「おい、時覇(ときは)」

 午後の授業も終わり、片づけをしている時に、クラスメートが声を掛けてきた。
 服装はだらしなく、一発で不良だと判る。

「なんだ?」
 横目で相手を確認して、返事を返す。

「今度さ――」
「断る」

 即答で答え、黙々と片づけを続ける時覇。

「まだ何も言って――」
「金だろ。お前らに支援する金など無い」

 と、言い放ち、教科書を鞄に入れて席を立ったが、先の男が回り込んできた。そして、廊下から入ってきた男が、先の男――不良Aと並んで立ちはだかる。

「いいじゃねぇ〜かよ。付き合えよ、と・き・は・く・ん」

 なめ腐った態度で言う不良A。

「金くらい、いくらでもあるんだからさ〜、ちょっとしたボランティアのつもりでさ」

 チャラチャラした服装の不良B。
 しかし、時覇は無視し、二人の間を割って抜けようとしたが、新たに三人目が現れた。
 この状況に、呆れる時覇。
 それを知ってか知らず、三人は上手く牽制して、他の生徒たちに見えないように包囲していく。
 そして、三人目の不良Cは、左ポケットからナイフの様な物を取り出して、ちらつかせてきた。
 だが、時覇は勢いよく窓際に走り出した。

「ちょっ、待てよ!」

 その後を追う三人。
 時覇は、開いている窓から、

「おい、ここは三階だぞ!」

 外に出た。
 その言葉に、クラスに残っていた生徒が一斉に振り向いた。
 そう、時覇は飛び降りたのだ。
 慌てて三人の不良が外を覗く。それに続きて、クラスに残っている生徒も覗いた。
 だが、その下には何も無かった。
 どんなに身体能力が高い人間が、三階からコンクリートなどの固い地面に、何の装備も準備も無しに飛び降りれば、子供でも分かる図式だ。運が良くても足にヒビは入ってもおかしくは無い。下手すれば、今覗き込んで見ている場所は、一面血に染まっている。
 しかしそこには、業務担当の先生が腰を抜かし、座り込んでいるだけだった。





「――そして、ここの事について……」

 誰かを指名しようとしていたが、途中で学校全体にチャイムの音が鳴り響く。

「っと、今日はここまでね。このまま連絡事項を言います」

 先生は、今後の事に付いてと簡単に話した。

「では当番、号令をお願い」
「はい、起立――礼――さようなら」

 授業も終わり、皆チリジリに教室を出て行く学生たち。
 はのはも、カバンに教科書などを手早くしまい、席を立とうとしていた時だった。
「なのは、一緒に帰ろう」

 アリサの声が、背後から聞こえ、そこにアリサとすずかがいた。

「ごめん、すずかちゃん、アリサちゃん、今からお仕事があって」

 片手を顔の前に立て、ごめんのジェスチャーをするなのは。

「じゃあ仕方が無いか……フェイトとはやても仕事なの?」

 他のクラスにいる、二人の友達の名前を上げる。

「うん、なんだか緊急に集まって欲しいんだって」

 少し畏まった状態で言う。

「ふん〜、まっ、詳しいことは今度聞くから、頑張っておいで」

 拳を突き出すアリサ。

「頑張ってね、なのはちゃん」

 満面の笑みで言うすずか。
 今から仕事に行く友人に、エールを送る二人。

「うん!」

 笑顔で返すなのは。そして、鞄を持って席を立つ。

「じゃあ、行くね」

 と、教室を出て、先に廊下で待っていたフェイトとはやての三人で、屋上に向った。





 時覇は、あのあと素早く下駄箱で、靴を履き替え、商店街を進んでいた。

「ふう……すまないな、ドゥシン」
 長年の付き合いがある黄色いリングの中央に緑の水晶が付いた、グローブの甲に装飾品として取り付けられていた相棒に礼を述べる。
 そして、それに答えるかのように、グローグの甲の部分に黄色いリングの中央に緑の水晶が付いた装飾品が輝いていた。
 どういう原理だか知らないが、このグローブの装飾品が輝くと、ケガや病気が早く治る。

