第六話 わかり合うために必要なことなの?
 車も人通りも激しい街中をなのはは、ユーノを肩に乗せたまま歩いていた。
 その視線は一つに落ち着く事はなく、ジュエルシードの反応を探して辺りを注意して見渡していた。
 ユーノと合流してそろそろ二時間になるだろうか。
 すっかり日はビル群の向こうに消えており、代わりに街灯やネオンが明かりを振りまいていた。
 ジュエルシード探しはその魔力を頼りにするので暗い、明るいは関係ないのだが、なのはには別の意味でタイムアップが存在した。
 夕食の時間という、小学生にとっては当たり前の時間である。
『この近くにある事は間違いないんだけれど』
『私も漠然とは感じるけれど、詳しい場所まではわからないかな』
 ユーノの言葉に耳を傾け立ち止まり、もう一度確認するように辺りを見渡した。
 微弱な反応は感じるが、やはり場所の特定は難しいようである。
 今日はもう無理かとなのはは、道の真ん中で立ち止まっていては邪魔になると一度道の脇にそれた。
『あかね君、今いいかな?』
 ショーウィンドウの冷たいガラスに背を預け、今日は一緒にジュエルシード探しを行えなかったあかねに念話を送る。
 少しドキドキするのは、様々な感情が入り混じった結果であった。
 ちゃんと仲直りしていない気まずさと、自らの行動で傷つけたすまなさと、それでもなお魔法を行使すると決めた決意。
 返答のない空白の居心地の悪さを、首筋でうごくユーノの毛皮の肌触りで埋めていく。
『大丈夫です。その様子だと、今日は見つからなかったみたいですね』
『まだ何も言ってないのに、すぐにわかっちゃうんだ?』
『ジュエルシードが見つかれば、もう少し慌てているでしょう。それにジュエルシードがある場所にはあの子が、フェイトさんが来るでしょうし』
『うん、そうだね。今日は見つからなかったの。それで今から帰るところ』
 思ったよりもずっとすらすら出てくる言葉に、なのはは胸の鼓動が治まり心が穏やかになっていく気がしていた。
 今なら言えると、意を決して言葉を送る。
『あかね君、この前はごめんね。あかね君の気持ちも知らずに、何も考えずにフェイトちゃんを撃とうとしてあかね君を傷つけちゃった』
『僕は大丈夫です。僕の方こそ、申し訳なかったです。自分で自分の余裕をなくして、結局なのはに嫌な思いをさせてしまいました』
『私が謝らなきゃいけないのに。優しいね、あかね君』
 念話ではあるが、ぽつりと漏らすように送った言葉にあかねの念話が少し途切れる。
 どんな顔をしているのかはわからなかったが、なんとなく微笑ましく笑えてしまうなのはであった。
 言葉ではなく気持ちが伝わったのか、少し拗ねた声が念話で届いてくる。
『急にそう言うことを言うのは卑怯だと思います』
 耐えられないほどの笑みがこみ上げ、なのはは慌てて携帯を開いて耳に当てる。
 一人でいきなり笑い出したなのはを避けるように、数人の通行人が横切って行ったからだ。
『それでね、私ずっと考えてたの。自分の魔力の事や、フェイトちゃんの事。一杯考えて一杯悩んで、その上で決めたの。私はフェイトちゃんと戦うって』
『なのは……』
『ちゃんと考えて決めたら、考えもせずに撃つ事はしない。人を撃つ事は怖くて胸が痛いんだって解ったから。だから私はフェイトちゃんを知らなきゃいけない、フェイトちゃんに知ってもらわなきゃいけない』
『その時は、僕も一緒ですよ。一人で無理をしたら、怒りますから』
『うん、ありがとうあかね君』
 欠けていたピースが心にすとんとはまった様な気持ちであった。
 きっちりと仲直りを果たし、出切れば念話ではなく今すぐ会いに行って笑いあいたかった。
 あかねも同じ気持ちであったら嬉しいのだけれどと、携帯で時間を確認するとタイムオーバーギリギリであった。
 ジュエルシードを見つけられなかったことを伝えるだけのつもりが、仲直りの言葉を交し合ったのだから仕方のないことかもしれない。
 急いで帰らないとと携帯をしまうと、ユーノが肩から飛び降りた。
 アスファルトの上に降り立って、家へと向けて走り出そうとしたなのはを見上げてくる。
