気に入らない


 「今日こそは負けないわよ、この悪魔っ!!」

 「だから私は悪魔じゃないってばーー!」


気に喰わない


 「アクセルシューター!」

 「ちっ! まともに近づけない!!」


あの青い空にいる奴が


 「な、バインド!?」

 「ディバィィン……!」


あの白き少女が


 「バスターーーーッ!!」

 「これで勝ったと思うなよーーー!!」


気に入らない



不屈少女パワフルミユキ

第一話

「絶対に諦めないわよ」





 「…痛たた、あ〜もう、また負けた〜……」


ここは陸士108部隊が隊舎の敷地内に備えている広大な訓練場、そして先ほどまで二人が模擬戦を行っていた場所であり彼らの仕事場でもある。


 「あの……大丈夫……?」

一人は飛行魔法で空から降りてきた白いバリアジャケットをまとった栗毛をツインテールに結わえ、暖かそうなブラウンの瞳の少女―高町なのは。


 「まったく……、あなたに言われなくても大丈夫よ」


そして、もう一人は防刃、防水、防火等の処理がされている黒いライダースーツに焦げ茶のジャケット、デバイスと同じ金属で作られたガントレットとグリープをまとい、柔らかい絹の糸のようなサラサラとした銀色の髪は腰まで伸びており、紅玉石のような深紅の瞳を持つ綺麗な容姿の少女―ミユキ・トウサカ。


 「ハァ……、これで125連敗か〜……」

 [貴女がマスターに勝てる可能性は限りなく0です、ゆえに諦めたほうがいいでしょう] 


ミユキが愚痴っていたところに、なのはが持つインテリジェントデバイス―レイジングハート・エクセリオンが指摘する。

確かに可能性は限りなく0に近いという事はミユキ自身が一番よくわかっていた。

まず、魔導師たちの魔力の源のリンカーコアはあるにはあるが、ミユキには一般の魔導師たちより遥かに魔力総量が少ないのだ。

魔力が少な過ぎるが故に、バリアジャケットはおろかデバイス起動すら絶望的。
だが、辛うじて発動できる身体強化魔法を使って戦って来たのだが、相手が悪かった。

なのはは、基本的に中〜遠距離での戦闘を得意とする。

それに対してミユキは身体強化魔法だけしか使えない為、必然的に近距離戦闘しかできないので、なのはとは相性が悪いのだ。

それゆえに接近戦に持ち込めばまだ勝率はあるのだがそうもいかない。

ミユキがなのはを倒す為には越えなければならない壁が4つ存在する。

まず一つ、なのはが使う誘導制御型の射撃魔法、アクセルシューター。

この魔法はなのはが中〜近距離にてよく使う魔法である。

魔法の発動も早く数も12個は出せ、光球一発一発に込められた魔力もミユキが自分にかける身体強化魔法のおよそ10倍以上、加えて最大12発をなのはは自由自在に操作可能という隙のなさ。

次に厄介なのがバインド。

バインド自体は一般の魔導師でも使うが、少なくともなのはのバインドは一般の魔導師のバインドとは桁が違う。

一般の魔導師のバインドぐらいならミユキでも魔力を使えば弾く事はできるが、なのはのそれは魔力が一般のバインドより多く魔力が込められているため、ミユキが全魔力を振り絞ってもバインドを弾くことが出来ないのである。

そして、一番厄介なのが相手が空を飛べると言うこと。 

空を飛べるというアドバンテージは強大だ。

なのはが一度大空に飛んだが最後、ミユキは殆んどと言っていいほど手を出せなくなってしまう。

ミユキは身体強化魔法を使い、魔力を足に全部集中させてそれなりに高く跳ぶ事は出来るが、ただそれだけだ。

跳ぶというのは、飛ぶとは違いどうしても直線的になってしまう。

その跳んでいる途中にディレイバインドを仕掛けられたが最後、その時点でミユキの敗北は決定する。

そして最後、万が一にでも上手く近づけたとしても最後の壁がある、それはなのはの防御力の高さ。

ミユキは一般の魔導師ぐらいにならある程度のダメージは与えることが出来るが、なのはだけにあらず、高ランクの魔導師相手には一切通らない。

それは桁違いに込められた魔力と精度の高い精度の防御魔法系統、フィールド魔法、バリア魔法、物理防御、防護服(バリアジャケット)という4つの壁に阻まれてしまうのである。