「よお、時覇」

 後ろから声が掛かる。

「ん……欄間(らんま)か」

 少し低い声で、友人の名前を言った。
 クラスメートの欄間もとい、礼羽 遜真(らいま そんま)がいた。
 一応彼は、中国人であるのだが、どうも日本人臭い男である。

「お前まで言うようになったな」

 少しゲンナリとした顔をする欄間。
 本人は、このあだ名は気に入ってなかった。

「時覇、まだ持ってたんだ、そのグローブ」

 欄間が、時覇が手にはめているグローグを見ていった。

「ああ、これは俺の大切な存在だからな」

 そのグローグは、甲の部分を見せた。

「しっかし、変わったグローブだな〜それ……いつから身に付けているんだ?」
「そう〜だな……かれこれ11、12年以上の付き合い、かな?」

 グローブの装飾品を、撫でながら答えた。
 そこで、風に乗せる様な声が耳に届く。
































『見つけたぞ……失われた拳――ロストフィスト』
































「ん?」

 時覇は辺りを見回した。
 が、自分たちを見ている人は、見当たらなかった。

「どうした、時覇?」
「いや……、誰かの声が聞こえたような気がしたんだが……気のせいだ」

 と、自分の懐から音楽が流れた。

「今時マツケンサンバは無いだろう」

 苦笑する欄間。

「黙れ」

 と、言いつつ懐から取り出し、画面を確認する。
 どうやらバイト先からの電話だった。

「別にいいだろ――はい、もしもし」
『早乙女スタンドの松田だ』

 相手は、バイト先の店長の松田だった。

「店長、今日はどうしたんですか?」
『すまないが、今から出てきてくれないか?』

 いつもより、畏まった声で尋ねてきた。
「? 別にいいですけど……どうしたんですか?」

 さすがの時覇も、この異様な変わり具合に、少々戸惑いを覚える。

『……うちのスタンド……今日限りで閉店することになった』
「はあ!?」

 衝撃の事実に、驚きの声を上げる。
 隣に居た欄間も驚いた。

『と、言う訳だ。最後だから、来てくれ』
「……わかりました」

 どう言う訳かわからないが承諾する。

『じゃあな』

 三秒待ってから、電話を切る時覇。
 そして、終わったと同時に、どこか沈んだような雰囲気を放つ時覇に、どう話を掛けたらいいのか迷う欄間。
 だが、ラチがあかないので、勇気を出して声を掛けた。

「ど、どうしたんだ?」

 その問いに時覇は、ゆっくりと振り向きながら言った。

「また店が潰れた」

 固める欄間。
 気まずい雰囲気が、二人と周りの空間を飲み込んでいく。

「じゃ、今から最後のバイトなんで……いくわ、俺」

 考えても埒が明かないため、時覇が切り出した。

「そ、そうか……頑張れよ」

 トボトボと帰る時覇の背中を、ただただ見ているしかなかった欄間だった。

「確か……アイツが勤めていた所、これで五件目だっけ?」





「失礼します。高町なのは二等空尉、フェイト・T・ハラオウン執務官、八神はやて特別捜査官をお連れしました」

 男性オペレーターを先頭に、三人を会議室に連れてきた。

「ご苦労だった」
「では、私はこれで」

 そのまま出ていく男性オペレーター。
 なのはたちは、それぞれ開いている席に移動し、席に座る。

「これで全員揃ったようだな」

 クロノは全体を見回し、全員揃ったことを確認してから言った。
 後ろには、リンディ、レティ、エイミィの三人が居るが、確認するまでも無い。

「まずは、急に呼び出してすまない」

 そこには、先ほど来たなのはたち、守護騎士、他の部隊から来たと思われる数名のランクの高い魔導師が、それぞれバラバラに席に座っていた。
 既に、豪華なメンツが揃っている為か、自然と緊張した空気に変わり始めてきた。

