「なあ……知ってるか? あいつ人を殺したんだって」

「近寄るんじゃねえぞ……殺される」





やめろ……





「聞いた? あの家族……一家離散ですって」

「親は離婚。父親も職を失くしたんですって……」





やめてくれ……





「兄妹も非行に走りだしたらしいぜ……」

「おいおい……兄弟揃ってかよ」





違う……殺したくて殺したんじゃない……





「やっぱり人殺しの家って怖いよな」

「だよなー」







違う!!









時空を駆けちまった少年



第29話












*************************************************







「違う……違うんだ……」





……襲撃の夜がもうすぐ明ける。

今アタシの目の前ではケイがうなされながら眠っている。



あの改造された男の首を落としたケイは血まみれの姿で旦那とルールーと合流した。

旦那は少し驚いていた後、何か悲しい表情を一瞬作ったが、すぐにケイに行くぞと言って連れて帰った。



だけどそのときの表情は、いつもの明るさがまったくなかった。

目はどこかを見つめるみたいに焦点が合っていなかった。



最近キャンプを張ってる湖畔に着くと、体を洗い服を捨てるとすぐに眠りについた。



だけど朝日が昇り始める今までずっとこうしてうなされている。





「……アギト……眠らないの?」

「……心配なんだよ……てかルールーも?」



「テントの中にも声は聞こえるから……」





外で寝てるケイだけど、声は聞こえてたんだ……





「そんなだと明日昼に寝ちまうんだぞ」

「いいよ……朝早く起きるの面倒だもん……」





あーもー、それじゃあグータラになっちまうっていうのに……





「……大丈夫かな」

「ルールーも心配か?」





そう言ってケイを見つめるルール。





「うん……ゼストが言ってた。心の傷は体の傷みたいに消えるものじゃないときがあるって……」

「そっか……」





起きたらなんて言えばいいんだろ……

旦那も何も言ってくれないし……あーもー……













「もう一回だアギト」



『なあ……そろそろ休憩しないか?』



「いいから、もう1回だ!」





朝起きたと思ったら何故かいつもの人形は出てこなかった。

いつもだったら嫌がってたのに、苛立った様子で1人で何故か訓練した後、

魔法の練習したいって言ってユニゾンした。



飛行魔法の練習を相変わらず続けるが成果は出ない。





『もう落下回数も50以上だぞ……そろそろ休もうぜ』

「ダメだ。できるまでやる……そうじゃねえと……」



『じゃないと何だよ』

「……すまん。何でもない。やっぱ少し休むな」





放心状態になるのかなと思ったけど、むしろ逆だった。

1人で突っ走ってる。

なんとか止めねえとな……





「なあ、やっぱ昨日のことで」







一瞬身体がビクっとなった。

少し驚いたような顔になり、蒼白になったように見えた。



……やっぱりか。





「そのさ……やっぱり」



「……初めて人殺したんだ。

 今まで動物とか、虫とか普通に殺したこともあった」





今まで見たことないほど無表情な顔を作って、どこか遠くを眺めるように話しだす。





「俺がさ……生きるためにとか、

自己防衛のためになら、ためらわず殺すとか言ったことあってさ……

 でも実際だと全然違った……」





あの時は反射みたいな感じでこいつは敵の首を斬り落とした。

そこには多分殺す覚悟もなかったんだろうな……





「人を殺すって怖いんだな……」





両手で目を覆い隠し、そのまま長い間切っていない長い前髪を握りしめる。



怖い……か……

旦那とルールーと行動してる中で2人はあんまりそういうことは言わない。

旦那はその山場を乗り越えている。

ルールーは非殺傷設定もできるし、召喚虫を完全にコントロールできるから、まだ殺したことがない。



多分これが普通の反応なんだろな……





「殺したくない……だから強くならないと……圧倒的に……」





小さく何かを呟いたがアタシには聞き取れなかった。





「えっ? 今何て……」

「……なんでもない。よっしゃ、もう1回飛行魔法練習させてくれ」





そう言って笑ってから顔を逸らした。

いつもの様な感じで笑おうとしてるけどアタシのは酷く歪んだ笑顔に見えた。

そして、逸らしたときの目が



いつもの明るいような目に少し濁ったような色が見えた気がした。











*******************************************************









飛行魔法は魔力がほぼ空になるまで練習した。

それでもまだ昼過ぎくらい。

アギトの作った昼飯をみんなで食べる。



午後はどうするかな。

……ガリュー呼んでもらって組手でもするかな。





「……武ノ内」

「はい?」





昼飯も食い終わって、そんなことを考えているとゼストの旦那に呼ばれた。

なんだろう? 相手でもしてくれるのか?





