魔法少女リリカルなのは Crossing of the Fate
EXTRA Stage2 「月村すずか」

interrude

わたしは自分のことが嫌いだった。

だって、この身体に流れている血は明らかに人間ではない。





――吸血鬼・・・それが一番近い俗称だから。





それでも、わたしには友達が出来た。なってくれた。

なのはちゃん。アリサちゃん。

そして、その家族の人たち。

恭也さんは知ってるけど、それ以外の人にはやっぱり秘密だ。

だから・・・わたしはいつも思う。

本当に友達の傍にいていいの?







interrude out







side-Emiya Shirou-

現在の天気は晴天。

俺はというと、学校のお弁当を現在作っている。

まぁ、平たく言うとバツゲームだ。なのはたち仲良し3人娘とトランプをしたのだが、俺は敗北。

そのため、3人娘全員に俺お手製のお弁当を振舞うこととなった。

ただし、いきなり3人分作るのは困るということもあり、1週間に1人作ることになっている。

今日はすずかで、家では洋食(というかフランス料理)がメインらしいので、偶には和食が食べたいとのことだ。

俺は、夏野菜の炊込みごはんとキスと茄子の天麩羅、もの凄く薄くした牛肉に各種野菜を巻き、醤油で味付けしている。

煮物はニンジンと里芋、別にひじきを用意した。天麩羅も油から気を使い、牛肉も可能な限り、脂肪分を取り除いている。

だから、見た目よりもヘルシーのはずだ。やっぱり女の子だし、そこらへんは気を使わないとな。

あとデザートに関しては、桃のゼリー(これだけ洋風とかいうツッコミはなし)を昨日のうちに全員分作っておいた。

結構量は多目だが、結局全員が摘めるだけほしいとアリサから言われているので、かなりの量である。

まぁ、美味しいと言ってくれて俺は嬉しいけどね。

「よし完成と」

「あらー。美味しそうね」

「ええ。今日の結構自信作ですよ」

実際、昨日スーパーで購入した野菜はどれも新鮮だし、以前から桃子さんと相談していた調味料も届いている。

そのため、今までよりも上手くできたと俺は思っている。

「うーん・・・ちょっとだけ味見していい?」

「どうぞ。ちょっと多かったかなと思ってますし」

そう言って、桃子さんはおかずを一品摘んで

「うん。おいしい」

と言ってくれた。やっぱり、料理を食べてもらって美味しいと言ってもらえると、何よりも力になるな。

「こっちも準備できたから、一緒に運びましょう」

桃子さんも朝ごはんの準備ができたようなので、俺はそちらを手伝うことになった。







この日はいつも通りだったと思う。

何か問題があったとしたら、すずかがいつもより表情が暗いかなと思ったくらいだ。

それでも、なのはたちの前では元気に振舞っていたから、俺は何も言わず、なのはとアリサも何も言わなかった。

で、俺たちの授業が体育となった。

はっきり言って、このクラスで俺とすずかの運動能力は図抜けている。

故に最終的には、俺とすずかの一騎打ちになるのである。

そのため、暗黙の了解で俺とすずかはチームが分かれる。これはすでにクラスで統一認識なのだ。

今日の種目は、バスケットボール。俺も昔、あの国民的バスケットボール漫画に嵌っているため、結構気合が入っている。

ちなみに、俺のマッチメイクは当然すずかである。

「悪いけど、勝たせてもらうぞ」

「負けないよ」

む。いつものすずかに戻ってきているようだ。

これなら、楽しくできそうだ。





それはともかく結論から言おう。

俺とすずか。個人の決着は結局つかなかった。

聞いて驚くかもしれないが、双方とも4点しか取れていない。

理由は俺はすずかの、すずかは俺のディフェンスが常に付いていたため、得点を取れたのが、フリースローのみだった。

代わりに、他の人が点を取るシーソーゲームになった。

スコアは16対20ですずかチームの勝利。

全体的に纏まりのよいチームワークで、パスが良く通ったのがすずかチームの勝因であり、うちのチームはその逆だった。

「負けたか」

「わたしの勝ちだね。わたしは士郎くんに勝てなかったけど」

「チームで勝ったんだから、個人でもそっちの勝ちだよ。すずかは良く指示だしてたじゃないか」

そう。俺との個人戦だけじゃなく、すずかはチームを率先して率いていた。

ちなみに俺のチームのリーダーはアリサ。リーダーシップに差はなかったが、すずかは個人でもチャンスを開くことができた。

