店長のところで数日が過ぎた。
初めて来た翌日の朝、まるで何もなかったかのように修行の木偶人形が起動し、いつものトレーニングが再開された。
そのトレーニングも何やら軽めに終わり、ある程度の余力を持ってローラスケートの特訓に入る。
そして夜までやって、泥のように眠りまた起きて繰り返す数日が過ぎた。
……とりあえず身体中の擦り傷がヒリヒリして嫌です。
時空を駆けちまった少年
第30話
*****************************************************
ケイがミッド廃棄都市区画で特訓をしつつ、自己の精神の誤魔化しを探している頃、機動六課では動きがあった。
機動六課の後見人にしてXV級戦艦クラウディア艦長クロノ・ハラオウンが起動六課に訪れていたのだ。
なのは達の友人ではあるが上司。
今回の来訪は上司としての来訪であるため、気楽に話すような場所ではなく会議室で会話が行われていた。
そこにいるのはなのは、フェイト、はやての3隊長、通信パネルにはもう1人の後見人である聖王教会騎士カリム・グラシアが映っていた。
「……それはホンマなんか?」
「ああ、武ノ内ケイは戸籍上死亡とされている。だが約1ヶ月前にすずかとアリサが会っていて、ミッドに転送したそうだ」
ケイがミッドに転移して約1ヶ月が過ぎていた。
その間にすずかとアリサは転送失敗のことを六課に伝えたはずなのだが、返事がまったくなかった。
連絡を取ろうとしたが、海鳴に在住しているハラオウン家は仕事や子供と里帰りで丁度おらず、
ミッド出身者と接触できないでいたため、先日やっと連絡を取れたのだ。
話を聞いてクロノが調査しケイの戸籍情報、身辺情報を把握。
六課に今回このことを話したのだった。
「2人には身の危険があるかもしれないから、下手に連絡をとるような行動は控えさせることにした。実際僕のいないところで何か変なことが起きていた」
クロノ変なことというのは、ケイと関係があった人物に対しての記録を消去にきた裏部隊が来ていた事件だった。
戦闘がメインの部隊ではなく、証拠隠滅を主とする部隊であったためドイツから帰国していた恭也、美由希の御神の剣士に簡単に撃退されていた。
ただ腐っても隠滅のプロ。
証拠を残さずに撤退したため、どういうものなのかは調査では把握できなかったのだ。
「……海鳴でそんなことがあったって連絡は来ていない……」
「どこかで通信妨害があったんだと思う。通信メンテと称して一度調べたら情報が流されたり、操作された形跡も見られたから……」
「……はあ……ホンマにどうなってるんや……上層部がそないなってるってのは……」
上層部ということはケイの話からわかった。
だがその上層部と言ってもどこの誰が主犯でグルなのか、そこがわからない。
『ロッサに色々調査はさせています。主に人造魔導師計画に沿った面でだけど』
カリムがこう言うのはケイの話の中に人造魔導師についての下りがあるからである。
ケイ自身このときは人造魔導師関係で局の上が何かをしているとしか知らない。
そのため上が人造魔導師計画を行っているとしかわかっていないのである。
(管理局上層部の誰かがジェイル・スカリエッティと何か繋がりを持ってるんかもしれへんな……)
はやては心中でそう推理する。
何となく誰かは浮かぶが決定的な証拠もなければ根拠もない。
今の段階では何も言えないため、黙っていることにした。
「武ノ内ケイの調査だが……公にはできないな」
「そやね……局、もしくはその繋がりの誰かが探しているんやったら、こっちが潰されてまう……」
「スバル達にはなんて説明する? 私たちより一緒にいた時間は長いし仲もいいけど……」
「話すべきやろな……ただ身の安全を考えると知らせない方がええとも思うけど……」
知らないでいれば、六課がこの情報を手にしたことが知られても、部下にまで何かしらの危険は及ばない。
だが、仲間として考えると話さないわけにはいかない。
「……私が話すよ」
「なのは……」
「大丈夫。みんなそんなに弱くないよ。逆に話さない方が信頼をしていないってことで怒っちゃうよ」
なのはとしてもあまり話したくないことではあるのだった。
だがその理由は仲間だからこそ話すべきということである。
「……まあ大きく操作はできない。知ってる人がいれば探しやすくもなる」
『そういえばフォアードの子達は?』
「今日は休暇です。この話も突然来たからもう外に出た後だったので……」
午前中に六課フォアードメンバーは久々の休暇で街の方に遊びに出てしまっていた。
せっかくの休暇、戻って来てから話すということで話は纏まる。
「……でも腑に落ちんことがあるんや」
「何がだ?」
「変わったリンカーコアってだけで攫う価値があるんか? 検査はするんやからデータだけ盗めばええはずや……」
確かにそうなる。
データを管理できるのだから、わざわざ攫う必要性もない。