「……………」





ジッと俺の目を見て、少し俯く。





「あの……何か?」

「……今から街に行く。支度をしろ」





街って……クラナガン?





「何でいきなり」





俺は残って特訓とかしたいんだけど……





「デバイスの調子が昨日の襲撃で悪くなった。俺の知り合いの所でメンテナンスをしてもらう」

「あのー……それでなんで俺も……」





正直行く必要がない気が。





「そいつはいろいろ扱っていてな……お前1人だけの時の武装……少し見繕った方がいいだろう」





確かに……1人のときだと刀とラケットだからな……

防具はラケットだけだし、昨日みたいに魔力が切れるとやばい。



……あんなことになる可能性も少しは減らせるかも……





「ルーテシアは?」

「……私はドクターの所に行ってくる……アスクレピオスの点検……」





スカのとこか……





「アギトもついて行ってくれるか?」





どうせ今日はもうユニゾンできないし、俺は旦那と行動だ。

だったらルーテシアを1人にするより、そっちのがいい。





「えー、あいつらのとこにかよ。まあルールーを1人にするってのも何だから付いてくけどさ」



「悪いな」





そんなこと言いつつ面倒見がいいなこいつ。





「では、行くか。合流はそのままここだ」

「あいよ」

「うん」

「うっす」





















旦那と一緒にクラナガンの方に来た。

だけど、人のいる街ではなく、廃棄都市区画のスラム街のようなところに出る。

人も見かけるが、ホームレスのような感じの人や、そっち関係の怖そうな人ばかりを見かける。



……こんなとこにメンテとかできるような人いるのか?





4階建のビルの地下に降りるような階段に無言で降りて行く旦那。



……なんかすげえ普段は降りたくない感じだな。



そう思いながら階段を降りる。

階段を降りて行くと黒い扉があった。

それを普通に開ける。



俺はなんとなくその扉が開き、閉まるところまでを目で追う。







「いらっしゃ……何だお前か」





声がした方を見ると金髪でツンツンした髪形の30くらいの男がカウンターにいた。

この店の店長か?



そして今度は目線を店長らしき男から店全体に配る。

よくわからない機械のようなものもあれば、樽に置かれたポールスピアや、杖。



壁には映画でしか見たことのないような銃が隙間なく立てかけられ、ショーケースに置かれた銃弾の箱の山。



……ここはアメリカ?







「メンテを頼む」





待機状態のデバイスをカウンターに置き、それだけ言う旦那。





「金だけしっかり払って貰えるならいいぞ」

「これで頼む」





胸元に手を差し入れ、札束をカウンターに置く。

どうみても数十枚とかではすまない厚みをその束は持っていた。

……ってそんなに金あるのに野宿なのか!?