俺が得点こそ阻止していたが、パスまでは全部阻止できなかった。これも差だったのだろう。

「今日はどうするの?」

「なにが?」

「ファリンのお料理練習。今日でしょ?」

先日からファリンの家事スキル向上のため、俺が料理の個人指導を行っているのだ。

用事があったから、今日になったんだったな。

「予定が変更になったの忘れてた。教えてくれてありがとう」

「じゃ、今日来るんだね」

俺は頷いて、試合を見学することにした。







というわけで、俺はすずかと共に現在徒歩で月村家に向かっている。

ただ、朝に感じた表情の暗さがある気がする。

・・・どうしたんだ?

「何か悩み事でもあるのか?」

「え? ちょっと、ね」

それきり、口を閉ざした。

なんだ? すずかはどうかは知らないが、俺は友人のつもりだ。

何か悩みがあれば、教えてほしいのだが・・・







そこに猛スピードで車がやってきた。







俺は咄嗟にすずかを突き飛ばし、その反動で俺も地面に転びながら受身を取った。

「くそ!? 誰だ!?」

走り去った車を見たが、その車はドアを閉じながら走り去っていった。

・・・閉じながら?

「・・・まさか、俺たちを捕まえようとしたのか?」

猛スピードで走行しながら、ドアを開ける状態? あまり愉快ではない想像をしてみたが、どう見ても捕まえようとしたとしか思えない。

ナンバーを確認しようとしたが、見えないようにしており、確認の手立てがない。

「士郎く・・・!?」

「すずか?」

なんだ? 俺は視線をずらして、すずかの視線の先を追ってみる。

「あれ? 怪我したか」

見ると、出血しており、地面に落ちている。

うわ。結構な量だし。

ん? すずかが俯いているし、それになんか息が上がっている?

「大丈夫か?」

俺はすずかの肩に手を触れてみた。







その瞬間、その手が弾かれた







え? と思ったが、次の瞬間にまた表情が変わる。

今度は痛そうに表情を歪めている・・・痛さの原因は多分足だな。

「大丈夫・・・じゃないな。捻ってるな」

「だ、大丈夫だから・・・」

・・・? なんか怯えているぞ? どういうことだ?

「大丈夫じゃないだろ? 怪我してるんだから、運ぶよ」

「ほ、本当に大丈夫だから・・・」

? なんだ? なんか違和感があるぞ。

だが、誘拐の可能性があるとすればここに長居するのは危険だ。

一刻も早く立ち去らなければならない。しょうがない。

「じゃ、勝手にやるからな」

「え? ・・・きゃ!?」

俺はすずかを背負い、全速力で走った。

「し、士郎くん!? お、下ろして!?」

「ダメだ。理由はわからないがここは危険だ。すぐに着くから我慢してくれ」

「う・・・重くない?」

「全然だ」

すずかにそう返した。だが、それ以上に呼吸が荒くなっているのが、なんとなく分かる。

体調が悪いのだろうが、どういうことだ? これは痛さを我慢するというより、何か別のものを我慢している?

とにかく、俺は月村邸に転がりこんだ。







俺はと言うと現在応接室にいる。

当然というか、料理教室は中止。俺は最近知り合ったさざなみ寮に住んでいる『ぎんのあくま』に連絡を取った。

ファリンさんが現在付き添いをしている。

・・・ドジっ娘メイドさんだから、大丈夫か? と思ったが、今のところは問題ない。

「ありがとう。士郎くん。すずかを護ってくれて」

「いえ・・・それよりも考えたくないんですけど、今回は誘拐しようとしたんじゃないでしょうか?」

月村の家は俗に言うお金持ち。所謂、営利目的というやつではないだろうか。

返ってきた言葉は肯定だった。だったのだが

「そうだと思うわ・・・それよりもっと問題があるけど・・・」

「?」

「ごめんなさい」

何も言ってないのに、頭を下げられてしまった。触れられたくないことがあるのか?

結局、俺は何も聞くことができなかった。







そんなこんなで俺はまだ月村家にいた。

とりあえず、桃子さんに連絡して、なのはに今日の魔法訓練は一人でやってくれということを伝えた。

ちょっと不満気だったので、申し訳ないとはおもうが、今のすずかを放っておくのはまずいと思うのだ。

でもな・・・どうしたものか。

甦るは衛宮家での記憶。

迂闊な発言でガンドや中国拳法、偶にエクスカリバーや黒い何かを食らったことの記憶が甦るのだ。

俺の中にある記憶はとことん物騒だが、なんで日常の延長みたいな状態でこんなに物騒な記憶が甦るのだろうか?

