「こんにちは、ギンガ先輩。チンク迎えに来ました」
「あら、久し振り。じゃあ今日、明日はお願いね」
「了解っす」
時空を駆けちまった少年
外伝? With チンク 旅行だぁ!
数日前。俺はデパートの福引で見事に京都の旅行をゲットした。
あまりの驚きで一緒にいたアギトが俺の髪を焦がしたりもしたけどまあいいや。
けどそれを見るとペア券。
相手探しを始めたが元機動六課関係者はみんな仕事。
……あいつら青春捨ててるよな絶対。
気付いたら30越えてましたとかありそうだな。あっはっは。
……あかんリアルに想像できる。忘れよ。
ただそのときギンガ先輩に聞いた時
「じゃあナンバーズの誰かを連れていってあげてくれるかしら?」
と言われた。理由として更生プログラムが始まってもう半年以上。
予想以上に飲み込みが早く、社会見学みたいな感じで連れて行って欲しいとのこと。
……いいのか? 俺も一時期スカリエッティ側にいたのに……
「当然発信機の類はつけられたりするけどね」
あっ、さいですか。
というわけで数の子軍団の中から誰と行くかを決めることに。
「てわけで一緒に行くやつ」
「はいッス!」
「はいはい! セインさん行く!」
まあお前らは反応速いと思ったよ。
「ちなみにセインとウェンディは駄目だとよ」
「「 何で!? 」」
「2人はもう少し真面目に受けないとまずいから補習よ」
お〜凹んだ。
「私も行きたいですが……オットーともできれば行きたいので」
まあ仲良し双子だからなお前らは。
「私はパス。読みたい本あるし」
意外とインドア派なんだなディエチは。
ん? そういやあのチビッ子姉ちゃんの姿がねえな。
「あれ? チンクは?」
「セ、セイン……ウェンディ……こ、この前わからないと言っていた……部分のいい資料があうっ!」
…………自分より背の高い本の山を必死に持ちながら扉から入ってきたチンク。
バランス崩してコケたな……
顔面押さえて痛いのプルプル震えて我慢してるし……
「……大丈夫か?」
「……と、当然だ……私は姉だぞ……」
いやいや理由になってねえ。
しかも滅茶苦茶泣きそうな顔で言われても……
「チンク姉……あのアホ2人のためにそこまでしなくても……」
「誰がアホだ!」
「そッスよ! アホはセインとケイだけっす!」
んだとコラァ!?
「だ、だが……私は姉だからな。妹の面倒を見るのが当然だ」
うーむ。相変わらずそこは譲らんのね。
「チンク。じゃあその大変な姉の仕事の休みとして旅行いかね?」
「旅行? いや……だが……」
「そうだよ。行ってきなよチンク姉。どうせアタシも行く気なかったし他の奴も行けなかったりなんだから」
「しかし……」
やっぱ妹達を置いてというのが気掛かりか。
くっ……わが兄妹に見習ってほしい。
俺のとこなんて相手いないだろとか言って福引の当たり持ってこうとしたっていうのに。
「俺もおまえには世話になったしな。行くぞ」
脇に抱えてそのまま行こうとする。
当然チンクはじたばた暴れるが関係ない。
「「「「「 いってらしゃ〜い 」」」」」
「お前たち!?」
そのまま施設の入り口まで行く。
あっ……肝心なこと忘れてた。
Uターン。
もっかいみんながいる部屋に戻り
「勢いで行ったけどチンクの許可まだ申請通ってないし期限今日じゃなかった」
よってバック。
「「「「 アホか! 」」」」
チンク、セイン、ノーヴェ、ウェンディの正拳突きが顔に入った。
とまあそんなこんなで今日出発。
施設にチンク迎えに来てこれから京都に転移をする。
「ふふふ、チンク結構楽しみにしてたみたいよ」
「ええ、俺も京都は修学旅行以来なんで楽しみっす」
どこ見て回るかな。
そんな会話をしつつ全員がいつもいる部屋に入る。
「お、来た来た」
「チンク姉〜お迎えッスよ〜」
「ほら隠れない隠れない」
なんだ? チンクのやつこそこそとノーヴェとかの陰に隠れながら何してんだ?
「……恥ずかしいぞ。やはり」
「そんなことないって」
「うん。そうそう」
ずいっとディエチとオットーに押され姿を現す。
…………
「ど、どうだ……」
「あひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ! お前俺を笑い死にさせる気か!? へぶっし!?」
「その前に蹴り殺してやるよ」
もう既に蹴ってます。
ぷしゅーとノーヴェに蹴られたところから煙を出しつつチンクの姿を確認。
頭にメイドさんがつけてるようなものをつけ、フリルのたくさんついた黒のゴスロリ。
丸いだけだった眼帯がなぜかハート型になってた。
「…………笑う以外にどんな反応を見せろと?」
「ほら見ろ! こう言われるだろうから嫌だったんだ!」
恐らくこの格好をさせた張本人のセイン、ウェンディ、ディエチ、オットーに怒るチンク。
「そおかな? アタシは似合ってると思うけど」
「はい、私もですが……」
ノーヴェ……ディード……いやその反応はある意味正しいんだろうけど……
「とりあえず普通の服装にしろよ……ゴスロリじゃなくて」
「ゴスロリってなんだ?」
お前……知らずにそんな恰好したんかい。
そのままそっち方面の方が喜ぶ格好で普通に歩いてたら間違いなく引かれる格好だと説明。
チンクは当然怒って張本人達を説教。
その後普通の服装を着て今度こそ出発。
いざ京都!