「ええよ、それがこの仕事なんやし」

 はやてが、クロノは悪くないと言う。

「ああ、その通りだな、はやて特別捜査官」

 濃い緑の髪で、クロノより少し体格の小さい、ランガ執務官も同意した。

「すまない、二人とも……今回は管理局の中でも……機密の高い任務であることを伝えておく」
「機密の高い任務?」

 なのはが、首をかしげながら言った。
 その言葉に同意するように、皆困惑する。

「そうだ、今回の任務は――」
「それについては、私から言います。クロノ提督」

 クロノが後ろを振り向いた。

「リンディ提督」

 顔を向けてきたクロノに頷く。

「エイミィ管制司令官、例のファイルを」
「了解しました」

 エイミィは、手際良くファイルを展開する。
 そして同時に、各席にデータが展開されていく。
 展開された内容は、色々なデバイスに、ロストロギアらしきデータなどが映し出されていた。

「あの、このデータはいったい?」

 冷たい印象を持つデュナイダス捜査官が、リンディ提督に質問をした。

「これは、ある犯罪組織から送られてきた……ロストロギアのデータとその使い方です」

 その言葉に、リンディ、レティ、クロノの三人以外の全員が驚いた。
 エイミィも、このデータと説明は事前に教えてもらってなかった様だ。

「なんで犯罪組織からデータが送られてくるんだよ」

 デスクに肘を付き、顎を支えていた状態で言い放つ。

「こら、ヴィータちゃん」

 すぐさまシャマルが、ヴィータを叱る。

「ええ、確かにヴィータ特別捜査官の言う通りです」

 少々暗い顔で答えるリンディ。

「詳しい説明は、これから行う。リンディ提督」

 変わりにクロノが言い、リンディに言葉のバトンを渡す。
 息子からの、言葉のバトンをしっかり受け取り、暗くなった雰囲気を吹き飛ばす。
 そして、全員を見回してから、口を開いた。

「今回は、その犯罪組織・ラギュナスの壊滅と、ロストロギアの回収です。そして……」

 リンディが一区切り置いて、口を開いた。

「桐嶋時覇の確保です」





 早乙女スタンドは、忙しくも無く、かといって暇でも無く、仕事をこなしていた。
 小さいガソリンスタンドだが、それになりに評判はいいのだが、何故潰れることになったのか、疑問に思いながら、仕事を淡々と行う。
 カードを受け取り、給油をし、洗車・点検・窓を拭くかを尋ね、灰皿・ブレーキランプを確認する。
 最後に満タンにし、キャツプ・ロックを確認後、カードとレシートを渡す。
 そして、誘導。

「ありがとう〜ございました〜!」

 最後の客が出て行った。
 そして、出入り口をロープで閉める。

「時覇、今日で終わりだ、お疲れ」

 店長の松田さんが、声を掛けてきた。

「お疲れさまです店長……ところで閉店が決まったのは何時頃ですか?」

 先ほどまで気になっていた事を、躊躇いながらも尋ねた。

「昨日」

 看破も躊躇もする事無く、即答で答える店長こと松田さん。

「な、何でですか?」

 引きつった顔で聞く時覇。

「俺が競馬で負けたから」
「お前が原因か!」

 即コブラツイストをかます。

「あだだだだだだだだだだだ!」





 その頃、サービスルームでは――

『お前が原因か!』
『あだだだだだだだだだだだ!』

 外のやり取りが聞こえる。

「何やってるんだ、あいつらは?」

 と、缶コーヒーを飲む従業員の飯塚。
 ここの店舗が潰れると聞いた時、最後まで残っていた店員の一人。

「どうせ、また店長が時覇に技掛けられているんでしょ」

 今日の集計をしている木本。
 最近転属して来たばかりだったのに、再び転属となった事のグチを、時覇が時折聞いていた。

「でも、今日であの馬鹿が見られなくなるとは……、少々寂しい気がするな」

 帰り支度が出来ていたバイトA。
 あと、バイトが二人いたが、既に上がった後である。
 それぞれ思いふける三人だったが――

『はあぁぁぁぁぁぁ!』
『うらぁぁぁぁぁぁ!』

 金属音が鳴り響き始めた。
 それを聞いた三人は、大慌てで飛び出していった。
 そこでは――

「せいっや!」

 右手に装備された使用済みワイパーを逆手に持ち替え、そのまま斬りかかるもとい、殴りかかる時覇。

「甘いは砂糖!」

 水切りで掃う店長。そのまま下から顎目かげて、容赦なく飛んでいく。

「くっ」

 体を後ろに反らしつつ、左に避ける。
 僅かに掠ったが、気にするほどでもない。
 しかし、体勢が不安定になっていたので、地面に手をついて横に転がり、起き上がり際に後ろに跳んで、間合いを取った。
 睨み合う二人。
 一触即発の雰囲気だったが、互いに横から思いっきり水を被る。