考えていてもしょうがないが、それでも相手は女の子。そういう微妙な心のケアの仕方は正直わからないんだよな。

「考えるよりも行動か」

すずかのことがわからない以上、直接聞くのが一番だろう。

扉をノックする。

「・・・士郎くん?」

「ああ。入っていいか?」

「・・・どうぞ」

声が暗いかもしれん。だが、俺は意を決して中に入った。

ファリンさんが会釈したので、俺も返し

「では、お嬢様。私は失礼します」

そう言って、部屋から出ようとした。その途中







「すずかお嬢様をよろしくお願いします」







と小声で伝えた。

どういう意味だ? ファリンさんの言葉の意味を考えつつ、すずかと会話をしてみた。

「怪我の具合はどうだ?」

「だいじょうぶ・・・」

やはり無理をしているのだろう。声が暗い。

どうしたものか・・・

そう思って、足の方を見る。

痛々しく包帯が巻かれているが、大事には至らなさそうで俺は安堵した。

・・・って、ん?

「あれ? 思ったより酷くないんだな」

「・・・そうだね」

なんだ? 声が凄く・・・怖いと形容するべきだな。

「ねぇ・・・」

「ん? どうした?」

「士郎くん・・・わたしね・・・」

そこで言葉を切った。何か不穏な気配・・・いや、これはどちらかというと・・・

そのことを察したかはわからないが、すずかは俺の手首を掴んで







「士郎くんが・・・欲しいんだ」







ベッドに引きずり込まれた。

だが、情事に巻き込まれるような色っぽいモノじゃない。

これは・・・まずい!

体勢を変えるため、力を入れるが、それ以上の力が込められている。

な・・・に!?

俺は声に出さず驚愕する。確かに小学生の体だが、それでも中学生位の力は出せるはずなのに、ビクともしない、だと!?

すずかの吐息は荒く、何かがまずいと俺の脳内は訴える。

「強化開始」

強引に強化魔術を使用し、俺の筋力を強化して逆に体勢を変える。

そして、離脱しようとするが、手首を掴まれているため、離脱できない。

瞬時にすずかの肘の内側を指で押し、手首の力を抜かせる。

肘の内側には危険なツボがあり、そこを押すと腕が痺れ、最終的に体にも伝達するのだ。

ようやく離脱するが、凄い力だったため、爪が肉に食い込んでしまったため、血が出てしまった。

集中で痛みを無視して、向き直る。







すずかが指に付いた血を舐めていた。







小学生とは思えないような何かがあり、俺は目を離さない。

同時に、疑問が沸く。

(・・・もしかして・・・この娘・・・)

