 現状、この事情を知っているのはヴォルケンリッターはもちろんの事、アースラスタッフ、そしてなのは、フ
ェイト、恭司の3人である。

 結局のところ、何者に襲われたのかというのもまったく聞いていない。
 それもそうだ。いまだ彼女は意識を取り戻す事が無かったからだ。

「ところではやては大丈夫なんですか?」
「今のところは意識が戻らないのと、あとは――」






















魔法少女リリカルなのは 救うもの救われるもの


第八話「焦燥」
























 ――――時空管理局本局 医務室 4月22日 PM 9:30



 医務室には患者であるはやてに付き添いのシグナム、シャマル、そして先ほど部屋になだれこんだ恭司達一行
の姿があった。
 この場にいる全員が全員、力なくベッドで横になり眠っているはやてを心配していた。

「あとは、はやてちゃんの魔力が回復しないの……」
「回復……しない?」

 本来ならば、はやてほどの魔力を持つものが回復しないというのは異常である。だからこそ全員が訝しげにシ
ャマルの言葉を待つ。

「調べてもらったのだけど、現状では不明。ただ魔力が回復しないということだからリンカーコアが何かしら不
調を訴えているのだろうっていうのがお医者さんの答えだったの」
「フェイトちゃん、これって……」
「うん」

 なのはとフェイトは何かしら合点がいったのか、お互い頷きあう。ただ恭司だけが分からなかった。
 何かを悟った2人は少しだけこの場にいる騎士達の顔を伺ってから、恭司に教えることにした。

「以前、私達も今のはやてちゃんと同じような事になったことがあって」
「その時は、魔力を蒐集されて魔力切れになってた」
「――気づかなかったな、初めて聞いたよ」
「ごめんなさい」

 責められてるような気がして、なのはは恭司に謝ってしまう。
 だが、この場で必要な情報はそのような事ではない、そう分かっているからこそ恭司は――

「……俺こそごめん。でも今はそんな事を聞いている場合じゃ……なかったな」

 ――謝ったなのはに対して、謝罪した。

「続けるね。その……私やなのはの魔力を蒐集したのが――」
「私達です」

 その場で宣言したのは、シャマルであった。
 これには恭司が驚かされた。
 確かに、魔法を使っていたしいつもはやての傍にいた。だけどまさか……。と恭司は思考を巡らせる。そして
その考えに対しての答えはすぐにかえってきた。
 シグナムが静かに答える、常に冷静沈着。そんな彼女の姿に恭司は憧れさえ見たのだった。

「私達ヴォルケンリッターとここにいる、テスタロッサや高町と敵対していた時があったのだ」
「――――っ!」

 恭司は息を呑む。
 シグナムの言葉に少なからずとも驚愕の感情を隠しえなかった為である。
 だがしかし現状ではこのように敵対するどころか、仲間とすら思えるような態度だ。恭司はすぐにそれは過去
の事だと、そして自分が知りえなかった事だと自身に言い聞かせる。
 それは少しだけ、本当に少しだけだったが、恭司の心が軋んだ。だがその様子を悟られまいと、彼はゆっくり
と告げられた事を飲み込み、なのは達に聞く。

「それで……なのはが考えているのは、今のはやてがその蒐集された時の状況に似ているという事か?」
「うん、だけど……」

 何か言いにくいのだろうか、少しだけ言葉に詰まるなのはとフェイトだった。それに対してゆっくりと答えた
のが――

「これは少しだけ違う気がするの」
「……シャマル?」
「これは蒐集なんて生易しいものじゃないわ、むしろ強奪に近い」
「どういう事ですか?」

 強奪と言ったシャマル以外、誰もその理由は分からない。
 ただその後にただなんとなく感じたのだけどと付け加えていた。

「魔力の減り方が異常なの。蒐集はその相手に問題がないレベルまでで留めるのだけど……
 リンカーコアにすらダメージを与える程の……略奪、蒐集なんて生易しいくらい。
 確かに時間をかけて蒐集すれば、その域にまで魔力を集める事は可能よ……実際はやてちゃんが襲われた時間
ってほんの数秒なの。はやてちゃんから念話が飛んできてすぐに駆けつけたけど。
 ――既にはやてちゃんは倒れてた……」