はやて達には、『ルーテシアを攫おうとした科学者をケイが妨害し、その逆恨み的にケイを実験素体にさせろと評議会と裏取引をした科学者がいる』という
キーワードが丸々抜けているため、推理ができない。
そもそもこの話を持ってきたすずか、アリサもルーテシアに関する話はケイにはされていないため伝えようがない。
「実はコアだけじゃないようだ。そのことはすずかから話すと言われている」
そう言って通信を繋げるクロノ。
盗聴などの形跡があったが、それに対しての対策は既に取っているのでその心配はない。
画面にすずかが現れると、六課出張時に起きたケイとの事件を話しだす。
すずかの横にはアリサの姿もあるが、一緒に話を聞くだけで発言はしないでいた。
話が終わると会議室の面々は、それぞれ考えを纏めるために黙っていた。
『ケイ君の体は私みたいに、特殊な体質に変わってるの……だからそのせいで狙われたって言ってた……』
すずか自身にも起きる可能性があるのだが、そこはクロノ達が知らぬ振りをしており、今まで起きた事件でのデータにも出たことがないため
知られることがない。
「けどそれでもデータは取れるはずや……何かが抜けてるんや……」
まだしっくり来ない。
体もデータは取れる。だけど今ある情報ではその答えは出ないのであった。
「やはり本人を保護して話を聞かないとどうしようもないな」
『教会でも彼と面識のある人物だけでですけど調査をします。表だってできないのは痛いわね……』
しかしそればかりはどうしようもない。
下手な行動は自滅を意味する。
「ほな、六課は今まで通り、ジェイル・スカリエッティとレリックを追う、カリムとロッサは上の調査。
ケイ君の保護と調査はお互いで面識ある者だけでする。そういう方向で行こ」
『はあ……本当こう話を聞いてるとややこしいことばっかしてる奴よね』
すずかの横でアリサが呆れる。
この場にいる唯一と言っていい一般人であるアリサ。
『アタシたちはこっちで話を聞くだけしかできないけど、ややこしいことがあったら連絡というか報告しなさい。一緒に考えることはできるんだから』
魔力も、特別な体質があるわけではない。
だがその知力はこの中の誰にも負けない自信と、何もないからこそ磨いたという自信がアリサにはある。
だからこそ、手伝うことはそれでできる。
ただ蚊帳の外にいるのが嫌だという負けず嫌いな性格も多々あったりはするのだが、そこはまた別の話。
『いい? ちゃんとこっちにも調査のことは話すのよ。まったく関係ないわけじゃないんだから』
「うん……ごめんね。巻き込んじゃって」
『なのはが謝ってどうするのよ。あいつが巻きこんできたんだから、サッサと見つけて謝罪させなさいよね』
アリサがいうのも最もである。
実際ケイがいなければこの事件に関わることはなかったはずなのだから。
『あのね……多分だけどケイ君は体のこと誰にも言えていないの……昔の私みたいに……』
画面の向こうで寂しそうに1人で仕舞い込んでいた頃を思い出すすずか。
『だから……』
「大丈夫だよ。すずかちゃん、みんなそれを知ったからってどうこうするような人じゃないよ」
『なのはちゃん……』
「そうだよ。それに私自身だってそうだよ」
「ウチもある意味それや。今更やんか」
何かしら事情の多い六課メンバー。
今更そういう事情持ちが増えたところで、その人に対する考え方がどうこうなることはない。
「はあ、やれやれ。これでまたうまく隠す手間が増えるわけだがな」
その秘密をうまく個人情報として漏洩しないようにしてきたクロノが軽く言う。
事実ここのメンバーの大半はクロノやリンディ経由で世間に知られずに済んでいる経歴を持つ。
そのことに感謝の言葉をみんなで笑いながら言い、ケイを見つけた後のことで話を進めるのであった。
******************************************************
……………腹減った。
間抜けな腹の音を目覚ましにして目を覚ますとは……
体を起こしてそのままストレッチ。
腰やら膝やら肩やらと関節部分からゴキゴキと音がする。
……相当疲れたまってるな。道理で爆睡するわけだ。
腹具合からして昼は過ぎてるな……
昨日の晩からずっと寝てしまった……木偶人形は起動してないし……
木偶人形について少しわかった。
あれは俺の精神面が参ってたり、身体が疲労でいっぱいいっぱいになっていたら休息のためか起動しないみたいだ。
……どんな人形で、どんな作りか非常に知りたい……
「さて……それなりに寝たし再か……」
くきゅる〜と変な音が響く。
「………飯だな。先に」
冷蔵庫を漁るが相変わらずビールとつまみのみ。
……いい加減肉とか米とか食いたい……
まあないから仕方ないんだけどと思いつつ、奥の方にあるスルメイカを引っ張り出す。
これが最後の食い物か……
「……………くっさ!?」
なんだこのひどい臭いは!?