前から思ってたが、小学生とは思えないような身体能力。

時々感じる血の香り。気のせいだと思ってた。

女の子だから、その・・・そんな日もあるって誤魔化してた。

だけど、今の血を舐める姿は――あの種族と相対したかのようなあの不思議な感覚。

たぶん、間違いない・・・

「・・・吸血鬼?」

その言葉がすずかの耳に届いたのか、血を舐める動作を止めた。そして、呆然とした。

「あ・・・あ・・・」

「すずか?」

震える体。何かに脅えているのだろう。

そこまで脅えていながら、すずかは俺の血を舐めた。つまり、俺の血があのすずかの目的だった

「・・・ごめん・・・なさ・・・い」

すずかは泣いている。泣く理由はわからないけど、それはとても悲しみに満ちている。

一度、俺は部屋を出た。忍さんにでも聞いて、すずかの事情を確認するべきだろう。

今の俺には何もかける言葉がないのだから・・・







interlude







始めは気のせいだって思った。

普通の子よりちょっとだけ傷が治るのが早いくらいだと。

だけど・・・他の子はそんなに早くなかった。

捻ったりしても、私はすぐに直ってしまって、他の子は直らない。

だからだろう。お姉ちゃんに聞いた。

「・・・すずか。私たちは普通の子と違うの。そんなことがバレちゃうと、みんなから苛められるから」

この頃のお姉ちゃんは周りに壁を作っていたのだと思う。

だから、真似した。私の壁は低かったかもしれないけど。他の子から無視されるって・・・とても辛いから。







小学生になって、なのはちゃんとアリサちゃんと仲良くなった。

時に喧嘩をしたりしたけど、それでも二人といると温かかった。

でも、同時に反対の心は冷えていった。

なのはちゃんとアリサちゃんは良い子だ。それが分かってる。

でも、それでも・・・本当のことを喋ったら、いなくなってしまうかもしれない・・・苛められるかもしれない。

だって、違うから。私は普通の子・・・いや、人間でさえないんだから。

そのことを自覚すると私は自分が嫌いになった。

こんな体じゃなければ、もっと素直に、そして楽しく二人と・・・ううん。みんなと仲良くできたのに、と。

でも、一度知った温かさから抜け出したくない。

いけないことかもしれないが、それでも近くにいたいと望んだのだ。

願う。







いつか話せる勇気ができますようにと。

そして、話しても傍にいてほしい。というそんな願いを。







だけど、あの日に揺らいだ。

キッカケはささやかだった。

先生が一人で運ぼうとしていたが、重そうだったので士郎くんが手伝うと言ったのだ。

士郎くんはいつもそうだ。

病気がちな子だったら、すぐに気付くし。誰かが怪我をしたら、すぐに治療しようとする。誰よりも率先して動いてた。

・・・人の好意にはもの凄く鈍いけど。

・・・そんな風に純粋だから、なのはちゃんが惹かれて――私も安心できたんだ。

だから、わたしも手伝おうと思った。

もしかしたら、士郎くんみたく他人の心配ができて、純粋な子になれるのかもしれないって思ったから。

最初は順調だった。確かに少し重いかな? とは思ったが、私にはそれほど重く感じなかった。

途中で士郎くんが紙で指を切ってしまい、運び終わった後、治療をするために一緒に保健室に行った。

その時、丁度別のクラスで体育の時間に大怪我をしてしまった生徒がいたため、保険の先生は病院に付き添ってしまっていた。

治療をしようとしたが、絆創膏が外に何枚か出ていただけで、他の道具は棚の高いところにあるから取れなかった。

その時に、士郎くんが切った指を見た。

何故だろう。士郎くんの指から出た血が







とても美味しそうに見えたのは







今日まで何とか我慢できた。

だけど、これ以上我慢できそうになかった。

だから・・・

だけど、舐めて気付いてしまった。私はやっぱり、化け物なんだと・・・

血を好む・・・化け物なんだと・・・

interlude out







ドアの向こうですずかが泣いていることがわかる。

さて、と。とりあえず忍さんに聞いて確認してみた。

月村の家は所謂吸血鬼の家系であること。一族の名は『夜の一族』ということ。

ただし、俺の世界の吸血鬼と違って、血を吸っても死者(または吸血鬼)にはならないということ。

そして、すずかがそのことで深く悩んでいること。

すずかの悲しみを俺は理解できない。理解できるというなら、それは理解した気になってるだけだと思う。

すずかがそのことを悩んでいるのなら、それに応じた年数があるはずだ。

だというのに、そのことを聞いただけでその数年の悩みを理解できるはずがない。

余計なことはすずかの悲しみを深くするだけだろう。

だけど、泣いている女の子を放っておくことなんて俺にはできない。