「相変わらず金の出し惜しみがねえ奴だな。まあ、俺は儲かるからいいんだけどよ」





そう言って札束の枚数を手慣れたように数える店長。





「あっ? そっちのガキは何だ?」





札束を持ったまま数えるのを中断し、椅子に寄りかかった体勢で聞いてくる。

……今頃気づかれた。





「武ノ内。ここの店から見繕え」





いや……銃とかよくわからないんですが。

つうかこの銃……重っ。





「試射なら裏だ。そこのショーケースから弾持ってって使え」





ショーケースに手を伸ばす。



……弾の種類がわからん。





「あん? ど素人か? おいコラ。こんなの何で連れてくる」

「魔力はあるが1人では魔法が使えないのだ。お前なら何かいい物を用意できるだろう」

「ウチは何でも屋じゃねえんだぞ……ったく……おい小僧」





めんどくさそうにカウンターの椅子から立ち上がってこっちに向かってくる。





「お前は銃使ったことないのか?」

「1回だけです」

「ちっ……じゃあ無理だな。魔法が1人で無理ってのはなんだ?」





そんな感じで戦闘スタイルのことをいくつか質問される。







「最後だ。どんな武器が欲しい?」

「……………」





どんな……





「……圧倒的に倒せる武器……」

「あっ?」



「圧倒的に相手に勝てて、殺さないで済む武器が欲しいです」

「………」





無言で目を見られる。





「……帰れ。そんなもんあるわけねえだろうが」





つまらないものを見るような目に変わり、そう言われる。



やっぱそんなのあるわけないか……





「おいコラ! こんなふざけた奴連れてくんじゃねえよ!」

「……なんとかならんか?」

「ざけんじゃねえよ。こいつ人を殺せもしねえだろ」





ビクッ





「あっ? あるのか? ……そりゃ意外だ」





ちょっと驚いたような目を一瞬するが、すぐに眼付の悪い感じに戻る。

そのまま男は最初に座っていた椅子にまた座り込んで煙草の煙を吐く。



俺だって殺したくて殺したんじゃない……





「……なるほどな。だから殺さない強い武器が欲しいとかふざけたこと抜かしたわけか」

「……はい」



「だけどそんなのはねえ。帰れ」





手で犬、猫を追い払うようにシッシとする。

……一瞬期待した俺が馬鹿だった。





「と、言いたいところだがゼストにはいつも割増しで金を貰ってる。待ってろ」





えっ?



そう言って立ち上がり、店の奥に入って行く店長。





「武ノ内、殺さないで済むよう強くなろうとするのはわかる。だが焦るな」

「だけど……時間がないっす。……今が一番力が欲しいし、戦闘も」



「……お前には時間がある。悩むのもまた成長だ」





………でも





「おらよ小僧」

「うわっと!?」





何か箱を投げつけられる。

何だこれ?

開いてみる。





「それでも履いとけ」

「……ローラースケート?」





ってこれ滅茶苦茶軽っ。





「銃なんぞお前使えんだろ。しかも殺したくねえとかいうなら今の素手でなんとかしろ」

「……これをどうしろと?」

「履け。そして走れ。あとこれ読んどけ」







メモ書きを投げつけるのと一緒にそう言う。

わけわからん。





「それとこれとこれも持ってけ」





ポイポイとまた何か投げつけられる。



……生地と手甲?





「俺が若い頃に作ったモンだ。」





渡すだけ渡してポケットに手を入れ煙草を取り出し吸う。





「手甲はそれなりの防御力がある。そっちの生地は魔力を籠めて編めばバリアジャケットの半分くらいの強度の防護服になる」

「すまんな」

「気にすんな。お前には相当金貰ってんだ。サービスくらいする」





「あの〜」

「あん?」

「メモ読めません」



「………………」





ミッド語ですもん。





「おい、こいつ置いてけ。使い方教える」

「いいのか?」

「そのかわり代金倍置いてけ」





ボッタクリだ。





「では頼む」





って旦那も出すんすか。





「デバイスは夜には仕上げる。それまでどっかに行っとけ」

「では頼んだ」





……行っちまった。





「裏に来い」





























店長について行くと店の裏口からさっきの店前の通りと違い誰もいない廃棄都市が広がっていた。





「まずそれを履け」

「はあ……」





見た目はシューズにローラーがついただけのローラースケートだけど……

スバルのと違って機械っぽくねえな……

脛の固定部分もないし……





「重心を前に持って行ってみろ」





膝をやや曲げ、言われたように重心を前に持って行く。

そしたら蹴り出したわけでもないのに勝手に進む。





「うおっ!?」

「そのまま蹴ってみろ」





足の親指と、その付け根に力を溜めて思いっきり蹴ってみる。

ローラーが急回転する。

摩擦が火花を散らし、その摩擦熱が煙を噴き上げる。





「どっしゃああああ!?」





爆発的に加速。

あまりの加速にやや体を逸らしながらなんとかバランスを保つ。

しかし体のバランスを保つために、真っ直ぐにしか進めないせいで、すぐ目の前にビルの壁が迫る。

と、止まれーーー!!



「そこから跳べ〜」



やる気のない声で拡声器を使って言ってくる。

跳べって言ったって!?

