くああ……眠い。
そして寒い。
夜行バスに乗って、途中から電車で揺らされながら海鳴に来たけど……夜中に起きては辛い。
やっぱ海沿いの街と俺のとこの田舎の距離あり過ぎ。
「そろそろのはずだけど……」
駅の時計を見る。
待ち合わせの時間まであと10分くらいか。
立ち食いそばでも食うかな。
「あっ、いたいた。おはよ、それと明けましておめでとう」
「あっ、明けましておめでとうございます。すずかさん」
時空を駆けちまった少年
外伝? お正月 初詣
まあ騒動たっぷりだった1年も過ぎ、ついに正月。
忙しい受験生ではあるけど、正月は合格祈願の初詣だ。
毎年のごとく家族と一緒に行こうかなと思っていたら、すずかさんからお誘いの電話。
何やら今年は一緒に過ごす人がいないとか。
アリサさんは家族が海外で正月過ごさないといけないらしく、そっちで正月。
なのはさん、フェイトさんはヴィヴィオと一緒に高町家、ハラオウン家の皆さんとヴィヴィオを迎えた初の正月。
エリオとキャロもそれに参加。
すずかさんもそっち行けばいいんじゃないかなと思ったが、
『う〜ん……でもヴィヴィオちゃん迎えてのお正月は初めてだから、家族水入らずの方がいいかなって』
まあわからなくもない理由。
気にする人たちじゃないけど、親しい中にも礼儀あり? という感じかねえ。
はやてさんは部隊の方でお仕事三昧。
流石に隊長陣が一気に抜けるのは不可能だったらしい。
六課の隊舎で八神家全員で正月だとか。
ティアナは執務官補佐試験があるからそんな暇ないと言っていた。
スバルもそれじゃあと言って手伝い……までは無理だから正月も六課で待機にするそうだ。
隔離施設組はギンガ先輩、おやっさん達と御馳走を食べるらしい。
こっちからも誘われたがすずかさんが先に連絡くれたので、こっちが優先となった。
「ファリンさん運転できたんですね」
「はい。これでも超高性能な自動人形で、すずかちゃん専属のメイドですから」
「でもたまにバックとドライブのギア間違えるんだよ」
「す、すずかちゃん、それは言わないでください〜」
あ、あはは……ドジっ子メイドだったもんな……
事故起きねえだろうな……
合流後、車に乗せてもらい月村家に。
神社の方は駐車場がないらしく、歩いて行くことにしたのだ。
「ケイさんは朝食は?」
「まだっす」
「じゃあウチで少し食べてから初詣行こっか」
「御馳走になります」
よっしゃ! 久々にファリンさんの手料理だ!
しかも正月の!
いやー楽しみ楽しみ。
到着後、洋風な部屋に通される。
前は食堂っぽい部屋だったのにな。
外を見ると大きく広い庭が見える。こっちも洋風の綺麗に整えられた庭だった。
ただ時期が時期なだけに植物は枯れてる。
「やっぱ広いですね」
「うん、ウチの子達はそのおかげで退屈しないみたいだけどね」
「いやー驚きの数のネコですよね」
足元にはたくさんのネコ。
冬だからか丸まって寝ているものや、じゃれ合っているものそれぞれだ。
近場に寝ている子ネコを抱き上げ膝に乗せる。
「かわいいですね」
「うん、この前生まれた子なんだ」
「へ〜」
つうか普通に生ませてるんだ。
去勢とかしないとは……
「アリサさん家は犬がいっぱいですしね」
「ケイ君はどっちが好きなの?」
「俺は犬派ですね。まあどっちも好きですけど」
あっ、ちとジト目された。
「イッツ……」
ゲッ、噛まれた。
「ふふ、抱きながらそんなこと言うからだよ」