それに気になる台詞があった。

『なのはちゃんたちと仲良くなってしばらくして、すずかは自分のことを『化け物・・・か』って思い悩みながら言ったことがあるの』

なぜ、そんなことを俺に話してくれたかはわからないが、多分それは一つのキーワードだろう。

なら、そのことで言わなくてはならないことがある。

ドアをノックする。

今度は何も返答がない。俺は意を決して、部屋に入った。

すずかは顔こそ上げているが、泣いていた跡がここからでも確認できる。

・・・とりあえず、先程まで感じていた吸血鬼の気配は消えているようだ。

「なんで・・・来たの?」

「言わないといけないことがあるからな」

「・・・今度はどうなるかはわからないよ」

それはそうだろう。

あの時の身体能力は強化を使用したのだが、俺との差はあまりなかった。

あれがすずかの掛け値なしの全力なのだろう。

それに他にも能力があったとしても不思議ではない。

それでも、だ。

「でもさ。親父が言ってたんだ。女の子が泣いてたら、助けるようにって」

「・・・私は違う・・・そんな普通の女の子じゃない」

「自分のことを化け物だと思ってるのか?」

そう言って、すずかは目を見開いた。

辛そうに目を伏せてしまい、少し後悔する。

だけど、言わないといけない。

だって、俺はすずかに伝えないといけないことがある。すずかの慰めにはならないかもしれない。それでも、だ。

「すずかは化け物なんかじゃない」

「・・・そうだよね。そう・・・言うよね」

この言葉はすずかの予想通りなのだろう。

予想通り、すずかは自分のことを卑下している。

だけど、そんな言葉だけの慰めのつもりで言ったわけじゃない。伝えないといけない。

「何度だって言ってやる。すずかは化け物なんかじゃない」

「・・・」

すずかは何も言葉を返さずに、俺を見ている。

「確かにすずかは血を飲める吸血鬼で、人間じゃないのかもしれない」

すずかの表情が痛みを堪えるような、そんな表情にしてしまったが、言わないといけない。

俺はすずかの気持ちはわからない。

俺の体は人形だ。それでも俺は人間の延長として機能している。

そんな俺が何かを言ったって、伝わらないかもしれない。

それでも、だ。

「だけどな。化け物っていうのは、吸血鬼とか異常な奴のことじゃないんだ」

――いつか、誰かに言ったかもしれない台詞。

――言った覚えはない。だけど、それでも伝えたことがある。

「人を襲うために生きる生き物――それが化け物の定義だ」

「・・・え?」

「しかも質が悪いことに、通常の状態――つまり、理性的な状態――で襲えるような生き物を言うんだ」

少しの間。そして、俺は伝える。







「だけど、すずかは違う。人を襲うなんてできないし、今も自分の体のことで悩んで苦しんでる。
 そんなすずかだから俺は否定するし信じてる」







俺の本心。だけど、少女は自分で自分を否定しようとする。

「でも・・・それでも!」

彼女に何があったかは、わからない。

でも、ここまで頑なに否定するのは何故だろう。俺は考えて、このことに行き着いた。

それでも手に入れられたから。ならば、そこで何を考えたのか? きっと失いたくないんだ。

「・・・すずかはさ。誰か大切な人いるだろ?」

きっと、すずかは失うことを恐れている。

否定の言葉ですずかは自分を傷つけている。だけど、すずかの言葉に他人を貶めるような響きはない。

自分だけが悪いかのような響きがある。

だから聞く。自分を肯定できないなら・・・ごめんな。勝手におまえたちの名前を使うから。

「なのはやアリサ・・・二人はすずかのことを親友だと思っていて、とても大切に思ってる。すずかはどうだ?」

俺は残酷なことを聞いてるかもしれない。

そのことを簡単に答えられるのなら、悩みはしない。

だけど、これは聞かないといけないことであり、今という状況だからこそ、本心が聞けるはずだ。

「もう一度聞く。すずかは、『高町なのはとアリサ・バニングスをどう思っている?』」

部屋の中から音が消え、外の音もほとんど消えた。

種族という確かにある壁。だが、種族を超えて一緒にいたかけがえのない時間。それがなかったことにされるかもしれない恐怖。

その人たちのことを想っていていいのか。そのことで自信が持てていない。

それは同時にすずかが二人のことをかけがえのない存在であることの証でもある。

だからこそ、俺は問う。このことは自分の言葉で声に出すべきことだから。

俺は見据え、ただ待つ。そしてすすり泣く声が響いた。







「いいのかな? ・・・なのはちゃんとアリサちゃん・・・二人のことを・・・親友って・・・想って・・・」







言えない言葉。それがどれだけ重かったかは想像するしかない。

だけど、すずかが泣きながらも肯定した。それだけで、想像はできる気がした。

