次元犯罪者のアジトに落ちました。見事捕まりました。女の子とおばさんがいっぱいでした。
強かったです。あんなのに勝てません。おかげで実験体扱いで仲間にされました。
解剖とか投薬実験はないそうです。
はあ……六課に行きたい……
時空を駆けちまった少年
第25話
「んっ……」
変な音がして目を覚ます。
まさかスカなんとかが寝てる間に実験してこようとしてるんじゃないだろうな!?
見ると何か機械音のようなものが聞こえる。
「ぎゃああああああああ!?」
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「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「『ふはははははは! 遅い! 亀より遅い! もっと真面目に走れええええええええ!』」
大声が部屋の外から聞こえ私は目を覚ます。
「何事だ!?」
扉を開き声の主を確認する。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「『はーーっはっはっはっはっは! 走れ! 走れ!』」
「ぐおおおお!? てめえ、俺は馬車馬じゃねえんだぞ!?」
「『当たり前だ! 馬車馬の方がもっと馬力とスピードがあるわ! ほれええ! スピード落ちたぞ!』」
「鞭で叩くなあああああああああ! あっ、チンクおはようさん」
「『喋ってる余裕があるのかあああああ!』」
「だああああ! 畜生おおおおお!」
…………………
何だ今のは……
目の前をケイと変な木製の人形が走り去って行った。
木製の人形は鞭を持ってケイの引きずるタイヤの上に乗っかっていた。
「何をしているのだ、あいつは……」
というかどういうスピードだ……姿がもう見えなくなったぞ……ここが暗いのもあるが……
「チンク姉さっきの何だ?」
「いや……ケイが走ってた」
「はあ? あの雑魚。1人で静かに走ることもできねえのかよ」
「いや……あれはな……」
「ん?」
何と言えばいいのだろうか……
「うひょー。結構速いっスね〜」
「いや〜あの顔最高に面白かったね。ウェンディ見逃すなよ」
「任せるっス」
……ウェンディ……セイン……ライディングボードに乗ってまで追いかけて見物するものでもないだろう……
「あの馬鹿2人も何してんだ?」
「はあ……姉も止めに行ってくる」
あいつ……手を組んだとはいえ実験素体で捕まってる自覚あるのか?
頭を片手で押えながらさっき走って行った道を歩いて行くのだった。
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アホな……なんでジジイそっくりな木製人形が出てくるんだ!?
ちくしょおお! 厳しい修行はもう終わってまったりできると思ってたのに!
「フッキン、ハイキン、スバヤクオコナワナイト……ヤケドシマス」
「ぐわああああ! 俺を殺す気か!?」
「 『生かさず、殺さず鍛えてやる!』 コノコトバガインプットサレテマス」
さっき目覚めたら突然収納空間からこの人形が出てきやがった。
そして再生されたメッセージ。
「馬鹿弟子よ。お前はすぐサボりそうじゃからこいつを作った。題して 『修行木偶 Ver トレーニング課題君』 じゃ」
正直言おう。
サボるのバレバレだった!
「オット……ヒノイキオイガ……」
「あぢいいい!」
くっそ! 人形のくせに!
今の俺の状況はどこからか出してきた鉄棒に逆さ吊りにされ、真下で焚き火を焚かれている。
当然熱い。火傷をしたくなかったら腹筋背筋を使って振り子の運動を続けなければならない。
「くそおお! つうか基礎トレきつすぎだろ!」
「『馬鹿を言うな。お前を鍛える間に基礎トレなしで武術教えたんだから後でやるしかないだろう』」
「なんで流暢になるのとならない部分があるんだ!?」
「アラカジメ、セツメイブブン、カイトウパターンヲオンセイニュウリョクサレテマス」
走れとかもそうだったのか!?
「モンクヲイウバアイノカイトウデス 『強さとは熱した鉄と同じ。熱を加えねば冷めるもの。そしてその熱が強さでは……修行じゃあああ!』」
「熱が高過ぎたら鉄は溶けて消えるわあああ!」
腹が! 背中が! つ、つる!