だけど跳ばなければこのまま正面から壁に激突のみ。



「このおおおおお!!」



言われたとおり上に向かって蹴る。

ふわりとした感覚と共に、下から押されたかのように身体が浮き上がる。



うおお!? 滅茶苦茶とん……ぐはっ。



ビルの4階近くまで浮き上がり、壁に激突、そのままズルズルと壁に顔面キスしながら地面に落ちる。





「壁走りしろーって遅かったか」





またやる気のない声が拡声器で大きくなって届く。

……無茶言うな。





「どうだ? 俺が作ったスケートシューズは?」





ただのローラースケートじゃないよな……

そのまま説明を聞く。

何やら難しい専門用語も飛び出てきたりもしたが、要点だけをまとめる。





中に極小のモーターと、クッションを内蔵することで、瞬発力、跳躍力などの機動性を上げる。



スバルのマッハキャリバーとよく似たような感じだが、操作方法がまったくちがう。



マッハキャリバーはいうなれば魔力で走る車のような操作方法になる。

スバルの魔力を送り込めば、送り込むほどそのスピード、威力などを上げることができる。



だけどこのローラースケートは使用者の脚力の強さに比例する。

しかもグリップ操作、バランスのとり方はすべてその使用者の感覚頼り。

体力の消費はこっちの方がでかいし操作は難しい。

……だけど魔力を1人じゃまともに使えない俺にはありがたい。





「どうだ? 操作難しいだろ」

「ええ、でも」

「でも?」

「スキーとか、そういうのに似てるっす」





曲がるときの体重移動とかが。

ただ飛び上がるときはまたちょっと違うけど。

それに前に体重かけ過ぎたり、後ろにかけ過ぎるとこける。



そこが難しい。





「まあできるにこしたことはねえ。あとは1人でやれ」

「うっす」





これ使えば俊敏力、瞬発力が相当上がる。

多分俺が魔力出しながら加速して走るより、効率もいいし、速さも上になる。



「あとな……」



店に戻ろうとして何か思い出したかのように立ち止まる店長。



「そいつの機能……それだけと思うなよ」

「へっ?」

「メモ書きの翻訳もやっておいてやる。テメエはそれにとにかく慣れろ。じゃねえと持ち腐れになるぞ」



そう言って店の中に消えていった。

さっきの店長の言葉は気になったが、詳しくはどうせ後にわかる。

今はこれをやろう。



あのことを考えたくない俺は、その意識を別のことに向けて考えないようにするために

俺はただこのスケートシューズの練習に励んだ。


















日も暮れ、ミッドの夜空にたくさんの星と、2つの月が見えるようになる。

そんな夜の静けさの中に小さな駆動音と、何かが擦れ合うような音が響く。



「ぜっーはあっ、ひっー……はあっ……はあっ……」



はあ……はあっ……くそぉ……



汗が吹き出し、呼吸が荒くなる。

結局今の今までぶっ通しで感覚を掴もうと必死になった。



扱ける回数も格段に減ったが、体中擦り傷と打ち身だらけ。

服も所々破れている。



それんな状態でもビルの間を飛び越えるように走る。

跳び越え、着地した瞬間に素早く足の親指に力を溜め直下方向に切り返しを行い、俊敏性を上げようとする。



「うおっ!?」



だが、ローラが空回りするかのように後ろに抜け、バランスを崩しそのまま転倒。

うつ伏せの状態で、慣性の法則にしたがってコンクリートの上を滑る。



「熱っ!! いってえ!!」



くっそ……またかよ……

しかも膝の部分が大きく擦りむけ血が出ている。

ヒリヒリするのでその傷口に唾を吐きつけ消毒代わりにする。



「だー、もう無理!」



そのまま嫌になって仰向けに寝転がる。



あー……星が綺麗だー



地球と違うミッドの夜空。

惑星のようなものが多く見え、月も2つあるのには違和感を感じるが、綺麗だとは思わされる。



もう夜か……時間何時だろ……ってやっばっ!?



ルーテシアやアギトとの合流忘れてた!

旦那とも別れたから、どうすりゃいいんだ!?