「すずかが大事だと。親友だと想ってるなら、それで十分だと思う。役不足かもしれないけど、俺もいる」

「や・・・不足・・・なんかじゃ・・・!」

途切れ途切れだが、否定の言葉を言ってくれた。

俺なんかでもそう思ってくれるのか・・・

「それにな」

こっそりとナイフを投影し、手にナイフを刺し、抜いた。

このことが遠坂にバレたらきっと怒られる。だけど、同時に仕方がないな。と苦笑してくれる気もする。

「し、士郎くん!?」

泣き声と一緒に驚愕の声が響いた。

「ま、見ててくれ」

そう言って、あっという間に俺の手に付けられた刺し傷は回復した。

すずかはまた別の驚愕を浮かべて

「俺の体も普通の人と違うんだ・・・痛みはあるけど、その気になればすぐに治っちゃうんだ」

「し、士郎くん?」

「全部は話せないけど・・・俺の秘密なんだぞ」

俺は人差し指をすずかの口に付けて、これ以上は話さないぞという意味を持たせた。

「・・・び、びっくりしたよ」

「ははは・・・ごめんな」

「でも・・・士郎くんのおかげで・・・その・・・色々なことを信じられるよ」

何かが吹っ切れたのなら、俺の手ぐらい安いものだ。

まだ、涙が溢れているが、それでも良かったと思える。

だけどちょっと不満。

「そうだな。すずか」

「なに? 士郎くん」

「笑ってくれ」

俺は簡潔に答えた。キョトンとするすずかを見て。

「やっぱりさ。女の子は笑ったほうがいいぞ。すずかの笑顔は可愛いし」

「・・・う、ず、ずるいと思う」

何故だろう? いつも、そう言われるんだよな。

「え、えっと・・・こう・・・かな?」

そう言って、ぎこちないながらも精一杯に笑みを浮かべるすずかはとても綺麗だった。







すずかが涙を拭いながら、俺に話しかけてきた。

「ねぇ・・・士郎くん」

「なんだ?」

「私たち夜の一族はね。契約を結ばないといけないの」

契約? 正体をバラしてはいけないとかそういうことか?

「内容を簡単に言うと、私のことを公言しないことや私たちと盟友? っていうのかな? になったりすることを誓うの」

一度言葉をきって、息を継ぐ。

「だけど、誓えない場合はこのことを忘れてもらって、今まで通りに接することになる。士郎くんはどう?」

そんなことか。俺は頷いて

「決まってるだろ。誓う。契約を結ぼう」

「じゃ、じゃあ・・・ちょっと本来のやり方じゃないかもしれないけど・・・士郎くんだけの言葉で契約してください」

真剣な表情で告げるすずか。あれ? 頬も紅いんだが?

盟友、か。難しく考えず、ずっと友達であることを誓えばいいのかな。

とにかく俺は考え――そして、精一杯息を吸って――その言葉を発した。

「『衛宮士郎』は『月村すずか』を生涯の友として、困難が降り注いでも『護る』ことを誓います」

さて、自分の言葉で即興で作ってみたけど・・・

「・・・0点だよ」

「う・・・そんなにダメか?」

「ダメだよ。欲しい言葉がなかったもん・・・だけど――」

そう言って、一拍の間を置いて俺に近付いてきて、手を握る。

「とっても気持ちがこもってたから、80点だよ」

「20点足りないぞ」

「足りない分は自分で考えてね。そして、いつかその言葉を伝えてくれると嬉しいな」

なんだろう? 教えてくれれば、すぐにでも言うのだが・・・

理由はわからないが、これは俺が考えないといけない言葉なのだろう。

「そうだ・・・ねぇ、士郎くん」

「なん・・・!?」

何か湿った感触が頬に当てられて・・・な!?







き、キスされた!? 頬に!!?







「えへへ・・・これが今日のお礼だよ」

そう言って、笑うすずかの笑顔がとても眩しかった・・・







後日談である。

『ぎんのあくま』に伝えた誘拐犯グループはすぐに捕まった。

ちなみに、新聞に載っていた記事で『こ、子供が!? け、剣が!?』という謎の言葉と共に出頭したらしい。

・・・簡潔に言うと、俺が『ぎんのあくま』に場所を聞いて、ちょっとしたお仕置きを行ったんだけどな。

で、すずかの血が欲しくなる衝動については、やはりというか俺の血が原因だったらしい。

まぁ、ハイスペックな肉体(人形だが)で(しかも幼い)、魔力やその他にも色々なものが詰まった俺の血は
ワインで言えば『ロマネコンティ』。シャンパンで言うならば『クリュグ』の最高級品らしい。
(血の味なんてわからんから、想像しかできないが)

そういえば人間のときに出会った黒のお姫様もそんなことを言ってた様な気がする。

ただ、忍さん曰く

「まぁ、それだけじゃないんだけどね。・・・精神的なものも影響してるんだよね」

と言って、俺とすずかを見て楽しそうな笑みを浮かべていた。

何故か、すずかが赤くなって、俺の顔をチラチラと見ていたが、なんなのだろうか?