『ユーノ君?』
『まずは仲直りおめでとう。あと僕はもう少し一人で探してみるよ。この近くなのは間違いないから』
『でもユーノ君、一人で平気?』
 住宅街近い人通りの少ない場所ならまだしも、車も人通りも多いこの場所は危険な気がした。
『平気だよ。今の二人の会話を聞いてたら、僕も頑張らないとって思えたから』
『う、聞かれてたかと思うと、少し恥ずかしいよ』
『二人の仲が良いのは良いことだよ。それじゃあ、晩御飯は取っておいてね』
 ちゃっかりしたお願いをしてから、ユーノは素早い動きで路地裏の方へと駆け出していった。
 さすがにまともに人ごみを縫う様に進むほど無謀ではなかったようだ。
 ユーノを見送り、今度こそ家へと向けて歩き出した所で、今度は携帯が震えメールの着信を知らせてきた。
 一度止まった携帯は再び震え二通同時に着信した事がわかる。
「すずかちゃんとアリサちゃんからだ」
 少しだけ歩調を遅め、二通のメールの内容を確かめる。
 二通共に出だしはお稽古が終わった事を伝えるものであり、続いたのはあかねのお見舞いについてであった。
 ただしすずかがあかねの様子を伝え、アリサがあかねと話していた内容を伝えてくれていた。
 恐らくは二人で話してどちらが何を伝えるのかあらかじめ話し合っていたのだろう。
 すずかはあかねが思ったよりも元気だったと書いており、アリサは三人で仲良くなった切欠のあの大喧嘩を話題に話したことを書いていた。
 特にアリサのメールを読んでいるうちに、今日はジュエルシードが見つからなかったのだから自分もお見舞いに行けばよかったと思った。
 返信の為にボタンを押す直前、辺りの空気が一変した事を肌で感じなのはは振り返り空を見上げた。
「フェイトちゃんの魔力に似てる。これはアルフさん?」
 ある地点を中心にして同心円状に魔力が広がっているのがわかった。
 ただ何をしようとしているのかわからず、足だけをそちらへと向けて動かす。
『ユーノ君!』
『辺り一帯に魔力流を打ち込んでジュエルシードを強制発動させるつもりだ。なのははあかねに連絡を。僕は広域結界を張るから』
『わかった。私もすぐに戻るから。あかね君』
 一度連絡を入れていたせいか、今度のあかねの反応は早かった。
『もしかして見つかりましたか?』
『ジュエルシードはまだだけれどフェイトちゃんたちが近くにいる。あかね君、すぐに来れる?』
『少し遅れますが。絶対に、無理だけはしないでくださいね』
『うん、わかってる。大丈夫、あかね君も無理しちゃ駄目だからね』
 二人が念話で話している間にも、風が吹き空の雲行きが怪しくなってきた。
 夜なので解りにくいが、雲の流れが早く遠くから雷鳴の音が響き始めていた。
 一雨来るかと周りの人たちの足は自然と速まり、なのははその人の流れの中を縫うように走っていった。
 一瞬の耳鳴りの後、その人の流れが街中から消えていた。
 人々のざわめきが一切消えてしまい雷鳴の轟く音だけが辺りを支配し、ユーノの結界が街全体を包み込むように展開されたのがわかる。
 これなら人目にもつかないと、なのははレイジングハートを空へと掲げた。
「レイジングハートお願い」
「Stand by ready. Set up」
 レイジングハートが生み出した光が体全体を覆い、着ていた服の代わりにバリアジャケットが体を包み込む。
 ほんの僅か一瞬の変身が終わると、一際大きな雷鳴が街中に落ちるのが見えた。
 偶然雷鳴が落ちたとも思えないその場所から、青白い光の柱が空へと駆け上る。
 自分とは別の場所から、ビルの上からその場所を見つめるフェイトに気付いたのは偶々であった。
 フェイトがバルディッシュを掲げ、封印の形態へとバルディッシュを変化させた。
『なのは、あの子達が封印する前に急いで!』
 ユーノからもフェイトたちが見えたのか、見えなかったから焦っていたのか。
 なのははレイジングハートを構え光の柱を生み出すジュエルシードを見つめた。
「Shooting mode. Set up」