京都……桓武天皇によって794年建設。
その後江戸時代が終わるまで日本の首都と言っていい古都。
江戸時代には政治の中心は江戸に移ったが日本の都だったことは変わらない。
まあつまり何を言いたいかと言うと……
「ビバ・京都!」
「……テンション高いな」
「まあ日本の歴史がたくさんある古都だからな」
まずはどこだ。
法隆寺で行くか? 金閣? 銀閣? 清水寺もいいな。
「私はよくわからんからな……ガイド頼めるか?」
「おう、まかしとけい。といっても俺の行きたいとこになるけどいいか?」
「ああ、かまわない」
うっし。じゃあまずはあそこだ。
新撰組 壬生屯所 旧八木邸
「ここは?」
「新撰組っていう日本の侍集団の中でも特に有名な集団の屯所だ」
ちなみにここで結成されたらしい。
初代局長芹沢鴨と後に有名になる近藤勇とはここで意見分かれして沖田、土方、山南、原田とのちの隊長陣に暗殺される場所でもある。
まあ組が大きくなるにつれて屯所も変わったりしたが最初の屯所はここだ。
「侍というと……確かお前の剣を使ってた騎士のようなものだったか」
「ああ。刀な」
実は俺結構侍好きなのだ。
ガキの頃は暴れ○坊将軍見てたし、水○黄門見たりだったしな。
他にもるろう○剣心見たりで結構影響もされてる。
大河ドラマも見てるし。いや……新撰組最高だったぜ。正月にやってた土方歳三最後の1日とかもこれまた……
シグナム師範と熱く語っちまった程だぜ……
「おーい、トリップするな」
「あっ、すまん」
いかん。フェイトさんのこと言えん。
まあとりあえずなんだ。刀を使うものとして結構憧れるのよ。新撰組は。
「お〜マジで刀傷が柱についてら」
「しかし同じ組織内で暗殺か。物騒な時代だったんだな」
「まあ時代の変わり目だったしな」
そんな中で自分の考えを貫いて生きて行った人達は攘夷志士でも幕府側でも尊敬に値すると俺は思う。
「お前とは正反対だな。しっかりした人物が多い時代のようだ」
「うるせいやい」
その後近藤勇の遺髪塔をお参りしてから次の観光地に向かう。
続いて来るは法隆寺。
世界最古の木造建築物として世界遺産に登録されたってことくらいしか知らんけど。
「まあこの時代のはあんま知らんけどかなり有名な建物だ」
「1000年以上前の建物とは……古代ベルカ並みか……よく残ってるな」
異世界の人でも結構驚きか。
まあ確かに一部修繕したりしながらだけど1000年以上昔の建物だもんな。
「ここの宗教は聖王教会のとは別モノだろうが……どんなだ?」
「どんなって……」
……実際どんなだ?
「……お前の国の宗教だろう……」
「あはは、仏教なのは同じだが宗派がありすぎてよくわからん」
パンフ見ればわかるかな……
「ちょっと貸してみろ」
「ほい」
パンフを渡す。
「………」
真剣な顔でハイペースに目を通すチンク。
「なんかわかったか?」
「……………」
「お〜い」
「……め……い」
ん? 今なんて言った?
「……読めない」
ずるぅ!?
思わずその場でコケた。
なんじゃその落ち!? さっきの真剣な顔何!?
いや待て。……普通に考えたらそれが当たり前じゃん。チンク異世界人だし。
「すまん。俺が読んで調べる」
「お前だけわかるのはずるい。音読して私にも教えろ」
「へいへい」
そのままややしゃがんで2人でパンフを覗き込むようにして簡単にどんな建築物かを知る。
「……漢字とは難しいな。それに平仮名、カタカナ、漢字と文字も3種類もあるとは……」
「ミッドは文字1種類だもんな」
読めんがなんとなく英語に似てるのはわかったけど。
「お前の知能でよくわかるなと感心した」
「おい」
さて……次に来るは……の前に昼飯だ。
何食お。
ここはせっかくだしどこか豪華な料亭を……と言いたいが学生にそんな金もねえ。
結局歩いてて適当に見つかった和食の店に入る。
俺は夏だしざるそばにした。
チンクも食べたことがないのでざるそばを注文。
おっ、きたきた。
「ではいただくか」
あっ……チンクのやつざるそばにダシぶっかけやがった。
「かけスープが皿からこぼれてきた!?」
「……チンク……ざるそばはダシをかけるんじゃなくて、ダシにつけて食べるんだ」
「……早く言ってくれ」
シュンとなるチンク。
はあ……まあ異世界人だもんな。ナカジマ家ならいざ知らずまだ世の中のこと知らないこともあるしな。
「ほい。交換」
「えっ?」
「いやな。俺も昔間違ってそれやっちまったしさ。それにせっかくなんだからちゃんとした食べ方したいだろ?」
「それもそうだが」
「じゃあ交換」
まあダシはかかってるし味はあるだろ。
うん。コシがあってうまい。ダシもうまい。
「……食べないのか?」
ずぞぞと音を立てながらいただいてるとチンクの箸が進んでいない。
何難しい顔してるんだ?
「……その……なんだ」
「ん?」
「この箸というのが使えん」
「…………………」
あ〜……まあこっちもそうか。
うん。すまん。俺の選択ミスだった。
「フォークを持って来て……」
「あ〜ん」
チンクのそばをダシにつけチンクの前に突き出す。
「なっ!?」
「食えんのだろ? ほれあ〜ん」
「そんな恥ずかしいことできるか!?」
「俺だって恥ずかしいわい」
でもまあこの身長差なら仲のいい兄妹にしか周りには見えないしいいや。
「フォ……フォークを使っ むっぐ!?」
口が開いた瞬間にすばやく突っ込む。
そのままもきゅもきゅと擬音が聞こえそうな感じで噛む。
「どうだ?」
「……うまいが……そのフォークを使わせて欲しいのだが……」
真っ赤になって顔を下に向けながらボソッと言う。
「多分あるだろうけど……ここ和食の店だからあんま言わん方がいいと思うぞ」
「で……では使い方を教えてくれ……さっきのはどうも恥ずかしい……」
「わかった。まず片方をこう持ってだな……」
チンクの手を取りながら箸の持ち方を教えていく。
勉強面では何も教えられないけど……まあ何か教えることができるのはちっと嬉しいな。
「こうか?」
「そうそう。うん。やっぱ物覚えいいよなお前ら」
「すまない。今度ノーヴェ達にも教えてやろう……」
見た目はちっさいけどお前は立派なお姉ちゃんだな。
なんとなく頭撫でてしまう。
「……なんでお前はいつも私を撫でるんだ?」
「かわいいからつい」
「なっ!?」
見た目でついこうしちまうんだよ。
うん。やっぱこのくらいの大きさの子供はかわいい。……実際の年齢は俺と同じかそれ以上なんだが……
「………ちゅる、ちゅる……」
真っ赤になりながら下を向いてゆっくりソバを食べる。
その間もつい撫でながらその様子を見てしまった。
「ごちそうさま……」
食べ終わったか。
「あっ……俺の分のびちまった……」
教えて、撫でてってしてたから、俺の分食うの忘れてた……
「……お前……やはりどこか抜けてるな……」
………アホだ俺……
昼食後。
次に来るは……鹿苑寺金閣。通称金閣寺。
1397年に時の征夷大将軍足利義満によって建てられた。
しっかしすげえよなこの金ピカな建物。
まあ中にいても落ち着かないだろうけど。
「金の寺とは……すごいな」
「ゴージャスだよな」
一体いくらの金がつかわれてるのやら……
「おお、池に金閣が綺麗に映ってる。ほら、見てみろ」
「ああ、逆さ金閣な。すげえよな。こういうの風流だよな」
うまいこと考えて建てたと思うよ。
この庭の雰囲気とかいいよな……庭は洋のより和の方が落ち着く……
ついぼーっと眺めてしまう。
……ん? あれ? チンクどこいった?