すずかは吸血鬼用の治療薬を使用して、直していくらしい。

ちなみに、時々献血感覚で血を提供することにした。

そのことで、すずかが何故か顔を紅くしていたが、まぁ問題ないだろう。

すずかの騒動が終わって、週初めの学校登校日。

俺はと言うと、なのはと共にバス停に向かった。

魔法訓練のことや楽しいことを話しながら向かっていて、今日も平和だと思った。

だが、それはすぐに間違いだと気付いた。

アリサとすずかと合流し、バスに乗ったのだが・・・







なぜか、蕩ける様な笑顔をしたすずかが俺と腕を組んでいるのだ。







ちなみに、なのはは顔を真っ赤にしていて、アリサは驚いている。

「・・・なのはが暴発しそうだから聞いとくわ・・・何があったの? すずか」

「えへへー・・・この前のお礼の続きー」

顔だけじゃなく声までも蕩けていた。

ちなみに、なのはは俺を凄く睨んでいる。今日の訓練は模擬戦を極力避けなくては・・・

「そうだ。なのはちゃん」

「な、なにかな?」







「ごめんね。わたし・・・本気だよ」







主語がないからよくわからないのだが・・・なのはの睨みが凄くなった・・・

ただ、すずかはというと。







「あ。じゃ、なのはちゃんも一緒に同じことしない?」







車内の空気が凍った。







その後なんだが・・・結局なのはも同じことをして、俺はというと嫉妬の視線に晒されることになった。

アリサ・・・気持ちはわかるけど、助けてくれないか?

「どうしろってのよ」

ごもっとも・・・







END







タイガー道場!! EXTRA STAGE2編







注:)基本的に恐ろしくギャグ空間です。
   拒否反応がある方は読まないでください。
   あと、今回直接的描写はありませんが、深く想像するとエッチかもしれません



大 河:さて。タイガー道場も通算15回目となりました。司会の大河です。

イリヤ:弟子1号のイリヤです!

大 河:今日はサクサク行きましょう。本日のゲストは!

イリヤ:本編では『なのはの嫁』。当SSでは『萌え担当』のフェイト・テスタロッサちゃんです

フェイト:あ、あの・・・私って萌え担当なんですか?

二 人:当然

フェイト:うう・・・

イリヤ:いやー・・・人気が出るのが分かる分かる・・・保護欲と嗜虐心を同時に掻き立てるキャラはそういないっすよ

大 河:本当にねー・・・しかも、戦闘の時は燃えもできる逸材ですよ

フェイト:あ、あの質問があるんですけど

大 河:なにかしら?

フェイト:こ、ここで何をするんですか?

イリヤ:いえいえ・・・実はですね。本日はもう一人ゲストがいるんです。

大 河:そう。今回の外伝のメインをはっている月村すずかちゃんです。

すずか:あの。私もなんですか? 今までだとゲストは一人のはずですけど・・・

大 河:ふふふ・・・それは今日のテーマに関係してるの。弟子1号

イリヤ:本日のテーマは・・・これです!

背後に張られていたシールを外しました。







『二人の発育・・・どっちがいいか!』







二 人:・・・・・・・・・(汗

イリヤ:いやー。このSSの5人娘がどれくらい発育がいいのかを確かめたいということで、作者の脳内設定で1位と2位を
    連れてきちゃいました

大 河:当然、検査員は私たちよ。

フェイト:(すずか・・・)

すずか:(フェイトちゃん・・・)

しばらくお待ちください

フェイトはバルディッシュを装備した。

すずかは夜の一族の力を解放しました。

すかさず、大河が『虎竹刀』をぶっ放しました。

大 河:逃がさないわよぉー・・・

すずか:う、うう・・・

イリヤ:そう泣かなくても・・・それに二人のサイズに関して、きっちりシロウに教えてあげるから

フェイト:や、やめて・・・

イリヤ:え? やめていいの? 教えるとシロウが喜ぶと思うけどなぁ・・・(たぶん、狼狽するだけだと思うけど)

二人がピクッと反応しました。

顔を紅くしながら見詰め合って、頷きあいました。

大 河:納得したことだし・・・じゃ、検査開始!







しばらくお待ちください。







イリヤ:いやー・・・楽しかったっす

大 河:私が発表するから、後ろで甘い息を吐いてる二人の所に行っていいわよ

イリヤ:了解っす!