たとえバリア魔法を越えたとしても防護服に阻まれて攻撃が通らないのだ。

以上、アクセルシューター、バインド、高さ、防御力の4つの壁を越えなければミユキがなのはに勝利することは出来ないが、ミユキがこの壁を越える事は不可能なことでもあった。


 「……よし! 次は必ず勝ってやるんだからね、なのは!」

 「にゃ、にゃはは……」


だが、ミユキはそれをわかっていながらも毎回立ち向かっては敗北するのだった。



    side ミユキ


 「お〜い」

 「ん?」


模擬戦の終わった私達に二人の男性が近づいてくる


 「お疲れさん、ほら、俺様が飲み物持ってきてやったぜ」

 「ありがと、スカイ」

 「ありがとうございます、スカイさん」


一人は、女性のように サラサラとした金髪のロングヘアーに透き通るような蒼い瞳。
 背も長身で顔立ちも中性的の端正な男―スカイ・G・オーダリアが私となのはにスポーツ飲料を渡す。


 「しかし……、どうせ勝てないんだから大概で諦めたらどうなんだよ、ミユキ?」

 「うるさいわね〜、私は絶対に諦めないわよ、ハガネ」


そしてもう一人、少しボサボサした黒のショートヘアーに赤いハチマキがトレードマークなスカイとは逆にワイルドな格好良さを持つ男―ハガネ・シグレが呆れながら諦めることを促してくるけど、私はそれを拒否した。

余計なお世話だってのよ、まったく。


「ふぅ、魔力回復完了っと」

 「しかし便利だよな〜、ミユキちは」

 「突然どうしたのよ、スカイ?」

 「だって安静にしてればたった3分で魔力が全快するんだろ?」

「まあね、でもそれだけよ」

確かにスカイの言うとうり、私は魔力回復スピードが異常なまでに速い為、普通の魔導師が魔力を使い果たしたとして、それを全快するまでに早い方で半日ぐらいの時間を必要とするが、私の場合は安静にしていれば3分程度で魔力が全快する。 

だから凄い能力なのだが、私自身の魔力量が少ないせいか実感が湧かないのよね。


 「あの、集合がかかってますので、もうそろそろ戻らないと」

「りょうか〜い」

「あいよ」

「わかった」


なのはの言葉に私、スカイ、ハガネは返事を返す。

さてさて、ぼちぼち戻りますか。




side out




本日の勤務が終わり、ミユキは帰路についていた。

ミユキが所属している陸士108部隊にもちゃんと寮があるのだがミユキはそこには住まず、近くにあるマンションの一室を借りて、そこに住んでいた。


 「ただいま〜」


通常なら、陸士108部隊所属の魔導師であるミユキは、いざというときに備えて寮に住まわなければならないが、ミユキは特例として許されている。

それは何故かというと――


 「お帰りなさい、ミユキ義姉さん!」

 「ただいま、ティアナ」


妹の為であった。

ティアナ・トウサカ。

旧姓、ランスター。

太陽のようなオレンジ色の髪をツインテールにして、澄んだ水色の瞳を持ち、幼い少女特有の愛らしい笑顔で帰宅したミユキを迎える。

ティアナは、兄であるティーダ・ランスターが殉職し、両親も既に亡くしていたため幼い身で天涯孤独になっていたところをティーダとは親しい関係にあったミユキが引き取った義理の妹である。