「犬にも猫にも噛まれるとショックっす……」
アリサさん家の犬も半端ない数だからな……
しかも前に見たら噛まれた。
それはもう見事にガプッと。
……やっぱ食ったことあるのがいけねえのか。
「お待たせしました〜」
お盆に料理を乗せてファリンさんがやってくる。
ネコを降ろし、お盆を受け取るために立とうとすると
「ストップです。大丈夫、転びませんよ」
「あっ、さいですか」
転ぶと思って受け取ろうと思ったけど余計だったか。
「もう……ケイさんの中で私はどういう認識なんですか」
「いや〜、よく転ぶメイドさんという認識が少々」
「む〜」
頬を膨らませて怒る姿もちょっとかわいい……
「すずかちゃんも何か言ってくださいよ〜」
「ん〜、ファリンが転ぶのは本当のことだし……」
「そんな〜〜」
ちょっと涙目で拗ねるファリンさん。
それを見て苦笑する俺とすずかさん。
おっと、早く食べないと冷めちまう。
「いただいてもいいですか?」
「あっ、はい。どうぞ」
「お〜、うまそうな雑煮」
白く柔らかそうな餅の入ったいい匂いの御雑煮。
さらに横には黒豆、栗きんとんが小皿に乗せられている。
「これは手作りで?」
「はい。先日私とすずかちゃんで作ったんです」
よく作れるな〜
「ケイ君は作るの?」
「餅を丸めるくらいなら……あっ、こら! 鰹節持ってくな!」
周りのネコ達に添えつけの鰹節を奪われる。
それを追いかけて鰹節争奪戦となる。
その様子を見ながら笑うすずかさん、ファリンさん。
苦笑いしながら捕まえたネコに腕を引っ掻かれ我慢する俺だった。
御雑煮などなどを食べ終えてから、海鳴の八束神社にやってくる。
何でも本物の霊能力者の巫女さんがいるから、祈祷でもしてもらうといいのでは? ということだ。
これが一番の理由だったりする。
合格祈願に祈祷で効果倍増するといいんだが。
神社にはたくさんの参拝者がいて、屋台も多い。
境内への道にはたくさんの参拝者で長蛇の列ができている。
その中には着物姿の女性も多い。
……すずかさんとファリンさんが着物でないのは残念だった。
まあそんなちと邪念染みたことを考えながら3人で並ぶ。
「ケイ君は地元の高校受けるんだよね?」
「ええ、つっても実は定員割れしそうなくらいなんですけどね」
近年の少子化は問題でかいらしい。
まあ俺は受験楽になって嬉しいが。
「気楽ですね〜」
「公立ですしね。私立の受験生は大変っすよ」
「じゃあ今からでも聖小大付属受ける?」
「えっ……」
滅茶苦茶メンドウで嫌なんですけど……
「いいですね。通うことになったら、お弁当お作りしますよ」
「!?」
ぐおおおおおおおおおおおおおおおお、悩みどころ!!
「何だったら下宿家にする?」
「!!??」
すずかさん、ファリンさんみたいな美女2人と1つ屋根の下!?
なんておいしい!?
「すごい悩んでますね……」
「というかこんな道端で頭抱えこまなくても……」
うむむ……偏差値帰ってから少し見てみるかな……
「合格祈願のための祈祷ですか?」
「はい。那美さんできます?」
「えーっとこっちの彼でいいのかな?」
うひゃー、巫女さんもまた美人な。
つうかこの人霊が見えるのか……すげえな。
「お願いします」
「はい、わかりました。それでは準備をしてくるので事務所の方で待っていてください」
そういって歩き出す巫女さん。
あっ、何もない所で転んだ……
だ、大丈夫か?