「ココマデデス」
「ぜーーー! はーー……ぜえーーはあーー……」
や……やっと終わった……
「ツギハクミテデス」
「へっ?」
「『どっせいいいい!』」
「ぐぼっほ!?」
ひざ付いて息を整えてるところに蹴りが入りそのまま宙をくるくると飛ぶ俺だった。
「『はははははははは! 油断大敵じゃああ!』」
油断とかそういう問題じゃねえ……
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お〜見事に飛んだっス。
いや〜セインと一緒にケイの叫び声聞いて追っかけてみたら面白いのなんの。
「あれ生きてるのか?」
「さぁ〜」
くるくる風車みたいに回りながら飛んでたっスからね〜
というかあのトレーニングなんスか? ものすっごくキツそうっス。
「セイン、ウェンディ何してる」
あっ、チンク姉とノーヴェも起きてきたっスか。
「いや〜なんかトレーニングしてるっぽいからその見物っス」
「……たこ殴りにされてるだけじゃねえか」
そーなんすよね〜
おっ、反撃の一発出したっスね。
あっ、カウンターで返された。
つうかあの人形動き相当速いっスね〜
「なっさけねえな。あんな人形なんかにやられやがって」
「だが動きは相当のものだぞ」
「アタシ達が本気でやれば楽勝だよ。スピードもパワーもこっちが上だよ」
まあスペックなら固有スキルの能力で個人差もあるけど基本全員高いしノーヴェの言う通りっス。
あ〜また飛ばされてる。
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「デハココマデ。マタアシタ」
そう言って木偶人形は収納空間に消えていった。
う、腕が……足が……パンパンだ……朝からダルイ……
てか明日もって……
「し、死ぬ……」
「おつかれ〜〜っス!」
こいつら……人の苦労してるとこ見物しやがって……
「疲れたどころじゃない。お前もしてみろ」
「お断りっス」
だよな。
「風呂ってどこ?」
「洗浄室のこと? だったらあっち」
「サンキュー」
「洗浄に行くのか?」
「ああ、汗かいたからな」
ベタベタして気持ち悪い。
風呂も入りスッキリ爽快。
とりあえず上がってからストレッチをして……
「しまったーーー!?」
どうする……ない……これをまた……いやそれは意味がなくなる……
仕方ない。借りよう。……あるかな?
「なあ……スカリエッチィ」
「……スカリエッティなのだが」
「スカルエッチィ?」
「……………」
「スカでいい?」
「君実験体である自覚あるかい?」
「あるよ。でもそれより今は頼みがある」
「なんだい?」
「……服かして」
現在の俺の格好。腰に巻いたタオル一丁。
「……流石にその格好は娘たちの教育によくないね。わかった。貸そう」
「あざーす」
服を渡され着て見る。
だがな……
「なんで俺まで全身タイツ!?」
「それしかないよ」
嘘コケ! お前スーツ着てるじゃん! それ貸せ!
「うむ……ジャケットとズボンを上に羽織ればいいかい?」
「……いやもうその2つだけでいい」
結局裸の上にズボンとジャケットを羽織っただけの格好になった。
上半身は裸にジャケットだからちとワイルドな感じになった。
「はははは。その格好だとワイルドな感じなはずなのに君だとそうじゃないね」
「……うわぁ……」
笑われたし。
まあそれは俺も思う。なんというか似合わん。
「ああ、来たついでだ。実験をさせてもらおう」
「……………しないとかなし?」
「なしだとも。何、安心したまえ。君の体がレリックを飲み込んだことでどうなるか自然経過を見ていくだけさ」
じゃあ血液検査とかスキャナーでの検査か?
「まあ今日は血液検査とリンカーコアの検査をさせてもらうよ」
「まあそんだけなら……」
そう言われて六課のときに使ったような機械に入る。
そのさい変なことされないか心配で眠れなかった。
けど実際何もされなかったのでちょっと意外でもあった。
「今日はもういいよ」
「わかった」
マジでこれだけで済むとは……レリックをあのとき飲み込まなかったら今は投薬とかそんなんだったのだろうか……紙一重だ……
そういや腹減った……朝飯まだだったな。
食堂行くか。
チンクの言った場所は……っと。
何度か道を間違えつつ食堂に無事に着く。
しかしそこには先客が数名。
「…………何しに来たの?」
「いや……飯」
「補給か。じゃあそこの適当に取って」
うわぁ……え〜っと……この栗毛の尻尾頭はなんて言うんだ?
ん? 首の番号は……10? じゅうっていう名前? いやそれともテン?
でもチンクとかはそんな呼び名じゃないし……なんて読む?
そんなことを考えながら指された場所から選ぼうとする。
ん? うわっ、これって非常食とか携帯食とかそんなんばっかじゃん!
温かい料理とかねえのか?
よくもまあこんなんばっか食ってるな……栄養面とか考慮してあったにしても味気ない。
けどまあ……こんなんしかないなら仕方ねえ……
適当に一箱選んで持って席につく。
「……………」
俺が座ると10が席をずれ距離をとる。
嫌われてるな〜 まあ当然ちゃあ当然か。
「あのさ……」
「何?」
声もどこか素っ気ない。
「飯ってこんなんしかないの?」
「こんなのっていうのは?」
「いや……もっとまともな料理とか……これって全部非常食系ばっかじゃん」
「?」
なんか不思議な顔された。
……まさかこいつ……
「パスタ知ってる?」
「?」
「カレー」
「?」
「ステーキ」
「?」
料理全然知らねーーー!?