 本当は私がもっと早く駆けつけていれば……と顔を伏せて自らを戒めてしまうシャマル。
 恭司はシャマルの言葉を聞いて、想像してしまった。
 ただの調査任務だというのに、突如現れた何かに襲われてその何かの凶刃によって意識不明にまで陥らせたと
いう状況を。
 恭司は無意識に両の手を握り締め、いてもたってもいられなくなり部屋を飛び出そうとする。

「志麻、何処へ行く?
 主についてやってくれないか、主が目を覚ましたときお前がいたら多分だが……喜ぶだろう」

 シグナムの言葉に、ふっと我に帰る恭司だったが――

「――――すいませんっ!」
「恭司くん?」
「恭司?」

 シグナム以外は恭司の行動が何なのか分かっていなかった。
 だがシグナムは分かっていた、だからこそ止めようとしたのだが恭司はその制止の言葉すら無視するかのよう
に部屋を出て行ってしまったのだった。
 シグナムは恭司の行動を「若いな」という一言で済ませてしまう。

「……あいつなら大丈夫だろう。
 それよりシャマル、主は結局の所無事なのか?」
「ええ、さっき言ったとおり魔力が回復しないという点を除けば、時期目が覚めるだろうって言ってたわ。
 多分魔力も1週間くらいすれば回復するだろうって。
 はやてちゃんのリンカーコア自身が治してるみたいなの。だから後遺症も無いから大丈夫」

 恭司のいなくなった医務室で、ゆっくりと事態を聞くシグナムとはやてを見守るなのはとフェイト。
 そして烈火の将として、やるべき事がシグナムにはあった。

「――そうか……シャマルあまり自分を責めるなよ」
「分かってるんだけどね、でもやっぱり後悔しちゃうかな」

 リーダーとして自らの仲間を気遣う、それが彼女の役割でもある。
 ここでなのはがふと疑問に思っていたことを聞いたのだった。

「あのーシグナムさん、ヴィータちゃんとザフィーラさんは?」
「む、あの2人は別任務で今現場を抜け出せないらしいのだ。
 取り乱して任務を失敗しなければいいのだが、まああの2人に限って大事はない大丈夫だろう」
「そうなんですか。ヴィータちゃんなら任務放り出して、はやてちゃんの看病すると思ってた」

 はにかみながら自らの思っていた事を口にしたなのはだった。

「あいつも最初はそう言ってな、こっちに向かおうとしていたのだ。
 だが仮にも時空管理局という組織に組している状態でそのような我侭は通らないだろう。そのあたりを話して
やったら渋々ながら納得した」
「にゃはは……」

 ヴィータがシグナムに食って掛かる姿を想像して苦笑してしまったなのは。
 そして医務室に残った4人は、はやての看病をしながら彼女が起きるのをただ待っていた。





 ――――時空管理局本局 部屋 4月22日 PM 9:40



「リンカーコアに異常?」
『はい、調べたところ魔力が異常に失っているという点はいいのですが、そこから一向に回復しないのです』

 リンカーコアは魔法を使うものにとって、他の言い方があるとすれば何かを動かす動力炉と同じ意味を持つ。
 そこに異常が見られるという事は、魔法を使うに当たって何かしら障害が出る。
 リンディは静かに通信先であるクロノに尋ねる。

「はやてさんは、別の任務に就いていたと聞いていたわ。何故アースラで彼女を保護したのかしら?
 ――アースラ艦長」
『はっ、近くで救難の通信が入ったところ、近くにいたのが我々だったので彼女を救出しました』
「……そう」
『それとほぼ同時刻ですが、本局より打診がありまして。我々に第一級ロストロギアを回収せよとの事ですが』
「ええ、それはこちら側にとある情報が入ったので、担当をアースラに任せよと上からのお達しです」
『分かりました。ですが――』

 クロノは少し渋る顔になる。
 モニター越しとはいえその表情は隠せる物ではなかった。

「言いたい事があるのでしょう、ですがこれは『命令』です。その意味が分からない訳ではないでしょう?」
『いえ……っ! はい、重々承知しています』
「よろしい、では――」
『すみませんやはり1つだけ質問を……本当にアレがあるんでしょうか』
「『ある』のでしょうね、きっと。ですが何故今更になってなのかは分かりません――
 注意しなさい、クロノ」
『はい、ありがとうございます』