いつの間にやらいなくなって……ってえええええ!?
いつの間にか池の向こう側のっていうか金閣の中に入ろうとしてるし!?
「チンクーーーーー!」
呼び戻さねえと!?
おっ、気づいた。
ってすっげえ笑顔でこっちに手を振ってそのまま中に入ろうとするな!?
「そこ入るの禁止だぞーーーー!」
「んーー!? 何だーーー! うまく聞こえないぞーーー!」
「だからそこ入るの禁止―――!」
あーー他の観光客が笑いながらこっち見てるーー。
恥ずかしいーー!
「動くなーー! いいなーー!」
「わかったーー!」
そのままダッシュでチンクのいる池の反対側に向かう。
ああ……道行く人が笑いながら見てる……ホント……いや……
「はあっ……はあっ……」
「そんな慌てなくとも……」
まったく仕方ない奴だなという感じで言う。
「あのな……ここは中は立ち入り禁止なの」
「何!? そうだったのか!?」
「そう。だから……」
「こら! そこの2人!」
ああ……警備員の人……
そのまま2人でお説教を喰らった。
まあ、チンクは初めて日本に来た外国人の子供で知らずに入ろうとしてしまったと事情を話したらまあ仕方ないとそこまでひどくは言われなかった。
「……すまない」
「気にするな。そういうこともあるさ」
だからシュンとなるな。
と言いたかったが……まあ無駄だろうな。
「よし、じゃあ次は銀閣だ」
「!? 銀色の寺もあるのか!?」
「見たい?」
「ああ、見てみたい」
「よっしゃ、じゃあ行くぞ」
気にしてない感じで次の場所に行くのがベストだな。
チンクも金閣の次は銀閣ってことで食い付いてきて少し元気出たし。
慈照寺銀閣、通称銀閣寺。
黒漆を塗られていたからやや黒っぽい壁だけど……古い感じがでかいよな。
金閣と比べるとちっと寂しい感があるけど……まああっちは金を使ってるから色あせにくいんだろうけど……
さて、チンクの反応は……
「おい……」
「ん?」
金、銀の寺に感動したか?
「どこに銀閣があるんだ? 見えないぞ」
「目の前にあるじゃん」
前を見つめる。そのまま目をゴシゴシと擦る。
そしてやや前を見つめ視線を左右にずらしている。
何やってんだ?
「ないぞ?」
「あれだって。あそこの黒っぽい建物」
指さして教える。
「………………」
それを見て呆然とする。
「どうし…… 「どこが銀閣なんだーーー!」 ぐぶっほ!?」
がっは……ち、チンク……鳩尾にとび蹴りかよ……
バタっとその場に倒れる俺。
チンクはそのまま俺の襟首を掴み
「あれのどこが銀だ。嘘つきめ!」
「あ……あれは……錆びたから黒いんだ……」
「な、何!? そうなのか……すまなかった……つい」
慌てて俺の襟首放そうとする。
「嘘だ。黒漆塗られてただけだ」
「……銀は?」
「ない」
銀箔は元々貼る予定じゃなかったらしいし。
「ば……」
「てか俺なんで……」
「馬鹿者――――!」
涙目で両目を閉じ思いっきり顔面パンチされた。
……だからさ……なんで俺殴られなきゃダメなの?
「うう……」
その場でうずくまり、何やら考え込むというか嘆いているチンク。
「金閣が金色の寺だったから、銀閣は銀色の寺だと安易に想像してしまったではないか……恥ずかしい……」
……おい。
そんなことで殴られたんかい俺は。
京都の有名どころの寺もそこそこ見て時間ももう夕方。
そろそろ旅館の方に行ってゆっくりしてもいい時間ということで旅館にやってきた。
「……ここか……」
「ああ……だけど……すげえ」
パッと見ても一泊数万は行くだろうなというゴージャスさ。
高級ホテルのような大きさでもあるが所々に和式要素が組み込まれている。
「パンフで見ると……部屋はほとんど和式だな」
というか……その部屋の写真もすげえ、ぴっしりした部屋なんですが……
福引当たってよかった……
「は、入ればいいのか?」
「た、多分……」
ちょっと自信ないよ俺だって。
「おこしやす」
入ると旅館の女将さんだろうか。和服の人が出迎えてくれる。
所謂京都美人というべきか。結構若い。
……まあ実際年齢は○○超えてるだろうお方をたくさん知ってるから見た目は当てにならんが。
「どうも……あの武ノ内で予約が入ってるはずなんですが……」
そういとわかりましたと言って受付で調べられ、部屋へ案内すると言われついて行く。
俺とチンクはそのついて行く間も旅館をついキョロキョロと見てしまう。
「お二人は学生さんどすか?」
「ええ、まあ」
「私は違うが……」
まあお前は学生ではないが……ん〜……ギンガ先輩の教え子ではあるから何と言えばいいんだ?
元犯罪者とか言ったらアウトだしな。
「あら? ほんならあなた姉さん女房どすか? 年下の旦那とご旅行で?」
ぶっ!
なんでこの人チンクの見た目で俺より年上だとわかる!?
てかチンクも初めて年相応に見られたからってジーンと感動してるな!
まず夫婦といわれたとこに反応しろよ。
「歳はあってますが夫婦じゃねえっす」
「あら? 婚前旅行でしたか?」
「それも違う!?」
てかこの女将さん絶対わかって言ってやがる!