マジか!?
ってことはここの連中ほとんどまともな料理食ってないのか!?
「マジかよ……ありえねえ……」
「……何がありえないのさ」
ムッとした顔で聞かれる。
「だって火の通った料理全然知らねえみたいだし、こんなのばっか食ってるから」
「補給はできるから問題ないよ」
「ある!」
バン! と机を両手で叩き叫ぶ。
それにビックリしていたがそのままこっちを睨む。
「どうあるのさ」
「まず……味気がない! それにうまいもの食えないという最悪の事態だ!」
この二ヶ月何食ってきたと思ってやがる!
狩った獲物の肉を丸焼きにして食えた日はいいけど、狩れなかった日はその辺の木の実や草だぞ!
修行が終わった今、ステーキとかそういうの食べたいと思うのは悪いことのはずがねえ!
「ないものはないんだから文句をいわないで」
「買いに行けばいいじゃねえか」
「管理局に見つかる。私や数人のお姉の顔はこの前知られた」
……買い物すらできないのか!?
「10よ……だからってうまいもの食うのを最初から考えないのは間違っている!」
「10……いやディエチって名前だけど……」
そう読むのか!?
「失敬。あっ、ちなみに俺の名前はケイだ」
「ふ〜ん……」
……リアクション薄いな……
「ま、まあいい……顔が割れてるなら俺が行く。俺は割れてないしな」
「六課の奴が知ってるんじゃなかった?」
「どうせ仕事で街にはいないだろ」
「でもダメだよ。その隙に逃げ出すかもしれないから」
あっ、たしかにできるかも……でも逃げたところで行き先が……
「じゃあ見張りで誰か同行させれば……」
「いや〜腹減ったっス〜」
ちょうどいいタイミングで来たな。
「こいつとか」
「ウェンディを? まあ確かにまだ顔が割れてないけど」
「何の話っスか?」
とりあえず説明。
「ケイ料理できたっスか!?」
「ん? …………まあな」
ま、まあ家庭科で何度か作れたし大丈夫だろ……
「いや〜アタシもここの食い物飽きて飽きて仕方なかったんスよね〜。これで我が家にも温かいご飯が……」
「ウェンディは外で補給したことがあるの?」
「セインもあるっスよ。他の姉妹はみんなお固くて外の物任務だとか言って食わないんスから」
あ〜成程。
「じゃあ行くぞ!」
「おー!」
「ドクターの許可取りなよ」
スカの許可を取ってそのまま街に向かう。
俺が言っても大して効果なかったがウェンディの熱弁と甘えとワガママで押し切られやがった。
金もしっかり徴収。けど札束がものすごく厚いのにはビビった。
こいつ意外に親馬鹿だったのか……
送りはセインにさせられた。
俺にアジトの正確な位置を知らせないためと一番安全な方法だとか。
セインのスキル、ディープダイバー。
まあ便利なのは便利だけど……モグラみたいなイメージが離れなかった。
セインに送られ無事到着。
大型スーパーに来て買い物をする。
メニューは何にするかな……とりあえず野菜系を適当に……それと肉と……スパイスと……
……やべえ。全然文字が読めねえから値段とか種類が……
「ウェンディ……ってあれ?」
いつの間にかいねえ。
「ふっふふ〜ん♪ おっ菓子〜おっ菓子〜♪ 大量っス〜♪」
「ぶっ!」
何カゴいっぱいにお菓子を詰め込んで持ってきてる!?
「こ〜れ買って♪」
くる〜っと一回転して両手で持って前に突き出す。
「よし、買って帰ろう」
そのまま受け取りカートに乗せる。
どうせ俺の金じゃねえしいいや。
それにミッドのお菓子あんま知らねえから食ってみたい。
「俺文字読めねえから値段と種類教えてくれねえ?」
「いいっスよ〜。あっ、これレタスっス」
「地球の野菜もあるのか。ならそういうのを買っていこう」
下手に異世界のものに手を出して失敗はしたくない。
そんな感じで肉やら調味料などもカートのカゴに入れレジに。
だけどレジの人が俺の格好を見てやや引いた。
……まあこの格好じゃな……
金の残金いくらだ?