 最後だけリンディは母親の顔となった。
 任務というのは危険が伴う物が大半だ。それもロストロギア絡みになると場合によっては死亡事故もおこりか
ねない。
 あんな思いをするのは1度で十分だ。そうリンディは自らに言い聞かせるが同時にそっと溜息をついてしまう。
 実際にアースラがロストロギア回収任務に就いたのははやてを救出したためである。彼女が遺跡調査によって
情報として取得したもの。その中に件のロストロギアの情報があったという。
 そのロストロギアとは――

「リンディさん!」

 リンディがはっとなって突如部屋に入ってきた人物を確かめると、はやての件についてメールを送った人の内
の1人で――最近になってようやく魔法に慣れてきた1人の少年――志麻恭司の姿があった。
 部屋に侵入した人物のその姿は、息を乱しまさに駆け込んできたという以外説明がつかなかった。

「――ここは時空管理局の一室よ、民間協力者である貴方が勝手に――」
「管理局って……」

 咎めようとするリンディの言葉を遮り、恭司は自分の思いをぶつける。

「……」
「管理局ってこんな事もあるんですか!?」

 彼にとっては当然聞きたいことなのだろう。
 管理局というのは現場においては事件現場で武装した警官と殆ど変わりようが無い。つまるところ危険もはら
んでいるのだ。
 だが恭司にとってこのような出来事は自らの範疇に無かった。だからこその質問だったのだが――

「それは、はやてさんが倒れてしまった事かしら。それともそのお見舞いをいかずに次の任務についたアースラ
の事かしら。もしかして、このように平然と仕事をしている私かしら」
「う――」
「意地悪な言い方をしたわね……。確かに管理局で働いていればこういう事にもなるわ。でもそれははやてさん
にとって承知の上でなの。だから恭司君が管理局を悪く言うのはかまわないけど、彼女達の事も考えてあげて欲
しいの」
「すいません、俺――」

 理想という衣を纏って、答えを求めてやってきた恭司。
 理想を現実というナイフで切り裂いたリンディ。
 2人の間には考えの相違というクレバスが出来ていた。ただそれは恭司の一方的な考えによる物だった。

「俺はもっと管理局というのを勘違いしていたんですね、ただ自分の求めるものが何かという意思でここにいる
俺と違って。他の人は確かな何かを持ってみんなここにいる。
 誰かの手助けをしたいっていう理由の人もいるし、自分が慕う人の為にいる人。そして自らの危険を顧みずと
も任務を遂行する人……。きっと俺はもっと違うものを想像していたんですね」
「ふぅん、そう思ってたの。君の言っている事はまさに偽善のレベルね」
「――レティ!?」
「こんにちは、リンディ。いえ……もうこんばんは、だったわね」

 恭司がゆっくりと後ろを振り返ってこの部屋に入ってきた人を確認する。そこには、時空管理局の制服に身を
包み、紫の長い髪を1つに束ね、顔には眼鏡をかけていてその奥の瞳は知性的にそれでいて何かを観察するよう
な鋭い瞳がある女性が立っていた。

「誰、ですか?」

 恭司は問うた。
 いきなり失礼な物言いな女性だなと恭司は同時に思う。そして彼の瞳はただ相手を威嚇するような鋭い瞳で目
の前の女性を不躾に見る。
 だがその目を意も関せずという風貌でレティと呼ばれた女性は恭司の目を見返すのだった。

「貴方をアースラに入れたのは私よ。感謝こそすれ恨みを買う覚えは無いわね。
 それにしても……ふふ、まさに獰猛な獣のような目ね。ただその猪突猛進さが命取りにならなければいいけれ
ど」
「だから――」
「レティ、あまり恭司君をからかわないで……。
 恭司君、紹介するわ彼女は主に管理局の人事を担当しているレティ提督よ」