「ホント、最後の最後まで何やってるんだ、お前らは」

 バケツを持ったまま、呆れる飯塚。

「木本さん、あとお願いしますね〜」

 と、手をタッチしながら、選手交代する。

「はい……お二人さん、上の方までお願いします」

 木本の後ろに、鬼神の幻影が浮かび上がったのが、見えて様な気がした。
 二人は小さくなりながら恐縮しつつ、戦慄を覚えながら、休憩室の二階に上がっていた。
 ついでに、先へ行くのを譲り合い、競り合い、殴り合いになりそうになった時、再び雷が落ちたのは、言うまでもない。





 同時刻の夜の空。
 杖タイプのデバイスと男と、片や魔法関係の世界には、珍しい銃器タイプのデバイスを持った男が浮いていた。
 髪をなびかせながら、杖タイプのデバイスを持った男が口を開く。

「ここで間違いは無いな……ゴスペル」

 街を見下ろしながら、銃器タイプのデバイスを持った男――ゴスペルに尋ねた。

「ああ、間違いは無い。ターゲットも一致したし、微弱ながらロストロギアの反応も確認した」

 風が一段と強くなったのか、ゴスペルは自分の髪を抑える。

「そうか……どちらにせよ、管理局が動いているのは間違いは無い……慎重に行動するぞ」

 腕時計で、時間を確認する。

「二手でいいのか、ロングイ?」

 手持ちのカートリッジを、確認しながら聞き返す。

「問題は無いだろう……不安か、ゴスペル?」

 少しあざけ笑うように言った途端、デバイスの銃口を、左のこめかみに突きつけた。

「喧嘩なら買うぞ?」

 ドスの効いた声を出す。
 その言葉に、デバイスを宙に浮かし、すぐさま両手を挙げる。

「こんなところで魔力を消耗したくない」

 ゴスペルは忌々しく見ながらも、こめかみから銃口を放す。

「ふん……始めるぞ」
「そうだな」

 そして風は、さらに吹き上がった。
 嵐が起きるかの、前触れのように。





















































何かに出逢う者たちの物語・外伝
魔法少女リリカルなのは
〜二つの運命と螺旋に出逢う者〜


第一話:平凡な日常の最後

END






















































リョウさんもとい――リョウスケ&○○○○に感想を言ってもらいましょう!


※今回は『アリサさん』で、お願いします。


アリサ『ほら、良介! 感想を述べる時間よ』

良介『えー、面倒臭え。何で俺が小説なんぞ読まないといけないんだ』

アリサ『文武両道。一人前の男になりたいなら、勉強もきちんとしないと駄目よ』

良介『アリサがいれば、そっち方面は平気だろ』

アリサ『頼ってくれるのは嬉しいけど……良介は何するのよ!』

良介『俺はお前を守る』

アリサ『……ま、まあ、それならいいか。うん』



良介(――うし、一回目は回避出来たぞ。この調子で頑張ろう)

アリサ(半分本心だと思うし、今日は騙されてあげるか)





あとがき
 特別出張版! 『サークル・闇砲』のDBことダークバスターが投稿しました。
 ちなみに、感想などは、メール&(勝手ながら)掲示板か、もしくは『サークル・闇砲』の掲示板&WEB拍手から。
 できたら(ある意味マナー違反ですが)我がサイトで書き込んでいただけると幸いです。
 そちらの方が、確実の個々に返答できますので。
 ではでは。

 ちなみに、このあと――第二話からのあとがきは、我がサイトで公開したモノのままとなっております。
 僅かに変更や消去した部分がありますが、さほどわかっていませんので。






制作開始:2006/2/12
改正日:2006/11/4〜2006/11/10+2006/12/18〜2006/12/23

打ち込み日:2006/12/23
公開日:2006/12/23

変更日:2006/2/20
修正日:2006/2/20+2006/2/21+2007/8/18+2007/9/27



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