 少し距離があるため、封印形態ではなく砲撃の形態へと形を変えるレイジングハート。
 構えると同時に立体型魔方陣がレイジングハートを包み込む。
 フェイトがそうしているように、レイジングハートの矛先にジュエルシードを捕獲する為の魔力を集め撃ち放つ。
 若干なのはの魔力が遅かったが、大きな差ではなかった。
「リリカル、マジカル。ジュエルシードシリアル十四。封印!」
 再び同時に放たれた封印の光がジュエルシードを包み込んだ。
 今にも膨れ上がり力を解放しそうだったジュエルシードがその輝きを押さえ込まれ、浮かび上がる。
 青い宝石はその体にシリアルナンバーを浮かばせながら、自分を手にする者を待っていた。
 そのジュエルシードへとフェイトよりも先になのはは近づく事が出来たが、確保の為にレイジングハートを近づける事はしなかった。
「Device mode」
 レイジングハートの形態を通常時のそれに戻し、浮かび上がるジュエルシードへと歩み寄る。
 ただし浮かび手にする者を待つジュエルシードを見上げるだけで、抜け駆けするようにはしない。
 手が僅かながらに震えているのが解った。
 思い起こされるのは、誤ってあかねを撃ってしまった感触。
 フェイトを撃てば再びあの痛みを味わうかもしれないが、それでもと震えを押さえ込むように強くレイジングハートを握り締めた。
「伝えなきゃいけない事がある。教えて欲しい事がある。今はまだ、何一つできてなくて。難しい事なのかもしれないけれど」
 強い眼差しで見上げたビルの上から、狼の姿でアルフが飛び降りてくる。
「そいつは渡さないよ!」
「アルフさん、邪魔をしないで」
「Protection」
 防御魔法の障壁を張り、真正面からアルフの突撃を受け止める。
 ヒビ一つ入らず渾身の一撃を受け止められたアルフが驚きと共にその身を一端離れさせる。
 アスファルトの上を滑るように体をいなす所へ、地面に魔方陣が生まれ戒めの鎖が飛び出した。
 逃れるようにアスファルトを蹴ったアルフをユーノがその小さな体で追いかけていく。
「なのは、使い魔の方は僕に任せて」
「そんな小さななりで、舐めるんじゃないよ」
 魔力がぶつかり合う音が離れていくのを耳にしながら、なのははもう一度ビルを見上げようとし、思ったよりも近い場所にフェイトを見つけた。
 淀んだ色の世界の中で変わらない明かりをもたらしている街灯の上、そこからフェイトは険しい顔でなのはを見下ろしていた。
 なのはの事を障害としてみていない、分かり合うつもりなど毛頭ない眼差しであった。
 今は、今はまだそれも仕方がないとなのははレイジングハートをフェイトへと向けて名乗る。
「私の名前は、高町なのは。私立聖祥大附属小学校三年生。フェイトちゃん、貴方に教えて欲しいことがあるの」
「Scyce form」
 まるで直前のなのはの台詞がなかったかのように、バルディッシュがその体から三日月の刃を生み出した。
 なのはも、バルディッシュの動作がなかったかのように続けた。
「まずはフェイトちゃんの名前を教えて欲しいの。この前はアルフさんがあかね君へ教えてくれただけで、私はまだ本当の意味でフェイトちゃんの名前を知らない。フェイトちゃんの口から、私に教えて欲しいの!」
 答えはなく、フェイトはその身を街灯の上から飛び出させた。
 ふわりと風に煽られる羽毛のように浮かび、数秒の後なのはへと向けて滑るように向かってきた。
 振りかざされるバルディッシュの刃が、フェイトの魔力の影響を受けて唸りを挙げる。
「フェイトちゃん」
 名を呼んでも振り上げたバルディッシュが収められる事はなかった。
「Flier fin」
 足元から桃色に光る翼を生み出したなのはが、後方へと浮かび上がる。
 振り絞られたバルディッシュが空を斬り、フェイトがそばに浮くジュエルシードへと目を向けたときそれは放たれた。
 今度はフェイトが後方へとさがる様に飛び、つい先ほどまで居たアスファルトになのはの砲撃が突き刺さる。
 アスファルトを砕き、破片が方々へと飛び散る中フェイトはそれを行った相手へと視線を戻した。