滅茶苦茶面白そうに言ってるし!
「はっ!? ほんならまさか誘拐どすか!?」
「ホームステイみたいな感じで日本に遊びに来ていて、そのときにたまたま福引が当ったので来ただけです」
「あら、そうなんどすか」
なんでチンクの言葉はさらりと信じる。
「ここがお二人のお部屋どす」
えっ? 一部屋だけ?
「べ、別々ではないのか?」
「ええ、ペアの福引どすから元から一部屋のみどす。お食事は7時からどす。では失礼します」
案内された部屋は畳のいい匂いと高級感の出ている和の雰囲気を出していた。
外は京都の夜景を見ることができる。
……相当この宿でもいい場所だろ……
「まだ時間あるし風呂行くか」
「そうだな」
チンクは部屋の中で、俺は部屋の入口のところで浴衣に着替えるとそのまま大浴場に向かった。
「ふう……いい湯だ」
いやはや……これだけすごい旅館だから風呂もすげえと思ったが、マジですげかったな。
天然岩石にヒノキ材で囲んだ露天風呂はマジで最高〜〜
混浴じゃねえのも確認したし、ここは疲れを一気に取ろう。
「あ〜……極楽、極楽」
********************************************
「ふう……」
うむ、温泉とドクターのところの洗浄はやはり違うな。
この外装がそう感じさせるのだろうか?
いや……確か特殊な成分があってそれが美容や健康にいいのだったか……
「でね〜、そいつったらさ〜」
「え〜うっそ〜!?」
年の頃は同じくらいかやや上の客か……
なんとなくその体つきと自分の体を見比べる。
………
なんとなく胸を触ってみるがスカスカとしか感じない。
「なぜ私だけああならない……」
12姉妹の中でも上の方の姉だというのに稼働時からまったく成長しないなんて……
これだからあのような抜けた奴に子ども扱いされるのだ。
どうすれば手足も伸びスタイルも良くなるのだろうか……
「う〜む……」
湯に浸かりながらしばらく考え込むのだった。
******************************************
「……遅えな」
俺自身結構温泉は長湯するほうだけどチンクはちょっと長すぎだろ。
中で何かあったのか?
「ほら、大丈夫?」
「うう……すまない……」
そう思ってたらチンクが知らない女子大生だろうか。
その人に抱えられて出てきた。
「あの、すいません。連れがどうかしましたか?」
「あっ、実はこの子お風呂でのぼせちゃたみたいで」
おいおい……
「マジっすか……わざわざすいません」
「いえいえ、かわいい妹さんといますかお知り合いですね」
「ええ、まあ」
どう見ても外人だから妹分な知り合いって見るよな普通。
だけどそれをしっかり見抜いたとは……今思うとあの女将さん眼力すげえな。
チンクをそのまま受け取り背中に背負うと大学生の人の連れも出てきてそのまま2人に挨拶して別れた。
****************************************************
「う〜〜……」
ダメだ……頭がクラクラして視界が揺れる……
なんとか思考ができるようになってきた。しかし気持ちがいいな……ひんやりした風が来る。
「おっ、起きたか」
ああ、団扇で扇いでくれていたのか。
ここは……どうやら部屋のようだな。
「はあ……なんでまたのぼせるまで入ってた」
「それは……」
言えない……さっきの2人と自分のスタイル比べて悩んでたなんて言えない……
そもそもドクターが悪いのだ……
私だって稼働時からセッテやディードのようにスタイルをよくしてくれれば悩まずに済んだというのに。
「お〜い……」
「聞くな……」
まったく、こいつにはデリケートというものがない。
それになんだその半乾きの頭は。そんなのだからいつも寝ぐせがあるんだ。
「うっし、じゃあ気づいたんなら頭乾かすか」
そのまま持ち上げられ部屋に備え付けられている洗面所に運ばれ鏡の前で座らせられる。
そのままドライヤーで髪を乾かしてもらう。
「そういやお前1人で髪洗えたのか?」
「と、当然だ! シャンプーハットなしでも、もうできる!」
実は嘘だが……
本当は旅館の人から借りてなんとか洗えたのだ……
けれどもやっぱり失敗して目にシャンプーが入って少し泣いたのは秘密だ……
「お〜、成長したな」
「と、当然だ。お前ももっとがんばって内面を成長させるのだな」
ま、まあお前の場合どこも成長していないから間違ってはないだろ。
「てっきり見栄張って嘘ついてるかと思ったぜ。あっはっは」
「あ、あははははは……」
こ、こういうときは勘がいいのだな。
ドライヤーで乾かし終わるとそのまま櫛で髪を整えられる。
ちょっと気持ちよくて嬉しかったりするのは黙っている。
こいつはそういうと調子に乗るからな。
「ほい、終わり」
「ああ、すまなかった……」
「まあいいって。それより飯準備できてるから食おうぜ」
「ああ、そうしよう」
出てきた食事はミッドではあまり見かけないものばかりだった。
ケイが言うには刺身、天ぷら、といった日本の食事らしい。
「うっひょ〜、うまそうだ。いただきます」
「いただきます」
ふっ……箸と言ったか。
もうお前の使い方は習得したのだ。おそるるに足らん。
「お〜、完全に箸の使い方マスターしてるな」
「ああ、帰ったら妹たちにも教えないといけないからな。私がマスターしていなければ話にならない」
ふふ、ウェンディやセイン、ノーヴェなんかはこういう細かい作業は苦労しそうだが無駄にはならないことだ。
しっかり教えてやらねば。
「ん? この緑色のはなんだ?」
「ああ、わさびか」
なにやら醤油というソースに溶かして刺身につけて食べるものだそうだ。
「子供はしないほうがいいかもしれないぞ」
むっ、なんだと。
「馬鹿を言うな。私は姉だぞ。わさびはつけて食べるのが当然だ」
刺身の皿に盛り付けてあったわさびを全部醤油に入れ溶かす。
「げっ……」
「ふっ……なんだ? お前はつけて食べられないのか? まだまだ子供だな」
そして刺身をわさび醤油につけ口に入れる。
「いや……そういうわけではないんだが……」
「だったら……〜〜〜〜〜〜〜〜――――――!!っ〜〜〜んん〜〜〜!」
な、なんだこのツーンと鼻にくる痛みは!?