大 河:さて・・・胸とお尻はすずかちゃんが勝ってるけど、フェイトちゃんの方が細いわねー。
    ま、二人とも将来性は超優良という結果がでたわ。
    じゃ、今日はこれぐらいで、バイバーイ!



END?



イリヤ:ふふふ・・・楽しいわ(二人に手を伸ばす)

フェイト:あ、あの・・・す、すいません。これ以上は・・・!?

すずか:(コクコク!)

その後、二人は逃亡を行い、大激闘が展開されたとかしないとか。





終わっとけ





後書き

外伝ですが、ちょくちょく書いていたのですが、色々あって遅れてしまいました。

誠に申し訳ありませんでした。これからも、鋭意頑張ります。

今回は夏休み前になっており、外伝1の約2ヶ月程前くらいをイメージしてます。

外伝は基本的に時間軸がバラバラなので、このようになっていますので、ご了承ください。

後、タイガー道場は私の脳が色々とまずいため、電波が混ざった結果このようになりました。

では、12話の拍手の返信です。

>美味しい展開をありがとう!iseizinの旦那!!
なのはのやきもち(別名:魔王化フラグ)のことでしょうか? それとも士郎の最後の台詞か? どちらにせよ、気に入っていただけてありがたいです

>iseizinさんのss面白かったです
ありがとうございます。これからも鋭意頑張ります

>うおぉぉぉぉニヤニヤのニヤリズムが止まらねー!iseizinの旦那 最高だぜ〜!
13話は私の中では珍しい、完全シリアスな士郎となってます。こちらも楽しんでいただけると嬉しいですがどうでしょうか?

>さぁ士郎、黒ショタ少年に見せてやれ。研ぎ澄まされた『1』の力を
こんな感じになりましたが、いかがでしょうか? うちの士郎の基本コンセプトは強すぎず、戦い抜こう。なんで

>何故だろう、はやてに外堀を埋められてく士郎が見える。
それは私も考えてます。いつのまにか、はやてが策士になってるんです。参謀はシャマルです

>疑問に思ったんですが今の士郎の体って確か人として最高レベルになる?という設定はいずこへ
肉体としては最高レベルですが、センスは士郎のままという風になってます。13話に記載しましたがどうでしょうか

>iseizinさん真名解放(更新)をありがとう。これからもちょくちょく応援させて頂きます!
更新が遅れて申し訳ないです。以後も忙しいですが、なるべく早めに上げたいです

>むう、素直に面白いですね。微妙に士郎化しているなのはやフェイトが可愛いっす。
クロスしてるから、変化が欲しいなぁと思いまして、このようになりました

>リンディ茶に物申した料理人の英雄、士郎……さすがだw
士郎が見たら絶対突っ込むと思いました。だって・・・ねぇ(苦笑

>いいねぇリンディさん!そしてナイスだエイミィ!お兄さんは次の更新とCLB再登場を楽しみにしてるZE
うちはエイミィさんと仲良くなってます。当初はもっとはっちゃける予定でしたが、今の形に落ち着きました

>流石最高の凡人士郎・・・かっけえなぁ・・・・・StS編では自称凡人の方をどうにかして欲しいもんだ
>士朗かっこよすぎだ・・・最後のセリフはSTSでティアナに聞かせてあげたいですね。
ティアって凡人言ってるけど、その割りには工夫が少ないなぁと思ってたり・・・士郎が修行させてどうなることやら

>おちょくる対象が増えた事でますます面白くなる予感。
一応、今後はシリアスが増えていく予定(あくまでも予定)です。まぁ、クロノには我慢してもらいましょう

>そろそろ、殺す気!?全力「スターライト・ブレイカー」が。士郎はどう思うのか
とりあえず、おちょくられるでしょう。それは後ほど必ず書くことになると思います

>士郎かっこいいぞ いつもいつも楽しみにしています
うちの士郎は面白さとかっこよさの両立を目指してます

>弓士郎最高です!しかし、移動速度など色々反則ですけどデバイスは持つのかな?
とりあえず考えてます。通常のデバイスではなく、特異なデバイスにしたいと考えてます

>リリなの×Fateのクロスの作品を始めて読んだんですが、この作品面白すぎて他のが読めなくなりそうです
いえいえ。他のも面白いものがありますよ。特に某巨大掲示板のGSとのクロスが最高にお薦めです

ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。






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