うむ、結構あるな。
「ウェンディ。少し服買いたいから服屋よっていいか?」
「服? アタシ達が普段着てるのでいいじゃねえっスか。お揃っス」
あんな恥ずかしいの着れるか。
「断る。俺にあんなの着る趣味はない」
服屋に到着。
そのまま適当に何かシャツやらを見る。
う〜ん……どれも高い……それにあんまシンプルじゃない。
ん? あの店は……
目に着いた店に行く。
「どこ行くっスか?」
「あの店」
「……スポーツショップ?」
そのままスポーツショップに入る。
お〜すげえ。流石世界がたくさんあるだけあって道具の種類も多いな。
ていうかどういうスポーツの道具かわからないものまであるし。
え〜っと服コーナー服コーナーは……あった。
「うひゃあ〜色々あるっスね〜」
ウェンディは道具の方を見に行った。
まあ俺は俺の方で色々見させてもらおう。
おっ、このシャツ生地結構通気性よさそうだな。
ん? こっちは動きやすそう。
これとこれと……あとこれにしよ。
「ありがとうございました。またお越し下さい」
ふう、買った買った。
服を着替えたいからそのままトイレに行って着替える。
さて、ウェンディのやつはどこ行った?
おっ、いたいた。
「おーい、帰るぞー」
「了解っス。ってその服何?」
「何って……ジャージじゃん」
ちょっとダボっとした感じの紺色のジャージ。
下は無地の半袖の白シャツ。汗の吸収や乾きが早いスポーツ向きのシャツだ。
通気性も中々いい。
「……ダサいっスね」
なんかジト目で呆れたように俺を見るウェンディ。
ダサいってお前……
ちなみにウェンディの服装は青のジーンズにへその見える白のノースリーブ。
ラフな格好だけどこいつスタイルいいから結構似合ってる。
いや、まあ確かに並んで歩くには変な格好の組み合わせになるな。
「これが一番落ち着くんだよ」
「……まあいいっスけど。それより早く帰って飯っス飯!」
おお、そうだった。
さっさと帰って飯を作らねば。
あっ、いっけね。こいつのとこ調理道具一式あるのか?
「調理道具あるのか? フライパンとか」
「ねえっス」
……買い物で半日潰れるなこりゃ。
続いてホームセンターに来る。
ウェンディは見たことないようでかなり興味深げだ。
「あれ? お前街結構見てるんじゃ?」
「こーいうとこは見てねえっス。大体遊ぶとこか服屋っス」
なるほどね。
「というわけでまた見てくるっス!」
両手をきーんという感じで広げ走り去っていく。
さて、俺はフライパンに鍋、包丁その他諸々を……
台所用品をいくつか見て回っているうちにある物が目に止まる。
…………これ買おう。
となると……これとこれ。
あっ、これもだ。
う〜ん……これは……うん。これも使えるだろ。
料理とは関係ないものを結構大量に追加する。
まあ役に立つかどうかは別なものだが……
その後またレジで会計を済ませてウェンディと合流。
両手に何やらわからんが色んなものを抱えて登場したのはビビった。
「買って」
にっこり笑って差し出す。
「却下」
にっこり拒否。
「なんで!?」
「金が尽きた」
ごめん。俺の買い物で相当、つうか大部分消えた。
だからしぶしぶ戻してくれ。
「うう……ドクター……お小遣い足りないっスよ……」
いやしぶしぶ戻してるのはいいけど……あの金額で少ないとか抜かすって金銭感覚おかしいぞ。
やっぱこいつらどっかで一般常識抜けてるな。
というか社会勉強しねえとだめじゃねえのかこれ。
その後セインと合流してそのままアジトに戻る。
ただそのとき。
「……着替えとか買っておいて、なんでジャージ?」
「いいじゃねえかよ別に」
「他のもジャージだったら笑える」
軽く笑いながらそういうセイン。
「あはは、流石にそれはねえっスよ」
同伴しながら笑うウェンディ。
「……いや寝巻のスウェットとジャージしか買ってない」
「「…………」」
かなり呆れた目で見られた。
……えっ? 俺って変なの?
無事というかなんというか形容しがたいがとりあえずアジトにカムバック。
さて調理開始だ!
とりあえず流し台とコンロはあったので問題はなかった。
食堂の裏側にあったのはあった。
誰も使った形跡はなかったけど。
あるなら使えよ。
「何を作るの?」
興味があるのか帰ってきたら食堂で待ってたディエチ。
「ハンバーグと味噌汁」
家庭科の授業で作ったのをうろ覚えでだけど作ってみよう。
とりあえずまずは玉ねぎを刻んで……
「………………」
「やってみるか?」
「……いいの?」
「どうせだ。どっちがうまいの作れるか勝負だ」
「私は作ったことない」
「大丈夫。俺もほとんど作ったことがない」
ん? しまった。俺はうろ覚えのレシピ。
こいつはまず料理すら知らないんだった。
どうしよう。
「ウーノ姉。ハンバーグのレシピデータお願い」
空間パネル開いてお願いしてるし!?