 「ごめんね、今日も遅くなって」

 「ううん、ミユキ姉さんも忙しいって知ってるから」

マンションにはミユキとティアナの二人だけで住んでいる。

ミユキの両親は時空管理局の次元航空隊――通称、海に勤めているため、実家にいることはほとんど無い。
それゆえに実家ではなく、家に帰ることが出来るミユキの家にティアナは住んでいるのだ。


 「う〜ん、本当にティアナは可愛いわ〜、もう抱き締めたくなっちゃうくらい」

 「そんなこと言いながらもう既に抱き締めてるよ、ミユキ姉さん」

 「はっはっは」

 「もう……、それよりご飯が出来てるから早く食べようよ、ミユキ姉さん」

 「ありがとうね、ティアナ」

ミユキとティアナはご飯を食べるためにリビングに向かっていった。




side ハガネ



俺達陸士は、なにも訓練だけが仕事ではない、デスクワークだって大切な仕事だ。

今日、どれくらいカードリッジを使ったかなどの報告書類など色々書かなければならないが……。


「うぬぬ……」


俺はデスクワークは苦手だ。

体を動かすのは好きだがどうにも頭使うのは苦手なのだ。

はぁ…、ミユキとなのははとっくの前に終わって、なのはは寮に、ミユキは家に帰ってるんだろうな……。 
はぁ……。


 「何だ、まだやってんのかよ?」

 「……スカイか」


こいつは確か、終わってたはずだが……何しに来たんだ?


 「お前、終わったんだろ、何しに来たんだよ?」

 「そりゃあ勿論、冷やかしに来――「帰れ、今すぐ帰れ」―――冗談だよ」


まったく、本当に何しに来たんだか。


 「ほらよ、差し入れだハガネちゃん」

 「ありがたい、だがハガネちゃんって言うなと何回言ったらわかる」

 「ウヒャヒャヒャ、まあいいじゃないかよ」

 「勝手にしろ…」


何回言っても聞かなかったからな、こいつは。

だから言うだけ無駄だろう。

お、差し入れはあんパンと牛乳か。


 「へぇ、残ってるのはこれぐらいか」

 「あと10分ぐらいで終わる……」


長かった、本当に長かった……!


 「……そうだハガネちゃん」

 「むぐっ……、何だ?」

スカイからの差し入れのあんパンを食べていた時に、スカイが思いついたように言ってきた。


「ちょっとした賭けをしないか?」

 「賭け?」


いきなり何を言い出すんだ?


 「そう賭けだ」

 「賭けをするのはいいが、俺はまだ仕事が残ってるぞ?」

 「大丈夫、大丈夫!それよりお前、これぐらいの量は通常なら10分、頑張ってだいたい6分ぐらいで終わらせれるだろう?」」

 「? まあな」


笑いながら聞いてきたから答えたが、何が言いたいんだ、スカイは?


 「さて、賭けの内容だがいたって簡単。お前が残りの仕事を5分で終わらせる事が出来るか否かってやつだ」

 「はぁ? なんだよそりゃ?」

「で、何を賭けるのかと言うとだな……」

 「無視すんな!」


出来るわけねぇよ! 頑張って6分のやつを5分で終わらせるなんて俺には!


 「次の休みの時に先にあいつをデートに誘う権利ってやつはどうだ?」

 「俺の準備はとっくに出来てるぜ」

「って早いな、おい」


何故俺が準備しただけで呆れてるんだ?


「……まあいいか、それじゃあカウント……」

「………」

「スタート!」

そして俺は、自分の限界との対決を始めた。

俺はこの時はまだこんな生活が終わりを告げる事を、まだ気づかなかった……。





あとがき



皆さんはじめまして&お久しぶりです。
自分のもうひとつの作品を差し置いてもうひとつ作品を始めるという無謀をしてしまいました火矢威です(汗)
この作品を書き上げるのも苦労しましたが、様々な方の協力と輝鬼さんからはハガネを、Kaiさんからはスカイをお借りして何とか完成させることが出来ました。
次の作品も頑張って書き上げますので生暖かい目で見守って下されば幸いです。
それではさようなら。








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