「……すげえ不安になったんですけど」
「あ、あはは。大丈夫だよ。お姉ちゃん達の昔からの知り合いの人だし」
……やっぱここの人たちは知り合いの美形率高っ。
「ということは恭也さんも?」
「うーん……確か恭也さんの彼女候補……だったかな」
おうおうモテモテだったんですね。
「……マジっすか」
「うん、すごい争奪戦だったんだよ。だからお姉ちゃんが結ばれたときはすごい嬉しかったんだ」
少し寂しそうに笑うすずかさん。
……うーん、嬉しいってのは本当だろうけど、なんか引っかかる笑顔だな。
「ほら、事務所の方行かないと」
「あっ、そうっすね」
まあ……人の深い所にあんま土足で踏み込むものじゃねえし、
ここはスルーしておこう。
何故だろう……
あの後お祓いをしたんだが、合格のための祈祷より、マジのお祓いを軽くだけどされた……
しかもすげえ肩が軽くなったんですが……
「疲れていたのですしょうか……」
「むしろ憑かれてたんじゃないのかと不安に……」
「ケイ君運あんまりよくないもんね」
「運気が上がることを祈ります」
おみくじもしたけど……末吉。
恋愛、励め。
勉学、励めば光が見える。
健康、素晴らしく健康。
…………いや、なんかもう……これから1年どうなるか想像するとマジ凹む。
「で、でも、健康が良くってすごいケイさんらしいですよ」
……すげえくやしいんですけどその認識
「そういうファリンさんは “足元に注意何もない所で転ぶことあり” じゃないですか」
「うっ……言わないでくださいよ〜」
「俺だってショックっすよ」
ん? そういえばすずかさんはどうだったんだ?
「うーん、大吉かな」
苦笑しながら言われた。
「うおっ、すげえ」
いいなー、俺引いたことねえし。
……15年生きてるが。
「内容はどうだったんですか?」
「どれも順風満帆だって」
「すずかちゃん羨ましいです……」
っすよねー。
「で、でもほら占いだし」
「うひゃあ!?」
……ファリンさんが歩いていて何もない所で転んだ。
「……いきなり当たっちゃったね」
「……ですね」
「うう……絶対今年は転びませんようにってお祈りしたのに……」
それを聞いてなんとなく冬の青空を見上げる。
……俺の祈りも届きそうにねえな。
さらば俺の青春らしい高校での恋愛。
仰ぎ見てるとすずかさんが耳元に顔を近づけてきた。
ん?
「健康運がいいのは当たったら私的には嬉しいよ。……帰ったら……ね?」
耳元でやさしく、それでもって艶を持った小さな声で囁かれた。
は……反則だ。
「……って新年早々吸うんですか!?」
「……ダメ?」
「うぐっ……」
そんな見上げるように見なくても……
この人男の弱点しりすぎでしょ……
く、くそう……
「か、加減してください」
「大丈夫だよ。受験生なんだから貧血にならない程度にしておくよ」
はあ〜……マジで遠慮なしで吸われるな……
いやまあ出会い方とか違ったらこうじゃないだろうけど……
出会っていきなり敵視、さらには殺し合いだもんな……
誤解ってことで和解して、もはやそこまでやったら、そりゃ遠慮も消えるわな……
「それじゃあ戻ろっか」
「そうですね」
自業自得? なのだろうか、これは。
……まあ正直こんな美人と知り合いになれたんだし、いいっちゃいいんだが。
……7対3でよかったとは思う、うん。
神社から月村邸に戻ってくると何故か玄関の鍵が開いていた。
おかしいな……この家の殺人警備システムが働いていないし……
「おかえり〜」
「久し振りだな。すずかちゃん」
「お帰りなさいませ、すずかお嬢様」
中に入ると恭也さんと忍さん、ノエルさんがいた。
あれ? ドイツにいて年越しじゃ……
「お姉ちゃんにお兄さん……ドイツにいたんじゃ……」
「帰って来たのよ。かわいい妹に1人でお正月を迎えさせるわけにはいかない……だったけどお邪魔だった?」
いえいえ、残念ながらそういう関係じゃございませんので。
つうかわかって言ってるでしょ。
「ううん。そんなことないよ。すっごい嬉しい」
「ああ、もう泣かなくてもいいじゃない」
ちょっとホロ泣きしてそれをやさしく抱き締める忍さん。
……ええ光景だ。
「やあ、久し振りだな」
「ええ、お久しぶりです。どうですか? ドイツは」
「まあなんとかやっているよ。そっちはどうだ?」
「受験で嫌になります」
この歳のこのシーズンはマジでそれしか考えられん。
「どこを受験するんだ?」
「地元の公立です」
なんかこういう話ばっかだなー
「あら? 聖小大付属は受けないんだ?」
忍さん……それ言われました。
「私立ですよね? 金も掛かるし、何より偏差値が足りませんよ。高いでしょ?」
「だったら風芽丘学園はどうだ? こっちも私立だがまだスポーツ推薦もあるんじゃないのか?」
「……さあ……つうか間に合わないでしょ」
というかこの身体で部活……していいのか?
