ラビリンス

        〜Kanon another story〜 

第一話 『過去からの来訪者』

Side Natuhiko

「ねえ、なんかあんた今朝は不機嫌じゃない。何かあったの?」

学校までの通学路。

俺の後ろを歩いていた姉、春奈がいきなりそんなことを言ってきた。

「何でもねえよ。ただ眠いだけだよ。」

俺はそう答えたが内心では、『さすが姉貴、するどい』と考えていた。

そう、確かに俺は少しばかり不機嫌だった。

しかし、それもしょうがない事だろう。六年前のあの事件を夢にみてしまったのだ。己の力不足を嫌という程思い知らされたあの事件を・・・。

これで元気でいろという方が無理だろう。

でも、まあこれ以上姉貴に心配かけるのも嫌だし。ここはちょっとごまかしとくか・・・。

「実は少し嫌な夢を見ちまってな。それで寝不足なんだ。」

「嫌な夢?どんな?」

「我が家に代々伝わるあのジャム。あのジャムを使った料理のフルコースを食

 べさせられる夢。いや〜、死ぬかと思った。」

「・・・・。ねえ、夏彦。それは無茶苦茶シャレにならないわよ・・・。」

ごまかすためとはいえ、とんでもない事を口にしてしまった。

よく見ると、姉貴も顔色が悪くなってるし・・・。

俺自身も吐き気がしてきた。

俺達は急に下がったテンションのままで学校に向かった

そして、十分後。

普段ならもう校門の所に着くのだが、今回は少しばかり違った。それは・・

「に〜ん、に〜ん。ほら見て、夏彦。にんにんねこぴょんだよ〜♪」

この馬鹿姉貴のせいだった。春奈は、母さんに似て超がつく猫好きなのだ。

たまたま通学路にいた猫に気付き、そのままここに五分はいすわっている。

「おい、姉貴。そんな猫放っておけ。学校に遅れるぞ。」

「でもでも、猫さんだよ。肉球ぷにぷにだよ。にんにんねこぴょんだよ。放っておけないよ〜」

くそ、猫のこととなると強気になりやがるな。

さっきまでのテンションが嘘のようだな・・・。

さて、どうしたものか?

「何してるんですか。遅刻しちゃいますよ、二人とも」

あれこれ俺が悩んでいると、後ろから呆れた女の子の声がかかった。

後ろを振り向くとそこには見知った顔があった。

「おはようさん、彰、美香。今日も元気そうだな」

そこにいたのは、幼馴染の北川彰・美香の兄妹だった。

兄の彰は俺や春奈と同じ高校二年生で、趣味が同人誌作りのナンパ師。

俺もよく手伝わされたことがある。黙ってりゃあ、恋人の一人でもできるのになぁ・・・。

哀れなやつだ。

妹の美香は一つ下の一年生で、今年の文化祭の一年人気投票の優勝候補にあがるくらい可愛く、性格もいい。その上勉強もできるので何人もの男から告白されたが、全て断ったらしい。何故かは未だに謎のままである。

美香に言われて春奈も少しはやばいと思ったらしく、猫を放して、鞄を拾い上げた。

するとすかさず彰が春奈のすぐ横に移動した。

「オォッ!我が愛しの君。いざ学校へ参りましょう!」

「誰が誰の愛しの君よっ!勝手に決めないでよっ!」

「勝手に決めてなどいないさ。これは全て大宇宙の意思さ。僕たちが結ばれる

 のは運命なのさ!」

「・・・。」

俺は少し無言になる。

毎度の事ながら姉貴の事になると誇大妄想の激しい奴だ。これさえなければ良い奴なんだがなぁ。

いつものこのやり取りは見ている方には大変面白い。

しかし、このままでは遅刻してしまうだろう。

さてさて、どうしようかね・・・。

考えること数秒の後、俺は決断した。

放っとこう。

下手に関わればこっちまでやばいし、キレた春奈の側にいるのも勘弁して欲しいし・・・。

春奈はキレると恐ろしいからなぁ。

触らぬ神に祟りなし、とも言うしな。

「美香、先に行こう。こっちまで遅れちまうよ・・・。」

「ええ、そうしましょう。」

そうして、俺は何故か嬉しそうな表情の美香と一緒に学校へと急いだ。

階段の所で一年生の美香と別れて俺は自分の教室へと入った。席に着くと、新聞部の加藤が話し掛けてきた。

「よう、夏彦聞いたか!今日ウチのクラスに転校生がくるらしいぜ。

なんでも以前は海外の方にいたらしいけど、どうしてこの学校にくるんだろうな?」

「知らね〜よ。なんか事情でもあるんだろうよ、きっと。」

オレは加藤に答えてから一時間目の準備を始めた。

HRが始まる一分前になって、ようやく彰と春奈が入ってきた。

「私を置いて先に行くなんて・・。後で覚えてらっしゃい()

春奈がこちらを睨んでそんな事を言ってきたが、俺は無視した。

はっきり言わしてもらえば、あんなところで猫と戯れてた姉飢がそもそもの原

因なのだ。自業自得だろう。

そんな事を思っていると、チャイムが鳴りHRの始まりを告げた。

担任の山本が前の方でしゃべっている。

「――。では、最後に転校生を紹介しよう。入ってきなさい。」

―ガラッ。

扉が開く音と共に転校生が入ってきた。

そして、そいつを見た瞬間俺の表情が固まった。

「初めまして。俺の名前は『新条 信』という。これからよろしく。」

そいつはそこにいた。

六年前の悪夢。

奴は、信は、あの時守れなかった彼女―美奈―の唯一の肉親であり、そして、

捨てセリフとともに俺の前から消えた親友だった。

この時から俺達の運命の歯車が動き出した。

ゆっくりと、確実に・・・

教えてくれ、美奈。俺はどうしたらいいんだ・・・。

―次回予告―

信との再会。それは、決して喜ばしいものではなかった・・・。

「夏彦。俺が帰ってきた目的はただ一つ。美奈を殺した犯人をこの手で捕ま

 え、殺すためだ。もし邪魔をするなら、お前も倒す!」

変わり果てたあいつに俺の声はもはや届かないのか

次回、ラビリンス第二話『見えない明日』

信「あいつを殺すためなら、俺はあえて修羅となろう!」

 

あとがき〜

維「作者の維新伝新です。」

春「今回のアシスタント、魅惑の女子高生、春奈です〜♪」

維「まあ、魅惑かどうかは別として、今回で主要キャラ五人を出せました。」

春「ふむ、どうにも胡散臭そうな奴ね、この転校生は。」

維「確かにそうかも知れんが、彼にも色々あるんだから。」

春「まあ、いいか。私の出番を減らさなければ。」

維「あ、それは多分無理だよ。」

春「えっ!何でよ!?」

維「彼はこの物語の準主役だし、何より自分で気に入っているキャラなんですよ、彼は。だから、ひょっとしたら主役の夏彦よりも出番多いかも()

春「・・・、マジで?」

維「はい、マジです♪」

春「いや〜〜〜〜(ダッシュで逃げてゆく)

維「アシスタントの彼女が逃げてしまいましたので、今回はここらで。

これからもラビリンスを読んでやって下さい。

ではでは、アデュ〜〜〜。」

                                          

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