パッケージの裏側を見る。
数字くらいはちょっとわかってきたミッド語。
そこに書かれた番号は、俺の予想通り賞味期限であるのなら明らかに3年は過ぎていた。
「……………………」
無言で奥にしまい込み、冷蔵庫の扉を閉める。
「テンチョー、食い物切れたー」
忘れよう。
見なかったことにしよう。
もしかしたら今まで食ってたものがヤバいほど前の物だったなんて考えないでおこう。
店で煙草を吸いながら新聞を読んでる店長に報告する。
「買ってこい」
いやだから無理だって。
表に出たら俺まずいんですってば。
「問題ねえ」
何かを俺に投げつけて無言で新聞に目を戻す。
投げつけられたそれを広げてみる。
…………マジか?
がやがやと人が行き交う首都クラナガンの商店街。
高層ビルや、おしゃれなお店。
外にセットされたテーブルでのんびりお茶をする人、恋人同士でイチャイチャするカップル、スーツを着て商談でもしているのか電話で話している人、それぞれだ。
そんな中俺は……
「何故だ……」
小さく目立たないように身をやや屈めたように歩いている。
その服装は俺の楽だと公言しているジャージではない。
白い帽子をかぶり、水色のロングTシャツの上に白のカーディガン。
膝が隠れる長さの白いロングスカートに、茶色いブーツ。
そして黒いロングのカツラをかぶり、伊達メガネをしている。
そうつまり……
「何で女装なんだ……」
店長は変装しときゃ買い物くらいバレるわけがねえと言ってこの服を渡してきた。
最近の行ないというかそんなのでガタイが少し無理あるだろうと思ったが、ゆったりした感じのこの服でうまく隠れている。
店長が買いに行ってくれと頼んだけど無理だった。
くそう……くそう……人生15年……こんな恥ずかしい思いはしたことがねえ。
こんな格好してたらもう目立たないように歩くしかない。
つうかマジバレるって!
店長これ見て大爆笑だったし!
気のせいなんだろうけど周りの人に見られてる感じがマジでする。
実際は誰も気にしてないんだけど、後ろめたいからそう感じる。
早く買う物買って帰ろう。
そう思い早足になると誰かとぶつかってしまう。
「す、すいません……」
まだ声変わりしきってないので高い声が出しやすかった。
一応声色を変える。
まあそれでもバレそうだから小さい声でしか言えないけど。
「あん? テメエどこに目つけてんだぁ?」
ぎゃあああああ! バッドなタイミングで不良とぶつかったーーー!
顔のとこに付いてますって答えたいけど、この格好で言えねー!