「うん。これでいいよ。手順通り作れば問題ないね」
「ふっふっふ……」
笑い出す俺に怪訝な顔を向ける。
「……何?」
「隠し味というものがどういうものか教えてやるぜ」
手順だけじゃすげえうまいものは作れないんだぜ……
どういうもの入れればいいかは知らないけど。
まあ……マンガみたいな失敗なんざ起る筈もないさ。うん。
「じゃあ……レディ……ゴー!」
「イテッ……指切った」
「次はひき肉を……」
「俺まだ玉ねぎ切ってしかいねえのに滅茶苦茶速っ!?」
*****************************************
ふう……できた。
料理なんて初めてだったから気苦労も多かったけど……中々おもしろい。
スープも作ってみたけどこの実験素体の言う味噌汁というものがわからなかったからコンソメスープを作った。
……いつもの食事と違っていい匂いがする。
食欲もすごいそそられる。
これが火の通った食べ物……
「お前作るの速すぎ!」
あっちは文句言いながら肉を焼いている。
本当に遅いな。
料理中に指を3,4回切ってた。
本当にあいつは作ったことがあるのか?
まあいいやお姉達に食べてもらおう。
味見もしてみたけど……不味くはないと思う。
「なあ……そのハンバーグ何人分?」
「一応姉妹全員分」
「…………俺これからも買いに行くの苦労すると思って2週間は余裕で持つ量買って来たんだけど……」
「えっ? 1日分じゃなかったの?」
大皿5枚にできたハンバーグの山を見てそう言ってくる。
けどこのくらいは本当に1日で補給してるんだけど……
「……まあ、いいや。先に食べててもらえよ。俺のまだかかるし」
「そのつもり」
時間も丁度みんなが補給に来る頃合いだし。
調理場から皿を持って出るとみんな既に座っていた。
「おー! ディエチ! できたのか! 早く食べよー!」
セインがハンバーグを持って出てきた私を見て急かす。
私の作った分とスープを配り各自補給をする。
「うっめええっス! いや〜ついに我が家で温かいご飯が……」
「本当だな。確かに美味だ」
「ふむ……外の食べ物を口にすることになるとはな……だが悪くない」
結構好評だった。
私も食べてみる。……うん、おいしい。
自分で言うのもなんだけど結構うまくできたかな。
「さっきデータを欲しいと言われて不安だったけど……うまく作ったわね」
「ウーノ姉がデータを送ってくれたからだよ。ありがとう」
「う〜ん。おいしいわ〜ん」
クアットロも食べるのは意外だったけど……
けどよくよく考えると欲望には忠実な機人だから食欲に従ったんだと思う。
「………」
「おいしくない?」
「……いや……うまいし、これからも補給したいと思うけどさ……」
ノーヴェが少し顔を赤くして目線を逸らす。
「……あの雑魚の発案なのが気に食わない」
その言葉でちょっと部屋の空気が悪くなる。
セインとウェンディはまったく気にしていないけど。
「何だい? このいい匂いは……おや、料理を作ったのか。誰が作ったんだい?」
「私」
ドクターが匂いにつられてやって来た。
いつもはラボの方で食べてるんだけど……向こうの方から来るのはちょっと予想外。
「どれ、私も1ついただくよ」
そう言ってゆっくりと食べるドクター。
「ほう。中々おいしいじゃないか。ディエチは料理の経験はなかったと思うのだが……才能を持っているのかな」
「才能? 固有スキルだったらドクターも知っての通り……」
「いや、それとは少し違うんだが……まあ、君達がIS以外に持っている特技と言えばいいのかな……」
ドクターの言ってることがよくわからないけど……
私の得意なこと……それが料理だってことかな。
「しかしまさか娘の手料理をいただけるとはね。昼間にケイクンが言い出した時は悩んだが……嬉しいものだね」
そういえばよく外出許可を取れたな……
「まあ色々彼個人の欲もあったが最後の『あんた娘の手料理食いたくないのか? これがきっかけで作るようになれば食えるんだぞ』という言葉に負けたよ」
……なんというかすごい理由だ。
「父親として愛しい娘の手料理を食べたいと思ってしまうのは仕方ないことだよ」
狂気の天才科学者って呼ばれてるけど、こういうところは人間臭さい人だな。ドクターって。
「でもよー……あの雑魚の発案なんだぜ?」
「ではノーヴェは今日でお終いにしたいかい?」
「……それも嫌だ」
私もこれから先、また料理したいと思ってるからそっちの方がいい。
「うまいからこれから手料理食うでいいんじゃねえの?」