くっそ……しっかり確認すりゃよかった……



今更ながらだがどうしようもない。

結局そのまま悩み、色々考える。

だけど、その時々の思考で嫌なことも考えるようになり、結果思い出したくないことも頭を過る。



「っ……くっそ! あーイライラする!」



誰もいないからか、誰もいないからこそかそう叫ぶ。



「くっそ! くっそ! あああ! 嫌になる!!」



無性に腹が立つ。

何に対してかわからない。

悩んで、訳が分からなくなって、そしてストレスが溜まる。

髪を掴み、引き抜いたり、拳をコンクリートに叩きつけ壊したり、ヒステリックな行動を起こしてしまう。





「おい〜っす……って何髪の毛引きちぎってるっスか!? ハゲになっちゃうっスよ!?」

「うっせえな!……って……」



後ろからの声に苛立ちをぶつけるように返事をしかけたがその声に聞きおぼえがあった。

驚きながらその方向を見ると





「あ〜ひでえっス。せっかく全快して会いに来て上げたのにその言い方はひでえっス」





ライディングボードに乗ったウェンディがそこにいた。





「おまえ……もう傷いいのか?」

「完全に修復終了。いつでもドンと来い! って感じっス」





呆けたような顔の俺に、明るく能天気な笑顔で腕をグルグル回して返事する。



そうか……無事治ったのか……よかった……

でも……あんな怪我した原因は俺……





「あらら……ルーお嬢様に少し話聞いてたっスけど……相当凹んでるんスね」





ウェンディがまた暗くなった俺を見てそう言う。

だがウェンディは俺のせいであんなことになったのだと知らない。

恐らく俺自身が起こした殺人のことでショックを受けていると思っているのだろう。





「うるせえな……」





話をしたい気分じゃない。

少し休んだしまた体でも動かそう。



「まーまー、ちょっとくらいお話でもしよ〜」



ボードでふよふよと俺の前に回り込んでくる。

ものすごい今の俺とは正反対な、楽しそうな笑みに苛立つ。



「それにアタシが修復中見舞いでも来てくれればいいのに来なかった罰っス」

「……わかったよ……」



それを引き合いに出されると何も逆らえない。

俺のせいでああなったという罪悪感のせいだ。



「とりえず最初はお礼っス。油断してやられたアタシを助けてくれて」

「………ああ」



だから……そうなった原因は俺だって……

だけど本当のことを言えない……

六課に連絡して……どういう経緯でかはわからないけど結局見つかりたくない奴等に見つかって……

それでウェンディが負傷……

知ったらきっと嫌われる……そのまま俺の存在も危うくなる……



「本当は見舞いに来るかなーと思ってたけど、ゼスト様とお嬢様と行動するようになって帰ってこなくなったし」



まあ……色々思い知らされたからな……



「それで今日お嬢様とアギトさんが来たと思ったらケイが人を殺したせいで凹んでるって聞いたんスよ」

「そうか……」

「お二人とも心配そうだったスよ?」



……朝に少し八つ当たりみたいな感じで特訓に付き合わせちまったんだけど……

はあ……悪いことしたよな、本当。



「んで、その顔をわざわざ見に来たのかお前は」

「いやー、同じ能天気同士が減るのが嫌で励ましに来たっス。

この美少女ウェンディちゃんに励まされて嬉しいっスか?」

「……知るか」



なんか今はそういう会話できるような精神状態じゃないんだよ。

機嫌の悪さを出した顔で視線を夜の街並みに持って行く。

その数十キロ先には地上本部を中心として、昼のように明るい光を放つビルの光景があった。



「……ありゃーこりゃ重症っスね……」

「……うるせえな……一々お節介な奴だな……」

「何言ってるっスか。普段のケイもそんなんでしょ。いきなり街で会ったと思ったらチンク姉を引っ張ってアタシ達探したり、ディエチに料理のこと言ったり」



……そうだったな……

今思うとアホなことしたよな……

ああいう行動しなかったら今はこんなことなってなかったのかな……



「でもいつまで気にしてるっスか? 正直言うと別にそこまで問題ない気がするんスけど」

「……はっ?」



こいつ何言ってるんだ?