 こんばんは、とレティは今更ながらに恭司に挨拶をする。
 その挨拶に拍子抜けしてしまった恭司だったが、それでも彼の求める理想を崩す事は無かった。

「俺の言っている事が偽善ってどういう事ですか」
「その事……君くらいの子でも分かりそうな事だと思っていたのだけど、買いかぶりすぎてたのかしら。
 志麻君、ここはボランティアする場所でもなく慈善事業団体でもない。皆ここで仕事をしているのよ。
 さっき君が言ってた理由で管理局に入る人も少なくないわ。だけど皆ここではそれすらも仕事の一環としてい
るの」

 言葉を詰まらせる恭司。
 彼女の言っていることは確かだった。恭司の言った理由はあくまで動機であり管理局で働いているという事に
起因していると言えば、管理局に入る時くらいだろう。だからこその組織であり……そして任務の過程で怪我を
負う事もある。
 管理局員はその事を承知の上で働いている。だから結局の所恭司の言っていることは――

「甘いわね。世の中そんなにうまく出来てないなんて分かっていたんじゃないのかしら。
 ここでリンディ相手に食いつくなら誰にでも出来る。君は一体誰に、何に苛ついているのかしら。私? リン
ディ? 管理局? …………それとも自分自身かしら」
「――アンタはっ」

 不敵に微笑むレティを前に、恭司は抑えが効かなくなってきていた。
 だがそれを止めたのは、この部屋の主であるリンディだ。彼女はレティと恭司の間に割って入るように立ち両
手を伸ばして2人を止める。

「はいはい、レティもいい加減にして……。恭司君も落ち着いてね。
 いい?、恭司君の言い分も分かる。だけど、レティの言っている事も確かなのよ。
 受け入れろ、納得しろ……そこまでは言わないけれど理解だけはして欲しいの」

 自らを抑える事も出来なかった恭司にとって、この言葉は冷や水を浴びるような思いで耳に入れた。現実とい
うものは今あることが全てであり、それを納得の上でいるのが彼女達。だけどそれを納得もせずただリンディは
理解だけして欲しい、つまるところ譲歩して欲しいという事。
 この事に気づいた恭司は自らが恥ずかしくなってくる。
 だが、それでも納得だけは出来なかった。理解はした、けれどそれが自分の中の何かと合わさるかと思えばそ
れだけは違っていた。
 ならば自分が今出来ることと言えば……そうして恭司は1つの頼み事だけして、リンディの部屋を出て行く。

「すいません、やっぱり俺にとってこの事はまだ整理できませんし、多分今後も納得がいかないんだと思います。
 だけど俺が出来ることだけはしっかりやっておこうと、気持ちが少しすっきりしました。
 いつか、自分なりにこの気持ちだけはケリをつけたいと思います。リンディさん無茶言ってすいませんでした。
 あとレティさん、やっぱり俺はさっきも言った通りの気持ちです。正直自分でもここまで物分りが良くないと
思ってませんでした。けどまた会うときは笑って話がしたいです。
 では俺はこれで――」

 部屋に残ったのは2人の女性。
 ただお互い何かを思い出すような笑みを浮かべていた。

「似てるわね、リンディ」
「ええ、本当に似ているわ。――嫌なくらいにね」

 恭司が出て行った後は、本来の業務に戻る2人なのだが、この時だけは違った。

「美咲さんの影響なのかしら、それとも誰のせいかしらね――」
「貴方でしょう、リンディ。色々と仕込んでるみたいね」
「何人聞きの悪いこと言ってるのよ。息子みたいに感じていたけど……。
 錯覚じゃなかったのね、あの人に似ているっていうのは」
「本当、あの実直で曲がった事が嫌いな所とか一度決めた事は曲げない所とか……まんまじゃない」

 まったくね、とリンディは返す。

「ところで、どうしてここに?」
「別に……と言いたい所だけれど、はいこれ」

 レティは右手に持っていたいくつかの書類をリンディに手渡す。

「気になる資料もあったから、貴方にも……ってね」
「何かあったかし――これ……」

 リンディはレティから手渡された書類にいくつか目を通す事にする。
 そこにはアースラが今回のロストロギアに関わる経緯とそのロストロギアについて……そして1枚の資料を眺
めるとリンディは目の前の彼女の思惑が分かった。