「なあ、おいコラ。どうすんだって聞いてんだよ?」
「はっはっは、馬鹿じゃねえの? さっきナンパ失敗したからって当たってんじゃねえよ」
「うっせえよ。もおテメエでいいや。こっち来いや」
「うわぁ!?」
どうやらナンパの失敗でイラだっている様子。
なんでこんなのにぶつかるんだよ俺は……泣きたくなるぞこの不運。
「あ、あの……放してください……」
くそう……あんま騒ぎを起こして面倒なことにしたくねえのに……
「いいから来いって」
「コラアアア!! そこ何してるの!!」
ん? この声は……
やや離れた所から聞き覚えのある大きな声が聞こえる。
その声は人込みを割って、俺たちのいるところまで響いてきた。
そして声の主である青髪の女子が走ってくる。
「こらあ! 嫌がる女の子に何してるの!」
ス……スバル……
なんだか懐かしい……
「うおっ、上玉じゃん」
「なになに? 君も一緒に来たいわけ?」
「そんなわけないでしょ。時空管理局です。これ以上は婦女暴行の容疑で逮捕するわよ」
さらにその後ろから不良達の発言をきっぱりすっぱり一刀両断にするティアナ。
スバルを追いかけてきたからか、やや息が荒い。
「ちっ……おい行くぞ」
俺の手を放し、機嫌悪そうに人ごみに紛れて行く不良。
……他人に当たり散らしながら去ってくなよ、迷惑な。
「君大丈夫? 変なことされなかった?」
「たっく……次はあんなのに絡まれるんじゃないわよ」
そう言って心配そうに俺を見る2人。
……もしかしてバレてない?
というかこれってもしかして六課に行ける絶好のチャン……
だけどここで俺の頭にウェンディに負傷を負わせたことが過る。
……ここで多分六課には十中八句戻れる……でもその後は?
現状がまったく把握できてないのに戻っていいのか?
下手に戻ると六課のみんなが危険じゃないのか?
それにルーテシアやアギトはどうするんだ?
あいつ等はスカリエッティと基本別行動しているにしても、局には行けない立ち位置にいるんだぞ?
それに俺だって……
「ねえ、大丈夫?」
「……えっ? は、はい……大丈夫です……」
なるべく目が合わないように俯きながらボソボソとか細く言う。
「次からは気をつけなさいよ」
仕方ないといった感じで腰に両手をつけ一息をつくとスバルを引っ張りつつ人ごみにいなくなる。
引っ張られるスバルはこっちに手を振りながら消えて行ったので、一応軽めに返事として手を振ってはおいた。
……結局、自分がどうすればいいのかわからなくて何も言えなかったな……
「………………」
俺はどうするべきだったのだろう……
「はあ……」
買い物で食料を入手した後下水道を廃棄都市区画方向に進む。
さっきの件もあったしここなら変なのに絡まれるわけがない。
つうか誰かいたらマジで驚きだわさ。
鼻歌交じりに曲がり角に差し掛かると、目の前をガジェットT型の群れが通り過ぎた。
「……………………」
…………
………………………………
………………………………………
そんな馬鹿な……
あんまりだ……
あまりの理不尽さにその場にガックっと両手両膝をつく。
「わざわざ人が通るわけない下水道で帰ろうとしたのに……」
い、いや待て。
まだ誰かに見られたわけじゃないんだ。
今大人しく帰ればきっと……
だが今度はさっき飛んで行った方向から爆音が下水道内で反響した。
「ジーザス……」
もうあれだ……
絶対何かに憑かれてるわ俺。
くそう。こんなとこから帰ったら絶対に今度こそ人に遭遇する。
上から帰ろう。
来た道を引き返し、途中で見つけた上り梯子へと向かう。
その間にも下水道内で爆音が響き渡り、その反響音で耳が痛くなる。
あーうるせえ。
一体どこの誰だ暴れてるのは。
たっく……
梯子を見つけてそれを上る。
丁度その時地震が起こり、下水道が崩壊を始める。
「ちょっと!? 何で!?」
マジねえ。マジねえ。マジでねええええ!!
急いで登らねえとペシャンコじゃねえかあああ!!
着慣れていない女服だとか、履き慣れていないブーツだとか関係なしで必死に駆けあがる。
そしてマンホールの蓋が見える。
「どりゃあああああ!!」
そのまま蓋をかち上げ新鮮な空気の青空に出る。
必死でマンホールの穴から体を抜き出すと同時に梯子が崩れ、穴は塞がった。
……セ、セエエエーーフ!
ふう……助かった……
はっ!? 油断するな!
さっきかち上げたマンホールの蓋は!?