鼻を両手で抑えるがまだ痛い。
そのまま後ろに倒れて悶えてしまう。
「ん〜〜〜! ん〜〜〜! っ―――かっは―――」
「あ〜……やっぱりか……わさび入れ過ぎだ」
知っていたのならもっと早く言ってくれ!
い、痛い!
「お〜、よしよし大丈夫、大丈夫」
抱っこされてそのまま頭を撫でられる。
子供扱いをするな! と叫びたいがそんな余裕が……
「はーっ……はー……ふう……」
「落ち着いたか。はいティッシュ」
「すまない……」
はあっ……鼻が痛かった……
もうわさびなど使うものか。大人も子供も関係なしで鼻が痛くなるのならそんなの関係ない!
「うん、わさびうまい♪」
なぜこいつが平気なんだ……
食事も済み夜景を見ながら施設での話や、ケイの学校での話をする。
成績は相変わらず芳しくないと嘆いているのが、いかにもこいつらしかった。
1年前の事件より昔はこんな風に普通の生活の話をするとは思いもしなかった。
戦闘機人として生まれ、生きている間はずっと戦うのだと思っていた。
「どうした? なんか物思いに耽ってるぞ」
「気にするな。今が楽しいと思っただけだ」
「……そっか」
お前があの時ドクターのアジトに落ちてこないで事件が進んだらどうなったかはわからんが……今の生活は嫌いではない。
感謝はしている。
「ケイ……感 「うおっ!? すげえ!? 本物の舞子さん初めて見た!? ほれ、あそこあそこ!」 ……」
…………
……………この男は……
「ん? どうした?」
「はあ……なんでもない。時間も遅い。そろそろ寝よう」
「ん? ああ、もう12時になりそうだな。じゃあ寝るか」
布団は仲居さんが敷いてくれてたのですぐに寝ることができた。
早いな……旅行ももう半分が終わるのか……
いや、明日はミッドに帰る時間も考えると半分もないか。
もう少し一緒に旅行をしてみたかったが……仕方ないか……
「あっ……」
ん? 何の声だ?
集音機能を最大にしてみる。
………
…………なっ!? これはまさか!?
せ、先日ギンガから教わった保健体育の……えっ!? 何!? この行為ではそんなことまでするのか!?
なっ!? 男はなんてことを要求……ええ!? 女のほうもそれをするのか!?
ま、窓を開けて寝たのがいけなかった……
クーラーをかけて寝るのが嫌だとか言って開けてたが失敗だった。今すぐ閉めよう。
「ひやあっ!?」
な、なななななな!? ケイ!? お前なぜいきなり抱きついてくる!?
背中から軽くお腹のあたりに腕を回される。
ま、まさかケイもさっきの声を聞いて我慢が!?
そ、そういえば男は狼だとかどうとか……意味はよくわからなかったが、そういう状況になったら男は女を性的に襲うとかなんとか……
い、いやだが集音機能を最大にしてやっとはっきり聞こえた内容だったはず……
ああ!? だがこいつの五感は相当鋭いはず……いやだが普段の生活見てるとまったくそのような素振りはないし……
「ひあっ……!」
さらに強くギュッとされる。
お、落ち着け。私は戦闘機人だ。普通の人間ではないのだ。そうだ。うん。
例えケイが普通の人間でないにしても……普通の人間じゃないんだった!
だ、だが私にそういう機能は……あるじゃないか!?
あるからこそそういう知識を身につけなければと最近になって教わったのではないか!
ああ!? 1年前なら意味がまったくわからなかったからこんな悶々とする必要もないはずだったのに!?
「いい……」
“ いい? ”!?
それは行為に及びたいということか!?
というか貴様は子供体系の私に興味ないとかいっていつもスタイルのいい組の方に目が行ってたではないか!?
じ、実はこっちのほうがよかったのか!?
そそそそそそ、そうだったのか!?
「お、お落ち着け! 私にだって準備というものが……」
抱きつかれているのをほどき振り返ると
「ギンガ先輩……その恰好……メッチャいいっす……グッジョブ……」
ニヤニヤしながらそんな寝言を呟く馬鹿がいた。
「………………………………」
ふ……ふふふふふ……そうか、そうか。
そうだったな。ああ、貴様はそういう奴だった。
所詮スタイルはいろいろ出てる方がいいんだったな。
私だってそうなりたいと昔から思っていたさ……
*************************************
今日も朝が来ました。
ウチの旅館の自慢の料理。夕食だけやのうて朝食にだって手抜きのない一品が自慢の料理。
今日もお客様に堪能してもらいましょ。
次はここやね……昨日来いはった学生さんのお二人。
小さい見た目やったけど歳は同じくらいやったはず。
昨日あたりにでも熱い時間を過ごしはったんやろか。
ちょっと微笑ましいことを想像しながら部屋に朝食を運ばせてもらいますえ。
「おはようございます。朝食をお持ちしまし……た……」
「ああ、申し訳ない」
ウチは目がおかしゅうなったんやろか……
昨日の男の子のほうがズタボロの顔で布団で簀巻きにされて窓際の方で吊るされとった……
「置いておいて貰えるだろうか?」
「は、はい。失礼しました……」
い、いろんな意味で熱い夜やったんやろか……
そっちの趣味のお二人やったとは……い、意外やったわ……小さいのに中々やりおりますな……
ウチもそこまで見抜けんかったとは……まだまだ修行が足りんね。
**********************************************
……な、何があった……
目を覚ますと全身に痛みと気付いたら簀巻き……そしてものすっごく不機嫌なチンク。
「なあ……どうして俺簀巻きにされた?」
「気にするな」
無茶言うなよ。
「理由もなしにされると流石に怒るぞ」
「ああ、そうか。奇遇だな。私も怒っている」
……何か悪いことしたっけ?
理由に心当たりないぞ。寝るときとか普通に機嫌よかったほうだったはずだし。
それなのに怒られてるって腹たつぞ。
「ああ、そうかい。まあどうでもいい。チェックアウトしねえといけねえからさっさと荷物纏めろ」
「言われなくても分かっている」
荷物を纏め、収納空間に入れて身軽になる。
旅館を出る際に女将さんが
「危険なプレイも程々にしなはるんやで」
と言ってきた。
危険なプレイってなんだ?