「これが、本当は私に見せたかった物?」
「興味深いでしょ」
「そう、ね。もしこれが本当なら――」

 こうして、夜は更けていく。





 ――――巡航L級8番艦アースラ ブリッジ 4月23日 AM 6:50



 八神はやてが倒れてから次の日。
 次元世界を巡航していたアースラのブリッジに警報音が鳴り響く。

「艦長! 第73管理世界にて異質な魔力を探知しました。恐らく八神はやてを襲った相手と同種の物かと思われ
ます!」
「ここから近いか?」
「すぐに現場へ向かう事が可能です。誰か向かわせましょうか?」
「そうだな……」

 ロストロギア探索任務につき、巡航していたアースラに緊張が走る。
 あのSランク指定すら受けた八神はやてが一瞬で倒されてしまう「何か」
 その相手をしなくてはいけない、だが同時にロストロギアの情報を得ることも出来る。ならば向かわない訳に
は行かないだろう、それがたとえ罠だとしても。

「――俺が行く」
「志麻、お前訓練室にいたんじゃ――」

 クロノがブリッジに入ってきた者を確認すると、それはバリアジャケットがところどころ破れ髪も乱れ、更に
は息さえ整っていない恭司の姿があった。
 クロノの問いかけすら無視し、恭司は己が欲求を満たしたいだけの言葉が続いた。

「それより、はやてを襲った奴がいるんだろう? なら俺が行く。行って文句言ってやる。
 俺の友達になんてことしやがるんだってな」

 その物言いに、クロノは恭司に対して感じ取る。
 こいつは今、焦っている……と。だからこそ彼を止めなくてはいけない。クロノは立ち艦長席に向かってくる
恭司を止めようとした。

「だからと言って、お前を向かわせるわけに行かない。
 第一、今の君じゃ無理だ。夜通しで訓練していたのだろう? 魔力も底をついているだ。そんな君を管理局と
して向かわせる訳には行かない」
「そんなのはハンデだ。今すぐ俺を行かせるんだ。
 じゃないと俺は――」

 言い合いになるクロノと恭司。
 クロノは向かわせるわけにはいかないと、恭司は行かせろと吊り合いの取れない振り子のように互いの言葉は
振り回されるだけで相手に届かなかった。
 そして報告があがってから数分経った時、1人の女の子がブリッジに入ってきた。
 その少女こそ――

「なのはが行きます」
「――っなのは!?」

 そう、管理局武装隊士官候補生……になろうとしている高町なのはだった。
 彼女は敬礼1つでブリッジに立つ。その姿に恭司は歳の割りに大人びた感じを受けただった。

「今日付けで私、高町なのは。アースラスタッフ武装局員として配属となりましたので」
「そうか……ならばすまないが、頼む。フェイトにも応援に向かわせるように今連絡をしたところだ。
 先に行ってくれるか?」
「はい。とにかく誰がはやてちゃんにあんな事したのか色々聞きたいし」
「だから俺が――」

 そっとなのはは恭司を手で遮る。

「恭司くん、私はただ守られていた時と違うよ。今は私だって守る番だもん」
「――――あ……」

 お願いしますと一言残しそのままなのはは転送され、例の管理世界へと向かって行った。
 なのはの言葉を聞くや否や恭司はふらふらと後ろへ下がってしまう。そして力尽きるように、足を折って尻餅
をつく。その様子に異常を感じたクロノは、恭司に対して休むように促す。
 恭司はクロノの声が聞こえたのか、はたまた無意識にか、恭司はブリッジからそっと出た。





 ――――巡航L級8番艦アースラ 廊下 4月23日 AM 7:15



 おぼつかな足取りで、どこに行こうとするのか恭司は歩いていた。
 ただ俯いて目の焦点も合っていない。

「…う。違…。違う。違う違う違う違うちがうちがうチガウ」

 そのままどこへ向かうことなく恭司は徘徊していた。
 その時、恭司にとって死角である廊下から1つの影が飛び出してきた。
 恭司は避けようともせず、飛び出してきた何かにぶつかりそのまま尻餅をついてしまう。

「きゃっ――」
「…う……違う……」

 飛び出して恭司とぶつかってしまったのは、先ほどクロノが応援にと呼び出したフェイトだった。
 目の前にいるのが恭司と分かるとフェイトは嬉しそうに挨拶をした。したのだが恭司は立ち上がる気配もなく、
ただぶつぶつと呟いているだけで彼女の挨拶すら聞いている様子も無かった。
 何か恭司の様子がおかしい、とそこでフェイトは、倒れたまま何処を見ているか分からない恭司の目に生気が
無いことに気づく。