「体は力の加減をしておけば多少は誤魔化せるだろう。俺もそうしていた」
恭也さんなら100mとか陸上系は世界どころじゃないもんな。
「まあでも多分、受けはしないですね」
「あら、残念。そのまま家に下宿すればすずかがこの広い家でファリンと2人だけじゃなくなったのに」
それさっきも似たようなことを言われましたがね。
まあ確かにこんだけ広いのに2人しか住んでいないってのは寂しいだろうけど……
でもアリサさんとかいるし
「大丈夫だよ。アリサちゃんもよく来てくれるし、私もアリサちゃんの所によく行くんだから」
ほらやっぱり。
「そう? 私だったら寂しいけどなー、恭也もいなかったりと思うと」
「そうか?」
……なんか桃色空間ぽいもの見えてきた……
「すずかお姉ちゃんー!」
扉から突然何か小さな人影が飛び出す。
その人影はそのまますずかさんの胸に飛び付いて行った。
「雫ちゃん久し振り」
「うん!」
恭也さんとこの娘さんか。
「おじさんも久しぶり〜」
「雫ちゃん……オジサンは勘弁と言っただろう……」
何故に叔母のすずかさんとなのはさんはお姉ちゃんで俺はオジサン……
老けてるのかな……
「えへへ〜」
「えへへじゃない」
「いはひ〜〜〜」
すずかさんが抱いているのでそのまま両の頬を軽く引っ張ってやる
口の悪い子どもにはお仕置きだ。
「それになんですずかさん達は叔母さんと呼ばない。血縁関係上はそういう……はっ!?」
「…………………」
し、しまった……
「雫〜外で遊ぼっか」
「俺も行こう」
「ファリン、お茶でも淹れましょう」
「あっ、それじゃあお菓子も用意しますね」
そのまま見事に部屋から出て行く5人。
ちょっとーーー!
「……………………」
「……………………」
2人だけ部屋に取り残される。
「お、俺も外の空気を吸いに……」
行こうとするが肩をガシっと掴まれる。
………や、やばい。
振り返ると笑ってない素敵で綺麗な笑顔のすずかさん。
「ケイ君」
「は、はい!」
「女の子に対しての禁句は知ってるかな?」
ニコニコと近づいてくる。
ある意味ホラーより怖えええ!
ダラダラと冷や汗が垂れてくる。
「ね、年齢のことを言わない! で、ですマム!」
「じゃあどうして言っちゃうのかな?」
気のせいか笑顔がさらにすごくニコニコしたものになってく気がする。
ま、マジで勘弁してください!
「す、すいませんでした!」
「もう、仕方ないな。ケイ君はそういう配慮が足りないんだから……」
しょうがないといった感じの顔になって離れるすずかさん。
た、助かったーー。
「口は災いの元……だよ?」
人差し指を俺の唇に添えてそう言う。
ドキッと一瞬なってしまう。
「あ、あはは……さーせん……」
「だから……これが災い、あむっ」
そのまま自然な流れのように首元に顔を近づけ血を吸い出す。
「んっ……んっ……」
小さな喉の潤う音が聞こえる。
鼻はすずかさんの甘い匂いを察知し、それによって頭の思考が鈍くなっていく。
「ちゅぱ……ちゅるぅ……んっんっ……」
艶のある妖美な声がする。
はっきりしない意識ですずかさんの顔を見ると赤く妖艶な顔をしていた。
「ちゅぱっ……ちゅっく……しゅる」
首に刺さった牙が抜けると、その傷口を止血するためのように嘗められる。
「んっ、ご馳走さま」
「………………」
「ケイ君?」
「あっ、はい」
い、いかん、意識飛んでた。
「どうしたの? もしかして吸い過ぎちゃった?」
「えっ、あっ、そんなことないですよ?」
あはは……実は少し気持ちよくて、そんでもって妖しい顔に見惚れてましたとは言えない。
「じーーーーーーーー」
ん? 視線?