「そーっス! ていうかアタシ達はかなり前から言ってたんだから拘るとこじゃねえっス!」
お気楽組の思考は単純だな……
「まあいいのではないか? 補給も味のいい方が姉は嬉しい」
「ああ。別段害悪のあるわけでもないしな」
「私もちょ〜っとあのクソ餓鬼はうざったいですけど〜。おいしいものは食べたいですわん」
お姉達も賛成か……私の作ったものでこう言ってもらえるのは嬉しいな。
「ウェンディ〜」
ひょっこりと実験素体が調理場から出てくる。
「ん〜? 何スか?」
「お前の持ってたお菓子袋にネギなかった?」
「ネギ?」
「あ〜……こう……細長いの」
「あ〜! なんかあったかもっス」
「欲しいからちょっと取ってきてくれるか?」
「じゃあ一緒に取りに行くっス」
そう言って席を立つウェンディ。
というかまだできてなかったのかこいつ。
「どうだい? 出来具合は」
「おう。任せろ。ディエチに負けない出来だぜ……………多分」
自信満々に負けないとか言いながらつまみ食いしたら多分って言い出した。
……うん。勝った。
「み、味噌汁で挽回してやるからな!」
そう言ってウェンディと食堂を出て行った。
あんなに自信満々に言うなんて……味噌汁ってどんな味だろう。
「……あれ? クア姉、調理場から出てきて何してたの?」
「セインちゃん。細かいことは気にしちゃだめよ〜ん。あっ、それと〜ちゃんとあのクソ餓鬼に味見させてから食べることねん」
実験素体が出て行ったと思ったらいつの間にかクアットロが調理場に行ってたようだ。
何をしてたんだろう?
そしてクアットロはお腹がいっぱいになったからもういらないと言って食堂から出て行った。
ドクターも同じでこれから実験もしたいし、私の料理食べれたから満足だと言って、ウーノ姉と一緒に出て行った。
他の姉妹達はまだ食べると言って残った。
「すまない。少し席を外すぞ」
どこ行くんだろトーレ。
********************************************
いや〜時間かかった〜
うろ覚えで作ったせいだなこりゃ。
ウェンディのとこにあったネギを切り、できた味噌汁に添える。
うっし。できた。
「さあ食え!」
あり? 数名いなくなってるし。
なんでだ?
「ああ、ドクターにウーノ、クアットロはもう満足だからいいそうだ」
……まあスカがどれだけ食ったかは知らんが……
普通に50人前は全員で食ったな絶対。
これでも足りないとか……食費どうなっているんだ?
ちなみに俺は普通に1人1つ分だけしか作ってない。
「じゃあいただきます」
この場にいるメンツだけで食べる。
俺も食べてみる。
……うわっ、このハンバーグ微妙……
「「「「「 ……………… 」」」」」
全員1口食べて押し黙る。
というか全員やや顔が青ざめてる。
俺も少し顔から血の気が引いた……
「お、ごめんっス……アタシはもういい……」
「アタシも……」
赤毛の2人がフォークをテーブルに置く。
俺ももういい……
自分で作っといてなんだが……
「私の勝ちだね」
「………負けた」
料理初めて、しかもついさっき火の通る料理がどんなものかわかったような奴に……
「なあ……こっちもすっげえ不安なんだけどさ……」
セインが味噌汁を恐る恐る見る。
馬鹿な。そっちは大丈夫なはずだぞ。
味見もちゃんとしたぞ。
「じゃあケイ飲んでみて」
んだよ。信用ねえな。
って元々ねえんだった。
「ずずず……ほれ、これでいいか? ちゃんと普通の味だぞ」
まったく。こっちの方はちゃんとできてるって言っただろうが。
「クア姉がちゃんと味見させて食えって言ったから……つい不味いのかと……」
「さっきのも不味かったしな」
……あのメガネババアめ……
まあノーヴェの言ったこともあるから反論はしないでおこう。
「まあいいや。ディエチ、ハンバーグは負けたがこっちはどうだ」
「それじゃあ……いただきます」
「「「「「 ぐびっ 」」」」」
ディエチの合図で全員で同時に飲む。
……うん、やっぱ結構うまくできてる。
これなら全員納得……
ドサ ドサ パタ ドサ ドガア!
ナンバーズの席から音がしてそっちを見ると全員倒れてたりテーブルに突っ伏してた。
チンクは完全にテーブルにキスしてる状態。
セインは顔が横になって青い顔で気絶。
ノーヴェは横にぶっ倒れてる。
ディエチは腕を枕にしたような感じで気絶。
ウェンディは真後ろにぶっ倒れてた。
えええええええええ!? なんで!? 結構うまくできてるじゃねえか!?