上を確認。
だけれども俺の“自分の頭に落っこちてくる”という予想を外れまったく違う方向に落ちそうだった。
「ふう、問題ない」
大丈夫だと思い眼を逸らす。
そして予想通り蓋は関係ない方に落ちるのだった。
「いたああああ!?」
…………
……………何故だろう。聞き覚えのあるような声が聞こえたような……
そうちょうど水色の髪でモグラのような能力の変わった体の女性の声が……
「あーー!? やばっ!? スコープ壊れた!? どうしよ!? お嬢様救助あるのに!?」
振り向くと地面から上半身だけ出して、自分の指を見つめて焦っているセインがいた。
……なんでいるんだよおおおお!!
もう心境的に色々泣きたかった。というか泣かせて。
「ちょっとそこのあんた……何いきなり下水道から出てきてんのさ。しかもワタシの武装壊しやがって! 覚悟できてんだろうな? ああん!」
ジト目でこっちを睨んで喧嘩を売ってくる。
……いやこっちも必死だったわけで……ええっと……
「す、すまん、セインがいるなんて知らなくて」
「……なんでワタシの名前知ってるのさ……って、んん?」
ズイっと顔を近づけてきて、目を細めてよーく俺の顔を観察してくる。
そして何か思い出そうと考え込む。
あっ、バレたかも……
……他人に見られたくなかったが仕方ないか……
「……俺だ……」
観念して眼鏡を外し、ヅラもややずらす。
声の高さも変える必要がないし、いつもの声色で話そ。
「……何やってんの?」
「食糧調達の都合上こうなった……」
ものすごい呆れたジト目で見られた。
『うわー、ありえねえ〜、もうどんな理由でこんな格好してんのコイツ?』
みたいな目とオーラが出てる。
「この辺にいるのは聞いてたけど……って丁度いいや。手伝って」
「はっ?」
襟元掴まれて地面にISでセインと一緒に潜らされる。
そのまま潜行しつつ、どこかの物影らしき所に連れてこられる。
「ぶっは、何だよおい」
「実はさ、ルーお嬢様とアギトさんがあそこのハイウェイで捕まってて……」
物陰からちょっと顔を出せば上に見える高速道路を指差すセイン。
「……はっ?」
「いや、だからあそこでお二人が捕まってるから救出するの手伝ってって」
マテマテマテ……何がどうなってる。
何で捕まってる。
というかさっぱり状況が掴めない。
「何がどう……」
「あー、何て言えばいいのかな……」
『セイン、準備は……って横にいるの誰?』
いきなり話し合っている俺とセインの横にディエチの映った通信パネルが開く。
もう恥ずかしがってる状況じゃないのはわかったから、眼鏡とヅラを少しずらして教える。
『……まああんたが意味不明なのはわかったから、とりあえずどっか行って。今から救助するから』
「マテ、つうか状況がさっぱりで」
『レリック発見して、地下水道で戦闘。ルーテシアお嬢様とアギトさんが地下水道破壊して、地上に逃げたけど失敗してあそこで捕まった』
……非常にわかりやすく、短絡的説明ありがとうございます。
「そういうわけでワタシのISで助けようとしたら、スコープ破壊したのがケイなわけ」
……何その間の悪さ。
『……ちょっと待って。スコープ破壊って……』
『セインちゃんあなた……』
どうやらディエチと一緒にいるのだろう。
その横からクアットロが出てきて呆れている。
「ちょっと、ちょっと!? ワタシ悪くないよ!? こいつがいきなりマンホールから出てきてそのときの蓋が……」
『どうすんのさ。潜ってもはっきりした敵位置がわからなかったら助けようないよ』
「だからこいつに手伝いさせようとさ……」
なんか……俺非常にまずいことしてしまったようだ。
『じゃあこうしましょう。そいつを囮にしましょう』
画面の向こうから俺を指差してくるクアットロ。
「……はっ?」
『あ〜ん、鈍いわねぇ〜。あんたが囮になって局員引きつけて来いって言ってんのよ』
台詞の途中で明らかに口調変わってた……
あれだな、鼻潰したのが相当根に持たれてるな。
まあ俺もこいつの口調とか、態度とか見てるだけでイラっと来るけど。
『それで、セインちゃんがその隙にお嬢様を救出〜ってわけ』
「おい、こら。囮の俺はどうなる」
『ああ、メンド臭いけど私の幻術で時間稼ぎしてやるから、ルーお嬢様救出後のセインちゃんに拾って貰いなさい。それくらいできるでしょ』
うわー、こいつ俺はどうでもいいや、とりあえず捕まらない程度に逃げてろ、手伝ってやるからー みたいに吐き捨てて言いやがった。
「んじゃクア姉、ディエチ、それで行くから合図は?」
『派手なの行くからそこでスタート』
『セインちゃん、そこの役立たずの分まで頑張るのよん』
うぜえ……
「ほいほい了解〜」
そうしてパネルが消える。
「んじゃあ準備いい?」
「待て。着替えと装備を……」
「時間ないから装備だけで」
……マジ?