「じーーーーーー…………」
……………
扉を見ると雫ちゃんとファリンさんが覗いてた。
「すずかお姉ちゃん」
「なに?」
「パパとママみたいになるの?」
ぶっ!?
「パパとママもよくやってるから」
あっ、成程。恭也さんもよく吸われるのか。
しかしそれは……
「うーん、ママ達とはまた違うよ」
「そーなの?」
「うん、お姉ちゃんのタイプとケイ君は違うから」
ですよねー
……まあ言われるとショックだけど。
「げ、元気だしてくださいよ。すずかちゃんも照れてるんですから」
「えっ?」
すずかさんの顔を見てみる。
いつもと変わらない笑顔で雫ちゃんと話している。
……それはねえわ〜
「全然ないっすよ」
「えっと……あはは……ドンマイです」
えー。
********************************************
うーん……おかしいですね……
ケイさんのことそこまで好きじゃないのでしょうか?
恋愛って感情はないとしても、ある程度は何かある思うんですけど……
「そういえばお茶の準備とか言ってませんでした?」
「あっ、お姉さまがお1人で大丈夫だと言ったので雫お嬢様と一緒にいたんですが……」
ケイさんがまた何かドジなことしたって言って
こっちの戻ってきたから追いかけてきたんですよね……
「雫ちゃん、パパ達のとこ行かないのか?」
ケイさんが雫お嬢様の方に移動してしゃがみ込んで聞いています。
「んー、パパとママ今ラブラブしてるから」
「………それもまた」
あはは……すごいですよね。
すずかお嬢様もケイさんも私も苦笑しかできませんでした。
お姉さまもその中にいたりするのでしょうか……
「たまにノエルも一緒にラブラブだよ〜」
「…………」
ケイさん黙り込んじゃってます。
そっかーお姉さまも一緒なんですか……
恭也様すごいですね……
「どうしたの?」
「いや……世の中はやっぱり格差社会だなーと」
うーん、というか……
「ケイ君の場合は日頃の行ないじゃないかな? 彼女のできる人は顔とか関係なくてもできるよ?」
私もそう思います。
「あはは……いーんすよ……どうせ世の中顔っすから……」
こういう拗ねちゃうところが駄目だと言った方がいいのでしょうか?
あれ?
すずかちゃんが口に人差し指立てて合図しています。
これは黙っておけということでしょうか?
「そう思うんだったらおしゃれとかしてみたら?」
「それはそれで面倒なんですよ」
だからってジャージやスウェットの割合が高いのもどうかと思いますけど……
今日は流石にそうじゃないですけど……
「それに金がかかる服はいやっす」
明らかにバーゲンで安く売ってるメーカーのなんですよね……
……明らかに言ってることと行動が矛盾してます……
「それを言ってるといつまでもそのまんまだよ?」
「私もそう思います」
「ぐっは!?」
すずかちゃんと私の言葉に軽く凹むケイさん。
このやり取りもお約束になってきましたね。
「……ちょっとリアルに考え直します」
あっ、ちょっと考えが揺れましたね。
「何だったら手伝うよ? 服の買い物とか」
「そうっすね……金貯まったらお願いしようかな……」
あっ、これはデートのお誘いなんでしょうか?
すずかちゃんからのアプローチ?
「あっ、でも海鳴来るので相当掛かるし……ミッドに行って六課の奴に見てもらうのもいいかも……」
け、ケイさーーん!?
ここでそう言うのはないんじゃないんですか!?
「うーん、それもいいんじゃないかな?」
顎に指を添えながら少し考える仕草をして答えるすずかちゃん。
あ、あれ?
すずかちゃん怒らないんですか?