「殺すってそんなに問題あるんスか?」

「……お前マジで言ってるのか?」

「うん」



さも当然のようにいつもの能天気な顔ですっぱりと肯定する。



「アタシは戦闘機人スよ? 戦うために生み出されて、戦って生きていく。戦闘で殺しなんて普通っスよ?」



戦うために生まれた……

本当にそうなんだとは思う……そうなるとそれがこいつの「常識」っていうものになるんだろう。

「戦う、そして勝って生きるために殺す」そういう風なものなんだろう。

弱肉強食の考え方に似ているけど絶対に違う。



「……だから殺しをしても何も感じないのか?」



自然界は生存の過程で捕食のために殺す。

でもこいつのいう殺しはそんなものではない。

他者の欲望のために命令をされて、その目的を遂行することで自分の存在意義があって、その中にいることが絶対条件で

生きようと考えるから、「殺す」という行動をして生きるってことだ。



「まだ誰かを殺したことあるわけじゃないから何とも言えないっスけどね〜」

「そおか……」



その言葉に安心した。

まだこいつは誰も殺していない。

だったらまだしないで済む生き方もできるはずだと思えた。



「……誰も殺さない方がいいぞ」

「何でっスか?」

「……うまく言えん」



俺の罪悪感は周りの評価を気にすることから来ている。

周りにどうこう言われ、そのせいで自分の身の回りが苦しくなる。

それに対して嫌だと考えている。

多分罪悪感よりも後悔って言う方がいいのかも知れない。

殺したあの男に対しては申し訳ないが、どこかで死んでも当然な奴とは思っている面もある。



だけどウェンディ達戦闘機人は、「殺す」、「勝つ」ということで周りからの存在意義が生まれる存在だ。

本人たちもそう自覚している。



「でもそれじゃあ……なんつうんスかね〜」

「存在意義が消えるってか?」

「そうそう、それっス」



指をズビシッ!と指し胸を張るウェンディ。



「……別に戦闘のために生まれたからって、そんなことする必要あるのか?」

「へっ?」

「……何でもねえ。お節介言った。忘れてくれ」



俺にどうこうできる問題じゃねえ……

もう下手に何でもかんでも言って泥沼に落ちるのは御免だ……



「……変なこと言うっスね」



街の方に視線を運んで聞き流したことにするウェンディ。



「……ただな」

「ほい?」

「…………俺的にやっぱり殺しはして欲しくない。……それだけだ」

「そっスか」



そのまま無言の時間が過ぎる。

2人でなんとなく明るく照らされる街並みを、廃棄都市区画のビルの上で座り込み眺める。

どのくらいの時間かわからないがしばらくしたらウェンディは、そろそろ戻ると言いだした。



「あっ、そうそう。ルーお嬢様とアギトさんはしばらくアジトで寝泊まりするっス」

「わかった。俺はしばらくここにいるわ」

「了解っス。お二人にそう伝えておくっスね」



ボードを浮かべ、そのまま帰ろうとする。



「なあ」

「ん? まだ何かあるっスか?」

「……気を付けてな」

「大丈夫っスよ〜、発見されるとかなんてドジは踏まないっスよ。んじゃバイバイ〜っス」



そのまま夜の闇に消えていくのだった。





「……結局言えなかったな……あの時の原因」



……最低だな。

相手が知らないから黙っているって……

そんでもって自分がやったからって他人にはやるなって説教か?



「……小せえな……俺……」



その場に寝転がって星空を眺める。

……でけえよな……空の向こうに宇宙があって……でもそれよりも先なのかは知らないけど、さらに広い次元世界が広がってて……

……ちっぽけなんだろうな……俺の悩みも何もかもが。



「……感傷に浸ってどうすんだか」



さっきまでの苛立ちもなんだかどうでもよく感じるようになった。

それと同時に眠気が俺を包み、そのまま俺は目を閉じた。





















************************************************









あ〜だりぃ……ゼストの奴……クソ面倒な小僧を連れて来やがって。

まあ金払われた以上、面倒はきっちり見るがな。



メンテを頼まれた野郎のデバイスを4割方済ませたところで、煙草を吸う。

時間を見ると既に夜中。

あの小僧まだやってんのか?