旅行2日目。
チンクをミッドに送ってから俺自身も帰らないといけないので午前だけ見回って帰ることになる。
どこに行くかはまあ色々迷ったが清水寺に行くことに。
だけどその途中では終始無言。
どちらも話さず一緒に行動はしているがギスギスした感じだった。
そんな空気のまま清水の舞台に着く。
すげえいい眺めだな。
どれだけの柱でできてるかは知らないけど釘を一本も使ってないんだっけか。
よく『清水の舞台から飛び降りるつもりで』って聞くけど……マジで落ちて助かるのか?
80%以上の確率で助かるとか聞くけど……
まあ木がたくさんあってクッションになるからかな……
なんとなく横の方を見てみる。
チンク何してんだろと思って見てみたら……
「…………」
ちょっと体勢的につらいような感じで手擦りに体を押し出し景色を見ている。
しかもやや腕が全体重が掛かっているせいでプルプル震えてる。
「ぷっ………」
笑いそうになるのを堪える。
だ、ダメだ。我慢できない!
両手で口を抑え耐え抜こうとする。
我慢だ俺! 笑っちゃダメだ!
「………なんだ! 何がおかしい!」
真っ赤になって怒ってこっちを向く。
「べ、別になんにも……」
「嘘を……あっ……」
「あっ……」
こいつバランス崩して落ちやがったーーー!?
「チンク!」
手を必死で伸ばして掴もうとする。
だけど手は空をきる。
だあーー! もうこいつは何やってんだよ!
俺も身を乗り出しそのまま一気に飛び降りる。
空中でチンクをキャッチしねえ……と?
と思ったら結構普通な顔で着地の態勢に入っているチンク。
そのまま木にうまく掴まり、勢いを殺してチンクは普通に着地。
俺は木の枝に乗っかり枝を折ることで勢いを殺し着地。
あ、危ねえ……生きて……あだっ! 折れた枝が頭の上に落っこちてきた。
イタタタタタ……くっそ。俺も掴まって降りればよかった。
「何をしているのだ貴様は」
「何って……」
何だろな……
そういやこいつ戦闘機人だもんな……15,6メートルの高さでもクッションにできそうな木がたくさん生えてればさっきみたいなこともできるか……
ディエチなんかは普通にビルとビルの間とび跳ねたりしてたし……
うわあ……飛び降り損。
「はあ……私がこれくらいの高さから落ちてどうこうなるわけないだろう」
「うっせえやい。そこまで考える時間ねえわい」
呆れて右手を額に当てるチンク。
お前が落ちるから悪いんだろうが……
「おーい! 大変だーー! 誰か落ちたぞーー!」
「救急車まだかーー!」
げっ、やべえ。無傷だけど落ちたことに対しては怒られる。
「逃げるぞ!」
「なっ!?」
脇にチンクを抱えて猛ダッシュ。
この辺にはもういないほうがいいな。チンクの銀髪は日本じゃ目立ちすぎる。
「お、降ろせ!」
「清水寺から出たらな!」
あーもう! ゆっくり見たかったのに!
はあ……はあ……とりあえずこっから見つからんことを祈ろう。
ポンっとチンクを降ろして一息つく。
喉乾いた……水、水……
あっ、そうだ。音羽の滝行こう。そして出世の水飲んで……金持ちになってウッハウッハ!
「おっ、これか……」
美容、健康、出世……ご利益はこれか……
観光用だと学業、健康、縁結びだって聞いたけど……どっち?
まあとりあえず出世であることを祈る。
「学業でもいいから……出世させてくれーーー!」
そのまま一気に飲む。
「……なんで水を飲むだけで出世させろと叫ぶ?」
「あ〜まあ願かけって言ってな……ようするに願いが叶うんだ」
「何!?」
「効果は美容、健康、出世の3つで」
全部言う前にチンクのやつも飲み始めた。
しかも美容の。
そして2杯目に行こうとする。
ってバッカ!
それを素早く止める。
「何故止める!? 私は大きく綺麗になってはいけないというのか!」
「なんでそうなる!? 2杯以上飲むとご利益なくなるんだよ!」
「何!? ………危なかった……」
いやそんな恐ろしいものを見るようにしないでも……
「はあ……飲んだならもう行くぞ。後がつかえてる」
「あ、ああ……」
そのまま清水寺から離れる。
時間も時間だし……そろそろお土産でも買って帰るかな。
二年坂にいってみようかな。お土産と言えば有名らしいし、ここから近い。
歩きながらさっきの自棄飲みと朝の機嫌悪い理由をもう一度聞いてみる。
「…………」
「はあ……最後まで喧嘩したまんまで旅行終わるの嫌だろ……」
さっきの飛びおりで少し頭も冷えたしそれは向こうも同じだろ。
「……お前は私をどう思う?」
「どうって……」
「私は女として見れないのか? やはりこんな体系だからか? 妹達と違ってどこも成長できていないからか?」
必死な感じで俺を見上げてくる。
なんでそんな必死に……
「昨日だってそうだ。お前は夜中に私に抱きついて来て……」
えっ!? マジ!?
「よ、夜這いをかけるのかと思ったらただ寝相が悪かっただけで……」
だ、だよな。流石にそんなことしねえぞ……
「だがな……」
目が髪で隠れ影が差す。
「何故そんな状況で出るのが私の名前でなくギンガなのだ!」
……はあああ!?
「なんだ! そんなにあの乳がいいのか! スタイルがいいのがいいのか! どうなのだ!」
……いや、いいにこしたことはないんだが……
だから朝から怒ってたのか。
そんでもってそこに美容の願かけの水が出たもんだからがぶ飲みと。
「チンク……とりあえず事情はわかった」
「とりあえずとはなんだ! とりあえずとは!」
「……大声上げるんなら場所を考えろ」
「……あっ」
普通に他の観光客に物珍しげに見られてるぞ。
中には「痴話喧嘩か?」 とか「ロリコン?」 とか「警察呼んだほうがよくないか?」 とか聞こえる。
流石にずっとそこには居づらい。
仕方ない。そこの茶屋に入ろう。
「ずずずず……」
「…………で、どうなのだ」
ふう、なんと言ったものか。
女として見てないのかと言われればNOと答えたいが……
今まで抱っこしたり、頭撫でたりとかを思い出すとYesになりそうだ。
かと言って半端な答えでもな。
というかなんだこのラブコメくさい空気は。
俺の勘違いか? それとも夢か?