「恭司、ごめんね急いでいたから……大丈夫?」

 とにかく彼を起こさねばと、フェイトは手を差し伸べるがやはり反応は無い。

「違うんだ違う、違う」

 ただぶつぶつと呟く恭司の様子は異常だった。今までフェイトにとってこのような彼を見たことが無かった。
 だが、これ以上ここで時間を潰すわけにはいかない。応援を待っている自分の親友がいるのだ。
 本来のフェイトならこの恭司は無視できない。だがそれ以上に命がけで戦ってるかもしれないもう1人の親友
の姿を想像しただけで今すぐ駆けつけたいという衝動にかられた。

「何が違う――!?」
「――何処に行くんだ」

 その時、恭司が初めてフェイトに反応したのだった。

「え、なのはを助けに――きゃ」

 行こうとフェイトは言おうとしたのだが、それは恭司によって遮られる。
 恭司に両肩を急に掴まれてフェイトは驚いた。そして彼は彼女をゆっくり焦点の合ってない目で見て。
 ――叫んだ。

「お前もか! 俺は不必要だと、いらないのだと言うのか! 俺は守れないのか誰も!」
「きょ、恭司? ど、どうしたの? 怖――っ」

 その様子にフェイトは恭司に対して恐怖を覚えた。彼は……彼は誰を、何を見て叫んでいるのだろう。何故そ
のような事を言うのか、何故彼はここまで追い詰められたような目をしているのか。
 そして何より――

「い、痛い……」
「――あ」

 正気に戻ったのか、どうにかしていたのか。恭司は我に返りフェイトを思いっきり掴んでいた事に気づいた。
 すぐさま両手を離す。
 恭司は目の前にいる少女を見ることが出来なかった。自らの醜いものを見られたかのように感じたのか、顔を
逸らして。

「後でお話は聞くよ、今はなのはを助けないと……ごめんね」
「あ、ああ。気を……つけて行けよ?」
「うん」

 フェイトは頷いてブリッジへと急ぎ向かう。
 そのフェイトを見送る恭司。そして見えなくなった後、誰もいない廊下で壁を背に1人両手で顔を覆い、崩れ
落ちる。

「何て……何てことをしたんだ俺の友達を自分の友達を傷つけるような事……。
 志麻恭司……お前は、俺は一体何がしたいんだ」

 周りに当り散らすことしか出来なかった恭司。そして自分達の出来ることを見据えている彼女達。
 ここまで自らの友と呼ぶ者に相違が出来ている。彼の先に見えるのは渡る事が困難な断崖絶壁か、はたまた登
るのさえ困難な大きな山岳か。その先に見えるのは彼女達がいるのだろうか。だが今の彼を助ける物はない。
 ただ1人、嘆き叫び怒号さえ上げ、立ち上がり這い上がるしかないのだ。それを気づくのもまた己なのだと。
今の恭司にはその事さえ理解できていない。
 彼はまた起き上がり歩く。その先にあるものは彼女達なのか――

「――強く、ならないと。強く……もっと早く強くならないと。きっと違うんだ俺が弱いから――」

 ――はたまた孤独という名の丘か。
 恭司はそっと、つい先ほどまで篭っていた訓練室の扉を開け……ようとした。

「学校……行かなくちゃ」

 進む先は合っているのか、志麻恭司という少年の行く末はどこなのか。
 まさに神のみぞ知るという事なのだろう。
































【あとがき】
 特に記述する事もないですが、ここまで読んでいただいてありがとうございますきりや.です。
 何をするにも中途半端。大した決意も無く、ただ前に進もうとするだけでは躓いてしまいます。
 そんな時はふと、後ろを振り返ってみると答えが落ちてるんですよね。
 学生時代の私がそうでした。今も前に進んでいるだけなので、いいところで振り向いてみようと思います。

 また最後となりましたが、読者の皆様とこのSSの展示をしてくださったリョウさんに感謝を
 では次にお会いできる機会を楽しみにしています








作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。