「教えて、フェイトちゃんの口から私へ」
 二度目となるその言葉は、強情な主人を持つデバイスを思い起こさせフェイトの心をざわつかせていた。
「邪魔をしないで」
「Arc saber」
 バルディッシュが生み出していた刃が一回り大きく変化する。
 その重量に任せてフェイトがバルディッシュを大きく振りかぶり、誰も居ない場所へと振り下ろした。
 三日月の刃が切り離され、曲線を描きながらなのはへと襲い掛かる。
 円を描く動きは砲撃で撃ち落すのは難しい、そう判断したなのはは襲い来る刃から目を離さないように大きく目を開いた。
「Round Shield」
 円形の魔方陣がなのはの目の前に現れ、三日月の刃とぶつかり魔力の火花を散らす。
 少しずつ盾となる防御魔法を傾けてやり過ごそうとするが、ふいに背後に気配を感じ振り返る。
 残像を残しつつ、フェイトが回り込んでいた。
 同時攻撃。
 バルディッシュの先端に雷の光が集まり、容赦なくなのはへと向けられる。
「Flash move」
 今度はなのはの姿が消えた。
 支えを失った三日月の刃がフェイトへと向けて動き出した。
 挟み込んだつもりが逆に利用されたフェイトは、慌てて自分の魔力で作り出した刃に干渉して打ち消す。
 ほっとする暇もなくなのはを探せば、そう十メートルも離れていない場所でレイジングハートを構えていた。
 ただし、その杖の先には十分すぎる魔力が蓄えられていた。
「Devine Shooter」
「Defencer」
 なのはの砲撃が放たれるのと、フェイトが防御魔法を使うのは同時であった。
 フェイトの姿が桃色の光の中に飲み込まれるが、一瞬の膠着の後バルディッシュが大きく振られた。
 弾かれた魔力が行き先を見失ったまま空の彼方へと消えていった。
 この時互いの胸に去来するのは強いというただ一言であった。
 ただし、あらかじめフェイトが強いという事を自覚していたなのはの心理的負担はそれほどでもなかったが、フェイトは違った。
 直接なのはとぶつかり合うのは初めてであり、予想をはるかに超えた強さであったからだ。
 あかねとなのは、二人の魔導師がそろってこそジュエルシードを封印してこれたのではと、心のどこかで考えていたのだ。
 だがまだ自分の方が上のはずだと、油断を捨てる為に口にした。
「私の名前はフェイト。フェイト・テスタロッサ」
「フェイトちゃん、ありがとう教えてくれて。それじゃあ、次の質問にいくね」
 ふざけている様にも聞こえるが、いたって真剣な眼差しでなのははレイジングハートをフェイトへと向けた。
「この前、誤ってあかね君を撃った時、心臓がつぶれちゃうかと思った。怖くて、怖くて。本当はあの時泣きたかった。でも今、私はフェイトちゃんにレイジングハートを向けてる。ジュエルシードを集めなきゃいけないから」
「それは私も同じ」
 集めるという点では同じなのであろうが、なのははゆっくりと首を横に振っていた。
 ただし全てを否定するわけではないと言葉を紡ぐ。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ユーノ君が見つけたジュエルシードを、ユーノ君が集めなくちゃいけなくて。私やあかね君はそのお手伝いをしてる。でもそれだけじゃなくて、ジュエルシードの脅威が私の知る人や私の知る街に降りかかって欲しくないから。私の意志でジュエルシードを集めてる」
 ただ手伝いを乞われたから、お願いされたからだけじゃないとなのはは言葉にして伝えた。
 ジュエルシードを集めるという目的のその向こう側にある願い。
 誰かを撃ってでも成し遂げたい想いを口にして、なのはは尋ねた。
「教えて、フェイトちゃん。とっても痛い思いをしてでも誰かを撃って、それでもジュエルシードを集めたいって思うその向こうにあるものはなに?」
「Devine」
「教えて、フェイトちゃん!」
 段々と口調に熱いものが篭り出したなのはへと、間逆に冷めだしたフェイトが答えた。
「前にも言った。言葉だけじゃなにも変わらない、伝わらない」