「…………悩むということはどう言い訳するか考えているのだな……そうだな。私がそう見えるわけないものな……」
どんどん暗くなるチンク。
やべえ……どう言っていいのか悩んでいたから勝手に解釈された。
「さあ、妹達の土産を買って帰ろう。時間もそろそろだ」
席から立ち会計に向かおうとする。
それを両腕を組んだまま。
「立つな。座れ」
「何故だ? 買い物の時間が」
「いいから座れ」
「…………」
再び席に着くチンク。
「……まずは昨日の件を謝る。抱きついてごめん」
「それはもういい。制裁もした」
……それもそうだった。
「んん!……お前の悩んでる件だが……俺はお前を女として見てないかと言われればNoのつもりだ」
「……では何故悩んだ」
「今までの行動を振りかえるとYesになりそうだったからだ」
というかさっき即答したとしてもお前もそれを突っ込んだんじゃないかと思うが。
「……そうだな。いつも抱っことかする理由が小さくてかわいいからとかだったものな」
「……ああ」
「やはり見ていないではないか。別に無理はしなくともいい。早く妹達の土産を買って帰ろう」
だから立とうとするなというに。
「だから待てって!」
「何をだ?」
普通な顔しようとしてるがなんとなく辛そうなのはわかる。
そんなままにしてられるかよ。原因を作った身として放っておけねえ。
……そ、それになんか知らんが惚れられているっぽいし……恥ずかしいが……
「お前……俺の行動は確かにそうだけど……話の内容とかそういうの思い出してみろよ」
「……話の内容?」
俺は基本どこか抜けてる。
目的を達成できてもその過程でどっかドジを踏む。
なんだかんだで傍にいるとフォローしたり、励ましてくれるのはチンクだ。
外面的なもののせいでそのときの感謝の印がつい子供扱いになってしまうが、内面的には間違いなく俺よりも上だ。
……まあこっちも多少ドジを踏むときがあるけど。
「……………」
「精神面では俺はお前を上に見てる。女としても扱ってるつもりだ。実際精神面で子供だと言ったか?」
「……いや……」
「確かに外面で子供扱いしてるけど……人間てさ、外面で判断しちまうもんなんだよ」
できてる人間。
まあ簡単に言うと元機動六課の人たちはそんなことないけど……
俺はそこまでできた人間じゃない。
たとえ性格がよくてもブスと付き合いたいと思わないし、内面が優しくても怖い面構えの人だったら避けてしまう。
「だから……その……何と言っていいかわからんが……それも俺なりのお前個人に対する表現というか……」
「………ふっ、ふふふ……」
な、なんだ急に笑い出して……
「結局はこの見た目が悪いということか……そうだな。確かに自分でも子供としか思えん」
だからそれは……
「……だが内面ではちゃんとそう見てるのはわかった」
そう言って今度こそ会計に向かってしまう。
ああどうしよ……結局怒らせたままというかなんというか……
チンクは会計を済ませそのまま茶屋を出る。
俺はそれを追いかけ、チンクの肩を掴み、止める。
「ん? どうした?」
「いや……その……なんていうか……」
「ああ、さっきの微妙な回答だな。そうだな。私はさっきの答えに満足していない」
目を瞑りスカした感じでそう言われる。
ぐっ……やっぱりか。
「だからこれは罰だ。今から妹達の土産の金はすべてお前持ちだ」
「……へっ?」
待て。今何つった。
「外面のせいで子供扱いされているのだとはっきりわかったから私は怒っているのだ。だが内面はしっかり女として見ているのなら詫びをしてもらうぞ」
だ、だからこっから土産奢れと。
「あ、あの……せめて半分に」
「全 部 だ」
ツンと言われる。
「……わかりました」
「うむ、それでいい。何安心しろ。少しは残るように加減くらいしてやるさ」
「ありがたき幸せでございます……」
チンクの機嫌は完全に戻ったというわけではないけど……
まあ、暗くはなくなったしいっか。
それに……その……惚れられているとわかったし……悪い気は
「……何を赤くなっているんだ?」
「いやそりゃ……お前俺に惚れてんだろ?」
「なっ!?」
ボッと赤くなるチンク。
うん、かわいいぞ。そうか、ついに俺にも春が来たか。夏だけど。
「だってさっきの話の内容からしてそうだろ? 寝言で言ったのがお前の名前じゃなくて……ってどうしたプルプル震えて」
俯いてて目の部分がよく見えないが……照れてるのか?
まあ俺だって恥ずかしいが
「そ……」
「そ?」
「そんなわけあるかーーーーー!」
「ぐぼっほぉ!?」
鳩尾に思いっきり右ストレート入れられた。
何故!?