「大丈夫、大丈夫。不安がらなくてもセインさんがしっかり拾うからさ」
明らかに俺の不安がってるところに対するフォローが間違ってるんですが……
けどまあ時間ねえし仕方ないか……
せめて靴は履き換えよう……
「それ何?」
両腕に手甲を装備し、店長製のローラーブレードを履いているとセインが尋ねてくる。
「うん? ああ、新装備だ。名前はまだないけど」
「ふーん……まあいいや。どっから突入の方がいい?」
「そこのハイウェイより高くなってるビルの上から。突っ込むなら一番そこがいい」
「はいよ〜」
再びISで潜行してビルの中に入る。
ルーテシア達の捕まっているハイウェイは周りを高いビルで囲まれているので、そこから突っ込むのが一番意表をつけるだろ。
俺をビルに置いた後、セインはハイウェイの真下に移動、そのままいきなり2人を奪還できるポジションに移動した。
とりあえず、2人を捕縛している数は6人と2匹らしい。
2匹って何だとは思ったが、聞く前に移動された。
「はあ……まあいい。とりあえず2人を助けないとだ」
ちょうどハイウェイより2,3階高い階の部屋に到着。
何かの仕事のオフィスだったのだろう。やたら広かった。
割れた窓から突撃先を確認する。
「……えっ?」
な、なんで六課のみんなが?
そこにはスバル、ティアナ、エリオ、キャロ、ギンガ先輩、フリード、ヴィータ、リインがいた。
そしてそのメンツに囲まれているルーテシアにアギト。
「……おい、おい……マジかよ」
こんな状況どうしろってんだよ……
ルーテシアとアギトを助けるのか?
六課のみんながいるんだぞ?
俺の一番行きたかった場所のみんながそこにいるんだぞ?
でも、ルーテシア達はそこに行けない……
一緒に捕まるか? そうすりゃ堂々と……
駄目だ。また予想できないことになる。
じゃあこのまま放っておく? それも無理だ。
あまりの状況に混乱し出す。
落ち着け、こんがらがるな。今俺がすべきことは何だ? 決めたことは何だ? そこから外れるからおかしくなるんだ。
外から轟音が響き渡る。
ド派手な合図ってのはこれか。
足に力を溜めると、それに呼応するかのようにローラーが急回転を起こす。
それをクラウチングスタートの姿勢になって進まないようにし、さらにその回転数を上げる。
「突貫!!」
一気に100Mのスタートをするかのようにダッシュ。
窓を飛び抜け、そのまま宙を駆け、目的のハイウエイの上に飛ぶ。
俺が今の時点ですると決めていることはルーテシアとの約束を守ること。
そして旦那を含めた3人と行動して、これからの行動を決めるということ。
だから
「うりゃああああああああああああああ!!」
今はルーテシアとアギトを助ける!!
つづく
あとがき
ふう……ついに30話……
しかもこれ書いてるの期末試験中……
やばい!! 何やってんの俺!? とまあ焦りつつ書いてたりしました。
いやーついに来ました30話目! 長かった……1年以上かかりました。
さて、ついに六課と遭遇、そしてケイの現状を知る六課隊長陣。
あんまり何時までも悩んでいられない。どうすればいいかわからない。でも行動しないわけにもいかない。というラスト。
今までの行動で起きたこと、指摘され怒られたこと、それを踏まえての「今は決めたことをする」という答え。
それがラストに出ました。
いやー、やっとスパっとすることを決められるようになりました。
次回は六課のメンツとの戦闘です。
いやー超不利です。
AAAクラスに融合騎、特化技能ならばAAクラスが4人に竜1頭、陸戦AAの魔導師、後にはS騎士と陸戦AAA騎士の追加。
ちょっと離れた所でSオーバー魔導師2人に、遠くで殲滅型のSS騎士が1人。
…………ここまで進めておいて何ですが……無事逃げられるのか? こいつ……
とりあえず頑張って次回を書き上げたいと思います。
それでは失礼します。
Web拍手返信
※すずかって日本語知らないの?叔母は血縁関係上、正しい呼び名なんだから、そんなに過剰反応するなんて年を気にしているって言ってる様なモンだぞ。
>いやいやですが流石に10代でおばさんと呼ばれるのは辛いでしょう女性には。
>なんというか理屈ではないww
すずか「知ってます……知ってますけど認めたくないのはないんです」
ケイ 「俺も流石にオジサンはな……子供好きだけどそれは言われたくない……」
※まさかのあの人との、クロスですか!?