「通販でも結構買うって奴多いんですがすずかさんはどうしてます?」
「私は海外でも買ったりしてるし、実際に見てから買うから通販はあんまりしないかな……」
「……セレブは違いますね」
苦笑いされました。
けど一般家庭ではない感覚なんですよね……
それに私もいつも大抵メイド服なんですよね。
それでもすずかお嬢様と一緒にお買い物で私服を買ったりしてますし……
「……あれ? 雫ちゃんは?」
へっ?
「あ、あれ? あれ? いないです!?」
お姉さまにちゃんと見てろって言われたのに!?
「さ、探してきますーー!」
もーまたドジしちゃいましたーーー!
「手伝いますか?」
「いえ、ケイさんはここでゆっくりしてくだ ひゃああ!?」
あいたた……うう……今年2度目……
今年も直らないんですね……
************************************************
あの後、ファリンが出て行ってからノエルがお茶とお菓子を持って来てくれた。
そのままケイ君と一緒にお茶をしました。
「ふー、ご馳走様でした」
「そういえば電車は大丈夫なの?」
もう何だかんだで4時過ぎだし……
ケイ君の街まで結構掛かるよね?
「あー……そろそろ出ないとやばいっすね」
「車出そうか?」
「いえ、道覚えてますしいいですよ。今日そんな運動してないし少し歩かないと」
まだあの滅茶苦茶な人形出てきて走らされるのかな?
玄関まで見送りと思って出るとファリンが座り込んでいました。
「あれ? どうしたの?」
「し……雫お嬢様見つけたら鬼ごっこになって……ついさっき恭也様、忍お嬢様と翠屋に行かれました……」
あはは、元気だな雫ちゃんは。
「お疲れ様」
「はい……あれ? ケイさんはお帰りですか?」
「ええ、そろそろ帰らないと実家の方の電車がなくなるんで」
ちょっとふら付きながら立ち上がるファリン。
うーん……そこで手を差し出せばポイント上げられるんだけどな。
まあそういうのができないのがケイ君だからなんだろうけど……
恭也さんは普通にそういうのできる人なのに。
「それじゃあお邪魔しました」
「はい、お気をつけて」
「またね」
ファリンと2人で手を振りながら見送る。
ケイ君も「さようなら〜っす」っていつもの体育会系な口調で大きく手を振りながら
そのまま歩いて帰っていった。
「……すずかちゃん、そういえばさっきの口止めはなんですか?」
「うん? 何が?」
「ほら、買い物を六課のみんなの所に行くって言ったときです」
あっ、あの時か。
ちょっとイラっと来たかな。
ああいう女の子からのお誘いで普通に別の女の子のところで買いうのも手かなって言うんだから。
「うーん、でもケイ君だしね……」
「それでいいんですか?」
何が?
「すずかお嬢様浮いたお話ないじゃないですか」
うーん……でも私も体のことあるし……
やっぱりそれを考えると男の人と付き合うっていうのあんまり考えられないかな……
「ケイさんは結構その辺知ってますしわかってくれてますよ?」
「でもね、ファリン。そういうのを理解してもらえるっていうのと、恋愛感情はまた別だと思うよ?」
ケイ君も似たような体になっちゃってるし、私の体のことも知っている。
一番自分が嫌になる時期のことも知っている。
それでも苦笑して 「大変っすね」
だけで流してくれたときは少し嬉しいようながっくり来たような……
鈍いだけなのか考えていないだけなのか、大物なのかよくわからない反応だったな。
「それに……やっぱり私は恭也さんみたいな人がいいって思っちゃうんだ」
「でもそれは……」
「大丈夫だよ。お姉ちゃんと結ばれてるのはわかってるし、嬉しいと思ってるよ」
でもやっぱり初恋だったからな……
小さい頃は弱気でいつもおどおどしてた。
なのはちゃんやアリサちゃんと仲良くなってからそういうことは少なくなったけど
それでも少し弱気なのは一緒だった。
そんな私にとって恭也さんは、やさしくって頼りになるお兄さんだったから……
「ケイ君は……う〜ん、対極ってわけじゃないけどまた違うよ。まだ頼りないし、何より全然子供だもん」