「はあ……はあ……わ、私がお前に惚れる要素がどこにあるというのだ! ちょ、調子に乗るな!」
ぐ……ぐべえ……な、ならさっきの言葉なんだよ……
「私だって女だ。そ、それは将来相手ができる際にこの身体がネックになるかどうか悩んでだな……つ、つまりそういうことだ!」
ど、どういうことかよくわからんが1つわかった……
俺は別に惚れられてたわけではないということか……
ふっ……
そうだな。所詮俺はそんなものさ……
「わ、わかったらさっさと行くぞ」
ズルズルと引っ張りながら進むチンク。
俺はもう抵抗する気力も、歩く気力もないよ……
ふっ、甘酸っぱい青春だぜ……
この後しっかり施設組の土産を買わされ、転送魔法でミッドに戻り京都旅行は幕を閉じたのだった。
おわり
おまけ
「土産だぞ〜」
「わ〜いっス!」
「お〜どれどれ〜」
「姉が選んだのとケイが選んだのがあるからな」
「セインは……これな」
「……何これ?」
「提灯」
「……ああ、うん。ありがと」
「ノーヴェはこれだ」
「……何だよこれ」
「玉露、煎茶セット。いつもイライラしてるからこれで気を落ち着かせろ」
「……蹴るぞ?」
「はい、お茶一杯飲もうね〜」
「オットーはこれな。印籠」
「……ありがとう。……でも何に使うの?」
「それは時代劇の小道具よ。オットー」
「おっ、ディード知ってたか」
「ええ、映像データで見ました」
「ふ〜ん……今度見てみるよ」
「じゃあ一緒に見ましょう。オットー」
「ディードは……京都お約束、木刀。剣術修行できないだろうから買って来た」
「ありがとうございます。また今度お相手をお願いします」
「あいよ」
「ディエチはこれだ。扇子」
「……こっちは随分まともだね」
「お前にギャグ類合いそうにないからな。他の奴らの手を抜いたわけじゃないけど」
「ありがとう」
「アタシは何っスか!? もちろんゴージャスでキューティカルな……」
「うむ。これだ。ちょんまげカツラ……あひゃひゃひゃひゃ! 似合ってるぞ!」
「あんたフザてるだろー!」
「あっはっは! うん。冗談だ。これだ。ご当地キーホルダー」
「……どっちにしろ微妙っスね」
「うふふ、楽しかったみたいね」
「ええ。あっ、これ先輩のお土産です。香水っす」
「あら、いいの? ありがとう」
「こらー! なんかワタシと扱い違うぞー!」
「てかアタシとセインだけギャグじゃねえっスか!」
「えっ? だってお前らそういうのが好きじゃん」
「……いやまあ……」
「確かにそうっスけど……だからってカツラは……ってあれ? さっき投げ捨てたのどこに……」
「………………似合う?」
「「「 ぶーーーー! 」」」
「オットー……気に入ったの?」
「うん。これももらうね」
「あ、ああ……」
「さあ、次は姉の番だ。個人にあるわけではないが……」
「お〜お菓子〜〜!」
「うまそ〜、流石チンク姉の選んだやつだけあってうまそうだぜ! あっ、アタシのお茶入れてお茶会しようぜ。馬鹿は抜いて」
「誰が馬鹿だ」
「自覚してるじゃねえか」
「くっ……」
「まあそう言うな。ケイも食べるだろう?」
「いただきます。てか元金俺のだ! 食わずにいられるか!」
「ははは。それもそうか」
「うめ〜!」
「おいし〜」
「おいしね。オットー」
「うん」
「このお茶も美味しいわね」
「作れるかな……」
「好評でよかったな」
「ああ、また行きたいものだ」
おまけ2
「ノーヴェ。済まないが寝る前に髪を研いでくれるか?」
「いいよ。……ってあれ? チンク姉こんな櫛持ってたっけ?」
「ん? ……ああ。京都で買ったのだ」
「え〜アタシも欲しかったぜ」
「ふふふ、では髪を伸ばすか? あまり髪に気を回していないだろう?」
「……やっぱいい。アタシは短い方が楽だ」
「ノーヴェらしいな」
「わ、笑わないでくれよ」
おまけ3
「……お小遣い前借させて下さい。お父様」
「却下」
「ちくしょーーー! 残金100円もねえとかマジでありえねーーー!」
あとがき
……夏休みSSとかいいつつ出来たのは秋……
まことに遅れてすいませんでした。なんというか……チンクとの喧嘩の部分がうまくできず……
というかはっきりしないままでの旅行の終わりと喧嘩の終わりになってしまいました。
くっつけないように書こうとするのは難しいです。
京都にしたのはまあ……気分です。
沖縄にしたかったけど作者が行ったことがなくてどんなかわからず没に……
では本編の方も楽しんでいただけると嬉しいです。
それではまた次回もよろしくお願いします。
Web拍手返信
※ケイさん 修正乙です、続きも頑張って(*^-^)b
>ありがとうございます! これからも執筆がんばります!
※ケイサンヘ
ライトセイバーはフォースの導きを受けた者以外が使うと自分の身体を傷つけて死ぬのが落ち
>あの将軍ですか!いや〜しぶとい敵でしたね。オビ・ワンよく6刀ものライトセイバー捌けたなと思いましたよw
※毎度、楽しく読ませていただいております。ケイの子供だからこそできる青臭い考えは個人的に好感が持てます。
特に強者の前で自分の意思を曲げない弱者という立場は燃える。というよりもそんな人こそが、本当の意味で強いのかもしれません。
それと謎じいは、読んだ瞬間、某達人達が自分達の武術を教えて最強の弟子を育成するマンガに登場する無敵超人そっくりで吹きました。
実際、そのじいさんも剣や鬼関連を除けばそのマンガで実行しています。個人的にはケイも武術で魔道師を倒せるようになって欲しいです。
そして魔道師サイドもクロノやリンディーなどの人物は、魔道師の良心的立場であって欲しいと期待しています。
基本的にクロノは、若ければティアナの立場にいた人ですから。
>武術で魔法を倒す予定ですw 修行も技も結構参考にしてたりw
>クロノ、リンディにこれから出番は……やばい! 予定してなかったww
※結局のところ、ケイは現実を見て喋っていて、なのはたちは都合の悪いところから目をそらしてただけですね。
それ以前になのはの教導が何のためのものかとかまったく話さなかったのが悪いのですが。
>まあ理想を追いかけているし、それだけの力もある人達ですからね。なのは達は。
>けどまだ19歳。なんでも完璧にこなせるわけはないかと
※主人公の力は壬生一族ですか!!
てことは以前ケイさんが感想で書かれていたいたなのは達より強い敵というのも
彼らの遺した劣化コピーとも言える戦闘人形やレッドクロスナイツとかだったりします?
だってやはり人類史最強(最凶?)と言っても過言ではない彼女達を凌ぐ人の姿をとる存在など神や妖怪みたいな人外でないと無理じゃないですか?
>それは思えますね。はい。妖怪の類も出したいなと思う今日この頃……
>ジャンプで連載している「ぬらいひょんの孫」とか結構ハマってますw
※ケイさんへ
玉が無くなって、さらにソウルドライヴそのまんまに
>マジですか!? 元ネタがよくわからないまま進んでるんでまったく気付かなかったです……すいません。
※ケイさんへ
ツマラン被害妄想と勘違いで人殺そうとしたくせに、その態度、大したたまだな、すずかも
>拍手ではギャグ思考で書いてますんで(汗)そこまで怒らないで上げてください(汗)
※周囲の影響を受けて変化っていうより、現時点だと取り込んだ細胞の特性を吸収してるみたいに見えますね。
ガイバーのアプトムとか、H×Hの虫の王様みたいな。
>実際そんな感じですね。特性をコピーできるのは結構ズル技だなと思いつつできてしまったこの設定でした。
作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル、投稿小説感想板、