「ったく……飯とかどうしてんだ?」



作業でこわばった肩や腰を回し、ほぐしながら階段を上り、店裏に出る。

すると目に写ったのは、壁や道路などにヒビ割れ、ビルにはかけた部分が見受けられる。



おいおい、元々廃墟だからそんな光景だったけど悪化してやがるぞ。

あの小僧相当やり込んでやがったな……



「さて……その当人は……」













数十分かかってやっと見つけた。

近所のビルの上だが場所が場所なだけに時間がかかった。

何やら苦しそうに眠っていやがった。

最初に見つけた時はおもいっきり蹴り起こすつもりだったが、その眠りの苦しそうな表情に気が失せた。



「おら、起きろ小僧。寝てんじゃねえ」



まあそれでも気が済むわけではねえから、頭を軽く小突く。



「ん…………あっ……店長」

「何寝てやがる」

「あっ……すいません……」



起きたようだが、表情は死んでやがる。

目も昼間の焦ったような目から、何か諦めきったような目に変わってやがる。



多分これがこいつの本音の目だな。

寝起きが悪いのか知らねえが、思考がはっきりしてねえせいで誤魔化しみたいな焦りも出せねえでいやがる。



「テメエまだ引きずってるだろ」



ビクッと反応しやがる。

やっぱりか。



「けっ、情けねえ。金玉あるんだったらシャキッとしやがれ」



辛気臭せえ小僧だな。



「……店長は殺したことあるんすか?」

「あっ? んなもんテメエに教える義理もねえだろうが」



なんでこいつはこうも周りがどうこうで決めようとしやがる。

本当に面倒な奴だな。



「何だ? 僕殺しちゃいました〜だけど誰々さんも殺してるからいいや〜 とでもほざく気か?」

「そ、そんなわけじゃねえっす!」

「だったら他人がどうこうとか言ってんじゃねえよカス」



あ〜あ〜メンドくせえ。

また沈んだのかしらねえが俯いてやがる。



「いいか。殺したのはテメエだ。どんな理由があろうとな」



押し黙る小僧に苛立ちを感じるがそのまま俺は言葉を続ける。



「だからって他人にその鬱陶しい目やら雰囲気を晒してんじゃねえよ。ウザイんだよ、はっきり言って」



蒼白な顔になる小僧。



「折り合いをつけろ。自分の中に留めろ。他人に見せるんじゃねえ」



胸倉を掴みその頭に叩きこむように言いつける。



「どうせ世の中真っ正直に生きられるわけがねえんだ。他人に助けを待つんじゃねえよ。自分の中の問題なら解決できなくても折り合いを付けて進みやがれ」

「……前に言われたことと真逆っすよ……」



自嘲するかのように笑う。

だがその目は俺から逸らされていた。



「そうだな。俺も1人じゃ辛え時もある」

「…………」

「まっ、その解消する方法もあるがな」

「……どんな」

「てめえで考えろボケ」



んなこと一々聞くんじゃねえよ。

胸倉を放し、降ろす。



「……俺も殺しを昔している。テメエの数とは比べ物にならねえがな」

「…………折り合いをつけたんすか?」

「まあテメエ自身の誤魔化しみてえな考え方だ」



煙草が欲しくなり、火をつけようとするがライターのオイルが切れたようで火が起きなかった。



「あっ、火なら……」



そう言ってどこからかマッチを出す小僧。

差し出された火に煙草を近づけ、火をつける。



「悪いな」

「いえ……」



さっきの言葉の続きを聞きたそうにこっちを見て来やがる。

たっく……



「忘れねえことにした」

「えっ?」

「殺した場所と時期、その手段をだ」



殺しに快楽を見出したわけでもねえ。

だが何も感じなかったわけでもねえ。

それがせめてもの“詫び”だと思ったからだ。

まあ詫びたところで殺した奴らが戻るわけでも、許すわけでもねえ。

テメエ自身の誤魔化しだ。



「ふぅ〜……俺は店に戻る。飯欲しけりゃ冷蔵庫でも勝手に漁れ。じゃあな」

「あ、あの……」

「言っておくが俺の考えを真似たところでテメエの解決じゃねえからな。自分で考えろ。その先が廃人になる道かどうかはテメエ次第だ」



まだ何か言いたそうだったがそれ以上は何も言わねえからな。

たっく……何で飯の食い方言いに来たはずがこんなこと言ってんだか。



ゼストの野郎に今度あったら特別料金請求してやる。











****************************************************









店長に起こされ、何か見透かされたように話をされた。

その間もずっと俺の目を見ていた。

そういえば最初に店に来た時も、俺に質問してきたときも目を見てたっけ……



「折り合いをつける……か……」



確かにそうかもな……

何かしてももうどうしようもない……



「自分を持たせるための誤魔化し……ってことかな……」