「それもそうですけど」
だから……そういう恋愛感情とはまた別だよ。
「だけどこれから先、恭也様みたいな人とか現れることはないと思いますけど」
そうなんだよね……
私もそう思う。
恭也さんみたいな男の人って滅多にいない。
それに私の体を知って大丈夫そうな人事態が滅多にいない。
だけど探すっていうのも……何だか嫌だ。
お姉ちゃんと恭也さんみたいに出会いたい……って望んじゃう。
「う〜ん……もしこれから先に現われなかったら……」
「現われなかったら?」
ケイ君を私のタイプの人になるように仕向けようかな……
もっと頼りになって、気配りできるような男の人になるように……
……なんてね。
「何でもないよ」
でもやっぱりファリンにそう思ったことを言うのをやめて
ちょっと笑いながら手を後ろに組んで体を回して家の中に戻る。
ちょっとそういう姿想像したらあんまりにも似合わなくて笑っちゃった。
「ええ!? 気になりますよ!?」
「何でもないよ。ちょっと恭也さんみたいなことできるケイ君を想像しただけだよ」
ファリンも目線を少し上にしながら想像している。
「……違和感ありますね」
「だよね」
そのまま2人で笑いながら家の中に戻りました。
時間はまだまだあるんだから慌てる必要なんかないよね。
********************************************
「ぶえっくしゅん!」
……風邪ひいたかな。
しっかし今年はいきなり運がよかったな。
美人2人と過ごせたし。
しっかし受験かー、面倒だなー
サッサと終われ……合格でだけど。
ん?
「おっ! 百円玉めっけ!」
ラッキー。
お祓いもして運気が上がってる! 今年はいい年になりそうだぜ!!
おわり
おまけ
「なーおかんー」
「んー? 何?」
「俺の分のお年玉は?」
「あっ、ケイいなかったから親戚のみんないいかって言って、貰ってないわよ」
「……はああああああ!? 俺の金運拾った100円だけ!?」
「兄ちゃんそれ運悪いのかいいのか微妙だねー」
「お前の寄こせ!」
「あーー! 妹から奪う気だーー!」
「全然いい年になりそうじゃねええええ!」
おまけ2
「先生―、風芽丘高校と聖小大付属高校の偏差値ってみせて貰えます?」
「いいぞー、ほれ」
「ども」
(結果 風芽丘高校、志願期限切れ 聖小大付属 平均点15点以上足りず)
「……あざーした」
「おう」
「…………やっぱ地元の公立しかないわ」
あとがき
マズッたっす!
正月もう終わってしまった!
期限間に合わず……何たることだ……
とまあとりあえず今回の正月ヒロインはすずかとファリンでした。
とらハはしたことないのですが、忍とノエルはどちらにせよ一緒になるというルートらしいので
すずかとファリンも一緒に書いて行きました。
最後はすずかの 「ケイ育成計画」 っぽいものを考えるというオチにしてみましたw
年上からはしょうがない後輩とか年下にしか見えないケイ。
年上と恋愛をしたいと思うのならもう少し大人にならないと駄目だろうなと思いこういう終わり方にしました。
それでは読んでくださった皆様。
今年もよろしくお願いします。
Web拍手返信
※ 私はまだヒロインは、すずかだと信じていますw
が……最近、ルーテシアも良いな……とか思ってきましたw
>いやー、これを読んだときびっくりでした。
しかもメールでの感想でもすずかが上がってきましたw なんという偶然w
ということでヒロインをすずかにして書いてみましたw
実は本編でももうすぐ再登場の予定だったり……
※ えー今更ですが、プロローグでケイを追いかけていた熊ってもしかして師匠のじいさん?
>マジで意外なとこから拍手が多い!?
いやー実はそうだったりそうでなかったり……
これから先のストーリーを妄想してるとじいさんだったりはたまた○○だったり不思議生物だったり……
はっきりは決まっていなかったりしますw
作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル、投稿小説感想板、