なんで気絶を!?
「お、おい! どうした!? しっかりしろ!? くっ……何でだ!?」
そんな馬鹿な!?
ん? なんだこの気配は!?
鍋の方からいきなり気配を感じ、そちらを見る。
「んなっ!?」
鍋の中身の味噌汁が増量してる!?
しかも火に掛けてるわけじゃないのに沸騰してグツグツしてるし!?
そしてその中身はそのまま宙に浮きだす。
一体なんじゃこりゃあ!?
ぐにょぐにょと形を変えながらスライムのような状態に変化して行く。
きしょい!?
そしてそれはだんだん人の形に近づき……
「……我はMISOSIRU……味噌汁にして味噌汁に非ず……」
なんか物体Xが生まれたーーーー!?
てか人型なのはわかるけど目とかないし!? あれだ! ターミ○ーター2の液体金属がちゃんと人肌再現してないような感じだし!?
「我を食させるとは……愚かな……死ぬぞ……」
「ちょっと待てええ!?」
俺なんともないんだが!?
「流石、我が創造主」
「いや誉められてる気がしねえ!?」
「まあいい。急いでこの者たちから吐き出させねば……」
そう言いMISOSIRUは気絶してる奴らを介抱し出す。
しかし突然扉が開き
「……な、何者だ貴様!?」
Vとナンバーが書かれた……えっと……ムチムチ姐さんがやってきた。
やばい!? この惨状をどう説明すればいいんだ!?
「貴様……妹達に何を……」
「落ち着かれよ。まずは介抱をせねばなら……」
「その首貰う!」
腕にエネルギーの刃を発生させ攻撃を仕掛ける。
だがMISOSIRUはそれを横に移動することで簡単にかわす。
いや、これは……
ムチムチ姐さんがMISOSIRUを攻撃しようとしてかわされ、通り過ぎた瞬間エネルギー刃が砕け散った。
「なっ!? インパルスブレードが!?」
速い……あの一瞬で肘打ちと膝打ちで刃を砕きやがった。
なんて芸当を……
「落ち着かれよ女人。我は別に敵対の意思は」
「黙れ! ISライドインパルス!」
ムチムチ姐さんが光に包まれ高速で部屋中を跳ねる。
高速で動いて撹乱、攻撃か!?
そしてその光はMISOSIRUの真後ろの壁から跳ね突進をする。
あの速度じゃかわすのは……
「覇っ!」
「ぐはあっ!?」
嘘ぉ!? 真後ろからの攻撃を避けて、しかも高速で通り過ぎようとしたムチムチ姐さんの背中に思いっきり両手を組んで叩きつけた!?
姐さんはそのまま床に叩きつけられて気絶した。
「ふう……我に敵対の意思はないというのに」
な、何者だこいつは!?
なんという体捌き……
「さて……ではこの者達から我を吐き出させねば」
両手をかざすと飲んだ奴らの口から味噌汁が出てきた。
……俺の味噌汁は毒物だったのかのように思わせられる光景だ。
「これで大丈夫だ。……先ほど気絶させた女人もじき目を覚ます」
「おい……お前は一体……」
何者かと聞こうとすると
「すまない創造主よ。3分経った。我はこれで消える。さらばだ」
「はっ?」
いきなり人の形が崩れ出し、液体になる。そしてそれはそのまま空になっていた鍋に飛び込みただの味噌汁に戻った。
……
………
…………
何だったんだ一体!?
その後無事全員目を覚ました。
全員なんで気絶したかは覚えていなかった。
う、運がよかった……毒でも盛ったとか言われて殺されるかと思った……
ただ全員から
「「「「「 お前はもう料理をするな 」」」」」
と言われた。
覚えていないはずなのに……本能が覚えていたのか?