ただこの答えを出そうとする時点で、折り合いはついているんだろうな……

それを根拠付ける理由。

多分それが店長の言っていた“折り合い”を付けることになるんだろう……

それが“忘れないこと”……

ただそれでも辛い時はどうするっていうのは……わからん。

これも完璧じゃない答なんだろう。



だけど完璧なものなんてない……



「……俺も俺の折り合いと誤魔化しを見つけなきゃな……」



いつまでもただ悩んでられる状況でもない。

かといって他人を気遣ってる戦いをしている場合でもない。

でも殺したくない。



……本当に矛盾してるよな……



空を眺めしばらく瞑想のように、そのことについて考えるのであった。









                                   つづく









    おまけ





「うわっ、冷蔵庫の中身ビールとかのツマミばっかだし」

「文句言ってんじゃねえよ」

「さーせん……んじゃあこれ貰います」

「おう、無くなったら今度入れ直しておけよ。街の方いきゃ店があるだろ」

「俺表に出るのまずいんですけど……」

「知るか。変装でもなんでもして買ってこい」

「滅茶苦茶言う……」



「おい」

「はい?」

「……まあ少しマシになったか」

「……誤魔化せるよう頑張りますよ」

「知るか。テメエのことはテメエでなんとかしろ」

「……はい」







あとがき





……滅茶苦茶かかった……時間掛かり過ぎだ最近……

実は半分くらい書き直していたりします。(失敗部分は持ったないので投稿掲示板に貼っておきました)

もはやギャグに持って行けるわけがないこの状況。

連載初期はコメディ兼バトルの予定が……Orz

あたらしくゲットした装備、新しいオリジナルキャラ(他の投稿作家のキャラをお借りしました。あえて“店長“とだけで進めます)。

まあ武装はもうこれ以上増えませんが(汗

殺したことに対して“謝罪”というわけではなく、“折り合いをつける”ということにしたケイ。

悪い言い方をするとやってしまったのだからどうしようもない、ということになります。

完璧な答えなんてない。だから自分を持たせるために理由を考える。

向き合うのではなく、誤魔化すことになるのでしょうが、この道を進ませようと思います。



ここまででケイのオリジナル要素ばっかりの話はほぼ終わりです。

次回からは起動六課のキャラも出ます。基本的に原作話に戻っていきます。

次回からは大体原作だと12話くらいのところから始まります。

それではまた次も読んでいただけると嬉しいです。









   Web拍手返信





※お前の世界の価値観で語るなって。覚悟して入った、なのは達ならともかく巻き込まれたケイにそれを言うのは酷なんじゃ。



>確かに酷だと思いますが、早い段階で逃げるという手段を使わないで、

>“戦う”もしくは“戦う力”を選択した時点で覚悟をしないケイにも問題はあると思います。





※ゼスト、お前もルーが可哀想な境遇にい続ける原因のダメ大人の一人だろ?



>うーん、実は自分も最初はそう思っていたのですが、話を書くためにゼストの目的、できる手段を考えると

>ルー自身の保身のためにはああするしかなかったのではないかと思います。





※鬼神化したら管理局なんて一瞬ですよ!!(身丈は高層ビルよりでかいしね)



>ケイ「いやいやそこまでならないから!?」

>ウェンディ「じゃあどこまで?」

>ケイ「さあ……つうか副作用くさいのも少々あるから……」





※いやいやスカリエッティが極悪人じゃなかったら、なのは達くらいしか残らないですよ「笑」

某復讐者の英霊の言葉ですが、人間は他人の体や命を救えても心は救えない。人間は自分しか救うことはできない。

他人の為に他人を救うなんてきれいごとでは誰も救えない。

だがーーーそれでもなお、自分以外のものを救いたいと囀るならーーーせめて、笑いながら救いにいけ。

共有するのは楽だけでいい、苦しみを伴って助けにきても迷惑だ。負の感情を打ち消すのは正の感情だから。

……長々と偉そうな事を言って失礼しました。それでは。



>なんとも深く考えさせられる言葉ですね……

>笑いながら救いに行けという言葉に「笑う門には福来たる」ということわざが繋がってしまった自分はアウトでしょうか?

>というかなのは達は極悪人!? 自分は連載前は正義の魔導師ポジだなーと思いつつ原作を見てましたが、

>今は極悪人というより、世間知らずな馬鹿力魔導師だなーと思っています。

>おそらく今の自分はレジアス派な状況ですね。











作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。