>はい、まさかのクロスをさせていただきました!
>クリスマスネタが……と考えて湧いたクロスです。その日のうちに許可を申請、通りましたw
>いやー、改めてケイスケのポジションのおいしさを感じましたね。
ケイ「まさにギャルゲーポジ!」
※クリスマスはキリストであって、聖王じゃない、それにヴィヴィオはクローンで有ってその人じゃないから、ヴィヴィオの誕生日って事にもならない。
何トチ狂ってんだケイ。
ケイ 「ミッド風に言えばそうならないっすかね?」
カリム「それは……それに聖王というのは家系ですし……」
ケイ 「いや生まれた日も違うだろうけど……でも宗教対象になった人間だし……」
カリム「あまり断言できません」
ケイ 「さいですか……」
>う〜ん、自分はミッドではキリストみたいなものが聖王だと思って書いたのですが、不快感を与えてしまったようですね。
>すいませんでした。
>ちょっと自分の感覚で書き過ぎました。以後気を付けます。
※正月SSが、まさか月村家でとは……御馳走様ですw
すずかにだったら育成されたいぜぃ(ぇw
あーでも……それだと、ある意味『恭也の代わり』って事になりそう? すずか自身はそんな理由じゃなくて、単純に自分好みにするって意味なんだうけど。
もし本当に育成し始めたら、忍やノエル、ファリンやアリサ辺りに指摘されそうw
それにしても、恭也が初恋相手かぁ。そりゃ主人公じゃなくても無理っス……orz
まぁ、すずかに吸血されてるだけでも、十分羨ましい訳ですがw めっちゃ色っぽいじゃんか! さてさて、次回は本編更新かな? 次回も楽しみです♪
PS.すずかが本編に再度出る事がある様なので、そちらも期待してます!!
>あはは(汗) 確かに恭也の代わりみたいな感じに思われる文章でしたね。指摘されて気づきました。
>もし、すずかEDな話を書くんだったらそう思われないように書きたいなと思います。
>ケイへの指摘なんていっぱいあり過ぎますよw 男としての魅力あんまりないですからw
>今回少し出番がありました。
>実際書いてみると……まずい、これから先の出番はまたないかも……と思えてきました。すいません。
ケイ 「いいぜ〜、吸血、エロいぜ〜、だから代わって! お願い! 理性持たないから!」
すずか「じゃあ、エッチなのを抑えてればいいんだね?」
ケイ 「へっ?」
すずか「かぷっ、ちゅ〜〜」
ケイ 「エロくはないけどなんか違うーーー!! 総じて言えば吸わないでえええ」
※やはり、外伝ではすずかもヒロインの一人だと思います。今後の外伝でケイの家族も絡む話が読みたいです。
>実は最初、正月にケイの家にスバルやティアナが突撃とか考えてました。
>でもまあ……うん、とっておこうと思い没にしました。
>いつか書きたいなと思います。
※ランスロット「ケイ、すずかみたいな人は滅多にいない。全力で口説け!!
後、作者の方のケイさんへ。リリカルクロス学園の方も頑張ってください。応援しています。」
ケイ 「えー!? でも相手にされないさそー」
すずか「そんなことないよ。ちゃんとした人なら考えるよ」
ケイ 「そう言ってフッてきた男は星の数だったり」
すずか「あはは……(汗)」
ケイ 「哀れ、星となった男子達」
>なんと!? 学園の方の応援が来るとは!?
>実はネタはあるんです。2,3話分。
>うーん……1話2話を少し書き直して投稿しようかなと思います。
作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル、投稿小説感想板、