とりあえず俺は調理場に立ち入り禁止とされた。
その後いつの間にかディエチが毎食料理を作るということになり、味気のない冷凍食品や保存食のような食事はなくなった。
俺がいない間に決まったようだが……まあいいか。うまいもの食えるんだから。
また、覚えていたと思っていたムチムチ姐さんはというと
「貴様! あの物体は何だったのだ!」
「知りませんですマム!」
「嘘を吐けえ! 貴様と一緒にいたではないか! あれは貴様の仕業だろう!」
「違います! 自分も分かりません! とにかく介抱してただけであります!」
「首を飛ばすぞ!」
「本当です! いきなり鍋の味噌汁が謎の物体Xになってたんです!」
「あれが貴様の料理だったというのか!?」
「イエスであります! というか普通に作ったのになんでかああなって……毒は盛ってないないです! 誓って盛ってませんです!」
「……嘘ではないようだな……まさかクアットロ……あの時……そうか、そういうことか」
「はっ?」
「まあいい……貴様、もう一度あの料理を作れ」
「いや……禁止されて……」
「では製法を教えろ! いいな!」
「イエス! マム!」
絞め上げられて尋問された挙句勝手に納得された。
しかも禁止されたことを伝えたら首筋にまた刃突き付けられた。
怖くてイエスしか答えられんかった……
数日後調理場で爆発を起こしたムチムチ姐さんがディエチから閉め出され、俺と同じく立ち入り禁止にされていた。
何があったんだ一体……
つづく
おまけ
「クアットロ。あの実験素体の料理に入れたものを全部出せ」
「あらん? わかりました? どう苦しんでいましたん? あのクソ餓鬼」
「……はあ、何を入れたか知らんが……効果はなかったぞ。他の妹達が飲んでしまって大変だったのだぞ」
「……嘘……ちゃんとクソ餓鬼に飲ませてから飲めって言ったのに……」
「幸い全員無事だが二度とするな」
「くっ……わかりましたわん……ところで何で薬を?」
「……それは聞くな。妹達には内密にする代わりだ」
「わかりましたわん。そこにあるドクターの失敗した薬を適当にぶち込んだだけですわ」
「……容量は?」
「そこまでは覚えてません」
「……まあいい……自分で試す」
「……何をです?」
「聞くな。いいな」
あとがき
数の子との同居生活スタート!
まずは食生活ということで料理話としてみました。
なんというか最後はやり過ぎた感が作者自身にもあるのですが……あえて逝ってみました!
連載時からここの部分になったらハチャメチャしてみようと思ってたのでやってしまいました。
最初の方だと主人公がそのハチャメチャに耐えられなさそうだったのでできませんでした。
こっから先の話はしばらくこんなハチャメチャかもしれません。
Web拍手返信
※ナンバーズの年上な方々を平気でおばs(ryやらバb(ry発言とは……ケイ、なんて恐ろしい子!?
ケイ「大変失礼しました」
ウーノ「……次はありません」
クアットロ「そーですわん」
ケイ「メガネには言ってねえ」
クアットロ「殺すわよん?」
ケイ「やるかコラぁ?」
※「時空を駆けちまった少年」一気に読ませていただきました。面白かったです。あとケイのレアスキルは作中でメタモンみたいなものという説明が
ありましたが、名づけるとしたら「最適化」とかですかね?
外からの情報を自らの肉体に最適化するみたいな。レリックも何のリスクなしで完全融合してそうですね。これからも頑張ってください。
ありがとうございます! まさか一気読みまでしていただけるとは……
最適化という言葉だとなんか固いなと思い細胞が変化するのでメタ○ンとさせていただきましたw
レリックはどうなるかはまだ結構先ですね。
※そういえば今のところすずかはケイの血の味を気に入ってるみたいで、なんとなく異性としても不可はない感じに見えますが、
発情期の際にあっちゃったりしたら二重の意味で喰われません?
まさか先読みされるとはww
でも実はすんなりそうなるわけではありませんw
あと3,4話先くらいでその読みがやや斜め方向に向けるかもですw
※アイテムが全くなくなったのが残念ですね。是非とも刀か銃を使ってほしかったです。
あはは(汗) まあちょっと厨二設定気味と判断されたのでなくなりました(汗)
※ケイにピッタリな刀を発見、それは緋炎、刀自身が炎を宿しているので魔力を使わなくても使えます。
ケイ「お〜……かっこいい……」
アギト「炎の威力上がりそうだな」
ケイ「いいなこれ。是非欲しい」
謎ジイ「そんなもんどうやって手に入れるんじゃ」
ケイ「…………ない?」
謎ジイ「ない」
※ノーヴェって戦闘系の中で下から数える方なのに、そんなのに苦戦している様じゃダメだな、本気出せばどうこうって完璧な負け犬ゼリフだし。
ケイ「負け犬……」
ノーヴェ「まあ雑魚なのは間違いねえ」
ケイ「まだ奥の手はあるんだぞー! 本当なんだぞー!」
ノーヴェ「黙れ。それが負け犬思考だってつってんだよ」
ケイ「………」
※バトミントンラケット復活ッッ!バトミントンラケット復活ッッ! それとレディにおばさん呼ばわりは怒られて当然ですw
この武器?だけは外せませんでしたw
オバサン呼ばわりはもう二度とできませんw
※4話の誤植です。虚数空間はリラックの海ではなくディラックです。
あざーす! ……あかんな……完全にリラックと聞こえていました。すいません。
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