「だからこうやって喧嘩してる。でもおかげでフェイトちゃんの口からお名前を聞けた。言葉だけじゃ変わらなくても、伝えようと努力すればきっと伝わる。変えられる」
「Buster」
 特大の魔力の奔流がレイジングハートから放たれた。
 虚を突かれたフェイトは防御魔法に遅れがでたが、魔力の渦はそのままフェイトの直ぐ脇を通り抜けていった。
 外れたのではなく、なのはが外したのだ。
「少し乱暴かもしれないけれど、こうすることで始めて伝えあえることがあるって事を私は知ってる。抱えてるものを全部口に出来るまで、思い切りぶつかろう?」
「私は……」
 無駄だと、無理だと言ったとしても、きっとその言葉を否定して無駄じゃない、無理じゃないと叫ぶのだろう。
 もし仮に目の前の少女を一方的に叩きのめしても、きっとこの厳しくも包み込むような眼差しは変わらないのだろう。
 そう思ったら、フェイトの口が勝手に動こうとしていた。
 自分が抱えているもの、自分が抱えている母への思い。
 目の前の少女がそれを知ったとしたら、どう思うだろう。
 ジュエルシードを集めるという目的のその向こう側にある思いを知って、どんな答えを出してくれるのだろうか。
 揺れるフェイトの胸中を察して止めたのは、アルフの叫びであった。
「フェイト、答えなくて良い!」
 ハッと我に返るフェイトへと叫びは続く。
「優しくしてくれる人たちの所で、ぬくぬく甘ったれて暮らしているようなガキんちょになんか」
「優しくされながら暮らす事がどうしていけないんですか!」
 アルフの言葉を真っ向から否定する声が、響き渡る。
 全員が一斉に視線を向けたのはそら、雨雲に覆われ、ユーノの結界によって彩りを失った世界に太陽が現れた。
 それは金色のバトルジャケットを身に纏い、遅れに遅れ現れたあかねであった。
 一体何処から聞いていたのか、事情が解っているのかいないのか。
 アルフへ、そしてフェイトへと全否定の言葉を投げつける。
「優しくされた人は、優しくされることがどんなに嬉しい事か知ってるから。だから、なのははフェイトさんへと諦めずに手を差し伸べることが出来るんです」
「ガキがわかったような事を言うんじゃないよ。アンタたちに何がわかるのさ、フェイトが。フェイトがどんなに苦しんでるか」
「僕には人が助けを求める声が聞こえます。つい先ほど、二人から声が聞こえるようになったんです。なのはの言葉が僅かでも届いたせいか、助けを求める声が」
「求めたりなんかするもんかい、信じられるのはアタシとフェイト、二人だけだ。フェイト、もうこんな奴らに付き合う必要はないよ。ジュエルシードを持って帰ろう!」
 混乱した状況で、いち早く動いたのはアルフにお願いされたフェイトであった。
 目の前のなのはと、はるか頭上に現れたあかねを振り切るようにジュエルシードへと向かい始めた。
 若干遅れて追いかけ始めたなのはの体に、炎のような熱さが宿る。
 バリアジャケットの一部である靴から生えた桃色の羽が、赤みを帯びて炎をちらつかせた。
「Amplify magical to Nanoha」
「なのは、フェイトさんを止めてください。まだ、話し合いは途中のままです」
「うん、わかってる」
 あかねの増幅魔法を受けて、なのはが加速する。
 素早さに勝るフェイトへと追いつく勢いで、二人が同時にバルディッシュとレイジングハートを振り上げた。
 振り下ろす先でほのかな光を浮かべるジュエルシードが妙な鳴動を見せていたことに、誰も気付いていない。
 気付くだけの時間もなく、二つのデバイスが同じ距離から同時に振り下ろされた。
 ジュエルシードを中心にして、バルディッシュとレイジングハートが見事にかち合った。
 二つの魔力の干渉を受け、一際大きくジュエルシードが震え、脈を打つ。
 何かの前触れを示すようにバルディッシュとレイジングハートがひび割れ、それが全体に広がっていく。
 そして衝撃が街全体を駆け抜けた。


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